- 6月21日
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そんなこんなでSFM7月号を読了。
特集は『グッドラック 戦闘妖精・雪風』刊行に合わせ、神林。「だったら『エリコ』刊行に合わせて谷甲州の特集もやってやれよ。いくら自社コンテスト出身じゃないからって差別する事はないだろう」という思いが一瞬浮かんだが、『エリコ』には思い入れは無いからどうでもいいや。いや、『グッドラック』にも無いけど。
特集はインタビューに作家論、エッセイに全作品解題、おまけに読切り一本と、ほぼ完全な構成な上に中身もまあ納得の行く出来栄え。ここ3ヶ月ほどのSFMの充実度はすごいね。
分析系記事では、自身の思い入れを見事な語り口で語った牧野修のエッセイ、記憶再生と読書誘導の両者の役割を見事に果たす石堂藍の作品解題などが秀逸。冬樹蛉による作家論も悪くはないが、3節までの緊迫感が4節で一気に崩れなあなあになってしまうのが惜しい。そのままの勢いであと2ページ維持できていれば、文句無しだったのに。
もちろん、最も面白かったのは編集部による未収録短篇リスト。やっぱりLOGiNのファーストフォーワードにはいっぱいありますね。ああ、誰かファーストフォーワード全リストを持っている奴はいないか。月刊時代のLOGiNを全部持っている人がいれば、オールザットウルトラ科学全リストとあわせて作りに行ってもいいぞ。
読切りの「請け負った仕事、再現不能」は「幽かな効能、機能・効果・検出」(SF Writers(95年11月増刊、473号)収録)の続篇。前作が好きな作品だったので、これは嬉しい不意打ちだった。しかし、この方向に進むのは営業的にまずくないか。いや、僕は構わないけど。もし、このままの路線で進む勇気があるのなら、ついでに「小指の先の天使」「猫の棲む処」の続篇も希望。
特集外でも、面白くて当然のビッスン「宇宙のはずれ」を筆頭に秀作が多かった。正直、そろそろ秀作ではなく傑作が欲しいという気もするが、それはまあ今年後半に期待しよう。
小説外では、やはりてれぽーと欄への水鏡子の投稿が気になるところか。2月号のエッセイ、5月号の投書とあわせて読むとかなり興味深い。問題は、今50年代という時代区分を意識してSFを語る事に意義があるのか、という点だな。
日下三蔵の新連載「日本SF全集[第一期]」は、ハルキ文庫で続々と日本SFの古典が復刊されている今、実に意義の高い企画だと思うが、第1回がよりにもよって星新一なので今一つ真価が分かりづらい。短編集やエッセイに若干の目録落ちが生まれつつあるものの、ほぼ全作品が文庫で手に入る星新一よりは、一度全滅に近い状態を経験している小松左京を第1回とする方が、企画の意図をより明確に提示できたのではないか。星新一のショートショートで面白いのはこれとこれですよ、と言われても未読の人間にはどこに収録されているかすらわからんぞ。とりあえず紹介記事としての評価はもうしばらく保留。
あ、もちろん作品の鑑定眼の方は文句無しだ。31作のショートショート/短篇がリストに上がっているが、タイトルから内容を思い出せない作品は1作しかなかった。それだけ強い印象を与える作品が揃っているということだろう。掲載作のバランス、レベルとも確かな技を感じさせる見事な仕事だ。
あ、でも、個人的には賞味期限がもうすぐ切れる「時の渦」よりは「壁の穴」(「白い服の男」か「凍った時間」でも可)の方が良いかな……。
- 6月22日
