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2015年10月8日

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◆今週の記事

◆ウチに大河を誘致せよ

 今年ももう10月。年の暮れへのコーナーを回ってしまった。そんな今年の大河ドラマ「花燃ゆ」は、予想通りの低視聴率のまま物語は終盤の明治時代編へと突入している。その不調の理由についてあれこれもっともらしく論じてる芸能記事を見かけたが、はっきり言って主役選択の時点で予想できた話。なんせ「吉田松陰の妹」なんだもん、発表時にかなりズッコケたものだ。この主人公決定は例年になく遅かったが、出演者確保のため「女性主人公」とは早くに決まっていたはずで、その素材をなんとしても長州、とくに松陰関係にしろという政治的圧力とのかね合わせがあったんじゃないのか、とはあくまで「疑惑」なんだが、そうと思いたくなるような主役と話作りの無理があるんだよな。馬関戦争で史実のアメリカ船をわざわざ変更したことについても「政治的」との疑いが出てたしなぁ…ま、とにかく途中で脚本家複数体制になったせいか、わざわざ出した坂本龍馬もそれきりのまま明治へ突入など混乱も見える。

 僕も歴史映画・ドラマのマニアだから、現在事実上唯一の歴史ドラマ枠(時代劇枠とは違うので注意)であるNHK大河ドラマは文句を言いつつもほぼ全部チェックしている。そして素材が何になるのかも常に注目するところで、来年は真田信繁(いわゆる幸村)、再来年は女主人公で井伊直虎になることが発表されてるけど、そろそろ古代史とか南北朝とか手を出さないもんだろうかと思うばかり。それこそ女性主人公のネタにも困らないのにねぇ。

 そんな大河ドラマだが、視聴率で多少苦戦しようとも、ドラマの主人公の出身地など「ご当地」には一定数の観光客が来る「経済効果」があるとされる。このため最近は「地域おこし」運動の一環として「大河ドラマ誘致」が日本中の自治体で行われている。NHKとしては「参考ぐらいにはする」といった応対をしていて表向きはほとんど無視することになってるんだけど、上記のように「政治的?」ととれるような素材決定がなかったわけでもない。だからまた各自治体もあきらめずに運動をしちゃうのだろうが…。
 そんな「大河誘致」に熱心な自治体の一つに福井県がある(僕の知る限り都道府県レベルではここだけかと)。確かにこれまで福井県が舞台となる、あるいは福井県出身者が主役となった大河ドラマは存在しない。せいぜい信長〜秀吉が出てくる大河で朝倉一族とか、柴田勝家とかが滅亡するくだりで舞台になるのが精一杯。唯一の南北朝大河「太平記」でも新田義貞が一時拠点を置き、結局戦死しちゃうくだりで舞台になってたが、なんだか敗者の歴史に彩られすぎてるような。
 福井県出身者で「天下をとった」人といえば、実は一人いらっしゃる。古墳時代に越前に拠点を置き、なぜか20年もかけて大和に進出して即位した継体天皇だ。何年か前にどっかで報じていたのだが、福井県では実際に継体天皇を主役にする大河ドラマ誘致が一部で行われていたらしい。やはり「福井出身で天下を取った」人物だからなのだろうけど、「継体」という諡が示すようにいったん途絶えた天皇家(大王家)に「応神天皇の七代後の子孫だ」ということで婿入りして王位を継いだという異例の人物であり、新王朝説や渡来系説までが絡んできて「万世一系」的にはアブナイ主人公になりかねない。そのせいか、今度見た福井新聞の記事では継体天皇の名前は挙がっていなかったな。

