過去の雑記 99年 6月上

雑記のトップへ

前回へ
6月 1日
レズニック『キリンヤガ』(ハヤカワ文庫SF)を読了。SFMに「キリンヤガ」が掲載されたときからおっていた(邦訳で、だが)シリーズなので、これが書籍で出たということにはかなり感慨深い物がある。改めて読んでみると、コリバが最初からやな奴だったことがわかって驚き。っつーか、第1話から嫌な奴じゃん、こいつ。後半、だんだん老化して駄目になっていったわけではないのだな。
あと、ストーリー全体で十年強しか経っていないというのも驚きだ。「じゃあ、青年/中年層は全員、ケニア時代を記憶してるんじゃねえか。なんで、みんなムンドゥムグを畏れるんだ?」と思ったら、「キリンヤガの住民の大半はケニアの保護区で伝統的な生活をしていた」という意味の文章がさりげなく隠してあったり。そうか。欧米風の生活に耐えられなかった男がいなかもんを騙して自分が王様になれる国を作るが、人々が自立してしまい追い出されるという物語だったんだな。なるほど、奥が深いぜ。

『ベストオブモンティ・パイソン』を見る。なるほど、さすがベスト版、『空飛ぶ』よりもさらに充実度が高い。そのかわり、伏線を張ったギャグが見られないわけだが、その欠点を補ってあまりある個々のギャグのインパクトは見事の一言。「馬鹿歩き」と「デニス・ムーア」と「スパム」と「宗教裁判」が一本に収まってるんだから濃いのも当然か。『空飛ぶ』を見終わったらまた借りよう。

6月 2日
ウィルスン・タッカー『アメリカ滅亡』(QTブックス)読了。みごとなまでに読み捨てエンターテインメントに徹した佳作。ビジョンの壮大さやテーマの深さなどといったやくざな物ではなく、状況描写の筆力だけで作品を盛り上げるあたりはいかにもタッカー。いまさら手に入れる必要はこれっぽっちもないが、手に入れてしまったのなら読んでも損はないだろう。

ジェームズ・ブリッシュ『暗黒大陸の怪異』(創元推理文庫)読了。ブリッシュは手を抜いた作品と本気の作品の落差の激しい作家だが、これは手抜きの方。手抜きの作品も楽しめる作家も中にはいるが、ブリッシュの場合本当に救いようが無くなるのだな。コンゴの奥地に住み着いたヤンキーが、悪いアラブ人やヨーロッパ人の魔の手から、アフリカの自然とか弱い原住民をまもるという内容で、1926年ではなく1962年刊行というあたりで駄目さ加減がまるわかり。SFマーク版は珍しいからとりあえず持っておくというような、コレクター趣味でもなければ手に入れる必要はないだろう。評価できる点はほとんど無いが、強いて言えばモケレ・ムベムベが出てくることか。

6月 3日
アシモフ『天狼星の侵略』(角川文庫)を読了。冒頭こそ「アシモフもさすがにジュブナイルだと活劇なのか」と感動させるが、中盤を過ぎるあたりからは完全にいつものアシモフ。特に、スペースオペラであるにもかかわらず、クライマックスが裁判というのはこの作者ならではだろう。また、活劇中心の前半はつまらなくて、なぞ解き中心の後半はまあまあというあたりも、どうにもアシモフ。人間、分を守って生きなさいということですね。
ところで、(1)ロボット3原則が存在し、(2)地球が相対的に強大な地位にあり、(3)地球人排斥の気運が高まりつつある、という設定を見ると、この小説はどうも<U.S.ロボット社>シリーズと<R.ダニール>シリーズの間を埋めるエピソードのようなんだけど、なんで正史には入らないんですかね?

モンティ・パイソンを一通り見る目処が立った記念に『モンティ・パイソン大全』を購入。ああ、面白そうだなあ『アンド・ナウ』

『モンティ・パイソン大全』購入記念に……、ではなく明日返さなきゃいけないので、『人生狂騒曲』を見る。思えばこれが人生最初のモンティ・パイソン体験だったのだなあ。
前回見たときもそう思ったが、どうもぱっとしない。「出産の奇蹟2 第三世界編」や「臓器移植」の歌劇はすばらしいし、クレオソートの爆発など秀逸なネタもあるのだが、どうもTVシリーズに比べるとインパクトが弱い。やはりギャグは長編に向かないのか。

