過去の雑記 00年 7月

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7月11日
口内に血が流れ込むような(流れていたのだ)不快感は収まったが、歯茎に穴が開いたような(だから開いている)違和感はまだ残っている。どうも、ものを食べるとその穴に入り込むような気がして仕方が無い。うう。

気を紛らわすため、なぜか目の前にあったカルヴィーノ『柔かい月』から「ティ・ゼロ」「追跡」を再読。文句無しに良い。
ライオンに向けて放たれた矢が飛距離の1/3ほどを消化した時刻、T0に位置する狩人が、時間の性質について考察し続ける「ティ・ゼロ」、追っ手からの逃走の最中、大渋滞に巻き込まれた男が、自分の置かれた立場について思考するうちに革新的な脱出法を編み出す「追跡」。ともに純粋な論理の果てに幻想が降臨する実に美しい物語である。論理と幻想の融合という点では、SFの究極の姿の一つなのかもしれない。

7月12日
ロバート・チャールズ・ウィルスン『時に架ける橋』(創元SF文庫)読了。兵士の精神を支配し、それなくしてはやっていけなくするカエアンのスーツのような「装甲」や、損壊を始めた死体をも復活させるサイバネティックシステムなどのガジェットは面白かった。ただ作風的に、面白さの本筋はそういうところではなかったり。主人公の感じる孤独など本筋であるべき部分が、ガジェットの面白さに負けているのは難点だろう。全体としては、面白かったとは言い難い。

7月13日
いつのまにか賞関係の情報が充実していたLocusページから、ラファティの受賞歴をチェック。「素顔のユリーマ」のヒューゴー受賞くらいしか知らなかったので、たいした記述量ではないだろうと思ったら、これが意外に多い。いやまあ、大半は「ローカス13位」とかですが。

リストに挙がっている中で邦訳がある短編は、「うちの町内」「スロー・チューズデー・ナイト」「断崖が笑った」「つぎの岩につづく」「完全無欠な貴橄欖石」「豊穣世界」「素顔のユリーマ」といったあたり。日本で人気がある(ような気がする)作品とは微妙にずれているような。<研究所>や<カミロイ人>といったわかりやすい作品が全く挙がってこないのは不思議。

7月14日
SFマガジン8月号の残り(スラデック特集以外)を読了。

ヴァン・ヴォクト「拠点」は「ヴォクトの最高傑作」という煽りの割には、どうということのないアクションもの。これよりはマシな作品が幾つかあるような気がするがどうか。少なくとも「黒い破壊者」はこれより面白いぞ。

草上仁「ナイフィ」は人間の有機組成を嫌う刃物型宇宙生物という、いかにも草上仁らしい設定を使ったショートショート。ページ数の制約があるとはいえ、ちょっとどんでん返しの数が足りない。

林譲治「ヒドラ氷結」は火星に潜入したテロリストと守備部隊の戦いを描くSFサスペンス。無骨な作りながら楽しめた。ただ、会話文で、ユーモアが滑っているのは気になるところ。文章全体は「エウロパの龍」に比べ格段に読みやすくなっているだけに惜しまれる。

清水義範「銀河がこのようにあるために」は、どんどんまずい方向に流れている感がある。見え隠れする「宇宙の真実」も辛いもののような気がするが、それ以上に未来描写が辛い。この調子だとどんな驚愕の「宇宙の真実」が出てきても驚けないような気がして不安。

小説以外で特筆すべきは、ハヤカワ文庫下半期のラインナップだろう。人気シリーズの外伝を集めたオリジナル・アンソロジーに、<エンダー>の新刊、<バッパーもの>の新刊、<スコーリア戦史>の新刊……。SFジャンルで紹介された7作中、シリーズ物が6作ではちょっと未来が感じられない。残る1作もクラーク&バクスターだし。だから活きの良い新人の新作長篇ってのはないのか。ニール・スティーブンスンをアスキーに取られたのはわりと致命的だったのではと思ったりする今日この頃。

