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2018年9月25日

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◆燃えた燃えたよ燃え尽きたよ

 人類が「火」というものを利用するようになって以来、火による事故、すなわち「火事」の危険はずっとつきまとってきた。火事そのものは日常的にあちこちで起こっていて日々ニュースで報じられもしているが、さすがに博物館が火事で丸焼け、という例は僕は初耳だ。
 それもかなり由緒ある博物館で、ブラジルのリオデジャネイロにある国立博物館が9月2日夜にまさに「丸焼け」と言っていいほどの大炎上を起こしてしまい、少なくとも100室以上が炎に包まれた。人的被害こそなかったものの、実に2000万点にのぼる貴重な資料(展示品以外の収蔵品が多くを占めるのだろう)が失われてしまったとされている。そして何たる偶然か、この博物館、ちょうどその歴史が始まってから今年で200周年に当たっていた。この国立博物館の公式サイトを覗いてみると、トップページの上部に「1818−2018」と誇らしげに大書されている。もちろんすでに火事についての報告やおわび、応援メッセージへの感謝などが掲載されているのだが。

 200年前、というから、この博物館の歴史が始まったのは1818年ということになる。1818年といえばあのナポレオンが失脚した直後のことだ。当時、ブラジルはポルトガルの植民地で、ナポレオン戦争のあいだポルトガル国王ジョアン6世はリオデジャネイロに避難してこちらを「首都」としていた。そんな時期にこの地での文化事業の一環として「王立博物館」を設立したのが、この博物館の歴史の始まりということだ。当初は科学研究の拠点として動植物のコレクションが充実していたという。
 その後ジョアン6世はポルトガル本国に帰り、1822年に革命が起こってブラジルはジョアン6世の息子ペドロ1世を皇帝とする「ブラジル帝国」として独立した。このペドロ1世がオーストリアのハプスブルグ家から妃を迎えたことが縁になってオーストリアなどヨーロッパ各国の学者たちがブラジルにやってきて、研究・調査の成果をリオの王立博物館に納めるようになった。さらにペドロ1世の次の皇帝ペドロ2世も学問好きで、世界各地をまわって自然科学から考古学まで珍奇なものを収集、例えばエジプトの古代遺物なんかまで博物館収蔵品に加えてしまう。1889年にクーデターが起きてペドロ2世が退位して帝政はそのまま廃止となるが、ペドロ自身の国民からの人気は高かったためペドロは宮殿暮らしを続け、その宮殿に王立博物館の収蔵品を全て移動させた。この元宮殿が今回焼けてしまった国立博物館の建物となったわけだ。
 その後も収蔵品は充実し続け、1970年代に発見されたブラジル最古の人骨「ルチア」(約1万1千年前の女性と推定される)も目玉展示物となっていた。しかしこの「ルチア」も今度の火事で灰燼に帰してしまったと報じられ、まさに「ルチアは2度死ぬ」ことに。さすがに何やらの隕石は無事が確認されたそうだが…

 現在の建物が国立博物館となってから120年以上が経ち、建物自体はそれ以前からある200年ものだというから、さすがに老朽化を心配する声はあがっていたという。補修工事を行おうにも、リオ五輪以後は予算も削減されてそれも進まず、そのことが今回の火事の一因(漏電が原因と疑われている)だと指摘する声もある。今回の火事についてはミシェル=テメル大統領も「「ブラジルにとって悲劇の日」と表明して、200年分の研究成果の焼失を嘆いたが、博物館側からは「国立」と言いながら国からの支援が少なかったことが火事の原因だとして政府を批判する声もあがっている。火事の翌日には学生や研究者たちが博物館前で政府を非難するデモ活動も行っていた。

 そしてこの博物館炎上事件は、10月に実施されるブラジル大統領選挙へも影響を与えるのでは、との見方も出ている。現在の左派系政権への批判が増して右派系に有利に働くのでは、との見方が出ているのだ。当初ルラ元大統領が左派労働党の有力候補とみられていたのだが汚職容疑で不出馬となり、一方で「極右」とされ「ブラジルのトランプ」の異名まであるボルソナロ候補が20%以上の支持率トップを独走する事態にもなっている。そのボルソナロ候補、支持率で2位を大きく引き離す独走とはいっても不支持率でも40%以上とトップを走っているため決選投票で勝てるかは不透明と言われている。

