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2015年1月5日

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◆今週の記事

◆2015年の正月に

 あけましておめでとうございます。今年もよろしく。
 実は今回の「史点」、本来は年末アップを目指して書いていたんですが、なんだかんだでズルズル延びてしまい、結局お正月明けの公開になってしまいました。ま、今年もこんな調子かな。

 さて2015年。前世紀生まれの僕には2000年以降の年号は何度聞いてもSFみたいに聞こえてしまうのだが、この2015年は映画「バック・トゥ・ザ・フューチャーPART2」で、1985年で高校生の主人公が自分の息子のピンチを救うためにタイムマシンで飛んだ年だ。公開当時でもえらく遠い未来の気がしていたのだが、気が付いたらその年になってしまった。とりあえず車もスケボーも空を飛んではいないし、「ジョーズ19」も公開されていない(笑)。映画のなかで2015年のマーティ―の上司が日本人の「イトー・フジツー」さんであったあたり、当時バブルにわいてアメリカのあれこれを買いまくっていた当時の日本人の様子が、未来の話のはずなのに「昔話」としてしのばれるのも面白いところだ。
 アニメではなんといっても「新世紀エヴァンゲリオン」の物語開始時点が2015年の設定。作った当時はずっと先のことと思ってたんだろうけど、漫画版の最終巻が出たのがつい先ごろ、新たな劇場版が現在まだ製作中だなんて…。調べてみると他にも、アニメ「ジェッターマルス」(「鉄腕アトム」のリメイク的作品)が主題歌で「時は2015年♪」と歌っていた。
 当サイト内に更新もせずひっそりと存在している、SF作家アイザック=アシモフの未来史シリーズでは2015年に水星探検隊が送り込まれていることになっていた。

 さて正月になってから去年の話題をふりかえってしまうことになるのだが、思い出せばいろいろあった昨年2014年は、日本国内ではやはり「STAP細胞の年」として記憶されちゃうのだろうと思う。1月末に大々的な発表があって世間を沸かせたが2月中に再現実験が誰にもできないことから「怪しい」との声があがってきて、3月10日に画像の使い回し&工作作業という明らかな捏造の証拠が出て大騒ぎに。疑惑は博士論文にも及び、3月後半の段階ですでに「学問的決着」は事実上ついていた。僕も畑は全然違うとはいえ「研究業界」のはしくれにいただけに大いに興味を覚え(旧石器捏造事件と良く似た「におい」を感じたのだ)、恒例の四月バカネタにも使わせてもらっている(笑)。
 しかしその4月1日に小保方晴子氏は反論会見を行って徹底抗戦の姿勢を示し、これがまた世間の注目を集めてしまった。おまけに別チームによるものばかりか疑われている当人が参加する「再現実験」なるものまで実行に移されてしまい(俺が実現させた!と「介入」を自慢している弁護士タレント出身の自民党文教族議員がいたっけな、本気で信じてたらしい)、8月には共同執筆者で小保方さんの上司であった笹井茂樹氏が自殺という衝撃的展開もあり、不謹慎な言い方だが、「ネタが枯れた頃に新ネタが投入される」というパターンが繰り返され、11月に小保方氏実験の成果なし時間切れ、12月末になって別チーム実験の打ち切り、ES細胞混入の断定、新たな論文捏造の認定、小保方氏の辞職という理研からの発表があって一年のしめくくりも「STAP」尽くしになった観もあった。しかしこれでもまだ擁護論、さらには陰謀論まで主張する人たちがゾロゾロと出たもんだから呆れた。この件は文系理系に関係なく、その人の学問的態度、理解度を判定するためのリトマス試験紙として機能したことだけは間違いない。

 ところで昨年は「長く続いた物が終わる」例が多かった。TV界では「笑っていいとも!」の終了が最大のものだろうが、漫画界では特に顕著で、水島新司「あぶさん」(1973〜)、室山まゆみ「あさりちゃん」(1978〜)、さだやす圭「なんと孫六」(1981〜)など、30年以上続いた漫画作品が相次いで終了している。「NARUTO」も今年で終わった長期作品なんだけど、こちらはたかだか15年である。
 なんてなことを考えていたら、毎日新聞連載の東海林さだおの4コマ漫画「アサッテ君」が12月31日に最終回を迎えた。これまた1974年以来40年間続いた、全国紙では最長記録の連載漫画であった。