6月 4日
近所の古本屋で、初刷りのハヤカワ文庫版『流れよわが涙、と警官は言った』を見かけたので購入。文庫SFのディックは全部生き残っているので本来は新刊で買うべきなのだが、データ取り用に初刷りが欲しかったので仕方が無い。
しかし、あれですね。早川の新分類番号って89年には既に始まってたんですね。てことは800番以降は背表紙の惑星マークを探しても無駄なわけだな。今の鮮やかな水色のデザインが嫌いなんで可能な限り惑星マークで揃えたいんだけどそれが出来るのは700番代半ばまでらしい。
などと考えているうちに、油断して文庫版『九百人のお祖母さん』帯付き初刷りも購入。『お祖母さん』なんて持ってないわけがないどころか、ノヴェルズ版も合わせると3冊目なのだが、帯の魅力に負けてしまった。だって、「買いなさい」って書いてあるし。まあ、僕が買うことによって読む権利を失う人が出る品切れ/絶版本ならともかく、新刊書店で売っている本は誰の迷惑にもならないんだから良しとしよう。

帰りがけに先週借りたビデオを返しに行くと、『ホーリーグレイル』が返却されていた。有無を言わさず速攻で借りることにする。

6月 5日
ボーっと眺めるうちに須田泰成『モンティ・パイソン大全』(洋泉社)を読了。さまざまな雑学を詰め込んだ良書ではあるのだが、水増しも多いのが玉に傷。「チャップマンがゲイ」だとか「パイソンズはオックスブリッジ出身」だとかいうネタを散々使いまわすので、読んでいるうちに飽きてしまう。また、ギリアムのアニメを逐一内容説明するパートも退屈。もっと絞って書いた方が面白くなったのでは。

『モンティ・パイソン&ホーリー・グレイル』を見る。膨らみすぎた期待ほどではなかったが概ね楽しめた。ただ、コメディとしてよりも、中世ヨーロッパ物の映画としての部分の方が面白かったが。純粋なコメディ/ギャグとしては一貫したストーリーとは縁の無い『ベスト・オブ・モンティ・パイソン』の方が遥かに出来が良い。個々のギャグのレベルは決して低くはないと思うのだが。ストーリーとギャグの融合はことほどさように難しい。

夕方からユタ。参加者は大森望、小浜徹也、雑破業、添野知生、高橋良平、林、藤元直樹、三村美衣(アイウエオ順、敬称略)。主な話題は、大森さんのアメリカ土産のスター・ウォーズグッズ。市販のオモチャはまだともかく、ペプシの空缶や空き瓶まで持ってきてしまうのはある種の人々の悲しい運命か。

あと、興味深かった話は和製異世界ファンタジーの現状。一時のブームがはじけて、現在は壊滅状態なんだそうな。隆盛の時代に異世界ファンタジーを離れた身にはにわかに信じがたい話だったので、思わずジャンル定義の確認をしてしまいましたが、ごく普通に考える「異世界ファンタジー」のことらしいんだな、これが。その道の専門家の話なんで事実なんだろうけど、いまいち実感が湧かないから、そのうち盛衰を表にしてみよう。

帰宅後、なぜかポータル三国志を一揃い持ち歩いている三村さんから買い求めた構築済みデック「魏」を眺める。マジックはルールの概要しか知らない僕が言うのもなんだが、かなり駄目な感じだ。デックの弱さ云々よりもゲームとしての魅力を感じない辺りが駄目。40枚もカードがあってキャラが二人しかいないってのは三国志じゃないよ。そもそもマジックで三国志をやろうってのが間違ってるんだな、きっと。

6月 6日
ふと思い立ってCD屋により、ヒカシュー『はなうたはじめ』とSHOGUN『ザ・ベスト SHOGUN』を購入。選択の理由は特に無いが、強いて言えばオーガスつながりか。

香川真澄・編『青の男たち 20世紀イタリア短篇選集』(新読書社)読了。カルヴィーノ、ブッツァーティ、ランドルフィという名前に惹かれて買った物だが残念ながら期待外れ。幻想性が薄い作品がほとんどで、『マルコポーロの見えない都市』の輝きも、『七人の使者』の不安感も、『カフカの父親』の違和感も感じることが出来なかった。文章自体は悪くない作品が多く、コントとしては良質だと思うのだが如何せん、読みたかったものではない。

書店で、RPGマガジンが近日中に正真正銘TCG雑誌になるという情報を得る。そうか。TACTICSを乗っ取り、シミュレーションボードゲームというジャンルを壊滅寸前にまで追い込んだRPGにもついに斜陽のときが来たか。諸行無常。歴史は繰り返す。

6月 7日
カート・ヴォネガット・ジュニア『プレイヤー・ピアノ』(ハヤカワ文庫SF)読了。ヴォネガットの作品とは信じられないくらいに真っ当なディストピア小説。ラストはさすがにヴォネガットだが。
きれいにまとまっているので貶す気にはならないが気に入らなかったので褒める気もしない。気弱な凡人が状況に流されるまま不幸になる話って苦手なんだよね。

