過去の雑記 99年 9月

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9月21日
ふと思い立ってしまったので、『中間子』復刊3号を読む。メインのベイリー特集は、短篇3本に、未訳長篇ガイド、インタビューに、作家論に、ベイリーによる創作論まで収められているという翻訳ファンジンとしては必要にして充分な構成。さすがは京大SF研。

また困ったことに、85年のファンジンだというのに内容も新鮮。ベイリーインタビューなど、作品から伺われるベイリーの創作姿勢が生で語られており、実に興味深いものになっている。このレベルの特集を商業誌がやってくれれば、きっとベイリーが再ブレイクして10万部くらい売れるのに。

ただ、一つ残念なこともあった。
S-Fマガジン1989年7月号、僕が聖典として崇めるこの奇想SF特集号に、こんな一文が引用されている。
 しかしまた、ベイリーの魅力は、たとえば「大きな音」の中の、こんなフレーズにもあらわれる。
「聞こえないか?」
「なにが?」
「ロンドンさ」
 ――こんな台詞を書ける作家が他にいるだろうか?
これは美学である。
僕は、この文章を、世の中で2番目に美しい作家評として愛してきた。しかし、その出典とされる『中間子』復刊3号には、この文章は存在しなかったのだ。これには自身のSF観を根底から揺す振られる程の衝撃を受けた(ウソ)。

ただ、非常によく似た、こんな一文はあった。
 しかしまたベイリーの魅力は、ここに収録した短篇群の中の、例えば、こんなフレーズにも現れる。
 「きこえるかい?」
 「何が?」
 「ニューヨーク、さ」
 ――こんな台詞を描き出せる作家が他にいるだろうか?
 これは美学である。
やっぱりニューヨークロンドンは違うと思います、(K)さん。

9月22日
夕方からチェコアニメのCプログラムを見る。いや、危うく見に行くのを忘れるところだったよ。
内容は以下の通り。
  • ヴラディミール・イラーネク『グッドモーニング』
  • 『Pat&Mat』
    • 「パンク」
    • 「ビリヤード」
    • 「金庫」
    • 「模型」
    • 「ウィンドサーフィン」
  • イジー・バルタ『ゴーレム・パイロット版』
  • イジー・バルタ『手袋の失われた世界』
  • イジー・バルタ『最後の盗み』
イラーネク『グッドモーニング』は相変らず淡々とした描線の風刺アニメ。ちょっとわかりやすすぎるのが難。『Pat&Mat』は相変らずの安定したドタバタ。明確な型があるんで失敗はないけどさすがに初見の感動は薄れている。というわけで、期待はバルタだけだったんだけど、これがちょっとね。
『ゴーレム・パイロット版』にしろ、『最後の盗み』にしろ、美しく幻想的ではあるんだけど、シュヴァンクマイエルやトルンカを見たときのような驚きには欠けていて、今一つ入り込めなかった。確かに、『最後の盗み』もモノクロ撮影したフィルム50000枚を手で彩色したものという説明を聞かされれば感心するけど、その驚きがフィルム自体からは伝わってこないんだよね。バカな挑戦はそれ自体が偉大なのではなく、その馬鹿さ加減を見せつける技術が偉大なのだということを痛感しました。

帰りがけに『中間子』復刊3号のベイリー特集のうち、一本だけ読み残していた「外科医たち」を読む。なますにされた友人を手術してもらうため、超絶的外科技術を持つ謎の異星人のもとに赴くという序盤の辺りは典型的なコンタクトものの展開で、筒井かはたまたシェクリイかと読み進んでいたのだが、そのうちどうも読んだような気がし始めた。そして、異星人の居住地の描写が始まった辺りで確信。これは「ブレイン・レース」(SFM90年8月号)じゃないですか。いやぁ、これほどの傑作を忘れてしまっていたとは。バカSFの神様に申し訳のないことをしてしまった。
ところで、この短篇。原題をみると"SPORTING WITH CHILD"と書いてあるのだが、作中には子供なんてどこにも出てこない。bibliographyの方には、"Sporting with Chid"と書いてあるし、異星人の種族名がチッド(SFMではチド)であることから見てもChidが正しいんだろうと、自分のリストを見てみると、"Sporting with the Child"と書いてあったり。慌ててSFMをチェックしてみると、こちらも"Sporting with the Child"と書いてある。なんだかわからないときは、まずコンテントってわけで、Webでチェックして見たところ、"Sporting with the Chid"という記述が。とりあえず、コンテントを信じることにしてみましたがどんなもんでしょう。
注:SFM作品リストの方は現時点で未修正です。対応はもう少し先になります。

9月23日
山本正之移籍第1作「ザ・短編」を買ってくる。12cmCD1枚に99曲入っているというのも非常識だが、それで48分でしかないというのも非常識だ。
内容はまあ期待通り。タイトルが無いと面白くもなんともない曲があるのに、ライナーノートに曲タイトルの記載がないのはいかがなものかと思うが、全作歌詞が載っているだけでも褒めるべきという気もする。通して聞くのはやや辛いが、MD編集時には時間調整に最適の素材集なのでファンは買い。できるだけたくさん暗記しておくと、カラオケで次曲が出てこないときに間を持たせるのに便利だぞ。