 まさか30年40年と続くことはあるまいが、前回「山口県の三代目」というギャグにした安倍晋三さんは「三代目襲名」(一応説明しておくと田岡一雄の伝記映画「山口組三代目」の続編のタイトル)、もとい「三度目の指名」となり、長期政権の様相をますます呈してきた。返り咲きも「まさか」と思ったが、その後ここまでうまいことやってしまうとは正直思っていなかった。今度の総選挙についてはほぼ事前の予想通りではあるのだが、一応は与党安定多数の情勢のままなので、任期ギリギリまで続けてしまえばあと4年は安倍政権が続けられる、ということにもなる。大叔父の佐藤栄作の記録だって下手すると抜きかねない。選ぶシステムが違うので比較はしにくいが最長記録の桂太郎に届くかどうか…なんだ、みんな長州系ですな。そして今年の大河ドラマも長州系。
 なんてなことを書いていたら、正月明けに産経新聞が「自民党総裁任期を3期9年に延長」の動きが、なんて話を報じていた。なんかこの新聞の願望がにじみ出ているような…

 さて選挙の費用が600億から700億円だと騒がれてもいたけど、それだけのカネをかけても状況はそれほど変化してない。「自公圧勝」という見出しが各新聞に躍ったが、あくまで選挙前とだけ比較すれば状況に大きな変化はない。毎日新聞が「自民微減」の見出しをつけてみせたように議席数では自民は4議席減らしていて(開票後に無所属の当選者を一人入党させ、あと数人入る模様)、一時出ていた「自民上乗せ、自民単独3分の2以上も」という観測は外れた。序盤からあんまり「圧勝」が伝えられるもんだから、多少の揺れ返しはあったのかもしれない。「自公で3分の2」にはなったわけだが、公明党は選挙前より上乗せして過去最大の議席数を持つようになっており、数字だけみると自民が4議席を公明に 譲った、という見方もできる。事実上の「自民党公明派」となっているこのグループの勢力が増大した、と見ることもできるし、総議席数が5減ってるだけに発言力はより増したとさえ言えるかもしれない。

 野党第一党の民主党は事前の予想通り、10議席ほど増やしたものの、党首の海江田万里が落選するという事態に。調べてみたら野党第一党党首の落選は1949年の社会党党首・片山哲(首相経験者でもある)の落選以来65年ぶりという歴史的なものだった。事前の予想で惨敗との見方もあった「維新の党」は、党首が投票前の段階で敗北宣言までしちゃっていた割には1議席減らしただけの善戦。
 その一方でこの維新と分党した「次世代の党」は予想通りに大惨敗。前回書いたことだが僕に言わせれば「落ちた方がお国のため」な方々の多いところで、その点についてはほぼ期待通りになってくれた(笑)。いよいよ追いつめられたか、一部党内でも「あれはヤバい」と言われていたらしい「太陽の塔」の田母神俊雄らの公認までしてしまい、根拠のデタラメな排外主義丸出しの宣伝活動まで行っていわゆる「ネトウヨ層」の票掘り起こしまで狙ったが17議席を失う見事なまでの惨敗であった。都知事選では妙に票を集めて鼻息を荒くし、自民と公明の連携を絶とうと太田昭宏国土交通大臣の選挙区に殴りこみをした田母神氏だったが、アパグループのトンデモ近現代史論文賞のお仲間であるドクター中松(これが最後の出馬となるらしいが)同様の泡沫候補に落っこちた形となった。まるで沈没船から逃げ出す小動物みたいにアントニオ猪木がとっとと離党したのも象徴的だ。
 これと対照的に8議席から21議席へと議席を一気に伸ばし、なんと小選挙区での勝利まで挙げちゃったのが日本共産党。これも事前に予想されていたことだったが、「政権を取らせるつもりはないが政権批判票なら共産が確実」みたいな声はここ数年ネット上ではしばしば見られたもので、それが形になったものなのかどうか。数字だけ見ると次世代の党が対極にある共産党に議席を譲っちゃったようにも見える(笑)。まぁ馬の蹄鉄みたいなもので、右の端っこと左の端っこは実は近い関係、なんて例えもあるが。

