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#10700 
バラージ 2018/03/10 22:45
ナチズム映画いろいろ

 映画『否定と肯定』を観ました。英米合作による実話の映画化で、2000年に起こったホロコースト否定論裁判を描いた法廷映画です。
 米国のユダヤ系女性歴史学者リップシュタットが著書の中でイギリスの歴史学者アーヴィングをホロコースト否定論者として批判したところ、逆にアーヴィングからイギリスで名誉毀損で訴えられた事件の映画化で、イギリスの司法制度はアメリカや日本とは違って訴えられた側に立証責任があるため、リップシュタットとそのイギリス弁護団は「アーヴィングのホロコースト否定論が誤りであること」「彼が人種差別的な反ユダヤ主義者であること」を証明する必要に迫られることになります。
 欧米の社会派映画に多い法廷映画ということもあって娯楽映画としても面白い作品になっており、俳優たちも皆好演でした。ホロコースト映画は数多く作られてますが、なるほどこういう手もあったかと感心してしまいましたね。もちろん実際にあった話なんですが、こんな裁判があったこと自体全く知らなかったし、よくこんな地味な題材を映画化したなあと。
 アーヴィングのような否定論者の使う論法や態度はある意味我々も見慣れたもので、日本で南京大虐殺や七三一部隊や従軍慰安婦を否定する人たちと似通ってるし、裁判にまでなったことがあるのもいっしょです。しかし日本でこういう映画が作られるかというと、その点についてはかなり悲観的にならざるを得ません。ともかく非常に興味深く、かつ面白い映画でした。

 それから、『ヒトラーに屈しなかった国王』というノルウェー映画も観ました。
 こちらは第二次世界大戦初期のドイツ軍のノルウェー侵攻と対峙した国王ホーコン7世の数日間を描いた歴史映画です。去年、映画館で予告編を観て面白そうだったのと、スウェーデン映画(イングマール・ベルイマン『第七の封印』、ラッセ・ハルストレム『マイ・ライフ・アズ・ア・ドッグ』など)、フィンランド映画(アキ・カウリスマキ『ラヴィ・ド・ボエーム』など)、デンマーク映画(ビレ・アウグスト『ペレ』など)は観たことあるんですが、ノルウェー映画は今まで観たことがなかったんで観てみたかったんですよね。
 戦争シーンなんかにはおそらくノルウェー映画としてはかなり破格の予算をかけたと思われる(といってもハリウッドの物量作戦に比べりゃかわいいもんなんでしょうが)スペクタクル映画で、ストーリーも役者の演技もしっかりとした正統派の歴史映画という感じ。ナチスとの対決とともに、立憲君主制における君主のあり方というやや難しい問題にも踏み込み、1人の人間としての国王や王族の姿を描き出してました。特に後者については今の日本にも通じるところがあるように感じましたね。また軍の侵攻に批判的で外交交渉で解決しようとする穏健派の駐ノルウェー・ドイツ公使を登場させつつ、その限界を描いているのも興味深かった。
 あえて難点を言えば、ヨーロッパ映画っぽさをあんまり感じなかったかなあ。老国王と壮年王子の関係性が『ペレ』の主人公の父子を連想させたっていうくらいですかね。でも十分に面白かったです。

>その他の歴史映画
 以前紹介した韓国映画『神弓 KAMIYUMI』(#9434)も丙子の乱を背景としています。架空の人物しか登場しないアクション時代劇ですが、面白い映画でした。『神弓 KAMIYUMI』で主演のパク・ヘイルは『天命の城』では仁祖役とのことで、王様に出世というか脇役に降格ですが、主演がイ・ビョンホンじゃ仕方ないか(笑)。
 『始皇帝暗殺』以後のチェン・カイコー監督作は、『キリング・ミー・ソフトリー』『北京ヴァイオリン』『PROMISE』は未見ですが、『花の生涯 梅蘭芳』『運命の子』がいまいちだったんで、『空海 KU-KAI 美しき王妃の謎』もどうも観る気が起きないんですよねえ。しかも吹き替え版だし。ちなみに『運命〜』と『空海〜』の間の『捜索(原題)』は日本未公開、『道士下山』はDVDスルーでやはり未見。
 チャン・イーモウ監督の最新作『影(原題)』は本国で今夏公開だそうなんで、日本に来るのは来年かなあ。タイトル通り「影武者」の物語とのこと。

>ツイッター
 おお、始められたんですか。僕はSNSはなんにもやってませんが(笑)、時々覗かせてもらいます。



#10699 
徹夜城(ただいま映画関連コーナーを大改造中の管理人) 2018/03/08 23:44
今さらですがツイッターなんぞ始めてみました。

ホント、今更なんですけどね。ネット知り合いはみんなやってるし、人からは勧められるしで、ひょんな弾みということで。「徹夜城」で探せばすぐ見つかります。

>「KU-KAI」
陳凱歌監督のこの映画、見てきました。夢枕獏原作ということで普通の、というかまともな空海映画になるわきゃないのは予告編でも明らかでしたが、「幻想歴史映画」とでも名付けたくなるような、「思いのほか面白く見てしまった映画」となっておりました。つまり事前にはてんで期待してなかったわけで。
 以前こちらで書かれてましたが、なるほど、主役は「化け猫」です(爆)。人語を話す化け猫が起こす事件を、空海と白楽天のコンビが捜査・解決を目指すという、「陰陽師」な感じの話となってます。
 前半バタバタしてる感があってハラハラして見てたんですけど、後半、阿部寛演じる阿倍仲麻呂の回想で玄宗皇帝の時代が「玄宗=幻想的」に描かれると一気に面白くなっちゃうんですよ。玄宗と楊貴妃、高力士に安禄山、そして李白とおなじみの面々が顔をそろえ、歴史映画マニアとしてはたまりません(笑)。しかもその話を聞いているのが「長恨歌」の作者本人という仕掛けなんですかあ!
 バタバタした話が最後にはうまく泣ける話にまとめた、というところかな。そもそもファンタジーな話なので、本格歴史ものではありません。そこを承知して気軽に見ると割といいかも、というところでした。気が付く人は気が付くんですが、ラストまで細かい仕掛けがありまして…夢枕獏の原作はどうなってるのかな。


>天命の城
ああ、それ日本公開するんですね。これはチェックせんと。
外敵の侵略にあたって政府内部が派閥闘争で忙しかった、ってのは豊臣秀吉の朝鮮侵略の際にもありましてね。開戦前に両派閥から一人ずつ秀吉のもとへ挨拶に行ってますが、帰国後一人は「攻めてこない」もう一人は「攻めてくる」と正反対の報告をして混乱させた例もあります。こうした事情は過去の歴史ドラマでも必ず描かれてましたよ。
 最近僕が韓国歴史ドラマで「ほう」と驚いたのが、「鄭道伝(チョン・ドジョン)」という高麗末から朝鮮建国期を描いたドラマで、李成桂が「女真族からの帰化人」と明確にされていたことです。李成桂の出自が女真族では、という説自体は昔からあったんですが(他にも中国系説もあります)なんといっても「朝鮮王朝」の始祖なので韓国ではその手の話はタブーなのでは、と思っていたんですが、このドラマではいともアッサリそうなってたんですよね。韓国歴史ドラマもサバけてきたというか。


>最近買った本
 そういや「兼好法師」が出てたんだっけ、と言われて気づきました。
 それとは別に、2月に日本史ブックレット「人」シリーズで「足利尊氏と足利直義」が出ていたことについ二日前に書店で気付き買ってきました。薄い本なので内容もそれほど充実してるわけでもなく、目新しい話はなかった印象ですが。先ごろの「観応の擾乱」ともども、最近の足利兄弟をめぐるアカデミズム業界の状況がうかがえるかと。



#10698 
阿祥 2018/03/06 10:23
「天命の城」

珍しく韓国映画を見ました。テーマは朝鮮が清の軍隊に席巻された丙子の役です。朝鮮内部が内部が主線派と和平派に分かれ、議論紛糾する様子、最後には奮戦虚しく降伏する様子が描かれ、韓国の映画としては珍しく、自国の歴史を真摯に捉えようとしている、緊迫感のある物語でした。映画にほとんどヒロインがいないというのも大きなポイントだと思います。

朝鮮の歴史というのは、大国間に挟まれた、地政学的に非常に厳しい環境にあることが基本だと考えています。そのことが如実に語られています。井上靖の「風濤」が元の時代で同じ様なテーマを扱った小説ですが、その17世紀版という感じです。
最後には朝鮮王が清の皇帝に三跪九叩頭の礼をするという、屈辱的なシーンで終わるのですが、昭和天皇が、マッカーサーに対した事実を思い起こしました。

中国語版では「南韓山城」、英語版では"the fortress"。日本語版では「天命の城」というタイトルで6月に公開される様です。音楽は坂本龍一だそうです。エンドロールで、余韻を残す良い音楽でした。

https://www.google.co.jp/amp/eiga.com/amp/news/20180305/19/



#10697 
つね 2018/03/05 21:16
映画「ウィンストン・チャーチル」

辻一弘さんが映画「ウィンストン・チャーチル」でアカデミー賞のメーキャップ・ヘアスタイリング部門に選出されましたね。
2/22の日経新聞に本人の独白というか記事が掲載されていたので、ノミネートされたのは知っていましたがおめでたいことです。

リンクはオフィシャルサイトです。
http://www.churchill-movie.jp/

「リンカーン」同様、数ヶ月間だけに焦点を当てているようですね。



#10696 
バラージ 2018/03/04 18:16
頼朝、征夷大将軍就任の謎

 またまた源平話。今回は源頼朝の征夷大将軍就任について。

 頼朝の征夷大将軍就任については10年以上前に新史料が発見され、それまでの認識や定義・解釈が一変することになりました。当時ここでそのことが話題になったかどうかわからないのですが、改めてその話題を取り上げてみたいと思います。
 頼朝が征夷大将軍就任を望んだ理由についての旧来の説は比較的有名だと思うのでくわしくは述べませんが、奥州藤原氏討伐のために必要な官職だった、または地方に在住したまま就任できる官職で、なおかつ朝廷の指示を仰がずとも独自の判断で軍勢を動かせるため、東国に半独立政権を維持しつつ武士団を統率するのに最適な官職だった、などというものでした。
 しかし2004年に櫻井陽子氏が、『三槐荒涼抜書要』(公家の日記『山槐記』と『荒涼記』から妙出した記録)に収録された『山槐記』の中に、頼朝の征夷大将軍就任についての経緯が記されていることを発見しました。それによると頼朝が望んだ官職は「大将軍」で、それを受けて朝廷では「惣官」「征東大将軍」「征夷大将軍」「上将軍」の4つの候補が挙げられ検討した結果、平宗盛が就任した「惣官」と源義仲が就任した「征東大将軍」は凶例であり、「上将軍」は我が国では前例がないとしていずれも退けられ、坂上田村麻呂が就任した「征夷大将軍」が吉例であるとしてこれに決まったとのこと。つまり頼朝が望んだのは「征夷大将軍」ではなく「大将軍」で、朝廷が消去法で「征夷大将軍」を選んだに過ぎないことが明らかになったわけです。そのため「征夷」という用語、もしくは「征夷大将軍」という官職そのものに重点を置いて解釈されてきたそれまでの研究は再検討しなければならなくなりました。
 頼朝が「大将軍」を望んだ理由については未だ定説がないようですが、当時の対抗者や配下の武士たちが「鎮守府将軍」(平貞盛・藤原秀郷・源頼義など)の末裔であることをそれぞれ誇っていたため、「鎮守府“将軍”」を超える権威として「大将軍」の位を望んだとする説が出ているようです。

 なお発見の副産物として、源義仲が就任した官職が『吾妻鏡』に記されて定説となっていた「征夷大将軍」ではなく、九条兼実の日記『玉葉』に記されている「征東大将軍」だったことも上記の通りわかりました。そもそも『玉葉』(および『山槐記』)のほうが同時代史料ですし、坂東の頼朝を討つための官職ですから平将門の乱の際に藤原忠文が就任した征東大将軍のほうがふさわしいでしょう。

>実朝と摂家将軍・親王将軍とマンガの話
 実朝の評価は、北条政子の評価や北条義時の評価とも関わってくるものだと思いますが、そのあたりについても研究者によってやや違いがありますね。実朝についても、政治家として一定の評価を与えつつも、頼朝や頼家と違って武威を示せない実朝の権威には限界があったとする説もあるようです(永井晋『鎌倉源氏三代記』吉川弘文館 歴史文化ライブラリー)。
 摂家将軍・親王将軍については僕もそれほどくわしくないんですが、そちらは傀儡という評価は特に変わっていないようです。3代将軍の実朝以降はすべて幼少で将軍になっているので、少なくとも幼少期は実権を持たなくて当然ですしね。4代将軍・九条頼経のみは成人後に反得宗家御家人と結びついて権力回復を図ったため宮騒動と呼ばれる事件で京に追放されてますが、それ以後の鎌倉将軍はすべて傀儡です。親王将軍はそもそも史料があまり残ってないようで、最後の守邦親王も幕府滅亡のときにどこで何をしてたか不明のようです。そのあたりについては徹夜城さんのほうがお詳しいかと。

 僕が読んだ史実準拠系マンガだと、学研ひみつシリーズの『日本の偉人 まんが伝記事典』の源実朝の項では、確か最後から2つ目のコマで実朝が公暁に殺された後、最後のコマで「実は実朝を殺した人間は誰か他にいたのかも……」とかいう記述の横で真犯人?のシルエットが「フフフ……」と笑っているものだった記憶があります。
 石ノ森章太郎の『マンガ日本の歴史』では、紙数の関係か(重要な事件も一コマで片付けられてる例もある)『吾妻鏡』に忠実に描いたのか、実朝が公暁に殺された事実だけが描かれ、黒幕の存在などには触れていません。源仲章が北条義時と間違えられて殺されちゃう描写はありました。
 本能寺の変だと、『おんな城主 直虎』では光秀単独犯だが家康も事前に告白されてそれを知っていたというストーリーでしたね。



#10695 
黒駒 2018/03/02 16:20
兼好法師

私は未読で話だけ振ってすみませんが、昨年末頃刊行の中公新書の『兼好法師』は管理人様ほか皆様は読まれましたか?著者の小川剛生氏は『足利義満』を読みましたが、国文学者の視点は面白いのですがやや難解で、ちょっと敬遠しています。

『兼好』の評判はちらほら聞きますのでそのうち読むつもりなのですが。



#10694 
つね 2018/02/25 18:23
史点連想

史点お疲れ様です。
直接の感想にはなりませんが、連想したことなど。

>マケドニア
2008年大統領選に共和党候補で出ていたジョン・マケイン氏を思い出しました。
「名前が負け犬だから、改名したほうがいい」というネットの声を見たことがありましたが、案の定、オバマ氏に負けてしまいましたね(笑)。
ご本人は経歴、素質ともに大統領にふさわしいものだと思いますが、副大統領候補になったサラ・ペイリン氏は今頃どうしているのかなあ。
トランプ氏の応援で少し出ていたような気もしますが。

>ショパン
昔、DVDで見た生誕200周年映画の「ショパン 愛と哀しみの旋律」のラストが姉が心臓をカバンに入れて持ち帰るところになっています。
リンクは予告編
https://www.youtube.com/watch?v=mzTJQeuHHw8
映画としては淡々としていてショパンに興味がない人には面白くないでしょう(伝記映画はそんなものかも)。
ちょっとだけ出てくるリストの派手な演奏が印象に残っています。

>ホロコースト映画
「シンドラーのリスト」も「戦場のピアニスト」も20年近く前に見たきりなのですが、「戦場のピアニスト」は、主人公が逃げまくり、隠れまくりなので、やや感情移入しにくいかも。現実はそんなものでしょうし、自分が同じ立場ならやはりそうするでしょうが。彼の場合、著名なピアニストで周囲が助けてくれるというのも主人公としては受け身に感じてしまいます。

>歴史映像名画座索引
個人的には五十音順になった一覧があって気になった映画があるのかどうか分かれば十分で、リンクまたはどの枠にあるのかが分かれば十分ですが。いくつあるのか数えてみたら730本!
気長に待ちます。



#10693 
徹夜城(ぼちぼち新年度へ向けて動き出す管理人) 2018/02/23 14:32
「太平記」出演者がまた一人…

 ワンテンポ遅れた話題になりますが、俳優の大杉漣さんが急逝されてビックリ。最近はすっかり顔が売れてしまってましたが、下積みの長かった方で、「太平記」に「武将」という役名で1シーンだけ出演(箱根・竹之下の戦いで義貞軍に戦況報告に来る)していた、というのは「太平記」マニア・大河マニアの間では豆知識になっておりました。
 「太平記」では他に豊川悦司、常盤貴子がチョイ役出演してますが大s魏さんの1シーンだけ出演はその後の活躍とのギャップがかなり大きいです。そのシーンで相対した義貞役の根津甚八さんも亡くなってますし、当たり前ですが物故者が増えてゆきますね、「太平記」も。

>暗殺事件
 実朝暗殺ばなし、面白く拝読しました。めぐりめぐって単独犯行説有力になってくあたりも面白い、というか他の件でも最近は「深読みしない」が流行なのかな。
 僕が昔読んだ小学館版マンガ「日本の歴史」では、公卿が実朝を暗殺したあと、「実朝をうったぞ、三浦義村に伝えてくれ!」と門番の武士にいうと「もう用はないわ」と長刀をつきつけられ「はかられたか!」という演出になってまして、これだと「三浦黒幕説」っぽい。仲章が北条義時と間違えられて殺されたらしい、というセリフ主ありましたしね。

 暗殺事件の黒幕推理と言えば坂本龍馬も定番ですが、最近ようやく見た大河ドラマ「勝海舟」の総集編では、完全に「薩摩説」が採られています。大久保利通が「人斬り半次郎」に指示するシーンがバッチリありましたもん。
 一方、これまた最近ようやく全編見たTV東京の「十二時間ドラマ」の「竜馬がゆく」(萬屋錦之介版)では犯人や黒幕については一切触れないものの、殺害される直前の竜馬が「天皇人間宣言」だか「象徴天皇制」みたいなことまで言い出し、「早すぎた人」を強調しすぎて「誰に殺されてもおかしくないアブナイ人」感を出していたりしました。比較的最近の「新鮮&#20465;組!」では見廻組・佐々木只三郎説という通説にのっかりつつ「薩摩・岩倉黒幕説」の味付けをする、という具合になってまして、これもまた龍馬をどう評価するか、位置づけるかという問題とリンクしてくるわけですな。そういや本能寺の変黒幕探しにも似たところがあります。



#10692 
水師提督 2018/02/22 11:26
源実朝論

バラージさんに便乗いたしまして。

実朝暗殺の議論は、実朝をどう評価するか、という問題にも繋がってきますね。
昔は、歌人としては一流ながら、政治的には北条氏の傀儡という感じでしたが、
だいぶ前から、政治家としても積極的に評価する意見が提示されるようになっています。

不可解な行動と理解されがちだった官職昇進へのこだわりも、
後継者となる男子のいない実朝が、親王将軍の擁立プログラムの一貫として、
親王の養父となる自己の地位を極力装飾するための布石だったという説明がなされています。
(坂井孝一『源実朝』講談社選書メチエなど)

戦国期以降の室町将軍も、かつての傀儡論は低調となっていますが、
実朝や以後の摂家将軍・親王将軍の評価も、だいぶ変わっているのかもしれません。
ちょっと、鎌倉期の政治史は勉強不足で、十分に把握できていませんが・・・。




#10691 
バラージ 2018/02/20 23:18
実朝暗殺の謎

 名画座感想は一休み。また久々に源平話です。今回は鎌倉幕府3代将軍・源実朝の暗殺について。

 実朝は1219年に右大臣に就任し、その昇任を祝う鎌倉の鶴岡八幡宮拝賀の場で、実朝を父の仇と考えた甥の公暁(兄の2代将軍・頼家の子)に殺害されました。その後、公暁は三浦義村に使者を送り自分を将軍にするよう要請しますが、義村は承知したふりをして北条義時に事を報告し、討手を送って公暁を討ちました。この実朝暗殺についても複数の黒幕説が唱えられており、しかも信長や龍馬の場合とは違って中世史学界の権威が主張したり支持したりしたこともあって、一時は定説になりかけたこともありました。以下にそんな黒幕説をご紹介。

・北条義時黒幕説
 『吾妻鏡』によると、義時は拝賀式で太刀持ちを務めていましたが途中で体調不良となり、公家の源仲章に役目を代わってもらい自宅へ帰ったとあります。その仲章が実朝とともに殺されたため、義時は公暁の襲撃を知っていて、その場を離れたのではないか? ひいては義時が何らかの策を弄して公暁が実朝を殺すように仕向けたのではないか?とする説です。頼家の幽閉と暗殺、他の有力御家人の粛清によって源氏の政権を北条氏が乗っ取ったという結果から、実朝暗殺についても義時に疑いの目が向けられた説とも言えるでしょう。

・三浦義村黒幕説
 これは小説家の永井路子が小説『炎環』の中で描き、後に史論エッセイ『つわものの賦』などでも唱えた説で、中世史学者の石井進が肯定的に評価したことで一躍有力となりました。永井の著作を原作とした大河ドラマ『草燃える』でも当然この説に沿って描かれています。僕が源平に興味を持ち始めた90年代には半ば定説になりかけていたような印象がありました。
 永井さんは義時黒幕説について、義時の権力の源泉は実朝の母が義時の姉の北条政子というところにあり、大事な玉である実朝を自ら葬り去るとは考えられないとして疑問を呈します。その上で公暁が実朝殺害後、三浦義村に使者を送り自分を将軍にするよう要請したことに着目し、義村が公暁の乳母夫であること、義村の子の駒若丸(後の三浦光村)が公暁の門弟であること、『愚管抄』によると源仲章は義時と間違えられて殺されたとあることなどから、義村が実朝と義時を討ち公暁を擁立して権力を握るクーデター計画があったと結論づけています。しかしどこかから情報が義時に漏れ体調不良を理由に襲撃を逃れたことから、情報漏洩を悟った義村は公暁を口封じのために始末してその首を義時に差し出し恭順を誓ったとしています。
 最初にこの説を歴史本で読んだ時、「お話としては面白いけど、学説としてはちょっと無理があるだろう」と思いました。義村が義時を殺そうとして義時もそれを知っていたのなら、どうして義時はその後も義村と終生協力関係を維持したのでしょうか?(後を継いだ泰時も、義村やその子の泰村と密接な協力関係を保っている) 永井さんはそれを両者の深謀遠慮として誉め称えるのですが、全体的に2人を過大評価しすぎてるように感じます。また、三浦氏滅亡後に編纂された『吾妻鏡』に三浦氏の関与が全く書かれていないことも、この説に疑問を感じざるを得ない一因です。

・鎌倉御家人共謀説
 これは中世史学者の五味文彦が唱えた説。実朝暗殺は実は鎌倉御家人の総意とする説ですが、義時主犯・義村共犯とも言え、上記2説の折衷的な説とも言えます。これも90年代には有力な説となり、以前紹介した竹宮惠子のマンガ『吾妻鏡』も五味氏の著書を参考文献にしてることもあってか、この説に沿った描写となっています(あくまでもほのめかすような描き方ですが)。
 五味氏はまず実朝は北条氏の傀儡などではなく、後鳥羽上皇との密接なつながりを背景として主導的に鎌倉の政権を運営していたとします。そして東国の御家人層から遊離し、後鳥羽率いる京の朝廷に接近していく実朝に、北条・三浦ら御家人たちは多大な不満と危惧を抱いていた。実朝と後鳥羽それぞれの近臣として両者の仲介役だったのが源仲章であり、暗殺の標的は実朝と仲章だったとしています。
 確かに義時と義村がグルだったとするなら上記2説の疑問点を解決できますし、フレイザーの『金枝篇』にある「王殺し」を援用した理論も面白いんですが、これもやはり学説としては無理があるような気が。御家人全員が共犯なんていくらなんでもちょっとなあ。鎌倉御家人の総意ならそんなややこしくて不確実な方法をとらなくとも、頼家の時のように直接的に排除すればいいのではないでしょうか。

・公暁単独犯行説
 21世紀に入ってからは公暁単独犯行説(正確には仲間の法師が数人いたようなので単独犯というよりは主犯だが、黒幕などはいないという説)を唱える研究者が再び増えてきました。近年、公暁単独犯行説を唱えているのは、山本幸司(『日本の歴史9 頼朝の天下草創』講談社および講談社学術文庫)、永井晋(『鎌倉源氏三代記 一門・重臣と源家将軍』吉川弘文館 歴史文化ライブラリー)、坂井孝一(『源実朝 「東国の王権」を夢見た将軍』講談社選書メチエ)、高橋秀樹(『三浦一族の中世』吉川弘文館 歴史文化ライブラリー、『三浦一族の研究』吉川弘文館)といったあたり。
 上記諸本では、鎌倉末期に編纂された幕府の公式歴史書で北条贔屓の曲筆が激しい『吾妻鏡』よりも、鎌倉初期に京の慈円が書いた史論『愚管抄』を重視する姿勢で一致しています。『愚管抄』は実朝暗殺については現場にいた公家たちから聞いた話をもとに執筆したと思われ、『吾妻鏡』よりも信憑性が高いとのこと(そもそも実朝暗殺事件の基本史料である『吾妻鏡』『愚管抄』『承久記』などはいずれも黒幕説を採っていません)。
 『愚管抄』によると、『吾妻鏡』の記述とは違って義時は実朝の命によって他の御家人たちとともに中門に留まっていたとあり、仲章が義時と間違えられて殺されたのは全くの偶然ということになります。そのため義時黒幕説や御家人共謀説は成立しません。また坂井氏や高橋氏によると、義村が実朝の右大臣拝賀という幕府の最重要儀式に出席していないのは、以前別の儀式で隊列の順番を争って儀式を遅滞させたことに対する懲罰と実朝右大臣拝賀という最重要儀式でそんな事態が起こらないための予防措置と思われ、代わりに嫡子の朝村が出席しています。これらのことからも義時や義村が黒幕とは考えられないとしています。
 というわけで、一周回って?今は公暁単独犯(主犯)説が主流です。僕は90年代からずっと黒幕説に強い疑問を感じていたんで、まさに我が意を得たりという感じの今日この頃。



#10690 
徹夜城(ぼちぼち仕事の結果に向き合ってる管理人) 2018/02/20 22:50
二カ月ぶり更新

 「史点」を昨日付で更新してます。実に二か月ぶりになってしまいまして、おかげで一部のネタが昨年末の話題だったりします。ま、以前には半年近く泊まったこともありましたし(汗)。ぼちぼちとあちこち更新作業にかかろうかな、と思ってるところで。

>つねさん
 言われてみて僕も意外でしたが、「シンドラーのリスト」は入れてませんでしたね。入れるとすればやはり「ドイツオーストリア史」の枠になるのかなぁ。強制収容所がポーランドだとしても話の主体はドイツで焼死。そういやポ^ランドでは「ポ^ランドの強制収容所」という言葉自体が公的に「禁句」にされてしまったような。
 「戦場のピアニスト」は三件。監督のロマン=ポランスキーのほうは映画「ラッシュアワー2」で役者として出ていたのを見てますが。

 「歴史映像名画座」の索引の件ですが、考えなくもないんですけど、どういうシステムにしたもんだか…と悩んでます。あと、さすがに数が多いんで面倒そうだなあ、とも(汗)



#10689 
つね 2018/02/17 20:49
シンドラーのリスト

って「歴史映像名画座」に未掲載でしたっけ?

「第二次世界大戦・欧州戦線」「ドイツ・オーストリア史」「ポーランド史」
にはありませんでしたが。
そういえば「戦場のピアニスト」もなさそう。
管理人さんが未見とは思えませんが。

やっぱり索引が欲しいですねえ。



#10688 
バラージ 2018/02/04 21:26
戦後沖縄史

 『米軍(アメリカ)が最も恐れた男 その名は、カメジロー』というドキュメンタリー映画を観ました。
 米軍占領下の戦後の沖縄でその圧政を批判し、彼らと激しく対峙した政治家(那覇市長・国会議員)の瀬長亀次郎を描いたドキュメンタリー映画で、「カメジロー」と呼ばれて沖縄の人々から愛され慕われた彼の姿を通して戦後の沖縄史が描かれていく映画です。TBSが一昨年に放送したドキュメンタリー番組に追加取材と再編集をして東京では去年劇場公開した作品で、監督は『筑紫哲也NEWS23』などでキャスターを務めたTBSの佐古忠彦氏。
 沖縄近現代史は、第二次大戦中の沖縄戦や本土復帰後の沖縄についてはなんとなく知ってるんですが、戦後から本土復帰までの米軍施政下の沖縄については不勉強なことにほとんど知らなかったので、とても興味深かったですね。国会における佐藤栄作首相との対決はなかなかの見ものでした。結局この頃からの問題が今に至るまでずっと続いているんだな。

>録画で観た歴史映画
『楊貴妃 Lady Of The Dynasty』
 去年、「未体験ゾーンの映画たち2017」という映画祭で上映された中国映画。チャン・イーモウ、ティエン・チュアンチュアン(田壮壮)、シーチン(十慶)の3人が監督という触れ込みですが、イーモウ監督作はちょくちょくチェックしてるけど全然聞いたことがなかったんですよね。イーモウや田壮壮がストレートな史劇を、ましてや楊貴妃なんて題材を撮りたがるとは思えないし、彼らを含め3人も監督がいる史劇大作なのに映画祭でひっそり上映というのも怪しい。調べてみると案の定「導演:十慶、導演組:十慶・田壮壮・張藝謀」とあり、シーチンという1人だけよく知らない人がメインの監督(脚本も担当)で、イーモウと田壮壮は旧知の仲である彼の初監督(80年代に脚本を2本書いた後は映画界を離れ企業人として活動してたらしい)をサポートする役割だったようです。日本の配給会社がイーモウ監督作に見せかけようとしてるあたり怪しさ満点で、十中八九ハズレの映画だろうと観る気はなかったんですが、契約してるCSで放送するのを知りタダならまあ観てみっかと視聴した次第。
 しかしやはり予想的中。全くどうしようもない駄作でした。とにかく演出がひどい。冒頭の舞踏シーンはなかなか魅せてくれて不安は杞憂だったかと思わせるんですが、そのシーンが終わるとあとは陳腐で退屈なメロドラマを延々見せられてうんざり。多分冒頭のシーンだけはイーモウが演出したんじゃないかなあ。なんかイーモウっぽかったし(映画の感想で同じ推測をしてる人がいました)。下手くそな演出のせいで上手いはずの役者も下手に見えるあたりは何年か前に観た日本映画『杉原千畝』といっしょ。やっぱり演出って大事ですね。唯一の見どころは楊貴妃役のファン・ビンビンのベッドシーンだけでした。
 歴史的な部分に触れておくと、映画がラブロマンスとその裏の後継者争いに話が絞られた宮廷劇のため登場人物は皇帝一族にほぼ限られます。それ以外のメインキャラは高力士ぐらいで、楊国忠や安禄山はチラッとしか登場しません。東ローマ帝国の使節が滞在している設定で語り部役もしています。ま、そんなことどうでもいいくらいつまんないんですけどね(笑)。

>その他の歴史映画
 『バーフバリ』は映画館でチラシを見かけたんですが、なんかタイトルをレンタル店で見かけたような気がして、「あれ? この映画、もうDVD化されてなかったっけ?」と思ったら、DVDのほうが前編(第1作)で、チラシのほうが後編(続編)でした。前編も地元で公開されたか記憶にありませんが。チラシやDVDパッケージを読んでも明らかに架空のオリジナル史劇風時代劇のようだったんで僕はパスしました。
 『蕩寇風雲』は日本では「未体験ゾーンの映画たち2018」で『ゴッド・オブ・ウォー』という邦題で上映されるようです。映画祭公式サイトや予告編では小出恵介の出演には触れない方向のようですが、まあ当然か。
 チェン・カイコー監督作『空海 KU-KAI 美しき王妃の謎』(原題:妖猫伝)は夢枕獏の小説が原作とのこと。日本では吹替版のみの公開だそうで、試写を観た人の感想を散見すると主人公は空海ではなく、原題通り猫が主人公だとの噂が。
 それからチャン・イーモウ監督の最新作が『影(原題)』という三国志映画だとのこと。すでにクランクアップしており、中国では今年中に公開されるそうです。215年の荊州争奪戦が舞台だそうですが、イーモウのこれまでの作風から考えて三国志を背景とした(もしくは三国時代を舞台とした)映画ということはあっても、いわゆる歴史映画ってことはないでしょう。主人公は架空の人物のようですし。ただ映画としては非常に楽しみ。

>名画座作品感想編書き忘れ
 『MUSA 武士』(#10678)は観たのは133分の国際版。154分のディレクターズカット完全版(販売のみかな?)は未見です。



#10687 
鳥頭 2018/02/04 09:54
新九郎読みました〜

徹夜城様

コメントありがとうございます。楽しいですねえ、ここのやりとり&#9835;
私はこのサイトは、かなり前にネットサーフィンしてて「銀河百科事典」から知り、ダニール&ファウンデーション漫画の更新待ちで覗くうちに「あっ他にもある」的にいろいろ覗くようになったのですが、その頃ゆうきまさみ先生のツイッターをフォローしてまして(あまりの情報量の多さに、今は時々読みになりましたが)、このサイトのアシモフコーナーにも触れていて「へえ、有名なサイトなんだ」と思った覚えがあります。うろ覚えで自信ないんですけど。
https://twitter.com/masyuuki/status/721487147341983746
ルパンの館が話題になってたのは、記憶に残ってます。

ゆうきまさみ先生の最初の単行本は「ヤマトタケルの冒険(古代史ネタ)で、前作の「白暮のクロニクル」には応仁の乱から存命のキャラが登場してました。
http://docseri.hatenablog.jp/entry/2017/07/17/002914

http://hrnabi.com/2015/07/30/8834/ 負けた人描きたいって言ってるし、本命は三浦勢のような気が。

というわけで、相当前から温めていて、タイミングを見計らっていたのかなという気がして、私的には意外ではなかったです。(公務員ものじゃないの書くんだ!という驚きはありましたが)

月刊スピリッツ買っちゃいました。流石の導入で、ワクワクしております。




#10686 
徹夜城(シーズン大詰めで多忙な管理人) 2018/01/29 11:34
インド時代劇など

 どうも、時節柄レスをためこんでしまっております。「史点」もなかなか書けないしなぁ。
 とか言いつつ、映画は合間をぬって見に行ってまして、先週には一部で話題のインド時代劇「バーフバリ王の凱旋」を映画館で観てきました。事前知識ほぼゼロだったんで直前に実はこれが二部構成の第二部にあたることを知ったんですが、ちゃんと冒頭で要領よく前作のあらすじをまとめてくれてるんでそう困ることはありません。ストーリー自体、世界の神話伝説の寄せ集め…というか、「どっかで聞いた話」の集合体な感じなのでわかりやすいのは確か。
 見終えてから調べたんですが、これ、一応「マハーバーラタ」にインスピレーションを、と言いつつ実のところほぼオリジナル創作のようですね。古代インドを舞台にした実質ファンタジー時代劇(といって魔法などが出るわけではない)といっていいと思います。
 それだけに「歴史映像名画座」に入れるのはちょっと考えちゃってるんですね。まぁ「七人の侍」とか「乱」とか明白に創作な時代劇も入れちゃってるしなぁ…

 「歴史映像名画座」入りを迷うものに、NHKが不定期にやる「未解決事件」シリーズもあるんですよね。現代史もののドラマという面も確かにあるんで。今回の「赤報隊事件」もなかなかの力作でしたし、作り手の現在の風潮に対する強い懸念も伝わってきました。あれから30年以上になってしまうんだなぁ…


