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エーテボリ交響楽団 大阪公演

日時
2002年11月24日(日)午後2:00開演
場所
ザ・シンフォニーホール
演奏
エーテボリ交響楽団
独奏
ジュリアン・ラクリン(Vn)
指揮
ネーメ・ヤルヴィ
曲目
シベリウス…ヴァイオリン協奏曲 ニ短調
マーラー…交響曲第1番 ニ長調「巨人」
座席
1階N列8番

はじめに

 今日のヤルヴィ&エーテボリ響は「マイナーのカラヤン」とか呼ばれて、一時期怒涛のようにCDが発売されていました。(私的にはマリナーさんの方にその印象が強いけど) 私は東欧・北欧の音楽に興味があるので、所有しているCDの中にはヤルヴィさんの物がかなりの割合で含まれていて、彼は非常になじみの深い指揮者なんです。
 ちなみにヤルヴィさんの兄も指揮者で、息子のパーヴォさんも指揮者となっていて、ヤルヴィ家は指揮者一族のようです。

 ロビーではヤルヴィ氏のCDが売られていましたが、そのライナップがシテインベルク、ミヤスコフスキーなど、マイナーどころが所狭しと並べられていました。(個人的にはツボにはまりまくりでしたが)
 開演時間になり、場内への扉が閉められ、明かりが落ちると、白人のご夫婦が静かに入場してきました。どうもスウェーデンのVIPのようです。
 やがて音合わせが終わると、ステージ下手からソリストとコンダクターがそろって登場してきました。ヤルヴィさんは背が高く、大きい体躯をしていて、一方独奏者のラクリンさんは背が私達と余り変わらないシルエットをしていました。(ちなみにコンマスも非常に背の高い人でした)
 ヤルヴィさんが指揮台に置いてあるメガネを着けましたが、違和感があるのか何度も掛け直していました。メガネもしっかり掛けるとタクトも降ろされ、聞こえるか聞こえないかの微かなトレモロから曲が始められました。

シベリウス…ヴァイオリン協奏曲

 まずオケの方で気がついた点は、今時珍しい低音が非常にどっしりとした音を出していることです。それに加えて密度の高い、凝縮を感じさせる目の詰まった音もしており、古き良きドイツとロシアのオーケストラサウンドが幸せな融合をしている響きがしてました。
 そして繊細な響きから荒涼たる響きまで、シベリウスの世界を見事に現していて、ソリストのサポートに徹したり、逆に引っ張っていったりして大変素晴らしい演奏でした。

 一方ソリストのほうですが、硬質な響きながら伸びのある音色で、かつホールの音響を考慮に入れた正攻法のアプローチは大変好感を得ました。特に第1楽章の入魂と言ってもいい演奏は非常に聴き応えがありました。
 しかし第3楽章ではスタミナが切れてしまったのか、やや安定性が不十分なプレイが顔をのぞかせてしまい、曲全体の進行をソリストが牽引しなくてはならないこの協奏曲のクライマックスが、幾分弱くなってしまったのが残念でした。とは言っても、まだまだ28歳のソリストなので、これからが楽しみだと言える演奏家でしょう。

 満場の拍手に向かえられてアンコールが掛かりました。
イザイ…無伴奏ヴァイオリンソナタ第3番よりバラード
 近年に作られた曲らしく複雑な構造をしていて、最初はギコギコと弾いているだけの印象があったのですが、曲が進むにつれて演奏が至難を極め、それに合わせて音楽も白熱していきました。現代曲だと斜に構えていたのですが、クライマックスではその演奏に釘付けになってしまいました。
 曲が終わるとワッと拍手が湧き、ラクリンさんは再び何度もステージに呼び出されたのでした。
 やがてラクリンさんがコンマスの手を取り一緒に帰るよう促すと前半のプログラムが終了しました。

マーラー…交響曲第1番

 演奏の直前にまたもやスウェーデン(ひょっとしてリトアニア?)のVIPが入場してきましたが、今度は先ほどソリストを務めたラクリンさんが同伴しておりました。衣装がステージでのものと違い背広のようなものでしたが、彼の存在に気が付いた数人の客がすでに暗くなった場内で彼に握手を求めていました。目ざといですねえ。

 つくば・東京・札幌ではメインがシベリウスの5番だったようです。今日のオーケストラサウンドを聞いてみて痛切に思ったのが、このコンビにマーラーは合わないんじゃないかということです。先ほども書きましたが、低音が充実していて緊密な音の凝縮はシベリウスなど北欧・東欧系の音楽でその魅力を発揮すると思うのですがどうでしょう? いっそのこと2日公演にしてシベリウスやニールセン、シュニトケ、ペルト、ミヤスコフスキー、トゥビンなんかの曲をちりばめてくれればマニアックな連中がこぞってやってくると思うんだけどなあ。(結局はシベ5が聞きたかっただけなんです。ハイ)

 で、演奏の方はほんの少し速めのテンポで進む音楽でしたが、非常に落ち着いた雰囲気を持っていて、腰の据わった音楽となっていました。しかしリズミックな所での躍動感は非常に気持ち良いものがあり、その一方インテンポを守っているようで、要所では歌舞伎役者が大見得を切るようなテンポダウンをみせるものでした。
 終楽章のコーダではトランペットとトロンボーンに1本ずつ補強を加え、ホルンの8人が起立をして吹きました。しかしベルの高さを揃えるため、背の低いおばちゃん奏者は見ていて気の毒になるくらい楽器を突き上げて吹奏していました。

 最後の音が鳴り響くと場内から大きな拍手と待ってましたとばかりの「ブラオー」が沸き起こります。
 しかし正直言うと終楽章など響きにぎこちなさを感じてしまったので、今ひとつ曲にのめり込むことが出来なかったのも事実です。

アンコール

 鳴り止まない拍手を制し、ヤルヴィさんが曲名を告げるとアンコールが始まりました。
ステンハンマル…交響カンタータより「歌」
 先のマーラーとは打って変わったノリっぷり。オケがよく鳴り響き、良く歌います。やっぱりマーラーなんかせずにこういうのをやって欲しかったと思いました。
 それにしてもマニアックだな〜(苦笑)。この選曲はこのコンビならではでしょう。演奏自体は非常に満足です。

 まだ鳴り止まない拍手に再び応えてくれました。
チャイコフスキー…バレエ「雪娘」より旅芸人の踊り
 こちらもまたマイナーなバレエからの1曲。しかし演奏はこの日一番の燃焼を見せ、とてもダイナミックでグイグイとドライブする音楽でした。

おわりに

 拍手はまだまだ続いていましたが、ヤルヴィさんが指揮台のスコアとタクトを「もうお仕舞い」とばかりにひょいと取り上げたゼスチャーに場内から微笑がこぼれて、この日の演奏会も幕が降ろされました。

 永遠に続くと思っていたヤルヴィ&エーテボリのコンビですが、03年の夏に解消されるそうです。彼らのサウンドは特有のものでしたので、それが将来失われてしまうのかと考えると非常に残念な気がします。
 しかしヤルヴィさんもまだ65歳(意外だった)なので、また新たな音をどこかのコンビで聞かせてくれると信じています。

 総じて、やるならとことんマニアックに攻めて欲しかったと思った演奏会でした。

 乗り気のない文章で、正直すまんかった。
 さて次回は、いよいよ第9のシーズン到来というわけで、その第1弾コバケン&名古屋フィルとなります。
 なんとこの日を初日として3日公演だそうです。CDにもなっているこのコンビの第9ですが、人気の高さを窺うことができます。
 この時期、コバケンは関西で第9を振りませんから、このチャンスに行ってみたいと思います。


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