 この共産党もそうなのだが、自民党・公明党など堅い「組織票」を抱えているところは低投票率の選挙に強い。今回の総選挙はついに投票率52%に落ち込み、戦後最低を記録してしまった。小選挙区での死票も48%にのぼったとされ、ますます「民意」って何?と言いたくなる状況になってきている。
 選挙前に政治とカネ問題で世間を騒がせた小渕優子松島みどり両元大臣たちはしっかり当選。小渕さんの方は当選後に「ハードディスクをドリルで破壊して証拠隠滅」という笑ってしまうような話が暴露されたが、選挙前に公表できなかった特捜のせめてもの抵抗という気もする。一方、「みんなの党」ごと消滅の危機にある渡辺喜美は父親以来の議席を失陥、直後に特捜の操作を受けるハメになったが、どうやら証拠不十分で訴追は免れそうな気配だ。
 一時は落選が噂された小沢一郎はどうにか踏みとどまったが自身が率いる「生活の党」は2議席に落ち込み(一部民主党に合意のうえでの鞍替えをしたためでもあるが)政党要件を満たせない事態に陥った。そこで参院議員の山本太郎と合流して「生活の党と山本太郎となかまたち」なる政党(!?)を結成してどうにか政党要件を満たして政党助成金を受け取れることになった。それにしても「損保ジャパン日本興亜ひまわり生命」を上回るセンスである。
 センス、と言えば、北海道限定ながら「支持政党なし」という政党(笑)が出て、一定の票を集めてしまったことも話題になった。なんかこの調子で行くと、次の参院選でヘンな名前の政党が乱立する事態になるんじゃなかろうか。


 さて今年は「第二次大戦終結70周年」の節目となる。恒例の天皇の新年の「おことば」でも「満州事変に始まるこの戦争の歴史を十分に学び、今後の日本のあり方を考えていくことが、今、極めて大切なことだと思っています」とあったのもそれを意識したものだが、「満州事変に始まる」とあったことが目を引いた。どうも日本では太平洋戦争ばかりに注目してしまいがちで、そもそもどうしてそういう事態に至ったのか歴史的経緯がほったらかしにされていることが多い。まさに「満州事変」あたりが歴史の分岐点となっており、そこからの歴史を十分に学ぶことは「極めて大切」だと大いに同意するところ。あくまで天皇の「おことば」なのでマスコミ的にはあまり大きな扱われ方はしていないのだが、これ、かなりご本人の意図がこもってるように思うんだよね。

 選挙に勝った安倍首相は70周年に向けて「安倍談話」を出す意向のようだが、「村山談話」「河野談話」をブツブツ言いながらもひっこめられないし、「安倍談話」でそれらを打ち消すような言い回しをするんじゃないかとの見方もあるが、たぶん「未来志向」とかなんとか言って基本的には村山談話を引き継ぐものになると見る。だいいち親分アメリカ様が勝手なことは許さんでしょ。そういやロシアから「対独戦勝利70周年式典」に、安倍さん、「ウラジーミル」ことプーチン大統領から招待されてるらしいのだが、なんか微妙な立ち位置だよなぁ。日本はその「独」と同盟組んでたのに。
 今年は他にも「阪神淡路大震災」および「地下鉄サリン事件」から20周年。「日航ジャンボ墜落事故」から30周年と、いろいろ節目が多い(ま、毎年のことかもしれんが)。そういや自民党も今年で結党60周年になる。



◆70年目のナチスの亡霊

 さて上記のとおり、今年は第二次大戦終結から70周年。昨年が第一次世界大戦開戦から100周年だから、二つの大戦が30年のうちに行われたわけである。それから70年間、戦争はどこかで常に行われていたと言っていいが、とりあえず「世界大戦」は幸いにして起こしてはいない。
 第二次世界大戦、ヨーロッパを中心に見ればやはりその「主役」はナチス・ドイツである。すでにその滅亡から70年となるわけだけど、何かにつけて「ナチス」の影は戦後史の中に亡霊のように見え隠れしてきた。この一ヶ月間にもそうした話題が続いたのでまとめてみた。


