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2019年9月8日

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◆またまた諸般の事情で更新が一か月以上遅れました。よって一部古い話題がはいっておりますがご了解ください。

◆今週の記事

◆「緑の島」がいま熱い?

 とにかくその言動が世界を驚かせ続けている、アメリカのトランプ大統領。もはや世界の方もマヒしてきて、ちょっとやそっとの発言では驚かなくなってきてるのだが、さすがにこれは驚いた。トランプ大統領が世界最大の島として知られる「グリーンランド」「買収」に興味がある、と発言したのだ。
 買収するといってもグリーンランドはデンマークの領土。よそ様の国の領土の購入した前例は歴史上あるにはあり、特にアメリカの領土拡大の過程でアラスカをロシアから購入するなど何度か例がある。そういう国の大統領、しかも本業が不動産屋という人だけに「グリーンランド購入」というアイデアが浮かぶこと自体はありえると思うが、今どき「領土買収」なんて現実味はなく、あくまで酒の席などの「冗談」の範囲だと、僕も含めて思った人は多かったはず。

 それがかなり「マジ」であることが分かったのは、8月末に行うはずだったデンマーク訪問をいきなりキャンセルした時だった。トランプ大統領自身が会見でしゃべったところによれば、デンマークのフレデリクセン首相が「グリーンランド買収」について「バカげている」と発言したことに「礼を失している」とトランプさんが激怒、そのまま訪問中止ってことになったというのだ。ああ、マジだったんだ、と世界が驚いたわけである、アメリカのマスコミでは「不動産業と外交の区別がついてないんじゃいか」と揶揄する声もあった。ま、結局デンマークおよびポーランド訪問はハリケーン対応のためにキャンセルになっちゃったけど(このハリケーンの進路図を勝手にいじって表示した疑惑なんてのも起きてますな)
 ただ、そうした声にトランプさんが反論として持ちだしていたように、アメリカ大統領による「グリーンランド買収」提案には前例があった。第二次世界大戦終結直後にトルーマン大統領がデンマーク政府に打診したことがあったのだ。まぁその時もあっさり断られてるけどね。詳しくは後述。

 こんな北の果ての島の歴史を取り上げる機会もそうそうないから、ざっくりとグリーンランド史をまとめてみよう。
 グリーンランドは世界最大の島ではあるが、メルカトル図法で南米並みの巨大大陸に描かれてしまうくらい北極近くに位置しているため、人間が居住できる地は南部沿岸に限られ、現在でもグリーンランド全体の人口は55000人程度で、日本なら小さな「市」のレベルでしかない。そんなところでも紀元前2500年ごろから北米大陸から人間が移り住んでいた痕跡が残っていて、気候の影響もあってか紀元3世紀以降は巨大な無人島になったとみられている。

 このグリーンランドを「発見」するのが、10世紀の北欧ヴァイキングだ。殺人をしたためにアイスランドを追われていた「赤毛のエイリーク」という男が新天地を求めて北西へと航海をするうちにこの陸地を発見、アイスランドに戻ってからこの新天地への入植者を募って移住したのが西暦985年とされている。この際にエイリークがこの土地を「グリーンランド(緑の島)」と命名したのだが、これは入植者を募るための詐欺的命名だったという説と、当時は温暖な時期で実際に南端部には緑があったから、という説とがある。なお、このエイリークの息子エリクソンはさらに西へ航海し、北米大陸の北東部、現在のニューファンドランドに到達、そこを「ヴィンランド」と名付けて入植している。

 グリーンランドに話を戻すと、このヴァイキング植民地はなんだかんだで500年近く持ちこたえ、最盛期の13世紀には3000人ほどの人口があり、町に教会も建てられ、アイスランドやノルウェーとの定期的な交易も行われ、ノルウェー王国、それを併合したデンマーク王国の支配下にも入っていた。しかし14世紀以降衰退がはじまり、15世紀になると完全に北欧との連絡が途絶え、500年ほど続いた北欧植民地は全滅してしまう。連絡が途絶えた間の記録がまったくないので全滅の原因は分からないが、気候変動で寒冷化が進んだため、とする説が一応有力。
 この北欧系植民と並行して13世紀ごろからイヌイット系の移住も進み、両者が混血した、あるいはイヌイット側が北欧系を滅ぼしたという見方もある。寒冷化ということでは確かにイヌイットの方が生き抜く条件がよかったろうとは思う。現在のグリーンランドでも人口の8割がこのイヌイット系だ。