>西郷どんと翔ぶが如く
 「西郷どん」、ようやく第4回にして斉彬が藩主に。「翔ぶが如く」が第1回で終わらせところまでで4回使っちゃいました。「翔ぶが如く」も当時ずいぶん慌ただしい展開と思ったものですが、「西郷どん」もどっかでスパートかけるんでしょうねぇ。

 「翔ぶが如く」では高橋英樹さんが久光を演じ、のちに斉彬も演じることになるのですけど、僕は久光役が印象深いです。高橋英樹が「悪役」もイケるという役者ぶりを見せてくれたというう点で。あのドラマでの久光は斉彬に対しては尊敬の念を持ってるように描かれてましたが西郷との関係は史実どおり最悪でして、西郷の前できせるをくゆらせながらジロっとイヤミな目線を向ける高橋英樹の「ヤな奴」演技は絶品でした。一応西南戦争で西郷が死ぬときは同情してましたけどね。

 小説「翔ぶが如く」は僕も一度通読してますが、小説としては失敗というか破綻してる気すらしました。最初の方ではちゃんと歴史小説として、創作キャラも交えた伏線構想が用意されてるんですけど、それがさっさと忘れられ、歴史事実の羅列になってしまう。まぁこの羅列が司馬遼的な語り口なんで面白く読んでしまうんですが。この創作人物については大河ドラマが形を変えて生かしています。

>やたろうさん
はじめまして。南北朝に興味をもっていただける方が増えてるようでありがたいかぎりです。そういや「マンガで南北朝」コーナーも最近微妙にアクセスが多いような。
学研の「足利義満」は所有してます。義満の学習漫画は二つ押さえてるんですが大槻書店の「日本の歴史」はノーマークでした。この義満漫画をはじめ、そろそろ単行本最終巻が出るはずの「バンデッド」などいくつか南北朝マンガがたまってきてますんで、近いうちに更新作業をしようと思ってます。


>アジアにバカ大将さん
 西郷不死伝説もいろいろあるんですねぇ。大津事件の件は知ってましたが、「海底軍艦」の最初がそんな話だとは知らなかった(映画の方しか知らないもんで)。西郷=アギナルド説まで来ると、辻正信がナセルの参謀をやってた説みたいな話になっちゃいますね(いしいひさいちの漫画でアメリカがイラクの大量破壊兵器を探してたら「どうでもいいものがいっぱいでてきた」としてその中に「辻正信の墓」が紛れ込んでたのはこの説に由来するんでしょうね)。

>鳥頭さん
どうもはじめまして。
ゆうきまさみ先生の「新九郎」は僕もまだ読んでないんですが、そういうのを書き始めるという情報だけは得ていて、いろんな意味で驚いたものです。いわゆる「北条早雲」もだんだん素性が分かって来たのでいいタイミングということもあるのかな。
なお、間接的に知ったのですが、ゆうき先生、当サイトの「怪盗ルパンの館」や「室町太平記」などをご覧になっておられるようです。



#10685 
鳥頭 2018/01/28 02:14
新九郎、奔る

いつも楽しく読んでおります。

もしかして既出でかぶってたら恐縮ですが(この掲示板も他のページも圧倒的な情報量!)
ゆうきまさみの応仁の乱漫画が始まりました。(まだ読んではない)
http://www.yukimasami.com



#10684 
アジアのバカ大将 2018/01/28 01:43
西郷不死伝説

「源義経は衣川で死なず、大陸に渡ってジンギスカンになった」
「真田幸村は大阪夏の陣で死なず、秀頼とともに薩摩へ逃れた」
「平賀源内は〜」・・と言った類の英雄不死伝説というものがあり
ます。英雄たちの非業の最期を惜しむ、庶民の願望が作り上げるも
のです。
 西郷がロシアへ逃れたという風説が当時ありました。ロシア皇太
子襲撃事件の背景は、「西郷がロシア皇太子とともに帰国し、名誉
回復が行われる」という噂でした。皇太子に斬りつけた津田巡査は
「西南戦争での自分の軍功が無効にされる」と妄想し神経衰弱にな
っていて犯行に及んだとのことです。
 押川春浪の「海底軍艦シリーズ」の一作「東洋武侠団」は、シベ
リア奥地の要塞に幽閉されている西郷隆盛を、「日本のランボー」
南原なにがしが、要塞を近代武器を使わず陥落させて救う話です。
あとフィリピン独立指導者のアギナルド西郷説もあるようですが、
よく知りません。
 ちなみに、西郷の遠流先での老師が「大塩平八郎だった」という
不死伝説もあるそうです。確か尾崎秀樹が書いています。
 1970年代後半に週刊漫画TIMESに連載された漫画「紅とかげ」
(西塔こういち原作、上村一夫画)に、「城山で死ななかった西郷
郷」が登場しました。ヒロインは土方歳三の娘の茉莉、土方の親友
だったフランス人の徳川幕府軍事顧問の養女としてパリで育った17
歳です。自由民権運動に参加して投獄された恋人の日本人留学生を
東北の牢獄から脱獄させるため帰国、それを生きていた西郷が助け
ます。西郷は、大久保利通の尽力で、鹿児島から遠く離れた東北で
生涯を終える条件で隠遁していました。その西郷が大久保亡きあと
の明治政府の無道、横暴をみかね茉莉らと一緒に戦う決意をする・
・という山田風太郎風の作品です。伊藤博文に清水の次郎長から、
二宮忠八まで実在の人物をキャラとして登場させた楽しい作品で
した。「修羅雪姫」より後の作品です。



#10683 
バラージ 2018/01/27 23:00
名画座作品感想編 東アジア史D

 名画座掲載映画の感想、東アジア史編は今回で最終回です。すでに感想をくわしく書いた映画もあるため、そういう作品については省略しています。

『男装の麗人 川島芳子の生涯』
 テレビ放送時に観ました。題材もさることながら、好きな女優の星野真里さんが出てたからってのが観た大きな理由でしたが、でも出番少なかったなあ(皇后婉容役)。ドラマの出来は、うーん、まぁこんなもんかなって感じでしたね。特に可もなく不可もなくと言いますか。芳子生存説を匂わせるようなラストでしたが、そういや当時中国で新たな生存説が唱えられてたっけ。まぁ、ご多分に漏れず眉唾物でしたが。僕が川島芳子を初めて知ったのは前記のテレビドラマ『さよなら李香蘭』でした。『ラストエンペラー』ではなぜか一貫して「イースタン・ジュエル」という呼称で、川島芳子という名前は出てきませんでしたね。

『レッドクリフPartT』『レッドクリフPartU 未来への最終決戦』
 DVDで観ました。ジョン・ウーが赤壁の戦いの映画を撮ってて、しかも主人公の1人が周瑜と聞いて興味はあったんですが、その一方でウーの映画は確かに面白いことは面白いんだけど、自他共に認める通り女性を描くのが苦手というところが個人的な好みからするとちょっとなぁと。女優陣もいまいち興味がわかない面子だし、う〜ん、どうしようかなぁと迷ってるうちに上映が終わってしまいました。PartTを映画館で観逃したんで、PartUもスルーしたんですが、DVDで観たらどっちも面白かった。やっぱり映画館で観るべきでした。
 演義・正史・オリジナル設定をミックスして非常に面白い物語に仕立てていて、筋肉バカにしか描かれない張飛を書の達人に設定するあたりも面白い。なんと言っても周瑜がかっこよく描かれてるのがファンとしてはうれしいですね。ウーが苦手な女性描写も、ヒロインであるリン・チーリンは今一つでしたが、ヴィッキー・チャオにお得意のお転婆姫を演じさせ、男装させてウーお得意の男の友情ものに持ち込むという裏技で上手く描いてました。普通はそこから男装がばれて(もしくは男が薄々感付き)恋愛モードになるんですが、全然そうならないのがジョン・ウー。ヴィッキーが女なのどう見てもバレバレなんですが(笑)。ウーはトニー・レオンとリン・チーリンのラブシーンでも、どう演出したらいいのかわからないと正直に告白して2人を驚かせたらしい(結局2人が自由に演じたんだとか)。
 それにしても最初に邦題が『レッドクリフ』と聞いた時は、「決定した邦題じゃないよね? あくまで仮題だよね?」と一縷の望みを抱いたんですが、結局それがそのまま邦題になって心底ガックリ来ましたねえ。ひどい邦題だ。

『三国志』(アンディ・ラウ主演映画)……#9250に記述。

『ウォーロード 男たちの誓い』
 DVDで観ました。これも地元で劇場公開はされたんですが上映は1週間のみ。ピーター・チャン監督は最初の頃は『君さえいれば 金枝玉葉』『月夜の願い』などのロマンチックコメディを、その後は『ラヴソング』『ウィンター・ソング』といった正統派ラブストーリーを撮ってたんで、全く作風の異なるこんな男臭いアクションドラマを撮るとは意外でした。
 観ていて主人公の行動が不自然で話の展開にどうも無理があるなと思ったら、『ブラッド・ブラザース 刺馬』という1973年の映画のリメイクで、しかもオリジナルとは設定を変えて、オリジナルの悪役を主人公にして悪人ではなくしてしまったために話に無理ができてしまったようです(オリジナルの主人公は金城武が演じている役どころ)。オリジナルの『ブラッド・ブラザース 刺馬』は、チャン・ツェー(張徹)監督、デヴィッド・チャンとティ・ロンが主演で、この頃はトリオで史劇風アクション映画を連打しており、名画座にある『水滸伝』もその1本。若き日のジョン・ウーが助監督についていたことでも有名で、やたら男臭い作風は共通してるようです(僕はチャン・ツェー監督作は未見)。
 本作もピーター・チャン監督にしては女性描写が類型的でヒロインが魅力薄(演じているのは四小名旦(四大若手女優)の1人のシュー・ジンレイ)なんですが、そのあたりもなんだかジョン・ウーっぽいんだよなあ。

『ラスト・ソルジャー』……栄耀映画掲示板#1681に記述。史劇映画ではなくあくまで時代劇映画で、実在人物の出てこない架空の話。国の設定も史実とは異なります。

『孫文の義士団』
 映画館で観ました。僕はドニー・イェンのちょっと自己陶酔的な演技や作風が苦手でして、他の出演者もあまり興味がわかない面子だったんでいまいち観る気が起きなかったんですが、徹夜城さんのおすすめもあって観てみたところこれがすごく面白かった。人の言うことは聞くもんですね(笑)。ドニーはトップクレジットではあるものの必ずしも主人公というわけではなく、複数の人物が入り乱れるアクション群像劇でした。全く架空の娯楽アクション映画ではありますが、革命を成し遂げる力となったのは歴史に名を残した偉人ばかりではなく、歴史に名を残さなかった無名の人々の力にもよるものだというメッセージ性が暗に込められているように感じました。いやぁ良かったです。

『1911』……#8969に記述。
『王になった男』……#9351に記述。

『セデック・バレ 第一部:太陽旗』『第二部:虹の橋』
 DVDで観ました。一言で言うと、力作ではあるけれど秀作とは言えないという感想です。ウェイ・ダーション監督は評判の高かった前作『海角七号 君想う、国境の南』が全く期待外れの凡作だったんで、ちょっと不安があったんですが、こちらはなかなかよくできた映画でした。ただし欠点もいくつかあります。
 まず、セデック族が蜂起に向かう理由が今一つわかりにくい。主演俳優もセデック族の素人の方ということで、確かに味はあるんですが表情が乏しいため、主人公が蜂起に向かう心情がますますわかりにくい。また首狩り族という民族文化自体がそれ以外の民族には理解しにくい上に、セデック族の少年が同級生の日本人少年少女を惨殺する描写はやはり観ていて不快感を感じざるを得ず、主人公側への共感や感情移入を著しく阻みます。確かに史実がそもそもそうであって、またそのように描くのが監督の意図なのかもしれないけれど、やはり映画としては主人公側に感情移入できないのは致命的。
 そしてセデック族蜂起後の戦闘シーンがなぜか娯楽アクション映画のごとく荒唐無稽です。弓矢しか持たないセデック族が銃砲を装備した日本警察を一方的に圧倒し、日本警察がバタバタ死んでいくのにセデック族はほとんど死なないというのはいくらなんでもあり得ないでしょう。しかもそれにも関わらずいつの間にかセデック族が追いつめられたことになっていて、バタバタと自殺していく展開もきわめて不自然です。
 ウェイ・ダーション念願の企画ということもあってかなり力が入っていることはわかるんですが、映画の出来としてはちょっと残念な部分が少なくありませんでした。

『バトル・オーシャン 海上決戦』……#9943に記述。そこで触れた大谷亮平さんは日本に逆輸入ですっかり人気俳優の仲間入り。

『曹操』
 DVDで半分くらいまで観ました。正史準拠の曹操主人公ドラマという曹操ファン垂涎ものの作品で、歴史ものでも海外の連ドラはめったに観ない僕も喜び勇んで観始めたんですが、やはり途中で挫折。レンタル店でDVDを何本も借りてるうちにどうしても普通の映画とか観たくなっちゃうんですよねえ。ドラマ自体は正史準拠のためもあって、かなりマニアック。女性描写が多いのは僕好みで、蔡文姫の出番が結構多いのもうれしいところ。このあたり陳舜臣の『秘本三国志』にもちょっと似てるような。卞夫人をヒロインとしてるため丁夫人がちょっといじめ役っぽくなっちゃってるのはちょっとあれですが。

>アイドル映画
 キネマ旬報ムック『1980年代の映画には僕たちの青春がある』(キネマ旬報社)収録の、増當竜也「80年代アイドル映画とは何だったのか」によると、アイドル映画は高峰秀子主演の『秀子の応援団長』(1940年)など戦前から存在していたんだそうです。



#10682 
やたろう 2018/01/27 13:45
南北朝時代コミックです

はじめまして。最近、南北朝時代に興味を持った者です。私の見た南北朝時代のコミックでは、大月書店の「日本の歴史」と、学研の「足利義満」が面白かったですね。足利悪玉論への反省からか、両方とも南朝が悪役(?)じみてました。前者では楠木家の武士らしき男(悪人面)が追い剥ぎし、後者では正儀がヘタレっぷりを見せていたのが、ちょっと笑えました。南朝ファンは怒るかも知れませんが、視点を変えて読みたい方にはオススメです。

http://dewa33.blog130.fc2.com/


#10681 
ろんた 2018/01/27 08:17
李香蘭、甘粕、川島芳子、西郷どん

>李香蘭
李香蘭ってのは、空前絶後のアイドル(そんな言葉はなかったけど)なんで、誰が演じても不満が出るんでしょうけど。テレ東版の方の原作は仰るように勘違いしておりました。最近こういうのが多いような。この間も「バジリスク」の続編(1月からアニメが放送中)をなぜか山田風太郎が書いたと思い込んでおりました。事実は、山田は山田でも山田正紀だったんですが……(汗)。


>「流転の王妃 最後の皇弟」
わたしはこちらの方を見ております。李香蘭(天海祐希)、甘粕(竹中直人)、川島芳子(江角マキコ)はほとんどカメオ出演で、クレジットにも特別出演とあります。なぜか映画版(1960年/大映東京/監督:田中絹代/原作:愛親覚羅浩/脚色:和田夏十)も見てますが、この三人は一切登場しません。

天海さんは「何日君再来」を歌ってるんですが(この場面youtubeにupされてます)、なんだか吹き替えっぽい。男役としての経験や実年齢からも、確かに川島芳子役の方が良かったかも。やっぱり30代後半(当時)で李香蘭役はきつい(笑)。川島芳子は溥儀、婉容らと麻雀してたりして、あり得ることとは思いつつも失笑。甘粕は「何日君再来」を歌う李香蘭を撮影したり川島と立ち話したりで登場していて、どこか達観した雰囲気を出してます。

この三人とは関係ありませんが、浩(常盤貴子)と溥傑との北京での再会(1961年)の場面。多分、若い頃に北京へ旅行した思い出とダブらせるためだろうけど、浩がチャイナドレスを着てたのはどうかと思いました。二女は普通の洋装なんだし、当時の中国の状況や浩の年齢(40代後半)を考えても、普通の洋装でいいんじゃないかと。いや、眼福ではありましたが。


>「西郷どん」
わかりやすさ優先だなぁ、というのが正直な感想。いくら影武者がいるからって、あんなにしょっちゅう江戸を抜け出して大丈夫か、斉彬様(笑)。西郷の"斉彬信仰(?)"やお由良騒動を分かりやすくするためなんだろうけど。西郷が調所と直接会うのもなぁ。あとゲベール銃(?)や大砲は、やはり密貿易で買ったのかな。時期的に高島秋帆の演習より早い気がするが。子供西郷がフェミニズム的なこと言うのも気になったし、郷中に見知らぬ子が紛れ込むのも摩訶不思議。

視聴率についていえば、BSで先行放送している以上、下がるのが当然。っていうか、そもそも3〜5%の誤差があるものを、数字だけ比べて大騒ぎするのって滑稽です。あくまでテレビ業界内での指標に過ぎないし。まあ、気に入らないタレントが出てる番組が低視聴率だと、なんだか嬉しいけど(笑)。


>「翔ぶが如く」
原作を失敗作だと思ってたんで、大河の方も見ませんでした(汗)。結局、商業合理主義者の司馬さんには、西郷さんが分からなかったんじゃないんでしょうか。特に後半になってくると、単に事実を記述しているだけのような印象がありました。かといって、海音寺潮五郎の評伝は読んでない。


>Eテレ「100分で名著 南洲翁遺訓」
1週25分×4本のおよそ一ヶ月で一冊の名著を取り上げていく番組。12月に『ソラリスの陽のもとに』を取り上げていたんで、その流れで見てます。もちろん南洲翁=西郷を取り上げているのは大河の番宣であります。MCの伊集院さんも「今年の大河は見る」って言ってるし。しかし「敬天愛人」とか言ってるくせに御用盗の黒幕だったり、西欧の帝国主義を批判しているくせに征韓論を唱えたりの矛盾については結論は出ないようです。

それにしても、NHKの番宣ってなんで初回終了後にやるのだろう?



#10680 
バラージ 2018/01/15 23:05
薩摩行進曲

 『西郷(せご)どん』のナレーションは当初は市原悦子さんの予定でしたが体調の問題で降板し、急遽ピンチヒッターとして西田敏行さんになったというニュースが流れてました。結構年末になってからのニュースで、調べると去年の11月に発表されてますね。そのニュースによると、西田さんはNHKの『ファミリーヒストリー』という番組に出たときに先祖が薩摩藩士だったことがわかり驚いたというコメントも載ってました。放送が始まる前の正月番組で主演の鈴木亮平さんと西田さんが対談してましたが、市原さんの降板自体は結構前から想定されていたのかもしれませんね(去年1月に一昨年の11月に入院したと発表されたらしく、回復が思わしくなかった様子)。
 僕は『翔ぶが如く』は全く観てないんで(当時、題材的にも配役的にも興味がなかった)、そちらがどんなもんだったかは全くわからないんですが、『篤姫』のほうはかなり観ました。今回も篤姫役の北川景子さんがかなりピックアップされるようなんで(番組CMでも彼女のシーンは必ず使われていた)、やはり21世紀で一番話題になった大河ドラマの影響力は大きいなと。島津斉彬役は『篤姫』では高橋英樹さんでしたが、調べると『翔ぶが如く』では弟の久光役だったようで、『翔ぶが〜』の斉彬役が加山雄三さん、篤姫役は富司純子さん。それから市原さん降板の後に、幾島役の斉藤由貴さんもなんやかんやで降板し、ピンチヒッターとして南野陽子さんが出演というニュースも……。こちらは『スケバン刑事』つながりか。幾島は『篤姫』では松坂慶子さんが好演して話題になりましたが、その松坂さんが今回は西郷の母親に。そして西郷の父親が風間杜夫さん、大久保の父親が平田満さんで、『蒲田行進曲』トリオだ!というのをご本人たちもインタビューで仰ってました。
 視聴率は最低レベルに近いものだったようですが、裏の『イッテQ』が今やコンスタントに20%を超える高視聴率番組になっちゃいましたからねえ。何を持ってきても苦戦は免れないでしょう。一方でBSでの先行放送は視聴率好調のようで、大河の視聴率についての考え方も考え直さないといけないのかも。

>『カンフー・ヨガ』と『THE MYTH 神話』
 映画板のほうでも書いてますが、『カンフー・ヨガ』は同じジャッキー主演の『THE MYTH 神話』と同じキャラクターが主人公です。『THE MYTH 神話』では主人公が秦の時代の蒙毅(蒙恬の弟)の生まれ変わりという設定で、主人公が見る前世の夢の中で韓国女優では当時の中国で一番人気だったキム・ヒソンが朝鮮(古朝鮮?)の姫君役で登場。設定やストーリーは自由奔放で特に史実は考慮しておらず、当時の流行だった武侠映画・韓流ブーム・ボリウッドなどに目配りした作品のようです(インドは現代パートで登場)。中国では大ヒットしたらしくテレビドラマ版も作られ、そちらも日本でもDVD化されています(ただしドラマ版のほうは輪廻転生ものではなくタイムスリップものらしい)。
 歴史を絡めた輪廻転生ものは香港や中国ではわりとあるようで、タイムスリップものよりもむしろ多く見かけるような気が。チャン・イーモウとコン・リーが主演した1989年の香港映画『テラコッタ・ウォリア 秦俑』は秦の兵馬俑をネタとした作品。面白かったんですが、残念ながらDVD化されていません。



#10679 
徹夜城(センター試験の歴史問題は一応目を通さなきゃいけない管理人) 2018/01/15 12:59
セゴドン

 こうカタカナで書くと、どこぞの国のミサイルみたいです(笑)。
 「西郷どん」、すでに二回放送になりましたが、現時点での感想なぞ。

 やっぱり素材が素材なんで、昨年の主人公に比べると明らかに密度が濃い。もっともはやいうちにスピードアップしないと一年に詰め込めなくなりますよね。
 比較のために「翔ぶが如く」と並行して鑑賞するというのをやってるんですが。「翔ぶが」の方では第一回だけで調所広郷自害、高崎崩れ、斉彬藩主に、を片付けちゃってます。「西郷どん」の方はそれをやるだけで三回くらいかけちゃうような。もっとも「翔ぶが」の方は第1回が2話分くらい時間とってましたけどね(翌年の「太平記」もそうだった)。

 今度の「西郷どん」、ナレーションが西田敏行というのは僕は放送時まで知りませんで、実際に聞いてビックリしてました。もちろん「翔ぶが」に西郷役で出ていた縁からでしょうが、当時を知ってる者には西郷どんが西郷どんの話を語っているというヘンな感覚に(笑)。なお、西田さんは福島・郡山の出身なんで地元では「薩長」への敵愾心がいまだに…と言われてるところでありまして、西郷役をオファされて悩み、地元の人に相談したら「長州はダメだが、西郷ならいい」と「お許し」を得た、という逸話があったはず。でも西田さん、大河で山形有朋も演じてたような。

 「翔ぶが」で大久保利通だった鹿賀丈史さんが今度は島津斉興、というのも年月の流れを感じてしまいます。そして今度の大久保役は元小松帯刀がやってるからややこしい(笑)。
 渡辺謙さんが「北条時宗」以来久々に大河出演というのも見どころで、斉彬役の存在感、名君ムードと迫力はさすがと思うばかり。で、この渡辺謙さんも西南戦争をモデルにした「ラストサムライ」で西郷をモデルにしたとしか思えない役をやってたわけです。ま、あくまでモデルであって全然違うキャラですけどね。

 「西郷どん」、イタリアだと「ドン西郷」で通るのかな、とかバカなことを考えたりするんですが、鹿児島旅行で西郷最期の地の案内板に、彼の最期の言葉「晋どん、ここらでよか」の英訳が「Shin, My Friend…」となっていたのを思い出します。「どん」のニュアンスもなかなか訳しにくいところでしょうね。


>ジャッキー映画で歴史ネタ
 「栄耀映画」の伝言板ですでに話題がでておりますが、ジャッキー=チェンの最新作「カンフー・ヨガ」は中国とインドの合作体制で、明らかに「インディ・ジョーンズ」のノリ(というか劇中のセリフでも「インディ・ジョーンズみたい」と言っちゃってた)のお宝さがしのお話になってます。そのお宝の由来話が、唐からインドに使節としておもむいた「王玄策」なんですよね。冒頭で彼の冒険が短く映像化されています。
 僕も名前を知ってる程度だったので、映画を見てから調べてみましたが、なるほど興味深い人物なんですね。玄奘が帰国したあとで唐の太宗がハルシャ・ヴァルダナのもとに王玄策を派遣し、彼はその後三度(あるいは四度)も中国・インドを往復してます(玄奘もビックリ)。しかも二度目の訪印ではハルシャ・ヴァルダナ死後の内戦に遭遇、チベット・ネパールの軍隊を借りて事態を収拾してしまったらしい。今度の映画でもそのくだりが映像化されてます(象の大軍の合戦描写が「ロード・オブザ・リング」みたいでした)。

 多国籍多民族が絡むと血が騒ぐ僕好み、なかなか面白い人なんだけど史料が全然ないんですなあ。どうも田中芳樹さんも目をつけて小説化してるようですが。



#10678 
バラージ 2018/01/09 22:59
名画座作品感想編 東アジア史C

 遅ればせながら、今年もよろしくお願いします。

 名画座掲載映画の感想、東アジア史編第4回。今回はいよいよ21世紀に突入。2000年の『シュリ』公開、2003年の『冬のソナタ』放送開始で日本には韓流ブームが到来する一方で、1997年の香港返還を機に香港映画人の一部が海外に流出して(結局みんな帰ってきちゃうけど)栄華を極めた香港映画は衰退していきます。また中国映画はこの頃から商業化の方向へ向けて大きく舵を切ることに。
 なお個人的にこの頃からビデオやDVDで観る映画が多くなり、観た順番がよくわからないんで日本公開順に記述します。

『HERO』
 映画館で観ました。武侠映画の傑作『グリーン・デスティニー』をビデオで観て、映画館で観なかったことを激しく後悔していたら、チャン・イーモウ監督が武侠映画を撮ったと聞いて、すごく楽しみにしていた作品。しかし『グリーン〜』と違ってワイヤーアクションが美しさ優先で力強さに欠け、ストーリーにもやや無理があって残念ながら今一つの作品でした。トニー・レオンとマギー・チャンもアクションをがんばってはいるんですがやはりジェット・リーとの差は歴然だし(もちろん演技力はトニーやマギーのほうがずっと上なんですが)、マギーとチャン・ツィイーの戦いもストーリー上は格上のマギーがツィイーを一蹴するんですが、どう見てもツィイーのほうが強そうに見えちゃうんだよなあ。アクションの得意不得意が如実にわかっちゃうんですよね。イーモウの武侠映画ならツィイーを主演に据えた次の『LOVERS』のほうがずっと面白かったです。
 秦王(後の始皇帝)が出てくるってだけで、他の登場人物もストーリーも全くの架空なんで歴史的にどうこうってところは特にないかな。そもそもイーモウは武侠映画を撮ろうとしたけど良い原作がなかったんでオリジナルにしたらしいんで、歴史映画を撮ろうっていう気はなかったでしょう。チェン・カイコーが『始皇帝暗殺』を撮っていると聞いてテーマがかぶったかと気をもんだそうですが、テーマが異なる史劇映画と知ってホッとしたんだとか。
 コン・リーとのコンビを解消した後のイーモウは、『あの子を探して』『初恋のきた道』『至福のとき』の「幸せ三部作(または桃色三部作)」でハートウォーミング路線に転換。僕はコン・リーとのコンビ時代に思い入れが強かったので、この三部作には戸惑いがありました。さらにそこから本作でこれまた大きく路線の違うアクション大作を手掛けるんですが、今になって考えるとイーモウは様々な異なる作風の作品を撮るタイプの作家なんでしょう。その辺は作風のずっと変わらないホウ・シャオシェンやウォン・カーウァイとは対照的。
 イーモウの『紅いコーリャン』でデビューし90年代中国映画のミューズとなったコン・リーに代わって、やはりイーモウの『初恋のきた道』でデビューして00年代中国映画のミューズとなったのが、当時四小名旦(四大若手女優)と呼ばれた1人のチャン・ツィイー。『グリーン〜』でも大ブレイクし、ジャッキー・チェンの『ラッシュアワー2』でハリウッド進出も果たしました。

『MUSA 武士』
 ビデオで観ました。一応史実にヒントを得てるとはいえほぼ架空の話なんで、そういう意味ではこれまた特に言うことはなし。チャン・ツィイー目当てで観たんですが、高麗・明・モンゴル(北元?)と様々な勢力が入り乱れるアクション群像劇でなかなか面白かったですね。欠点は主演のチョン・ウソンとチュ・ジンモの見分けが後半つかなくなっちゃうこと。最初は汚い格好してるのがチョン・ウソンで、こぎれいなほうがチュ・ジンモだとわかるんですが、だんだんチュ・ジンモのほうも小汚くなってくると2人の顔が似てるんでどっちがどっちだかわかんなくなっちゃいます(笑)。それにしても助けられるばかりで自らは戦わないチャン・ツィイーってのも考えてみると珍しい。まあ鼻っ柱の強さは健在でしたが、やっぱり彼女は『グリーン・デスティニー』『LOVERS』『グランド・マスター』みたいに「闘う女」を演じる方が似合ってるかな。

『ヘブン・アンド・アース 天地英雄』
 ビデオかDVDで観ました。あまり観たいポイントがなかったんで、ずっと観ないでいたんですが、目当てなしにレンタル店に行った時に何か中華圏のアクション時代劇が観たくなりまして。これは全くの時代劇で史実とはほぼ関係なし。遣唐使役の中井貴一がこの時代にはないはずの日本刀を使ってますが、日本人という記号付のために必要だったんでしょう。ワイルドな作風で途中まではなかなか面白かったんですが、ラストで突然ファンタジーになってしまい唖然としました。主演のチアン・ウェンは監督作『鬼が来た!』をカンヌ映画祭に無断出品したため、当時政府から監督業を禁止されてました。ヒロインのヴィッキー・チャオは四小名旦の1人で、台湾の時代劇ドラマ『還珠姫 プリンセスのつくりかた』が出世作。

『ブラザーフッド』
 ビデオかDVDで観ました。僕は韓国映画は中華圏(中国・香港・台湾)映画ほどにはハマりませんでしたが、それでもある程度代表的な作品は観ています。この映画もなかなかにすごい映画でした。戦場の残虐描写をしっかりと描きつつ、エンターテイメントとしても質の高い映画になっています。北朝鮮軍だけでなく韓国軍の残虐行為もしっかり描いているのも高ポイント。主演のチャン・ドンゴンとウォンビンも好演でした。当時、日本で人気を席巻してた韓流四天王の2人で、ペ・ヨンジュンとイ・ビョンホンを含めた彼ら四天王の人気が凄まじかったこの頃が日本における韓流ブームの最盛期でしょうか。

『大統領の理髪師』
 NHK-BSで観ました。これもなかなか面白かったですね。韓国現代史を人情喜劇の形で軽妙かつわかりやすく見せてくれる映画で、ソン・ガンホもさすがの達者な演技でした。ただまあそれ以上は特に書くこともないかな。どうもこの映画に関しては感想というか記憶がわいてきません。娘大統領の時代もいつか映画化されるのでしょうか?

