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2015年7月18日

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◆48億キロの彼方に

 前回の更新から一か月半が過ぎてしまった。この間にパソコンが不調になり、とうとうシャットダウンするとなかなか起動しなくなるという最悪の症状が発生した。電源等をすべて抜いてしばらく放置してから電源を入れると「こいつ、動くぞ…」という場合もあったのだが、だましだまし2週間ばかり使ってみたがついに「起動せんしナンマンダブ」と見切りをつけ、新PCを買うことに。マイPCはついに五代目、「史点」執筆に使ったものでは四代目となるマシンは東芝製をなんとなく選んだのだが、その東芝では直後に不正会計が発覚する騒ぎになっちゃっていたりする。これが外国企業(特に近隣国)だったらマスコミで総袋叩きでネタにするとこなんだろうけど、東芝については不思議なほど静かに扱われてるな。
 この一か月半、「史点」ネタにしたいことはそれこそ山ほどあったんだけど(特に考古と政治関係)、執筆時期を逸してしまった。そこで気分を一新してというか、ある意味現実逃避として、はるか宇宙の話から。


 NASAの惑星探査機「ニュー・ホライズンズ」がこの7月に冥王星に最接近して話題となっている。かつて「太陽系の一番外側の惑星」と扱われていた、あの冥王星である。「宇宙戦艦ヤマト」ではガミラス軍の地球攻略最前線基地にされ、「銀河鉄道999」では機械の体を手に入れた人々が以前の体を氷の下に残してゆく「墓場」イメージで描かれたのも、太陽系の「さいはて」と認識されていたからだ。
 冥王星が人類により発見されたのは1930年のこと。発見者はアメリカ人のクライド=トンボー(1906-1997)だった。太陽系の惑星のうち天王星は18世紀に、海王星は19世紀に発見されていて、ようやく20世紀になって「第9惑星」として見つかった。ローマ神話の冥界の王の名前をとって「プルート」と命名され、その日本語訳が「冥王星」だ。太陽系でもはるか彼方、冷たく凍り付いた惑星だろうということで「冥王」という命名はふさわしいと考えられたろうし、「999」での使われ方もまさにそのイメージに基づいている。

 はじめ冥王星は地球と同じか、あるいはより大きいくらいの惑星と考えられていた。しかし観測が進むにつれて実は地球の月より一回り小さいサイズであることがわかってきた。それでいて生意気にも(笑)衛星を従えていることが確認され、1978年に発見された衛星「カロン」は冥王星の7分の1という「大きな衛星」で、ちょうど地球と月の関係に似ていることもわかってきた。その後21世紀に入ってから次々と衛星が見つかり、全部で五つも衛星を従えていることが確認されている(アニメファンは「反射衛星砲!」と反応したらしい(笑))
 しかしそれと並行して、「そもそも冥王星は“惑星”なのか?」という問題も浮上してきた。そりゃまぁ太陽の周りを公転している広い意味での「惑星」には違いないのだが、その公転軌道はかなり特殊(海王星起動の内側に入り込んでくることがあり、「水金地火木土天冥海」と覚えた世代もいるはず)。しかも1990年代から冥王星以外にも太陽系外縁部の天体が見つかり始め、なかには冥王星といい勝負、あるいはより大きい天体も見つかるようになった。そうなると冥王星だけ特別扱いするのはおかしいのでは?という意見が出て論争が繰り広げられた。まさに「惑わす星」である。なお発見者のトンボーは自身の晩年に起こったこの論争について、「やはり惑星のままにすべき」と主張していた。
 結局、2006年8月に国際天文学連合は冥王星を「準惑星」の地位に格下げし、太陽系の惑星は8つと限定された。当時発見者の故国でもあるアメリカでは特に反発があったように記憶している(日本のマスコミはやっぱり松本零士さんにコメントを求め、狙い通り否定的な回答があった)。そしてその冥王星の探査を初めて本格的に行うべく「ニュー・ホライズンズ」が打ち上げられたのはこの年の1月のことだった。つまり当初の計画から打ち上げ時までは目標が「惑星」だったのだが、出発直後に行く先が「惑星」ではなくなっちゃったのである。