 このグリーンランドに北欧人が「再入植」するのは18世紀のこと。1721年にノルウェーから宣教師や商人などが入植して、イヌイットへの布教や交易の再開を進めている。その後19世紀にノルウェーとデンマークが分離した際にアイスランドやグリーンランドといったノルウェー系植民地はデンマーク王国が引き継ぐことになり、これがこの島が現在もデンマーク領である直接的な原因になっている。調べてみたら1930年代にノルウェー人がグリーンランドの一部に上陸して勝手に併合を宣言、デンマークが国際司法裁判所に訴えてノルウェーの主張を退ける、という一幕があったりもしたそうで。

 第二次世界大戦中の1940年に、デンマークはナチス・ドイツに占領されてしまった。すると翌1941年にデンマークの駐米大使が本国に無断でアメリカ政府とグリーンランドに関する協定を結んでしまう。ナチスに渡すよりは…ということだったのだろうが、この協定によりグリーンランドは一時的にアメリカの保護下に入り、アメリカ軍が進駐して基地も建設され、アメリカとの交易で生活必需品も供給されるようになった。なお、同じくデンマークの植民地だったアイスランドはこのドサクサの間に英米の支援で1944年に独立を果たしている。
 ドイツ敗北後、今度はソ連との対決をすることになったアメリカにとって、北極圏にあるグリーンランドは軍事的・地政学的に重要な場所となった。だから先述のようにトルーマンがデンマークに買収を持ちかけたわけ。そのお値段は1億ドルほどだったらしいが、デンマーク政府は拒否している。ただ今でもグリーンランド北部には米空軍の基地が置かれている。

 戦後のグリーンランドはデンマークの植民地の立場から「海外郡」「自治領」と昇格して、現在ではデンマーク本国と一応対等の立場。戦後の事情からヨーロッパよりもアメリカやカナダとの結びつきが強くなり、EUの前身であるECから脱退していて、グリーンランド住民はデンマーク国籍があることからEU市民権も得られるけどグリーンランド自体はEUに加盟していない、という微妙な立場。
 一部で完全な独立を求める運動も起きているというが人口が人口なのでそれほど騒いでる感じもしない。ただ、このところの地球温暖化の「恩恵」として北極圏の航行がかなり可能になり、グリーンランド自体の開発も可能なんじゃないか、という話になってきて、それが今回のトランプ大統領の買収発言の裏にあると言われている。例によってここでも中国の進出があると言われていて、トランプさん的には対中・対露でグリーンランドに関心を持つようになるのは分からないではないのだ。ただそれがいきなり「買収」となると…そこらへん、「不動産屋」とからかわれてしまうわけだ。
 それにしても、グリーンランドはまたしても気候変動の影響で歴史が変わっていく、ということになるんだろうか。



◆イントレランスな世界

 「イントレランス」とは英語の「不寛容」で、映画史に詳しい方は映画草創期に同名の大作映画があることをご存知だろう。「映画の父」の一人に数えられるグリフィスが監督、古代バビロニアの滅亡、キリストの受難、サン・バルテルミの虐殺といった歴史上の事件を映像で再現、人間の「不寛容」の例を並べて嘆く、という真面目なテーマがあるのだが、同じグリフィス監督が作った「国民の創生」では南北戦争の時代が描かれ、黒人をリンチするKKKが「正義の集団」に描かれるという、今日から見れば思いっきり「非寛容」な姿勢を示していたりする。