 その福井新聞の記事によると、9月18日に開かれた県議会産業常任委員会で「2018年NHK大河ドラマ」の主人公候補を「由利公正」とすることが福井県の観光営業部長の口から正式に表明されたという。これに対し、大河誘致議員連盟の側からは「主人公の絞り込みをしている段階なのに勝手に決めるな」という反発が起こり、委員会が30分中断する事態となって、結局は「継続審議」にすることで話をおさめたというのだ。
 「由利公正」という字面を見て、読みが分かるだけでも大したもの。「ゆり・きみまさ」と読むのだが、調べてみたらこの名乗りは明治以後のもので「こうせい」か「きみまさ」か長く議論があり、昨年ようやく「きみまさ」で決着したのだそうな。幕末雄藩の一つであった福井藩の藩主・松平慶永に見出されて財政分野で活躍、明治政府設立にも深くかかわり、「五箇条の御誓文」作成に関与したほか、岩倉使節団にも参加、東京府知事就任、「民選議院設立の建白書」にも名を連ねている。能力は確かにあったようだし、幕末から明治にかけてそこそこ話題が多い人なのは事実。また坂本龍馬と懇意だったことで知られ、暗殺直前の龍馬が福井に出かけて由利と会っていた、というのも知られた話。由利を大河に、という無茶な話が一見通りそうに見えるのは龍馬と接点があるというのも大きいと思われる。
 どうも「由利公正」を大河主役に推してるのは福井県知事当人らしいんだよね。調べてみたら今年の7月段階で知事が「由利大河」の推進を公言していた。予定している2018年が「明治150年」の節目となるので明治維新がらみの人の方がいいという考えもあるんだろう。しかし議員たちの間では異論が多いらしく(まぁ聞くからに面白くなさそうだし)、県民に候補のアンケートをとるといった意見も出ていたところへ知事側がほぼ決定みたいなことを言い出したから反発を招くことになったと思しい。知事側としては公正を軸に幕末の福井人士をちりばめてドラマ化、という構想を抱いてるみたいだけど。
 
 ここ十年以上、大河の素材は放送の前々年の春から秋にかけて発表されることが多い(僕の記憶では90年代前半までは前年春くらいに発表していた)。だから2018年の大河は来年夏に確定と読んで、それまでにNHKに働きかけねば、ということで知事が候補選定を急いだものらしい。ただ、これはあくまで僕の想像だけど、俳優のスケジュールの都合から放送の2〜3年前くらいには主役級演者については内定しているはずで、その時点で素材についても2〜3候補くらいに絞り込まれているはず。だから今から2018年の運動をしても間に合わないだろう、と思うのだが、それがその次の年以降につながるかも、という考えもあろう。しかしNHKだって多くの要望を抱えてるし、そもそもそういう政治的要請優先でドラマを作るというのは感心もしないし事実ろくな内容にならない。税金を使ってまでやるには勝ち目が少なすぎる博打だと思うんだよな。



◆クリミア問題、ワインに飛び火?

 昨年ロシアが一気にクリミア半島を独立させ併合し、ウクライナ東部では今もチョコチョコと紛争が続いている。この一件を機に米ロの対立が激しくなり、現在シリア情勢でもやりあっている「新冷戦」状態だ。そんななか、アメリカの忠実な子分であるところの日本政府がなぜかロシアに妙に愛想を良くしてるところが気になる。まだプーチン大統領の年内訪日とかなんとか言ってるんだよなぁ…北方領土解決に何か見込みがあると思ってるらしいのだが、ロシア側がまた最近強硬姿勢を見せてるしなぁ…

 さて、クリミア半島がらみで面白いニュースを見かけた。先月(9月)にイタリアのベルルスコーニ元首相がクリミア半島の観光地ヤルタを私人として訪問、「友人」だというプーチン首相と仲良く年代物のワインなんぞ飲んでいる様子が報じられた。西側諸国は公式にはクリミアをロシア領とは認めていないので私人とはいえ元首相がクリミア入りするのは問題視されても仕方ないのだが(そういや日本の元首相も訪問してたね)、ウクライナ政府はベルルスコーニ氏の訪問自体にも当然怒り、さらにはプーチンと一緒にワインを飲んだことにも激怒した。9月19日にウクライナ検察当局はプーチン・ベルルスコーニ両氏がワインを飲んだことについて「犯罪の疑いあり」として捜査に乗り出したと明らかにしたのだ。
 なんでワインごときに?と思って記事を読んだら、なるほど、これが実は大変な歴史的背景をもつ話なのだ。プーチン・ベルルスコーニ両氏が飲んだのは1775年(アメリカ独立戦争が起こった年だな)にスペイン南部ヘレスデラフロンテーラで生産されたワインで、一本10万ドル相当(今のレートなら1200万円!)もする年代物で、19世紀前半にコーカサス総督としてその地の征服に当たったミハイル=ヴォロンツォフ(1782-1856)のコレクションだというだけで「歴史的」だと思っちゃうのだが、そもそもなんでそんなワインがクリミアにあるのか。酒好きだがワインについてはとんと疎い僕はこの記事で初めて知ったのだが、両氏がワインを飲んだのは「マサンドラ・ワイナリー」という、クリミアはヤルタにある世界的なワインのコレクションを抱える大変有名な歴史的ワイナリーだったのだ。