 それから9年半、実に48億キロの旅を続けて、ようやく「ニュー・ホライズンズ」は冥王星に接近した。2月ごろに冥王星と衛星カロンがツーショットで映った写真を送ってきたときは僕も結構興奮してしまったものだ。すでに人類は太陽系の外まで探査機を飛ばしているものの、冥王星についてはこれまで接近調査をしたことがなく、実はまだまだ実態不明の惑星だった。そこへ接近してこんな写真を撮っちゃうんだから、最接近したらどんなことになるんだろう?とワクワクしちゃったのである。
 最接近がいよいよ近づいた7月に入った途端に一時的にトラブルで通信途絶という事態が起こってヒヤヒヤしたものの、幸いすぐに復旧。そして7月14日についに冥王星に約12400キロ(カロンの軌道の内側)まで接近、冥王星とカロンのビックリするほど鮮明な写真を撮影、送信してきた。この際に冥王星とカロンのより正確なサイズも分かったというから、やっぱり実際に近づいてみないと分からないことは多いのだ。
 公開された鮮明な写真には、クレーターも映っていたものの意外とその数は多くはなく、むしろ山脈や平野などはっきりとした地形が確認できた。中でも驚きだったのは標高3300m、つまり富士山クラスの高さの「氷の山」があると発表されたことで、この事実から「もしかして地殻の活動があるのでは?」「大量の水(H2O)が存在するのでは?」と冥王星の意外な「素顔」に研究者たちも大興奮の様子。カロンの方にも巨大な断崖や渓谷があるとか、驚かされる発見があり、まだまだもっと驚くような発見があるのかもしれない。

 なにせ冥王星から地球までは48億キロもあり、大量の観測データを送信するだけで一苦労。「ニュー・ホライズンズ」には8GBの記憶装置があり、いったんためこんだ観測データはこれから少しずつ地球へ送信される。全部受け取るのは来年の秋だそうで…冥王星の観測がすんだら他の太陽系外縁天体の調査も予定されているという。それからあとは太陽系を離脱することになるが、いずれ地球から人類のメッセージを送信し、太陽系の外へと運んで行ってもらう予定だそうである。
 なお、「ニュー・ホライズンズ」には冥王星の発見者トンボーの遺灰も載っており、順調にいけば「遺灰」とはいえ太陽系を最初に飛び出す「生物」になるんじゃないかと。


 星の話つながりで、歴史関連ばなしを。
 奈良県明日香村に「キトラ古墳」と呼ばれる古墳がある。7世紀末から8世紀のはじめ、つまり飛鳥時代終盤ごろに造られたとみられる古墳で、石室の壁に玄武・青竜・白虎・朱雀の「四神」のほか十二支の獣面人身像が描かれ、さらに天井に星座を描いた「天文図」が描かれていることで知られる。
 この天文図、現存するものとしては日本のみならず東アジアでも最古の「星図」だとされているのだが、この天文図について2人の天文研究者が詳細に分析を行った結果、お一人から「4世紀ごろの長安や洛陽のあった北緯34度付近で観測された星の位置だ」という判断が出たとのこと。もうお一人は「紀元前1世紀ごろのもの」とやや異なる見解を出されたそうだが、いずれにしても建造当時の日本での観測ではないわけで、元になった星図は中国由来のものだったということだ。



◆誰が為に金は成る

 先日、東京都美術館で開催されていた「大英博物館展」を見てきた。もう13年も前に本家の方も見ているのだが、所蔵品を全部が全部見せてくれてるわけでもないし、所蔵品から100個を厳選、200万年前の石器から21世紀現代の大量生産品までを並べて人類史を俯瞰するという趣旨が面白いと思って行ってみた。
 いろいろと興味をそそられる展示物はあったが、中でも現存最古(?)の銀貨と、中国・明代の「紙幣」が僕の目を引いた。特に後者、中国は世界初の紙幣を発行したことで知られているが、もともとは現金と交換できる「交換券」とでもいったもので、展示されていた「紙幣」にもそれが現物の「銭」と交換できることが該当する銭貨の束の絵で示されているところが実に興味深かった。そういえば初期のクレジットカードなんかも展示されていたっけ。