『宮廷女官チャングムの誓い』
 NHKでところどころちょこっと観ました。中高年女性の心をわしづかみにした『冬ソナ』に関心のなかった中高年男性をも韓流ドラマの虜にしてしまった大ヒットドラマで、『JSA』でも好演していたイ・ヨンエを日本でも一躍スターダムに押し上げ、関連番組も数多く作られました。確かに結構面白かったですね。

『女帝 エンペラー』
 映画館で観ました。元ネタの『ハムレット』はほとんど大まかにしか知りません。好きな女優のチャン・ツィイーとジョウ・シュンが共演すると聞いてそれが目当てで観た映画です。しかし前半はストーリーがいまいちだし、ワイヤーアクションもスローモーでちょっと退屈。後半はやや持ち直すものの、女帝ツィイーはともかく、小悪魔的な役どころが十八番のジョウ・シュンの魅力は引き出せておらず、残念ながら期待外れでした。ジョウ・シュンは前回にも書いたとおり四小名旦の1人で、『ふたりの人魚』『ハリウッド★ホンコン』『小さな中国のお針子』『ウィンター・ソング』などいずれも小悪魔的な魅力の役柄が持ち味の女優です。

>李香蘭ドラマ
 僕もテレ東版『李香蘭』も観ています。こちらの原作は同じ山口さんの自伝でも『「李香蘭」を生きて 私の履歴書』のようですね。まあ同じ人の自伝なんで結局はほとんど同じ話でしたが、フジテレビ『さよなら李香蘭』に比べるといまいちの出来。菊川怜が川島芳子役なのはオスカーつながりでしょう。甘粕役は中村獅童でこれはいまいちミスキャストでした(まあ『ラストエンペラー』の坂本龍一も全然似てないけど)。
 他に李香蘭が登場する映像作品にはテレビドラマ『流転の王妃 最後の皇弟』『男装の麗人 川島芳子の生涯』があり、前者は未見ですが後者は観ました(ま、次回で触れる予定でしたが)。『流転の王妃〜』の李香蘭役はなんと天海祐希でこれこそいくらなんでもミスキャスト。天海さんはどっちかっていうと川島芳子なのでは? その川島役は江角マキコ、甘粕役は竹中直人でこっちはなかなかのハマり役っぽいですが。『男装の麗人〜』は川島役が黒木メイサ、李香蘭役が堀北真希でこれはいいんだけど、甘粕役が仲村トオルでいくら何でも男前すぎ。

>直虎と帯ギュッ
 河合克敏の井伊エッセイマンガは僕も読みました。『帯ギュッ』は面白かったなあ。



#10677 
退官した元海上保安官 2018/01/07 15:08
管理任さまへ

先ずは明けましておめでとうございます。
昨年末に質問の投稿を致しました処、丁寧な回答を頂きながら、ご返事が遅れ申し訳ありません。
長年の海上勤務での無理が祟ったのか、投稿直後に入院する羽目となり、昨日、退院したところです。改めてお礼を申し上げます。御返事を一読させて頂き、我が意を汲みかつ、門外漢の想いが歴史家である貴兄の思索に沿うものと知り喜んでおります。
私は参考ライン(海上保安庁では海洋上の領海ラインをこの様に呼びます。国連の国際海洋法条約では中間線と申します)と日本の排他的経済水域などを護る為に奉職してまいりましたが、その事で一つだけ疑念を抱えて参りました。
それは倭寇の歴史に見られますように、国家王朝、領土意識とは別に、海を往来する海上民がいたであろう事です。彼らは近代国家の成立以前から存在してました。
その末裔たる人々に、近代国家の領土意識とは別な何かがあるのは決して無法とは言いきれぬと思われるのです。これは私が役人であると供に、半生を海上勤務で過ごした事に由来する疑問です。
海は境界などなく、その海には川が繋がっています。
ネイビーとは海軍でなく水軍です。河川から沿岸そして
大洋へと境なく行き来する民が水軍でした。
国家に奉職する武官であるが故に、領土領海と背景となる近代法は無条件で従ってきました。しかし、そんな近代法以前から海民はいたであろうと想ってもいた。
本当はそうした視点が必要であろうと。
海上保安官の多くは正義を愛し、海を行く全ての人の安全をねがっています。そうでなければ薄給で過酷な任務中つきません。だからこそ、水面下に流れる歴史的、文化的な側面を大事にするべきと思うのです。
国家間でにっちもさっちも行かない行き詰まりの時に、
助けとなるのは、こうした社会の底流に流れる歴史なのだと思うのです。なぜなら天地人ではありませんが、
国家と人の間には社会があり、社会とは歴史の産物でからです。国家が直に人と繋がるとナチスになってしまいます。我々、領海で最前線で犯罪、紛争、災害に節するものは真実は争いを求めておりません。
だからこそ、国家主義による責める発言いがいの何かを持って欲しいのです。
領海と王朝を越えて活躍する海民の研究は、正直、国家主義に走る我国と、世界の潮流においては邪魔であり逆風であると思います。
しかし、どこまでも拡がる大洋の風と雲と海とを研究し伝える事は、かならず後の人を救うと信じます。
御研究と研鑽が実り成就されること、陰ながらお祈り申し上げます。






#10676 
徹夜城(倭寇マニアと歴史映像マニアの血が騒いだ管理人) 2018/01/06 23:58
遅ればせの謹賀新年

 もう6日だというのに、今頃になってこの伝言板で新年のご挨拶。今年もよろしくお願いします。
 今年も正月は自堕落に過ごし(とりためた映画やビデオでかなりつぶれた)、そのあとは冬期講習再開でこの世間の三連休もかえって忙しい始末です。「史点」ネタもすでにいろいろそろってきましたが、書けるのはもう少し先かと。

>風雲児たち蘭学革命篇
 すっかり話題に送れてしまいましたが、ちゃんとリアルタイムで見てました。
 原作を読み込んでるファンとしては「まぁ、こんなものかなぁ」とちと欲求不満にもなりましたが、ギャグ漫画の原作を実写ドラマにするとなれば「そのまんま」の映像化はできないでしょう。かえってしらけちゃうかも。連載誌「コミック乱」の最新号で原作者のみなもと太郎さんと番組のディレクターが対談してましたが、「そのままズッコケをやったら吉本新喜劇」ということで双方納得(?)してました。そもそも「風雲児たち」じたい、吉本新喜劇ネタが多くて僕のような関東人には「ギャグ注」がないとワカランことが多い。

 僕の知る限りですが、有名な割に「蘭学事始め」の事情を映像化したのはこれが初めてではないかと。それだけでも貴重な作品だと思います。
 話を解体新書翻訳ドラマ、良沢と玄白の関係に絞ったのは正解と思うのですが、平賀源内が出てくるのは当然として、高山彦九郎・林子平が唐突に出てくるの、原作未読者にはワケワカラン状態だったのでは。ありゃ原作ファン向けサービスなのか(連載最新回でも林子平が久々に登場、作者から「ご出演おめっでとう」と岩れった)。あるいはうまくいったらこの二人を中心とする続ドラマでも考えてるのか…
 原作でも蘭学者だけでなく、当時の知識人・奇人変人がみんな人脈がつながっていて、それが大きな歴史のうねりを作っていくというところが驚きもあり、読ませどころだと思うんですね。それを映像で再現するのはそれこそ大河ドラマにでもしないと無理でしょう。
 前から言ってますが、個人的には最上徳内や間宮林蔵が絡んでくる北方探検編とでもいいましょうか、あの辺の実写版が見たいもんだと思ってます。


>阿祥さん
 お久しぶりです…そして重大な情報をありがとうございました!早速さっき全編見ちゃいましたよ、
 うん!こりゃ力作です。基本線は侵略者倭寇を有能な将軍が武器と兵の改革を行って見事に打ち破る、という単純と言えば単純な筋ですが、そこに投入される情報量の多さにやや圧倒され魔敷いた。
 主演の戚継光役の趙文卓って、以前鄭成功を演じてまして、微妙につながっています。また兪大猷がなんとサモハン!こちらは「忠烈図」で倭寇の首領「博多津」を演じていた過去が(笑)。胡宗憲とか盧ドウとか、倭寇側では毛海峰(王直の養子・毛烈)まで出てきちゃうんだから、倭寇研究者としてはよだれが出そうでした(爆)。
 文民統制で総司令官の立場にある胡宗憲の「中間管理職」的な板挟み苦悩の描写がなかなかいいですね。王直をせっかく投降させたのに他の連中が口出ししてきたから倭寇が収まらん、私一人に任せれば倭寇は戦わずしてひくのに、と愚痴るところは史実と照らし合わせても正しいと思います。
 あと、毛海峰が小型の大砲みたいのをつかってますが、たぶん彼が得意としたと記録にもある「フランキ砲」のつもりなんだと思います。これも細かいところで感心しました。

 阿祥さんもご指摘の通りで、倭寇側の日本人描写がかなりいい。倭寇がほぼ純日本人集団に描かれてるのはまだまだ仕方ないのかな、と思いますが、日本人をちゃんと日本人俳優が演じて普通の日本語が話されてるだけでも大変なこと(中国語字幕に一部間違いがあったなあ)。ラスボスになる倉田保昭、ムチャクチャ美味しい役だと思います。たぶんサモハンのヒキで呼ばれたんじゃないかなぁ。戚継光と一騎打ちして最後は切腹(予想通り!)という、実にカッコいい役です。
 小出恵介さんはこれの撮影後なんでしょうねぇ、ちと問題が生じてしまいましたが、ここでも爽やかにいい役です。松浦氏の「若様」という設定には研究者としては「?」とは思いますが、一応「表ざたにはできない松浦氏の裏の稼ぎ」という設定になってるのでなんとかクリア。王直が平戸に拠点を置いて松浦氏と深く関わっていたのは事実ですからね。ただ王直集団が「侵略的倭寇」であったかについては…これ、「俺たちゃ海賊!」コーナーでちゃんと書かなきゃいけないことなんですけどね(列伝ではちょこっと言及してますが)。そういや王直は結局出てこないんだよなぁ。
 この倉田・小出両名が演じる日本人首領は教養もモラルもある「武士」に描かれ、略奪暴行にいそしむ日本人連中は「食い詰め浪人」である、という日本人内部の二重構造が描かれてるのも面白い。実際の倭寇の日本人率は1〜2割程度だったと思うのですが、その日本人の中でもいろいろいたのは確かでしょう。海賊勢力や浪人連中がひと稼ぎの気分でやってたと思いますが、中には柳生の剣術書を携帯していたような武士がいたのも確かなんで。
 映画ではこうした乱暴者の浪人キャラの一人が小出さん(松浦の若様)の気性にほれこんでしまい、「俺も本物の武士になりたいんだ!」と改心(?)しちゃったところなぞ、なかなか泣かせてくれました。

 映画の序盤で倭寇たちがバカにしてましたが、明の既成の官軍たちがてんでダメダメだったのは事実で、戚継光はそこに腕に覚えのある者たちを個人的に募集して訓練し、精鋭の私兵である「戚家軍」を作るわけですが、映画ではその辺も脚色はかなりありますが描いてくれてました。
 フィクションでやりすぎと思ったのは戚継光の奥さんのキャラでしょう。夫も頭が上がらないかなりの女丈夫に描かれ、お留守を守って甲冑姿で大奮戦する「女武将」扱い。映画つぃては確かに面白いところではありましたが、元ネタがあるようには思えないんですが…。
 そういや最近中国では戚継光を主役にした連続テレビドラマ(三十数回程度)も製作してて、これもネット上で見られます。その第一回をチラッと見たら戚継光の結婚から始まってるようで、もしかしてこっちでも奥さん大活躍なのか?



#10675 
阿祥 2018/01/05 13:19
「蕩寇風雲」

昨日台湾から戻って来たところですが、その飛行機(中華航空でした)「蕩寇風雲」という映画が紹介されており、もしやと思いみてみたら、案の定倭寇の時代をテーマにしたものでした。主人公に戚継光を据えて、台州の戦いで彼が倭寇を破ったというストーリーです。ネットでも見ることができるようで、検索でいくつかの映像がヒットしました。下記もその一つです。
(http://movieking.video/watch_video.php?v=9BAB39AS11B3)

「忠烈図」がB級娯楽映画として有名なので、一体どんな映画に仕上がっているのか興味があり、帰りの飛行機で鑑賞してみました。

戦争をテーマにしたアクション映画なので、史実的にはどうだろうというつっこみどころは満載でしたが、「忠烈図」と比べると、だいぶ研究をして作っているようだと思いました。倭寇側に中国の人間が加わっていることも少しばかり描かれていましたし、源平の兜が出てくるようなことはなく、戦国時代の鎧になっていました。倭寇の首謀者は松浦家の若殿(小出恵介)とその爺や(倉田保昭)となっていて、史実はともかく設定としてはありうるかなと感じました。

話は兪大猷が戦いに負けたあと、胡宗憲が戚継光を新しく総大将に任命、農民を加えた軍隊を整え倭寇を打ち破るというものです。細かい設定に疑問は残るものの、そこは徹夜城さんに任せて、映画全体での感想を書きます。
この映画では倭寇の描かれ方が、単なる悪役ではありません。日本語としての表現もこなれたものでしたし、敵役の最期も十分な配慮を以て描かれています。(倉田保昭のアクションが見ごたえありました)日本でこの映画は評判にはなっていないように思いますが、数多ある日中戦争のドラマや映画とは雲泥の差です。倭寇をこんな風に描いてよく中国での上映がOKになったなと思えるほどです。戦争ドラマでの荒唐無稽な日本軍の描かれ方に、中国国内でもあきれた声が出ているというニュースも聞きますが、そんなことから、映画での日本の描写も異なってきているのかなとも思いました。
今年は「空海」をテーマにしたファンタジー映画も上演されるそうですが、そこでは空海と白楽天が協力して謎に挑むそうです。何か、映画のつくられ方を見ていると、日中関係には良い兆しが見えるのではないかなと感じています。



#10674 
ろんた 2018/01/03 22:04
「風雲児たち〜蘭学革命篇」雑感

評価したり批判したり以前に、「ドラマになったかぁ」というのが正直な感想でして、うまく文章になりません。とりあえず「雑感」として箇条書きにしてみました。

・良沢の家の「夢殿」みたいな建物は何? 引き籠もり部屋みたいだけど
・玄白がチビ太じゃない(笑)
・田沼がいかりや長介じゃない(笑)
・良沢の後継者たる中川淳庵と桂川甫周の扱いがちょっと悪い(特に甫周)
・高山彦九郎のエピソード(三条大橋で土下座して京の市民に無気味悪がられた)が分かりにくい
・玄白と淳庵を助けた林子平が、裏木戸の閂をたたっ斬るのは原作ファンへのサービス?
・林子平の剃刀負け(?)が無精ひげになっている
・他にも原作の重要人物が顔見せ的に出演しているのが嬉しい
・SFX的なメイクや肉体改造をしているわけではないのに、山本耕史が源内にしか見えない
・「オストアンデール」「今の、オランダ語に聞こえた?」は健在、「丑の日」は省略、竹とんぼは持ち道具としてのみ登場
・田沼に「これ(エレキテル)は何の役に立つのじゃ」と突っ込まれた源内が、現代の都市の夜景を幻視する名場面は省略
・玄白が淳庵に「一緒に拷問にかけられような」と誘うギャグは省略
・実写ドラマだからか、ギャグの多くが省略された(玄白は「いいとも」に出ません(笑))
・盛大なズッコケも無し
・ドラマ的な盛り上げのためか、良沢と玄白の和解は二人の古希−還暦まで持ち越し
・学究の良沢と世故に長けた玄白という性格はより強調されていた (むしろ玄白はプロデューサー?)
・全体の印象として「大河」というより、「天下御免」でした。取り上げてる時代が同じということもあるでしょうが。

そしてNHKは「西郷どん」第一回放送に向けて、番宣体勢に入るのでありました。


>「見どころ」
早朝に放送したみたいで、その再放送だったようです。


>日本郵便の年末のCMが気になった話
平成30年は、平成になって29年じゃないのかなぁ?



#10673 
つね 2018/01/03 19:41
「風雲児たち」見ました。

原作のほうはワイド版1〜3巻と7巻以降と、意図しないながら解体新書編を抜かしてしまっているので、直接の比較はできないのですが、チラ見せの奇人たち含めて人物の書き分けがよくできており、再現度すごいと感じました。田沼は、美男子と記録がある史実風。もう少し二人の板挟みに合う中川淳庵の苦労が描かれても良かったかも。原作はどうだったのかな。ただ原作では二人の還暦・古希祝い前から普通に会ってるので、この祝いで仲直りしたというのはドラマオリジナルっぽい。多分そのせいで中川淳庵の死がスルーされてしまったのが残念。

冒頭、「大河ドラマではないので歴史考証はそれほどでもない」みたいなことがアナウンスされてましたが、最近の大河ドラマもそれほどでもないような。むしろこのまま大河ドラマ化してほしい。

17時半からの「見どころ」がサッカー延長のためにカットされてしまったのも残念。



#10672 
ひで 2018/01/01 22:52
恭頌新禧

昨年は大河ドラマを楽しく視聴し、自分の興味関心のある分野で面白い本を数冊読み良い年だったと思っていたら、年末に率直に言ってこれはいかんだろうと思うベストセラーに出くわしたりするいっぽう、何かと忙しい1年でした。今年は去年より落ち着くと良いのですがどうなることか。

年末のニュースでは、マケドニア(FYROM)がギリシャ共和国と関係改善に乗り出す動きがあるらしいというニュースをみました。古代マケドニア王国の歴史を巡って何かともめている両国ですが、果たしてどうなることやら。マケドニアとしてはEU、NATO加盟をことごとくギリシャの反対で阻止されているので、それをなんとかしたいのだろうとは思いますが、ギリシャがどう応えてくるか。一方、イランでは反政府デモが拡大しているようで、今日のニュースを見ると死者もでたとか。ハメネイの写真を破る人がいたとか、政府当局はSNSへの接続を遮断したとか、デモと政府の対応に対しアメリカがなんか色々言っているとか何とか、こちらもどうなるのか。年末年始も世の中色々と落ち着かないようで。

今年が少しでもましな1年になることをねがいます、はい。

http://historia334.web.fc2.com/index.html


#10671 
黒駒 2017/12/31 23:56
「直虎」終盤について

私も最後まで見ていたというか目にしていただけで真剣に視聴しておらず、むしろ悪口ばかり言っていたのですが「終盤は直政が主役になっている」というのは違うというか、意図的であるように思いました。

終盤で今川家が滅び、井伊家がこれに乗じて独立するかと思ったら歯車が狂い、大殺戮と重要人物の小野政次の死があって、主人公の直虎がいわば主人公の座を降りてしまうのですよね。もう井伊家を再興するつもりはないと宣言して帰農し、もうそれまでのようにおせっかいにトラブルに口を挟んだりもせず、生き残った井伊家、井伊谷の人々もそれぞれ、井伊家再興の夢は捨てたがそれなりに充足した毎日を過ごすという、最終回のような展開でした。

そこへ直政が子役から翻訳になって、草履取りから出世を目指す序盤のような展開をはじめ、ここでは直虎は完全に主役ではありません。しかし直政の働きにより井伊家再興の希望がつながり、直政と直虎の反目という展開もやっていましたのでしだいに両者は理解するようになると。

そして最後は直虎が当主に返り咲くわけではないが、主人公として「復活」して終わるというラストでした。ラスト数回ではちゃんと直政も脇役に戻ってましたよ。



#10670 
ろんた 2017/12/31 15:33
うわっ、黒沢映画マラソンが……

>『泣き虫弱虫諸葛孔明』
「三国志」(演義をはじめとするフィクション)、「三國志」(正史)のパロディ、あるいはツッコミ集という印象。劉備と孔明の密談なのに、なんで「天下三分の計」を歴史家が知ってるんだとか、何度も話しているうちに寸劇「桃園の誓い」を完成させる劉備、関羽、張飛とか(笑)。とはいえ、わたしが読んでいるのは、多分「第一部」のみ。単行本では、ここで完結している体裁になってるんで、つい最近まで、続いているとは思ってませんでした(汗)。
考えたら酒見賢一って、デビュー作の『後宮小説』も明→清あたりの中国史のパロディなんですよね。


>甘粕の最期
う〜ん、伝記(鈴木尚之『私説 内田吐夢伝』岩波現代文庫)を読んでいたのに、内田吐夢が立ち会っているのはすっかり失念(汗)。で、該当箇所を読み直すと、側近の赤川孝一と甘粕の女性秘書も立ち会ったことになっている。この孝一が赤川次郎の父親で後に東映のプロデューサーとなるのでありました。歴史ってなんか不思議。


>李香蘭
原作が同じ『李香蘭』(2007テレビ東京)は見てますが、李香蘭=上戸彩、川島芳子=菊川怜というキャスティングには「オイオイオイ」でした。上戸彩の実年齢は李香蘭に近かったようだけど。あと、戸籍謄本で李香蘭=山口淑子が証明されると釈放(国外退去)されるなど、百人斬りで一部の人々から評判の悪い中華民国の軍事裁判がちゃんとしているのが印象深い。


>「おんな城主 直虎」
全然、見ていなかったんですが、直政がメインになっているとは聞いていました。どうせなら関ヶ原後までやって直政を殺し、最終回で桜田門外の変までワープしてしまえば、「西郷どん」へシームレスにつながったのに(笑)。視聴率的にはふるわなかったけど、フェミニズム的に持ち上げる議論があったりもするらしい。あと、『帯をギュッとね!』『モンキーターン』『とめはねっ! 鈴里高校書道部』の河合克敏先生が、井伊谷出身と判明。『帯ギュッ』の学校名なんかから浜松あたりの人だとは思っていたけど。


>「西郷どん」
鈴木亮平がデニーロ・アプローチで肉体改造、というのを期待してました。まっ、大河でそんなことしたら元に戻らなくなっちゃう(笑)。


>史点ネタ:ロシア革命100年
何を隠そう、わたし、11月7日生まれだったりして。
ロシア政府は黙殺したみたいですが、ロシア共産党が呼びかけて、各国の共産党や共産主義者がパレードしたんじゃなかったかな。そしたら、スターリンのでっかい肖像画だの写真を持った連中が集まってしまったらしい。
んで、来年はマルクス生誕200年。聖地巡礼ツアーとかあるかな。立て、万国の労働者!(笑)


>史点ネタ:トランプ大統領1年
いつまで大統領か分からないのに仲良しこよしになって大丈夫ですか、と思ってたけど一年もちました。しかしこの人、「アメリカファースト」というよりも国内のことしか考えてないんじゃないですかね。すべてが「剛毅」「果断」というイメージ作りのためのような気がするんですよね。あと「反対するなら援助を削るぞ」って、そういうことは裏から小さな声で言わなくちゃ。おおっぴらに言ったら、隙をついて中国が出しゃばってくるぞ。


>史点ネタ:高須院長
功成り名遂げて自我が肥大化しちゃって、全能感にまで至っているような。整形手術のしすぎで、なんか影響が出ているのか(笑)。西原理恵子と事実婚状態というのには笑いました。



#10669 
アジアのバカ大将 2017/12/30 19:13
酒見賢一版三国志はいかがですか?

(自分の名前を入力ミスしました。管理人さん、前カキコの消去をお願いいたします)
 大長編の酒見賢一版三国志「泣き虫弱虫諸葛孔明」はいかがですか?
 お読みになった方の御意見をうかがえれば、幸甚です。
小生、だいぶ前から小説を読まなくなっております。同作品も図書館で第一巻をパラパラとみて、「長すぎる」「ギャグがくどい」と感じて、その後フォローしませんでした。
 ギャグは「関羽は、トンデモないスパルタ親父で、彼と比べると星一徹もクッキングパパにみえる」といった具合です。山上たつひこ風です。




#10667 
バラージ 2017/12/29 22:57
名画座作品感想編 東アジア史B

 名画座掲載映画の感想、東アジア史編第3回。今回は90年代中盤〜末の映画。80年代後半に期せずして同時に興った香港ニューウェーブ(ツイ・ハーク、アン・ホイ、イム・ホー、ジョン・ウーなど)・中国第五世代(チャン・イーモウ、チェン・カイコー、ティエン・チュアンチュアンなど)・台湾ニューシネマ(ホウ・シャオシェン、エドワード・ヤン、ツァイ・ミンリャンなど)の流れが絡み合って、中華圏映画が百花繚乱の時代を迎えた時期に当たります。

『さらば、わが愛 覇王別姫』
 映画館で観ました。大まかなあらすじと高い評判とそして何より主演の1人がコン・リーだからという理由で観に行った記憶があります。台湾の元女優シュー・フォン(徐楓)がプロデューサー、中国のチェン・カイコーが監督、そして香港のレスリー・チャンと中国のチャン・フォンイーとコン・リーが主演という当時の中華圏の才能が結集した作品で、国境を越えたコラボレーションが進みつつあった当時の中華圏映画が生み出した歴史的傑作です。確か東京のミニシアターで当時のロングラン記録を樹立したはず(でもって翌年『恋する惑星』に抜かれた)。
 女形と男役の京劇俳優と1人の女の愛憎劇を、日中戦争・国共内戦・文化大革命と続く激動の中国近現代史を背景に描いた一大叙事詩で、日本軍・国民党・共産党と移り変わる権力者に翻弄されて悲劇的な運命をたどる人々の姿を残酷なまでに描き出した脚本が素晴らしい。チェン・カイコーはこれ以前に『黄色い大地』『大閲兵』『子供たちの王様』などを監督しており(僕は『黄色い〜』のみこれより後にビデオで観た)、『黄色い〜』『大閲兵』は撮影がチャン・イーモウ。同じ第五世代でもカイコーのほうが監督デビューは先でした。
 また主演のレスリーの80年代は『男たちの挽歌』『チャイニーズ・ゴースト・ストーリー』などが代表作で軟派なイケメンといった印象でしたが、90年代に入りウォン・カーウァイ監督『欲望の翼』の虚無的な青年役で個性が開花。本作で名優の座を確かなものとしました。コン・リーはデビュー作の『紅いコーリャン』以来、『菊豆(チュイトウ)』『紅夢』とチャン・イーモウとの黄金コンビで中国映画界を牽引し、ついには『秋菊の物語』でベネチア映画祭最優秀女優賞を受賞した後が本作となります。
 今までに観た中国映画(台湾や香港も参加してますが基本的には中国映画と言っていいでしょう)の中でも『紅いコーリャン』と並んで僕にとっての最高傑作と言える映画ですね(香港映画や台湾映画はまた別口ってことで)。

『始皇帝暗殺』
 映画館で観ました。メル・ギブソンの『ブレイブハート』を観て、学生時代に観た『ベン・ハー』や『スパルタカス』を思い出し、中華圏でもこういう史劇映画を作ってくんないかな〜と思ってたんでナイスタイミングでしたね。『三国志 大いなる飛翔』という悪しき前例はありますが(笑)、『さらば、わが愛』のチェン・カイコーならと期待が高まりました。カイコーはその次作『花の影』が失敗作だったんで一抹の不安はありましたが、まあどんな監督でも百発百中ということはないわけだし、と。
 しかし観た結果としては、つまらなくはないけれど期待したほどでもなかったという微妙な感想。事前の期待値が高すぎたのか、観終わった時に今一つ物足りなく感じちゃったんですよね。まあまあ面白かったって程度かな。残念ながらカイコーはその後も凡作を連発し(評価が高かったのは『北京ヴァイオリン』くらい)、チャン・イーモウに水を開けられる一方となります。
 コン・リー、チャン・フォンイーも共に貫禄の演技ではありますが新味はないかな。『上海ルージュ』を最後にイーモウとコン・リーはコンビを一旦解消し(2人の不倫関係が終わったためと言われる)、その後コン・リーは『花の影』と本作でカイコー監督作に出演しますが、やはり彼女をスクリーンで最も輝かせられるのはイーモウなんじゃないかなあ。むしろこの映画で強く印象に残ったのは冒頭で荊軻に殺される盲目の少女を演じたジョウ・シュン。後に『ハリウッド★ホンコン』『小さな中国のお針子』で気に入り、過去作を調べたら本作があって「あー、あの子か」と思い出しました。やはりこの頃から輝いてたんだなぁ。21世紀にはチャン・ツィイーらと共に四小名旦(四大女優)と呼ばれるようになります。
 また本作は日本も製作に参加してるためか関連書籍がいくつか出版されるメディアミックスが行われ、小室哲哉プロデュースでデビューした台湾のRingという女の子が主題歌だったりもしましたが、映画自体の興行成績や評判が微妙なこともあってかいずれも空振りに終わりました。当時は小室ブームもちょうどピークを過ぎ始めた頃だったような記憶があります。

『項羽と劉邦 その愛と興亡』
 ビデオで観ました(地元の映画館では上映せず)。劇場公開版と同じ138分の国際版で、後に185分のオリジナル完全版も公開されDVDは完全版(182分ですが多分第1部のエンディングを削ったバージョンではないかと)のみのようですが未見。コン・リー目当て(『さらば、わが愛』とチャン・イーモウ監督『活きる』の間に当たる)で観たんですが、映画自体は微妙だな〜とずっと借りるのをためらってたら、やはり予想通りストーリーが平板で退屈な映画でした。項羽の合戦シーンがカンフー映画みたいなのも苦笑もの。一番の見所はコン・リーとロザムンド・クワンの入浴シーンかな(笑)。コン・リーの呂雉はまさにハマり役ですが、ひたすら純粋で美しいだけの虞美人は面白味がなくロザムンドは少々損な役回り。あと無頼なヤクザ者のイメージの劉邦が腹黒い策士に描かれてるのは珍しかったです。

『宋家の三姉妹』
 ビデオで観ました。これは地元でも公開されたんじゃないかと思うけど、いまいち記憶がありません。メイベル・チャン監督は叙情性が持ち味の監督で、それが良い方に出れば『誰かがあなたを愛してる』のような佳作になるんですが、この映画ではそれが感傷に流れるというマイナスの方向に働いて、若干薄味な作品になっちゃったかなぁという感じ。それでも西安事件のあたりはなかなか盛り上がりました。蒋介石の描かれ方がそれほど否定的でないのは当時の中華圏映画では画期的なことだったそうです。
 90年代の中国を代表する女優がコン・リーなら、香港を代表する女優はマギー・チャン。80年代半ばにデビューした頃はアイドル的女優でしたが、80年代末から90年代初めにかけて、ウォン・カーウァイ(『いますぐ抱きしめたい』『欲望の翼』)、イム・ホー(『レッドダスト』)、アン・ホイ(『客途秋恨』)、スタンリー・クワン(『フルムーン・イン・ニューヨーク』)といった香港ニューウェーブの監督たちの作品に次々出演し演技派女優として開花。ついにはクワン監督『ロアン・リンユィ 阮玲玉』でベルリン映画祭最優秀女優賞に輝いています。その後は出演量をややセーブするようになり、カーウァイ監督『楽園の瑕』、ピーター・チャン監督『ラヴソング』などを経ての本作となりました。ちなみにマギーとミシェール・ヨーは北京語が話せないため本作では吹き替えです。

『三国志演義』
 NHK-BSの放送で諸葛亮死後の回だけ観ました。当時三国志にハマり尽くしてちょっと飽きが来てたこともあって、ほとんど取り上げられないそのあたりの話に興味が行っており、また映像化されることもほとんどない部分なんで観とこうと思いまして。そういや僕が三国志にハマるきっかけになった守屋洋の『「三国志」の人物学』でも、蒋エン[王偏に宛]・費イ[示偏に韋]・諸葛恪が取り上げられたり、諸葛亮死後の司馬懿・孫権・陸遜についても書かれたりしてたんで、僕はかなり初期の段階から諸葛亮死後というマイナーな時代の知識があったんです。

>ボリバル映画
 レンタル店に行ったら新作DVDでたまたま見つけました。どんなもんかわからんので借りはしませんでしたが、YouTubeで予告編を見るとなかなかの大作のようです。



#10666 
徹夜城(受験産業で「師走」になってる管理人) 2017/12/28 23:17
倭寇の末裔

 いやぁ、もう今年も残すところあと三日ですか。なんか今年は特に早く過ぎ去った気がしてます。

>退官した元海上保安官さん
 ご紹介の書籍については全く知らなかったのですが、その、現在の漁民とかつての「倭寇」を重ね合わせる視点はなかなかに興味をそそられるものがありました。僕自身、かなりそういう問題意識を抱いて倭寇研究をしているもんですからね。
 その本の主張を全面的に肯定派しないですが、ひとつの見方としては面白いと、まず思いました。僕の専攻研究テーマは主に後期倭寇なのですが、その構成員は中国人も日本人も様々なでありまして、さらにいえば中国人・日本人の中でもさらにいろんな出身があり帰属集団があります。特に僕が後期倭寇の「主力」として注目したのは福建の沿海住民、および浙江省の島嶼部の住民たちなんですよね。これらをいっしょくたにするのも危険なんですが、これら海民たちが王朝国家とは別の帰属意識というか、彼らなりの論理で国境も越えて動いていたんじゃないかと。だから明朝も清朝も彼らの強制移住や統制に乗り出すんじゃないのかな、と。豊臣政権による海賊禁止令もこれに呼応するものとみることもできるかと。

 かつて中国から「偽装難民」として実質出稼ぎの人が大勢来たもんですが(今やホントに昔話になったなぁ)、あれも福建出身者が圧倒的に多くて、僕はあれを「現代における倭寇的状況」などと呼んでいたもんです。最近のサンゴ密漁騒動なんかにも似たものを感じましたね。また、最近の日本の沖合・遠洋の漁業船に東アジアから東南アジアまで多民族混成状態になってるのを見ていても何やら「倭寇の末裔」のようなものを感じてしまいます。

 もう十数年まですが、瀬戸内海のある島に行ったら全くの過疎地の小さな船着き場にハングルの歓迎看板がかかっていて、ちょっとしたカルチャーショックを受けたことがあります。日韓ワールドカップが近かったからかもしれないですが、なんかさらに前から立ってた雰囲気なんですよね。
 その島の戦前までの写真集を眺めていたら、船(家舟)に居住する「海上生活者」の生活ぶりがたくさん写ってまして…これなんか、僕は明代沿海部の海上生活者とソックリだ、と思ったものです。戦前か戦後しばらくまではこうした瀬戸内海の船上生活者たちが朝鮮半島あたりまで繰り出して漁をしていた、って話なんですよ。それが船着き場のハングル看板と妙にかぶりまして。
 室町時代に朝鮮から京都にやってきた使者が詳しい旅行記を残していますが、彼ら瀬戸内海航行中に海賊と遭遇するんですね。それも最初は海賊と分からない。朝鮮語で親しく話しかけて来るんですが、夜になってこっそり通訳が彼らの様子をうかがうと彼らが海賊であることがわかる、という場面がありまして、これもまた実に興味深い話です。あと、この外交使節は朝鮮の対馬侵攻「応永の外寇」の外交処理のために来日したのですが、この外寇も幕府に正式な報告が届く前に京都では「噂」が広がっていたそうで、これ、どういうルートで話が伝わるんだ、と不思議に思ったものです。こういう海民たちの情報が早く伝わったんじゃないかなあ、などと考えてるところで。

 …とまぁ、思いつくところをとめどもなく書いてしまいましたが、さすがに今この現代において中世の昔のような倭寇的状況がそのまんまあるわけではないと思ってます。それでいて一方でそうした近代国家的な枠組みではとらえられない人間集団の存在、同行というのも押さえておかないと現代を正確に見ることはできないのではないかな、とも考えてます。
 …倭寇の「プロ」とまで言われてしまうと、長らく当サイトの倭寇関連コンテンツがほったらかしになってるのが恥ずかしい限りで。一応これが「本職」のつもりなんですけどねぇ。倭寇を語らせて右端に立たせたら僕の右に出る者はいるまい、という自負はあるんですがね(笑)。


>つねさん
 まぁ僕は英語も仏語も漢文も基本的に「読む」ほうだけがなんとか、ってところでして。ただ大学で仏語を選択した理由は明らかに「ルパンを原文で読みたい」という目的があったためで、なんだかんだで今も役に立って舞う(笑)。
 ルパンについて翻訳の間違いに気づく例があったのは、訳者によってえらく意味が違う文になっていたケースです。なんでこんなに違うんだ、と原文をあたってみると明らかに間違い、という場合があるのです。あと、訳者がフランスの歴史に疎い人だとまるっきり間違えたことを書いちゃったりするケースもありましたね。英米の推理小説翻訳では武器関係とか警察事情に疎い訳者だと誤訳が多くなる、という本も読んだことがあります。

 同じ作品でも翻訳によってずいぶん味が違う、というのはありますね。で、だいたい自分が最初に読んだ訳文がいちばんしっくりきてしまうもの(刷り込みですな)。ルパンの翻訳でもルパンの乳母のビクトワールがルパンに対して「ぼっちゃま」と召使風に話すのと「ぼうや」とため口で話すのとがあり、原語は「モン・プチ」なんで、どちらが正解とも言いにくく、これでだいぶ味わいが変わります(僕はため口派)。
 三国志演義でも、僕は最初に読んだのが岩波少年文庫版でしたからねぇ。あれは岩波文庫の小川環樹訳をベースに児童向けに直した者なので、今でも僕は小川訳文のほうがしっくりきています。それでいて我が家にあるのは立間祥介訳の徳間文庫版です。理由は表紙が「人形劇・三国志」の人形たちだったからで(最終巻では番組では登場しなかった司馬炎らの人形まである)。
 立間訳文では冒頭の詩の「都付笑談中」を「いまはむかしのかたりぐさ」と綺麗に大和言葉で訳してるのが大好きでした。


>バラージさん
 なに?シモン=ボリバルの映画が最近作られてたんですか!こりゃ何とかチェックしないと。



#10665 
退官した元海上保安官 2017/12/27 23:29
管理人さまに訊くのですが


お久しぶりです。
安田峰俊氏の「知中論」(星海社新書)を読みました。
倭寇に関わる話が出てくるので、管理人様に御質問を致したく投稿を致します。
著者は海上保安庁と中国漁民との衝突について、かくの如く説明しております。私は眼から鱗でした。
尖閣諸島周辺の海域に於いて我々と衝突する中国の漁師は倭寇の拠点地の出身の海民であると。
もともと尖閣周辺の海域は、我が国の漁師も、台湾の漁師も、中国の漁師も出漁する「俺の海」であると。
倭寇は中国も我が国も参加する運動であり、国境を越えた海民の領域であったと。
そして倭寇の(ある意味で)末裔である彼らは、械闘と言われる、国家に頼らずに自力救済を旨とする実力行使の文化があると。
我々に衝突して妨害してきた漁民は、北京政府の焚き付けがあったにせよ、自律的な行動であったと言うのです。彼らは武辺な文化を持つので、
我々の警告に対して、……
保安庁の警告を、「よくわからない言葉でガーガー言ってる。ここで引き下がるならメンツが立たない。一発、舟を編むブツけて男を立てよう!」のような意識であったろうと論じております。
そのような実力行使の文化が倭寇の末裔の中国人にはあり、その結果なのだろうとの意見は眼から鱗でした。
退官して思います。
私は今、中世の歴史に興味がありますが、国家の前に社会があるのではないかと。
中国の漁民たちが文化として乱暴でも、そのように自分たちの生活を守る為に乱暴してきた…というのは、我が国の武士の成立にも似てると思うのです。
一概に彼らの蛮勇を否定できないのでは?
それを煽っておるのは、残念ながら我が国と北京政府の
政治的利害であると。
ほんとうはローカルな部分も含めて推察しないと、歴史的な意味も含めて評価するべきでは?
かように感じたのであります。
貴兄は歴史のプロフェッショナルであり、倭寇のプロフェッショナルであると知ります。
ご意見を賜れないでしょうか。



