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2012年12月24日

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◆女王陛下が出る出る気分

 こんなダジャレタイトルをつけてしまったが、「007」最新作の「スカイフォール」はまだ見てない。年内には見れそうにないんだよな。
 かなり旧聞に属するが、昨年の6月にスウェーデンの情報機関「SAPO」が一千人を招いて「007パーティー」を開いていたことが今年の9月に発覚し、大きな批判を浴びたというニュースがあった。なんでもタキシード姿の楽団にあの「ボンドのテーマ」の曲を演奏させ、「カジノロワイヤル」のつもりなのかカジノのテーブルも設けられ、イギリスのMI5の長官まで招待されて(なおボンドは「MI6」所属)、なんだかんだで530万クローナ(約6300万円)の出費であったという。
 このお遊びはプレッシャーのかかる情報部員たちの景気づけのためだったらしく、SAPO長官も「特別な会合が必要と感じた」から催されたのだそうだが、この盛大なお遊びが「公費」からの出費で開かれたとなるとさすがに批判されてもしょうがない。しかし「007」遊びを本職の情報部員たちが楽しんでしまうという構図自体は想像すると楽しいものがある(笑)。ボンドガールが出てたんでしょうかねぇ。

 007ことジェームズ=ボンドはロンドン五輪の開会式にまで登場し、女王エリザベス2世とも「共演」を果たしてしまったが、もはやシャーロック=ホームズなみに代表的架空イギリス人として公認されちゃってるんだなぁ、と思ったものだ。そういえば先ごろ邦訳が出たアルセーヌ=ルパンシリーズ幻の最終作『ルパン最後の恋』ではイギリス情報部員が敵となっており、ルパンが彼らの事を「目的のためには殺人も辞さない」と非難するくだりがあり、「007」シリーズの「殺人ライセンス」のことを連想させて興味深かった。そんなルパンが「自分は今後は世界平和のために尽力する」と言い出すのには驚いたが、当時はまだ書かれていない007の鼻を明かしてやったようで痛快でもあった。

 で、ようやく女王陛下関係の話になる。
 エリザベス2世が住んでいるのはロンドンの「バッキンガム宮殿」。僕も2002年に行ってみたことがあるが、それこそ世界中からの「おのぼりさん」が結集していて、定時の衛兵交代の行進の時なんかはもう大騒ぎであった。丸くて高い毛皮の黒い帽子に赤い制服でおなじみの衛兵たちが行進する様は本当に「絵に描いたよう」というやつで、オモチャの兵隊の本物版という観もあった。
 さてそんな伝統的なバッキンガムの衛兵のなかに、このたび例の黒帽子ではなくターバンを巻いた衛兵が登場し、話題となっていた。その人はジャティンデパル=シン=ブラーさん(25)というインド系の人で、史上初めてターバンを巻いて任務につくことが認められた。なんでわざわざターバン?と思ってしまう人も多いだろうが、世界には宗教上の慣習で外出時に基本的にターバンをはずさない人たちが存在する。インドのシーク教徒がそれだ。現在のインドを率いるシン首相もシーク教徒で、やっぱり常にターバンを巻いている。

 シーク教というのはよく「ヒンドゥーとイスラムのあいの子」と表現される。インドの伝統的ヒンドゥーの上に外来のイスラム的考え方が乗っかってミックスされたというか、そういう宗教で、男性はみんなターバンを巻くので一目で分かる。ところが欧米ではターバンを巻いた姿は「イスラム教徒」と誤解されやすく(僕も子供時代に読んだシンドバッドの絵本の影響でターバンというとイスラムのイメージが長くあった)、アメリカではしばしばイスラムに反感を持つ連中から襲撃されて問題となっている。
 その2002年のロンドン行きの際に僕はたまたま見つけたコミックショップに入って英米の漫画本なんぞ買ってあさっていたのだが、9.11テロを題材としたアメコミのなかでシーク教徒のタクシー運転手がやはりイスラム教徒と間違えられて襲われる場面があり、それを主人公たちが救出して「そういうことをしてはいけない」と読者に示すわけだが、「じゃあイスラム教徒なら襲撃していいのかよ」と素朴なツッコミを入れてしまったものだ。
 バッキンガム衛兵にシーク教徒、というこの話題の新聞記事を読んでいたら、イギリスではここ10年で一気に外国出身者が増え、今や8人に1人が外国出身で一番多いのがインド系であるという(その次がポーランド、というのがちと意外)。ロンドンの人口はとうとうヨーロッパ系白人が45%になってしまったとのこと。そういえば10年前に僕が訪れた時もロンドンは妙にインド系とおぼしき人が目立ち、日本における中華料理屋並みにインド料理店があったような。

