ニュースな
2012年6月8日

<<<<前回の記事
次回の記事>>>


◆今週の記事

◆ウは宇宙線のウ

 5月21日朝、日本のかなりの地域で「金環食」が観察された。僕の住んでいる地域もほぼ中心線といっていい所にあり、天気も事前の予想に反して雲が晴れ、太陽の前に月が割り込んで見事に光の輪ができるようすを観察できた。東京付近でまともに観測できるのは1839年(天保10)以来との話で、歴史的瞬間には違いなく、僕も珍しく早起きしてこの天体ショーを見た。
 ところで当サイトの映画コーナーで「金環蝕」という映画の紹介をしているのだが、予想通りこの日は大変なアクセス数になってしまった。こちらは天体ショーの映画ではなく、政界汚職をテーマにした硬派な社会派映画で、「光り輝く外見の内側は真っ黒」という状態を「金環蝕」にたとえたもの。それにしても報道で「金環日食」という表現が多用されたのはなぜなんだろう。
 6月6日には太陽の前を金星が通り抜ける現象もあった。こちらはあいにく天気が悪くてとても見えなかったが(ただ大きさからすると肉眼では確認できそうにない)、次に観測できるのは百年以上先の2117年12月11日のこと。まず見られそうにはないが、こういう風に「次回」が予測できるってのがやっぱり凄いと思う。そりゃ太陽系規模の異変でも起こらない限り計算上ちゃんと予測できることで、日食予測だって紀元前の昔からやってるのだけど、そういう予測が出来ること自体人間ってのはすごいな、と思ってしまう。

 そんな天体の予測の一つがまた発表された。37億年後というとんでもなく先の話だが。その37億年後に我々の住む天の川銀河アンドロメダ銀河「衝突」するという、なかなか刺激的な予測が発表されたのだ。もっとも衝突予測自体はだいぶ前からあったはずで(僕もどっかで聞いた記憶がある)、今回の発表はより具体的な数値を示したことと、その時の夜空の想像図が発表されたこととが目を引いた。
 アンドロメダ銀河といえば、我々の住む銀河系(天の川銀河)の「お隣」の銀河として知られ、「銀河鉄道999」の終点となるなど、SF作品でもよく登場してきた。もっとも「お隣」といっても現在250万光年のかなたにある。銀河系自体が直径十万光年というから、広大な大宇宙の中ではすぐ隣には違いない。もっと近い場所に「宇宙戦艦ヤマト」でおなじみの「大マゼラン銀河」なんかもあるが、これは天の川銀河の伴銀河、子分みたいなもので、こちらはもっと早く銀河系に吸収されるものと予測されている。
 なんでも現在アンドロメダ銀河は銀河系に向かって秒速300kmのスピードで接近しているのだそうだ(アップ時、「時速」にしてました、すいません)。衝突したら大変じゃないかと思いがちだが、銀河というやつは中身はスカスカなので(太陽系のすぐ隣の恒星系までだってかなりの距離がある)、星同士がぶつかりあうこともめったになく、衝突というより融合して行くんじゃないかと予想されている。
 なんにしても37億年先の話。地球に生命が誕生してから今日までと同じくらいの時間をかけた未来の話で、普通に考えて人類は残っているまい。何か他のものに進化するなど、少なくとも今の状態のままではいないと思われる。そもそもその時まで地球に生命がいるのかどうか…

 さて、そんなはるか未来の話からだいぶ近い昔の話へ。近い、と言っても奈良時代の話だが。
 名古屋大学・太陽地球環境研究所の増田公明准教授(宇宙線物理学)らが「ネイチャー」電子版に発表したところによると、屋久島にある樹齢1900年の屋久杉にとりこまれた炭素濃度の調査から、西暦775年(日本では宝亀6年)に地球に降り注いだ宇宙線の量が急増していることが判明したという。どのくらい急増なのかというと前年比で過去3000年間で最大の増加率だったとのこと。
 原因は今のところ不明。とにかく西暦775年に大量の宇宙線が地球に到達するような何か大きなことが宇宙で起こった、ということなのだ。考えられるものの一つが巨大恒星が最期を迎えた時に起こる「超新星爆発」だ。超新星爆発が地球で目撃された例としては現在「かに星雲」としてその残骸が残っている1054年のものが有名だが、とりあえず775年に超新星爆発の目撃記録はないらしい。そこでもう一つの可能性がとして、太陽表面上で大きな爆発、いわゆる「スーパーフレア」が発生したのではないか、という説もある。
 「スーパーフレア」とは太陽の表面で起こる大きなフレアのさらに1000倍とも言われる本当に巨大なもので、これまで太陽タイプの恒星では起こりにくいと考えられていたが実は案外起こるらしいという話がつい先日の5月17日に発表されたばかりである。スーパーフレアなんて起こった日には地球も甚大な影響を受けてしまうだろうが…一昔前のヘボ映画「クライシス2050」みたいなことにならなきゃいいが(あれも元ネタは明らかに鉄腕アトムの最初のアニメの最終回だよね)