#10664 
バラージ 2017/12/24 21:48
おんな足軽 唯之助

 映画感想は1回休み。

 大河ドラマ『おんな城主 直虎』が終わりました。僕は毎年のことながら早い段階で脱落したんですが、家族がなぜか毎週観てたんで付き合いで半分くらいは観ることに。終盤は直虎よりも今を時めく菅田将暉演じる成人した万千代(最終回で井伊直政となる)が主役みたいになってましたが、そうなってからのほうが意外と面白かったですね。築山殿が結構大きな役のようだったんで(これまた今を時めく菜々緒さんでしたし)、信康切腹事件がどう描かれるかちょっと興味を持ってたんですが、やはり信長が悪者という展開でした。まあ井伊が主人公じゃ家康を悪者にするわけにはいかないでしょうしね。近年の研究では家康と信康の親子間の権力闘争とする説もあったりするんですが(実際、信長の命令でってのは無理があるような気がする)。最終回も意外といいまとめ方でした。とはいえ毎週観たくなる面白さとは言えませんでしたが。
 『西郷(せご)どん』の予告もやってましたが、幕末だからあんまり興味なかったのに予告を観ちゃうと豪華キャストでちょっと面白そうとついつい思っちゃいますね(笑)。やっぱり明らかに『篤姫』を意識してるよなぁ。まあ、でも結局は観ないと思うけど。

 NHK時代劇『アシガール』も終了。個人的にはこっちのドラマのほうがずっと面白かったです。前にも書いたとおり、戦国時代にタイムトラベルした女子高生・速川唯がひとめぼれした若殿を助けるために唯之助という名の足軽になって奮闘するというコメディで、全員架空の人物の架空の物語なんですが、あくまで「時代劇」だけあって戦国時代の所作や生活描写などを非常に細やかに描いているのが興味深かったです。能天気コメディで難しいこと考えずに気楽に楽しめるのも良いし、なんといっても主演の黒島結菜ちゃんが好演。戦国時代に迷い込んだ現代っ子をナチュラルに演じていて、演技上手いな〜と感心しました。そういや大河『花燃ゆ』にも出てたっけ。

>甘粕正彦と川島芳子
 僕は『ラストエンペラー』を観る以前にフジテレビの2夜連続スペシャルドラマ『さよなら李香蘭』(原作は山口淑子の自伝『李香蘭 私の半生』)を観てまして、そちらにも甘粕と川島が主人公の李香蘭に絡む重要人物として出てきたんですが、2人の絡みは全くなかったんで『ラストエンペラー』の2人には違和感が強かったんですよね。実際2人にはあまり接点がなかったようですし。甘粕と川島の密通も、別にそういうフィクションがあってもいいんだけど、映画の中であまり効果的になってないというか、正直意味不明な部分なんだよなあ。
 山口さんの自伝によると、甘粕が青酸カリを飲んで服毒自殺したとき、内田吐夢が甘粕の口に塩を含ませ足を上にして吐かせようとしたそうで、『さよなら李香蘭』でもその場面が描かれてました。ドラマでは甘粕を片岡鶴太郎が、川島を山田邦子が演じており、2人ともなかなかの好演でしたね。ドラマ自体も面白かったです。

>陸遜流罪?
 僕も陸遜が流罪になったという認識はなく、孫権に譴責の手紙を送られて憤死したというように記憶してました。僕は最初に読んだ守屋洋『「三国志」の人物学』の印象が強く、その次の徳間書店『三国志』も印象に残ってて、こちらも守屋さんが翻訳に参加してます。ちょっと調べると徳間版では流罪とはなってないんですね。ということはおそらく『〜人物学』もなってなかったはず。だからそういう印象がなかったんでしょう。高島俊男の『三国志 きらめく群像』もやはり流罪ではないし、陳舜臣『中国の歴史』も多分そうだったんじゃないかな。逆にちくま文庫『正史 三国志』の陸遜伝は僕はあんまり読んでなかったってことですね(笑)。

>史点
 高須院長は今年夏にNHKで731部隊のドキュメンタリーやってた時も、「あんなのは嘘っぱちだ。私は医学の先輩から聞いているので知っている」みたいなことをツイートしてましたね。僕はずっと変なCM流してる自己顕示欲の強い変人ぐらいに思ってたんですが、ここ1年ぐらいでそういう人だと知りました。
 トランプさんは似た者同士のフィリピンのドゥテルテ大統領とはやっぱり妙に気が合うようで。あとプーチン大統領がCIAに感謝の意を表したなんてニュースも出てましたな。

>未見映画
『大刺客』……中国の戦国時代の聶政を題材とした香港のアクション時代劇映画。チャン・ツェー(張徹)監督、ジミー・ウォング主演の1967年作品。
『リベレイター 南米一の英雄シモン・ボリバル』……シモン・ボリバルの半生を描いたベネズエラ・スペイン合作映画。2014年の第11回ラテンビート映画祭では『解放者ボリバル』の邦題で上映。



#10663 
つね 2017/12/24 14:35
翻訳

とは言っても、私は外国語はさっぱりなのですが。恐らく漢文、英語、仏語を操れるであろう(少なくとも読みこなせる)管理人さんが羨ましい・・・。

陸遜の流罪についての誤訳が最初に話題になったのは、以下の掲示板だろうと思います。
http://cte.main.jp/c-board.cgi?cmd=ntr;tree=689;id=

ここでは、一度読み下し文にしてから日本語にするという作業手順だったのではという推測がなされてます。この作業手順だと読み下し文にした時点で流罪にされた対象が不明確になってしまうそうで。
この作業手順は、もともとドイツ語やフランス語だったのを、英語に翻訳されたのをさらに日本語にするようなものでしょうか。昔の翻訳界が狭かった時代にはそういうことも多かったようで、ルパンもそんな指摘があったような。

翻訳というのは、単に横のものを縦のものにするだけではなく、いかにその雰囲気まで醸し出せるかというのに技量が問われているような気がします。私は最初に書いたように日本語しか分からないのですが、それでも複数あれば訳本を読み比べることもあります。サン・テグジュペリの「星の王子さま」とか。でも最初に読んだのが一番印象深くなってしまうのか岩波の内藤版がしっくりきてしまいます。「王子さま」も「誤訳」といえば誤訳というのを聞いているのですが。
あとエドマンド・バークの「フランス革命の省察」なんかはみすず書房版が名訳。岩波版は、本来、「経験を経た人間が若者に諭す」という書簡形式で書かれているというのを無視して論文形式(である調)で訳しているのがいただけない。

そういえば大学受験のとき、英語で長文和訳を問題に出すところがあり、当時の三大予備校なんかは解答速報なんかを出すのですが「意訳のS台、直訳のK合、誤訳のYゼミ」と並び称されていました。



#10662 
徹夜城(運転免許更新もSW新作鑑賞も済ませた管理人) 2017/12/21 21:20
またご無沙汰しちゃいました

管理人のくせにしばしばご無沙汰になってしまってすいません。ここ一か月以上書き込んでませんでしたし、「史点」ほかいろいろ遅れてしまってます。一昨日「史点」をようやくアップしてますが、昨年暮れも似たような遅延をやっておりましたね。


>歴史教科書の人物削除提案
 つねさんがお書きになってた話題。実は「史点」候補でもあったんですが、ズルズル執筆が遅れるうちに他のネタと交代になってしまいました。そんなわけでだいぶ時季外れな話題になっちゃいますが、思ってるところなぞ。

 僕も受験産業に関わる身なので、受験用の歴史勉強が「とにかく大量の暗記」になってしまうことに懸念を感じてはいます。僕は最近は大学受験関係はタッチしておらず高校受験レベルがもっぱらなのですが、中学の歴史でも覚える項目は膨大なんですよね。これが高校の世界史・日本史となるとさらに膨大になってしまう。そして教科書記述も授業もそれら大量の情報を無味乾燥に覚えていくだけで「教養」にすらならないのでは、と思うところはあり、今回の大幅削除提案については「わからなくもない」とは思うんです。本格的に歴史の道に進む瞳はそもそも暗記はあまり意味がないと思ってますし、歴史のお勉強なんてそれきりの人にはなおさらで、細かい人名など固有名詞覚えるよりは社会構造の変化とか大きな「流れ」を考えるような歴史教育の方が望ましくはあるのです。究極のところを言うと、歴史を学ぶのって「なぜ今の世の中はこうなっているのか」に行きつくと思ってますし。
 趣味としてより詳しく人名や制度なんかを知りたいって人は趣味でやるのがベストだろうな、とも考えます。

 その一方で「入試」という制度の上でやる以上、実のところ暗記から逃れることはできないのではないかな、とも思うのです。中国の科挙の昔からそうですし。暗記ではなく「考えさせる」というお勉強法・入試問題も流行りではあるのですが、歴史においてはそうした問題もなかなか作りにくい。今度の件もあくまで「数を減らせ」ということであって、結局は暗記地獄が暗記三途の川くらいになる程度ではないかなぁ、とも。
 また、あの提案で「坂本龍馬」を筆頭に「削除していい人」をわざわざリストアップしたのもいささか意地悪な意図を感じなくもなかったです。龍馬は大人気人物ではありますが司馬遼太郎の小説とそこから派生したさまざまなメディアの影響大で、ロマンチシズムから離れて冷徹に見ると結局何をしたのか、扱いに困る人ではありまして、小説イメージ的な龍馬像の流布(なにせ幕末維新最大の立役者ってことになってます)を苦々しく見てる特に専門の歴史研究者からは「げにも」という声が結構あったみたいです。また龍馬という目立つ看板を先頭に出すことで衆目を引き付けようという提案者たちの狙いもあるでしょう(実際狙いとしては大成功)。

 龍馬以外でも武田信玄・上杉謙信のような「所詮地方の戦国大名」と言われちゃう人たちも挙げられましたし、吉田松陰も彼個人が特に歴史的に意義あることをしたのか、と言われればまぁ…というところはあります。でも、こういう議論って結局人物の選別作業・一方的な評価格付けということになってしまって、正直なところ僕は不愉快でした。南北朝時代でも楠木正成らがカットで、ちとその辺に政治的意図を感じなくもなかったですし。
 でも今回やり玉にあがった人たちって、僕は中学生相手の授業で全員教えてるんですよねぇ。雑学込みで(笑)。大学受験とは全く関係ないところでそうした歴史知識を植え付けること自体は可能なわけです。高校の日本史のこの手の話題でいつも思うんですが、中学レベルで歴史はかなり詳細にやってるというのを知らない人が結構多い。あと、「学校の歴史授業は明治あたりで終わってしまう」という誤解もまだネット上あちこちで見かけます。現場を全然知らんで歴史教育ぶちあげてる人って多いんですよねぇ。


>ちくま「正史三国志」問題
 これもつねさんがお書きの話題。我が家にもちくま学芸文庫版の全巻がそろっていて、たまにチョコチョコ拾い読みすることはありますが、じっくり深入りして読んだことはまだないんです。
 これ、日本の三国志ファンにとって演義ではない「正史」に手軽に触れられる非常に貴重な存在ではあるのですが、「誤訳が多い」との指摘はだいぶ前から聞いてます。今度のつねさんの書き込みを読んでからネット上でちょっと検索してみたら、あちこちで「誤訳集」がまとめられてますね。
 「陸遜の流刑」の話は僕はとんと知らなかったのですが、原文読んでみて「それはないだろ」と率直に思いました。素直に読めばそうとしか読めない。一応漢文素読訓練自体は僕も最低限やってますが、かえってそれで素直に読めたのかもしれません。ま、僕が日頃読むのは明清時代のものなんで、ああいう古代の文章は「読みにくいなぁ」とぼやくんですけど。特に「三国志」本文は簡潔さが目立つんで、つい深読みしちゃうのかも。
 僕が大学院時代に恩師が口にしていたのが、「亡」した兵が〇〇人、という本文を「〇〇人の兵士が死亡した」と訳した箇所があるが、あれは「逃亡」のことだろ、というものでした。正確な本文は確認してませんが「亡」を「死んだ」と直接的に表現する例は僕もないんじゃないかと思いました。ただこの件、誤訳まとめサイトでも出てなかったので、見落とされてるのか、それとも恩師の記憶違いで別の資料の話なのか。
 中国史に限らず、日本語訳史料って結構怖いんですよ。専門研究者たちだって暇じゃないですから教え子たちにざっと下訳させて監修する、ってケースも少なくないようでして、それがときどき素人同然の誤訳が刊本に残ってしまう原因となると聞いてます。そうした「翻訳史料」をもとにして歴史小説とか書かれちゃうと、さらに誤解が広がってしまうと。宮城谷さんもさすがに原文までは読んでないんだなぁ。
 「怪盗ルパンの館」の作業を通して数多くのルパン訳本と原文の照らし合わせ作業をしましたが、ここでもプロが結構誤訳しちゃう、という実例がありました。ホント、一般読者はそこまでしませんから誤訳されるとそのまま受け取るしかなく、怖いものだなぁ、と思う次第。


>バラージさん
 いつもいろいろ情報、感想どうもです。歴史映像ネタは先を越される例も多くて焦ります(笑)。

 「ラストエンペラー」ですが、僕はテレビ放送時に初めて見たんで、全部日本語吹き替えだったんですね。坂本龍一の声は本人があててまして、「アジアは我々bのものだー!」のセリフが裏返ってしまっていたのが印象的(笑)。映画的にわかりやすくしてるんでしょうが、日本人、あんなストレートに言いませんよねぇ。溥儀の自伝では甘粕のことに触れてはいますけどあまり接点はなかったようです。ベルトリッチ監督が甘粕に注目したのは元憲兵隊というのもありますが「映画関係者」であることも大きいのではないかと・
 映画では玉音放送聞きながら拳銃自殺した甘粕ですが、実際には服毒自殺。で、その死に逝く甘粕の身体を抱いて支えていたのが内田吐夢監督であった、というのは映画以上に映画みたいな史実です。
 あと「ラストエンペラー」といえば当時サントラCDに同封されていた出演者リストみると中国系の俳優が昭和天皇(ヒロヒト)にキャスティングされています。実際の映画には残らなかったものの、おそらく日本を訪問して昭和天皇と会話するシーンくらい撮っていたのだと
思われます。当時昭和天皇はまだ存命でした。それを言ったら溥傑さんもですね。

 東映アニメの「三国志」三部作ですが、僕も第二部まで劇場公開で第三部はビデオのみだったと思ってそういう記述をしたこともあるんですが、一応劇場公開はしていたようです。ビデオレンタルの売り上げアップに「劇場公開作品」とあると効き目があるのだそうで、それを狙って単館レベルでちょこっと劇場公開するという例がいくつかあったようで、たぶんこれもそうだったんでしょう。曹操役が渡哲也から弟の渡瀬恒彦に代わってしまうのはそのせいかどうか知りませんが…
 



#10661 
バラージ 2017/12/16 20:20
名画座作品感想編 東アジア史A

 名画座掲載映画の感想、東アジア史編第2回。今回は80年代末〜90年代初めの映画です。僕が映画という趣味にハマりだして、広くいろんな映画を観るようになった時期に当たります。

『孫文』
 映画館で観ました。オリジナルは170分で日本公開版は50分以上カットした113分とのこと(ビデオ・DVDも日本公開版のみ)。なるほどそれで話の流れがちょっとわかりにくかったのか。確かに日本のシーンがやたら長く、そこばっかり印象に残ってて、中国のシーンはさっぱり記憶にないんですよね。ただそれを抜きにしても、なんだか偉人伝みたいな、それこそ学習マンガのような伝記映画で少々退屈だった記憶があります。あと、最後のほうに毛沢東と蒋介石がチラッと出てきた時は、客席からどよめきとも笑いがちょっと起こったことを覚えています。僕も「おぉ」と思っちゃいました。
 前記の通り僕はこの頃から映画にハマりはじめ、中国映画もこれ以前にチャン・イーモウの初監督作『紅いコーリャン』を観て、その鮮烈な映像感覚・色彩美と寓話的なストーリーテリングに強い衝撃を受けた頃でした。そのような中国第五世代の衝撃作に比べると(あるいはそれ以前から観てたジャッキー・チェンやブルース・リーなど香港映画と比べても)、この映画はほんと記録映画みたいに無味乾燥な映画でどうにもいまいちでしたね。

『ラストエンペラー』
 ビデオで観ました。劇場公開版と同じ163分版で、後にビデオで出たオリジナル全長版は未見。DVDは両バージョンともあるようです。アカデミー賞最多9部門受賞で話題になった映画ですが、傅儀という人物にあまり興味がわかず、また欧米映画ということもあっていまいち観る気が起きませんでした。しかしテレビかビデオで『イヤー・オブ・ザ・ドラゴン』を観て、ジョン・ローンのあまりのかっこよさに「じゃあこの映画も観てみるか」と観賞。
 観た感想としては今一つ薄味な映画だなぁと。まず全編英語ってところが吹替版を観てるみたいで、どうも感情移入が妨げられます。またわかりにくさを避けるためでしょうが、甘粕1人が日本の勢力で突出して描かれ関東軍の影がやたら薄いのも気になります。また甘粕と川島芳子が密通してるかのような描写も意味不明(全長版だともう少し詳細な描写があるのかな?)。全体的に西洋人(欧米人)から見たエキゾチシズム、オリエンタリズム趣味の濃厚な作品で、当初は甘粕が切腹自殺する設定だったとか。強い違和感を感じた坂本龍一が進言して拳銃自殺に変更された(史実では青酸カリによる服毒自殺)そうですが、女優の顔立ちなんかも明らかに欧米人好みというかジョアン・チェンとビビアン・ウーの顔が似ててちょっと見分けづらかったですね。
 なんか悪いところばかり書いちゃいましたが、つまらない映画というわけではありません。世界初の紫禁城ロケを含めた壮大で華麗な美術は目を見張るし、傅儀の孤独と哀感を表現したローンはやはり好演(さすがに『イヤー〜』と比べたら落ちるけど)。ただ、肝心のストーリーが前記の通りどうも薄味に感じちゃいました。

『三国志 大いなる飛翔』
 映画館で観ました。三国志を本場中国が映画化と聞いて期待して観に行ったんですが、今までに映画館で観た映画の中でワースト5に入る駄作でした。とにかくカットはひどいし、展開がかなりのダイジェストだし(日本公開版はオリジナルから1時間以上カットしてるとのことなんで仕方ないかもしれんけど)、役者の演技も京劇風のクサいオーバーアクション。赤壁の戦いも本物の船を燃やして予算をかけてるのはわかるけど、カットや演出のひどさで迫力も何もない代物になってます。
 なお僕はずっと邦題を『三国志 第一部 大いなる飛翔』だと思ってたんですが、映画サイトによって「第一部」が入ってたり入ってなかったりします。画像検索するとチラシやパンフではただの『三国志』、前売り券や別バージョンのチラシでは『三国志 大いなる飛翔』でどうも邦題に揺れがあるようで。ビデオになったら再びただの『三国志』になり、『レッドクリフ』による三国志ブームで関連DVDが大量に出た時に『三国志 武将列伝』の邦題でこっそりDVD化されてました(レンタル店で見かけたけど本作のDVD化だとは気づかなかった)。また各種映画サイトでは日本公開版の上映時間をDVDと同じ130分としており、約20年前の映画データブックでもやはり130分。ビデオも130分のようで140分とする情報は見つからないので、130分が正しいのではないでしょうか? あと原題も各種映画サイト、約20年前の映画データブック共に『三國志』となっており、後述する中国のネット情報でもやはり『三國志』なのでそちらが正しいと思われます。
 そういや第2部は作られたのかが気になり、総監督の「楊吉友」で検索してみるといくつか面白いことがわかりました(ちなみに他の監督や俳優で検索しても何もわからず)。まず楊吉友の監督作の中に第2部と思われるものはありませんし、そもそも本作以後に監督した映画がないようです(楊吉友氏は95年に死去)。一応他の人が監督した可能性もあるんで、第2部は作られなかったと断言まではできませんが。また楊吉友は本作と同年か前年に『関公』(または『三國志 関公』)という映画を監督してるという情報があったんですが、調べてみると『関公』のキャストはなぜか『大いなる飛翔』と全くいっしょ。場面写真を見ても同じ作品のようなんで関羽を主人公とした別編集バージョンなのかと思ったんですが、ストーリーがこれまたなぜか普通の三国志そのまんま(赤壁後の、周瑜が劉備暗殺を謀り失敗するあたりまで)。『大いなる飛翔』と同じ映画じゃないかと思うんですが、このあたり本場中国でもなにやら混乱があるようです。
 あと、楊吉友の監督作に『松贊干布』(別題『西蔵之王』)という映画があり、これはひょっとしてと思ったら、やはり名画座にも載ってる『ザ・エンペラー 西蔵之王』のようでした。そういえば監督の「ヨン・カツ・ヤオ」という名前も「楊吉友」の中国語発音っぽい。なお、同作は日本ではビデオスルーだとてっきり思ってたら劇場公開もされたようで、劇場公開邦題はただの『ザ・エンペラー』。「西蔵之王」という副題がついたのはビデオ邦題からのようです。

東映アニメ映画『三国志 第一部 英雄たちの夜明け』
 映画館で観ました。当時すでにどっぷり正史派だったんで、観るかどうか迷いつつも観に行ったんじゃないかと思います。やはりアニメやマンガの場合、絵柄に好き嫌いがあるのは避けられないと思いますが、このアニメの絵柄はいまいち好みじゃありませんでした。ストーリーも演義系なのは当然わかってましたが、妙に陳宮がフィーチャーされてその対比で曹操の悪辣さを強調する筋立ては、曹操好きとしてはやはり面白くありませんでしたね。呂布と陳宮が処刑されるくだりも、縄で絞め殺されるのに散々抵抗する呂布と、処刑場に堂々と向かう陳宮を延々追っかける曹操の描写がやたら長くて、くどいというかしつこい。というわけで第2部以降は観ませんでした。確か第3部はビデオスルーだったんじゃないかと思ったら、一応劇場公開されてるようなんで公開規模が縮小されたのかも。



#10660 
バラージ 2017/12/12 00:01
三国志など

>徳間書店『三国志』
 今になって調べると著者の方々には歴史学者ではなく中国文学者の方がほとんどですね。歴史というより国語の漢文に近いということなのかな。『論語』や『孫子』と同じコーナーにありましたし。確か同じ系統の『十八史略』や『史記』もありましたね。
 筑摩書房の全訳版『正史 三国志』については次回に書こうかと思ってましたが、ついでに書いちゃいますか。こちらは大学の図書館にあるのを見つけて初めて読みました。おお!と思って通い詰め、しまいにはあのでかくて重たい本を借りて持ち帰りアパートで読んだりもしましたねえ。確かに「呉書」は語訳が多かったのか、正誤表が挟み込まれてた(貼り付けられてたのかな?)記憶があります。後に出た文庫版を買いましたが、さすがに長大すぎて実は全部読んでおりません(笑)。特に「呉書」後半のマイナーな人たちで挫折。「魏書」も読んでないところがありますね。

>『ジパング深蒼海流』
 初回だけ読んだと書きましたが、その時は頼朝が主人公だったような。おお、頼朝主人公のマンガ!なんて思ったんですが、(徹夜城さん・つねさんの書き込みを見ると)結局は義経主人公になっちまったか。

>歴史教科書
 削除対象といったって掲載必須でなくなるってだけですからねえ。載せるなと言ってるわけじゃないんだし。また用語を減らすとなればまず人物となるのも当然。事物・事件の用語なしに人物を説明するのは困難なのに対して、逆は比較的容易ですからね(「プトレマイオス朝」という用語なしに「クレオパトラ」を説明するのは困難ですが、逆は容易)。楠木正成は削除対象となっても仕方がないかと。必須な人物とまでは言えないでしょうし、「悪党」という用語との関連でどうかってぐらいかな。



#10659 
つね 2017/12/10 00:47
三国志訳本

徳間書店の「三国志」は4巻「完結なき世界」と別巻「競いあう個性」のみ購入しており、今でも実家にあります。どうしてこんな買い方かというと、呉の陸遜という人物が好きで、その人が出てくるところだけ購入しました。三国志の翻訳というと全訳では筑摩書房が唯一ですが、なぜか呉書だけ発刊が大幅に遅れており(15年くらい空いたはず。こちらも今ではハードカバー全三巻が実家にあります。)、正史の陸遜を知ろうとすると徳間しかありませんでした。もっともそれほど期待していた量ではありませんでしたが。紀伝体を編年体に編集しなおしている点でも正史入門として優れていると思います。あと、筑摩は誤訳が多い。陸遜が晩年、流罪になったというのは筑摩の誤訳が発端というのはファンの間では有名。最近の宮城谷さんの小説でも、正史ベースとは言え、陸遜は最期、流罪になっていたからなあ。



#10658 
バラージ 2017/12/09 16:31
名画座作品感想編 東アジア史@

 以前、歴史映像名画座がリニューアルされた際に自分が昔観た掲載映画のミニ感想みたいなものを2〜3行ずつ書いたんですが、現在進行形で観た歴史映画の感想をちょくちょく書いてるうちにそれら掲載映画の感想ももう少しくわしく書きたくなりました。でも1回ある程度書いたのをまたもう1回書くのもなあと思い、じゃあちょっと趣向を変えて「映画の中の時代順(掲載順)」にではなく「自分が観た時代順(ある程度の製作順)」に感想を書いていこうかなと。映画の中の歴史的要素ばかりでなく、映画が作られた時代や状況というか個人的な観た時代や状況についても書いちゃうと思いますが、今となっては(特に20世紀の作品なんかは)それもある種の歴史ってことで許してください。映画ファンなんで映画そのもののこともいろいろ書きたいんすよ。
 というわけで、まずは東アジア史編@。先史時代編は観たものがなく、高校時代は世界史専攻だった者としては世界史のほうから行きたいのです。

『人形劇 三国志』
 ところどころ観たというか、ちょっとだけ観ました。いや、観たっていうよりテレビを付けたらやってたってほうが正確かな。その前後にやってた人形劇『プリンプリン物語』『ひげよさらば』なんかのほうが観た記憶は多いですね。『三国志』でなぜか覚えてるのは、紳々と竜々が酒屋を開き張飛がそこの常連客になるという本筋とはあんまり関係ないシーンぐらい。あと調べると董卓が知恵の輪好きというオリジナル設定があったようで、そう言われるとそんなシーンの記憶もあります(再放送とかで観たのかも)。『プリンプリン〜』までの人形劇はテープが残ってない回があるそうで、『三国志』も危なかったですね。そういや思い出したんですが、放送開始前にNHK(集金の人?)から人形のシールをもらって机かどっかに貼った記憶があります。

 そもそも僕がいつ三国志好きになったかというとやや記憶が曖昧なんですが、最初にその名前を知ったのはボードシミュレーションゲームのバンダイifシリーズ『三国志』だったと思います。とはいえ買わなかったんでその時点で知ったのは名前だけ。祖父が買った吉川英治全集が家にあったんですが読まなかったし、横山光輝『三国志』もなぜか第6巻だけ家にあってこちらは読んだけどハマらず。ただ本宮ひろ志『天地を喰らう』をリアルタイムで読んだ時にこれは一般的な三国志と違うとわかってたんで(天界や魔界が出てくるあたりは当然として、人間界の話でも貂蝉が呂布の妹とか、孫堅が呂布に討ち取られるとか)、それ以前に三国志に触れてたのは確かなんですよね。ひょっとしたら横山三国志を立ち読みで多少は読んでたのかもしれません。そういや思い出したんですが、横山三国志の別巻みたいなコミックスは読んだ記憶がありました。調べると『横山光輝三国志事典』『三国志おもしろゼミナール』というやつのようで。
 僕が三国志にハマったのは、PHP文庫の守屋洋『「三国志」の人物学』を読んだのがきっかけです。今になって考えるとサラリーマン向けの人生訓本の一種と言えるんでしょうが、正史(『後漢書』や『晋書』含む)を基に三国志の代表的人物たちを列伝式に紹介していくこの本は正史系の入門書として最適だったように思います。僕はこの本で三国志に強く興味を持ち、曹操・周瑜・呂蒙なんかが好きになりました。そんなわけで以後も僕の三国志歴は徹底的に正史畑を歩んでいくことになります。ちなみに同時期にやはりPHP文庫で、日本の戦国時代を扱った『戦国の部課長』というサラリーマン向けの本(著者は忘れた)も読んで、こちらもまあまあ面白かったんですが三国志ほどにはハマりませんでしたね。

日本テレビアニメ『三国志』『三国志U 天翔ける英雄たち(あまかけるおとこたち)』
 ストーリーが普通の三国志とは全然違って、最初は「なんじゃこりゃ?」となったんですが(金髪の曹操が、自分は母が異人に犯されて産んだ子だと告白したところはたまげた)、それはそれとして作品としては意外に楽しめちゃいました。すでにこの頃どっぷり正史派だった僕は演義系判官贔屓の話が苦手で、演義系(吉川英治・横山光輝含む)の作品ならむしろこれくらい原典と変えてくれたほうが受け入れやすいんですよね。観た当時は于禁をほとんど知らなかったんで曹操配下の女武将の名前はその後ずっと記憶になく、于禁だったと知ったのはずいぶん後のことになります。よく「于禁が女になっている」と書かれてますが、そうではなく「架空の女武将の名前を実在の男性武将から借りた」というのが正しいでしょう(別に楽進でも張遼でも何でも良かったと思う)。周瑜は赤壁の戦いが終わってから登場し、関羽の死が描かれるのに呂蒙は登場しませんが、どうせ登場したって演義系の話ならロクな描かれ方しないだろうから別にいいや(笑)。

 この頃に僕が読んだ三国志本に徳間書店の箱入りハードカバー本『三国志』(全5巻+別巻)があります。これ知ってる人いるかなぁ。正史『三国志』『後漢書』『晋書』などから部分的に抜粋して原文・読み下し文・現代語訳を掲載し、それについての説明で後漢末から西晋による統一までの歴史を解説していくという歴史本で、学術書の中国古典コーナーに『論語』や『孫子』なんかと並んで置いてありました。1〜4巻「転形期の軌跡」「覇者の行動学」「自立への構想」「完結なき世界」で歴史の流れを描き、5巻「不服従の思想」で思想家や文学者を、別巻「競いあう個性」で技術者や女性たちを紹介し、人物小事典も掲載されています。正史の文章量はあまりに膨大で敷居が高すぎるし、かといって入門書では物足りないという人には最適なシリーズでしたが、箱入りハードカバーは当然ながらお値段のほうが初心者向けではなく、学生の僕は立ち読みでほぼ読破したのでした。
 また、この頃友達の誘いでボードシミュレーションゲームにハマり、ゲーム雑誌『タクテクス』も毎月買ってたんですが、その付録ゲームに『旌旗蔽空(せいきへいくう)』という三国志ゲームがありました。友達が買ったエポックの『三国志演義』に対してこちらは正史寄りのシミュレーションゲームで、面白くて遊びまくりましたね〜。大量の武将ユニットは名前を覚えるのに役立ちました。
 陳舜臣の小説『秘本三国志』を読んだのもこの頃。やはり正史寄りの小説で、これまたハマりました。非常に繊細な女性描写が多いのも僕好み。陳の『小説 十八史略』や史論『中国五千年』『中国の歴史』なんかも読んだなあ。

 なんか今回は三国志の話ばっかりになっちゃいましたが、次回からはきちんと映画の話になると思います。



#10657 
つね 2017/12/08 23:15
歴史教科書人物削除

半月ほど前のニュースですが、意外とここでは話題になってませんね。管理人さんは史点ネタと思っているかもしれませんが。

いろんな方がネットに意見を書いていますが、河合先生の記述が簡潔で要点を得ていそうです。
http://gendai.ismedia.jp/articles/-/53507
>30年前(1987年)の『日本史用語集』(山川出版社)には、約6400の用語が収録→現在(2017年)は約10700の用語。30年で4300もの新しい用語が追加。
>歴史的な出来事が起こった背景には、必ず原因や理由がある。

「歴史を現代から逆さからさかのぼって学ぶ」というのは、結果論から因果関係を評価するようになりそうで、どうかなあと思うところはありますが、私が受験生だったときは歴史は物語的に勉強してました。理系の世界史だったのですが、フランス革命〜ナポレオンあたりは年号は1789(フランス革命)、1804(ナポレオン即位)、1812(ロシア遠征)、1815(ナポレオン没落)くらいのみ覚えていて、その間の出来事をつないでいくような感覚です。(だから人名と作品名が並ぶ文化史なんかは苦手でした)

日本史はやっていなかったので、今の日本史教科書に載っているかどうかは分かりませんが、南北朝では楠木正成が削除対象とか。本人の事績はもしかしたら教科書レベルではないかもしれませんが、皇国史観のシンボルとして歴史に与えた影響は無視できないものがあると思うのですが。

なお河合先生は「坂本龍馬の削除は断固反対」のようですが、ここは「やむなし」では、と思っています。

ところで、私が使っていた用語事典では「ナポレオン(15)」というように、15の歴史教科書のうちいくつの教科書に掲載されているか丸数字で書かれていました。具体例は思い出せませんが、(14)や(13)という用語を見るたびに、「この用語が載っていない教科書はどんな教科書なんだろう」と思ったものです。よくコマーシャルで「歯医者さんの98%がプラーク・コントロールが大事だと答えています」と言ったりしますが、残り2%の歯医者さんのほうが気になったりするのと同じようなものです。



#10656 
バラージ 2017/12/03 11:57
映像作品における義経の奥さんの話 延長戦

>水師提督さん
 『人形劇 平家物語』についてはすっかり失念してました。俳優が演じた実写映画&テレビドラマしか頭になかったもんで。
 『人形劇平家』は吉川英治の『新・平家物語』が原作で僕は未見ですが、義経と静が幼なじみとか河越重頼の娘の名前が百合野というのは映画『静と義経』といっしょで原作通りのようです。百合野の扱いについて映画と人形劇のどちらが原作に近いかはわかりませんが、映画はあくまで静を主人公とする関係上前記のような展開にせざるを得なかったのかもしれません。
 平時忠の娘の名前は原作でも人形劇でも「夕花」のようで、大河のみ「夕顔」という名前のようです。大河においても、最終52話まで平時子が登場している(清盛は47話まで)ことからおそらく最終話が壇の浦の戦いだと思われるんで、人形劇同様に幼い頃だけの登場なのかもしれません(何話に登場したかは不明)。そうなると妻になる描写はないわけですが、静が登場しないことを考えるとそっちのほうが自然なんですよね。もともと情報源が個人サイトなんで妻になったというのも確実な情報とは言えないんです。

 ついでに義経は出てくるけど義経の奥さんは出てこない映画『虎の尾を踏む男たち』(これも未見)から連想した話。いわゆる安宅の関の話で、奥さんが出てこないことも古典だから特に疑問に感じなかったんですが、よく考えたら『義経記』では衣川で義経は妻(久我内大臣の娘という架空の人物)と最期を共にしてたような……。で、調べてみるとやはりその通り。じゃあ安宅の関ではどうしてたんだとこれまた調べると、女性たちは稚児に変装して義経の逃避行に同行してたという展開になっています。それが能の『安宅』になると女性がいなくなってしまうんですが、推測するに山伏に変装した義経が怪しいと関守に疑われる展開で女が化けた稚児がいっしょにいたら、そっちのほうが怪しく見えちゃう。言葉や文字ならごまかしがききますが実際に人間が演じる芝居となると、「どう見てもそっちのほうが怪しいだろ」となっちゃいます。そのため能では女性の存在はなくなったんじゃないかなぁと。
 ちなみに義経の妻(河越重頼の娘もしくは平時忠の娘)が出てきて安宅の関のエピソードもある映像作品は、大河『源義経』、新大型時代劇『武蔵坊弁慶』、TBS『源義経』、日テレ『源義経』、大河『義経』といったあたり。このうち『義経』は安宅以前に妻が退場しており、『武蔵坊弁慶』は安宅の回に妻役の山咲千里が出演していません。大河『源義経』は安宅の回に妻役の波乃九里子が出演してるようですが安宅のシーンにいたかは不明。TBS『源義経』、日テレ『源義経』も同様に安宅のシーンに妻がいたかは不明です。