 KKK(クー・クラックス・クラン)が白人至上主義団体であり、今もしばしばその流れを汲んだような集団がアメリカでは見え隠れする。とある白人至上主義団体の集会の取材映像を見たら、オープニングに「牛乳のイッキ飲み」をやってて笑ってしまった。彼らによると牛乳を分解できるのは白人の特性なのだそうで(一応その傾向はあるけど、現在では非白人でも分解できる人は多い)。まぁ銃乱射とかに比べりゃ牛乳のイッキ飲みくらいで気勢を上げる方がよっぽどマシだとは思う。
 もう一か月ほど経ってしまったが、アメリカでは白人至上主義思想に染まったと思われる人物による、メキシコ系移民を対象としたヘイト犯罪、無差別銃乱射が連発していた。

 特に8月3日にテキサス州のメキシコ国境の町エルパソで起こった、ウォルマート店舗内での銃乱射事件は22人の死者、数十人にのぼる負傷者を出す惨事となった。この事件では犯人が逮捕されており(他の事件では射殺されてることが多い)、犯人がネット上であからさまな白人至上・移民排斥を主張していたことが判明している。どうしてもトランプ大統領の移民政策の影響を感じてしまうが、当人はそれは否定していて、先にニュージーランドで起きたモスク銃撃事件の犯人に共鳴していたとしている。こうして世界的に憎悪犯罪が連鎖していくわけだ。

 この事件で犠牲者のうち8人がメキシコ人だった。エルパソはメキシコとの国境に面した都市だけにメキシコから入って来る人はもともと多いが、犯人は同じテキサス州でもかなり離れたダラス近郊の住民で、この町にわざわざ来て銃乱射したのは主にメキシコ人、メキシコ系移民を標的にしたものであるのは明らかだ。
 この事件に対し、メキシコ政府が強く反応した。事件の翌日、エブラルド外相がロペスオブラドール大統領から指示を受けたとして、「アメリカ政府がメキシコ国民の保護を怠った」ことに対し法的措置を検討する、と発言した。具体的にはこの事件の容疑者のメキシコへの引き渡しや、彼に銃を誰が売ったのかについての捜査を行うといったものを挙げたという。あくまでその「可能性」に言及しただけだが、他国で起こった事件についてここまで言うのは異例のはず。
 もちろんそこまで言う根底には、メキシコ政府のトランプ政権への強い反発があるわけで。そもそも国境に壁を作ってその建設費はメキシコに払わせろと言われてるんだから。また歴史的に考えれば「エルパソ」という町の名前が完全にスペイン語であることから分かるように、もともとテキサスはじめニューメキシコ・ネバダ・アリゾナ・カリフォルニアといったアメリカの各州はもともとメキシコ領だった。メキシコ領だったテキサスにアメリカ人入植者がどんどん入って来て「独立戦争」を起こし、さらに米墨戦争で分捕ったという経緯があってメキシコからすれば「侵略」以外の何物でもない歴史がある。そうした歴史が念頭にあるから反発も深刻なんだろうが、逆に言えばそうした無理矢理侵略した歴史があるからこそ白人至上な者は移民を憎悪する、ということでもあろう。

 こうした銃乱射事件が繰り返されてもアメリカ保守派は銃規制に断固反対する。そうした強力な圧力団体として知られているのが「全米ライフル協会(NRA)」だが、このNRAを「国内テロ組織」に指定する、という決定をサンフランシスコ市管理委員会が全会一致で決定、というニュースがあった。エルパソの事件に先立って7月にイベント会場で起こったヘイト銃乱射事件を受けて、こうした憎悪を煽り銃規制に反対しているから、という理由でNRAを「テロ組織」認定したということだ。
 さすがに法的拘束力はないものらしいし、サンフランシスコ市が全米でも特にリベラルが強い都市という事情もあるようで、「テロ組織」認定されたNRAは「バカげてる」と反発してるそうだが、アメリカ国内において一つ注目すべき動きとは思う。