 そのボルソナロ候補が6日に遊説先で暴漢に刺されて重傷を負う、という事件が起こった。かなりの重傷だったのは確かなようで、支持率はさらに数ポイントは上昇した。結果的に事件は彼に有利に働いてしまうので、ついつい「自作自演」の疑いも抱いてしまうが、そこまでする動機が弱いうえに実際に重傷を負うのでリスクが高すぎる。台湾総統選で似たようなことがあったなぁ、日本の某探偵小説でソックリなシチュエーションが…とかいろいろ頭をめぐるのだけど。
 


◆英仏海峡波高し

 英仏海峡でイギリス人とフランス人が衝突、ついにフランス海軍が出動する事態に――と聞くと、すわ、イギリスがEU離脱を通り越してフランスと戦争かよ、とビビってしまうが、もちろんさすがにそこまでの事態ではなく、イギリスのメイ首相もフランスの軍艦派遣は事態収拾のためだとしてすぐに支持を表明している。英仏海峡で何をモメているのかといえば、ホタテの漁場をめぐり、イギリス・フランス双方の漁民が対立し、とうとう船を実際にぶつけるような「衝突」事態になってしまっているというのだ。

 騒ぎが起きている漁場は、フランスのノルマンディー地方沖合。「アルセーヌ=ルパン」シリーズではおなじみの地方で、セーヌ川の河口をはさんだ一帯だ。問題の漁場もセーヌ川河口から12カイリほどの海域だという。
 ここがホタテの漁場となっているわけだが、これまで定められていた協定では「漁期は10月1日から5月1日まで、夏は禁漁」ということになっていた。そして数年前に「イギリス漁船については15m未満の漁船であれば禁漁期間中も漁が可能」という取り決めが加わったらしい。いや、僕も報道だけではどうしてそんな取り決めが加わったのか分からなかったし、そもそも実際にはそういう文言ではなく「そう解釈できる」というレベルのものだったのではないかな、と思うところもある。調べてみると、どうもフランスでは個人経営の漁民たちが小さな船で漁をするのに対し、イギリスでは15m以上の大型船による企業的な漁がおこなわれるという漁業事情の違いがあるそうで、「15m未満の漁船」を例外扱いにしたのもそういう事情が背景にあるようなのだ。

 ところが数年前から「15m未満のイギリスやアイルランドの漁船」が禁漁中にやって来てホタテ漁を始めてしまった。ルール違反ではないのかもしれないが「法の抜け道」的な感が強く、それでフランス漁民たちが激怒した。去る8月28日には数隻のイギリス漁船を数十隻のフランス漁船が取り囲み、船をぶつけ合う衝突騒ぎに発展してしまったわけだ。
 英仏両国は事態の鎮静化を図り、新たな協定に向けて話し合うことになっていたが、考えてみるとこの海域でのホタテ漁自体は昔から行われていたはずで、近年になってトラブってるのが実のところよく分からない。考えられるのは、やっぱり「イギリスのEU離脱」が背景にあるんじゃないかということ。EU加盟国同士なら漁場も「共有」もある程度できるだろうが、イギリスがEUから離脱したらフランスからすればイギリスは完全に「赤の他人」になるので当然イギリス漁民はこの海域から追い出されることになるんじゃないかと。そうはさせない、俺たちにも権利はあるとイギリス漁民(特に大型船を持たない零細漁民と思われる)が既成事実を積み上げてこうとしてるのかなぁ…などとも思う。