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突然、創元読破月間にしようと思い立ち、<ガニメアン>シリーズを1冊手にとって出社。東西線に乗り込み、おもむろに読み始めてみると、どうにも様子がおかしい。以前読んだ『星を継ぐもの』と話が繋がらないのだ。もしや、と思って解説に目を通してみると案の定、『巨人たちの星』はシリーズ第3作なのであった。
#ハードSFの分厚い本を読もうなんて無理をするからぼろが出るんだよ。 > おれ
仕方が無いので、昼休みに帰り道用の本を買う。「そんな無駄遣いをするくらいなら、片道我慢すれば良いのに」というのは正論だが、本を読もうという意欲がある時期なんて年に数度も無いので、このチャンスを捨てるわけにはいかないのである。
まあ、そんなこんなで近所の書店で創元SF文庫(そう、創元月間と決めた以上、何がなんでも創元なのだ)の棚を眺めてみたのだが、これが……。一応、新刊とディックとビジョルドとホーガンは置いてあるんだから「これ以上何を望むのか」と言われればそれまでなのだが、そうか『遠き神々の炎』は置いてないか……。まあ無い物はどうしようもない。初志貫徹ということで、ホーガンの『造物主の掟』なぞ買ってみたりする。
とりあえず解説だけでも、と読みはじめたのだが、これがびっくり。解説に、付記として『造物主の選択』(邦訳は98年刊行)の情報が記載されているのだ。『造物主の選択』の刊行に合わせて版を改める際に追加したのだろうが、こういった細かなフォローがあるとは思っていなかった。ロングセラーならよくある事なんだろうか。
東洋大ページでなんだか新企画が始まるらしい。なんでも未読のSFのベストを決めようって企画なんだとか。どうやって選べばいいんだ、そんなもん。
まあ、それは良いとして、面白そうなのが結果予想。ベストの常連は未読の確率が低いから出てこないだろうし、マイナー作品は名前も知らないわけだから出てこないだろうし。うーむ。投票の母集団がわかれば多少は読めるかもしれないけど、その辺が白紙だとさっぱりわからんなあ。
とりあえず『ニューロマンサー』とか言ってみようか?
#実はもう、若者は誰も読んでないんじゃないか、とか。
- 6月23日
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定時間日なので、早めに帰り書泉西葛西などによる。相変らず、『遠き神々の炎』は置いてない……、っつーか、それ以前に創元の旧作がまったく置いてないぞ、おい。書泉西葛西がいかに使えそうで使えない書店であるかをよく表すエピソードですね。
いまどき超大型書店以外で、早川・創元の3年前の本を置いているところはほとんど無いという説もあるけど、仮にも2フロアの書店なら創元の段(さすがに棚とはいわない)くらい持ってたって良さそうなもんだが。
そら、そんな棚あってもビジョルドを買うときくらいしか役に立たんけどさ。
- 6月24日
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J・P・ホーガン『造物主の掟』(創元SF文庫)を読了。絶賛する人がいるのは非常によくわかる、というのが感想だ。
主役級は善良な人々。敵は経済の論理で科学を支配しようとするもの。超能力者はペテン師。異星人も科学を志す。異星人とのコミュニケーションは可能。科学は共通の言語。蒙昧なる者は去れ。知性こそ救われる鍵。ジャンルSFのファンとしても、ポピュラーサイエンスのファンとしても非常に心地の良い作りになっている。中学生のときに読んでいたら、きっと手放しで絶賛しただろう。
だが、今の僕にとってはあと一歩の作品だ。コンゲームとしての側面は面白く読んだが、SF性を保証するはずの異星人の造形がいくらなんでも許容出来ない。なんだって、機械人が西欧文明発達史をなぞらなきゃいけないんだ?