9月25日
「何はともあれSFM」というわけで、SFM11月号を購入。『宇宙消失』とのタイアップ(うそ)、グレッグ・イーガン特集はちゃんと読む体力が回復するまで置くことにして、エッセイ、雑文の類を細々と読む。
巻末の執筆者紹介で、何の偶然か日下三蔵氏が先日の疑問について回答していた。疑問は1001篇達成の作品集とされる『どんぐり民話館』は星新一のショートショート1001作達成「前」の作品集ではないかというものだったのだが、『どんぐり民話館』は1001篇達成キャンペーンの一環として刊行されたものなので、同書で1001篇が達成されたという表現になったということのようだ。なるほど。

昼から定期券を買いに高田馬場へ。新宿書店で「黄金樹の守護者」を買おうとするが、箱が売り切れていたので果たせず。しかたがないので、芳林堂で『ファイナルジェンダー』上下、『幻想文学論序説』、『食卓の上のDNA』、『たれごよみ』、『蒼天航路』17、『宇宙家族 カールビンソン SC完全版』3、4、『マップス』1、2を購入。西葛西に戻った後、書泉西葛西で、「黄金樹の守護者」2箱、『てきぱきワーキン・ラブ』4を購入。やけ買いをしたのはいいが、肝心の定期を買うのを忘れているあたり、間が抜けているにも程がある。

さすがに再び高田馬場に戻る気力はなかったので、部屋に戻って「黄金樹の守護者」を整理。結局、超レア2、レア1、召喚術師10が欠けということになった。コンプリートへの意志を見事に挫く数ですね。おとなしく、デックでも考えていよう。

強い意志は失われたので、のんべんだらりと買ってきたマンガをチェック。

王欣太『蒼天航路』17(講談社モーニングKC)は、ついに諸葛亮登場。史実の事績などをみると官僚的才能に恵まれた実務派という印象があるのだが、ここでは奔放・奇矯な天才として描かれている。さすがに、このキャラで五丈原を描くのは少し無理がないか?まあ、作品の性質上、曹操の死後はどうでもいいという立場はありだと思うが。

竹本泉『てきぱきワーキン・ラブ』4(アスペクトコミックス)はかなり惰性。わりとレベルの高いネタもあるんだけど、作品世界に飲まれてしまっていて驚きが表面に浮かび上がってこないんだよね。より一層の奮起を期待したいところである、とか言ってみたり。

なにをかいまさらの長谷川裕一『マップス』1、2(学研NC)は無くなる前にと思って買ってみました。気づいたときには大長編だったので、手を出す勇気がなかったんだけど、今回読んでみていたく後悔しましたね。これは、ちゃんとリアルタイムで読んでおくべきでした。傑作。

昨日で緊張の糸が切れた西武が自滅。王者の強さで逆転勝ちをした福岡ダイエーホークスが、初の(球団として)、あるいは26年ぶりの(前身球団から数えて)、あるいは36年ぶりの(九州にフランチャイズを置く球団として)リーグ優勝を遂げた。これで、最も長くペナントから遠ざかっている球団は、25年間の千葉ロッテマリーンズとなった。横浜、福岡についで千葉が話題を攫えるか来期が楽しみ、って今期がこの程度じゃ難しいか。
ちなみに、最も長く日本シリーズ優勝から遠ざかっているチームは45年間の中日ドラゴンズ(*)。他のセントラル球団(横浜(1年)、ヤクルト(2年)、読売(5年)、阪神(14年)、広島(15年))に比べると段違いの長さだ。今年こそ、2度目の日本シリーズ制覇を達成できるか、興味は尽きないところですね。

*:大阪近鉄じゃないかと思う方もいるかもしれないが、それは間違い。大阪近鉄は一度も日本シリーズを制覇したことがないので、「遠ざかって」はいないのである。

9月26日
昨日に輪をかけて自堕落な一日。
8月分のハヤカワ文庫挟み込み広告を手に入れるために買った中村桂子『食卓の上のDNA』(ハヤカワ文庫NF)を読む。遺伝子組換食品、クローン技術、遺伝子治療、内分泌撹乱物質など分子生物周りの重要な話題についてわかりやすく語っている。が、わかりやすすぎるのか、社会への影響という力点が共有できなかったのか、残念ながら今一つピンと来なかった。やはり、挟み込み広告を手に入れるために本を買うってのはよくないね。

今さっき、思い出したのだが8月なら『邪神帝国』という手があったのだな。注釈のためだけでも買おうと思っていたのに。失敗。

ふと「マガジンZ」の最新号を見る。メディアミックス作品の多さには驚かされた。アニメのスピンオフはともかく、ゲームネタがこれほどあるとは。しかし、そのメディアミックス作品の品の無さというか、荒っぽさはさすが講談社。センスではなくパワーで押し切ろうとする、おたく文化とは根本のところで相容れない戦略が、ゲームというおたく文化の最先端のユーザーにどこまで受け入れられるか興味深いところである。
個人的には周囲から浮ききったところで連載されている「カスミ伝△」の行き着く先だけが楽しみだ。