 SFの話が出たついでに書いておくと、この記事を書いている最中にレイ=ブラッドベリの訃報が報じられた。そんなわけで追悼の意味もこめてタイトルをこのように変更した次第(当初は小松左京のSF小説のタイトルだった)



◆戦争と平和と復活と

 下の贋作サミットで言及しているように、今年ロシアでは大統領選挙が行われ、プーチン首相が大統領に返り咲き、メドベージェフ大統領はまた首相に交代した。首相と大統領の入れ替わり自体は他国でも例があるが、前任者同士が入れ換わる、というのは珍しいんじゃないか。ともあれ、とにかくロシアの最高指導者における「ハゲ・フサフサの法則」はしっかり守られているのであった(笑)。

 さて、その大統領に戻ったプーチンさんだが、大統領顧問にウラジーミル=トルストイ氏(49)なる人物を任命した。あの「戦争と平和」やら何やらで世界的に有名なロシアの文豪レフ=トルストイの玄孫(やしゃご、孫の孫)にあたるそうである。モスクワ大学ジャーナリズム学部を卒業、雑誌編集者を経て1994年から国立トルストイ邸博物館館長、2009年から国際博物館会議ロシア委員長をつとめるという経歴。

 この人がどういう経緯でプーチン大統領に見出されたのかは不明だが、報道によると大統領選前の3月にプーチン氏や支援者との会合にこのトルストイ氏が顔を見せ、「消費社会から高い精神性とモラルの社会へと、イデオロギーの方向性を変える必要がある。国のリーダーがそれを言わなければならない」と発言、これにプーチン氏が「90年代から拝金主義が広がっている。あなたのような人々、文化や伝統宗教の力を借り、内面世界を変えなければ」と応じて意気投合したのが今回の採用の一因であるらしい(セリフはAFP時事記事より)
 思えば昨年がソ連崩壊から20周年だった。このトルストイ氏は当時20代の末で、青春期がペレストロイカからソ連解体に至る激変期に重なる。ソ連崩壊でお先真っ暗かに見えたロシアは経済的にはなんだかんだで復活してきて、最近はいわゆる「新興国」扱い。社会主義はすっかり放棄されて物質的な資本主義・拝金主義が蔓延…という定番のフレーズも耳にはする。まだ体制的には社会主義国のはずの中国でも近ごろ同じようなフレーズを耳にするし(儒教キャンペーンみたいのもある)、ロシアも中国も現状への反省からバリバリの社会主義に戻るというわけにもいかないので「伝統」だの「精神性」だの「モラル」だのといったものを持ち出すんだろうが、似たような言い回しは我が国でも保守系文化人がやたらに口にしているから、案外どこも似たようなもんじゃないかという気もする。

 ところでトルストイ家といえばロシア貴族の名門で、レフ=トルストイ以外にも多くの著名人を輩出しているが、そのルーツは17世紀から18世紀にかけての、あのピョートル大帝(一世)の時代に活躍したピョートル=アンドレイヴィッチ=トルストイ(1645-1729)までさかのぼれる。調べてみればなかなか面白い人生を送っている人物なのだが、僕にはかつてアメリカで製作したテレビドラマ「ピョートル大帝(Peter the Great)」で「ピョートルと愉快な仲間たち」よろしく(笑)にぎやかに登場していたイメージがまずある。このドラマ、なかなか面白いんだけど(史実的にはかなりムチャもするが)、本場ロシアでも放送されたそうだし、日本でもソフト化してくれないものか。NHKが放送した時の吹き替えバージョンがまたなかなか素晴らしいのだ。
 ま、ともかくトルストイの名前が戦争と平和のはてのロシアの復活の場面に「皇帝」の側近よろしくあんな華麗にな登場をしたことに、歴史的なめぐり合わせを感じてしまうのである(←そんな下手なダジャレを言わんの、バカ)