 ヤルタの地は皇帝の離宮があるなど帝政時代から保養・観光の地になっていて、ツァーリ・ニコライ2世が離宮へワインを供給させるため1894年にワイン製造所を作らせたのが「マサンドラ・ワイナリー」の始まりだという。同時期にこの地でワイン醸造を開始して活躍したのが名家ゴリーツィン家出身のレフ=セルゲイビッチ=ゴリーツィン(1845-1916)という人物で、世界中から名物ワインを収集、死に際してそのコレクションをマサンドラ・ワイナリーに寄贈したため、このワイナリーは単なる製造所だけでなく世界的なワインコレクションを抱えることにもなった。
 ゴリーツィンの死の直後、1917年にロシア革命がおこり、ロシアは社会主義国家となった。ウクライナやこのクリミアの地はしばらく反革命勢力が押さえていたが、1920年末についに赤軍がこの地に入ってワイナリーも接収した。ソ連成立後、クリミアの地は「労働者階級の保養地」とされ、マサンドラ・ワイナリーも国営化、ロシア各地にあった皇帝や貴族のワインコレクションもここに集められてマサンドラ・コレクションをさらに拡大させた。今回プーチン・ベルルスコーニ両氏が飲んだ年代物もその過程でコレクションに加わったものなのだろう。もちろん労働者階級の平等をうたう社会主義とワインの貴族趣味が直結したとは思えず、こうしたワインは政府要人や外国要人の接待用ということだったみたい。

 やがて第二次世界大戦が始まり、1941年6月にナチス・ドイツがソ連へと侵攻した。ソ連政府はマサンドラ・コレクションのワインをすべて移動させるよう命じ、年末のドイツ軍クリミア占領までになんとか無事に安全地帯へ運び出した。ただ1940年もの、1941年ものについてはまだ樽の中であったため、ドイツ軍に飲ませてなるかということで全部黒海に捨てられ、「黒海が赤海になっちゃった」という逸話もあるそうで。さすが赤軍(笑)。
 その後戦況の巻き返しによってマサンドラ・コレクションはヤルタの地に少しずつ戻され、1945年2月の「ヤルタ会談」の時には全部そろっていたとのこと。確認していないが、チャーチルルーズベルトも飲んだのかもしれませんな。調べたらその後ベトナムのホー=チ=ミンも訪れて飲んだことがあるようだ。
 1991年にソ連が解体されると、クリミア半島は独立したウクライナの領土となり(ソ連時代にフルシチョフがウクライナに譲渡しちゃったんだよな)、マサンドラ・ワイナリーもウクライナ側のものとなったが、製造されるワインの大半はロシア向けに輸出されていた。そして昨年のロシアによるクリミア併合でまたもロシア側の所有に変わったわけだが、まさかクリミア併合の目的の一つがワイン・コレクションだったりしないだろうな。今度の件でこのワイナリーが今も歴史的・政治的な影響力を持っていることを知らされたわけだが、その登場人物の一人が「酒と女」なイメージの強いベルルスコーニ元首相、というあたりにニヤニヤさせられてしまう。


 いやぁ、調べてみれば何にでも激動の歴史あり、というやつで。なお、この記事を書くにあたってはこちらのサイトの記事を特に参考にさせていただきました。
 


◆またも宗教の話題あれこれ

 またかよ、我ながら思うタイトルだが、最近あった複数の話題を一つのテーマでくくろうとすると「宗教」って言葉は実に便利なんですよね。世界中で起こるかなりのことは宗教がらみなもんですから。