 カシミール地方といえば、分離独立以来インドとパキスタンの間で紛争となっている地域。この地方は住民の多数派がイスラム教徒で支配していた藩王がヒンドゥー教徒だったためにややこしいことになったのだが、今もインドとパキスタン(一部は中国)が分割して実効支配している状態。このインド実効支配地域にパキスタン側のイスラム武装勢力が入り込んでテロを行い、それにインド側が反撃、というパターンの騒ぎが対さ委員でも起きている。
 8月5日、インド政府は自国が実効支配するジャンムー=カシミール州の「自治権」を剥奪する、という挙に出た。これまでこの州はインド国内で唯一イスラム教徒多数派州ということで高い自治権が認められていたのだが、それを剥奪する大統領令にゴビンド大統領が署名してしまった。インドの大統領といっても形式的な元首で、政治権力はモディ首相の方にある。で、このモディ首相率いる政権与党が「ヒンドゥー至上主義」勢力を支持母体としていて、これまでも何かとイスラム教徒と軋轢を起こしてきているのは当欄でも何度か採り上げているが、この政権与党は以前からジャンムー・カシミールの自治権剥奪を主張していて、それをついに実行に移した形だ。こうした特別自治州については憲法にきていがあるため、完全に実現するには憲法改正をしなければならないそうだが、自治権剥奪にともなう州の再編成に関する法律はすでに国会で成立しているそうで、憲法より先に既成事実を積み上げてしまっているようだ。

 当然ながらこの措置に対してパキスタン側は激怒している。そもそもカシミールの一部でもインドの領有を認めていないはずなのだが、同じイスラム教徒の自治すら認めない、というのは露骨なマイノリティ差別であるとして、パキスタン側はモディ政権を「ナチス」とまで呼んで非難している。パキスタンの外相は対抗する法的措置の一つとして、国際司法裁判所への提訴も検討しているとのこと。
 インドとパキスタンはいずれも核保有国であり、対立が激化するとかなりヤバいのは確かで、「世界の警察官」たるトランプ米大統領はさっそく両国首脳と電話会談を行って緊張緩和を呼びかけたそうだが、それを言ってる当人の移民政策や露骨なイスラエル寄り姿勢を見てると全然説得力ないよなぁ。


 どこの国でもマイノリティ民族いじめというのはあるもので、トルコではまたクルド系との軋轢を起こしそうなことを政府自身がやっていた。
 トルコのエルドアン政権は8月19日に、同国南東部のクルド人多数地域の主要都市3つの市長をいきなり「解任」した。彼らは3月に行われた統一地方選で選ばれたばかりだが、政権側は彼ら3市長がクルド人武装組織「クルド労働者党(PKK)」とつながりがある、という嫌疑を理由にいきなり解任した。なんでもトルコの法律では市長が逮捕されるとかいったことがなくても問題があると内務省が判断すれば解任できちゃうらしいのだ。
 3市長が所属するクルド系政党はPKKとの関与を否定しているし、ずいぶん薄弱な根拠で市民から選ばれた代表の首をいきなり飛ばしたわけで、当然ながらクルド系を中心に「民主主義の否定だ」と反発も起きている。隣国シリアの北部やイラク北部でクルド系勢力が強くなり、トルコ国内に入って来るのを警戒しての動きだろうと言われてるんだが、エルドアン政権は3月の統一地方選のイスタンブール市長選で野党候補に僅差で敗れ、イチャモンつけて6月に再選挙やったらもっと差が開いて敗北、ということをやってるので、その腹いせというか、「独裁的」とも批判される政権の求心力復活を狙ってるのかもしれない。


 続いては環境問題。ブラジルやボリビアで大規模な森林火災が起こって大問題になってるが、特にブラジルのアマゾンジャングル火災は国際的な大問題として注目されている。
 「地球温暖化」が問題となって以来、温室効果ガスを吸収してくれるアマゾンの大ジャングルを守らなくては、という話がずっと続いているのだが、ブラジルではアマゾン開発が進められてしまっている。ことに「ブラジルのトランプ」の異名をとるボルソナロ大統領はトランプさん同様に地球温暖化論に懐疑的で、アマゾン開発をどんどん推進する姿勢をとっていた。今回の火災もそうした政権姿勢をバックにした開発業者が森林を焼き払ったのが原因ではないかと言われている。しかしボルソナロ大統領はは当初「環境NGOが自分で放火した」と主張、火災対策が後手に回り、結局国際的非難を浴び、お友達のトランプさんの忠告もあり、しぶしぶ対策に乗り出してる、という状況だ。