 日本近海でもそうだが、こうした漁場をめぐる漁民間のトラブルは結構あるもの。それはともすれば国家間の主権問題まで絡んで深刻化してしまう場合もある。今回の件で連想したのは、かつてイギリスとアイスランドの間で長年争われた「タラ戦争」だ。「タラ」とはもちろんあの魚のタラのことで、北海のタラ漁場をめぐってアイスランドとイギリスが激しく対立、さすがに本当の戦争にこそ至らなかったが、国交断絶寸前まではいった紛争で、タラの英語が「Cod」であるため「冷戦(Cold War)」にひっかけて「Cod War(タラ戦争)」とダジャレで呼ばれたものだ。シチュエーションはだいぶ違うが、イギリスが絡んでる漁場問題ということで、どうしてこれを連想してしまった。

 今度の騒動、気の早い向きからは「英仏百年戦争」なんて文言も飛び出している。まぁルパンの生みの親であるモーリス=ルブランもルパンとホームズを対決させたり、没後70年で公開された遺作『ルパン最後の恋』でもフランスとイギリスの宿命の対決を「千年戦争」とまで呼んで扱ったりしてるくらいで、ライバル意識はかなり強いのだろう。もっともどちらかというとフランスがイギリスに対してムキになってるというか…イギリスで21世紀版ホームズの「SHERLOCK」が当たったら、やるんじゃないかと思っていた「現代版ルパン」のドラマをやっぱり作るんだそうで(Netflixで製作とのこと)
 話が脱線したが、そんなルブランのSF作品に『驚天動地』(「ノー・マンズ・ランド」の訳題もある)というのがある。英仏海峡に次々と異変が発生、ついに破局的地殻変動が起こって海底が隆起、英仏間が陸続きでつながってしまう、という、まさに「驚天動地」な作品なのだが、最終的に英仏両国は陸続きになったことで友好関係を強化、いずれくる「ヨーロッパ合衆国」に向けての礎となる、ということでオチがつく。イギリスのEU離脱が騒がれるなか、また読まれてほしいおよそ百年前の近未来SFである。



◆いまさらですが賠償金

 今年は第一次世界大戦終結から百年目。その第一次世界大戦で敗戦国となったドイツは莫大な賠償金を課せられ、ようやく支払いが終了したのはつい最近の2010年のことだったりする。もちろんあの賠償額は本来支払い不可能と言われたほどのものだったから結局どんどん縮小され、ナチス政権の登場や第二次世界大戦、その後のドイツの東西分断といったもろもろの事情があって支払い自体がたびたび中断したためにここまで時間がかかってしまったわけだが。

 ドイツは第二次世界大戦でも敗戦国となり、しかもナチス政権という、わかりやすい悪役であったこともあって、やはり賠償を行っている。ただしドイツ自体が東西に分断されていたため「ドイツ」として統一した賠償は行っておらず、西ドイツ政府が迫害を受けたユダヤ人たちへの賠償や、ナチスが占領した「西側」の周辺諸国への賠償を行うにとどまっている。
 で、一方の東ドイツはといえば、終戦直後に一部ソ連に対する賠償のようなものは行っているものの、新たに成立した社会主義国である東ドイツ=「ドイツ民主共和国」は「ウチはナチスドイツの後継国家ではない」というスタンスで、しかも「東側諸国」の親分であるソ連の意向でナチス・ドイツの侵略を受けた東側周辺諸国はドイツに対する賠償を放棄させられていた。そういう次第でドイツの第二次大戦の賠償というのはいささか「いびつ」な形になっていて、特に東側の国々の一部ではこれが不満のタネになってはいたようだ。

 とくに第二次大戦の発端となるナチス・ドイツの侵攻・占領を受け、大きな被害をこうむった国であるポーランドでは特に近年、ドイツに対して賠償請求をしようという動きが活発になってきている。中でも現在政権をとっている保守系有力政党「法と正義」(党首は「双子大統領・首相」で話題になったヤロスワフ=カチンスキ)は対独賠償請求に熱心で、現在ポーランド議会ではいよいよ正式に賠償請求を決定しようと具体的な検討に入っている。