 さて紙幣は上記の中国の例にみえるように、本来はそこに書かれた同額の貨幣・物品と交換できることが政府により保証されることで成り立っている。その発行元の政府が裏付けなしにバンバン紙幣を刷ってしまうとインフレが発生し経済が混乱するという例は早くも元の時代に起こっている。なお今年の「四月バカ史点」でネタにした「建武の新政」の際に後醍醐天皇「楮幣(ちょへい)」と呼ばれる紙幣の発行を計画したのも、元の先例にならったものとみられている(後醍醐は宋学にハマり、僧侶の服装まで元風にさせるなど結構中国かぶれであった)。だが、それでなくても混乱状態だった建武政権では実行なんぞできなかっただろうな。実行したらそれこそ史上初のハイパーインフレの先例を作ってしまったかもしれない。先例至上主義の公家社会にあって「朕の新儀は未来の先例」という名セリフを残した後醍醐サンにとっては案外本望かもしれないが(笑)。

 
 現代におけるハイパーインフレの名物国家といえば、アフリカ南部のジンバブエである。独裁政権のハチャメチャな政策で経済が21世紀に入ってから破綻状態となり、通貨「ジンバブエドル」の価値は暴落の一途。2003年に「1000ドル札」が発行されたあたりから高額紙幣ラッシュが始まり、2006年には10000ドルや10万ドル紙幣が登場、2008年にはついに1億ドル・5億ドル紙幣までが登場、政府は数字のケタを一気に切り捨てた新通貨に切り替えるも焼け石に水で、その年の末には10億ドル・50億ドル・100億ドル紙幣が発行され、年が明けた2009年正月にはとうとう億単位を突破、10兆ドル・20兆ドル・50兆ドル・100兆ドル紙幣までが発行される事態となった。まさに天文学的桁違いの超高額紙幣だが、実質は紙クズ同然。直後に1兆ドルを1ドルにするデノミが実行されたが新紙幣の発行はなくなり、以後はアメリカドル、南アフリカのランドが通貨として使われることになった。
 そして先月、6月11日にジンバブエ政府は正式にジンバブエドルの使用を公式に停止し、銀行口座に残っているジンバブエドルもすべてアメリカドルに交換すると発表した。なんでも17.5京(!)ジンバブエドル以内の預金であれば一律に5アメリカドル(600円ちょっとくらい)と交換、それ以上については3.5京ジンバブエドルごとに1アメリカドルと交換するのだそうな。あまりにも額が桁違いなので、数字にマヒしちゃうだろうな、国民は。
 もっともこれほど急激ではないにしても日本だって第二次大戦以前と現代では物価は約400倍以上にインフレしている。ルパンコーナーの記事のために調べたことがあるのだが、1920年代の日本の国家予算は15億円程度だった。それが今や100兆円に迫ろうとしてるんだもんな。戦前の人には「一万円札」なんてとんでもない高額紙幣だったはず。


 ジンバブエの話を見てるとギリシャの40兆の借金なんて紙幣一枚でお釣りがくる程度のどうってことはない話と思えてきちゃうが(笑)、このギリシャという経済規模も小さな国がただいま世界の経済を揺るがす大注目の国となってしまっている。2010年に財政赤字の隠蔽が発覚して以来、ギリシャはEU加盟国・ユーロ使用国にとって最大の問題児となってしまっていたが、IMFとEUから迫られた緊縮財政で経済状況は悪化、それが今年一月の反緊縮の強硬姿勢を示して国民の支持を集めた急進左派連合を率いるチプラス首相の政権が成立してますます事態はこじれてきた。
 そしてとうとう6月末にギリシャは事実上のデフォルト(債務不履行)に陥ることになったが、その直前にチプラス政権がEUの緊縮要求を呑むか否かの国民投票を行うという挙に出て、直前まで賛否拮抗と伝えられていたのがフタを開けてみればダブルスコアでEU要求への反対が上回った(直前に交通機関や携帯電話をタダにしたのが効いたのか?)。それでいてユーロやEUからの離脱なんてこれっぽっちも考えてないところがハタから見ると不思議なのだが、ギリシャ人はギリシャ人で「ウチこそが元祖ヨーロッパ」という自負があるのも一因らしい。投票結果を受けてチプラス首相も「民主主義発祥の国での民主主義」を高らかにうたっていたが、古代ギリシャの民主主義というのが大量の奴隷労働に支えられていたこととか、そもそも衆愚政治の発祥の地としても知られていることなどが頭に浮かんでしまう。
 この国民投票結果が出たとたんに日本をはじめ世界中で株安現象が起こったくらいで、なんだかんだで影響はデカい。チプラスさん、民意を背景にいっそう強気に出てますます話をこじらせるのではと不安も広がったのだが、7月上旬までの段階では急転直下ギリシャはEU側の緊縮要求(国民投票が拒否したものより厳しいとの指摘もある)をおおむね飲み、議会もそれを承認するという摩訶不思議な展開に。先日の国民投票はいったい何だったんだ。チプラスさんも計画的なのか行き当たりばったりなのかよくわからず、その「瀬戸際外交」ぶりは北朝鮮といい勝負かもしれない。
 …上記のようなことを書いた直後、結局ギリシャ政府はEU側の緊縮要求を基本的に受け入れ、EU側も15日までに法整備を整えて「ちゃぶ台返し」をしないことを保証することを条件に資金援助を約束した。これでひとまず危機は回避されることとなったのだが、ギリシャではチプラス首相に怒りの声が…と思ったら報道によると確かに一部暴徒が出るほどのデモも起きたものの、「ユーロ離脱を回避できた」ことを安堵する声が多いみたい。しかし根本的な解決ってわけでもないからまた数年後に、なんてことになるんじゃなかろうか。
 この騒ぎのなか、銀行がなかなか開かないから、ってんで、アテネでは仮想通貨「ビットコイン」のATMが設置されたなんてニュースも「通貨」というものの歴史の流れを考えさせてくれた。