 戦後、ナチス幹部の一部は南米など世界各地に逃亡している。このため1980年代くらいまで「ナチス復活を計画するナチス残党」ネタが各種フィクションでしばしば扱われていたものだが、戦後半世紀も過ぎてしまうとさすがに存命の幹部もいなくなり、その手の話はリアリティを失ってしまった。最近聞くのはせいぜい強制収容所の看守だった90歳以上の老人が捕まったとかなんとかいった話くらいだ。
 そうしたナチス残党の中でも「大物」と言われていた人物が、つい4年前まで生きていたことが確認された。その名をアイロス=ブルンナーといい、元ナチス親衛隊(SS)の幹部。ホロコースト計画の中心にいたアドルフ=アイヒマンの片腕とも言われていたそうで、ユダヤ人団体「サイモン・ヴィーダル・センター」でも追跡する戦犯リストの筆頭に彼の名を挙げていた。なおブルンナーは1912年生まれで、存命ならすでに100歳を越えている。
 ブルンナーはナチス崩壊後、シリアに逃亡していたという。それでも行方はつかめなかったらしいのだが、このたびドイツ情報当局から「ブルンナーは4年前にダマスカスで死亡した」との情報が、サイモン・ヴィーダル・センターにもたらされたのだという。その情報入手の経緯は不明だが、彼が98歳となる2010年までは生きていたということになる。サイモン・ヴィーダル・センターではその情報の真偽については未確認としつつ、ブルンナーが存命の可能性は低いとして戦犯リストから外したことを明らかにしている。
 シリアと言えば、そのブルンナーの死の直後に内戦に突入し、「イスラム国」なんて現代版ナチスみたいな連中が暴れちゃったりしているわけだが…もしかして実は生きていて参加してました、ってな話になったりしないだろうな。


 CNN日本語版サイトで見かけた記事によると、12月8日、フランス政府がホロコースト生存者に対して総額6000万ドル(約72億6000万円)の賠償金を支払うとの協定書に署名した。なんでフランス政府が?と思っちゃうところだが、理由はフランスがナチス・ドイツに占領されていた1942年〜1944年の間に、当時のフランス国鉄がユダヤ人を強制収容所へと輸送してしまったから、その責任をとるためとのこと。
 しかし当時のフランスは北部はナチス占領下、南部についても傀儡政権といえる「ヴィシー政府」の統治下にあったわけで、フランスがそこまでホロコーストの責任を追わなきゃいけないんだろうか?という気もして来るのだが、一応大戦終結後にフランス政府はホロコースト被害者に対して一定の補償をする意向を表明してはいるのだそうだ。占領下とはいえ「フランス政府」として協力した事実は免れないし、ユダヤ人迫害だって何もナチスの専売特許ではないからユダヤ人狩りに協力的だったフランス人だって結構いたんじゃないかという気もする。今回の賠償金についてもあくまでそうした補償活動の一環、ということになってるらしい。
 ただ、フランス国鉄の「ホロコースト協力責任」が今ごろになって出てきたのは、アメリカ連邦議会の議員さんたちの熱心な運動があったから、と聞くと、ちと生臭さも感じてしまう。運動をしていた議員さんたちによるとフランス国鉄は大戦中にユダヤ人7万5千人以上、および数千人規模の各国国民、撃墜された米軍パイロットなどを強制収容所へ輸送していたことになっていて、その賠償問題を解決しないとフランス国鉄をアメリカの市場から締め出すぞという、かなり政治的な脅しまでつけていた。この賠償金はアメリカ当局が管理する基金に仕立てられ、アメリカ人はもちろん、それ以外の国のホロコースト被害者あわせて推定数千人に補償金を支給することになるという。
 フランス政府としては「あくまでヴィシー政府の指示だから国鉄に法的責任はない」としつつ上記のような理屈で賠償に応じることにしたわけだが、決定の経緯を聞くとアメリカ政治家の我こそ正義な傲慢さ、その背景にあるであろうユダヤ人ロビーの政治力も感じてしまうな。
 