 8月31日にそのポーランド議会がドイツに対する賠償請求額の具体的な数字を調査の上ではじき出した。その総額、なんと54億ドル(約6兆円)。ナチス・ドイツの占領は1939年から1945年に及び、ユダヤ人を含むポーランド人が510万人殺害され、首都ワルシャワを中心に多くのインフラが破壊された、ということでこの額になるというのだ。人的被害の正確な人数なんてもう判然としないと思うんだが、多大な犠牲や破壊を受けたのは確かで、金額的にそう無茶とは思わない。ただ今これをそのまんま現在のドイツ政府に突き付けて、ハイ分かりましたと払ってもらえるとはとても思えない。

 まず前述のような経緯で、ポーランドは1953年にソ連の意向を受けて東ドイツに対する賠償要求を放棄している、いや「させられている」というのが正確なところか。東西ドイツ統一後も現在のドイツ政府はこうした経緯を踏まえて「賠償問題は決着済み」との姿勢だ。しかし「法と正義」のポーランド政権は「賠償放棄は冷戦下ソ連の圧力による強制であって、国際法的に無効」と解釈していて、第二次大戦の直接の経験者もぼちぼち少なくなってきたこの時期になって賠償請求を現実のものとする構えだ。もし実行したらさすがのドイツも反発するだろう。ポーランドとドイツには第二次大戦前の領土についての問題(現在のポーランド西部はかつてのドイツ東部)も「決着済み」ながらくすぶってはいて、下手をうつとこちらを刺激する可能性だってある。
 あと、ドイツに賠償請求するなら、そのドイツと「独ソ不可侵条約」を結んで一緒にポーランドを切り分けた当時のソ連、その後継国家であるロシアに対する賠償請求だって当然出てくるはず。もっともその場合、ロシアも「ウチはソ連の後継国家じゃない」というスタンスをとるかな。国歌のメロディーは継承してるけどね。
 そういやソ連末期にバルト三国が独立した際、バルト三国側がソ連に「占領期の賠償」を要求したら、ソ連側が「ソ連だった時期の投資を返せ」とやり返していた記憶がある。あれってどうなったんだろうか。


 こういう戦後賠償ばなしというのは、あっちゃこっちゃで起きていて、国家間の賠償とは別に個々人への賠償の問題も絡んで結構複雑。日本もアメリカには賠償せず、中国には賠償の代わりに経済支援、東南アジア諸国には「賠償ビジネス」という紐付きの形、といろいろある。韓国とは「日韓基本条約」で国交を結ぶ際に植民地支配時代の賠償を行っているが、これが韓国政財界への経済援助にはなっても個々人に償ったわけでもない、というところが後々までややこしさを招いている。
 そして今、日本が新たに抱えそうな賠償問題がある。そう、北朝鮮と国交を結ぶ可能性が、かなり現実のものとなってきたのだ。いまこの文章を書いてる時点で韓国の文在寅大統領が北朝鮮を訪問、金正恩委員長と一緒に初めて「民族の聖地」である白頭山を訪問、なんて歴史的イベントをやってるのだが、このまま「朝鮮戦争終戦」が確定して米朝国交なんて話になったら日本も動かざるを得ない。実際すでに高官同士の接触は始めてるようだが、北朝鮮と国交を結ぶとやはり北朝鮮に「植民地支配賠償」を行うことになりそうなのだ。
 ただこれも上記の東西ドイツの話とつながるところがあって、日本が韓国と国交を結んで賠償をした際は「韓国が唯一の正統国家」と認めて北朝鮮など存在自体認めていなかった。だからかつて植民地支配した「朝鮮半島」に対する賠償はその時に済んでいる、という意見はある。ここで北朝鮮にも賠償すると「二重取りでは?」と批判する声も実際に出ている。それでも名目を変えて何らかのカネは出さなきゃならなくなりそうなんだよなぁ。アメリカのトランプ大統領も北朝鮮の非核化の費用は日本と韓国に払わせる、なんて言ってるみたいだし。