 お金といえばこんな話題も。
 今年2015年は第二次大戦終結70周年でもあるのだが、ほかにも世界史における重要な戦役から200周年という節目にあたっている。200年前といえば1815年。この年の6月18日、いったんはエルバ島に流されながら脱出して皇帝の座に返り咲いたナポレオン1世が、イギリス・プロイセンなどの連合軍に敗れて「百日天下」に終わり、ついに再起不能となった「ワーテルローの戦い」があったのだ。
 ワーテルローの戦いは現在のベルギーの首都ブリュッセルの近くで行われた。そこでベルギー政府は200周年記念にと、2ユーロの記念硬貨の発行を計画、すでに2月から鋳造に入っていた。ところが、ナポレオンの故国であるフランスが反発。やっぱり多くのフランス人にとってナポレオンは民族英雄であり、「ワーテルロー」は彼の敗北を決定的にした屈辱の敗戦であり、その「記念硬貨」なんぞ許せん!というわけで、驚いたことにフランス政府が直々にベルギー政府に反対を申し入れていた(日本だとさしずめアメリカがミッドウェー海戦記念硬貨を出すようなもんか?)。ギリシャの話ではないがユーロは加盟国各国でそれぞれ独自デザインのものを発行できるものの新規発行には全加盟国の賛成が必要となっているため、フランスに「ヤダ」と言われてはベルギーとしても発行できない。やむなくすでに18万枚も鋳造していた記念硬貨は破棄処分とされてしまった。
 しかしベルギー政府はあきらめきれなかったようで、実際には通貨としては使えない「2.5ユーロ硬貨」としてワーテルロー記念硬貨を発行することにした。通貨じゃないからただのメダルといってよく、それならフランスに文句つけられても無問題、というわけだ。記念硬貨にはワーテルローの戦場に建てられているライオン像がデザインされており、お値段は1枚6ユーロとか。2.5ユーロのものを6ユーロで売ったら3.5ユーロの儲けじゃないか?と一瞬思ったけど、製造コストがどのくらいかわかんないんだよな。
 このワーテルロー記念硬貨、5月中旬から売り出してみたら、レア感もあったせいか売れ行き好調で、ベルギー政府は計10万枚を数回にわけて販売することにしたそうな。「通貨」としては使えないわけだけど、マニア向けには立派に流通しそうな気もする。

 
 実現するのはやや先の話になるのだが、6月17日にアメリカ財務省は2020年に発行する10ドル紙幣に女性の肖像画を使うことを発表した。2020年がアメリカ合衆国憲法で女性の参政権が認められてからちょうど百年になることを記念してのことだそうだ。あのアメリカにして女性の肖像画が紙幣デザインに使われた前例は19世紀末の1ドル銀兌換券に初代大統領ワシントンの妻マーサの肖像画が使われて以来とのこと。ま、日本だって現在の5000円札に使用されている樋口一葉以前は明治初期の改造紙幣の神功皇后くらいしか女性の例はないんだけど(しいて言えば2000円札に紫式部がチラッと描かれた)
 肖像に誰が選ばれるのか興味津々であるが、アメリカ財務省は専用のサイトを開設して候補の一般公募をするとのこと。条件は当然故人であることで、「アメリカの民主主義に貢献した人」でなければいかんのだそうな。
 