◆寺とヤクザは…

 前にも書いたことだが、とくに江戸時代に寺とヤクザは深い縁で結ばれていた。近ごろは暴力団排除の流れでさすがに比叡山なんかも山口組とは縁を切るようにしているらしいけど。ただ寺というところはもう一つの側面として「カネ」との関わりも深いところで(もちろん大晦日の晩に鳴らす方じゃないですよ)、それがある限りはどっかでまた非合法方面とつながりができちゃうのではないかと思っている。
 非合法というわけではないが、中世日本にあっては寺院は金融業の元締めだった。趣味で南北朝時代のことを調べてると当時の京都の金融業者「土倉」のほとんどは比叡山系列下にあり、彼らからの徴税権を室町幕府が比叡山から次第に奪取してゆくという過程を知ってなかなか面白く思ったものだ。

 さて仁和寺といえば『徒然草』でさんざんギャグのタネにされていることで有名な寺院だが(笑)、この寺院が5月30日にある裁判に負けた。昨年春、仁和寺は境内の御室桜のまわりで花見客相手に酒やすき焼きを売っていた茶店に対し、「境内で肉を食べるのは不殺生の戒律に背く」として出店を禁止したのだが、これに怒った茶店側が寺を相手取って営業権の確認を求める訴訟を起こしていたのである。
 寺側の「不殺生」の主張は一見正論なのだが、実はこの茶店、90年も前から出店していたのだそうで、ちゃんと毎年60万円ほど仁和寺に納めてもいた。茶店に来る客の中には寺側から紹介された者も少なくなかったといい、肉を出していることなどとうの昔に寺側は知っていたはずなのだ。それが昨年急に「不殺生」とか言い出したのだから、そりゃ茶店側も怒る。
 京都地裁の判決では、茶店側の主張をほぼ認め、しかも寺側がなんでそんなことをしたのかという動機にも迫った。実は寺側は寺の財産を管理する財団の公益財団化をもくろんでおり、この茶店のように花見に関する事業をその財団の収益事業ということにすれば非課税になると考え、そこでこの長年の付き合いの茶店を追いだした、ということだったのである。まったくバチ当たりな話で、テラとカネの縁はやっぱり深いと思わされてしまう。
 そういや葬式などに僧侶を派遣する派遣業者が脱税していた、なんてニュースもあって、どっかの新聞では「バチ当たり」って見出しをつけていたっけ。


 そんな話題を「史点」ネタにしようかな、と考えていたら、バチカンからも似たような話が。
 バチカンがカネ問題やらマフィアとの関係をささやかれるのは今に始まったことではなく、僕もここで何度となくバチカンとマフィアが結びつく内容の映画「ゴッドファーザーPART3」の話を持ち出している。正直「またか」という感想なのだが、5月24日にバチカン法王庁の財産管理組織、俗に言う「バチカン銀行」のゴティテデスキ総裁が「不適切な業務の遂行」を理由に突然解任された。その翌日には法王ベネディクト16世の執事が法王あての私信など多くの機密文書を宿所内に隠し持っていたとの容疑で逮捕された。この解任と逮捕についてバチカンでは今のところ無関係としているが、イタリアメディアは両者が深くかかわるもので、バチカン内部のさまざまな汚職や陰謀が暴露されたものとして「バチリークス」(もちろん「ウィキリークス」のもじり)などと呼んで大騒ぎしているそうな(元ネタは毎日新聞記事)
 バチカンでは今年はじめから、よくあるマネーロンダリング疑惑のみならず、法王が次代の法王の地位をミラノ大司教に禅譲しようと計画しているとか、某有力枢機卿が中国を訪問した際に複数の密談相手に「年内に法王が暗殺される可能性あり」と伝えていたという物騒な話まで、さまざまな暴露文書が出回っている。5月にはそういった情報をまとめた書籍まで出版されてバチカンは激怒、情報源の捜査に力を入れていたらしい。どうも今回逮捕された執事とやらが情報源と見られるようだが、バチカン銀行総裁は実際に汚職に関与していたのかもしれない。聖なる総本山バチカンでの神をも恐れぬ所業は、それこそ「バチ当たり」と言われそうだ(笑)。
 これで本当に法王が急死でもした日にはまさに「ゴッドファーザーPART3」そのまんまになってしまうが、そもそも高齢だからなぁ、あの法王は。