 地球温暖化問題はヨーロッパ諸国が特に熱心だが、フランスのマクロン大統領もネット上でボルソナロ大統領の森林火災対策の遅れを非難したのだが、この時にネット上に出回っていたひと昔前の別の森林火災の写真を使ってしまったため、ボルソナロ大統領から「うそつき」呼ばわりされることにもなったし、森林火災や開発問題への外国首脳の口出し自体をボルソナロ氏は「植民地主義思考」「内政干渉」とやり返している。
 そんな中、ブラジルのボルソナロ支持者がフェイスブックでマクロン氏の夫人とボルソナロ氏の夫人の写真を並べ(29歳差があるそうで)「マクロンがボルソナロを責める理由がわかるだろ」とコメントをつけ、ボルソナロ氏本人が「やつに恥をかかせるなよ、ハハ」と返答。マクロン氏は「私の妻について極めて無礼な言動」とサミットの記者会見で発言する、という、まぁ泥仕合になっている。
 
 
 泥仕合といえば、米中間の関税報復合戦と、日韓間の報復合戦があるわけだが、まぁ上記に並べたものに比べりゃ日韓間の対立なんて大したこっちゃないよ、と僕は思ってる。よそから見りゃ似た者同士の兄弟ゲンカか隣人ゲンカみたいなもんで。両国とも単一民族性が強くて排他的、移民受け入れ消極的ということでは欧米の右翼連中から理想の国みたいに並べて言われたりしてるしね。

 日韓間のここんとこの流れを見ていて、思うところはいろいろあるんだが、「史点」的に「過去と現在との対話」をしながら書いてみると、日本政府、やっぱり「読み違え」をしたんじゃなかろうか、と。日中戦争時の近衛文麿内閣と軍部が「一撃すれば蒋介石は頭を下げる」と甘く見てドンドン泥沼に落ちていった例が似てるような気がして。それこそ「国民政府を対手とせず」(近衛はそう言えば蒋が話に応じると本気で思ってた)あたりの状況にも似て来てる。

 あちらの側にも似た現象はあるんだろうが、とりあえず日本国内の妙な「韓国見下しフィーバー」が発生してるわたりも当時の日本と似たところはある。どうも島国根性というやつなのか、褒められると舞い上がりやすく自画自賛に走り、ちょっと批判されるとマゾ的に大喜びで(と僕には見える。エンタメ化してるよな)集団ヒステリー現象を起こす、というところも当時に似てる。相手を完全に舐めていて「ちょっと叩けば折れるさ」って気でいたら、思いのほか抵抗されて余計にイラついて叩く(叩くといえば当時も自分で自分を叩く蒋介石人形」なんてヒット商品があったそうですな)、というところも似てるようで…もちろん当時と全部が同じというわけではなく、そうした風潮への批判もちゃんと出てるのが救いではあるが、一歩間違えるとアブないな、とは思っている。来年東京五輪を控えてる、ってところも状況が似てるよなぁ、と「いだてん」見ながら思ったりしてるしね。そういや「八紘一宇」なんてあの時代の流行語を口にした参院議員が入閣内定なんて報じられてるなぁ…



◆今年も夏は来て去って

 夏が来ると思い出す。遥かな戦争の歴史を…ということで、毎年8月は先の大戦がらみの発見の話題が報じられるのが定番だ。そう都合よく8月に発見が集中するはずはなく、報道機関はそうしたネタをこの季節まで寝かしている、というのが実態なんだろう。冷凍食品の季節ものを出して売るようなもんかと。