◆ハタ迷惑な話

 今年の米アカデミー作品賞にもノミネートされた映画「グローリー-明日への行進」を鑑賞してきた。この映画、原題は「SELMA(セルマ)」といい、「グローリー」は日本の興行元が勝手につけた「英語邦題」だ。セルマとはアメリカ南部アラバマ州にある都市で、そこで1965年に展開されたキング牧師らによる黒人選挙権要求運動が映画の主題となっている。知識としては知ってはいたが、南部における白人たちによる黒人差別というのがいかにすさまじいものであったか、というのをこの映画で改めて認識させられた。これがほんの半世紀前の話なのだ。
 劇中、アラバマ州の州政府の建物や知事室、さらには黒人たちに罵声を浴びせる白人たちの手に赤字に青いバッテンが書かれたような旗がしばしば映る。これは南北戦争の際に南部の「アメリカ連合国」が掲げた、いわゆる「南軍旗」だ、南北戦争が南部の敗北に終わっても、この旗は南部諸州のシンボルとして今日でも存続しているのだが、この映画の描写からすると1960年代においてすでに白人至上主義者たちが自らのシンボルとして掲げ、黒人を威嚇するように使用していたことがうかがえた。

 さて銃乱射事件なんて珍しくもないという恐ろしい国アメリカであるが、さすがに先日のサウスカロライナ州チャールストンで白人青年が教会で黒人ばかり9人を射殺した事件はすこぶる後味が悪かった。犯人自身が「人種戦争を起こすためにやった」と動機を語り(そういやどっかの前々都知事も「戦争を起こしたかった」と動機を語ってましたな)、明白なまでの人種への差別というより敵視、いわゆる「ヘイトクライム」であったこと、そして使用した武器が21歳の誕生日プレゼントとして父親が買ってやったもの、というあたりが特にやりきれない。
 またこの手の事件が日本でも起こる可能性があるんじゃないか…という不吉な予感もある。報道で見ているだけだが、この犯人の青年は絵にかいたような「ネットで真実を知った」タイプの人間で、その手のタイプは日本のネット上でも非常に多く目に入る。ネットだけではない、書籍でもこれでもかとばかりに憎悪をあおる本が並ぶ光景はかなり異様で、またそれらを「ネタ」と思わず完全に信じちゃってる人も多々見かけるのだ。日本では銃が普及してないのが幸いではあるが、ヘイトデモやネットでのデマ拡散などお手軽気分のヘイト行為はいやになるほど行われてるし、そのうち信じ込んだ者の中でテロ的な行為に走るやつが出てくる可能性は結構ある気がする。

 この犯人の青年が自身のブログで「北東アジア人との連携」を訴えていた、というのも不気味な話。ふつう「北東アジア」と言った場合、日本と韓国、北朝鮮が該当する(中国は入れてない気がする)。実はノルウェーで反移民を唱えて大量殺人テロを起こした犯人も「会いたい指導者」として日本と韓国の首脳の名を挙げていた前例がある。困ったことなのだが、どうも移民・異人種ぎらいの白人至上主義者の間では広くささやかれていることらしい。
 「なんで?」と北東アジア人としては首をかしげてしまうが、これは恐らく世界じゅうの国の中で「単一民族度」がきわめて高いのが日本と韓国だからだと思われる。実はいろいろと似た者同士の日韓両国、島国と半島国の違いはあれど確かに「単一民族国家」とほぼ言っていいレベルの民族構成を持ち、自身複雑と思っている自分の言語を話してくれる外国人をやたらありがたがるわりに、実際はかなり外国人嫌いという傾向はいずれも強い(最近黒人とのハーフの女性がミスユニバースの日本代表になったら一部にひどい非難があったのも一例)。白人至上主義者がそこまで考えているかは分からないが、そんなところに感心されてしまうのもいい迷惑である。