 賠償の話ではないが、つい先日、安倍首相がロシアのプーチン大統領と会談した際に、プーチンさん側から「年内に無条件で平和条約を締結しよう」という提案がなされて、微妙なさざ波を起こしている。ご存じのようにかつて日本が戦争をした相手の国のうち、ソ連およびその後継国家ロシアとだけは平和条約が結ばれていないのだ。ネックになっているのは択捉島など千島列島南部、日本で言うところの「北方領土」の問題が未解決だからだ。
 冷戦中に「日ソ共同宣言」があり、平和条約を結んだら歯舞と色丹は返還、という話はあったが日本側はあくまで「四島一括返還」を求めて平和条約への動きは結局出なかった。冷戦が終わりソ連も崩壊して、日本の一部では「北方領土はもちろん、北千島・樺太まで取り返すチャンス」とまで言ってた人もいたが、かえってロシアになってから領土問題では絶対に譲らない傾向が強くなる。エリツィン時代に「20世紀中の平和条約締結」との方針が出たりもしたがこれも実現しないまま、21世紀も十年以上過ぎてしまった。そして今回、ロシア側から「無条件での平和条約」という話が出てきたわけだ。
 プーチンさんを「ウラジーミル」と呼ぶ仲良しらしい安倍首相は「彼の積極性の表れ」と言ってるんだが、「無条件」と聞くとなにやら「ポツダム宣言」にも聞こえてくる(笑)。実のところ最近の政府与党関係者は北方領土について全面返還ではなく一定程度の妥協もやむなしと考えてる空気があるので、あるいは領土問題棚上げで平和条約だけ結んじゃう、という手も考えてるのかもしれない。



◆大統領を忘れるな
 
 就任以来、日々の話題、新ネタが尽きることのない気がする、アメリカのトランプ大統領。最近日本で話題になったネタと言えば、ワシントン・ポストが報じた「真珠湾」発言がある。安倍首相との日米首脳会談の中でトランプ大統領が日米間の貿易不均衡問題にふれ、「真珠湾は忘れてないぞ」と口にした、というものだ。
 「真珠湾を忘れるな=リメンバー・パール・ハーバー」は太平洋戦争開戦時の真珠湾奇襲が宣戦布告前に行われたためにアメリカでは「日本のだまし討ちを許すな」と戦意高揚のあおり文句として使われ、戦後も日本が絡む貿易摩擦などでもこのフレーズが飛び出すことがあった。日本とは無関係だが、2001年の「9.11テロ」の際も「リメンバー・パール・ハーバー」はアメリカでよく口にされていたものだ。もっともこの報道の直後、アメリカでは「1946年生まれのお前が『パールハーバー』を“覚えてる”はずがないだろうが」という別方向からのツッコミもあった(笑)。

 そうしたフレーズを、たとえ一種のジョークとしても、アメリカの大統領が日本の首相に面と向かって言った、というのは、あまりに非礼・非常識であろう。一応この報道についてはホワイトハウスは否定し、日本政府も躍起になって否定し、それに乗っかって安倍さん大好きのフジ・サンケイ系メディアも「誤報だ!」とはしゃぐ様子が見受けられたが、そもそもトランプさんの「暴言」報道は今に始まったことではなく、そのたびに関係各国はやんわりと否定するか沈黙、そしてトランプ氏側は「フェイクニュースだ!」と騒ぐ、というパターンが繰り返されている。例えば今年のG7サミットの際にも、トランプ大統領が安倍首相に「日本に大量の移民を送り込んだら安倍政権は退陣」と言ったとか、フランスのマクロン大統領に「テロリストはみんなパリに集まっている」と言ったとか、冗談のつものつもりなんだろうが恫喝ににも聞こえてこない発言をしたとだいぶあとにあとになってから報じられ、日米ともに事実かどうかは明確にしていしていなない。つい先日にはスペインの外相がトランプ大統領から「移民対策でサハラ砂漠に壁を築け」とアドバイスされた、と明かしたりしてたが、これなんかはさすがにどちらかのジョークなんじゃないかなぁ。