全体としてはどうしてもスラデック特集の印象が強い。新訳4本が掲載されたというだけでも「勝った」という感じだ。好きな作家だけに嬉しく思う反面、ヴォクトと同等の扱いで良いのかという気もする。本来、もっとおざなりな扱いを受けるべき格の作家では。
まあ、いいや。天才が正当に遇されたのだ、と素直に喜んでおこう。

7月15日
ふと思い立ち、今号のSFMの牧眞司のエッセイで触れられていた星新一のショートショートを探すため、『ショートショート 1001』を引っ張り出す。ものの数分も眺めるうちに作品を特定することはできたが、こんなメジャーな作品を思い出せなかったのかと思うと、己の記憶力の衰えに絶望せざるを得ない。高校生の頃なら、収録書名などなくとも思い出せただろうに。「やはり、1日1冊ペースで再読するしかないか」などと無駄な向上心が沸いてくる今日この頃。

夕方過ぎに葛西郵便局まで荷物を取りに行く。Amazonからの荷物は、20×30×10cmはあろうかという大きなもの。そんな巨大なハードカバーを頼んだ記憶はないんだがと思いつつも箱を開け、中に大量に詰められたエアクッションを掻き分け、本を挟んでいたダンボール板をはがした末に中から現れたのは、都合で40頁前後のブックレットだった。
確かに、今届く可能性がある本は"True Believers"だけだったし、この本がブックレットであることは分かってたんだから予想してしかるべきだったわけではある。しかし。何もそれを、こうまで厳重に包装せんでもよかろうもんに。荷物を受け取ったその足で地下鉄に乗って高田馬場に行くつもりだったのに、おかげで大量のゴミを抱えて途方に暮れてしまったよ。

夕方すぎからユタ。参加者は、尾之上俊彦さん、鈴木力さん、高橋良平さん、林、藤元直樹さん(あいうえお順)。「ぱらんてぃあ」の例会にはあまり新しい人が来ないだの、最近アメリカのSF雑誌に元気がないだの、粗製濫造のオリジナルアンソロジーが溢れているだの、いろいろと景気の悪い話を聞いた。海外短編のチェックは経済的に報われない仕事だから維持が大変、とか。景気悪いなあ。

7月16日
昼飯を食いに入ったモスバーガーでメニューをみると、いくつかの商品が消されていた。どうやら、チーズが入る商品は軒並み販売中止になっているらしい。むう、こんな所にも立ちはだかるか、雪印。

午後10時過ぎ、ふと思い立ち月蝕を見る。ビルの谷間にぼんやりと欠けた月が浮かんでいることは確認した。今世紀最長の皆既月蝕という奴を確認しようかとも思ったが、ビルの谷間の明るい夜空を肉眼で見たところでたいしたこともあるまい、と早々に諦めることにした。1時間続く皆既日蝕なら本気で見ようという気にもなるが。< 続きません

7月17日
夕方休みに立ち寄った古本屋で、横田順彌『SF大辞典』(角川文庫)を購入。中学生のときにも持っていたが、確か誰かにあげたはず。誰にあげたんだったっけ。

15年くらいぶりに再読してみて驚いた。しごく真面目な辞典ではないか。ヨコジュンなんだからもっと遊びが入っているかと思ったのに、こうまで四角四面の作りとは。らしくないというか、らしいというか。
今、読み返して見たところ、資料価値はさほど落ちていなかった。「現在」を語る部分はさすがに使えないが、他は今でも実用に耐える出来。本気で探す価値があるとまでは思わないが、安く見かけたら手に入れておきたい1冊。本当は、このレベルで「今書かれた」本が欲しいところだけどね。

7月18日
SRW4を進める、というかなんというか。

「オルドナ=ポセイダル」でギワザ対ポセイダル面を見るために2回目の「アクシズに散る」をクリア。さすがに同じマップを2回連続でプレイすると飽きるね。思わずプレイ方法を変えてみたら、和泉ナナを含め、出撃メンバー全員が2回移動になってしまったのであった。だから次の次をプレイする気が無いというのに、次のマップで出撃出来ないメンバーの成長にこだわってどうする。> おれ