>最近観た歴史関連映画
『千年医師物語 ペルシアの彼方へ』
 世界で2000万部も売れた米国の小説シリーズの第1部を映画化したドイツ映画。11世紀のイングランドの貧しい青年が医学の道を求めてペルシアのイスファハンに行き、世界最高の医学者イブン・シーナに弟子入りするという話ですが、内容はほぼフィクションで史実と異なる部分も多く史劇というより時代劇。最後のほうでイスファハンがセルジューク軍に占領されるんですが、調べてみると史実でブワイフ朝が支配していたイスファハンが陥落したのはイブン・シーナの死から数十年後のこと。劇中ではイスファハンの王朝名については触れておらず、セルジューク軍も王朝というより部族みたいな描かれ方でした。まあ娯楽時代劇と考えればそれほど目くじら立てるようなことではありませんが。
 壮大なスケールの大作で映画としてはなかなか面白く、各宗教にも配慮した内容ではあるものの、あくまで欧米というフィルターを通したイスラム世界という感じ。イスファハンの世俗的君主と対立するイスラム宗教勢力が、なんだか現代イランのイスラム原理主義みたいなのはちょっと気になりましたね。



#10655 
水師提督 2017/11/29 08:33
人形劇「平家物語」の義経妻妾

バラージさんは、ドラマ以外は外したのかもしれませんが。

NHKの人形劇「平家物語」では、平時忠の娘、河越重頼の娘、静御前が3人とも登場しています。
出番は、圧倒的に静御前が多く、義経の幼馴染みという設定でした。「うつぼ」と混ぜている感じですね。
河越重頼の娘も、静御前と理解し合って、屋島合戦に出征する義経を静と一緒に見送るシーンが描かれています。

人形劇版は、壇ノ浦合戦の後、義経の最期まで「超高速」(数分)で終わってしまいましたので、平時忠の娘との結婚は省略されていましたが、無名時代の義経と出会い、思いを寄せていたという描写があり、伏線は張っていました。
当初の予定では、義経没落編も扱う予定だったものの、カットされたのかもしれません。



#10654 
バラージ 2017/11/25 22:54
映像作品における義経の妻妾たちA

 映像作品における義経の奥さんたちの話パート2。今回もほぼ未見、原作未読です。すいません。今回でおしまい。

 まず義経を主人公とした映像作品には、前回紹介した他に1962年の東映映画『源九郎義経』があります。オリジナル作ですが、描いているのが義経の奥州滞在時から西海へ平家討伐に向かうまでという、なぜか前回紹介した『続源義経』と全くいっしょ。ただ内容は多少違っており、登場するヒロインは静御前のみ。ソフト化はされておらず、フィルムも現存するか不明。
 またテレビドラマだと1990年のTBS大型時代劇『源義経』があり、こちらもオリジナル作品。静御前と河越重頼の娘(名前は扇御前)が登場します。とはいえこのドラマ、なかなかトンデモのようで名画座にある通り義経は最後まで死なないし、奥州まで追いかけてきた静と再会してめでたしめでたしで終わるんだとか。となると扇御前はその場面に邪魔だよなぁ。やっぱり途中で鎌倉に帰されちゃうんでしょうか? 扇御前役は有森也実。

 2度目の源平大河は1972年の吉川英治原作『新・平家物語』ですが、『新・平家』はそれ以前に大映で映画化されていて、その3作目である1956年の『新・平家物語 静と義経』に静御前と河越重頼の娘(名前は百合野)が登場するようです。静と義経が幼なじみだったり、妻は静だけだと義経が鎌倉から嫁に来た百合野を拒否し、最終的に頼朝と手切れになると鎌倉に帰しちゃうあたり、2005年の大河『義経』は明らかにこの映画(もしくは吉川の原作)から展開をいただいちゃってるようですね。
 大河の『新・平家物語』では、主人公の清盛と平家に描写を絞ったためか静も河越重頼の娘も登場せず、逆に映画では出てこなかった平時忠の娘(名前は夕顔)が登場して義経の妻になるらしいんですが、総集編には出てきませんでした。
 時忠の娘が出てくる映像作品は他に1938年の『静御前』という映画があるらしく、主人公の静御前の他に「大納言時忠の娘」が出てきます。内容などは不明。フィルムも現存しないんじゃないでしょうか。一方、吉屋信子原作の1971〜72年の朝日放送の連ドラ『女人平家』では、義経と静は出てくるものの時忠の娘は出てこないようです(BS11だか12で放送してましたね。観てないけど。よくテープが残ってたなあ)。2012年の大河ドラマ『平清盛』でも時忠の娘は登場しませんでしたね。どうも時忠の娘が登場した映像作品は大河『新・平家』が今のところ最後のようです。

 3度目の源平大河は1979年の『草燃える』。原作は永井路子の『北条政子』『炎環』、史論エッセイ『つわものの賦』など複数の著作で、静御前と河越重頼の娘(名前は小菊)が出てきます。ただ総集編では静は出てきてたけど小菊は出てきた記憶がないなぁ。調べてみると義経が都落ちしたあたりから死ぬまでの2話にしか出てないようです。実はこのドラマでは義経が死ぬシーンは直接的には描かれてないんですよね(そもそも奥州藤原氏が出てこない)。
 また永井の『北条政子』はそれ以前の1970年にNET(現テレビ朝日)で連ドラ化されており、そちらは頼朝の死までしか描かれないそうですが、『草燃える』同様に静と小菊が出てくるとのこと。これもテープは残ってないと思われます。

 続いて富田常雄原作の1986年のNHK新大型時代劇『武蔵坊弁慶』。やはり静御前と河越重頼の娘(名前は若の前)が登場。若の前の出番は結構多く、ちゃんと義経といっしょに平泉まで行く史実通りの展開のようです。登場話数を見ると序盤から登場する静に比べて後半からの登場ですが、その後はそれこそWヒロイン状態かも……ってそもそもヒロインは弁慶の恋人の玉虫か。若の前役は山咲千里。
 富田『弁慶』もそれ以前の1965年に日テレで『弁慶』の題で連ドラ化されてますが、内容の詳細は不明でテープも残ってないでしょう。また後の1997年にはテレ朝でやはり『弁慶』の題で単発ドラマになってますが、これもソフト化されてません。出てくる義経の妻妾は静御前のみのようです。静役は雛形あきこ。

 4度目の源平大河が1993〜94年の『炎立つ』第3部。原作は高橋克彦の書き下ろしですが執筆が遅れ、第2部中盤からはほぼ脚本の中島丈博のオリジナルとなりました。登場する義経の妻はおそらく河越重頼の娘だと思われるんですが特に説明はなかったような。役名は「義経の妻」。名前ぐらい付けてやれよ(笑)。放送回をチェックすると、義経は最終回まで出てくるのに妻はその前の回までしか出てきません。そういやこのドラマは義経北行説だったよな?と調べると、どうも妻子はその前に殺されちゃうらしい。どうせフィクションなら妻子もいっしょに逃がしてやればいいのに。義経の妻役は高取茉南。

 最後に番外編的な作品として、1977年の日活ロマンポルノ映画『壇の浦夜枕合戦記』。江戸時代の春本『壇ノ浦夜合戦記』の映画化で、壇の浦で生き残ってしまった建礼門院平徳子に義経が迫りムフフ…という映画です。低予算のロマンポルノで金のかかる時代劇は珍しいようですが、70年代の邦画はドン底で一般映画の製作が激減したこともあり、ロマンポルノで本格的な映画を!という気概で作られたんだとか。ビデオ化はされましたがDVD化はされていません。



#10653 
つね 2017/11/18 23:32
「ジパング深蒼海流」終了

源平漫画談議が続いていますが、基本的には史実系のかわぐちかいじさんの「ジパング深蒼海流」が終了しました。終わってみると、「うーん」と言いたくなるところが。結局、徳子は何がしたかったのかと。彼女が変なことをしたせいで、義経の家来は、半年かけた脱出計画を台無しにされて討ち死にを余儀なくされたとしか見えない。しかも当人は生き延びて子どもも授かっているし。彼女を白拍子ポジションにしたために、静御前の存在が消されて、鶴岡八幡宮の舞がなくなってしまったのも残念。
かわぐちかいじさんは途中は魅せるのに、ラストが残念なことが多い気が。



#10652 
アジアのバカ大将 2017/11/17 22:20
オカルト系漫画の義経主従

 「遮那王義経」「修羅之刻〜源義経編」に関連して思い出したオカルト系というか、やりたい放題の義経主従漫画について、思い出すままに書いてみます。ちょっと古いかもしれません。
 「破戒王〜俺の牛若」、たなかかなこ作。弁慶が主人公です。夜盗の親玉である大男の破戒坊主(酒色三昧)ですが、最底辺の人々を助け、養っている義賊でもあります。これはまあありがちな設定ですが、ローティーンの美少年で登場する牛若丸=義経が、源氏の御曹司ではなく姫だったというところが特徴です。弁慶は義経に「平家を倒した暁には処女をあげる」(笑)といわれて家来になり、まず京都で京都で戦います。動きのある絵で、お色気、ギャグ、スリリングな場面も悪くありません。
 平清盛の息子たちが妖術を使ったりする漫画ですから、一見歴史から離れているようですが、牛若の妹(常盤御前に産ませた平清盛の娘)を登場させたり、意外な史実で、荒唐無稽なストーリーを引き締めたする小ワザも使いあなどれません。
 同じ作者の作品で太閤記ものの「藤吉郎でゴザル」という作品も同傾向。竹中半兵衛が女です。秀吉や信長に守護神(秀吉は猿神、信長はサタン)が付いているというオカルトチックな内容です。雑賀(鈴木)孫一が、堺の街を一人で守ったり大活躍します。お色気場面も多く(藤吉郎とねねの初体験、信長とお市の方の近親相姦など)楽しめます。
 「孔雀王」荻野真作。もしかしたら同じ漫画家の作品「夜叉烏」だったかもしれません。義経の怨霊が現代に甦り美少年に憑依し、弁慶を生き返られせて暴れようとします。この弁慶は、西行が造った人造人間(人間の死体をつなぎあわせた)という点が特徴です。義経主従が悪役になっている漫画は珍しいと思います。そもそも平家を滅ぼして恨みは晴らしたはずです。
 なお同じ作品の中で、アマテラスが人間の生き血を好む恐怖の暗黒美女神になっていました。これが作者の芸風なのですね。



#10651 
バラージ 2017/11/16 23:50
映像作品における義経の妻妾たち

 またもや源平話。今回は映画やテレビドラマに出てきた義経の妻妾たちについて。といっても作品自体は実は全然観てなかったりします。本やネットで得た情報のみで書いてますんで、どうかご理解ご容赦のほどを。また実際に観た方で、「ここは違うよ」「ここはこうだよ」という点がありましたらぜひご指摘ください。
 まずは源平関連の大河ドラマを順番にということで1966年の『源義経』から……と思って調べてみると、村上元三の原作小説はそれ以前に映画化・テレビドラマ化がされているようなのでまずはそちらから。ちなみに原作は現在絶版。僕も未読です。

 最初に村上の小説が映像化されたのは1955〜56年の東映映画『源義経』『続源義経』で、原作もまだ新聞連載中だったそうです。ソフト化はされてないんですが、映画サイトなどでおおよそのあらすじは確認できます。それによると1作目は鞍馬にいた牛若が平家から逃れ奥州に下る途中で元服し義経となるまで、『続』が奥州での生活を経て頼朝の元に参陣し上洛して西海に平家討伐に向かうところまで。えらく中途半端なところで終わってますが、どうやらもとは三部作の予定だったのが客の入りが悪くて2作目で打ち切りになったようです。
 肝心の義経の妻妾というか物語のヒロインはというと、実はほとんどが架空の人物。第1作から出てくるのが鞍馬の里の少女「うつぼ」で、『続』では藤原秀衡から奥州一の美女『しのぶ』を妻に薦められたり、奥州の辺境視察で出会った蝦夷の少女「モイヤ」に慕われたり、さらには義経を追っかけて奥州まで来た「うつぼ」とついに結ばれちゃったり、義経モテモテ(笑)。そんな美女たちとも義経が頼朝の元へ向かうとお別れとなり、変わって登場するのが富士川の戦いで敗れた平家軍の陣営に取り残されていた白拍子の静御前。ようやく実在のヒロイン登場ですが、前記の通り映画が2作目で打ち切られたためほぼ登場しただけでおしまいのようです。
 ちなみにこの2作は後に総集編に編集され、その際にオリジナルは廃棄されて現存しないのではないかと推測してる方(主演の中村(のち萬屋)錦之介ファン)がおられました。その総集編はCSで放送されたことがあるそうですが、8割方が1作目の映像で『続』の映像は少なく、静のシーンは全カットだったそうです。

 次いで2度目の映像化は1959年のNET(現テレビ朝日)の連続ドラマ『源義経』ですが、内容情報がほとんどなく詳細は不明。当然ながらテープも残っていないと思われます。

 3度目の映像化が1966年の大河ドラマ『源義経』。原作の村上が脚本も担当しています。総集編のみ現存していて、義経が頼朝の元に参じたあたりからになっているようです。ただ本編に関しても何話に誰が出てたなどの情報がネットにあって、そこからある程度の推測は可能。うつぼ、しのぶ、モイヤ、静の中盤までについては、ほぼ東映映画のところで書いた通りと思われます。
 大河版で描かれるそれ以後のストーリーに義経の正妻が登場するんですが、この作品(というか村上版『源義経』)の義経の正妻は河越重頼の娘ではなく平時忠の娘なんですよね(役名は卿の君→萠子)。『吾妻鏡』にも捕虜となった時忠が義経の舅になったことが記されており、『平家物語』ではそのエピソードをさらにふくらませていて、また浄瑠璃『御所桜堀川夜討』や『義経千本桜』では義経正妻を時忠娘の「卿の君」という女性にしているようなので、そこからヒントを得たのかもしれません。大河では屋島の戦いあたりからの登場となっているようで、都落ちした義経にもついていき、平泉で最後を共にするようです。その一方でなぜか河越重頼の娘もちゃんと登場してるんですが(役名は「るん」)、出番は鎌倉にいる頃の回と京にいる頃の回の2話だけで義経の妻となっているかは不明。
 前半の京と奥州で出てきた架空ヒロイン三人娘は後半どうなったかというと、うつぼは腰越状あたりの回と義経の奥州到着あたりの回の2話に登場。しのぶは藤原泰衡の妻となっており、モイヤは再登場しません。なんか前半出したオリキャラの処理に後半困ったような気配も(笑)。

 4度目にして今のところ最後の映像化が1991年の日テレ年末時代劇『源義経』。このドラマではなぜか義経正妻の設定が原作の平時忠の娘から河越重頼の娘に変更されています。理由は不明。名前も「若ノ前」に変えられてますが、これは富田常雄原作のNHK新大型時代劇『武蔵坊弁慶』における義経正妻の名前「若の前」から取られたんではないかと。水師提督さんによると実質的に静とのWヒロインだったとのことですが、そこはおそらく原作や大河(の平時忠の娘)といっしょなんではないかと思われます。架空ヒロインはしのぶとモイヤがカットされて、うつぼのみが登場。演じてるのはうつぼが有森也実、若ノ前が和久井映見。

 最後に2005年の大河ドラマ『義経』。原作は宮尾登美子の『宮尾本 平家物語』なんですがあくまで平家主人公の小説で義経の記述が少ないためか、村上が資料提供としてクレジットされ村上版『源義経』の設定がかなり流用されているようです。だから村上版『義経』の架空ヒロインうつぼが出てきたんですね。義経正妻の名前が「萌」なのも多分そのためか。
 とはいえ原作そのものではないためか設定にかなり変更が加えられており、うつぼは義経と恋仲にならないし、静は義経が奥州に下る前に京で会っている設定。萌は河越重頼の娘になっており、義経と頼朝が決裂すると鎌倉に帰されてしまいます。石原=静と上戸=うつぼにヒロインを集約させるためなんだろうなぁ。萌を演じたのは尾野真千子。後に朝ドラ『カーネーション』でブレイクしますが、この頃はまだまだ知名度の低い女優でした。

 書くことが意外に多くなってしまったんで、他の作品についてはまた今度。


>学習マンガ
 学習マンガ系の歴史マンガはほとんど読んでないと書きましたが、よくよく思い出してみたら学研のひみつシリーズの雑学系統のマンガに歴史っぽいコーナーもあったのを思い出しました。
 『発明・発見のひみつ』なんかは雑学系の歴史ものと言えますし、ひみつシリーズの最高傑作『できる・できないのひみつ』にも冒険・探検に挑んだ人々として「モンゴルフィエ、リリエンタール、ライト兄弟、リンドバーグ、ピカール親子、クストー、ハイエルダール、スコット、ピアリ、白瀬矗、ヘディン」の紹介マンガが載ってます。『忍術・手品のひみつ』でも歴史上の有名忍者として「穴九右衛門、加藤段蔵、風魔小太郎、大塔ノ宮」のエピソードが紹介されていて、大塔ノ宮は護良親王のこと。追っ手に追われてるときに経櫃の中に隠れて逃げおおせた逸話が紹介されており、忍者ではないが手口が忍者みたいだからという理由で紹介されてました。思えばこれが護良親王という名前を初めて目にしたものでしたねえ。



#10650 
ろんたろ 2017/11/07 21:47
勘違いしてました

アームストロング砲の榴弾は信管がついていたのが新機軸だったようで、初めて爆発したというのは完全な勘違いで汗顔の至り。「おお、大砲」と一緒に収録されてる「鬼謀の人」(『花神』の原型)にもそう書いてあったのに(汗)。じゃあ、それ以前はどうなってたのかというと、導火線に火をつけてから発射していた……のかなぁ? とすると、昔々のコントか何かで見た「転がってきた鉄の玉を見ると導火線に火がついていて、兵隊さんが慌てて逃げ出す」っていうのは、意外と正しく考証できてるんでしょうか。アレって爆弾だと思ってたんだけど。

関ヶ原じゃなくてブリキトースの威力なら「おお、大砲」に書いてあるんですが、なにぶん短編小説のオチに関わってくるので、自主規制です。

>水滸伝
元祖バーサーカー「黒旋風李逵」の活躍が抑えられてしまっては、魅力半減ではないですか(笑)。武松の潘金蓮解体やそれに続く孫二娘の人肉饅頭とかはカットでしょうかね。もっとも、そんなスプラッタなのがご家庭に電波でお届けされても困りますが。



#10649 
バラージ 2017/11/05 22:26
なんかいろいろ

 僕は水滸伝にはくわしくないんですが中華圏映画は好きなんで、名画座に収録されてない水滸伝映画の紹介でも。僕はいずれも未見です。すいません。

『水滸伝 杭州城決戦』(原題:蕩寇誌)……名画座にある1972年版『水滸伝』の続編的作品で翌1973年の映画ですが、日本では近年にDVDスルーされました。百八星終結後の方臘討伐戦を描いているようで、おそらく1972年版とほぼ同時期に撮影したと思われ、丹波&黒沢もチラっと出てるとか。チャン・ツェー監督&デビッド・チャン&ティ・ロンのトリオは70年代に武侠映画・カンフー映画を連発してまして、『ウォーロード 男たちの誓い』の元ネタ『ブラッド・ブラザーズ 刺馬』(原題:刺馬)や、黄巣の乱を背景とした『英雄十三傑』(原題:十三太保)なんてのも撮ってます。

『水滸伝 男たちの挽歌』(原題:水滸傳之英雄本色)……1993年の香港映画。主演はレオン・カーフェイで、林冲が梁山泊入りするまでを描いたワイヤーワーク満載のアクション映画だそうです。日本ではビデオスルーで、その時の邦題はただの『水滸伝』。当時はジョイ・ウォン全盛期でパッケージには「ジョイ・ウォン作品」と書かれ写真も一番大きかったのに、近年DVDになったらパッケージ写真からいなくなってるところが諸行無常の響きあり。

>マンガ
 僕は学習マンガ系の歴史マンガはほとんど読んでないんですよね。前記の学研「ひみつシリーズ」『日本の偉人まんが伝記事典』ぐらいでして。
 そういえば僕は少年マガジンも(週刊も月刊も)読んだ時期がないんです。チャンピオン、ジャンプ、サンデーはそれぞれ読んだ時期があるんですが。

>パーニーパットの戦い
 高校の時に世界史で習った記憶がありますね。インドで起こった戦いという以外はすっかり忘れちゃいましたが、なんか語感が印象的だったのかな。



#10648 
つね 2017/11/05 16:56
補足

>バシュケント会戦・チャルディラン会戦・パーニーパット会戦
どれも聞いたことないなあと思ったら、イスラムやインド関連の戦いなんですね。このあたりは日本は知名度低そう。それはそうと大砲以前の投石器もかなり威力を発揮していたみたいです。やはり櫓や陣地破壊が主だろうとは思いますが。

>「獅子の時代」での葡萄弾の活躍
具体的に言うと、「獅子の時代」はナポレオン絶頂期のアウステルリッツ会戦から始まっているのですが、そこで敗走したロシアの将軍が至近から葡萄弾を撃たれて全身バラバラになり、顔の上半分が木に張り付くというグロテスクなシーンがありました。大砲の活躍というと少し違いますね。なお、この将軍は史実では生還しています。

>源平マンガ
バラージさんの企画ですが、挙がっていなかったので私が読んだのは学研まんが人物日本史の「源頼朝」「源義経」「平清盛」があります。このうち「源頼朝」と「平清盛」が田中正雄さんの作画。管理人さんも田中正雄さんの作画で「頼朝の美化が目につく」みたいなことを書かれていましたが、平清盛もそうで、「頼朝」に出てくる清盛は悪人顔、「清盛」に出てくる清盛は善人顔となっています。ラストは病床で安徳天皇を抱いて涙ぐむシーンだったと思います。その後の平家滅亡に1ページくらい使っていたかも。「清盛」は後から企画されたんで、そうなってしまったんですが、同じ作画で顔が違うのはなあ、と子供心に思ったものです。顔で善人と悪人を描き分けるのが子どもには分かりやすいのでしょうが。「義経」に出てくる「頼朝」が冷たくはありますが、武士のリーダーとしての責任感を背負っていて中立的評価に感じました。



#10647 
徹夜城(長いドラマを意外に早く見終えた管理人) 2017/11/04 00:16
「水滸伝」鑑賞終了

 中国制作の最新版「水滸伝」、全86話をついに見終えました。二か月くらいかかりましたかね。この長さだと僕にしては「イッキ見」した方です。それだけ楽しめたということです。
 原作からはだいぶ変えたところが多いんですけどね。前にも書いたように「現代人には理解不能」な無茶な話はなるべく改変してマイルドにしてますし、その一方で「好漢」たちに退治される「悪女」たちへの同情描写が目につくなど女性キャラの描き方に工夫が見られます。また原作通りではあるのですが、終盤の宋江の朝廷への「招安」をひたすら願う姿勢、やたらに「忠義」を口にするところがドラマだとかなり鬱陶しい(笑)。実際それが多大な犠牲を生んでしまうことになるわけで…このドラマでは招安後、速攻で方臘征伐になるので余計にその印象が強い(遼や金と戦えない事情はわかりますね)。そうそう、方臘がなかなかカッコいいキャラになっているのは、往年の「農民反乱は全部正義」史観の名残なんでしょうか。
 ラスト、宋江が毒酒を飲んでしまい、李逵を道連れにするくだりはかなり変えちゃって、かえって泣ける名場面に仕上げてしまってました。こういう一連の改変が割とうまくいってたんじゃないかな、と思うドラマではありました。
 …さて、この勢いで最近作られた「三国志」のドラマ(原題「三国」)も途中で止まってるんで、見ることにしますかな。


>アジアのバカ大将さん
 お書きになっている月刊マガジンの源平マンガは、おそらく沢田ひろふみさんの「遮那王義経」ではないかと。僕は未読なのですが。
 同じ沢田さんの手になる「山賊王」は南北朝テーマ漫画としては実に珍しく終わりをちゃんとまっとうできた作品として記憶に残ります。もっとも正確には南北朝まで行かずに鎌倉幕府滅亡までなので、今回打ち切られた「バンデッド」と同じなのでありますが、「山賊王」は明らかに伏線も処理(一部置忘れがあったけど)、構想したところでちゃんと終わった幸運な作品でした。なじみのない時代を扱いながら、「水滸伝」というよりは「八犬伝」的な要素や、正成の悪党キャラの面白さ、次々と来る難関をくぐりぬける少年漫画王道路線などがぶちこまれて結構人気も得ていたんじゃないかと。



#10646 
アジアのバカ大将 2017/11/03 01:37
たしか月刊少年マガジンに義経漫画

 5年ほど前、旅先の北九州の大型回転ずし屋(20〜30人収容可能の待合室あり)に月刊少年マガジンが一年分ほど置いてあったので、パラパラと見たら、義経を主人公にした連載漫画が目につきました。題名は忘れましたが、丁寧な絵がらの作品です。平清盛が叡智も決断力も包容力もある、かつ義経を間接的に教育してやろうという慈悲深い大政治家として描かれていたのが目を引きました。外見は、有名な木像よりも、もっとやせたキャラです。少年漫画に興味を失っていたので、それっきりになっています。
>>「修羅の刻〜陸奥圓明流外伝」の義経
 まだ少年漫画に興味を失っていなかった頃、同じ月刊少年マガジン連載で、本編の「修羅の門」と外伝はよく見ていました。両方とも少年漫画としては、悪くない出来だと思います。ステレオタイプでも、キャラがしっかり描き分けられていましたから。
 本編と外伝を跨ぐストーリーで、130歳のインディアン女性が登場する物語が特に好きです。本編主人公・陸奥九十九(むつ・つくも)の大々伯父に命を捨てて、騎兵隊の虐殺から部族を救ってもらった少女が、陸奥一族の者に恩返しするため生き続け、子孫たちに「ムツを助けるためには、命さえ惜しんではいけないよ。ムツがいなければ、お前たちは生まれてくることさえできなかったんだよ」と教え続けた話です。



#10645 
徹夜城(個人的SF映画ベスト1の続編を今日見てきた管理人) 2017/11/03 00:01
すっかり月刊化してる「史点」

 ほんと、ここ数年はすっかり月刊状態の「史点」をまた月刊状態で更新してしまいました(汗)。書くペースが遅くなったのと、書く気になるネタが4つ集まらない、一つ一つが長文化…などなど原因はいろいろと。
 そうそう、先日韓国のキム=ジュヒョクさんという俳優さんが交通事故で急逝されてましたが、名前に憶えがあるな、と思って確かめたら歴史ドラマ「武神」で主役の金俊を演じてました(歴史映像名画座参照)。油の乗ってきた時期の急逝が惜しまれます。

>つねさん
 足利尊氏の肖像画の話題、今回の「史点」ネタにしております。そんなのがひょっこり見つかっちゃうなんてことがあるんだな、と僕も驚きました。
 その「史点」記事でも触れましたが、モーニングに連載してた「バンデッド・偽伝太平記」、ほぼ一年で打ち切り。作者さんが本来どこまで構想していたかは分かりませんが、六波羅探題陥落をクライマックスに終わるという予定はなかったんじゃないかと。最後は主役の架空人物「石」と足利高氏のどつきあい(?)でこの漫画らしく一応の結末にはなってました。
 南北朝マンガ打ち切りの歴史がまた1ページ…というわけで、実はちょっと前から「バンデッド終わったら『マンガで南北朝!』更新してみるか」と決めていましたので、ぼちぼち作業にとりかかります。


>バラージさん
 源平マンガ、「火の鳥・乱世編」は僕も初読で強い印象をうけましたねぇ。「義経と弁慶」の話でもっていくのかと思ったら、後半の義経の悪者化には驚きました。ただまったく根拠なしというわけでもなく、屋島の戦いでの逸話に見られるように義経けっこうひどい奴では、という話は前からあったんですよね。
 「ドカベン」の弁慶高校にまで言及が(笑)。あれは水島新司さん自身、「明訓を打倒するために作った」と明言されてたはず。「八艘飛び」「立往生」が野球の中で再現されるという、最初から決めてあったんだろうな、と思う試合展開ではありました。この義経と武蔵坊のキャラは作者もお気に入りのようで、その後の「ドカベン」シリーズで延々と登場してきます。

>大砲ばなし
 司馬遼太郎「おお、大砲」といい、「風雲児たち」の「国技館から」等のギャグといい、僕も書き込みたくなる話題が続いてますね。「ナポレオン獅子の時代」も読んでるんですけど、大砲のくだりはあんまり覚えてなかったです。
小説「関ヶ原」でもいくらか描写があったせいか、TBS版「関ヶ原」でも石田軍が大砲をぶっぱなすシーンがわずかではありますが印象的に出てきました。今度の映画での大砲部隊(?)は朝鮮の役に行ってたんだか、倭寇でも絡んでるのかのようなセリフがあったような気がするんですが、そのセリフがよく聞き取れないままで気になってまして…

 後期倭寇ではポルトガルから導入した「仏郎機砲」というのを使っていた記録がありますね(「仏郎機(フランキ)」というのはイスラム圏でのヨーロッパ人のこと)。王直の養子の一人がその扱いにすぐれていたとか。



#10644 
2017/11/02 10:25
炸裂弾以前の大砲

戦例を調べると、バシュケント会戦・チャルディラン会戦・パーニーパット会戦など、大砲の運用が決め手になったと評価されている戦いもザクザク出てきますので、炸裂弾が出てくる前はさほど意味が無かった、というわけでもなさそうです。
もっとも、上記の会戦は、いずれもより大量の鉄砲を投入して、大砲と大砲の間に銃兵を配置するなど、あたかも大砲を簡易陣地のように使用していた模様ですが。

ある小説で、「歩兵は砲兵に強く、砲兵は騎兵に強く、騎兵は歩兵に強い」という三竦みの構図が提示されてますが、日本の場合は、騎兵の比率が相対的に小さく、攻城戦以外で大砲が効力を発揮する相手がいなかった、という事情もあるかもしれません。



#10643 
つね 2017/10/30 22:30
大砲の歴史

といっても詳しいわけではないのですが。

ナポレオン戦争の時は、炸裂していたんじゃないかなあ、と思ってネットで調べてみました。
大きく分けると炸裂するのは榴弾、しないのは徹甲弾というみたいです。
で、ナポレオンのころには榴弾は実用はされていましたが、主力は徹甲弾の一種になる球形弾(砲丸)で70〜80%の使用率だったようです。他にも葡萄弾とか焼夷弾とかあったようです。ナポレオン漫画の「獅子の時代」で葡萄弾は印象的でした。球形弾もかなり威力があり、あまり仰角は上げず水平より少し斜めに撃って密集した集団に当たれば10数人なぎ倒したようです。「当たらなければどうということはない」のですが。ナポレオンの時代より200年前の日本の大筒の威力はもっと劣ったでしょうが。そういえば「風雲児たち」を読み返したら

「ただちに大砲(おおづつ)をひっぱってこいっ」
「国技館からですか」

とやってました。今となると分からない人も多いだろうなあ。だからこそギャグ注があるわけですが。

あと大砲の歴史で思い出すのは、弾道計算のために電子計算機が開発されたことですね。



#10642 
ろんた 2017/10/29 22:37
おお、大砲

弾が爆発するのは、薩英戦争や上野戦争で威力を発揮したアームストロング砲が最初でしょうか。洋の東西を問わず、映像作品では派手に爆発してますが、ああいうのは「大砲ですよ」という一種の記号的表現でありましょう。

関ヶ原で石田方が大砲を使った、というのは原作にも出てきたような気がします。でも、すぐに壊れちゃったんじゃないかな。『風雲児たち』では、萎えちゃった大砲に三成が「ほ〜れほれ、無修正でござるぞ」と18禁な写真集を見せる、というシーンがありました(笑)。爆発しなくても、密集隊形をとっているところに打ち込めば、相当の死傷者が出そうな気もしますが、やはり城攻めに使うのが主流だったでしょうね。焼き玉を打ち込めば火事も起こせるし。後の大阪冬の陣で大砲(ブリキトース)が大活躍したのは、「真田丸」などでご案内の通り。

で、「おお、大砲」というのは、ブリキトースを権現様から拝領した大和高取植村藩に天誅組が攻めてくる、という司馬遼太郎の短編小説であります(『人斬り以蔵』所収)。


>応仁の乱
そういえば、細川護煕氏が「討幕運動かと思ったら応仁の乱になった」とこの度の野党の(っつーか民進党の)すったもんだを評した、とちょっと話題になってましたね。少しでも歴史を知っている人間は「お前の先祖が当事者じゃねーか!」と突っ込んだに違いない。あと「応仁の乱で細川家は敵味方に分かれて家の存続を図った」と、明らかに関ヶ原の真田家と混同しているコメンテーターもいました(笑)。



#10641 
バラージ 2017/10/29 20:17
源平マンガB

 僕が読んだ源平マンガの話、最終回。最後は番外編。前回の創作系マンガは大枠では一応史実(や軍記物語)をベースとしてましたが、今回紹介するマンガは源平合戦(〜鎌倉初期)を題材としてるもののストーリーは全く架空の作品です。

 まずは安彦良和の『安東 ANTON』。義経の遺児・星若丸が主人公で、津軽十三湊の安東氏に匿われて生き延び海賊となっていた彼の命を鎌倉幕府の二代将軍頼家や北条義時が狙い、一方の星若丸も父の敵を討つために彼らと戦うことになるという物語です。
 同じ安彦さんの『虹色のトロツキー』みたいにハードでシリアスな歴史ものではなく、完全に少年娯楽冒険活劇といったノリで史実がどうこうとかはほとんどどうでもいい話で、星若丸の仲間は実は生きていた弁慶の他、アイヌ人に高麗人・渤海人・女真人・宋人といった多国籍状態。義時は常に能面を着けて素顔を隠してる不気味で妖しげな悪ボス(シャアかよ!笑)で、頼家は完全にバカ殿の暴君、政子は冷酷非情な鬼母といういかにもな配役となっています。
 義時率いる刺客ら鎌倉軍の襲撃で安東氏が滅ぼされると、星若丸たちは大陸に渡ってそこでチンギス・ハーンに会っちゃうなど甚だ自由奔放な展開で、チンギス・ハーンは義経絡みだとやっぱり外せないネタなんだなあ。十三湊の安東水軍がやたらと大規模なのは『東日流外三郡誌』っぽいし、そういう怪しげな話も面白けりゃ何でもありというスタンスなんですよね。
 終盤は鎌倉に帰ってきて史実に関連した話になり、ラストも唐突かつずいぶんユルい感じの能天気な終わり方なんですが、まあ細かいことは気にせず気楽に読むマンガなんでしょう。僕もわりと楽しく読みました。学研ノーラコミックスDXから出てましたが、残念ながら現在は絶版のようです。

