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大阪フィルハーモニー交響楽団
第344回定期演奏会

日時
2001年1月13日(土)午後7:00開演
場所
フェスティバルホール
演奏
大阪フィルハーモニー交響楽団
独奏
榎田雅祥(Fl)、若林顕(Pf)
指揮
尾高忠明
曲目
1.武満徹…フルートとオーケストラのための「ウォーター・ドリーミング」
2.バルトーク…ピアノ協奏曲第3番
3.シベリウス…交響曲第1番 ホ短調
座席
Rサイド1階M列3番(A席)

Go! Go! ジャン.

 あけおめ、ことよろ!(……すみません。はやりの言葉を使いたかったんです)
 今年もすでに13日経って新年の挨拶もないものですが、本年もよろしくお願いいたします。
 さて今年の抱負として、本年度「コンサート道中膝栗毛」のテーマを挙げてみたいと思います。去年は“Back to the B.”として“B”のつく作曲家を中心に取り上げましたが、今年は
 Go! Go! 隆. Go! Go! ジャン.
 をテーマとします。“隆”や“ジャン”のコンサートをメインに足を運びたいと思っています。

 で、今日のコンサートはその中のひとり、ジャン・シベリウスです。
 シベリウスのシンフォニーというとバカのひとつ覚えのように「2番、2番」だったのですが、皆さん反省したのか今年は趣向を凝らしています。
・1/13 大阪フィル 交響曲第1番
・5/7 大阪センチュリー 交響曲第1番
・10/18 関西フィル 交響曲第1番
・11/12 大阪シンフォニカー 交響曲第1番
 ……。バカじゃねぇか? 2番だけじゃひねりが足らないと思ったところまでは認めますが、判で押したみたいに「1番、1番」では考えの底が浅いことを露呈してしまっていますよ。
 ただシベリウスで客が入ることに各団体が気付き始めていることは買ってますので、これをステップに他のナンバーもどんどん取り上げて欲しいものです。

武満徹…ウォーター・ドリーミング

 この曲はフルートの独奏とオーケストラによる曲で、1987年に初演された。
 曲の冒頭「ポチョン」と落ちた水滴より波紋が広がっていく描写から始まる。このときオーケストラも波紋が広がるように空間的音響が広がって行くが、その音の広がりを大フィルは表現することができていなかった。武満らしい繊細さと幽玄さ(もしくは官能)を音にしているとは思われなかった。
 また独奏の榎田も繊細さに欠け、官能的な世界を表してはいなかった。
 そこそこ頑張っているとは思ったが、退屈な演奏だった。そのせいか近所からおっさんの盛大な寝息が聞こえてきた。「集中できん」と思っていると、突然ステージから「バチン!」とコントラバスのバルトークピチカートと大太鼓のユニオンが響いた。
 ビックリした。それまで極めて静かな曲想が展開されていたため、その落差に面食らってしまった。さっきのおっさんもおめめパッチリになったようだ。
 ここからややフルートとオケに活気が出てきたのが救いとなった。

バルトーク…ピアノ協奏曲第3番

 指揮者が退場して、素早くピアノがセットされると、尾高と一緒にソロを担当する若林が登場した。
 この時ピアニストの顔をどこかで見たと思ったら、551蓬莱の前で、朝日新聞社地下の喫茶店へひとりで行くこの人とすれ違ったことを思い出した。関係者だとは思ったが、ソリストだとは思わなかった。分かってれば声でも掛けたのに。

 この曲はバルトーク最晩年の曲で、本人は最後の17小節を残して他界してしまった。現在演奏されるものはバルトークが残したメモを基に弟子が補筆したものだ。
 バルトークというと晦渋で渋すぎる曲が多いが、この曲は軽やかで彼にしてはやばいくらい曲想が透明で、聞くと「ああ、これ書いてる人もう死んじゃうな」と思わせる音楽だ。
 この曲の演奏は武満に輪をかけて退屈だったが、第2楽章の透明でありながらあまりにも切々とした音楽がぐっと胸を締め付けるものだったことが最も印象的であり、前半唯一の収穫だった。

シベリウス…交響曲第1番 ホ短調

 なぜかシベリウスファンにもないがしろにされる1番だが、その完成度は素晴らしく、どうしてこんなに不当な評価しか得られていないのか不思議に思う。清涼ではつらつとした曲想は、悲劇的に曲が終わるにもかかわらず非常に清々しい印象を与えてくれる。シベリウスの交響曲は2番しか聞いてない人はぜひともこの1番にも耳を傾けて欲しい。ただ終楽章にチャイコフスキーの影がちらちら見えることだけが少々残念に思えるかな。

 指揮者が最初から激しい身振りで奮い立つ。その割にはイギリスで活躍している氏らしくノーブルな響きがしていたのが面白い。もっと北欧らしい厳しい音を要求したくなるが、それはないものねだりかもしれない。
 また全体の構成はきちんと把握していた。そのため2番と同じくらいの長さを持つこの曲を駆け抜けるように聞かせてくれた。ただ細部の造詣についてはやや荒いと思わせる箇所があり、それが気になった。しかし所々「おおっ」と思わせる箇所も同時にあっただけに、尾高のシベリウスはまだこれからなのかもしれない。

 一方、大フィルの方は弦の鳴りがサッパリで、特にチェロがちっとも響いてこないのはどうしたことかと思った。ファーストとセカンドのヴァイオリンは第1楽章の途中からいつもの調子を取り戻したが、コンマスの後ろのプルトに見せるがごとく高くヴァイオリンを構える姿や滅多に派手な動きを見せないヴィオラのトップが見せる激しい動きなど、無理矢理奮い立つような感じを受けた。
 そのためか今日はアンサンブルがいつもに増して荒く、良い印象を得ることができなかった。年末の「第9シンフォニーの夕べ」よりはマシだと言えるが、それでも感心はできない。がんばれ。

おわりに

 冒頭のソロを担当したクラリネットのトップが何度も起立します。理由は解りませんでしたが、今回で引退するのかもしれません。
 1階席を見渡す限り、ほぼ一杯の客席から拍手が起こりました。尾高さんは拍手に応えるために3度ステージに現れました。3度目はコンマスの手を引っ張り「一緒に解散しましょう」としましたが、「先に戻って下さい」と指揮者を先に行かせ、その後オケも解散となりました。
 シベリウスはマシでしたが、今日の拍手は全体的に熱のないものでした。

 総じて、まあ一生懸命にはやっていた演奏会でした。

 尾高さんとの定期ですが、以前の2番・今年の1番に続き、来年は5番が予定に上がっています。年1回のペースでシベリウスの交響曲を取り上げ、ゆくゆくは全曲を演奏するそうです。
 残り5曲(クレルヴォを入れたら)を演奏する頃には早くて2006年になりますが、ぜひとも最後まで継続して欲しい企画です。

 さて、次回は大阪センチュリーの第6回いずみ定期演奏会です。
 音響抜群のいずみホールで聞くモーツァルトづくしが非常に楽しみでしょうがありません。期待して行ってきます。


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