 そして12月18日、エリザベス女王は首相官邸に赴いて閣議にオブザーバーとして出席した。もちろん今年いろいろあった即位60周年のイベントの一環の形式的なものだが、戦時中を除けばイギリス国王が閣議に出席したのは1781年のジョージ3世以来だというから凄い。
 この閣議ではつい先日発表されたウィリアム王子キャサリン妃夫妻に生まれる予定のお子様に関係する話も出ている。これまでイギリス王室は男子優先を維持してきたが、いよいよ他のヨーロッパ王室と同様に「男女に関係なく長子優先」に変更することがほぼ確定し、その法改正に関する報告がこの閣議でなされたそうだ(その一方で日本皇室は女性宮家ばなしも安倍さん返り咲きにより先送りされそうな気配)。また女王自身も政府の施政方針を女王自ら読み上げる「クイーンズ・スピーチ」について「来年は短い方がいい」と「ご意見」を言ったりもしたそうで。

 ところでこうした即位60周年イベントの一環として、イギリスが20世紀初頭から領有権を主張している南極大陸の一部について、イギリス政府が「クイーン・エリザベス・ランド」と命名したことが発表されている。ご存じのように南極大陸は「南極条約」によりどこの国の領土にもならないことが定められているが、領有主張自体はアルゼンチンやオーストラリアなどの近隣国や、むかしアムンセンが南極点到達をしたからなのかノルウェーまでが、南極大陸をケーキの切り分けよろしく扇形に勝手に分割して主張しており、今回「エリザベス」の名が冠せられた地域にはアルゼンチンが領有主張をする地域が含まれているため、フォークランドの恨みもあるアルゼンチン政府はかなり怒っているらしい。
 南極と言えば、百年前にアムンセンらと競うように南極大陸に向かった日本人・白瀬矗(のぶ)が命名した「大和雪原(やまとゆきはら)」について、これまで通称だったものが正式に地名に採用される見込み、なんてニュースもあったな。この時白瀬も日本領宣言をしたりしてるのだが、もちろん現在の日本政府は領有主張は一切していない。



◆鎧を着た被災者?

 右の写真は古墳時代の甲冑姿を現した「はにわ」である。佐倉市にある国立歴史民俗博物館の展示品をかっぱらってきた…のではなく、同館のおみやげコーナーで売られていたのが可愛かったので買ってしまったもの(笑)。つまり簡単なレプリカであるわけだが、当時の甲冑がどのように身につけられたものであったかがよく分かる。実際の話、こうした鎧というものはその利用のされかたもあって人間が装着した状態で見つかることはまずない。鎧は当然戦闘時や防衛・警備の仕事といった、いわば非常時に着ける物でふだんは脱いでいるわけだし、戦場で鎧を着たまま死んだとしてもたいてい遺体からはがされてしまうためだ。せいぜい古墳の中の副葬品として見つかる程度だから、写真のような「はにわ」からその装着姿を想像するしかなかったのである。

