過去の雑記 99年 6月

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6月11日
サラ・チャンピオン編『ディスコ2000』(アーティストハウス)を今度こそ読了。1999年の大晦日、千年紀の変わり目(本当は違うけど)に起きる(あるいは起きない)大騒ぎを描いた作品が15編収められている。
ポップでキッチュでドラッグな大半の作品は、酒も煙草も薬もやらず泥臭く生きるオタクの身には共感し難いが、SF畑の作家の作品はそんな僕でも安心して読める。というわけで、ベストは徹頭徹尾頭の腐っている(テレビ伝道師と気違いハッカーとの争いが赤蟻と黒蟻の戦争を生む話だよ?)ロバート・アントン・ウィルスン「ダリの時計」。他では、バッカスの魔法でパーティーからパーティーへ時空を旅するはめになった男の悲喜劇ディ・フィリポ「パーティー! パーティー!! パーティー!!!」とミルハウザーか中井紀夫か、朝食シリアルを食べるという大事業を顕微鏡的精度で丹念に描くニール・スティーヴンスン「クランチ」が秀逸。

リン・カーター『ゾンガーと魔道師の都』(ハヤカワ文庫SF)読了。前作を読んでから3年近く経っているのでやや不安はあったが、懇切丁寧に今までの粗筋を教えてくれたので大丈夫でした。くどいよ、リン。
例によって例のごとくヒロイックファンタジーの枠を一歩たりとも越えない毒にも薬にもならない作品に仕上がっている。その無難さは賞賛すべきほどだ。気に入ってはいるが、愛する気にはならないな。

6月12日
近所のCD屋のスタンプが来月末で期限切れになることに気づいたので、久しぶりにCDを買いに行く。すると何故か2割引セールが始まっていて、スタンプを押してもらえる商品に碌な物が無い。しかたがないのでアニソンを中心にシングルを5枚ほど買い込んでみる。ちなみに、「だからと言って「スターダストアイズ」を買う必要はないのでは」という正論には耳を貸すつもりはない。

とりあえず買ってきた中で唯一聴いたことが無かった『D4プリンセス』のオープニング、「ドリルでルンルン、クルルンルン」を聴いてみる。……いいかも。

大熊君のお誘いに甘え、東洋大OBの方々(小菅君と蔭山さん)と「ヴァイラス」を見に行く。タイトルと設定があまりに酷そうだったのでなんの期待もしてなかったのだが、思ったよりはよく出来ていた。最初の惨劇から、嵐の到来、呪われた船の探索、と絶対にパターンは外さないという強い意志が感じられる脚本には感心すら覚える。特に、パーティー内の犠牲者の順番は、完璧なまでに定石通りで嬉しくなってしまった。ロボットも良く動いていたし、レンタルビデオ屋で借りるにはお薦め。

いろいろあったが、そんなこんなで池袋に出て飲む。ここからは鈴木力氏と田中さんも参加。考えてみれば、イベント以外で鈴木力氏と飲むのは初めてだな。
酒の席では鈴木氏から美少女ゲームの話を聞いたり、東洋大SF研の最近の様子を聞いたり、カクエイだったり、野呂(17)のファンだったり、SF大会はSFセミナーの3倍だったり。最後の三つの話題が意味不明なのは某嬢からオフレコと言われているからなので仕方が無い。

最後、終電ぎりぎりになってしまったので挨拶も出来ませんでしたが、楽しかったです。また機会があったら遊んで下さい。> 東洋大の皆さん。

6月13日
リン・カーター『時の果てに立つゾンガー』(ハヤカワ文庫SF)読了。前作で敵をあらかた片づけてしまい、やることがなくなったためか、いきなり超越的なビジョンが登場してきたりする。が、そうなると文才の無さ(誰のとは言わないが)が禍して、まったく面白味が無い。ストーリー展開はそこそこ工夫をしているのだが……。前作までは「買ってまで読む必要はない」作品だったが、これは「買ってしまっても読む必要が無い」作品だ。

「噂の真相」を少し立ち読みしていると、大笑いな記事が。擬似科学否定派の間で最も評判が悪い男、大槻教授が『リング』の批評を書いているのだが、もう全体から駄目さ加減が漂ってくる。なんせ、いきなり「戦後のSFで実際に実現していないのは透明人間くらい」(記憶で書いているので不正確かも)だもんなあ。ウエルズの『透明人間』がいつ書かれたと思ってるんだろう、この人。
#ひょっとして戦後を第2次大戦後と考えるのが間違いなのか?
そこ以外でも「SFは科学を正確に書かねばならぬ」という教条主義が全編に漂っていて実に鬱陶しく仕上がっている。だいたい、出版社も作者もホラーとして売っていて、作者にいたっては「SFとは呼んで欲しくない」とまで言っている本を捕まえて、「こんなもんSFじゃなくてホラーだ」って罵倒するって辺りが頭悪すぎ。こんなに頭の悪い人だとは思ってませんでしたよ、ぼかあ。