 
 同じくCNN日本語版サイトの記事によると、12月の初めまでにブラジル南部サンタカタリナ州ポメロデというところで、民家のプールの底にナチスのシンボルとして知られる「カギ十字(ハーケンクロイツ)」が描かれているのを警察が発見、ちょっとした騒ぎになったらしい。なんでも誘拐事件の捜査で出動していた警察のヘリが上空から偶然に発見したものだそうだが、誘拐事件の方がどうなったのか記事には全く触れられていない。
 警察がさっそく調査したが、ハーケンクロイツが描かれたプールのある民家の主は別にナチス残党でもナチズム信奉者でもなかったようで、何かの罪に問われる可能性はないという(ドイツでご法度なのは有名だが、ブラジルでもやはりご法度なのかな?)。プールの底のハーケンクロイツは少なくとも13年前から描かれていたというのだが、描かれた経緯については捜査中なのか記事中では言及がなかった。ただ、このサンタカタリナ州はドイツやオーストリアからの移民が多い土地だそうで、もしかするとナチス残党、もしくはその流れをくむ人がプールの底にこっそり描いておいたのかもしれない。
 ところで、先ほど今年の大河ドラマ「花燃ゆ」の第1回を見たのだが、吉田松陰の羽織にナチスマークの家紋が…!もちろんこれは古代インドに由来し寺院の地図記号にも使われている「卍(まんじ)」マークであってハーケンクロイツとは逆向きなのだが、ドイツで放送されたらあらぬ批判を浴びそうな気もするなぁ…


 そんなふうにナチズムを徹底否定しているドイツではあるが、他のヨーロッパ諸国同様に時として排外的な動きが顔をのぞかせることがある。現在ドイツの連立政権の一角を担っている政党「キリスト教社会同盟」「永住を希望する移民は家庭でもドイツ語を使うべきだ」という政策提案を検討していたことが12月初旬に判明し、とくにドイツに多いトルコ系移民が大反発、メルケル首相周辺も「連立政権の合意にそんなものは含まれない」と表明、野党でも批判の声があがった。メルケル首相が率いる「キリスト教民主同盟」の幹事長がツイッターで「家でラテン語を話そうがクリンゴン語(分かる人は分かる)を話そうが、政治家が関知することではない」とつぶやいた、という話にはちょっと心が和んだものだが。
 なんでもキリスト教社会同盟は保守系ではあるのだが、特に国粋的・排外的というわけでもないらしい。むしろこのところドイツでも移民排斥を唱える右翼政党の伸張という現象がみられ、それに対抗して地盤のバイエルン州の保守層にアピールするためにこんな突っ込んだ提案をあえてしたものらしい。さすがに批判の嵐を浴びることにはなったが、同様の主張はアメリカやイギリスでも政治家が主張することがある。
 日本でも選挙中思いっきりナチスばりの主張をしていた政党があって他人事ではないのだが、今回は幸いにして惨敗してくれた。それでも安倍さんに近い某政治家が、ハーケンクロイツをやたらに使う右翼系団体と関わりをもってた、なんて話が最近あったよねぇ。



◆ダイエー博物館大安売り

 偶然ながら、この文章を書いている途中の12月26日をもって、スーパー「ダイエー」は上場廃止となった。イオンに完全吸収されることになったからなのだが、かつて流通革命の雄と言われ、プロ野球チームまで持っていた「ダイエー」自体が消滅してしまうことになるとは歴史的な事態ではある。なお同じ発音の「大映」もプロ野球チームを持っていたが倒産、流れ流れて角川映画に完全に姿を変える形で消滅するという、不思議な符合があったりする。

 さて本題。もう12年以上前のことになるが、僕はロンドンの大英博物館を見物している。「大英」といいながらイギリス本国からの展示品は数はそこそこながら小さく地味なものばかりで、見どころはかつて「大英帝国」時代に集めたエジプトやメソポタミアといった古代オリエント文明の展示スペースに集中している(なにせ最大の「目玉商品」がロゼッタ・ストーンだ)。当然見物人もそちらにばかり集中していて、他は閑散としていた印象がある。
 その大英博物館の有名な展示品のひとつに「エルギン・マーブル」がある。これはギリシャはアテネにある、あの有名なパルテノン神殿の上部を飾っていた大理石の彫刻群で、まだギリシャがオスマン帝国の支配下にあった19世紀初頭にイギリスの外交官エルギン伯爵がオスマン帝国と話をつけた上でごっそりひきはがしてイギリスへ持ち帰ってしまったものだ(許可した方もあんなにごっそり持って行くとは思ってなかったみたいだが)。独立後のギリシャ人にとってはかつてのギリシャ文明の栄光の象徴でもあるから、かねてより大英博物館に対して返還を要請しているのだが、大英博物館は一切応じていない。似たような話はイギリスだけでなくフランスやドイツの博物館・美術館でも問題になっているが(日本も例外ではない)、「返還」したという話はとんと聞かない。ギリシャではやむなくアテネのアクロポリス博物館に「エルギン・マーブル」のレプリカを展示し、いずれ「本物」を展示するためにスペースを確保しているそうで。