 次に、原作・あかほりさとる、画・別天荒人の『源平伝NEO』。あかほりの同名ライトノベル(角川スニーカー文庫)で表紙と挿絵イラストを担当した別天が『月刊少年エース』で連載した漫画化作品です。
 現代に高校生として転生した源平合戦時代の人々が、前世からの因縁により霊力で戦うというファンタジー風味の学園超能力バトルもので、いかにもライトノベルといった感じ。登場人物が美男美女だらけというのもライトノベルのお約束ですが、それも目に楽しいマンガです。ただしキャラ設定は一般的なイメージ通りではなくなかなかにマニアック。
 主人公の義経は喧嘩は滅法強いが800年も前の因縁で生まれ変わった後もまた戦うことに疑問を感じる、ちょっと屈託のある熱血漢。頼朝は穏やかで冷静沈着な生徒会長兼理事長、梶原景時は頼朝に絶対的な忠誠を誓う風紀委員的メガネ男子で、2人とも悪役キャラではありません。さらにヒロインは河越重頼の娘が転生したおしとやかなメガネ女子・河越志乃と、静御前が転生したイケイケ元気娘・舞野静というWヒロインというなんともマニア心をくすぐる配役(笑)。一方で平氏側は悪役ということもあってキャラ設定もやや類型的というかいかにも悪役キャラなんで、平氏ファンはちょっと不満かも。悪ボスの重盛は企み系の知性派悪役で、イメージとも史実ともちょっとかけはなれてます。ちなみに平氏側の目的が清盛復活なんで清盛は出てきません。
 原作のライトノベルもマンガ化作品もなかなか面白いんですが、1つ大きな欠点が。なんと原作が完結していません。どうも、あかほり氏には作品を途中で放り出す悪癖があるようで、このライトノベルも2巻までと前日譚の0巻が出たまま未完に終わっています。マンガのほうはオリジナルの展開を含みつつもうちょっと続きましたが、何しろ原作が終わっちゃってるんで、「戦いはまだ続く」的な終わり方で一応の完結をさせてました。個人的には結構面白かっただけに、なんとももったいない。

 最後に水島新司の『ドカベン』。ここまでの全3回で紹介した中で僕が一番昔に読んだマンガですが、週刊少年チャンピオン連載時ではなくコミックスでまとめて読んだ記憶があります。言わずと知れた超有名野球マンガで、もうこの題名を出しただけでわかる人はわかっちゃうと思うんですが、主人公・山田太郎のいる無敵の明訓高校に唯一土を付けたのが岩手県の弁慶高校。なんとスポーツ紙にも「明訓敗れる」という記事が載ったんだとか。
 その弁慶高校は、修行のため岩手から甲子園まで山伏姿で歩いてくるという無茶なことをしてくれます(笑)。主砲の武蔵坊には神通力のようなものがあり、ホームラン性の当たりが風もないのに押し戻されてフェンス際でグラブに収まったり、さらには怪我を治したり病人を救ったりまでする始末。明訓を破った試合での最後の武蔵坊の立ち往生と義経(名字)の八艘飛びはまさに名シーン。僕は元ネタよりも先にこのマンガでその言葉を知りました。

>水師提督さん
 『ますらお』の続編には河越重頼の娘が出てきてたんですね。僕は続編が描かれてること自体つい最近まで知りませんでした。掲載誌のヤングキングアワーズって見かけたことないんだよな。そもそもマンガそのものを最近はめっきり読まなくなってしまいました。
 ドラマ情報もありがとうございます。実はマンガの話が終わったら今度は映画やドラマにおける義経の妻妾たちについて書こうかななんて思ってたんですよね。まぁ作品自体はあんまり観てないんですが。

>応仁の乱ブーム余波?
 というわけでもないんでしょうが、峰岸純夫『享徳の乱 中世東国の「三十年戦争」』(講談社選書メチエ)という本が出てました。享徳の乱は応仁の乱より13年前に関東で起こった鎌倉公方(のち古河公方)足利成氏と関東管領上杉氏の戦争で、そもそも「享徳の乱」と命名したのが峰岸氏なんだそうです。応仁の乱ではなく享徳の乱が戦国時代の始まりだと主張していて、そういえば10年以上前に図書館で見た『戦国史クロニクル』というやたら分厚い本でも享徳の乱を戦国時代の始まりとしていたっけ。



#10640 
つね 2017/10/28 07:33
尊氏の肖像画

https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20171027-00000014-asahi-soci

今頃になって見つかることもあるんですねえ。
「大きな鼻や垂れた目」と言われると、ウッチャンナンチャンの内村さんなんかを思い浮かべます。

手紙類なんかは、最近、秀吉のものをよく聞きますが、日本は書面類は残りすぎていて、まだ未発掘とか、これからの分析待ちのものが多いと聞いたことがあります。



#10639 
水師提督 2017/10/24 09:42
河越重頼の娘

この人がきちんと描かれたドラマとしては、野村宏伸主演の年末時代劇「源義経」がありますね。
ほぼ静御前とならぶダブル・ヒロインに近い扱いでした。

じつは、現在(休載を重ねつつ)連載中の「ますらお」でも、河越重頼の娘が登場していて、なかなか好意的な扱いです。
20年前の打ち切り後のあとがきでも、心残りとして、義経の結婚があげられているくらいで、義経・静との三角関係をどう描写していくのか、気になっています。
大姫を扱った番外編の内容も考えると、綺麗ごとだけでは済まない「エグい」展開も考えられますが・・・。



#10638 
バラージ 2017/10/20 22:02
源平マンガA

 僕が読んだ源平マンガの話、第2回。今回は創作系のマンガです。

 まず前回の『吾妻鏡』で1つ書き忘れたことが。上中下の全3巻なんですが、話が頼朝の挙兵から始まって、その頼朝の死が下巻の最初あたり。頼朝の挙兵から死までが約20年、その後の承久の乱までの約20年が下巻1巻で描かれます。やはり源平合戦を含む頼朝時代の分量が圧倒的に多いんですが、まあこのあたりは仕方がないのかな。物語として面白い話の分量は頼朝時代が多いでしょうしね。

 では改めて今回の創作系マンガの話。

 まずは手塚治虫の『火の鳥 乱世編』。前回書いた学研マンガを別にすれば、これが最初に読んだ源平マンガかな? 手塚は『火の鳥』を何度も書き直して様々な版があるようですが、僕が読んだのは角川書店版。『火の鳥』は確か「鳳凰編」や「黎明編」のほうを先に読んだんじゃないかと思います。
 ひょんなことから源義経の家来にされてしまう木こりの弁太(弁慶がモデルだが、作中では明雲が弁太をモデルに弁慶を創作する設定になっている)、その幼なじみで許嫁だがこれまたひょんなことから平家と運命を共にすることになるおぶう、奥州で弁太と出会いやがて夫婦となるヒノエら架空の人物に、平清盛や源義経ら源平合戦期の実在の人物たちが絡んで物語が進んでいく長編マンガです。
 この『乱世編』では本物の火の鳥は登場せず、火の鳥というあるかどうかもわからない存在に振り回される清盛・義仲・義経・頼朝ら権力者と、時代の波が作り出す宿命の渦に抗いながらも呑み込まれていく弁太ら無名の人々の群像を描いています。読んだ時点で清盛や義経についてはある程度知っていたんですが、僕は判官贔屓というやつがどうにも好きになれなかったんで、このマンガの人間臭い清盛像と自己中心的な義経像がすごくしっくり来たんですよね。史実や古典に大幅な脚色や変更を加えており、源平マンガとしては相当な変化球なんですが(ギャグシーンもたくさんある)、紛れもない傑作と言っていいでしょう。
 『鳳凰編』の我王が義経の師の鞍馬山の天狗として登場する他、清盛の精神的導師とも言うべき天台座主・明雲も強く印象に残りますが、個人的には後白河法皇と頼朝の電話を取り次ぐ貴族(顔はヒョウタンツギ)が「両方から怒鳴られてイヤな役回りだなぁ。だいたい主上(法皇)がご自分で電話に出なさればいいのに」とぼやくところが好きです(笑)。

 続いて週刊少年サンデーで連載された北崎拓の『ますらお 秘本義経記』。北崎さんはそれまで『たとえばこんなラヴ・ソング』『ふ・た・り』などの切ない青春恋愛マンガばっかり書いてたんで、『ますらお』の連載を始めた時には、なぜ突然歴史ものを?と面食らいましたね。
 義経の少年期を描く前半は大幅なオリジナル展開で、平維盛が義経より年上(劇中で2人の年齢は明言されないが見た目的に明らかに年上)のライバルキャラだったり、「もう1人の義経」として一時話題だった山本義経がこれまたオリジナル設定で義経に大きく絡んだり、大陸での政争に敗れて奥州へ逃げてきたモンゴル人(チンギス・ハンではなかったはず)に出会ったりとなかなかに波乱万丈。オリジナル設定が多いだけに、物語としては先が読めない面白さがありました。義経とヒロインの静が子供の頃から京ですでに知り合ってる設定は他の創作作品でもたまに見られますが、義経の正妻(河越重頼の娘)が登場しないのは少年誌という性格上仕方ないか。北崎氏お得意の主人公とヒロイン2人の三角関係に落とし込むという手もあったんじゃないかと思わなくもないんですが、結婚が絡んできちゃうのが少年誌的にネックだったかも。あるいは単にそういうのはこの作品では描きたくなかったのかもしれないし、はたまた作者がただその存在を忘れてたって可能性もありますが(笑)。あと義経が美少年ながら粗野な野生児キャラなのはひょっとしたら『火の鳥 乱世編』の影響かなぁ。藤原泰衡がやや気弱な善人キャラで、悪く描かれないのも個人的には良かった。
 しかし源平合戦が始まって以後は、基本的に史実を追う平板な展開になってしまいます。腹黒い頼朝、陰険な梶原景時、凡庸な源範頼、粗暴だが純粋な木曽義仲、惰弱な平宗盛、知恵者の平知盛といったキャラクターもあまりに月並みで面白くありません。やはり人気も低下したのか、一ノ谷の戦いが終わったあたりで打ち切りとなってしまいました。サンデーはジャンプほど人気投票にシビアではない印象がありましたが、まあ仕方ないでしょう。北崎さんは次作『なぎさMe(み)公認』で再び青春恋愛マンガに戻っていきました。
 と思ったら、北崎さんは最近になって『ますらお』の続編をヤングキングアワーズという青年月刊誌で書いてるとか。僕は読んでないんですが、今度こそ完結できるでしょうか?

 そして川原正敏の『陸奥圓明流外伝 修羅の刻』の源義経編。『修羅の門』という格闘技マンガ(未読)の主人公の先祖たちを主人公に、歴史上の人物たちと絡めて描いた外伝作品だそうです。連載されてた月刊少年マガジンは読んでなかったんで多分コミックスで読んだんじゃないかと思うんですが、今となってはもうその辺はよく覚えてません。寛永御前試合編も読んだんですが、wikiを見ると寛永編のすぐ後が義経編なんで、ひょっとしたらその時だけたまたま月刊マガジンで読んだのかも。
 このマンガについては以前もちょっと書いたんですが、『ますらお』以上に善悪のキャラ分けが典型的かつ極端で判官贔屓全開の作品。義経はとにかく純粋な人物に描かれていて、あまりの度が過ぎる純粋っぷりに正直ちょっとアホに見えてしまうくらい。“イノセント”には“無垢”と“無知”の2つの意味があるということがよくわかるような……。ヒロインは当然静御前で、ご先祖主人公の関係者か何かだったはず。義経正妻は名前だけ登場するものの、静に「京に来てもかまいませんが、寝室に入ることは許しません」とか言われちゃうトホホな役回り。そんなこんなで僕はどうにもダメな作品でした。



#10637 
つね 2017/10/20 20:17
大筒

「関ヶ原」で、砲術使いの設定は「朝鮮出兵で技術者が渡来してきていたみたいだし、そういうこともあるかなあ」とあまり気になっていませんでした。ただ原作とも史実とも異なるのであれば、なぜそうしたのか気になります。ましてや砲術使いの見せ場を作るために石田本陣の最期を自爆にしたのであれば「余計なことを」と思います。

書き忘れていましたが、実は「大筒が活躍したこと」自体が気になっていました。というのは、当時の大筒の弾は火薬が詰められておらず、直接あたればとにかく、そうでなければ地中に潜るだけであまり効果はなかった、という解説を関ヶ原をテーマとした漫画で読んだことがあったからです。映画では思いっきり炸裂してましたね。建造物や船の破壊や音による威嚇には役立っていたみたいですが。大坂の陣で、大阪方は徳川勢の大砲の弾を、白い布を張って弾き返していたという逸話もどこかで見たことがあります。

名前は忘れましたが、ある作家がライバルの作品を評価した時の
「この作品は優れてもいるし独創的でもある。
ただし、優れている部分は独創的でないし、独創的な部分は優れていない」
という言葉を思い出しました。



#10636 
徹夜城(選挙は期日前投票にするかなと考える管理人) 2017/10/19 23:27
風邪ひいたのにナオシタ

 タイトル、深い意味はございません。今年最初の風邪をさっそくひいてしまった直後でして(笑)。


>つねさん
映画「関ケ原」ですが、監督の原田真人さんは「日本のいちばん長い日」も手掛けていて、僕などは「傑作の旧作があるのによく手を出すなぁ」と二つ続けて思ったものです。
映画「関ヶ原」、どうやら主役を変えての企画で二転三転、ある段階では小早川秀秋を主役にする方向になって結局元に戻って三成主役に落ち着いたわけですが、秀秋の扱いが旧作と明白に違うのはそういう経緯があるからのようですね。
僕は原作も一応読んでみたんですが、TBS版のシナリオはやはり傑作だったと思います。特に合戦に至るまでの経過部分ですね。その辺が今度の映画では時間の都合もあって部分的に途切れ途切れにしか処理されてない。ヒロインの初芽の設定変更もなんだか狙いがよくわからんですし。原作だと黒田如水が彼女に深く関わるんですが、それだと主演の人が紛らわしいからやめたのかな?

 セリフがよく聞き取れないのは、この監督の作品に共通してるみたいですね。黒澤明監督作品もその傾向があって、よく言えばリアルなのかもしれないけど、今回とくに筋を追ううえで問題が多々生じたように思います。関ケ原で暴れていた砲術使いたちの設定が僕は気になってしょうがなかったんですが。
 役所広司さんの家康、あの印象的なお腹はCG(?)らしいのですが、あれが頭にこびりついてしまって「関ヶ腹」などと僕は呼んでおります(笑)。


>アジアのバカ大将さん
倉山満氏の南北朝〜室町本ですが、買ってはいないものの書店でチラッとチェックはしてます。出版元の青林堂をもうけさせたくない気分s出し(笑)。で、表紙イラストもその難民ヘイトで世界で話題になったイラストレーターが手掛けてるんです。
ただ、内容については幸か不幸かそうヘンではないようです。それこそ「南朝正統!」「建武中興万歳!」「忠臣大楠公」「逆賊尊氏」とかやり出すかと思ったら、全然そんなことはないようでして、人物・時代評価はおおむね中立的。後醍醐についてもムチャクチャと評していましたし、大河「太平記」もえらくほめてるところを見ると尊氏批判もないみたい。南北朝や室町に興味を抱いたのはこの時代に生きてる日本人たちのトンデモなさ、スケールの大きさにひかれたから、といった趣旨の発言もしていて、困ったことに当サイトの姿勢と一致したりしています。

 以上のことは本のほうではなく、youtubeで当人がしゃべってる動画を見ての感想なのですが、あれなら本の方もまぁまぁ同じなんでしょう。危惧したようなヘンな偏りはない…みたいです。出版元は宣伝惹句にこそヘンな文言を使ってましたけどね。
 それら動画で見る限り、倉山氏、よく調べたなと思ったのですが、しばしば彼の隣にゲストで登場する「お友達」が、彼の調査能力を疑わせレくれます。「竹内睦泰」、愛称「むっちゃん」なる人物がよく登場するんですよ。しかも「後醍醐直系の子孫」と称して。動画でも当人が堂々とそう名乗っていて、「先祖」の話に倉山氏と花を咲かせていたりします。しかし、南北朝史に首を突っ込んでいれば、後醍醐直系子孫など現在いるはずがないと分かるはずなんですよね。

 この竹内睦泰なる人物、Wikipediaにも項目が立ってる(当人が立てたかもしれないなぁ)んで大まかなプロフィールは分かります。元予備校日本史名物講師として著作も多いのですが、いつからか「第73世武内宿祢」やら「正統竹内文書」やらを冠した怪しげな著作ばかりを出してます。「ムー」編集部が作った動画にも出演して、いかにも「皇族関係者」と誤解を誘うような発言をしてるのを見たことがあります。「後醍醐天皇の子孫」と称するようになったのはいつからかわかりませんが、倉山氏は完全に信じちゃってますね。「お友達」の範囲にはあの竹田恒泰氏もおりまして、以前竹田氏が著書の中で「最近南朝の子孫の方に話を聞いて」という妙な記述があることに気づいたんですが、どうやらこれが竹内氏らしい。
 これとは別に最近youtubeをめぐっていたら「明治天皇のひ孫」(?)を称する牧師さんが講演している動画を見かけまして…この手の人、まだまだいるんだなぁ、と。

 潘金蓮のおはなし、興味深く読ませていただきました。そういや「武松」だけで連続テレビドラマを作った、という話もどっかで見かけてはいました。あのへん、もともと独立性が強いですしね。今見てる「水滸伝」でも武松主役部分だけで10回使ってまして、まさに「武十回」でした。
 ドラマ「水滸伝」もそろそろ108人集まる終盤。この辺になるとさすがに官軍と合戦→仲間に引き入れ、の繰り返しでダレてきちゃいますね。


>バラージさん
「エルネスト」、興味はあるんだけど、見に行けるかどうか。
それにしても「希望の党」、これほど急激に誕生し、急激に壊滅する政党というのは世界史全体でも珍しいんじゃないでしょうか(笑)。現在報じられる情勢ですと、立憲民主党に完全におくれをとってしまうようで、いったいあれはなんだったんだ、と思うばかり。最初から「破壊工作」でやった(byいしいひさいち)とでも見てあげないと前原さん、憲政史上に悪い意味で名を残してしまいそうな。
 



#10635 
バラージ 2017/10/16 16:57
書き忘れ

>史点
 すいません、書き忘れてました。
 金子監督、『希望の党☆』なんていう短編映画撮ってたんですねえ。全然知らんかった。まあ一般映画じゃないんで当然か。金子監督も日刊ゲンダイの取材にコメントしたみたいですね。状況は何やら安倍さんの思惑通りに進行してるようですが、それはそれでなんだかなあ。



#10634 
バラージ 2017/10/15 15:24
革命青春映画など歴史映像作品群

 映画『エルネスト』を観ました。
 祖国ボリビアの軍事独裁政権打倒作戦にゲバラとともに参加して軍事政権に処刑された日系二世ボリビア人のフレディ前村ウルタードを主人公とした日本・キューバ合作映画で、監督は阪本順治、主演はオダギリジョー。フレディ前村は当然ながら全然知らなかった人物で、なかなか面白そうな題材だなと思って観たんですが、結論から言うと期待したほどでもなかったかなあと。
 映画は訪日したゲバラの広島訪問から始まるんですが、このプロローグが意外に長くなかなかフレディ前村が出てきません。ただゲバラの来日は他のゲバラ映画ではほとんど描かれないんで興味深くはありました。その後、キューバで医学を学ぶため留学してきたフレディ登場となるんですが、このキューバ留学中が映画のほとんどを占めていて、彼の最期となるボリビアでのゲリラ活動はほんの付け足しといった程度。フレディがゲバラやカストロに魅了され祖国解放の革命闘争に身を投じるまでを、留学中の恋や友情といった青春模様と共に描いていく映画で、阪本監督自身もゲリラ戦の映画ではなく学園青春ドラマだと言っているそうです。
 ただ、ストーリー展開に若干説明不足というかわかりにくいところがあり、全編スペイン語を完璧にマスターしたオダギリは好演ではありますがどうもフレディの心の動きがわかりにくく、観終わってみると彼に影響を与えたゲバラやカストロのほうが印象に残ってしまいます(2人とも本物に結構似てる)。キューバから見たキューバ危機の描写も珍しくはありましたが、全体的にはまあまあといった程度かなあ。

 予告編では、『ヒトラーに屈しなかった国王』というノルウェーの第二次世界大戦映画をやってました。国王ホーコン7世を主人公とした映画で、ノルウェー映画にしてはなかなかのスペクタクル。というかノルウェー映画って観たことないんだよな。スウェーデン映画、フィンランド映画、デンマーク映画は観たことあるんだけど。ドイツ軍のノルウェー侵攻を描いた映画自体が非常に珍しい。予告編を観る限りちょっと面白そうでした。
 デンマーク侵攻の映画はないのかと探したら、『エイプリル・ソルジャーズ ナチス・北欧大侵略』というデンマーク映画が映画祭で公開された後DVD化されたようです。また占領後のレジスタンスを描いた映画には、デンマーク映画『誰がため』、ノルウェー映画『ナチスが最も恐れた男』があり、前者は劇場公開され後者はDVDスルーで、いずれも実在の人物が主人公です。

>ビデオで観た歴史映画
『コルチャック先生』
 『灰とダイヤモンド』のアンジェイ・ワイダ監督による、東西冷戦終結期である1990年製作のポーランド・西ドイツ合作映画。ホロコーストで自らのユダヤ系孤児院の子供たちと共に殺されたユダヤ系ポーランド人の小児科医・児童文学作家・教育者のヤヌシュ・コルチャックを描いたモノクロ映画です。第二次大戦直前からドイツ軍の侵攻で孤児院がユダヤ人ゲットーに追われ、そこでの日々とやがて最期が訪れるまでを、孤児院の非常に先進的な活動やコルチャックの様々な側面にも触れながら描いています。また戦前ポーランドにおける反ユダヤ主義や、ゲットーにおける親ナチ派と抵抗組織など、非常に多様な要素をさりげなく含ませながら2時間の中に上手くまとめていて、詰め込みすぎという印象を全く与えないのもすごい。単純な勧善懲悪ではない質の高い映画でした。

>テレビドラマ
 『植木等とのぼせもん』『トットちゃん』など、戦後芸能史を描いた連ドラが放送中で、僕は前者を観てるんですがこれがなかなか面白い。やはり戦後史においてはこういう文化史というか大衆史というかそういうものが政治史と同等かそれ以上に重要なんだよなあと思います。
 またこちらは厳密には歴史ものではありませんが、NHK時代劇『アシガール』も面白い。戦国時代にタイムトラベルした女子高生がひとめぼれした若殿を助けるために足軽になって奮闘するというコメディで、登場する大名・武士らはすべて架空の人物ですが、戦国時代の所作や生活描写などを大河ドラマ以上に細やかに描いているのが目を引きます。内容自体は能天気コメディで難しいこと考えずに気楽に楽しめるのも良いですね。

>未見映画
『建国大業』……日本では映画祭上映のみ。1945〜1949年の国共内戦を歴史年表風に描いた超豪華オールスター中国映画。中国政府の国策映画とかプロパガンダ映画とみる向きもありますが、実際観た人の感想などを見るとそういうわけでもないようです。そもそも台湾の俳優も多数出演してて、台湾政府がそれを問題視した形跡もありませんしね。おそらく後に作られたジャッキー・チェン主演の『1911』(原題:辛亥革命)みたいなもんなんじゃないかと。本国では大量に券がばらまかれたようですが、観に来た客は全然真面目に観ていなかったなんて話もあります。日本で言うと学校が体育館で見せる文科省推薦映画みたいなもんでしょうか。
『赤い星の生まれ』(原題:建党偉業)……同じく日本では映画祭上映のみ。こちらは中華民国建国から中国共産党結成までを歴史年表風に描いた超豪華オールスター中国映画。内容については大体上記と同じようです。

>源平マンガ
 いや、それほどの大作ってわけでも。実は源平マンガをくまなく読んでるわけではないんで取り上げる本数も少なく、あと1〜2回でおしまいです。『ジパング深蒼海流』も初回しか読んでないんですよね。



#10633 
つね 2017/10/15 14:15
補給戦

どこかでドイツのソ連侵攻の時、ヨーロッパとソ連領内では、列車の線路の規格が
異なっていたため、ドイツ軍は列車輸送に苦労したという話を見たことがあります。

あと補給とは違いますが、事前に手に入れていた地図が、実際の地形と全く
異なっていたという話もあります。これはナポレオンだったかな。



#10632 
アジアのバカ大将 2017/10/15 01:04
室町時代と水滸伝とダンケルクほか

>>室町・南北朝本
 倉山満なる、いまどき教育勅語を礼賛するトンデモさんが同じ
ような本を出しています。出版社は、難民ヘイトで世界的に悪名
高い「イラストヘイター」の画集を出した青林堂です。ごらんに
なられましたでしょうか?
>>ダンケルク
 独戦車部隊および急降下爆撃部隊がイギリス軍40万をドーバー
海峡まで追い詰めながら、最後の一撃を下さず、英本土へ脱出さ
せてしまった歴史の一べージですが、なぜ独軍が英軍にとどめを
させなかったのか?「補給戦」(K・V・クレヴェルト著 原書
房)という本が解き明かしてくれます。
 「タイヤが足らなかったため」だというのです。つまり戦車隊
の進軍スピードに歩兵部隊が追いつけなかったためでした。戦車
は堡塁や敵戦闘車両には強い反面、低い位置からキャタピラや後
部エンジンを狙ってくる敵歩兵の攻撃に弱いのです。ノモンハン
事変の初期、ソ連戦車は日本歩兵の火炎びん攻撃でだいぶやられ
ました。
 ドイツ軍歩兵が戦車に追いつけなかったのは、歩兵輸送用の車
両が圧倒的に不足したいたためでした。さらに正確にいうと、必
要なタイヤを生産できなかったのです。当時、全員が車両で移動
していた軍隊は、アメリカ軍だけだったのです。
 ちなみに「補給戦」によると、ドイツ軍がモスクワを攻略に失
敗したのは、攻略戦に必要な物資の輸送力をドイツが元々持って
いなかったためだそうです。
>>中国テレビドラマ「水滸伝」の悪女
 潘金連というキャラクターの見直しは、中国で80年代に始まり
ました。潘金連は従来「淫乱」「不倫」「残虐」な「希代の悪女」
とみなされていました。これは水滸のスピンアウト作品である「
金瓶梅」の影響によるところが大なのです。原作をよく読むと、
現代のテレビ作品に近い人物像だったことが分かります。
 原作で金連は、もともと金持ちの婢女でしたが、主人の誘惑を
ぴしゃりと断ります。怒った主人は、罰として金連を小男で貧相
な武大に、嫁にくれてやるのです。武大の嫁になった金連は、家
事や家業の蒸しパン作りに精出す良妻ぶりをみせています。
 金瓶梅の方の金連は正反対で、婢女時代に主人の誘惑にのった
ばかりか、淫乱ぶりを発揮して主人を腎虚にしてしまいます。こ
れに怒った本妻のため、武大に嫁にやられえるのです。嫁になっ
てからも、家業の手伝いはそっちのけ、あだな姿を世間にさらし
て、相手を探しては浮気のし放題です。
 現代日本では、水滸伝を通読したことがある人は少ないと思い
ますので、「武五回」と呼ばれる、後に金瓶梅も生む水滸伝の白
眉部分を説明しながら、話を進めたいと思います。
 主要登場人物は、虎を素手で殺す豪傑の武松、その冴えない実
兄の武大、武大の嫁の潘金連、西門慶(金連の不倫相手の若い金
持ち。武術の心得もあって、武大を痛打して寝込ませる)、王婆
(西門慶と潘金連不倫をとりもち、武大毒殺をけしかける茶店の
女将)、うんか(梨売りの少年。王婆への小遣いせびりに失敗、
武大に金連の不倫をばらす)、検死役人(名前失念。西門慶に
買収されるが毒殺の証拠を保管し、後で武松にみせる)らです。
煎じ詰めると、武松が兄を毒殺した潘金連と西門慶を殺す話です。
 ところで主要登場人物のうち、一番の悪人は誰でしょうか?
武大を毒殺するのは潘金連で、毒は生薬問屋経営者の西門慶が提
供しますから、一見このコンビが最悪にみえます。
 しかし原作を読むと王婆が一番悪いのです。金瓶梅も同じですが、
王婆が西門慶から多額の謝礼をもらって、金連との不倫をプロデュ
ースします。何と十段構えの作戦です。
武大毒殺をそそのかすのも王婆です。なお、王婆といいますが、
王「老婆」ではありません。中国語で「王のかみさん」
くらいの意味です。「武松」というミニシリーズをみたら30代の
美人女優が演じていました。
 さて二番目に悪いのは誰でしょうか?現代中国の水滸ドラマを
みるかぎり、武松なのです。原作でも潘金連は男らしい二枚目の
武松に一目惚れ、機会をみては誘惑します。しかし、武松の方は
まったく相手にしません。
 現代のドラマでは、武松も心を動かすのですが、兄思いなので、
結局誘惑にのりません。実は、武大の方も弟が、似合いの相手の
金連が結ばれることを願っているようなのですが決して姉嫁に手を
出したりしません。
もし、二人が結ばれていれば王婆の悪だくみも決して実を結ぶこと
はなく、その結果、武大も金連も西門慶も殺されず、武松は殺人犯
にならず、王婆も刑死することななく、平和で四方八方丸くおさま
るはずなのです。
 なお山東省を車で移動した際、「武太郎」という商標を何度か見
かけました。屋外広告のイラストは蒸しパンを運ぶ武大のイラスト
です。武大は女房を寝取られた上その女房に毒殺されたマヌケとして、
人気のないキャラクターでした。現代ではそれが商標にまでなるほど、
人気を読んでいるのです。これはテレビで、丁寧に描写され「ただの
マヌケじゃないな」と認識された賜物と思われます。





#10631 
つね 2017/10/14 22:53
戦国のいちばん長い日

ボードゲームでそんなタイトルで「関ヶ原」を出していたところがあったように
記憶しています。
今さら「関ヶ原」を見てきました。もう公開縮小している時期ですし、ネタバレ遠慮なしに感想を。ちなみに原作未読でTBS版もVHS3巻目の本戦部分しか見ていません。
「戦国のいちばん長い日」を意識したわけではないでしょうが、前半は「その日」までの経緯をポンポンと飛ばしつつ見せて後半で「その日」を見せる構成は「日本のいちばん長い日」と
似ていると思いました。ただし飛ばしすぎ。伏見落城なんて秀秋のセリフで終わってるし。
そのセリフも聞き取りにくいし。特に島津。「シン・ゴジラ」みたいに「考えるんじゃない、
感じるんだ」系なら分かりますが、結構、重要そうなセリフも散りばめられていたんじゃないかな。
知識のない方お断りという姿勢を感じました。

それでも一応、通説は知っているんで流れは追えましたが、伊賀もののところは?マークが
つきました。初芽と赤耳と阿茶以外は特に女性はメイクのせいか区別がつきませんでした。
初芽の姉と、関ヶ原で首化粧や負傷者の手当(こういうシーンは貴重ですが)をしていた女性と勘違いしてました。初芽は赤耳の襲撃を受けた後、どこに人売りされたのか、なぜ関ヶ原に行っていたのか不明でした。赤耳はダブルスパイをしていたり、唐突に上杉に仕えていた設定があって、真意が最後の場面までつかめませんでした。
諜報活動はあったでしょうから三成や家康といったメジャーどころを背景にしてしまうか、伊賀ものを名無しにするかして、原作なしのオリジナル関ヶ原で良かったような気がします。
司馬関ヶ原にするのなら、司馬遼太郎の思い出から始まっているので、最後も司馬の後書きくらいで終えればもう少しまとまりが出たかと。
予告編を見る限りではもう少し三成と初芽のラブストーリーになるかと思っていましたが、まああれくらいならいいか。

戦場シーンは確かに見どころでしたが、スペクタクルシーンというより、局地戦の積み重ねというのが少し残念。でも関ヶ原は「原」とついていますが、山がちの地形のようなので史実どおりなら致し方なし。むしろ自分のいる場所以外は実態が掴みにくいという「戦場の霧」を表現していると思えばリアルな表現だったかもしれません。
ただし、石田本陣の最後はTBS版の左近突撃のほうが良かったです。
そういえば途中で左近は足を負傷しているようでしたが、負傷シーンはカットされているようです。

人物造形では三成は「頭のいい馬鹿」というのはこういうことかと感じました。また豊臣政権が人心から見放されているのを知りつつ、支えていこうとするところに悲劇を感じるべきなんでしょう。
ただ「仁」と「義」とどちらを優先すべきかがテーマになっていたようでしたが、これに「孟子」を加えると「孟子」の何たるかを説明しないと理解困難。「日本のいちばん長い日」でも「正成」がどうのとありましたが、あいかわらず不親切な監督です。
福島正則は狙ってやったんでしょうか、まんまヤンキーそのもの。
三成と左近と初芽の主従関係の始まりが簡潔すぎてその後の緊密さにつながらないように感じました。

最後に細かいことをいうと西暦年と旧暦月日を混ぜるのは明らかに間違い。最初だけ(旧暦)と出ていましたが、後は「1600年9月15日」のノリでした。慶長5(1600)年9月15日か、1600年10月21日としてくれないと。



#10630 
徹夜城(このところドラマ版水滸伝にハマっている管理人) 2017/10/08 23:04
南北朝ブーム…ではさすがにないか

ちょいと書き込みご無沙汰しました。ためこんでた話題はいろいろあるんですが、そのうちいくつかを。

>南北朝ムック相次ぐ
先日、「歴史REAL」編集の洋泉社ムック「南北朝」が出ましたが、9月中にエイムックから「図解南北朝争乱」が発売されました。後者は特に南北朝初心者向けをこころがけていて、主要人物のイラスト(漫画風なのでそのうち「マンガで南北朝」の対象にすべきか)、「図解」と銘打っただけに地図や解説をうまいことまとめていて読みやすい。それでいて荘園制など南北朝争乱にいたる少々難しい歴史背景も説明してくれるなど、なかなか好感を持って読みました。巻末に南北朝の合戦一覧(ただし「南北朝分裂」以後のみ)が参加者や勝敗まで一覧になっていて結構楽しめます。
 先日の「応仁の乱」ヒットに続けと「室町・南北朝」関連本がやたらに出てるのは、大河ドラマ連動以外では非常に珍しい光景です。「歴史街道」でしたっけ、それにも南北朝Q&Aが載ったりしたそうです。

>それ以外で最近面白く読んだ本
 岩瀬昇著「日本軍はなぜ満洲大油田を発見できなかったのか 」(文春新書)なる本に手を出しまして。著者は歴史専門家ではなく三井物産で石油輸入の専門家だった方で実際に中国満州のターチン油田から日本への輸入にもたずさわっていたそうで、そういう人の観点から戦前日本の「石油獲得史」をまとめていて、これが実に興味深かった。
 タイトルそのまんまのテーマがもちろん最後に出てくるんですが、僕が非常に面白く読んだのは、日露戦争直後から日本が樺太の最北端地域に油田を開発、ソ連成立後も協定を結んで「日の丸油田第一号」をやっていた、という話のところでした。実のところ期待したほどの採掘はできず経営的にも失敗といってよかったのですけど、この油田の開発ばなしは「へぇ、そんなことが」の連発でした。個人的に中世・近世の樺太史を調べていたこともあってなおさら興味深いものが。

 日本も満州での油田探索は進めていたようですが、結局あれこれやってるうちに南方油田に飛びついてしまったため間に合わなかった、というのが実態なのかな、という読後感でした。日本軍の一部は満州どころか華北地方各地に入り込んで油田探しをしていたそうで、中には予算獲得のためだけに油田発見をデッチあげる不届きな軍人もいたことが紹介されてました。
 この満州の油田の件だと、どうしても思い出してしまうのが、重大ネタバレなので一応題名は伏せますが、満州国を舞台にした韓国製西部劇映画の快作(ま、ここまで書けばバレバレか)の争奪戦になるお宝が「油田」だったというラストには「やられたっ!」と思ったもんです。あれ、続編作れそうな終わり方でしたが、さすがに作らないかな?