なんの過去も持たない異星人が出てきて人間のように語り行動する小説は、そーゆーものだとして許容できるのだが、わざわざ進化の過程を描き、歴史発展の過程を描いて異質さを強調しておきながら、結局西洋史から抜けられないというあたりの感受性の欠如はどうしても許容できないのであった。
せっかくの面白そうな設定をSFとして十分に活かしていないという印象は否定しがたいが、コンゲームとしては面白かったんで+1。
ウィリス『リメイク』、ディック『マイノリティ・リポート』を購入。「6月上旬発売のはずが30日発行とはどういうこった」って感じの『リメイク』だが全271ページ、本文だけだと218ページという薄さに免じて許しておこう。200ページまでは本は薄ければ薄いほど偉いのだ。
- 6月25日
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津原泰水『蘆屋家の崩壊』を見つけてしまったので早速購入。全体から「面白い!」という雰囲気が伝わってくる。良い本だ。
「なぜそんな本を読んでいなかった!」と言われたら「ごめんなさい」という他はないような基本中の基本、ベイリー『スター・ウィルス』を読了。
これだよ、これ。僕がSFに求めているのはこの壮大なはったりなんだよ。ああ、もうくだらなさ、拙さも含めてほぼ完璧。さすがだ、ベイリー。もうどうしようもないくらいのワンアイデアストーリーを普通それとは結び付けないだろうというプロットを使って豪華絢爛なスペースオペラに仕上げてある。ワイドスクリーンバロックの代名詞の面目躍如だ。もう手放しで大絶賛っすね。
唯一、欠点を挙げるとすれば巻末の著作リストだろう。『時間帝国の崩壊』、"The Grand Wheel"と2冊も近刊予定となっている。本来出るはずだった作品が7年も出ていないことを知るのはとんでもない苦痛だ。さあ、いまからでも遅くはない。ベイリー出しましょうよ、小浜さん。
- 6月26日
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山本正之コンサート「大王降臨」のチケットを買うため、ローソンへ。思ったよりてきぱきと手続きは進み「こりゃ結構良い席かも」などと浮かれているといきなり落とし穴が。店のプリンタが壊れて発券できないんでやんの。席自体は確保されているので、実効的な問題はないんだけどいきなりな事態なんで一瞬不安になったり。やはり油断はよくないね。
津原泰水『蘆屋家の崩壊』(集英社)読了。<異形コレクション>で「水牛群」を読んでいたので水準以上の出来であることは予想できたが、巻頭の「反曲隧道」はその予想をさらに越えていた。筒井風の息の長い文体で淡々と紡がれる語りが突然破綻し、そこに一瞬の幻想が現れる。その切れ味の鋭さはショートショートかく有るべしというべきものだ。
「蘆屋家の崩壊」以下の4作は文体の面白さと猿渡というキャラクターの存在感に「幻想」がついていけず、若干軽い印象があるが、それでも<異形コレクション>の平均点に比べれば一段上だ。そして「巻頭では、やや驚いたけど全体としては中の上くらいかな」などと油断していると、猿渡に十分太刀打ちできる「幻想」を持った2作「埋葬虫」「水牛群」が登場する。
ある程度客を選ぶ作品ではあると思うが、怪奇幻想系短篇のファンなら無条件で買いだ。
- 6月27日
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昨日手に入れ損ねたチケットを入手。予想ほど悪い席ではなかった(E列)が、ちょっと端過ぎ(3,4)。まあ、こんなものでしょう。
やらねばならぬことはやる気が起きないので、SFマガジンのデータ入力をしたりする。入力したのは1980年後半。っつーわけで、個人データベースの方には250号以降のデータが揃いつつあるのであった。Web上のデータにも早く反映せねば(と、言い続けて、はや半年……)。
まあ、それはともかく。この前後の時代の目次を眺めていると色々楽しいことが多い。ハヤカワSFコンテストの火浦功に対する選評とか、大原まり子の第1作とか、依光隆がイラストを書いている<雪風>とか。そうか、それくらいの時代になるのだなあ。