 さて、これまで大英博物館では返還を断る理由のひとつに「損傷の恐れなど、輸送の困難さ」を挙げることが多かったらしい。ところがこのたび「エルギン・マーブル」の一部である「イリッソス像」がエルミタージュ美術館に貸し出され、12月6日から一般公開されることになったからギリシャ国民が激怒している。エルミタージュ美術館といえば、そう、ロシアはサンクトペテルブルグにある。「エルギン・マーブル」がイギリス国外に運ばれること自体これが初とのことだというし、ギリシャを通り越してもっと遠いロシアに貸し出しちゃったんだから、ギリシャ人が頭にくるのも無理はない。
 ギリシャのサマラス首相は「大英博物館は移動による損傷の恐れを理由に返還してこなかったが、その説はもう通用しなくなった」として、この貸し出しを「ギリシャ国民への侮辱」とまで表現したという。あと、誰も口には出してないだろうけど、昨今のギリシャやエジプトの経済・政治の不安定さも「返さない方がいい」という根拠にされてるフシはあり、それでいて「ロシアはどうなんだ?」という気分もギリシャ側にはありそうだ。


 博物館の話ではないが考古学つながりということで。こちらも12月初旬の話題。
 ちょうど地球温暖化問題などを話し合う「COP20」が開催されていたペルーで、環境運動団体「グリーンピース」が、あの「ナスカの地上絵」の、それも最もよく知られる「ハチドリ」の地上絵のすぐそばに黄色い布を使って「変化の時。将来は再生可能」という「地上絵メッセージ」を作るというパフォーマンスをやらかし、大問題となった。当人たちは地上絵そのものを壊さなければよかろう、という程度に考えていたようで(一応「考古学の専門家」の指導を受けたと主張している)、地上絵の本体である「溝」部分には足を踏み入れないようにしていたものの、それ以外のところにはまったく無頓着に踏み込んでいた。彼らは知らなかったようだが地上絵地域はそもそも全体が「立ち入り禁止区域」に指定されており、調査などで立ち入る場合は周辺の地面を踏み荒らさぬよう特製の「大ゲタ」を履くことになっている。しかし彼らは文字通りに「土足で踏み込む行為」をしちゃったわけである。
 「グリーンピース」がその主張のアピールために手段を選ばぬ目を引くパフォーマンスをやるのは今に始まったことではないが、今度のはさすがに世間からこれまで以上の非難を浴びた。歴史的遺産にして観光資源でもある「国の宝」に土足で踏み込まれたペルー政府は当然カンカンで法的措置を検討しているとのこと。無知から来たとは言え明白な「違法」でもあり、環境のためなら遺跡も守りません、ととられかねないパフォーマンスとなっただけに、さすがのグリーンピースも謝罪表明し、比較的低姿勢になっているのだが、たぶん今後も懲りずに似たようなパフォーマンスをやるんだろうな。日本で開催したら、それこそ姫路城のてっぺんにクジラのシャチホコつけちゃうとか(笑)。
 そーいやー、いつだったか日本の官房長官が「ナチスの地上絵はUFOと結びつけないと説明できない」といった趣旨の発言(半ば冗談ではあったが)をしたことがあったっけ。変なメッセージを書いて宇宙人が混乱したらどうするんだ(笑)。

 今度は考古学ではないが、「歴史的遺産」つながりの話。
 アメリカ上院が12月に次年度の国防予算関連の法案を可決したが、その中に「マンハッタン計画」の施設(ニューメキシコ州、ワシントン州、テネシー州に点在)を国立歴史公園に指定する内容が盛り込まれていることが分かった。大統領の署名を得て法案が成立すれば一年以内に「マンハッタン計画」の使節は実際に歴史公園に指定されるとのこと。指定の目的については「現在と将来の世代のため、国にとって意義のあるマンハッタン計画に関する歴史的資料を保存・保護する」と書かれているそうだ。
 「マンハッタン計画」とは、もちろんアメリカが第二次大戦中に進めた原子爆弾開発計画のこと。この計画により人類初の核兵器「原子爆弾」が3発製造され、一発は実験で炸裂、残り二発は広島と長崎に実戦投下され、凄惨な被害を与えた。その意味では紛れもなく人類史上に特筆すべき価値は確かにあり、後世に伝えるものとして保存・保護するのは当然と言えば当然だろう。広島や長崎における平和公園みたいなものになれば特に問題はないと思うのだが、なにせアメリカでは「原子爆弾が戦争を終わらせた」(その可能性自体はまったくゼロとは言えないが)として肯定的評価をする声も根強く、この「国立歴史公園」も原爆を肯定的に扱う可能性が高いと危惧されている。これとは別の話だが、「原爆テーマパーク」なんて遊園地まがいの施設を作るなんて話もあったからなぁ(実際に作ったかは未確認)
 そんな危惧もあるから、広島市と長崎市は以前から「国立公園指定」に対する憂慮の念をアメリカ政府に伝えていた。結局指定が決まってしまったことになるが、どういう形のものになることやら。