 ところがこのたび、鎧を着た状態の人骨が見つかるという、非常に珍しい例があった。群馬県渋川市の金井東裏遺跡の6世紀初めの火山灰層の中から鎧を着た成人男性の人骨がほぼ全身分発見されたのだ。実際に鎧を装着した状態の人骨が見つかったのはこれが初めてで、それだけでも貴重なことなのだが、どうして鎧を着たまま死んでるのかという疑問が残る。これがまた興味深いことに、近くの榛名山がこの時期何度か噴火を繰り返しており、この「鎧男」がまさに火山灰層から出土しているため、これはどうも「火砕流に巻き込まれた犠牲者」ではないか、との見方が出ているのだ。
 この人骨の発見状態から、この人物は榛名山の方を向いていったん膝立ちになり、それからうつ伏せに倒れたと推測されるという。あとはもう想像するほかないのだが、この「鎧男」、かぶとをかぶっていなかったので、戦闘中ではなく、火山の噴火に際して山の神の怒りを鎮めようと祈りの儀式でもしていたのではないか、なんて説まで唱えられているようで。鎧の胴はつけているのはなぜかというのも気になるのだが、すぐ近くから乳幼児の頭骨も出たというから、もしかすると被災地で救助活動でもしてたんと違うかな、などと僕などは考えてしまった。いずれにしてもこの発見は軍事史のみならず日本の災害史の上でも重要なものとなりそうだ。

 山の神様が怒って「はにわ」像から「大魔神」になる、という有名な特撮映画があるけど、もしかして大魔神になりそこねた山の神だったりして。



◆また次の終末にお会いしましょう

 いまこの文章を書いているのは2012年12月23日の日曜日。この三日間、基本的に世界はほとんどオオゴトは起きておらず、世界をにぎわせたニュースと言えば、そう、例の「マヤの暦による世界の終わり」とやらをめぐる各地の騒動というかお祭り騒ぎくらいものだ。要するに地球規模のオオゴトなど何にも起きなかったのである。予想通りではあったけど、それにしてもふだんより平穏な三日間と思えたくらい。
 ここ数年、さんざんいろんなところで紹介されているので詳しい話は省くが、マヤ文明とは中米のユカタン半島周辺に栄えた古代文明の一つ(それにしてもマヤとかユカたんとか、可愛い名前が重なったものだ)。この文明は複雑な文字も作り、驚くほど正確な天体観測によりかなりしっかりした暦も作っていた。で、このマヤ暦に「終わり」があるという解釈があり(実際には単に「周期」の区切りのようだが)、1980年代の終わりごろから「2012年の冬至のころに世界が終る」あるいは「世界が新しい段階に突入する」といったオカルト話が生まれてきた。ただ特に世界で広く知られるようになったのは2000年代に入ってからだと思う。つまり、1999年に恐怖の大王がどうしたとかいう、あの「ノストラダムスの予言」の年がとくに何事も起きずに過ぎてしまった後、付け加えれば「2000年問題」も特にオオゴトにならずに過ぎてしまった後で、「次に終末」として期待(笑)が集まったということなのだ。

 「2012」なんて映画が作られてヒットするなどちゃっかり商売にして稼いだ人たちもいるわけだが、中にはそこそこ本気にして自分たちだけは助かろうと世界各地のオカルト名所に人が集まったりもしていた。そもそもの本場・マヤの遺跡でも「再現儀式」を見ようと人々が殺到し、神殿遺跡に損傷があったなんて話もある(この儀式自体、観光客を集めるイベントだったそうだが)。セルビアにある「ピラミッド」の形をした「ルタンジュ山」なんてところが「助かるには最適の聖地」だと、地元の観光業者が宣伝したため世界中から人が押し寄せた。トルコのシリンジェ村にもなぜか同様のことが起こり、世界中から野次馬も含めて数千人が押しかけた。中国では「全能神」と名乗る宗教団体が「人類滅亡」の噂を流布したとして1000人が拘束されたといい、16日に起こった小学校襲撃事件の犯人もその影響を受けていたらしいとの報道もある(たまたま同じ頃にアメリカでも銃乱射事件があったが、あれは無関係なんだろうな)。中国当局としては「法輪功」なんかの例もあるから警戒するところはあるのだろう。
 ロシアではかつてソ連時代に幹部を生き残らせるために作られた地下核シェルターで21日にパーティーをやるなど、より野次馬的傾向が強いようだが、プーチン大統領までが「人類滅亡は45億年後(もちろん太陽系の最期について言ってるのだ)」とわざわざ発言していた。
 我が国ではどうかというと、そこそこ人口に膾炙こそしたけど1970年代の「ノストラダムス」ほどの盛り上がりはなかったな。「ノストラダムス」だって1999年7月になってみたら全く盛り上がらなかった覚えがあるし、今年の日本の場合は去年に大災害があったからその手の事をお祭り騒ぎ的に取り上げるのは気がひけた、という心理もあるかもしれない。