 まず朝日新聞に出ていた話題。ラジオなぞほとんど聞かない、さらには早朝にはまず起きていない僕は全く知らない話なのだが、早朝の4時〜5時台に各地の民放ラジオで「宗教の時間」とまとめて呼ばれる番組枠がある。調べてみたら1951年とずいぶん昔に始まったもので、仏教系、神道系、キリスト教系といろいろな団体が週1ペースで放送枠をもち「〜の時間」と題した布教放送を続けていた。
 浄土真宗大谷派もこの枠で「東本願寺の時間」というのを放送していたのだが、9月末をもってついに64年目にして放送終了になったとのこと。「宗教の時間」スターとの1951年以来、朝の4時台から7時台に全国13局で週一回放送され、僧侶による法話や仏教童話などが流されてきたが、近年はさすがにラジオ離れが進み(開始時は聴取率6%あったというあたり、時代を感じる)製作費も年間千数百万円もかかるとのことで打ち切りを決断したのだそうだ。僕自身ラジオをろくに聞かないし、めったにラジオ欄に目を通さないから、こんな番組の存在自体知らなかった。今後はウェブ上での動画配信に力を入れるそうで。
 その一方で同じ浄土真宗ながら江戸時代以来大谷派と張り合っている浄土真宗本願寺派(西本願寺)の方も「みほとけとともに 西本願寺の時間」という番組を60年以上放送していて、昨年夏に若者を意識してリニューアル、お坊さんが一人で話すスタイルから住職の奥さんでジャズ歌手という方がパーソナリティーになってゲストと対話する形に変えたのだそうで。また浄土真宗にとっては先輩格である浄土宗でも「法然さまの時間」という番組があって、こちらはむしろ放送局を拡大、「自分の地域でも聞きたい」というラジオ頼りの高齢者層の要望に応える積極策に出ているのだそうで。
 以上のように宗派ごとに対応はまちまち(記事では念仏宗系ばかりが出ていたが、ほかの仏教系、非仏教系の対応はわからない)。リスナーはやはり高齢者が圧倒的らしいが、ラジオというメディア自体がいよいよ終焉を迎えそうな気もする昨今だしなぁ。


 9月24日、メッカ近郊の「ミナの谷」という聖地で、巡礼者たちが殺到したため圧死者が続出する惨事が起こった。つい先日にもカーバ神殿の近くでクレーンが倒れて多くの死者を出したばかりだというのに。犠牲者の数は700人以上に及んだとされるが、その後の報道ではまだ数百人ほど未確認、なんて話も流れてきて、もしかすると1000人以上が犠牲になった可能性すらある。というか、その報道にあった話だが実際過去に千数百人規模の死者を出す事故が起こっているのだそうで。
 良く知られるように、イスラム教徒は生涯に一度は聖地メッカに巡礼するよう勧められており、イスラム暦の12月が「巡礼月」と定められ、世界中のイスラム教徒がメッカを訪れる。今年の巡礼月は9月14日から10月13日までだそうで、世界中から約200万人が巡礼に参加した。その第8日にあたる9月21日から「大巡礼」が開始され、巡礼者たちはメッカ東方のミナの宿営地に移動、第9日にアラファト山に上り、第10日にミナの谷で「ジャマラートの投石」という儀式が始まる。これは旧約聖書でもユダヤ人のルーツとして出てくるアブラハム(イスラムではイブラヒーム)とその息子イシュマイル(アラブ人のルーツとされる)およびその母ハザルの三人を悪魔が誘惑した際、彼らが石を悪魔に投げて追い払ったという伝説を再現する儀式で、三か所に設けられた壁に向かって巡礼者たちが小石を投げつける儀式だ。
 なんでも以前は三本の「柱」だったが投石が反対側にいる巡礼者にぶつかるなど事故が多いので2004年から柱のまわりに壁が設置されていて、さらにそれ全体にかかる大規模な「ジャマラートの橋」が建設されて橋の上からも地上からも石を投げつけることができるようになった。写真やグーグルアースで見てみたけど、実に現代的な設計の橋で、はた目にはとても大昔からの伝統儀式を行う聖地には見えない。これほどの大工事を施したのも、おそらくここで何度となく事故が発生したからではないかと思う。
 大巡礼の第11日に巡礼者たちはこの三つの壁に投石を行い、それを翌日にも繰り返す。そして第13日で巡礼の日程が終わる。今度の事故はその第11日目に発生した。報道によると宿営地からジャマラートの橋に向かう途中の交差点で、二方向から来た巡礼者グループが同時に進入したためお互い止まるに止まれなくなり大混乱となってしまったらしい。交通整理がちゃんとできなかったとか、巡礼者が指示に従わなかったとか、いろんな説が飛び交っているが、とりあえずサウジアラビアの国王は巡礼運営の見直しの指示を出している。
 ところで確認されている犠牲者800人近くのうち、イラン人の犠牲者がその約半数の400人以上に及ぶとのこと。イランの最高指導者ハメネイ師は「責任転嫁や他者の非難をしていないで、サウジはまず責任を認め、全世界のイスラム教徒と遺族に謝罪すべきだ」と表明し、サウジアラビア政府を厳しく非難した。そもそもイランとサウジはシーア派・スンナ派の対立も絡んで以前から仲が悪く、最近のイランの核合意やらムハンマドの映画やらでもサウジはイランを警戒してるというから、この事故もあれこれ勘ぐられる要素はあるみたい。