◆半世紀にして和解?

 去年の年の瀬、世界の注目を集める外交的な動きがあった。アメリカキューバが国交正常化交渉にとりかかる、と発表したのだ。実現すれば実に半世紀ぶりの「和解」となる。
 世界地図を見れば一目瞭然のように、キューバはアメリカの目と鼻の先にある。そんな両国に半世紀も国交がなかった原因は、「キューバ革命」以来の歴史的経緯にある。

 もともとキューバはスペインの植民地だったが、1898年に起こった「米西戦争」の結果、アメリカが分捕って植民地とした。1902年にキューバは独立するが、アメリカに内政干渉権と国内に米軍基地(このうちグアンタナモ基地は現在も残る)を置くことを認め、実質的な植民地状態であることに変わりはなかった。とくに第二次大戦後のバティスタ政権下のキューバは、腐敗した政治状況のもとでアメリカ資本やアメリカマフィアの進出による経済支配が進行(この辺の事情は映画「ゴッドファーザーPART2」でも描かれた)、これがフィデル=カストロチェ=ゲバラによる「キューバ革命」(1959年)を招くことになった。
 といって、キューバ革命が起こったから国交断絶になったという、そう単純なものではない。カストロたちも当初は社会主義国家樹立を看板に掲げていたわけではなく、キューバ再建のためにはアメリカの協力が不可欠と考えて積極的にアメリカ政府に接近もしていた。しかし冷戦まっさかりの時期だけにアメリカのアイゼンハワー大統領はカストロらを「共産主義」と決めつけて警戒(キューバ利権を失ったアメリカ資本やマフィアのロビー活動も当然あった)、カストロの革命政権側もアメリカ資本に握られた砂糖生産(キューバの主力産業である)の国有化やアメリカ資本の接収を進めるというボタンの掛け違いもあって、結局キューバはソ連に接近せざるを得なくなった。このためアメリカのケネディ政権は1961年にキューバと国交を断絶、経済封鎖をおこないつつカストロ政権打倒を画策して失敗、1962年にはソ連がキューバに核ミサイル配備をしようとしたことで核戦争一歩手前までいってしまう「キューバ危機」まで行ってしまうことになる。
 
 キューバ危機が米ソ、さらにはアメリカとキューバの対立の頂点で、そのあとはいくらか緊張は緩和された。アメリカも他の中南米諸国で左翼的政権が出来そうになると露骨に介入を繰り返したが、キューバだけはソ連と密接なだけに手を出さないままで、経済封鎖は続行しつつも直接的に政権を倒そうとはしなかった。確かフィデル=カストロ自身が明かしていたと思うのだが、キューバ危機の直後にもアメリカとキューバの間で国交正常化交渉が水面下で進められていたとの話もある。しかしそれはケネディ暗殺によって立ち消えになったとされていて、ケネディ暗殺の背景にキューバ問題が深くかかわっていたのでは、との説を補強することにもなりそうだ。