 2012年12月21日にいきなり人類が滅亡する「手っ取り早い方法」として、小惑星などの天体の地球衝突という説も人気があった。まぁ確かに地球の歴史上何度かそういうことがあり、特に恐竜が滅亡したのは巨大隕石の落下によるもの、とするのはほぼ定説となっている。その落下地点が偶然にもユカタン半島なので連想しやすいということもあったかもしれない。
 NASA(アメリカ航空宇宙局)はわざわざ直前にユーチューブで声明を出し、「2012年12月21日で滅亡するというのは明らかな誤解。単に12月31日の次が1月1日になるというようなサイクルの節目に過ぎない」という趣旨を訴えていた。天体衝突説についても「数千人の天文学者が日常的に夜空を観測しており、仮に惑星が接近していたとしたら相当前から見えているはずだ」とのこと。
 もっともそれでも小惑星が地球に衝突する可能性自体は消えていない。実は「2011AG5」という小惑星が2040年に1%程度の確率で地球に衝突するかも、という試算があった。しかし23日までにNASAは詳細な観測の結果衝突の可能性はほぼゼロ、一番接近しても地球と月の距離の二倍くらいはある、との発表をしている。ただわざわざこの時期に発表したのは変に話が絡められることを警戒したのかも…

 ま、これまでのサイクルから言うと、2020年代初頭あたりを狙った終末説がまた出てくるんじゃないかな、と。では皆様、よい終末を。



◆戦い済んで年暮れて
 
 センセイが走る師走に行われた日本の衆議院総選挙は、事前の予想通り自民党の圧勝、自公連立政権の復活確定で終わった。それにしてもマスコミが直前に出す議席予測はここ三回ぐらいはかなりの精度で、今回はますますその精度が高まったようにさえ思った。
 民主党政権は3年ちょっとで陥落。僕は次の総選挙くらいまでは少なくとももつんじゃないかと政権交代時に思ったのだが、予想以上にあえなく終わった。3年ちょっとというとちょうど建武の新政がこのくらいの期間だったんだな、と南北朝マニアは連想してしまう(あれも実質2年で崩壊状態だったが)。政権交代時に出た正成マンガの一つが「700年前の政権交代」というフレーズを帯の宣伝文句にしていたし、時々ヘンなことを言い出す元外務官僚の評論家・佐藤優氏も鳩山由紀夫元首相が後醍醐天皇を祭る吉野神宮に参拝してるから南朝にシンパシーを感じてるんじゃないかと言ってたこともあり(で、なぜか佐藤氏は「太平記」にのめりこみ、講読会をyoutubeにアップしてたりした)、妙につながりはあったりする。

 一時台風の目になると思われた「第三極」は結局のところ当初予想されたほどには伸びず、「実質大敗」とみる声すらある。ま、確かに橋下徹大阪市長の人気も一発屋芸能人的に落ちて来ていたし、石原慎太郎を引っぱり出したためにカラーがはっきりしなくなったことが今一つ票が集まらなかった原因とは思う。僕のいる選挙区(茨城南部)でも唐突に群馬県の方から「維新の会」の落下傘候補が飛び込んできたがさすがにそれで小選挙区で勝てるほど甘くはなく、前回民主党で当選したものの今回は「減税日本」に鞍替え、その直後に「未来の党」に吸収されてどこの党にいるのか分からなくなっちゃった候補と票を分け合って共倒れ、結局前回落選した警察官僚出身で児童ポルノ取り締まり強硬派の婿養子世襲自民候補が漁夫の利を得る形となった。似たようなケースは結構多かったんじゃないかと思う。