 つい先日までローマ法王フランシスコがアメリカを訪問、なんだかんだで各地で大歓迎、かなりのフィーバーだったと報じられているが、いい話ばかりでもなかったみたい、というニュースもあった。
 9月23日、法王フランシスコはワシントンで列聖式を行い、18世紀のカリフォルニアでカトリック伝道に活躍した神父フニペロ=セラを「聖人」に列した。彼が活躍した当時のカリフォルニアはスペイン領だったのだが、現在のアメリカ領内の話だからと、訪米を機会に列聖したのだと思われる。しかしこの人、実はキリスト教伝道に熱心には違いなかったが(調べてみるとホントに各地に銅像が建てられている有名人だった)、熱心なあまり(?)カリフォルニアの先住民でキリスト教を受け入れなかった者に対してスペイン軍と共に大虐殺を行ったとされ、おまけに受け入れた先住民たちに事実上の奴隷労働を強いてその人口を激減させた、といういわくつきのお方だったりする。1988年に聖人の手前の「福者」に列せられていたが、その際に先住民たちから猛反発が起こったためバチカンもしばらく封印しておいた経緯があるのだそうで。しかしバチカンは長らく列聖の機会をうかがっていたようで、この機会に実現しちゃったわけだ。法王フランシスコは批判の声に対して「セラ神父は誤解されている」とし、「不当な扱いや虐待から、先住民の共同体の尊厳を守った」と言ってるそうなのだが…
 9月26日夜、サンフランシスコの南およそ200キロのところにある、セラが拠点としていたカーメル伝道所にあるセラの銅像が何者かに倒され、ペンキを塗られたうえ、周囲の墓石(白人のもののみという)も倒されたりペンキを塗られたりしていた。「虐殺の聖人(SAINT OF GENOCIDE)」という落書きも残されていて、明らかにセラ神父列聖に批判的な者の犯行と思われる。警察は「ヘイトクライム」の疑いで捜査にかかったとのことだが、実際に侵略や植民地支配のお先棒をかついでいたカトリックの体質を抉り出す問題でもある。
 またフランシスコ法王は、訪米中にこっそりと、前回ネタにした「宗教的信念から同性結婚の受理を拒否した女性書記官」に面会して、その行動をたたえて激励したと報じられている(明かしたのはアメリカを離れたあとだった)。あの女性はたぶんプロテスタント保守派だと思うのだけど、最近この手の人たちはむしろカトリック保守派と意見の一致を見るようになってきて、法王はその立場に立つことを示した形になり、さすがにアメリカでも問題視されそう。また直後に同性愛を告白したポーランド人神父をバチカンが速攻で解任、という事件も起こり、やっぱりバチカンは保守派が強いんだなぁと思い知らされる思いもした。