  8月11日付の産経新聞が報じたのが、「難波宮跡発掘中にノモンハン事件の機密文書発見」という、一見キミョーキテレツなニュースだった。「難波宮」とは現在の大阪市中央区にあったもので、飛鳥時代の「大化の改新」直後、孝徳天皇が一時的に都を置いたり、奈良時代に聖武天皇が一時的に都を置いたりした場所である(それ以前の古墳時代に応神・仁徳天皇が宮をおいていたという話もあるけど省略)。そんなところから1939年に日本軍とソ連軍が満蒙国境で起こした軍事衝突「ノモンハン事件」の資料が出てきた、というのは何だかタイムパラドックスな話だが、そもそもこの難波宮跡が史跡として発掘・調査されるようになったのは戦後のことで、それまではそんなところとは知らずにいろんな施設が建てられていた。
 その一つとして陸軍第三十七歩兵連隊の本部がここにあり、問題の機密文書はその防空壕跡から見つかり、防空壕の壁が焼けて変色していたことから、敗戦時に同連隊で機密文書を集めて防空壕に入れて焼却処分したが、一部が焼けずに残って今頃になって陽の目をみた、ということらしい。記事によると市ヶ谷の参謀本部跡でもある尾張藩邸跡発掘でも同様に焼却処分された軍関係文書の焼け残りが大量に見つかった例があるという。

 「ノモンハン事件」は当時の満州国とモンゴルの国境紛争で、実質日本の関東軍とソ連軍が衝突したものだが、双方でかなりの犠牲者を出しつつ、結果としては日本側が敗退した戦いだ。この戦いの結果、日本軍部は「ソ連は強い」とみて南進策優勢になってソ連と中立条約を結び、東南アジアへ進んで太平洋戦争へ突っ込んでいくきっかけにもなるのだが、この事件自体は国内的にはほぼ隠蔽されたし、現場指揮官たちが自決を強要される一方で、悪名高い辻政信ら事件の原因を作った参謀らは一時逼塞した程度でまた返り咲いて太平洋戦争でまた同じような過ちをやらかすことにもなった。日本軍の体質をいろいろと象徴する事件として扱われることが多い。
 それでも事件の直後にはそれなりの反省をする気はあったようで、事件の翌年に陸軍内でノモンハン事件を分析した報告書は作られていて、そこでは「最大の教訓」として「低水準にあるわが火力戦能力をすみやかに向上しなければ」と書いていた。もっともその直前に「国軍伝統の精神威力をますます拡充するとともに」とアリバイ作りのように入れてるところが日本軍らしいところで…モノがない場合は「大和魂で補え」という精神論にすぐ走るんだよな。

 今回難波宮跡で発掘された機密文書は冊子5冊分で、上述の報告書とは別物らしいが焼け焦げでかなりの部分が読めなくなっているそうだが「『ノモンハン』血ノ教訓」だとか「『ソ』軍戦法ノ特色」「国軍伝統ノ精神力」といった文言があるというから趣旨としては似たようなものだったのだろう。記事によると三十七連隊はノモンハン事件とは特に関係はないそうで、ノモンハン事件の教訓が陸軍内で案外広く読まれていたのかもしれない、とのこと。それがどの段階だったのか知らないが、その教訓が生かされていたのか、戦史を見る限りでは極めて怪しい。


 焼却処分といえば、先ごろNHKが番組まで作って大々的に報じた「昭和天皇拝謁記」も、実は危うく焼却処分されるところだった。これは敗戦直後に「宮内庁」の初代長官となった田島道治氏がその任期中に昭和天皇と直に対話した内容を詳細にノートに記録したもので、そのごく一部がNHKその他の報道で紹介された。日本が占領から送立にいたる重大な時期の昭和天皇本人の「肉声」を伝える貴重な記録で、大変な歴史資料なのだが、田島氏はその晩年にこの「拝謁記」を焼き捨てるつもりだったが息子さんに止められて今日まで保管されることになった、と紹介されていて、歴史をやってる者としては「あぶない、あぶない」と思うばかりだった。確かに当事者は自分も関わる記憶をあまり後世に残したくはないものかもしれないが…