それでも第3世代作家の作品は自分の読書歴からの外挿で時代感覚が掴めるのだけど、第2世代作家の作品になるともうさっぱりわからない。<トリニティ>が載ってたり、<オロモルフ号>が載ってたり。この辺の作品が新作だった時期って本当にあるんすね。
どうも、SF史でしか見たことが無い作品が、書籍ならまだしも雑誌に載っているのをみると違和感を禁じ得ないことであるよ。
- 6月28日
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テレビを点けていて、ふとチャンネルを変えると(回すと書きそうになってしまった)ノストラダムス番組をやっていた。興味が無かったので、一拍置いて再度チャンネルを変えたわけだが、その間にこんなセリフが聞こえてきた。
「今、スペースコロニー計画というのがあります」
「これは、地上に残った人々を皆殺しにするための物なのですが……」
……予言者の人は何言い出すかわかんねえな、おい。
数十分後、再度そのチャンネルを通過した際には、アンゴルモアの大王とはベオグラードの中国大使館誤爆事件の事だとほざいている奴がいたり。もう、どうだっていいや。
小学生の頃、マクロスを見ながら「99年の7月っていうと27歳のときかあ」などと嘆息していたことを、つい思い出したりする夏の宵なのであった。
- 6月29日
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坂田靖子『バスカビルの魔物』(早川書房)を購入&読了。ミステリマガジンに掲載された短篇をまとめたもの。飄々とした実に彼女らしい作品が並んでいる。特に、刑事コジャック(どこがだ!)で、鋼鉄都市な「ひとつ、ロボットは…」が気に入った。
「ロボット工学三原則」
「ひとつ、ロボットは泣いてはならぬ」
「ふたつ、ふるさと後にして」
「みっつ、醜い浮世の鬼を……」
さすがだ。
- 6月30日
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シャーリイ・ジャクスン『たたり』(創元推理文庫)を読了。これは前にも書いたとおり文庫NV『山荘綺談』の再訳。「舞台となる家は「山荘」ではない」という改題の理由は納得できるが、「たたり」というタイトルも同程度に間違ってると思う。"Haunting"は「憑いている」だけで「たたり」ではないぞ。
ここはひとつ『憑かれたな』ってタイトルでどうだ。 < それは大槻ケンヂの短篇
中身の方はいまひとつ。直接的な怪異の出現を極力抑え、登場人物の心理変化で恐怖を演出するという手法自体は納得のいく物だが、肝心の視点人物の心理変化が唐突でいまいち入り込めない。もう少し、読者も巻き込む形で狂気を演出することは出来なかったのか。方向性は興味深い物だけに、惜しい。
いろいろとあったので、小浜さんと話す。イーガンが8月に出る話や、いろんな物の売れ行きの話、某女史の話なども話題に上ったが、最も印象に残ったのやはりファンダムの話か。
次世代のファンダムを担う層として、DASACONを含むWeb master系ファンに期待する物は大きく、またであるが故に<我々>の自覚の無さに歯がゆさを感じているらしい。Onlineのセミナー特集のエッセイで、かなり挑発的な書き方をしたのは、その辺の歯がゆさがあったためだとか。その問題意識は、イベント前になる度に「ファンジン作らなきゃ」と言い出す先輩を間近に見てきた僕らあたりはぎりぎりわかるが、既存ファングループにまったく触れないで来た人たちにも共有できるものなのか。SFセミナーでファンダムという物が存在することを体感し、DASACONのぬるま湯のような状況に飽き足らなくなったときが勝負なんでしょうね。
DASACON参加者の半数は、別にSFに帰属意識を持っているわけではないというちょっとした問題もあるんですが。
ちなみに、上記エッセイに対するリアクションは有里さんの日記くらいだったとかで、これも不満のひとつらしい。駄目だよね、みんな挑発には反応しないと。
え?僕ですか?僕は「サイト主宰者同士の情報交換」どころか「大学の先輩後輩と旧交を温める」くらいしかしてませんでしたから、問題外って奴ですね(笑)。 < 笑ってる場合じゃない。
SFマガジンデータの入力は79年11月まで終了。251号(79年9月)まで到達した時点で、リストの全面改訂をかける予定。僕にはこれくらいしか出来ることがないからね。