6月14日
リン・カーター『海賊と闘うゾンガー』(ハヤカワ文庫SF)読了。前巻で主な敵どころか落ち穂拾いまで終ってしまったので、すっかりスケールダウンした最終巻。敵を小さくしたのが功を奏したか、新キャラ、イイアン姫の人徳か5巻よりは大分ましな仕上がりでまずはめでたい。全編通して、大きくパターンを外さないということを守り切ったストイックな姿勢を評価して、シリーズ全体の感想は心に封印しよう。
これが20年前に売っていたことには意味があるが、今売る価値があるシリーズではないね。

6月15日
大原まり子&岬兄悟編『SFバカ本 だるま篇』(廣済堂文庫)を読了。なんだか同人色が一層強まっているような。
梶尾真治「奇跡の乗客たち」は、このアンソロジーシリーズでははじめての下ネタじゃない作品。狂気の発現を抑えた静かなドタバタに仕上がっており割と良い感じだ。昔のカジシンはこれ位の作品ならコンスタントに出してきてくれたんだよなあ……。
牧野修「踊るバビロン」はいつも通り、言葉が自走する幻想小説。この作家の短篇は確実に一定水準以上の出来なので、安心して読める。今回も、意味が分かりそうで分からないぎりぎりのところでグロテスクな世界を堪能させてくれる。ただ、牧野修作品としては並か。
井上雅彦「フィク・ダイバー」は本書中の白眉。「またいつものね、もう飽きたよ」と半ば見下して読み始めたのだが、いつのまにか正体を現す世界の真の姿にはすっかり驚かされた。落ちがわかってから再読すると、冒頭から真の世界を見抜くための鍵が丁寧に埋め込まれている事がわかる。高い技量に支えられた見事な作品である。
岡本賢一「12人のいかれた男たち」はなんとか合格点。ネタはどうしようもないが、語り口でなんとか読ませている。キャラが如実にパロディである点はひっかかるが、これもまあ肯定的に評価すべきなのだろう。もう少し、スマートに隠して欲しかったが。
合格点は以上4作。全体的なレベルは一応過去最高……なのかなあ。

ボーナスが出てしまったので色々と本を買い込んでみたりする。とりあえず古本でF・ハーバート『ドサディ実験星』、ブローディガン『鳥の神殿』、岡崎弘明『英雄ラファシ伝』を、新刊で、バロ『夢魔のレシピ』、牧野修『屍の王』『偏執の芳香 アロマパラノイド』を購入。さらに勢いで幻想文学50-53まで購入したりする。読む予定はとりあえず無い。

6月16日
昨晩、突然テレビが壊れてしまった。テレビの1台や2台壊れていても、ふだんなら何も困らないのだが、2日後に返す予定のビデオを抱えているという事実はいかんともし難い。諦めてテレビを買ってくる事にする。

元が14型モノラルという最低スペックのものだけに、同等品を買うかグレードアップするかで悩んだが、結局14型ステレオのテレビデオを買う事にした。このスペックで4万円台前半はまあまあの額だろう。気になるのは購入後わずか2年で電源系がいかれた旧テレビと同じメーカーの製品であるという点だけだ。

テレビを購入し帰る段になって、自分が輸送手段を持っていないという事実に気づかされる。ジャスコからアパートまで、わずか数分の道のりがここまで遠く感じられたのは電子レンジを持ち帰った時以来だ。
#過去に経験があるのなら対策を講じるべきだという意見は却下。

6月17日
朝からどうにも調子が悪い。肩から腕にかけてがあまりにもだるいので、しばし原因について考察を巡らした挙げ句、昨日テレビを運んだことによる筋肉痛だと結論づける。たかが10数Kgのものを10数分持ち歩いただけで筋肉痛とは、すでに若くないという事実にあらためて気づかされた思いだ。
しかしあれですね。肩から腕にかけての筋肉痛と肩凝りの複合症状というのは泣きそうになるくらい不快ですね。

まあ、しかし運命は受け入れざるをえまい。というわけで不快感を我慢して「空飛ぶモンティ・パイソン」2、3を見る。コメディ一般としては水準以上だとは思うが、スマッシュヒットといえるだけのネタがなかったのは残念。次回以降に期待。