7月19日
ゆうきまさみ『じゃじゃ馬グルーミン☆Up!』24巻(少年サンデーコミックス)。久しぶりに競馬描写の多い巻だったので満足。ああ、板東聖二かっこいいぞ。

吉田音『Bolero 世界でいちばん幸せな屋上』(筑摩書房)読了。クラフト・エヴィング商會プレゼンツのミルトリン探偵局シリーズ第2作。クラフト・エヴィング商會ものでは初の「第2作」なので、不安半分で読んだのだが、ありがたいことに杞憂に終わった。黒猫シンクが拾ってきた品々が生み出す、良質のファンタジー。本当に不思議なことはほとんど起きないにもかかわらず、結果としてファンタジーとしか呼びようの無い世界を作り出している。穏やかな気分のときに、さらに穏やかな気分になるための本としてお薦め。

7月20日
大熊君の退院記念として、たまに遊んでいただいている方々と一緒に映画「ブリスター!」を見る。ああ、なんか(評価が)難しい映画だな。
カッコ良くあろうという意思は認めるんだけど、結果がついてきていない印象。主役の滑舌がイマイチなのにナレーションをやらせてしまう冒頭で、一気に引いてしまったのが問題か。コレクターを肯定的に描くというテーマの方も、結局「コレクターは次代のクリエイター」というありがちな回答で期待外れ。嘘でもいいからコレクションするという行為それ自体が価値なのだという展開に持っていくくらいのパワーが欲しかった。まあでも、大塚明夫演ずるSF映画おたくのオヤジと、作中作のアメコミ「HellBanker」はカッコ良かったんで良しとしよう。

映画を見た後もう一人と合流し飲みに行く。2軒目によった「八月の鯨」が面白かった。
映画タイトルを冠したカクテルが売りのバー。メニューにない映画でもバーテンに分かる場合は作ってくれる。メニューはかなり謎で、「ナイトメア・ビフォア・クリスマス」「シザー・ハンズ」などがある割に、「スター・ウォーズ」「2001年宇宙の旅」などあって当然の作品がない。古い作品はないのかと思えば、「戦艦ポチョムキン」なんてのがあったりして正直どんな基準で選んでいるんだかさっぱり。バーテンにティム・バートンファンでもいるのかと思ったら、「マーズ・アタック」も「バットマン・リターンズ」も無いし。なんなんだ。
僕が頼んでみたのは、「ナイトメア・ビフォア・クリスマス」、「2001年宇宙の旅」(メニュー外)、「スター・ウォーズ」(メニュー外)、「未知との遭遇」(メニュー外)。SWは「帝国の逆襲」を頼んでみたけど無駄でした。まあ、しかたあるまい。
「ナイトメア」と「2001年」はそれなりの味だったけど、ミント味のきついSWと、謎の甘さの未知との遭遇はちょっと辛いところ。冒険するなら覚悟が必要かも。
メニューに無い酒勝負で盛り上がってしまい無茶な挑戦を続ける人も出現する中、最大のヒットは蔭山さんの頼んだ「ブレア・ウィッチ・プロジェックト」。いや、まさかそうくるとは。飛び道具(比喩)は卑怯だよ。
マイナーな映画だとわかってもらえないことがあるのは残念だったが、メジャーな映画だけでも十分楽しめた。

帰宅後、田崎秀一『カオスから見た時間の矢』(講談社ブルーバックス)読了。ミクロな世界では可逆な物理現象が、マクロな世界では不可逆になるのはなぜかという難問を統計物理の立場から説明する。いくらでも魅力的なおまけをつけられそうなテーマだというのに、そういう遊びを一切見せず、それでいて面白かったというのは凄い。
ああ、ただちゃんとついていけたかというと自信無かったり。そもそもマクスウェル=ボルツマン分布の導出法すら忘れているという。うー、法則そのものは忘れても導出法は忘れないからいつでも再発見できるという歪んだ自信があったんだがなあ。

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