 この「拝謁記」、ごく一部が紹介されただけだが、分析にあたった研究者のコメントによると、「すでに知られていた事実の裏付け」も多かったが、一部に「新事実」も確かにあったという。
 この「拝謁記」を元に、NHKでドラマ仕立てで再現されていたのはサンフランシスコ平和条約発効で日本が主権を回復した際の式典での「おことば」をめぐる昭和天皇と田島宮内庁長官、そして吉田茂首相の攻防だった。昭和天皇の「おことば」の文章自体は田島長官が作成するのだが、昭和天皇自身もそこに自らの意向を加えようとする。主権回復にあたっての「けじめ」として、戦争への「反省」を文面に盛り込もうとする昭和天皇、新憲法の「象徴天皇」の立場を天皇に忠告しつつ文面を練る田島長官、そして天皇の戦争責任や退位議論の再燃を恐れて最終的に「反省」文言を全て削除させる吉田茂。たかが式典での形式的な「おことば」であったかもしれないが、「反省」文言が全くなくなってしまったのは、その後の日本の戦争期の総括の欠如にもつながっていったようにも思える。

 新事実としては、昭和天皇が南京事件について当時から耳にはしていたという発言があること、また日本の再軍備となる「警察予備隊」の発足時、その旧軍式の銃剣の敬礼を目にして「軍閥復活にならないか」と警戒していたこと、一方で中国の共産化や朝鮮戦争という状況を気にしてであろう、自衛隊のように曖昧にするよりは憲法改正して正式に再軍備すべきと発言したり、保守政党の合同について自身ができることがあるなら、と積極姿勢を見せて田島長官から「象徴」の立場をわきまえるよう注意されていたことなどが浮かび上がっている。まぁあの時代にあの立場にいた、つい先日まで「主権者」「大元帥」であった人間ならそう思ったり発言したりするんだろうなと納得するところもあったが、戦後のある時期までなかなか政治的に生臭かったのだな、と思わされた。

 そういう生臭さは戦前・戦中はなおさらだったとも言えるわけで…太平洋戦争開戦にあたって昭和天皇自身は乗り気ではなく回避したがってたというのは事実だが、開戦して序盤の快進撃の時は素直に喜んでいたという話もある。単純に「負けたら大変だ」と思っていただけだったのかも。で、実際に負けが濃厚になると「少しでも有利な敗戦」にしようという姿勢も見せたり、「使える船はないのか」と言って結果的に戦艦大和特攻の原因を作るなど、案外「大元帥」として作戦に介入してたという話題もどっかのメディアで載せていた。

 興味深かったのが、「拝謁記」の分析にあたった研究者の一人・古川隆久日大教授が毎日新聞に乗せた文章だ。古川氏はこの件でNHKはじめいくつかのメディアで「拝謁記」の史料的価値についてコメントしているのだが、どういうわけか中国語メディアで古川氏の発言として「この記録は反面教材として作成され、日本が全く無謀な戦争を始めたことが分かり、天皇が傀儡の立場にあったことが見て取れる」という言葉が載り、いくつかのメディアで引用されてしまったそうなのだが、古川氏はそんな発言はしていないと否定している。じゃあどうしてそんな虚偽報道が出たのか分からないのだが、この中国語メディアは「天皇は傀儡」としているのに対し、古川氏ははっきりと「そもそも、小生を含む日本の研究者のほとんどは昭和天皇を傀儡だったとは考えていない」と書いているのだ。中国語メディアの方が昭和天皇を擁護するような文章を、それも明白な虚偽で書いちゃうというのが面白い。

 今年のNHKは「二・二六事件」についても海軍が残していた詳細な極秘記録を発掘して番組にし、海軍側で事件勃発直前にその首謀者から暗殺対象まで把握していたという、なかなか興味深い話を紹介していたが、この事件において昭和天皇がかなり積極的な役割を「大元帥」として果たしていたことも浮き彫りにした(これについては新事実というほどではないが)。「昭和の世」が二つ前の時代になっちゃった今年、ますます「人間・昭和天皇」の姿が浮かび上がる夏となった。