 まぁそもそもCNNはもちろんワシントン・ポストやニューヨーク・タイムズといった大手メディアはかねてよりトランプ嫌い、その報道にトランプ叩きならなんでもいい、ってな姿勢が出てこないとは限らない。それでも、例えば「閑散とした就任式」の写真・映像はトランプ政権に「フェイク」と言われてきたが、やはり「大勢いる就任式」の写真・映像の方が細工されたフェイクであったことが先日やっと証明されている。
 また最近でもトランプ大統領がカナダのトルドー首相に「NAFTAにカナダは不要」と、かなり恫喝的な発言をしたと報じられている。「NAFTA(北米自由貿易協定)」についてはトランプ氏は以前から根本的な見直し(要するにアメリカに得になるようにする)を要求していて、それでカナダにまずガツンとくらわしたつもりらしい。まず恫喝して自分のペースに引きずり込んで交渉する、というのがトランプ流とされるのだが(不動産業者の手法なんだろうか)、一応この恫喝、輸出の70%以上がアメリカ向けのカナダ経済界では効き目があったようで「トランプの言うとおりにしておけ」とトルドー首相に忠告する声も少なくないらしいのだが、「NAFTA」ってアメリカとカナダとメキシコしか加盟していないし、メキシコはそれこそ「壁」問題で対立してるから、「カナダは不要」なんて言っちゃうともはやNAFTAの存在自体が消え失せてしまうような…いや、トランプさん、それでかまわんと思ってる可能性も十分にあるが。


 いま現在、トランプ政権は中国と「貿易戦争」の真っ最中だ。中国が貿易不均衡だとか知的財産権にルーズだとかいったことを理由に中国からアメリカへの輸出品に制裁の関税をかけまくっている。それに中国が報復してアメリカ製品に関税をかけ、というチキンレース状態におちいり、これを書いてる時点でトランプ政権は第三弾の制裁関税を実施して中国からの輸入品におよそ半分にそれを課すと言われている。これでも中国が言うことを聞かないなら次は全輸入品に関税をかけると息巻いている。中国側も即座に報復関税で応じたけどね。
 政権の勝負どころとされる中間選挙に控えて、トランプ大統領の支持層とされる製造業の労働者たちの受けを狙ったもの、どこまで本気なんだか、というのが大方の見方で、どこかで適度に話をつけておさまるんじゃないかという観測も多いんだけど、トランプさんだけに相手が頭を下げるまでとことんやっちゃう可能性がある。全輸入品ということになると、多くの安価な日用品はもちろんiPhoneなどまで「中国製品」として関税がかかることになるため、かえってアメリカにダメージが出るとIT業界などは反発している。IT業界は移民規制問題でも反発したし、その本社の多くが民主党が強いカリフォルニア州だったりするから、もともとトランプ政権とは犬猿の仲。先日トランプ大統領がフェイスブックやグーグルなどに対する独占禁止法違反容疑の調査を命じる大統領令を出したのも、実際にはこの業界に政治的圧力をかけるためでは、とみられている。トランプさん自身、自分の名前でググる「エゴサーチ」するとトランプ批判のサイトばかりがヒットするとおかんむりらしいのだ。


 ウォーターゲート事件の追及でニクソン政権を退陣に追いやったことで有名なワシントン・ポストのボブ=ウッドワード(映画「大統領の陰謀」では二枚目絶頂期のロバート=レッドフォードが演じた)がトランプ政権関係者に取材した内幕本、タイトルもずばり「恐怖(Fear)」が発売され、話題になっている。報道によると同署の中ではホワイトハウスのスタッフもトランプ大統領のハチャメチャさに呆れ、変な決定を下さないように関係書類をこっそり隠すなど、あの手この手やってるのだそうな。それでアレかい、とも思うが、ほっといたらもっとひどいことになってたってことか。あるスタッフは「彼の理解力は小学校5、6年生程度」と語ったと言い、いやマジで彼に「核のボタン」をあずけてることって「恐怖」以外の何物でもない気がするんだが…なお年末に発売される日本語版は「恐怖の男」というタイトルになるそうで。なんだか古典ホラー映画のタイトルみたいになってきたな。