>近頃見てる歴史映像
 先日、「ダンケルク」を見てきました。う〜〜〜ん…変わったことやってるんですけど、個人的にはあまり面白いとは思いませんでした。飛んでる戦闘機は実機なんだそうですがね。

 一方で最近、ドラマ版「水滸伝」にハマってしまい、全86話をものすごい勢いで見ています。これは2014年に中国で製作された大作で、「水滸伝」全編のテレビドラマ化はたぶん二度目のはず。
 この2014年版、原作にやたら忠実な部分も多いんですが、大胆な改作が序盤から目立ち、僕にはその改作ぶりが意外と心地よいのです。以前のドラマ版ですでに現代人には受け付けがたい内容がだいぶマイルドにされたり避けられた里してましたが、今度のものはそれがさらに進み、良くも悪くも中国の「現代化」を実感してしまいます。こういうの、三国志より水滸伝によく現れるんですよね。
 あと水滸伝名物である「浮気する悪女たち」もかなりアレンジされ、それぞれ共感・感情移入できるようなキャラクターやストーリーに改変されていて、この点については梁山泊に集まる「好漢」たちがやっぱりワルに見えてきます。まだ54話までしか見てないですけど、節々に梁山泊を必ずしも正当化しない芝居が入り込むところも興味深いです。
 ただ、知る人ぞ知る「黒旋風李逵」の暴走がかなり抑えられちゃってるのが原作ファンとしては理解はするけど残念。あと妖術のたぐいは全部カットですね。

>バラージさん
 これはまた大作にとりかかられましたねぇ。続きを楽しみにしており案す。
 源平漫画作品といえば、かわぐちかいじさんの「ジパング深蒼海流」もいよいよ大詰め、果たして義経は平泉から生き延びるのかどうなのか注目してます。

>アジアのバカ大将さん
 グーグルアースとにらめっこしながら楽しく読ませていただきました。いやぁ、大変なところまでお出かけで。
 玄奘三蔵が一度はそっち経由で帰国しようとした、というのは知らなかったんで興味深かったです。そりゃ頭の中にある地理的知識からもその方向で抜けられるのでは、とは考えたでしょうね。しかし命より大事(だと思う)なお経の山を抱えてでは…
 ふと、手塚治虫「ぼくのそんごくう」で、お釈迦様からお経を「テープレコーダー」で受け取る、というギャグがあったのを思い出しました(笑)。今だったらUSBメモリとか、そもそもお経をクラウド状態で誰でも読めるようにしてますか。

>退官した元海上保安官さん
 今回の「史点」ネタへの反応、ありがとうございます。実を言えば僕はこのペトロフさんについては先日の報道で初めて知った次第で…



#10629 
退官した元海上保安官 2017/10/08 00:02


ペトロフ氏に合掌いたします。最前線に立つ者が、どれだけ戦争の引き金を引かないように努力しているか
総理は御存じなのか?
ペトロフ氏に合掌!



#10628 
アジアのバカ大将 2017/10/07 20:57
三蔵法師が通ろうとした道1

 ご無沙汰しています。
 今年前半に仕事で行ったインドの話です。インドのアッサム州レドーという田舎町へ、趣味で行ってきました。インドの最北東部にあるところです。千四百年ほど前、三蔵法師玄奘が、この近くまで来ました。
 なぜ来たかというと、地図をみると一目瞭然なのですが、この当たりは中国に一番近いのです(ミャンマー最北部を百キロほど通ります)。中央アジアの砂漠に懲りたのか、少なくとも水の豊富な亜熱帯を通って・・と考えたようです。ところが、ヒマラヤ山脈の最南部が立ちはだかっていました。標高は二千メートル程度なのですが、切り立った山脈で、よじ登るもの難しいという難所だったのです。まして、インド滞在中に入手した命の次に(命よりも?)大事な経文を大量に抱えた身でしたから、危険を避けなければなりません。もと来たシルクロードをたどり、長安へ帰りました。
 三蔵法師が諦めたのも道理で、ビルマ〜インド間に道路ができたのは1944年でした。しかも道路工事に約三千人あまりの犠牲者を出しながら、米軍が機械力の限りを尽くして、やっと完成したのでした。英国がレドーまでは鉄道を通しながら、その先へ進めなかったのは、このためです。本来両植民地をつなぎ、さらに中国へ最短距離で侵入できるという、帝国主義者らの垂涎のルートだったはずでした。実際アヘン戦争時の英最大アヘン商人のジャーディンマセソン商会が事業化調査(FS)して諦めています。
 インド〜ミャンマー間をつなぐ通路は「パンソー峠」といいます。この通路が外国人に開放されていないことは先刻承知していました。峠の手前まで行き、三蔵法師を忍び戦ったのですが、峠から三〇キロほど手前で止められてしまいます。軍隊の管理地区になっていて外国人は出入り厳禁だったのです。
 インド軍は1962年、中国との国境未定地帯の東西で、中国側が実効支配している地域へ進駐しました。国境警備の中国軍は衝突を避けたので、そのままかと思われましたが、まもなく大軍で反撃。一週間ほどで、インド軍は「組織的抵抗が不可能」になりました。
 ミャンマー人歴史家によると、当時アッサム州は大パニックになり、銀行は金庫内の紙幣を燃やし、精神病院は患者をすべて退院させて町から避難したそうです。中国軍は、自国の主張する国境まで撤退し、侵攻はありませんでした。
 もともとインド側が主張している国境線は、歴史的なものでも実効支配に基づくものではありません。植民地時代に、英国側が勝手に地図の上に線を引いたもので、しかも国際的には公表されていなかったものです。当時の外相の名前をとって、「マクマホンライン」と呼ばれます。中東三枚舌外交で史上有名な、あのマクマホンです。
 中国は、インドからみて東側(当時のアッサム州北部、現在のアルナチャールプラデシュ州)は譲ってもいい、一方同じく西側(アクサンチン地方)は中国の主張通りにしてもらいたいという主張です。新疆とチベットをつなぐ幹線道路があるからにほかなりません。両国間の話し合いは、55年たっても平行線です。
 古代史から現代史に話が飛びましたが、三蔵法師が通ろうとした道、パンソー峠については、ここまでを第1回として、大日本帝国がからむ第2回を近日中にカキコさせていただきます。長々と失礼しました。
 




#10627 
バラージ 2017/09/29 16:41
源平マンガ@

 前に昔の週刊少年ジャンプの歴史関連マンガについて書いたことがあるんですが、それ以外の漫画誌の歴史関連マンガで読んだものを考えてみると、やはり自分の好みを反映してか源平関連のものが多いことに気づきます。なので今回は僕の読んだ源平関連マンガの話。ちょっと1回では書ききれなそうにないんで、今回は史実準拠系の源平マンガについて。

 僕が最初に読んだ歴史漫画は、たぶん学研の「ひみつシリーズ」の『日本の偉人まんが伝記事典』だったと思います。叔母に誕生日プレゼントでもらったひみつシリーズが面白くて、その後もちょこちょこ買ったんですが(『できる・できないのひみつ』『忍術・手品のひみつ』『発明・発見のひみつ』あたりが面白かった)、最後に買ったのが『日本の偉人まんが伝記事典』でした。『世界〜』とどっちにしようか迷って『日本〜』にした記憶があります。物置を整理したらボロボロになったのが出てきたんでパラパラ読み返してみたら、源平前後の人物は平清盛・源頼朝・源義経・北条政子といったあたり。義経の項では大陸に渡ってジンギス・カンになった説にもちゃっかり触れてました(笑)。

 史実準拠系漫画はその後しばらく空いて、次はたぶん石ノ森章太郎の『マンガ日本の歴史』だったんではないかと。原始時代編以外はほぼ読んだと思います。源平合戦前後を描いてるのは、「14巻 平氏政権と後白河院政」「15巻 源平の内乱と鎌倉幕府の誕生」「16巻 朝幕の確執、承久の乱へ」あたり。内容についてはかなり忘れてるんで、この間たまたまブックオフに行ったときに単行本を立ち読みしてみました。
 確か「15巻」の最後が頼朝の将軍就任と鎌倉幕府成立で、「16巻」が頼朝死後から始まりその間が省略されてたような記憶があったんですが、一応「16巻」の冒頭で富士の巻狩りで頼家が獲物を仕留め頼朝が喜ぶというシーンが描かれてました。ただしそのまま頼朝の死と後を継ぐ頼家の時代に移り、曽我兄弟の仇討と源範頼の配流とか、関白九条兼実が失脚して源通親が朝廷の実権を握った建久七年の政変は描かれません。あとこれは単純なミスでしょうが、奥州の藤原泰衡・国衡の兄弟順が逆ですね。秀衡の後を継いだ泰衡を兄、国衡を弟としてますが、国衡は庶長子で兄です(文庫版では修正されたのかな? 文庫はそのあたりがブックオフになかったんで確認できていません)。
 全体的には当然ながら史実に沿った描写ですが、さすがに20年以上前のものなんで今となってはやや古いところもあります。このあたりの歴史についてはこの20年で新発見や新解釈も結構ありまして。例えば非常に大きなものとしては、頼朝の征夷大将軍就任の経緯についてそれまでの通説を覆す発見が近年されましたが、石ノ森マンガはそれ以前の作品なんで当然ながら旧説のままです。また梶原景時の変や比企能員の乱の描写なども、北条びいきのための曲筆があると言われる『吾妻鏡』に忠実で京都側の記録である『玉葉』や『愚管抄』の記述を採用していないのは、参考文献とした石井進や五味文彦の著作の反映なのかもしれません。

 続いて同じ中央公論社のマンガ日本の古典シリーズから横山光輝の『平家物語』。厳密には史実系ではなく軍記物語なんですが。平家物語は長すぎて全3巻には収まらなかったのか少々ダイジェスト気味でしたね。確かあとがきで横山御大は、「登場人物が多い上にみんな名前が似てるんで、それぞれの人物の関係性を把握するのが大変だった。誰が誰だかわからなくなった」みたいなことを書いてたように記憶してるんですが、読んでるこちらも登場人物の顔がみんな似てて誰が誰だかわかりにくかったです(笑)。まあその辺『三国志』とおんなじで(笑)。

 そしてこれもマンガ日本の古典シリーズの『吾妻鏡』。著者は竹宮惠子。萩尾望都・大島弓子と並ぶ女性漫画家の大家ですね。代表作は『風と木の詩(うた)』『地球(テラ)へ…』など。あとがきによると竹宮さんが当初割り振られたのは『土佐日記』だったんですが、自ら希望して『吾妻鏡』に変えてもらったそうです。
 竹宮さんは横山御大とは対照的に描く顔のバリエーションが非常に豊富で、親子兄弟親類一族はみんな似た顔ながら微妙にみんな違う顔という描きわけがなされており、その画力には驚かされます。これもあとがきによると、読後の感想でいろんな人から「登場人物がみんな美男子で……」などと言われる一方で、女性読者からは「ムサイ男ばかり」と敬遠されたんだとか。
 内容は基本的には『吾妻鏡』に沿ってるんですが、意外と全く忠実というわけでもありません。理由の1つは『吾妻鏡』自体が未完成で、1183年、1196〜99年など欠落している部分があること。そのためその辺りは『玉葉』『愚管抄』など京の記録や『平家物語』などの物語類、参考文献(こちらも石ノ森マンガと同じく石井・五味の著書)の見解などに頼るしかありません。そのためもあってか物語類にしか出てこない常陸坊海尊や巴御前なんかも登場してる他、『平家物語』に出てくる逆櫓論争や『源平盛衰記』に出てくる火牛戦術なんかも描かれてます。源実朝暗殺については『吾妻鏡』の公暁単独犯行説ではなく、当時の流行りだった三浦義村黒幕説と北条義時黒幕説をミックスした両者の共謀説を取ってるんですが、これは参考文献として使われた石井・五味両氏の著書の影響でしょう。
 作者独自の解釈や創作なんかも加えられていて、巴が源義仲の妻で嫡子義高の母とされていたり、比企能員の乱のきっかけとなった能員の謀議は北条政子が立ち聞きしたのではなく源頼家側近である弟の時房が政子に報告したことになってたりします。個人的にうれしかったのは義経の妻である河越重頼の娘の創作描写がわりとあったこと。妾の静御前ばかりクローズアップされることが多いんで、ちゃんと彼女にも目配りしてくれてるのはうれしかった。その一方で頼朝の妾・大進局と貞暁の母子や、城氏の乱で活躍した女武者・坂額御前が、台詞やナレーションで処理されてしまったのは残念。これらの人たちは大河ドラマ『草燃える』でも同様に未登場なんですよね。
 その一方でやはり『吾妻鏡』のマンガ化なんで、北条贔屓から来る頼家期の曲筆や、畠山重忠や北条泰時の極端な理想化は『吾妻鏡』そのまんま。また、『吾妻鏡』は1266年の宗尊親王京都送還までを記してますが、本作は1221年の承久の乱でほぼ終わり。このあたりも『草燃える』といっしょです。その後はエピローグとしてダイジェストで描かれ、さらに宗尊送還後の元寇・北条高時執権就任・後醍醐天皇即位にも触れて『太平記』の時代に突入していく……という筆の置き方になっています(このあたりも上手い)。このシリーズは他に上記『平家物語』と、さいとうたかをの『太平記』を読んだんですが、この『吾妻鏡』が一番面白かったですね。少女マンガと敬遠することなかれ。男が読んでも全く違和感はありません。

 次回へ続く。



#10626 
ろんた 2017/09/19 00:55
地震・雷・火事・親父……じゃなかった

史点更新お疲れ様です。

朝鮮人虐殺については、黒澤明の自伝『蝦蟇の油』とか、千田是也の芸名の由来とか、有名人の証言だけでも相当数あるんですがね。人は見たいものを見、聞きたいものを聞くものだ、とは承知しているんですが……。一方、目撃談ではありませんが、山崎今朝弥の「地震・流言・火事・暴徒」(森長英三郎編『地震・憲兵・火事・巡査』岩波文庫所収)には、大正12年10月22日付けの東京弁護士会の決議が引用されていて、これが実に興味深い。要約すると……

(1)朝鮮人の暴行、殺傷、放火、強盗、強姦、毒薬投入は事実である
(2)しかるに関係当局はこれらを否定した
(3)これでは国家のため犠牲的に奮起した自警団等の行為が、単に流言飛語に惑わされたことになる
(4)ならば彼らは刑事責任を問われ、火災保険は支払われず、朝鮮の統治上、人道上、外交上の問題が生じる
(5)これを放置するのは武士道を以て世界に誇る大和魂の一大恥辱であり、光輝ある日本史の一大汚点である
(6)従って、会員にあっては朝鮮人の暴行の事実をご報告願いたい
(7)新聞紙上には朝鮮人暴行の一部が発表されたが
(8)まだまだその事実はあるはずなので、この決議を掲示する

火災保険云々は、地震が原因だと免責で支払われないけど、朝鮮人が放火したのなら支払いがあるということでしょう。それプラス自警団の刑事責任を免除するため、組織的な朝鮮人暴動をでっち上げようとしているわけです。人間のやる事って、あまり変わり映えしませんね。

山崎今朝弥は明治末から戦後まで活動していた弁護士で、社会主義者の事件を多く担当し、奇人変人として知られていました。この決議に山崎は怒りのコメントを付けています(大正12年12月14日付)。こちらも今日、通用しそうなのが情けない。ちなみに朝鮮の自治、独立に言及しているのは、当時としてはかなり思い切った発言だったようです。

「驚くなかれ、恥ずるなかれ、今度こそ僕も呆(あき)れて腹が立たない。憚りながら僕もこれで名誉なる会員の一人である。」
「鮮人の殺された数はいくらがホントであろうか。……とにかく二人以上一万人以下なることは確からしい。」
「……ただなぜ吾々はこれを秘(か)くそうとするか。秘くし果せるものならそれもよいとする。どうしてそれが隠蔽しおおせると考えるか。……秘くそう蓋をしようはまだ無智の類、馬鹿の類で、いささか恕(ゆる)すべき点がある。理が非でも、都合があるからどこまでも無理を通そう、悪い事なら総て朝鮮人に押し付けようとする愛国者、日本人、大和魂、武士道と来ては真に鼻持のならない、天人共に容(ゆる)さざる大悪無上の話である。」
「……日本人にはナゼ愛国心のある奴が一人もないか、ナゼ目先の見える者がないか、ナゼ遠大の勘定を知らないか、ナゼ早く悪い事は悪いと陳謝(あやま)ってしまわないか。……鮮人問題解決の唯一の方法は、早く個人には充分損害を払い、民族には直ちに自治なり独立なりを許し、以て誠心誠意、低頭平身、慰藉謝罪の意を表するより外はない。」

あと韓国では「朝鮮人」というと、「差別だ」と糾弾されそうな雰囲気になっているようですが、その一件はまたの機会に。



#10625 
つね 2017/09/15 02:17
「物見櫓」史&史点感想

「史劇的な物見櫓」史ありがとうございます。
2001年8月の私の初書き込みを見ると、太平記大全で辿り着いていて、「あと少しですが楽しみにしています」とあるので、当時絶賛連載中だったようです。
掲示板の書き込みを精査すればかなりの「物見櫓」史が再現できそうですが・・・、まあ「後世の歴史家」に任せましょう。リタイアしたら(さらに25年以上後予定)、手をつけるかもしれませんので、消さないでください。でもそのころは80歳現役時代かもしれないなあ。

20年もあれば消えてるコーナーもありますよね。記憶にないから、見てないんだろうと思いますが、まあ去る者日々に疎しという奴かもしれません。

>羽田さん
小沢さんに振り回された政治人生だったような。小沢さんも黒幕的存在で見られますが、どうも大事なところでポカが多い印象を受けます。本人は黒幕というより脚光を浴びるのが嫌な縁の下的存在が好みなのではないかと思いますが、「神輿は軽いほうがいい」的な発言もあったしなあ。弔辞は感情がこもったものだったようですが、私が思い出すのは2人が袂を分かった時に見た業田良家さんの4コマ漫画(笑)。

1コマ目:「いっちゃん」「つとむちゃん」涙ぐみながら握手する2人
2コマ目:「小沢とは盟友だったのに、どうしてこんなことに」タクシーの中で考え込む羽田さん
3コマ目:「運転手さん、道が違う!」自民党本部に入り込むタクシー
4コマ目:実はタクシーの運転手は小沢さん。「降りろよ。本当は戻りたかったんだろ」「小沢! そんなだから友達を失うんだ!」

漫画を文章で再現するのは難しい・・・。

>銅像
銅像関係だと、ダヴィデ像が卑猥だとか、伊豆の踊子像が女性蔑視だとか、そんな批判もありましたね。歴史を超えて万人が称賛する芸術(小説や絵画なども)なんてないんだから、そのときそのときの価値観で破壊していたら歴史的作品なんて残らなくなってしまいます。よく小説の差別的表現で使われる「差別的な表現もありますが、当時の価値観を反映して残しています」みたいな説明追加でどうにかならないものか。まあそれでも支持者批判者どちらでも騒ぐ人はいるんでしょうが。




#10624 
バラージ 2017/09/12 23:28
名画座と史点

 歴史映像名画座および史点の更新、ご苦労様でございます。
 今回、名画座に掲載されたもので僕が観たのは中国ドラマ『曹操』だけ。しかも以前書いたとおり、半分くらいで挫折してしまいまして……。正史準拠の曹操主人公ドラマに、正史好きの曹操好きとしては「おおっ」と思って観たし興味深かったんですが、やはりドラマとしては途中で飽きてしまいまして。
 その他の作品も興味深い。日本未公開の映画が続々ですが、『大遼太后』なんて映画があったんだ〜、と思って調べてみたら以下のような個人サイト情報がヒットしたんですが。
http://guzhuangjuchang.pepper.jp/dianshiju/qidanxiaotaihou.html
 こちらによると全8話の連続ドラマのようなんですが、総集編化されて劇場にかかったということなんですかね?

 史点の小池都知事はもともと安倍首相と大して変わらん右寄りな人と思ってたんでやっぱりかという感じなんですが、民進党代表になった前原氏も(前記2人ほどではないものの)これまた右寄りなんで、選択肢がもうないなあというのが正直なところ。村上春樹が昔エッセイで「マイナス5とマイナス3のどっちか選ぶために選挙行けって言われても、行かないよそんなの」と言ってましたが、まさにその通りの気持ちです。

>1997年
 『タイタニック』は年末公開なんで、1997年の興収トップ10には入ってないんですよね(入ったのは翌年)。逆に前年末に公開された『インデペンデンス・デイ』が97年の興収トップ10に入っています。



#10623 
徹夜城(20年過ぎても特に変化がない気がする管理人) 2017/09/11 13:01
「史劇的な物見櫓」史

>つねさん
 う〜ん、「史劇的な物見櫓」史ですか。トップページにあげてる更新情報「おしらせ」は過去ログとってないんですよ。だから細かい更新履歴は再現できないんです。
 一応手元にあるいくつかの素材と、自身の記憶とで開設当初の「史劇的な物見櫓」のコンテンツを挙げますと、

「しりとり歴史人物館」
 初回の「足利尊氏」は開設時以前の脱稿日時が書いてあります。当初はあれを「週刊」ペースで更新しようという無茶な野望を抱いていたんですよねー(汗)。数年に一度のペースになっちゃってますが終わったつもりは毛頭なく、実は次回の原稿も半分くらいはとっくにあがってまして、その次の人も内定していたりします。

「俺たちゃ海賊!」
 …は、当初からあったような。もともと僕の専門がこっちですからね。倭寇ワールドの面白さを世間に広めよう、という意図もあったのですけど、これもしばし放置状態。

「歴史映像名画座」はもっと後だったように記憶してます。「栄耀映画」のコーナーを作ったのが翌年なんで、その時とセットかと。
あと、相当古参の方でないとご存じないでしょうが、「歴史本」の紹介コーナーがあったんです。そのうちに更新止まって廃止しちゃったわけですが。そこから派生したのが「ヘンテコ歴史本」のコーナーで、これも次回作は一応内定してます。
 あと「珍文漢文」なんて漢文読み解き講座みたいなコーナーも一時期存在しました。

 南北朝関係のコーナーは案外遅いんです。2001年か2002年に「大河ドラマ太平記大全」を連載したら結構反響があったもんで(当時は完全版DVDも出てませんでしたし)、調子に乗って「室町太平記」を週刊ペース(後半崩れましたけど)で連載し、本家大河の「武蔵」と競ったりしてました(笑)。それでいろいろと南北朝コーナーが増えていった、という経緯ですね。南北朝がらみもいくつか待機状態の企画が存在します。

>バラージさん
自分でも「1997年って、何してたっけ?」な感じなのですが、公開映画を並べてみるといろいろ思い出しますね。「タイタニック」と「もののけ姫」がバカ当たりした年だったんですなぁ。「タイタニック」なんて公開から一か月以上たって、「そろそろすいたかな」と映画館に見に行ったら、「立ち見」になってしまったのを思い出します。通路や階段にまで人がいましたからねぇ。



#10622 
バラージ 2017/09/09 00:39
二十年ふた昔

 20周年おめでとうございます。

 1997年というと個人的に真っ先に思い浮かぶのは香港返還。中国政府による表現の自由制約を危惧した香港映画人が(それだけが理由ではないでしょうが)ハリウッド進出を図ったりしてましたが、思ったほどには政府介入がなかったのと、やはり異国のハリウッドでは文化の違いなどから思う通りの映画製作ができなかったり語学力の問題やステレオタイプな役ばかりだったりなどで、結局今ではみんな香港に帰ってきてしまいました。その間に香港の映画界は衰退し、逆に隆盛を誇る中国映画は今やかつての香港映画のような娯楽至上主義になってかつてのニューウェーブのようなアート映画はどこへやら。それどころか今や世界最大の映画市場となった中国にハリウッドが秋波を送る時代に。
 さらに1997年と言えば、『シュリ』の公開が2000年、『冬のソナタ』の放送が2003年で韓流ブーム到来はまだ先のこと。邦画復活ののろしを上げた『世界の中心で、愛をさけぶ』は2004年で、邦画洋画の興行収入が逆転する時が来ようとはその頃は予想だにしてませんでした。先のことなんてわからんもんです。

 ちなみに1997年の日本公開映画は洋画では『タイタニック』『イングリッシュ・ペイシェント』『フィフス・エレメント』『スター・ウォーズ特別編』三部作など。邦画は『失楽園』『もののけ姫』『20世紀ノスタルジア』など。『パラサイト・イヴ』とか実写版『ときめきメモリアル』とか『北京原人 Who are you?』なんてのもこの年で、あーそういうのあったなあと時代を感じます。



#10621 
つね 2017/09/07 00:22
「史劇的な物見櫓」史

>「史点」はおろかこの「史劇的伝言板」も当時はなかった

確認すると、
1997年9月4日:「史劇的な物見櫓」開設
1998年6月2日:「史劇的伝言板」設置
1999年2月10日:「ニュースな史点」開始
ですね。
とすると、サイト開設時の内容は「太平記大全」とか「俺たちゃ海賊」とかでしょうか?
この機会に「史劇的な物見櫓」史を綴られては? といっても、トップページにある「お知らせ」から「史劇的な物見櫓」に関係のあるものを20年分引っ張ってきて一覧にすれば(それだけでも大変そうですが)十分見ごたえありそうです。記録が残っていれば。



#10620 
徹夜城(20年もやってる割に中途半端なコーナーばかりの管理人) 2017/09/05 13:06
二十執念

>つねさん
 ありがとうございます。今年のはじめに20周年になる話題をしましたが、あっという間に九月になってしまい、結局20周年記念で何にも用意ができませんで、やむなくPCエンジンFXのところともどもトップページに「開設20周年」と掲げるだけになりました。
 ま、更新企画だけはいろいろとあるので、これを機に重い腰が上がれば(汗)。思えば20年もやってていろいろコーナーあるけど中途で止まってるものがあまりにも多いですね。コンスタントに更新してるのは史点と南北朝列伝と歴史映像名画座くらいですか。

 今さら報道で気づかされましたが、ダイアナ元妃が事故死した直後の開設だったんですねぇ。といっても「史点」はおろかこの「史劇的伝言板」も当時はなかったのでその痕跡はいっさい残っていません。



#10619 
つね 2017/09/04 03:14
あらためて20周年おめでとうございます。

1月のフライングから、今年もはや9月ですが、20年も早いですね。
今後ともよろしくお願いします。

10年前はどうだったんだろうと史点を探ると
・瀬島龍三氏死去
・キログラム原器変化
・イスラエルでネオナチ出現
・安倍総理退陣
という具合で、歴史は繰り返すというか、10年程度では変わらないというか。

>ナチス隠し
ナチス支持発言を違法とするのは、公然わいせつ罪みたいな感覚かなあとも思ったり。それでも「私はあなたの発言の内容は否定するが、発言する権利は支持する」が「表現の自由」だろうと思っているので疑問が残っています。もちろん差別発言やヘイトスピーチ、虚偽や詐欺に繋がることは許されないのですが、この「間違っている」という判断も難しい。いくら実証や科学的なことを並べても「進化論は嘘」という人はもちろん自分が間違っているとは思っていないわけですし。まあ宗教とはそんなものですが。そういえば、昔、途中で挫折したフロムの「自由からの闘争」でたしか「キリスト教とナチスは権威主義的という面で同一である」とあった気がします。「もちろん教義は全く異なるが」ともありましたが。
麻生さんはなんでしょうね。失言癖というか、本音が出たというよりは、ちょっと日本語が不自由なのではと思わせるところが。擁護にはなりませんが。



#10618 
バラージ 2017/09/01 21:11
本の話など

 先日から読んでた『「天皇機関説」事件』(山崎雅弘、集英社新書)を読了しました。よく行く本屋の第二次大戦関連書特集コーナーにあったのを見かけて、手に取ってみたら面白くて買ってしまったものです。美濃部達吉が標的とされた天皇機関説事件については通り一遍しか知らなかったんですが、「なるほど、こういう事件だったんだ」と非常に興味深く読みました。事件とともに推し進められた「国体明徴運動」についても今まであまり知らなかったんで興味深かったですね。天皇機関説事件についての一般向け概説書はほとんどないそうで、それが本書を執筆した理由の一つだとのことです。
 前後の言論弾圧事件として滝川事件や津田左右吉事件についても少々触れてますが、二・二六事件についても議員辞職した美濃部が自宅を訪ねてきた暴漢に銃で撃たれた5日後、永田鉄山惨殺事件(相沢事件)の第10回公判の翌日に起こったことに触れ、皇道派(美濃部を攻撃し国体明徴運動を推し進めた勢力の1つ)と統制派との対立を背景とした、「天皇機関説事件と国体明徴運動につながる一連の流れに位置するもの」で、「日本陸軍という組織が内包していた問題点や歪みを、凄まじい勢いで噴出させた現象」に他ならないとする説明に非常に説得力がありました。
 著者の山崎氏も「あとがき」に書いておられますが、この事件及びその頃の社会状況と近年の日本の社会状況に似通ったところがあり、重い気分にさせられるところがありましたね。
 そういえば天皇機関説事件についての映像作品もないなあ。言論弾圧事件はドラマ化・映画化がしにくい題材なんでしょうか。黒澤明監督の『わが青春に悔なし』(未見)が滝川事件をモデルにしているくらいしか思いつきません。

 それからすっかり忘れてましたが、以前購入したと書いた『足利義稙 ―戦国に生きた不屈の大将軍―』(山田康弘、戎光祥出版「中世武士選書33」)もすでに読了しております。これもなかなか面白かった。10代義稙・11代義澄・12代義晴・14代義栄の4人の足利将軍はほんとマイナーな存在で、一般向けの本なんて当然ながら全く期待できないと思ってたんでうれしいですね(お値段はやや一般向けではないんですが・笑)。

>風と共に去りぬ
 以前読んだ『「風と共に去りぬ」のアメリカ 南部と人種問題』(青木冨貴子、岩波新書)によると、原作ばかりでなく、映画も現在では公的な場所での上映は禁止されてるとのこと。

>映画の話
 こないだ映画館に行ったらチェン・カイコー監督、染谷将太主演の中日合作映画『空海 KU-KAI』のチラシがありました。う〜ん、チェン・カイコーは『さらば、わが愛 覇王別姫』は歴史的傑作だったけど、それ以後のはいささか落ちるからなあ。チャン・イーモウに差をつけられる一方で、最近作の『道士下山』はついに日本ではDVDスルーになってしまいました。



#10617 
徹夜城(そろそろあちこち20周年なんだけど特に何の用意もない管理人) 2017/09/01 15:29
映画「関ヶ原」など

昨日、見てきました。映画「関ヶ原」。
事前に予想できたことなのですが、どうしてもかのTBSの大型ドラマ「関ヶ原」と比較してしまい、映画という媒体ゆえに時間がより制限されることもあって、さらなるダイジェスト版を見せられているような、あるいは全体的にまとまりを欠いて「とっちらかった」ような印象を受けてしまいました。この点は、TBSドラマ版を未見の方はどう思うかな、と意見を聞きたいところです。
 この映画を脚本・監督した原田眞人さんは、これ以前にも「日本のいちばん長い日」もやってまして、ここでも大傑作とされる旧作と何かと比較されてしまってました。この新版「長い日」についてはまぁまぁ…と思ったんですけど、「関ヶ原」については特に一本の映画としてまとまりを欠いちゃってるのではなかろうか、というのが率直な感想です。
 原田演出というものがそういうものなんですが、まずセリフが聞き取りづらい。説明的でなく自然といえばその通りなんだけど、「え?今のセリフなに?」とおいてけぼりを食う観客は多いはず。もともと史実展開を知ってる人には分かるだろうけどそうじゃない人も多くいるわけで、このため前半とくに展開が分かりづらい印象を受けます。岡田准一熱演の三成の「正義の人」キャラはいいんですが、豊臣秀吉のマイナス面にかなり触れるため、なんで三成がそこまで頑張るのかよく分からない。対していよいよ天下取りに臨む家康の方も(どうしても森繁と比較しちゃう)いやらしさよりも豪快さが目立ち、対決ドラマとしてもあまり好対照になってないきらいがあります。司馬遼太郎の原作の本文引用のナレーシも映画でやる意味はないように思いましたし…(だいいち原作といろいろ趣向が違うんですよね)。

 配役的には歴史映像マニア向け(笑)。前に黒田官兵衛やってた岡田三成、信長・勝家に続いて家康も制覇してあとは秀吉かな、と思わせる役所広司。お父さんのクローン化が激しい平岳大の島左近。松山ケンイチが直江兼続役でちょっとだけ顔を出します。あれ、と気づいたのが島津義弘で、「葵徳川三代」と同じ麿赤児さんが演じてました。
 関ケ原の戦い前後については最近の研究動向ではこれまでおなじみの、通説が次々ひっくり返されておりまして、その辺どうするのかな、と思ったのですが、大筋では司馬原作ベース、つまりは通説的にやってます。例えば七将に命を狙われた三成が徳川屋敷に逃げ込むところとか。その一方でTBS版でも印象的だった大谷吉継が味方につくくだりなんかはカット(そもそも創作とされる)、松尾山への催促の鉄砲撃ちかけもやらない(これも後世の創作だそうで)、といった具合にそこそこ最近の見解に沿ったところもあります。また、小早川秀秋については従来のような「決断できない小心者」「歴史の重大な岐路をゆだねられてしまった、およそふさわしくない男」といったイメージではなく、かなり同情的です。捕えられさらし者にされた三成に秀秋が対面するシーンは完全にオリジナルなものとなってました。

 いろいろ悪く書いてきちゃいましたが、合戦シーンに関しては邦画史上屈指の迫力、とほめてあげたい。CGとか技術面の進歩もあるにはあるんでしょうが、こうした「鎧もの」の大軍勢のぶつかりあい、激闘を描いた日本映画って実のところ数えるほどもないんですよ。この点に関してはTBS版を圧倒してました。ま、映画なんだし、関ケ原なんだし、そこらくらいはしっかりしないとねぇ。
 歴史、ということではこの戦場がかつて壬申の乱で大海人皇子が陣を敷いたところ…というやりとりがあるのが目を引きましたね。さらに言えば南北朝時代にも北畠顕家の奥州軍と足利幕府軍が激突した「青野原の戦い」の舞台でもあります。さすがにそっちには触れてくれませんでした。


>南北朝本
とおりすがりの見栄っ張り様(こうお呼びするのも気が引けるのですけど)、情報ありがとうございます。一応僕も南北朝関連本は常にアマゾンでチェックしてますんで、出ることは知ってました。昨日「関ヶ原」鑑賞のついでに本屋で買ってきました。
 この「歴史REAL」の南北朝ムック、内容的にはそう目新しくはない…というのが南北朝マニアの視点ではありますが、こういう本が出ること自体が「事件」であるというのが南北朝マニアの哀しいところで(笑)。たぶん大河「太平記」放送以来のことだと思います。
 どうも先日の「応仁の乱」のヒットが呼び水らしいんですね。それなら室町時代本を、しかし応仁の乱だけではネタがすぐ尽きるし、じゃあさかのぼって南北朝、ってことになったのかなぁ、9月中には「図解南北朝争乱」という本まででるんですよ。どうしちゃったのよと(笑)。まさか南北朝大河の水面下の動きでもあるのか…いや、時期的にそれはないかな。
 僕も人物事典なんぞは作ってますが、もっと通史的に流れを終えるような、初心者からマニアまで対象にできるような企画は抱いてるんですけどね。このサイトでやってみたいんだけど、いつ実現できることやら。


>バラージさん
 だいぶ遅いレスになってしまいましたが、ご紹介の海外ドラマのうちオスマン帝国のやつは以前から英語字幕版をチビチビみてるやつでして…英題が「Magnificent Century」ですから「華麗なる世紀」「栄光の世紀」といったところなんでしょうけど、ついに日本でも目をつけたところが出たんですね。しかし邦題、もうちょっとどうにかなんなかったか。
 そもそも内容的に決して「外伝」ではないんですよ、確かにハレムを舞台にした「大奥もの」の趣向が強い作品ですけど、スレイマン1世の帝国拡大の過程もきっちりやってて合戦シーンなんかも力は入ってます。ロシア女性でスレイマンの寵妃になるヒュレム、ギリシャ出身でスレイマンの側近から宰相となるイブラヒム、そしてスレイマンの三人が主軸でまぁドロドロの宮廷闘争劇を展開してくれるわけです。ふだん僕はネタバレ防止で史実を調べないんですが、この三角関係の結末は調べちゃいましたよ。いや、これがまた大変な展開になるんですな。
 これが一本一本が映画なみに長いんですよ。だからチビチビとしか見られなくって…でも抜群に面白いのは確かで、日本でも目を付けた人がいたのは嬉しい。
 ネット上で当たってるといろいろ見つかるもんでして、カルロス1世=カール5世のテレビドラマなんかもあるようです。