◆恒例:贋作サミット・ビアリッツ編

 2019年の8月の末、主要7か国の首脳たちがフランス南部のリゾート地に集まりましたとさ。

仏:皆さま、このクソ暑い時期に南仏にようこそいらっしゃいました。
独:今年のG7サミットはわざわざ暑い時期にズレこんじゃったわねぇ。
日:まるで来年の我が国でのオリンピックみたいな。
加:しかも今年のヨーロッパは猛暑で。これも地球温暖化かな。
米:だからグリーンランドを買うんだよ。来年はそこでサミットだ!
仏:あんたのお友達のブラジル大統領がアマゾン燃やして温暖化に貢献してますがな。
米:アマゾン?通販サイトが炎上騒動でもやらかしたのか?
独:最高齢の貴方の最近のボケっぷりに震えが止まらないわ。
日:そういう貴方も連続出席記録を更新し続けてるんですから、体に気を付けて下さいよ。
英:ううむ…来年は出られるのだろうか、今回が初参加なのに。
伊:私は本物のサミットの直後に辞任してすぐまた返り咲いたけどねぇ。
米:今年は大阪のG20でみんな一度顔を合わせてるんだから、G7はわざわざやらんでもよかったんじゃないの。
日:確かにG20だG7だAPECだと同じ顔ぶれに一年に何度も会いますからねぇ。
加:この贋作サミットもG20版でまとめてやればいいんじゃないの?
徹:そんなにキャラが多くちゃとてもやってられません。
英:あれ?いま、変な声が入らなかったか?
仏:まぁ前座の余談はその辺にして、議題に入りましょう。
米:えーと、まずウランのイラン濃縮問題についてだな。
独:何を濃縮してるのよ、よくまぁこんな大統領をエランだもんだわ。
英:我が国にはそんな国民はオラン。
仏:そういやアラン・ドロンが倒れたりしてたなぁ。
日:イランに石油をウランと言われては困るんですが。
伊:えーと、何かダジャレを言わないと来年出れないのかな?
仏:オホン、では次に貿易問題を…
米:我が国に損をさせる国の商品には関税かけなきゃいカンゼー!
加:あんたと中国が関税合戦やってるおかげで世界が迷惑するからあカンゼー!
日:これからウチじゃ消費ゼー上げるんだから景気が悪いといカンゼー。
米:車を安く売っちゃいカンゼー、農産物兵器買わないカンゼー、軍事費もっと負担せないカンゼー!
独:そういう分かりやすすぎるジャイアンぶりがすカンゼー。
英:俺は合意なしでEU離脱せずにはおカンゼー!
仏:それでも議会は味方につカンゼー。
独:EU側はもうこれ以上交渉要求は聞カンゼー。
伊:サミットもダジャレのネタにことかカンゼー。
米:さてG7もダジャレ大会になってきたし、来年ウチでやる時はメンバー一人増やそうぜ。
加:あ、露を復活させるんですか。露骨だな〜
独:選挙に工作してもらったのはもう暴露されてたんじゃ…
米:再選のためならなんだってするぞ、という決意を吐露しておく。
日:正露丸って昔は「征露丸」って書いたんですよね、と豆知識披露。
英:来年のサミットで俺は露出できるんだろうか。
仏:ダジャレのためとはいえ、ヘンな意味にとられかねない発言ですな。
米:ま、とにかく来年は俺がホストだ。言うこと聞かないやつは国ごと買収だからな。費用はそっちもちで。


…そのころ、クレムリンの奥深くで。
工作員が仕掛けた盗聴器により贋作サミットの内容を知った露大統領が、冷徹な表情のまま来年の贋作サミットに向けてダジャレの特訓を極秘裏に開始していたことなど、贋作サミット参加者首脳の誰も知る由もなかった…


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