9月27日
定期を買うため高田馬場で降りたついでに芳林堂によって長谷川裕一『マップス』3、4を購入。大失敗。
前巻までは巻の終りで話が一段落していたんで油断をしていたら、3巻から急に長いシーケンスに入るんでやんの。ああ、次に芳林堂へ行けるタイミングっていつだ?早く行かないと続きが気になってしょうがないぞ。
2巻まではまだ抑えていたのか、ちょっと良いかもという程度の展開だったが、3巻からはアクセル全開。無駄な話のでかさ、エスカレートする武器、宇宙の広がりを感じさせる描写、そしてなにより自由を希求する精神。これぞスペースオペラの精髄。いや、だからそんなことはどうでもいいから続きを買いに行かないと。

縁あって、「デビルマン・レディ」を途中から見る。どうも、ラス前か、その1個前辺りの話らしく、異様に盛り上がっている。なんかの間違いで面白かったりするんじゃないか、とも思ったが次回は放映時間帯が変わるらしいので多分見ない。

ついでに「宇宙海賊ミト2 二人の女王様」を見る。こちらもなんだか佳境に入っているらしい。残念ながら感情が爆発すると超能力が発動して万事解決モードに入ってしまったので評価は低い。こういう場面で、第1話からの伏線を活かして工夫で窮地を脱してしまう、キース・ローマーのような話は作れないもんなんすかね。

9月28日
明日の定時後に外せない用事が入ってしまい、予定が大幅に狂う。これでは、芳林堂に『マップス』を買いに行けないではないか。今週の作業予定では、他に『マップス』を売っている新刊書店に行くチャンスはない。しかし、だからと言って「六人の幽霊船編」の続きを週末まで我慢することなんてできやしない。となれば、方法は唯一つ。あの、禁断の店に行く他はあるまい……。

と、いうわけで夕方休みに近所の古本屋によって『マップス』5〜8巻を購入。作品の出来に敬意を表して新刊書店で揃えるつもりだったんだが、不可抗力なので仕方が無い。
ふと、気がつくと『燃えるV』の4巻を手にとっていたのも予定外だが、禁断の店によってしまった以上、仕方の無いところだろう。むしろ、被害を最小限に食い止めた自分を褒めてやりたいところだ。
しかし、姫宮アンシーにレジ打ちされたというのは、ちょっと痛恨。やっぱり、まんだらけは、スーツでよる店じゃないよなぁ。

9月29日
やっと、異形コレクション『トロピカル』(廣済堂文庫)読了。なんか、最近読書ペースが急落しているな。
途中までは、個々の作品の感想を(多少は)心に刻みながら読んでいたのだが、田中哲弥「猿駅」を読んだ瞬間、そんなもの空の彼方に吹っ飛んでしまった。いやもう、傑作とか愚作とかそんな下らない評価はどうでもよくなるほど変な作品。冒頭の、「無人の改札口を出ると、そこはもう一面の猿。」という一文を読んだ瞬間、負けたと思いましたね、ぼかぁ。

『マップス』5巻、「六人の幽霊船編」までを読む。良い。無茶な大嘘を勢いでごまかし、気迫だけで突き進むその構成は、まさに少年マンガの王道。また、気迫だけのようでいながら過去の伏線をちゃんと利用する辺りにも好感が持てる。こういった良質の連載マンガを読むと、「マンガは月刊に限る」という気がしてくるね。

9月30日
中日ドラゴンズが、11年ぶり5回目の優勝を遂げた。このチームは初優勝以来、経営母体も球団名もフランチャイズも変わっていないので、「11年ぶり」にも、「5回目」にも留保条件はつかない。
優勝を記念するゲームは正直かなり危なっかしい展開であったが、なんとか持ち直して、勝利した。岩瀬・落合・サムソン・宣を「常に」4枚とも投入するのは、不用意だから止めた方がいいとは思うけど、優勝決定おめでとうゲームだから仕方が無いか。
しかし、マジック対象チームが先に負けて試合中に優勝が決定していたり、試合が長引きすぎてスポーツニュースの扱いが小さくなったり、大事件の影に隠れてニュースの割当て時間が更に短くなったり、物語としては最低の盛り上がり。昨年の横浜のほぼ完璧な物語に比べると、哀しくなってしまうほど。つくづく物語性に欠けるチームだと思いましたね。94年の10.8に象徴されるように、敗北するときはかなり盛り上がるのに。根が脇役なんだろうな。

『マップス』5〜8巻を読む。「いつのまに出来たその設定!」という突っ込み所が無いわけではないが、有無をいわせぬ豪腕のおかげでほとんど気にならない。ただ、8巻で「青き円卓編」が始まってしまったのは少々驚いた。まだ、半分も来ていないはずなのに、この後どうやって展開するんだろう。

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