>孟きょうさん、黒駒さん
 「風雲児たち」映像化、やはりファンは多いようで反応があちこちで見られますね。
 「もともと真田丸後日談?」企画だったかどうかはわかりませんが、かつての「真田太平記」ファンの間でも、90過ぎた信之がお家のために活躍する池波正太郎の小説「獅子」の映像化を望む声があります。渡瀬恒彦さんもいい年になってきたし…と思っていたら無念にもお亡くなりになってしまいました。大泉洋さんの老後に期待しますか。


>ろんたさん
「風とと共に去りぬ」は映画版を見てるだけ、あとは研究本を読んだ程度なんですが、あれも南部側の人間の「本音」がよく出てますね。映画版はあれでもマイルドにしてるんですが公開時比派もかなりあったそうです。映画史上重要な作品ながらKKKが完全に正当化されちゃってる「国民の創生」なんてもっと露骨ですもんね。
詐欺ネタは好きなんですが、「クヒオ大佐」については大ざっぱにしか聞いてなくて、例の映画も未見です。

>つねさん
確かにドイツやオーストリアでのナチス関連の「根から断つ」というよりは「表面的に見えなくする」ようなやり方には僕も疑問を感じなくはないんですが、ご当地ゆえの難しい問題、ってこともあるでしょうしねぇ。「我が闘争」の著作権切れでの対応なんかでもそれは思います。
一方の日本では一部にきわめてファッション的というか、アブなさの魅力というのか、ナチスやヒトラーをみやみに持ち上げちゃう人がたまにいるなぁ、と思う、例のクリニックのお方の最近の言動なんですが、麻生さんまでまた口をすべらしてそろって世界で話題にされちゃってるようですね。





#10616 
とおりすがりの見栄っ張り 2017/08/31 21:18


始めまして失礼いたします。
新参者が突然書き込むのは気が引けますが、何卒ご容赦ください。

今晩本屋をうろついていたところ、珍しく南北朝モノの雑誌を見かけました。
歴史REALの最新号のようです。

雑誌で特集されること自体が稀有な時代ですので、思わず購入してしまいました。
その勢いのまま、これまでは見るだけだった当掲示板に書き込んでしまった次第です。

少しでも情報提供になれば幸いです。
既出の情報であったのなら、申し訳ありません。



#10615 
つね 2017/08/26 05:57
ナチス隠し

ナチスの思想はもちろん否定されるべきで、ハーケンクロイツやナチス式敬礼の禁止も分かりますが、全てを隠してしまうのはどうかなあ、と思うところがあります。
「ホロコースト否定論」なんかも主張はさせておいて、虚偽や矛盾を突いたほうが有意義な気がするのですが。禁止するから、地下に潜って信じる人も出るのでは。「アポロは月に行かなかった」説も、法律で主張すること自体を禁止したらかえって真実味が出てきそうです。ホロコーストの場合、犠牲者がいるから冷静になれない部分があるかもしれませんが。

「ナチス式敬礼」って小学校(普通の公立校)の時、運動会の行進でやってたぞ、とか甲子園の選手宣誓は?と思って検索すると、選手宣誓のポーズは1920年のアントワープオリンピックからでナチスとは関係ないようです。
ちなみに、wikipediaでは

https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%8A%E3%83%81%E3%82%B9%E5%BC%8F%E6%95%AC%E7%A4%BC

Hは8番目のアルファベットなので、Heil Hitlerを暗示する88という数字自体が禁止されたりしているそうです。米寿が・・・。たしかにそういう意味で使用する連中もいるでしょうが、ここまでくるとさすがにバカバカしい。



#10614 
ろんた 2017/08/25 23:25
大統領のご乱心

史点更新、お疲れ様です


>リー将軍の銅像の一件
個人的に『風と共に去りぬ』の新訳(岩波文庫版)を読み終わったところだったんで、この事件、妙に身近に感じてしまいました。ハーケンクロイツの側で南部連合旗(スターズ・アンド・バーズ、本当はディキシー・フラッグ)を掲げてるアレなヤツを見かけましたし、KKKといえば『風と共に去りぬ』の男性キャラのほとんどが加入してたりするし(笑)。

しかし、群衆に車で突っ込んでるのに「どっちもどっち」って、正気か? 不法移民を虐待したってんで有罪判決を受けた保安官を、特赦にするんじゃないか、というのも話題になっているようですが。

そうそう、ストーン・マウンテンってとこの岩肌には、南部連合大統領、リー将軍、ジャクソン将軍の三人が並んでる巨大なレリーフがあるそうだけど、あっちはどうするんだろう。


>日本はまだマシ?
上の件だけじゃなく、トランプ大統領のニュースが取り上げられると、なぜか日本はそんなんじゃなくて良かった、的な結論(?)になることが多いような気がするんだけど、トランプを批判している物差しで安倍晋三を測ったらどうなるんだろう? 日本でも教科書に「河野談話」が乗ってるってんで、脅迫まがいの抗議をする連中がいるわけだし。


>ステレオタイプとしてのナチス
ドイツ=ナチスというイメージは、米国製戦争映画の影響だと思うんですけど、「ガールズ&パンツァー」って、タイトル自体、こうしたステレオタイプの影響下にあるんじゃないか、と思ったりして。見たことないけど(汗)。

それはともかく、わたしがひっくり返ったのは、「キン肉マン」よりちょっと前、スーパーカー・ブームを巻き起こした「サーキットの狼」(池沢さとし)。主人公の愛車はロータス・ヨーロッパ。そしてライバルの愛車はポルシェ911で……(笑)。まあ、ポルシェとナチスには深い因縁がありますからね。


>スケールのデカいウソ
被害は比較的小ぶりですが、嘘のでかさという点では「クヒオ大佐」を取り上げて欲しいですね。映画にもなったし。なにしろエリザベス女王の親戚でカメハメハ大王の親戚。職業は米空軍の戦闘機パイロットってんですから、無駄にスケールがでかい。しかもこの人、メディアでさんざん手口がさらされたのに、出所したらやはり同じ手口で犯行を重ねたというのがまた凄い(笑)。



#10613 
バラージ 2017/08/23 16:43
またもテレビ番組の話他

 またもNHKの番組ですが、BSで放送してたドキュメンタリードラマ『華族 最後の戦い』を観ました。終戦の日前後の戦争関連番組の1つと思ってましたが、同時に現天皇(平成天皇)の退位問題と昭和天皇の戦争責任からくる退位問題を絡めてましたね。木戸幸一・近衛文麿・松平康昌が取り上げられてましたが、切り込みがやや甘く、あまり新しい知見はありませんでした。木戸の日記をもとに、昭和天皇に退位の意向があったことが描かれてましたが、研究者には逆に昭和天皇は退位に消極的だったとの説もあります。
 『終戦のエンペラー』のボナー・フェラーズもちょっとだけ出ていて、それでふと連想が浮かんだんですが、そういえば歴史映像名画座では『太陽』『終戦のエンペラー』は「戦後〜現代」にありますけど、「明治〜敗戦」にある東京裁判関連作よりも前の時代の話なんですよね。戦争時代を描いた映像作品との流れのつながりからそこに置かれたのはわかるんですが、史実にくわしくない人はちょっと順番を誤解しちゃうかなあとも。

 それから僕の購読してる地方紙ではシベリア出兵に出征した海軍兵士の日記の発見をもとにした特集が中一面で扱われてました。日露戦争では称賛された日本軍の風紀が十五年戦争では様変わりしているが、それが変質したのがこのシベリア出兵とのこと。日露戦争と十五年戦争の中間に位置するシベリア出兵については史料が少なく、まだ十分に解明されていないところも多いそうです。確かに僕もシベリア出兵についての知識は浅く、また意識下に上ることも少なかったように思います。映像作品にしてもシベリア出兵を取り上げたものは日本の作品にもロシアや旧ソ連の作品にもちょっと思い当たりません。
 そこからも連想したんですが、そういえば同時期の日中関連の21か条要求や五・四運動、山東出兵なんかも取り上げてる映像作品は日本にも中華圏にもほとんどないなあ。

>史点
 ナチスのキャラが出てきてヨーロッパで問題になったのは確か『キン肉マン』のブロッケンマン&ブロッケンJr.でしたね。『リングにかけろ』のドイツJr.もナチス・キャラでした。しかも東西分裂時代でありながら、どっちもただのドイツ代表だったんだよなあ。僕はどっちも楽しく読んでましたが(笑)。この手の世界大会的なものが開かれるバトル漫画は、基本的に主人公の敵役(悪役)として出てくるんで、「ドイツの悪というとナチス」っていう発想になっちゃうんですよね。ただ問題なのは戦って負けたら味方(正義側)になる法則のため、ナチスが正義側というか主人公の味方になっちゃうんだよなあ。
 近年のジャンプ黄金期漫画の続編ブームで描かれた『キン肉マンU世』『リングにかけろ2』ではどちらも着てる軍服が現代ドイツ軍(旧西ドイツ軍)風にマイナーチェンジされておりました。でもそれは注意して見ないと案外気づかず、そこで思ったのは実はドイツの軍服のデザインも結局ナチス軍服(もしくは旧ドイツ軍服)のマイナーチェンジなんではないかと。それとも軍服ってどんなデザインでも結局は似てくるもんなんだろうか?

 ちなみに僕はコーヒー党。今では豆からひいた本格的なものが好きですが、缶コーヒーもまあまあ飲みます。紅茶はほとんど飲みません。



#10612 
黒駒 2017/08/20 21:19
本の話など

正月ドラマ「風雲児たち」はやはり元は「真田丸」の続編企画だったのではないか?と考える人はいるようですね。私もそう思いました。信之を主人公にしたスピンオフ企画にすれば「真田丸」の後日談を描けますが、三谷組の出演陣はほとんど死んでますしね。やはり題材よりも役者が評判だった作品ということなのでしょうか。

「風雲児たち」は偶然にも私は盆中に吉村昭「冬の鷹」を再読していて、いたく感銘していたところでした。「風雲児たち」も良いと思うのですが、以前にも書いたので省略しますが近年はやや否定的というか、歴史を描く上で懐疑的に思える部分もありますし、やはり吉村さんが造形したような孤高の前野良沢と快活な杉田玄白という対比の物語からすると、劣るかなぁと思います。

「風雲児たち」はやはり漫画・ギャグ漫画の世界で江戸時代を扱った点が評価されるべきではないかなと思います。パイオニアですね。

中公新書の「観応の擾乱」は購入だけして未読なのですが、評判の「応仁の乱」は初版で買いました。中公新書というレーベルのファンとしても、まさかベストセラーになるとは驚きです。読んだ人はわかるのですが、ただの「応仁の乱」の本ではなくて政覚・尋尊という大和興福寺の僧の日記を底本に、寺院・大和地域史というミクロな視点を入れつつ応仁の乱を語るという、実に地味な本です。かなり戦国時代のマニアックなファンの方でもわけがわからないという声を聞きました(笑)。

著者は応仁の乱と第一次大戦を比較し、「中央公論」のような論壇誌でも語っていましたけど、個人的にはそういう今日的意義で読まれているというわけではないのではないか?と思います。日本人って世間で話題になるから本が売れて、さらに話題になるという。「いまなぜ応仁の乱か?」というような問いかけはあまり意味がないでしょうね。





#10611 
孟きょう 2017/08/19 00:24


>徹夜城様
「風雲児たち」実写化されるんですね。そうなると真田丸2時間スペシャルは無しか…。
幼い頃初めて杉田玄白の存在を知るきっかけになった作品ですが(当時は1巻から読んでなかったので「蘭学者達と高山彦九郎を描く時代劇漫画」だと思い込んでいました)、大事な箇所をおさえつつ、当時のあのギャグを上手に再現した画面を見たいなぁと思ってしまいます。 最上徳内の蝦夷探検のあたりは熱中して読んでいたのですが、映像化の際は劇中でも印象的な妻の存在もありますので綺麗な女優さんをおりまぜればライト層も少しは期待できるのではと(蝦夷探検編はロケで困難でしょうけど)・・

>観応の擾乱発行
応仁の乱関連媒体が少しは売れるという風をつかんでよくぞ出版したなと嬉しかったです。あの日本史のミッシングリングに近く(映像化でも比較的希少だし)、南朝ファンからは軽蔑され、ドラマの中ではハッピーエンドを期待してた一般視聴層が離れる危険性をひめた複雑な政争劇が描かれていたのですが個人的には日本史で1番好きな舞台なので感激しました。 「応仁の乱」はマイナーで複雑難解とはいえ「マイナーでよくわからないし憎たらしくふがいない室町幕府や細川氏の連中が内ゲバし弱体化した後、楽しい人気のある時代がやってきて織豊政権が粛清に上洛しました」みたいな若者から老人まで「わかったような気にさせるイメージの物語」がいやというほどあるので導入はまだマシなのですが観応の擾乱は太平記のオチ扱いだったり「南朝の英雄達を次々と葬った憎き勢力が軽薄、意味不明の内ゲバ争いをはじめました」というイメージで語られている事が多く「だからどうなったの?」に対する虚実まじえたイメージもライト層に色々な媒体で提供できてない感があるんですよね。だから関連本の導入も辛いのかなと。個人的には好きな時代ではあるのですが若い10代の頃は難解ゆえに不愉快さを感じ尊氏が死去するまでの10年のスパンを忌み嫌っていました。
 
 本の内容では、直義と師直の距離感の実像や「降参人」の字をめぐる箇所とか色々おもしろかったんですけど、直義の死因をめぐる考察にはどうしても師直の殺害日がちらついてしまうので「本当かな〜?極々微量に盛るくらいの事はしてないのかな?」と腕組みしてしまうんですよ。尊氏好きなんですけど尊氏邸の包囲にしても、本当に本人に後白河並みの知恵が無かったのか、結果論なのか小悪魔なのか、謎の多い人物ですね。




#10610 
孟きょう 2017/08/18 23:13






#10609 
バラージ 2017/08/18 22:53
ヘビーな番組

 僕もNHKの731部隊とインパール作戦のドキュメンタリー番組を観ました。いや〜、なかなかにヘビーな番組でしたねえ。どちらもある程度は知っている事柄なんですが、当時の日記や生存者の生の声で語られると重さが全然違います。今年は戦後○0周年とか○5周年というキリのいい年じゃないんで、太平洋戦争の企画はなかなか難しく番組は少ないという新聞記事がちょっと前に載ってたんですが、NHKは今年かなり攻めてるなあという印象です。
他にTBSのニュース23では、綾瀬はるかさんが毒ガスが製造されていた瀬戸内の島を訪ねるコーナーをやっていました。広島出身の綾瀬さんは筑紫哲也さん存命のころに被爆した御自身のお祖母さんに話を聞く企画で出演して以来、戦争の傷跡に触れる番組に毎年のように出演していますが、こちらもまたなかなかヘビーな番組でした。

 ちなみに731部隊を題材とした映像作品には、香港映画『黒い太陽七三一 戦慄!石井七三一細菌部隊の全貌』があります。次々に行われる人体実験シーンを淡々と描いていくドキュメンタリー・タッチな作品で告発性は高いんですが、ストーリー性はやや弱いかもしれません。続編が2作ありますが、監督がB級映画を乱造したゴッドフリー・ホーという人になっており、僕は未見ですが猟奇アクション映画色が強くなっているようです。なぜかその続編2作だけがDVD化されており、第1作はビデオ化のみ。
 他に僕は未見ですが『凍河』という五木寛之原作の現代劇の日本映画に、過去に731部隊員だった登場人物が出てくるそうです。また731部隊ではないものの、戦争末期に九州大学医学部で行われた米軍捕虜生体解剖実験を描いた遠藤周作原作の映画化『海と毒薬』もなかなかにヘビーな映画したねえ。
 インパール作戦を描いた映画も意外に少なく、これまた僕は未見なんですが『日本戦歿学生の手記 きけ、わだつみの声』ぐらいでしょうか。原作は学徒兵の遺稿集でそれをそのまま映画化できるとは思えないので、原案に近いものなんじゃないでしょうか。なお1995年の映画『きけ、わだつみの声 Last Friends』も同じ遺稿集を原作としてるとのことですが、描かれるのはフィリピン戦・神風特攻隊・徴兵忌避などで内容はまるで異なります。

>高橋亀吉
 追記すると、戦争末期の昭和20年には秘密裡に敗戦後対策の研究を開始したとのこと。このころ既に近衛は独自にそのような戦後処理に着手し始めていたので、おそらくそれと連動したものではないかと思われます。

>歴史映像作品
 僕は入ってないんで観れないんですが、CSのチャンネル銀河で『オスマン帝国外伝 愛と欲望のハレム』というトルコの連ドラを放送してるようです。スレイマン大帝時代のハレムを舞台としたドラマで、要するにトルコ版大奥ドラマ。チャンネル銀河は中国ドラマを数多く放送してますが、ついにトルコにまで手を出したか……と思ったら、『イザベル 波瀾のスペイン女王』というイザベル1世を主人公としたスペインの連ドラも放送してる模様。
 一方、映画では戦争映画『ダンケルク』がまもなく公開。こちらは1964年の同名邦題映画と違ってちゃんとダンケルクが舞台のようです。



#10608 
徹夜城(リアルタイムニュースに対応しつつ史点を書いてる管理人) 2017/08/16 23:36
そして来年のNHK

えー、別にNHKの宣伝の手先をしてるわけではありませんが、またしてもNHKネタ。これは僕としては何重もの理由で反応せざるを得ません。

 来年の「正月時代劇」が、なんと「風雲児たち」!!!
http://www6.nhk.or.jp/nhkpr/post/original.html?i=11289
 実写ドラマとなりますが、初の映像化が実現となります!脚本が三谷幸喜さんというのがイカニモで(笑)。もともと愛読者であることを公言されてましたし、そのギャグで歴史を語るノリは三谷作品に大きく影響していますよね。
 さすがに長大な作品、どこをドラマ化するんだと思ったら、原作序盤の「蘭学事始め」部分だそうです。片岡愛之助さんが主役の前野良沢。新納慎也が杉田玄白、山本耕史が平賀源内、草刈正雄が田沼意次…という「真田丸」組ばかりのメインキャストです。
 うん、独立した単発ドラマとしてやるならこの部分かなと。歴史映像ものとしても蘭学揺籃期を描いたのは記憶にないのでその意味でも期待したいです。成功して続編企画でも実現したら、ぜひ最上徳内らを中心とした「北方探検編」のドラマ化をやってほしいものです。



#10607 
徹夜城(祖父もビルマ戦線だったと聞いている管理人) 2017/08/16 00:02
そしてまた重いNHK番組

 さて、今日は今日とてNHKでは「インパール」を放送。これも予告でかなりの内容になりそうだと予想しましたが、実際に見て予想以上の感慨を持ちました。
 「インパール作戦」のひどさについてはかつての「ドキュメント太平洋戦争」でも取り上げられていたので大筋は知ってました。あの番組では無謀な作戦を実行に移してしまった経緯、さらに失敗が明らかになりながらも継続、そして作戦の無残な失敗後も誰も責任をとらない…という、日本軍隊(さらには日本全体の)組織論に重点が置かれていたように思います。今夜の番組も大筋では同じ観点なんですが、新資料として出てきた牟田口廉也司令官の副官(といっていいのかな)を務めていた人物によるリアルタイムの日誌の内容がかなり強烈でした。

 自分で無謀な作戦を立てておいて各師団の攻略が難航すると「バカ野郎」と怒号をあげる牟田口の姿。「五千人殺せば陣地を落とせる」という発言の、「殺す」対象がなんと自軍の兵士たちであったという衝撃。牟田口はじめお偉方は引き上げちゃったあとで「白骨海道」での凄惨な撤退を強いられ異郷の地で無残な死を迎えた多くの兵士たち。その多くが華々しい「戦死」などではなく餓死と病死であるわけです。
 あの番組ではその日誌に着目してインパール作戦の実態にさらに肉薄した内容となってました。その書いた当人がどうなったんだ、と引っ張る構成になっていて、ラストに存命の本人が登場、感極まって悔しそうに話すラストにも目が釘付けになりました。他にも日英両軍および現地の住民たちで90歳過ぎの存命者がいろいろ証言をしてました。こういうの記録に残すのは今がギリギリというところですね。
 番組では日誌中心の構成のためか触れてませんでしたが、攻略にあたった師団の指揮官がいくら撤退を進言しても牟田口が聞く耳をもたないのでついに軍隊では反乱同様の「抗命」をして撤退に踏み切った件については触れてませんでした。これも本来なら軍法会議ものですが、それをやってしまうと責任問題が出るってんで「精神異常」ということで裁判なしで処理しちゃうというひどいことをやってます。
 今日の番組でも描かれましたが、牟田口も表面的には強気を装いながらも内心は失敗を悟ってるんですよね。作戦中止を口にする衝動にもかられますが、当人いわく「自分の良識」がおさえこんでしまったと。おいおい、それ「良識」ちゃうやろ、と。この人が戦後もずっとインパール作戦について自己弁護(釈明ですらない)し続けたのは番組でも描かれた通り。「盧溝橋もオレがやった」と言ってる人なんですが、よく戦犯にされなかったもんで。

 僕の祖父も当時ビルマ戦線に出征してました。以前所属などからネット上でわかる範囲で調べたことがあるんですが、ビルマ南部の海岸沿いのどこかにいたようで一応インパール作戦には参加してないみたい。無事に帰国してるんですが、幼い僕の父に戦場のすさまじい体験を断片的には語っています(僕は間接的にしか聞いてないんですが)。その中には飢餓の極限状態、人肉喰いの話もやはり出てきたと。野戦病院で寝込んでいたらイギリス軍が陣地内をそのまんま突破して行って祖父達には目もくれなかったという逸話もありました。


>黒駒さん
 以前も書いたことですが、89年に天安門事件が起きた直後、僕の恩師は「こんな政権が続くはずがない!」と怒りをもって断言したもんですが、本人ものちに回想していろいろ複雑な内情があるようだな、とこうした予測の難しさを認めてました。中国については僕も民主化してほしいと切に願う者ですが、中国指導部としてはソ連の前例を見ているだけに「緩めちゃいけない」と考えていて、実際ここまで体制を維持しているのも事実。特にいまの習近平政権は言論統制はいちだんと厳しくしてますよね。
 
 原田伊織氏の「明治維新過ち本」シリーズ(?)には、内容的に特に興味はないものの、それがどうやら売れているらしいことのほうに関心を持ってます。そりゃまぁ明治維新にも問題点は多々あって、その問題点のいくつかがあの敗戦につながってるという史観は以前からあります。しかしあの本は煽り方が何だか…絶対否定論というか悪玉論というか、中身を読んでないんであくまで印象ですけど、そういう本が売れる、というのは何を示唆してるのかなぁ、と、
 保守思想的には明治から敗戦までの日本を理想化する傾向があるのですが、先ごろ月刊最終号となった「SAPIO](今後は隔月刊)がやはり「明治維新の過ち」特集をぶちあげてる広告だったので、おやおやと。最近の小林よしのりの傾向に引っ張られてるのかな?あれだって創刊当初は普通の国際情報誌だったのがゴー宣に引っ張られた感がありありでしたし。

>ごまぞうさん
 うわっ、10年ぶりですか!失礼ながら僕も「えーと」と伝言板過去ログを検索してしまいました。なるほど、10年くらい前に南北朝の話題をされてましたね。さすがにすっかり忘れてしまってて。
 いやぁ、このサイトもなんだかんだで長いですが、この伝言板の過去ログがまさしく地層のような状態になってて、たまに「発掘」作業をしてみると面白いものです。結構後世への貴重な記録になったりして(笑)。



#10606 
ごまぞう 2017/08/14 22:06
10年以上ぶりですかね

かなりご無沙汰しております。10年以上ぶりですかね。ごまぞうと名乗っていた者です。
このネームを使うのも10年以上ぶりです・・。
最近、某HP同窓から連絡があり旧HPのCDを久しぶりに起動させてたどり着きました。
なんとか歴史で飯を食べていますが、いつまで続くのやら。
『応仁の乱』は呉座さんですね。これだけブレイクしても相変わらずですねw
亀田さんともある共通点が有り、取りあえず仲は良好です。

拙HPも10年を越えましたがすっかり歴史系コンテンツは消え去りました・・。
(諸国一宮巡りコーナーだけは歴史系かな・・(^_^;))
20年も続いているのは尊敬ですね!!
懐かしさと驚きのあまり思わず書き込んでしまいました。

http://park21.wakwak.com/~djruien/


#10605 
黒駒 2017/08/14 17:33
幕末維新本など

「中国崩壊」本ですが、「中国民主化」本もわずかではありますね。私は今でもというとか、昨今のような体制であるからこそ、もう民主化するしか術はないと指導部もわかっているだろうと思うのですが。

北朝鮮もそうですが、民主化や改革・開放が歴史の必然と思われた89年前後から30年近く経過しますが、なかなか歴史というのは違った流れになるのだなと思います。核兵器を国家の究極的な安全保障の手段とする冷戦時代の論理もまったく変化していないわけで、「冷戦が終わった」という理解も果たしてそれで良いのかと考えてしまいます。

ところで「トンデモ本」という意味ではないのですが、原田伊織『明治維新という過ち』が何かと話題ですね。個人的には興味はないのですが、「八重の桜」か「花燃ゆ」か、そのころから薩長テロリスト論などを言う人が目につくようになり、どうも陰でムーブメントになっているのかなと思いますし、幕末維新期もけっこう怪しげな本が目立つようになりました。

来年は「西郷愚物」本などが出てくるのかなぁと思います。



#10604 
徹夜城(休みを無為に過ごしてしまいそうで焦る管理人) 2017/08/14 00:41
重い重いNHK

 いや〜毎年この季節はそういう企画番組が集中するものではありますが、今年のNHKはなかなか凄い。昨日今日と戦争関連のドラマ・ドキュメンタリーを連発していずれもなかなか見ごたえがありました。

 昨日はドラマ2本。地上波では「1942年のプレイボール」で戦中の学生野球・プロ野球事情を野口四兄弟を中心に描いてました。戦中のプロ野球事情が描かれること自体が珍しく(沢村英二はよく扱われますが)、また戦争によって野球そのものが奪われていく時代のやりきれなさがスポーツドラマという形で分かりやすく描かれたと思います。
 BSでは「返還交渉人」。沖縄返還交渉の最前線で活躍した外交官を主人公に、戦争時も戦後も日本が沖縄を「捨て石」にしてきたこと、現在もリアルタイムで続くアメリカ軍基地の問題(その複雑事情も結構描いてた)など、熱血タイプな主人公ということもありかなりストレートかつ痛烈に訴える内容となってました。沖縄返還の陰で両国間のいろいろな密約もあったことも挿入されてましたが、今日の報道でもこのとき日本政府がアメリカ側に「緊急時の核持ち込み」を容認する密約をしていたことが外交史料で明らかになったと出てました。佐藤栄作、それでもノーベル平和賞なんだよなぁ。

 ドキュメンタリーでは土曜日にも本土空襲についての番組がありましたが、日曜夜にはBSで「なぜ日本は焼き尽くされたか」という長時間のドキュメンタリーが見ごたえ大でした。太平洋戦争末期の各都市への「焼き尽くし」無差別空襲についてはルメイ将軍がその主犯として名が挙げられるのですけど、この番組ではそもそもアメリカ空軍の発足以来の歴史、その創設者が第一次大戦後に提唱した空爆戦略にまでルーツをさかのぼり、大戦中は陸軍の下部組織であった「空軍」を独立させようと図る後の空軍幹部たちと、それを見下す陸軍・海軍との軋轢といった、どこの国にもある組織対立・人間関係が功を焦った無差別焼夷弾爆撃につながっていった…という流れが当人たちの証言録音などからうまく説明されてました。そうした無差別焼夷弾攻撃をやめさせるためとして原爆投下が実行されちゃうところとか、そもそも戦略爆撃思想自体が「第一次大戦のような惨状を防げる」ということから提唱され結果的にいっそう巨大な犠牲を生んでしまったことの現代への警鐘など、しめくくりも重いものでした。
 地上波ではそれに先立って「731部隊」の番組。ソ連での裁判での証言テープの登場や、当時の有力大学の医学者たちがかなり積極的に協力、戦後も有力な地位に居続けたことなど、気が重くなる内容ではありました。最後に現在日本でも軍事と学問の結びつきが議論されだした件にも触れてましたし。


>崩壊論ばなし
 思いのほかいろいろ話が広がって来て面白いですね。バラージさんがお調べになった高橋亀吉の件も改めて興味を引いたところです。近衛内閣のブレーンだったわけですね。戦前戦後と時代をまたいでる人はある意味しょうがないんですけど、戦後大学者とかかなりの権威になった人も戦前には…ってな話はいろいろありますからねぇ。
 つねさんもお書きでしたが、もちろん中国の政治経済事情にはいろいろとあぶなっかしい面や問題点は多々あります。ただ日本における、僕が「中国崩壊本」と名付けてるジャンルの本は実際の中国がどうだとかいう話じゃなくて単に「願望」を書いてるだけなんですよね。買って読む層もその願望が満たされればいいわけで、「違うじゃないか」と文句つける人もいないようです。そう考えると半永久的に売れる市場だったりするわけで、本当に崩壊してしまうと飯の食い上げになる人が多いよなぁ、などと以前から思ってます(笑)。
 そうそう、崩壊論とは逆に、陰謀論的ビジネス本でおなじみの副島隆彦氏(アポロ陰謀論本まで出したもんね)は「あと5年で中国が世界を制覇する」という本を2009年に出してますね(笑)。この人、アメリカ憎しのあまり中国ヨイショに走ってるらしいんですが、「次の超大国は中国だとロックフェラーが決めた」なんて本の翻訳もしてるですよね(この人の場合ストレートに翻訳なのか疑っちゃうけど)。
 まぁ、ビジネスホン、ことに世界情勢本はトンデモ本の宝庫、というのは間違いないと思います。



#10603 
つね 2017/08/13 16:43
崩壊論+アルファ

ふと「崩壊論」っていつからだろうと思ったのですが、対抗勢力があれば崩壊論も出そうなので、古代ギリシアあたりからありそうですね。

私が「崩壊論」でふと思い出したのが、小室直樹氏の「ソビエト帝国の崩壊」(1980年)で、
当時のベストセラーになり、その後も経緯もあり、彼の代表作のようになっています。私も崩壊直前くらいに読んだ覚えがあります。他にも
「危機の構造 日本社会崩壊のモデル」(1976年)
「大国日本の崩壊 アメリカの陰謀とアホな日本人」(1987年)
「韓国の崩壊 太平洋経済戦争のゆくえ」(1988年)
「中国共産党帝国の崩壊 呪われた五千年の末路」(1989年)
「社会主義大国日本の崩壊 新自由市場主義10年の意識革命」(1990年)
などがあり、この中で読んでいるのは、天安門事件で興味を持った「中国共産党帝国の崩壊」くらい(内容は忘れました)ですが、日本の場合、バブル時代の浮かれた論調を思うと、慧眼かとも思えます。まあ外れているのもあるので、「当たっている予言だけが注目されて外れた予言は忘れ去られる」という「ジーン・ディクソン効果」も否めませんが。こう「崩壊」とつくタイトルが多いと、著者よりも出版社の意向が強いかもしれません。

小室直樹氏の場合、一般向けに体系的ではありませんが、近代経済学や経済学説史のエッセンスを軽妙な語り口で分かりやすく記述していたように思います。リカードの「比較優位論」は彼の本で学びました(難しい理論ではありません)。
かなり異端だし、保守論客に位置づけられ、読者を選ぶ傾向はありますし、博学で他分野なのが災いして「太平洋戦争 こうすれば勝てた」(共著)みたいなものもありますが。完全IFの読みものならとにかく。まあ読む気も起こらなかったので、論評できません。

ちなみに、「日本 崩壊」だと1211件です。国債やら財政やら人口やら・・・。



#10602 
バラージ 2017/08/12 23:06
未来のことなんてわからない

 高橋亀吉という人は全然知らなかったのですが、検索してみるとwikipedia他いろいろ情報がヒットしまして、戦前戦後を通じてかなり大物の経済評論家だったようですね。石橋湛山と並ぶ日本の民間エコノミストの草分け的存在とのことで、戦前は近衛内閣や大政翼賛会で参与を務め、戦後は公職追放を受けたものの後に池田内閣のブレーンになったりもしてるようです。現在は、東洋経済新報社から「高橋亀吉賞」というのも出されていて、経済論壇の芥川賞と言われてるとか。
 Amazonで著書を検索してみると経済学の本をいっぱい出してて、どうも『支那経済の崩壊と日本』もその1冊のようなんで、ある程度経済学の知識がないと中身はチンプンカンプンという恐れも……(僕は経済方面はどうも苦手でして)。高橋はこの年(1936年)に『高橋財界月報告』というのを創刊しており、日中戦争に突入した翌1937年には近衛内閣企画院参与になっています。まあ結局「支那経済」ではなく大日本帝国のほうが崩壊しちゃったわけですが(笑)。まあ経済評論家っていったら長谷川慶太郎だってそうですしね……。

 中国崩壊本、確かに言われてみるとずっとありますね。僕はこの手のものは「どうせ当たり外れとかじゃなく願望を言いたいだけだろ」とスルーしてますが。ちなみにAmazonの本を「中国 崩壊」で検索すると211件、「韓国 崩壊」だと49件、「北朝鮮 崩壊」だと55件、「アメリカ 崩壊」だと173件で、強い国ほど多いのがわかります。中国やアメリカが崩壊するなら北朝鮮なんかもうとっくに崩壊してんだろと思うわけですが、考えてみりゃ小さな北朝鮮が崩壊するより大きな中国やアメリカが崩壊するほうが読者向けのインパクトが強いし溜飲も下がるから需要があるのかもしれません。

 室町時代の初心者向け歴史本・歴史ムックがちらほら出てきたのは僕も軽い驚きというか、『応仁の乱』効果すげえなあと思いました。もちろん後の時代の戦国と絡めたもののほうが圧倒的に多いんですが、まあ戦国はもとから人気ですしね。売れ筋ということで抑えつつ、マイナーな室町もこれを好機に売れれば……といったところでしょうか。これをきっかけに大河ドラマでぜひ足利義満を……ってさすがに難しいか。



#10601 
つね 2017/08/12 03:22
中国崩壊論

「中国崩壊本」にはあまり興味がないのですが(数が多すぎる)、崩壊論は注目しておいたほうがいいかと。あの統制政治、統制経済は端から見ていて危うさを感じます。チベットやウイグルも問題視すべきでしょう。実際に崩壊したときには日本に影響がないわけがありませんし。日経なんかも何年も前から警鐘を鳴らしていますし、「いつ」かは別にしていて警戒すべきだと思います。

南シナ海、東シナ海ともに中国が覇権を伸ばしているわけですが、「対話、対話」と言っている人たちはナチスに対する「融和政策」に対してどういう評価をしているのか気になります
。歴史は結果論というのもありますが、ビアホールでのヒトラー暗殺未遂事件のゲオルグ・エルザーなんかは実際に成功していたら「一般人を巻き添えにして英雄を暗殺した狂人」扱いされていたでしょうし。同時代人の視点と、どちらを優先すべきなのか。




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