 小選挙区選挙ではとにかく一位になったものしか勝てず、あとは全員敗北である。だから得票率と議席数に開きが出るケースが見られるというのは中学生の公民でも習う通り。この方式だとさして違いのない二大政党状態になりやすく、また政権交代が起こりやすいとも言われ、実際にここ三度の総選挙では自民大勝→民主大勝→自民大勝と政権交代こみで激しい揺れ動きを見せている。どちらの政党も昔の55年体制時代ほど支持基盤ががっちりしているわけでもなく浮動票によりあっちへこっちへと軽々と流動してしまうということなんだろう。実のところ民放テレビの選挙速報特番が騒ぐほど「国民の選択」なんて大げさなことを考えてる人はあまりいない気もしている。「争点」とされた「原発」「消費増税」「TPP」も結局はほとんど結果に影響を与えていないし。一番勝った自民党が一番それらについて曖昧な態度をとってたわけで、「脱原発反TPP反消費増税」なんてあからさまに掲げていた勢力はほとんど壊滅してしまった。まぁあれはあまりにあからさま過ぎて看板に出してるだけだと見透かされた観もあるが。
 公示直前になって嘉田由紀子滋賀県知事を引っぱり出して「国民の生活が第一」「減税日本」などが合流して「未来の党」が結成されたが、トタンバで追い詰められた小沢一郎のいかにも彼らしい苦し紛れの奇策にしか見られず、結局ほとんど成果はなかった。これでようやく一部に妙に熱狂的信者のいた「小沢神話」の化けの皮がはがれたと思うのだが、そのむかし「史点」で「小沢一郎衰亡史」なんてのを書いたのに一時は首相になりかけただけにまだいろいろやるのだろうか。さすがにこれで引導、ということになると思うんだけど。

 しかしまぁ、安倍晋三さんがまた首相に返り咲いてしまうとはなぁ。正直なところ自民党総裁選に出馬したことすら驚いたのだが、あれよあれよと言ってるうちに総裁選に逆転勝ち、そのまま選挙でも大勝利して、現憲法下で初めての総理大臣の返り咲きを実現してしまった(そういや日本とよく似てると言われるイタリア政界でもまたベルルスコーニ返り咲きとの見方が…)。以前彼の政権末期、いしいひさいちがその似顔絵を「どのツラさげて」と落書きした状態で書いていたのを改めて思い出す。顔と言えば先日も書いたように、あの顔を見るとどうしても「健康不安」を多くの人が口にしてしまうのだが、大忙しの選挙を乗り切った所をみるとすぐにぶっ倒れるほどではないみたい。
 ただねぇ、安倍さん個人がどうこうということよりも、僕はこの人にくっついてくる、あるいは背後につらなる人脈関係の方が不気味なのだ。なんか保守、というより右翼業界ではこの人はなぜか神様のごとく祭り上げられていて(前回の彼の政権時に自殺した閣僚が「安倍総理万歳」なんて遺書に書いてたでしょ)、自民党総裁選のときに地方議員やタレントが彼が前に病気を理由に辞職した事をブログで書いたり発言したりしたら「批判殺到」なんて現象が起こったりする。僕の仕事先の一つへ行く途中に野田首相(現時点で)の地元である船橋市があるのだが、解散決定前にその駅前でサンドイッチマンみたいな男たちが「安倍さんがんばれ」なんて書いた板を体につけて何も言わずにずーっと立っている光景なんかは不気味以外の何物でもなかった。まさかの再登板になったのも背景にそういうモロモロの後押しがあったから、としか思えない。岸信介以来三代の歴史の蓄積は相当なものなのだろう。
 そういう人脈があるもんだから歴史関係や外交関係でもちと気になるところがある次期政権なのだが、前回の政権時にはいきなり中国訪問をしたり8月15日の靖国参拝が閣僚でゼロになりかけるなど、かえって中国に受けてしまった(実際安倍さんの辞任時、中国のネットやマスコミではガッカリムードが広がっていたし、今回もどこかその気配がある)例もある。実際過去の自民党史でも右派・タカ派とみられた政治家が総理になってしまうと結果的にハト派的政策に終始してしまったことがあるので一概には分からない。とか言ってたらさっそく「竹島の日」の政府主催は先送り、靖国参拝は見送り、尖閣常駐も「検討」、なんて話が次々流れてきた。まぁ少なくとも参院選まではおとなしくしてるんじゃないかと。