◆みんなのうた

 9月22日、アメリカのカリフォルニア州連邦地裁が、誰でも知ってる誕生日の歌、「ハッピー・バースデー・トゥ・ユー」について、現在もその著作権保有を主張して使用料を徴収していたワーナー・ミュージック傘下の出版社ワーナー・チャペル・ミュージックに「著作権はない」とする判断を始めて下した。まだ地裁判決なので最終確定というわけではないが、ひとつの司法判断を出したことは大きい。この歌もようやく人類の共有財産「みんなのうた」になれるわけだ。
 …と、この報道に対して「えー!あの歌に著作権があったの!?」と驚く声をかなりネット上で見た。また一部の新聞記事でも見出しにそういった驚きを含めてもいた。だが僕は以前からこの歌に著作権があることを数年前にひょんなことから知っていた。「替え歌メドレー」などで知られる嘉門達夫が、以前TVで「ボツになった替え歌」の一つとしてこの「ハッピー・バースデー」を挙げていて、ボツになった理由が「著作権者の許可が出なかった」と語っているのを目撃していたからだ。
 知る人ぞ知る話だが、嘉門達夫は一連の「替え歌メドレー」で、元歌の作者はもちろん、替え歌中に登場する実在の人物・企業等にもすべて許可をとっている。逆に言えば許可が出なかったものはCDに入れてないわけ。もっともソフト化しなければいいということなのか、ボツ替え歌をライブやテレビ番組で披露していることはある。で、その「ハッピー・バースデー」の歌について、嘉門さんは「はきまっせ〜ク〜ツ〜♪はきまっせ〜ゲ〜タ〜♪」という替え歌を作って著作権者に許可を求めたところ、趣旨をまったく理解してもらえなかったらしい。英語で「クツをはきます、ゲタをはきます」と歌詞を説明しても「わけわからん」と言われるであろうことは想像できる(笑)。まぁそんな話を聞いていたので、この歌に著作権保持者がいることを知ってたわけだ。

 Wikipediaで眺めてみたが、この歌もまたいろいろ複雑な歴史をたどっている。もともとはヒル姉妹が19世紀末に幼稚園向けに作詞作曲した「Good Moning to All」という歌が原型で、その歌がやがて「Happy Birthday to You」に「替え歌」されて広く歌われるようになる(嘉門さん以前にすでに「替え歌」だったわけね)。その後元の作者のヒル姉妹の妹が著作権を主張、音楽出版社のサミー社と共に1935年に著作権登録を行った。
 作者のヒル姉妹のうち妹の方は1946年に亡くなったのでその年を起点として著作権保護がなされるが(調べた限りでは旧著作権法の対象なので死後50年で切れてるはず)、サミー社の方がもつ法人としての著作権は1935年を起点として数えられる。こう書くと作者個人の著作権の方があとまで続きそうだが、アメリカでは法人の著作権保護がたびたび延長されており、1998年の著作権延長法(ディズニーのロビー活動の成果と言われ、俗に「ミッキーマウス法案」と揶揄される)により「著作権発生から95年間」も保護され続けることになって、実に2030年まで守られることになった。その権利を持っていたサミー社は1990年にワーナー・ミュージックグループが1500億ドルで買収したため「ハッピー・バースデー」の歌の権利もワーナーが引き継ぎ、その使用料で年間推定200万ドル(約2億4000万円)も稼いでいるのだという。

 しかし「ホントにワーナーに権利があるのか?」という疑問の声も当然わく。ある映画製作者がこの歌の歴史を扱ったドキュメンタリー映画を製作していたところ、当然この歌が劇中に使われるのでワーナーから15万ドルもの使用料を請求されていったんは払ったのだが、やっぱりおかしいと思って2013年に著作権の無効確認と返金を要求する訴訟を起こした(なお訴訟を起こした映画制作会社の名前は「Good Moning to you Production」なんだそうで)。その判決がこのたび出たわけで、連邦地裁の判断としては1935年にサミー社が登録したのは「ピアノへの編曲」であって歌詞やメロディの方にはない、つまりはワーナーに歌そのものへの著作権はないのだ、との結論となった。前述のようにまだ確定ではなく、使用料を失いたくないワーナーが控訴する可能性があるのだけど、この判断自体はかなり重視されるんじゃなかろうか。

 この話でどうしても連想しちゃうのが、先日ようやく「大筋合意」にこぎつけた「TPP」だ。車やら農作物やらの貿易問題ばかりに注目がいくが、「著作権保護期間」問題でも以前から心配する声は上がっていた。日本はこれまで著作権については「作者の没後50年」でやってきたが、すでに欧米並みの70年に延長することが内定しているとされる。さらにはアメリカ並みに著作権侵害が「非親告罪」になる可能性も高く、パロディ・二次創作方面で影響が出る可能性も指摘されている。そもそもハリウッドなどコンテンツを擁するアメリカは著作権収入だけで大変な稼ぎがあり、日本だって「クールジャパン」だなどと言いつつそれに簡単に乗っちゃっていいのか、という声もある。
 どーも、この「ハッピー・バースデー」の話題を見るにつけ、アメリカンな著作権管理の仕方には警戒感を覚えてしまうんだよなぁ。


2015/10/8の記事

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