6月18日
アシモフ『ファウンデーションと地球』(ハヤカワ文庫SF)読了。あまりといえばあまりなオチにヘナヘナと崩れ落ちてしまった。前半は無為に議論を繰り返すアシモフ節が炸裂していて心地よく読むことが出来たが、後半はとにかく結論ありきという姿勢が見えすぎて、まったく納得が行かない。ふつう、そんなオチで納得できるか? > トレヴィス
「最終目的地にいたあの人」とか「心理歴史学が機能するための最後の条件」といった、くだらなさは、「しょせんアシモフだねえ」と温かく見守ることが出来たのだが、そっから先がなあ。老人が昔の業績を弄繰り回すとろくな事にならないという好例でしょう。とりあえず、こうまで無残な状況から続きを書かなきゃいけないはめに陥ったベンフォード、ベア、ブリンが、ファウンデーションをどうやって料理したかが楽しみだ。

6月19日
昼からDASACON2準備会。参加者は林、平野まどか、森太郎、u-ki(順不同、敬称略)。2時からの約束で、2時半に新宿についたというのに、待ち合わせ場所のルノアールへ向かう「途中で」一緒になった参加者が二人もいたというのは何かが根本的に間違っている気がする。
5時すぎまでルノアールに屯し、開催日、企画などについて多少詰める。いつになく着々と物事が決まってしまったので、5時過ぎには決めるべきことが思いつけなくなってしまったり。もちろん錯覚なんですが。5時半頃ルノアールを出て、ジョニイ高橋さん、溝口さんと合流しようとする他のメンバーと分かれて高田馬場に向かう。

高田馬場に着いてはみたものの、ユタによるには若干早すぎたので芳林堂へ。シャーリイ・ジャクスン『たたり』(創元推理文庫)、井上雅彦・編『トロピカル』(廣済堂文庫)などを購入。『たたり』『山荘綺談』だってのは人に指摘されるまで気づかなかった……。
ついでに『合本版・火星のプリンセス』(創元SF文庫)も買っていこうと思ったが、こいつがなぜか見当たらない。仕方がないので未来堂でも探したがこちらにも無い。実は、バカ売れなのか、『合本』。これの評判があまりに良いからって、次々と合本が出てきたりすると面白いですね。とりあえず次は『合本・冒険の惑星』『合本・年刊SF傑作選』希望。

6時すぎからユタ。7時過ぎまでほとんど人がいなかったんで、「雨の日はやっぱり誰もこないねえ」などと思っていたら、出足が遅いだけだったらしい。最終的な参加者は大森御夫妻、尾上さん、小浜さん、添野さん、高橋さん、林、藤元さん、山本御夫妻と計10名。
話題は例によって掲示板の話とスリランカの話、合本の話などがメインか。『合本・ゴーメンガースト』は拝むだけは拝んでみたいので、創元には是非とも出して頂きたいところである。

帰りに明和書店によると、あっさり『合本版・火星のプリンセス』が見つかってしまった。見つかってしまったものは仕方が無いので、とりあえず買うことにするが、よく考えたら、バロウズってあんまり好きじゃなかったような気も。まあ、きっと気のせいだろう。
ついでに梶尾真治『クロノス・ジョウンターの伝説』(ソノラマ文庫NEXT)など買ってみたり。単行本版から当社比1.5倍の作品数&ページ数というのは(しかも、それでごく普通の文庫の厚さというのは)単行本がいかにコストパフォーマンスの悪い代物だったかを雄弁に物語っているような。

井上雅彦・編『時間怪談』(廣済堂文庫)を読了。全体としては並の上。特にピックアップしてまで褒めたい/貶したい作品は見つからなかった。

レメディオス・バロ『夢魔のレシピ』(工作舎)も読了。とっつきやすそうな外見に騙されたけど、これは作品集じゃなくて、研究書じゃないですか。いやあ、まさか創作メモの断片だの、書簡だのまで読まされるはめになるとは。総じてテキストは退屈で、研究者以外に価値があるとは考えがたい内容。第3章に収められた絵画は素晴らしいのだが、それも勿体無くも小さなモノクロ写真だし。素材はミーハーに面白く作れそうなものなのに、実に惜しい。もちろん、対象読者を間違えて買った僕が悪いんですけどね。

6月20日
やらねばならぬ事の重圧におびえつつ、何もせずに過ごす。1日に四回寝たのは新記録だな。

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