 1989年に東欧諸国の社会主義政権が倒れて東西冷戦が終結、1991年にはキューバ最大の支援国ソ連が崩壊してしまった。こりゃキューバのカストロ政権も長くあるまいと考える向きが多かったが、結局今なおキューバの社会主義体制は続いている。フィデル=カストロこそ引退したが弟のラウル=カストロ(もともと彼の方が社会主義寄りだったと言われる)が部分的に市場経済を導入しつつなんだかんだでそれなりに安定した国家運営をやっている。
 アメリカ議会でもキューバに対する経済封鎖解除を求める動きが90年代以後続いていて、民主党のクリントン政権はそこそこ乗り気だったらしいが(国連でだったか、カストロ議長とさりげなく立ち話をしたことがあった)共和党のブッシュ政権は徹底して拒否。ネオコン的な連中や亡命キューバ人票への影響を恐れたのだと言われている。国連総会でも何度となく経済封鎖の中止を求める決議が圧倒的多数の賛成を得て来ているのだが、アメリカはこれを無視し続けてきた。
 オバマ政権は一年以上前から水面下でキューバとの交渉を進めていたとされ、初の中南米出身の法王であるフランシスコ法王が仲介役になっていたことも明かされた。ほぼ一年前、南アフリカでのマンデラ元大統領の葬儀でもオバマさんとラウル=カストロが「立ち話」をする場面があったが、あれもその流れの一環だったのだろう。オバマの歴史的功績づくりだとか、ロシアの経済危機やベネズエラの支援が頼めなくなったキューバが追いつめられてるとかいろんな説が飛び交ってるが、この両国が国交を持たぬままやってたこと自体が時代遅れだったわけで、正直なところ「何を今さら」な話なのだ(だいたい政治体制のことを言うならすでに中国やベトナムと国交を結んでる)。まだまだ共和党の中には「徹底抗戦」を呼びかける声もあるらしいが…

 まぁ日本で言うと北朝鮮と国交が正常化するようなもんかな、とも思うのだが、あれでいてアメリカ人は意外とカストロやゲバラに対して好意を持ってる人が多いらしく同列にも論じられない。ゲバラの死後すぐにハリウッドでゲバラ映画が作られ、キューバ革命50周年記念で「チェ」二部作も作られているし、最近でもフィデル=カストロを主役にした大型TVムービーも製作されていて、一定の批判部分はありながらも基本的には革命英雄として称賛する内容だった(日本では「ゲバラ&カストロ」の邦題でリリース)
 なお、キューバは「革命時点で時間が止まった」とまで言われちゃうほど1950年代のオールドカーが多く走っているほか、SLも現役でガンガン走っているため欧米の車オタク、鉄道オタクたちがツアーを組んで押しかけているそうな(笑)。もともと観光の売りが多い国でもあるし、アメリカと国交が正常化すればこの手の客がずいぶんカネを落とすかもしれない。また同時にキューバを新規市場として狙うアメリカ経済界の期待も大きいと言われていて、この辺、一歩間違えるとまた革命前の植民地状態に戻ってしまわないとも限らない。そのせいか、ラウル=カストロ議長は「社会主義体制は堅持する」と釘を刺す発言もしていたっけ。


 キューバ以外で「よく続いてるな」と思ってしまう「社会主義国」が北朝鮮だが、こちらは「ジ・インタビュー」なるB級コメディ映画をめぐってひと騒動に。配給元のソニー・ピクチャーズがハッキングされて大量の情報漏洩が起こり(これがまた美味しすぎるほどの業界ゴシップネタ満載なんだそうで)、これをアメリカ当局が「北朝鮮の犯行」と断定して「経済制裁」をするのだそうだが、一部では「本当に北朝鮮なのか?」と疑問の声もあるにはある。理由の一つがソニー・ピクチャーズというのが以前からよくハッキングの標的にされているところで、漏洩したネタが妙に映画マニア好み(笑)であることなどが挙げられているのだが、親父さんの金正日は相当な映画通だったから、北朝鮮ハッカーは意外と映画通なのかもしれない(笑)。
 見た人の感想を読む限り、この「ジ・インタビュー」って本当にくだらない映画(序盤だけはマシとの話も)で、サイテー映画にランキングされそうなほどのものらしいのだが、一時の公開停止騒動のおかげで観客を動員することにもなり、ネット上で見た人も多い(なんと北朝鮮でも一部見た人がいたと報じられている)。もしかして「炎上商法」ってやつじゃないのかと思っちゃうほどだが、こんな映画一本で米朝大戦争なんてことになったら、それこそ落語みたいな話である。
 アメリカの映画評のなかで、「最近CIAの拷問手法に関して何が拷問なのか議論になっているが、間違いなくこの映画は拷問」とあったのには爆笑してしまった。そうだ、これからCIAは「合法的拷問」にこの映画を鑑賞させる、というのはどうか(笑)。


2015/1/5の記事

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