先を読むのが辛いモードで読み進んだ中、面白かったのがこの作品のディストピア性。IQの高さだけで職業が決まるとか、徹底的な計画経済とか、凡人は生活用式を型にはめられるとかは誰にとっても悪い要素だろうけど、作中最も糾弾されるのはそれらではなくて、「大多数の人間が生産に携われないこと」なんだよね。完全な機械化による労働からの解放ってのは普通ユートピアの性質として描かれるものだろう。それを呪いと見破るあたりにヴォネガットのヴォネガットたる所以があるのかも。

6月 8日
フィリップ・K・ディック『流れよわが涙、と警官は言った』(ハヤカワ文庫SF)読了。何をいまさらと言う方もいるかもしれないが、それはぼくを甘く見ている。実は、『宇宙船ビーグル号』も、『スラン』も、『人間以上』も、『造物主の掟』も、ハインラインの<未来史>も読んだことがないのだ。いや、それどころか『アルジャーノンに花束を』『エンダーのゲーム』『夏への扉』さえも読んだことがないぞ。……自慢することじゃない。

それはそれとして『流れよわが涙』。種明かしはどうしても納得が行かないんだが、エピローグを読んでそんなことはどうでもよくなってしまった。
確かに、強引なオチがついてしまう不条理は今一つ楽しめなかった。愛についての御託も実感できなかった。涙を流すことの意義も理解出来たとは言い難い。しかし。
メアリー・アン・ドミニクの青磁の壷がそこにある事がわかっただけでも、この本を読んだ価値はあった。

6月 9日
サラ・チャンピオン編『ディスコ2000』を読了……できなかった。

しかたがないので、プロ野球の話題。1強5弱のセントラル、団子レースのパシフィックという図式はどこへやら。中日のとんでもない失速で、セントラルはあれよあれよというまに団子状態。なんと1位から6位まで3.5ゲーム差になっている。パシフィックが7ゲーム差だから状況がちょうど逆転したわけだ。
しかし中日は弱い。惜敗、惜敗、大勝、大敗、辛勝、惜敗なんて繰り返していちゃそりゃ貯金も減っていくだろう。最大12あった貯金があれよあれよという間に4になってるんだから酷いものだ。とても12球団最強の投手陣を擁するチームとは思えない。春の阪神、初夏の広島、夏の中日という伝統を思い起こせば、ペナント後半に向けて盛り返してくることは必至だろうが、ここでうまく立ち回れば中日を沈めることも可能な気がしてきた。困ったなあ、横浜の優勝もあるかもなんて夢を見てしまいそうではないか。
#無いって。

「十兵衛ちゃん」を見る。来週から第2部突入らしい(笑)。4クールか、せめて2クールのシリーズでこの展開なら許せるのだが、1クールでこれは幾らなんでも詰め込みすぎだろう。「宇宙海賊ミト」の時も思ったが、1クールという長さはTVアニメには向いてないのではないだろうか。

6月10日
辞書を引いていて、lesbianという単語が目に留まった。なんとなくその記述を読んでみると、一つ目の意味として「Lesbos島の」と記されている。
なぜ地名なんだ?気になったので周りの記述を見てみると、lesbianismの項に「=sapphism」とある。Sapphoという名前は聞いたことがある。確か、ギリシアの女性詩人だか哲学者だかだったはず。ってーわけでSapphoを引いてみると、「Lesbos島生まれ」で「女性への愛を綴った詩」が残っているとあった。なるほど、著名な同性愛女性の出生地から取った名詞(実際は形容詞にも使うんだが)というわけね。

これでレズビアンという名詞/形容詞の由来は分かった。そうなると、ホモの由来が気になってくる。「同じ」という意味の語から来てるんだろうけど、「ホモ・サピエンス」の「ホモ」とはどう違うのか。
結論は単純で、「同じ」という意味のhomoはギリシア語起源の接頭辞、「人」という意味のhomoはラテン語の名詞なんだとか。「同じ」の意味のhomoは本来ギリシア語系の単語だけを修飾するものらしいんで、中世英語、あるいはラテン語が起源のsexからできたhomosexualって単語は、不自然なものなんですね。

とりあえずホモもOKだ。しかし語源からするとこの言葉は男女どちらの同性愛者にも使える言葉のはず。となると、男性同性愛者だけをさす言葉も調べなければ片手落ちだろう。っつーわけでgayも引いてみる。
するといきなり「<男・女>が同性愛の」って、しまった男性だけを指す語ではなかったのか。じゃあ男性同性愛者だけを呼ぶ語はなんなのだろう。ちなみに、gayという言葉は「きらびやかな」という意味のフランス語起源なんだそうで。ふーん。

結局男性同性愛者のみを呼ぶ語はわからなかったんで調査は終了。普通の人には常識のようなことばかりなんだろうけど、個人的には(作業時間のわりには)達成感のある調査だった。で、得られた結論は……、lesbianって単語が一番知的かつ詩的な感じだね。

次回へ

このページのトップへ