 最後に宗教ネタではあるが、あまり深刻でない話を。
 トルコ北西部テキルダー県の村にある、1975年に建てられたモスクが、建設時に設計を間違えたらしく礼拝の方向が肝心のメッカより60度もズレていたのだそうで。すでに昨年判明して取り壊され、ちゃんとした方向を示すモスクが新築されたところで今回の報道となったのだが、この村の人たちは過去30年ばかり礼拝の方向を間違っていたことになり、イスラム教徒の義務を果たさなかったことになっちゃうんじゃないかとの議論もあって、その意味ではやや深刻。もっともこの手の話は珍しくないようで、最近でもインドネシアやマレーシアで同じ話を聞いたような記憶がある。どのみち完璧に正確にメッカの方向に礼拝するのはほとんど不可能なので、当人の気持ちの問題なのではないかと。



◆恒例・贋作サミットキャンプデービッド編
 
 アメリカは大統領の別荘地キャンプ・デービッドに、世界各国の首脳が集まりましたとさ(更新の都合でちと話題が古くてすいません。今年のサミットは5月18・19日に行われてました)

米:今年は昨年よりさらに早い開催となりましたが、みなさま、よくいらっしゃいました。
独:あんまり早くやったもんだから、全然注目されないサミットになっちゃったわねぇ
日:どうも初登場です。我が国の首相はいつ引きずりおろされるかわかんないので早くやってくれると助かります。
米:珍しく二年連続出席の前任者さんも去年そんなことを言ってましたなぁ。
日:ホント、破壊の時だけ元気になって二十年ばかり暴れてる人がいるもんで。
加:それも去年とおんなじですね。
伊:どうも、私も初登場です。いつ引きずりおろされるか分かんないところはおたくの国と一緒ですなぁ。
日:おお、噂の「スーパーマリオ」さんじゃないですか、こちらはマリオの「母国」ですんで、やっぱり縁があるなぁ。
伊:頭も下半身もいい加減な前任者のおかげで財政危機になって、誰も引き受けないもんだから…トホホ…
仏:私も初登場です。名前はよその国みたいですけど、フランスの大統領です。よろしく。
米:おお、サミット史上初の「事実婚ファーストレディー」の旦那さんですな。
英:「元事実婚妻」が前回の大統領候補、というのも凄い話で。
仏:前の妻が前回の大統領選で勝ってりゃ、私が「ファーストジェントルマン」でサミットに来たんですがねぇ。
独:うちの夫はテレちゃったのか、今年はファーストレディーイベントは欠席しちゃって。
露:こちらは大統領本人が欠席しちゃって…私、もう大統領じゃなくて首相なんですけどね。なぜかまた来るハメに。
加:あんたのところはそのうちまた入れ換わって再登場するんじゃないの?
独:えー、初顔合わせの挨拶ばっかりしてないで、現在直面する大問題について話しましょうよ。
米:いま直面する問題と言えば大統領選ですな。来年も私がこれに出席できるかどうかが大問題。
英:大問題と言えば今年はこれからオリンピックがありますので、皆様、ロンドンにドンドンいらして経済効果をくださいな。
仏:大問題といえば、我が国ではアルセーヌ=ルパンの未発表新作が今度発売になるんで、ドンドン買ってくださいな。
日:我が国では間もなくスカイツリーがオープンするんで、ドンドン登りに来て下さい。
独:ちょっと、ちょっと、そういうことじゃないでしょ、ユーロが大変なのよ、ユーロが。
日:ああ、それと私はこの20日が誕生日なんですよ。サミット中なんでパーティーができなくて。
露:おお!それはめでたい。では、さっそくパーティーを。
加:ハッピー・バースデー・トゥーユー〜♪
伊:よーし、とっておきの隠し芸、大ジャンプして天井に頭をぶつけたり、土管にとびこんだりやりますよ〜♪
米:さっそくバースデーケーキを用意させましょう!おーい、ローソクも55本!
独:あんたたち!経済が大変でしょ、経済が!
仏:いいじゃないの、これがホントのケーキづけ、ってオチで。
英:あ、次回のサミットはうちでやりますので、オリンピックが終わっても、よろしくね!


2012/6/8の記事

<<<<前回の記事
次回の記事>>>

史激的な物見櫓のトップに戻る