 さて、お隣韓国でも12月19日に大統領選があり、野党候補が一本化されて大接戦にはなったものの、終わってみれば当初から有力だった保守系セヌリ党の朴槿恵(パク=クネ。韓国語では「槿(クン)」と「恵(ヘ)」のように「N」「HE」が続くと「ネ」と発音されるのだが、日本のマスコミでも一部「クンヘ」表記がなされている)候補が勝利し、次期大統領に決まった。韓国では初の女性大統領、そして初の親子二代大統領の誕生である。彼女の父親は1960年代から1970年代に韓国に独裁者として君臨し、同時に韓国の経済成長も進め、最後は部下により暗殺された朴正熙(パク=チョンヒ)その人なのである。数年前から将来の大統領候補と有力視されてはいたのだが、とうとう本当に父娘二代にわたる大統領となったわけである。東南アジアや南アジアではありふれて見られる現象だが、とうとう韓国にもその例が出てきたか、と思わされた。
 朴正熙というと、日本ではまず「金大中事件」のこともあり、すこぶる印象が悪い。あのころの韓国のイメージというのは今の北朝鮮並みで、何度か書いているが「ブラックジャック」の「パク船長」のエピソードは名指しはしてないが当時の韓国を想定したものである。実際に朴正熙時代が軍事独裁・恐怖政治だったという面はあり、韓国映画「大統領の理髪師」でもそうした状況はノスタルジックではあるがきちんと描かれていた。ただその映画の中でも朴正熙(一応実名は出してなかった気がするが)に対して絵にかいたような庶民主人公の理髪師は素朴な崇拝にも似た気持ちを抱いており、実際韓国でも一定の人気を今なお保っていると聞く。だからその娘さんに入った票にもある程度そうした心理は働いているのだろう。
 朴槿恵次期大統領は父親のみならず母親も暗殺されている。1974年の8月15日の光復節祝賀行事で在日韓国人の文世光により射殺されたのだ。この事件については2002年に朴槿恵が北朝鮮を訪問した際、当時露出度が妙に高くなっていた金正日本人から「あなたの母上については申し訳ないことをした」と北朝鮮の関与を認めたうえ謝罪を受けている。そういった話を聞けば、彼女自身が韓国現代史の申し子とも言えそうだが、これから5年間どうなるのか。父親の朴正熙が日本との関わりが深かかった(戦前、日本の陸軍士官学校で学んでいる)こともあり、日本保守界では妙に期待するむきが散見されるのだが、こと日韓の歴史問題関係は朴正熙のときの日韓基本条約が原因との声も韓国では強くあり、娘さんもそうそう甘い顔はできないはず。だいたい李明博さんだって大阪出身だから親日的、って言われてたんだもんな。


 それらの選挙の直前、北朝鮮では人工衛星を打ち上げている。「ジンコウエイセイトショウスルジジツジョウノチョウキョリダンドウミサイル」なんて早口言葉みたいな言いまわしはいい加減やめたらどうなんだ、と。技術的にミサイル転用が可能で国連安保理決議違反なのは分かり切ったことでみんな非難してるんだし、そもそも今回は当初公表していた通りにちゃんと失敗せずに成功させちゃったんだからその技術力に驚くべきだろう(実際韓国ではそっちの方が「先を越された」とショックだった)。北朝鮮のやることだからドジって途中でおっこっちゃったりするんじゃないの、といった「危機感」を抱いたり、警報を聞いて先島諸島の子供たちが裸足で走って避難しているのを見ると、そもそもそれじゃ間に合わないし、なんだか竹槍訓練でB29を相手にしようとしたこの国の過去を思い起こしたりさせられた。なんかズレてるんだよな〜
 「発射」の速報が入ったらTV各局がいっせいに通常番組を変更して報道特番を組んで大騒ぎしていたが、テレビ朝日にチャンネルを回したら一瞬映るデジタル放送の番組表示がそのまま「暴れん坊将軍」になったまま北朝鮮のことをやってたもんだから、「おお、内容とあってる!」などと大受けしてしまったものだ(笑)。

 ふと気づいたら、東アジアの三国がめでたくそろって世襲トップになっちゃうんですなぁ。仲のよろしいことで。 


2012/12/24の記事

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