 これと前後して、ニューヨーク・タイムズには「トランプ政権高官」とされる人物が匿名でコラムを寄稿した。上記のウォーターゲート事件の時には政権内部の人間が「ディープスロート」なる名前の情報提供者となってウッドワード記者と連絡をとっていたが、今回は高官当人が自ら記事を書いて投降したわけで、当然異例のケースだ。
 こちらのコラムでもウッドワード氏の著書同様に政権内の混乱ぶりが記されていた。このコラムによればトランプ大統領は「善悪の区別がつかない」「意志決定の原則が欠如している」とまぁ、とにかく滅茶苦茶な状態とのことで、「この大混乱の時代に慰めにもならないが、国民には政権内に“大人”もいることをわかってほしい」と記し、政権内にトランプに批判的な「抵抗勢力」がいることもにおわせた。
 このコラムに対しトランプ大統領は当然激怒、そもそもそんな「高官」が存在するのか、と「フェイク」を疑い、「実在するのなら国家安全保障のためにニューヨーク・タイムズはこの人物を引き渡すべきだ」とまで発言した。この政権内部の裏切り者については「国家反逆罪」とまでツイッターで呼んだため、「お前が国家じゃないだろ」とツッコまれてもいたっけ。

 このニューヨーク・タイムズのコラムの中で、過去にトランプを大統領の地位から解任しようとする動きもあったことが触れられていた。そしてそれを裏付けるように、ローゼンスタイン司法副長官が昨年5月ごろ、司法省関係者などにトランプ大統領の解任を提案していた、とこれまたニューヨーク・タイムズとワシントン・ポストが報じた。トランプ大統領派就任直後から司法省と対立しているとは言われていて、ありえる話とは思うのだが、とりあえずローゼンスタイン氏本人は否定している。コラムも彼が書いてる可能性が高いんじゃないか?とも思えるのだが。
 合衆国憲法修正第25条は大統領が死亡もしくは免職・辞職になった場合について規定しているが、その第4節に「大統領がその権限と医務を遂行できないと、副大統領および閣僚の過半数が認めれば、副大統領を大統領代理にできる」(大意)という規定がある。大統領が心身を病んだ場合を想定していると思われるが、報道によるとローゼンスタイン司法副長官はこの規定を利用して大統領解任を画策、トランプ大統領が「まともでない」ことを立証するため、彼の発言をあちこちで録音していたという。結局これを実行すると今後憲法上の問題となるということで中止したらしいのだが(例のコラムにそう書かれている)、前代未聞の事態である。調べてみるとロナルド=レーガン大統領が、暗殺未遂事件の直後にこの規定を使うか検討されたが踏み切られず、また政権後期にレーガンの精神状態に「怠惰」の疑いが出たためスタッフの一部でこの規定を使った解任も検討されたことがあったらしい(いしいひさいちの漫画で「アルツハイマー発症は在職中からというネタがあったなぁ)

 トランプ大統領は就任時点でレーガンより高齢で、それこそ判断能力に疑問が出てくる危険性が高いんだが、一応あれでボケたりしているわけではない。しかしそれ以前にもともとあの調子、誰かさんが言ってるという「小学5、6年生の理解力」であるというのが逆に怖い。実際あんなのがアメリカの最高指導者であるというのは、アメリカのみならず世界にとっても安全保障上の問題になるのではないかなぁ。


 ロシア疑惑もいまだくすぶっているし(元側近が次々と司法取引している)、政権内でもトランプさんにブレーキをかけようとする動きが確かにある様子で、トランプ政権が果たしてどこまでもつのだろう、という気もしてくる。それでいて下がった下がった言われつつ、まだまだ支持率はそれなりにあるので、苦戦との予想が出ている中間選挙だってフタを開けてみるまでは分からない。トランプ政権が展開する中国相手の「貿易戦争」だって単純に支持するアメリカ国民はかなりの数いると思うし…トランプさんの「アメリカ以外みな」のような姿勢は、トム=クランシーのヒット小説「ジャック・ライアン・シリーズ」に通ずるところがあるし、そういう世界観のアメリカ国民が少なくないであろうことを示している。当選じたい「まさか」だったんだから、「再選」だって十分ありえると怖い予想もしている。
 まー、それにしても、先々代のブッシュ大統領もその資質や強引な世界製作であれこれ言われたものだが、トランプさん見てると「下には下がある」という思いを強くするばかりだなぁ。


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