 さて冒頭の話につながってくるのだが、この青年がブログ内で南北戦争時の南部連合の旗を掲載していたことも波紋を呼んだ。ずいぶん以前に「史点」で書いたことがあるのだが、南北戦争終結後も南部諸州では「アメリカ連合国」の旗を伝統として普通に掲揚してきている。確かに当時の南部諸州は黒人奴隷制維持を掲げていたものの旗自体に黒人差別の意味合いはなく、それほど問題と思われなかったのだろう。しかし上記の映画にも見えるように、むしろ近年になるにつれて白人至上主義者がレイシズム的意図をもってシンボル的に南部連合旗を掲げるようになってきていて、この「ネットで真実」青年もそのクチだったために問題となったわけだ(旭日旗も同じような流れを感じるんだよなぁ)
 事件の直後にサウスカロライナ州の知事は州庁舎に掲げられていた南軍旗の撤去を表明、旗をあしらった自動車のナンバープレートや商品にしたものについても販売自粛の動きが広まっているという。ついさっき見かけた記事では、南部連合旗が出てくるからという理由でアップルが南北戦争のスマホアプリを削除した、なんて話題も出ていた(さすがに過剰反応)
 州庁舎からの撤去についてはオバマ大統領はじめ来年の大統領選挙の有力候補たちも賛同を表明しており、この手の「伝統」にこういう反応が出るところを見ると、この事件がアメリカ社会に与えた影響が相当に深刻なものであることもうかがえる。それでも保守系政治家からは全米ライフル協会怖さに銃規制問題には触れまいとする動きがあるところは相変わらず。



◆恒例・贋作サミット・エルマウ編

2015年の夏、ドイツのエルマウなんて、ほとんど誰も知らないような町に主要国首脳が集まりましたとさ。

独:どっかの誰かさんの個人的事情により、本物より一か月半遅れの贋作サミットでございます。
米:今年はついに開催されないんじゃないかと思いましたよ。
加:まぁ本物のサミットの方も去年、露さんが抜けたし、今一つ話題性がなくなってきちゃったからねぇ。
仏:話題といえば久々に二年続けて同じ顔触れが並んだということですかね。
日:ええ、おかげさまで我が国は久々の長期政権になってまして(笑)。
英:私はおかげさんで選挙でまさかの圧勝、連続で来られました。
伊:ただいま支持率急落中ですけど、なんとか連続で来れました…
独:そこいくとあたしなんかもう10回目の大ベテラン。もう最近じゃ世界は私を中心に回ってるようなもんだわ。
加:あの〜それを言ったら、私も実は今度で10回目なんですが…
独:さて、議題に入りましょ。ギリシャなんてちっぽけな国がEUも世界も騒がせてるけど…
日:ああ、あのクソ貧乏長屋が。
米:おいおい、お友達のセリフだろ、それは。
仏:まぁ困ってる人がいれば同じ町内会どうし助けてやらにゃあ…
日:おお、集団的自衛権ですね。後方支援ならお任せ!ねぇ。親分♡
米:俺の後ろに立つな!
英:ゴルゴ13じゃないんだから。
日:お友達が愛読者なもので。
仏:虎の意を借るなんとやらは前を行くもんだけどね。
独:人から虎の威ならぬお金を借りておいて態度がデカいんだから、まったくあの国は。
日:懲らしめてやらなきゃいけませんね、経団連に頼んで。
米:こらこら、またお友達の口調が。
英:カネ返さないなら浮彫だけじゃなくてパルテノン神殿ごと担保として大英博物館に引き渡せと。
伊:あれを引き渡したらギリシャにますます産業がなくなるような…
米:とにかくあんまり追いつめると露や中が接近するから気を付けてくれよ。
日:その二つは潰さなきゃいけないんですけれども。
独:あら、またお友達の口調が。
日:「けれども」がつくとあくまで冗談ということになるんだそうです。
伊:あの〜そろそろ次の話題に行きたいんですけど…
加:次の話題、というと来年の話かな。
伊:そ〜なんですけど、ひとつお聞きしたいことが…
日:早く質問しろよ。
米:お、それはご自分の口調だな。
伊:来年の開催場所になってるイセシマってのはどういうとこなの?
日:伊勢・志摩です。伊勢神宮と志摩スペイン村の。
仏:なんでそこにスペインがあるんだよ?
日:我が国には長崎オランダ村とか東京ドイツ村なんかもありますが。
独:なぜか千葉にある東京ドイツ村ね。いっそサミット参加国の「村」を全部つくって「お・も・て・な・し」したら?
日:ああ、それ、いいですね。デザインは先日キャンセルしたザハ・ハディドさんにでもお願いして。
英:また予算が何千億にふくれあがったりするんじゃないの。
日:そうなったら、またいきなり「白紙に戻す」ってことで。全てアンダーコントロールですから。ハッハッハ。
日本のぞく全員:(もしかして来年は「青空サミット」かな…)


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