次の文章へ進む
前の文章へ戻る
「古典派からのメッセージ・2001年〜2002年編」目次へ戻る
表紙へ戻る

 

経営の未来を見誤るな

 

 このタイトルに、日本企業のあるべき姿を真摯に考察する本書の著者の意気込みが既によく表れている。著者の一橋大学教授・伊丹敬之氏は、米国流儀礼賛と追随を諌め、企業の依って立つ不変の「原理」と、環境変動に応じて変容させるべき「制度」をよく区別せよ、と説く。

 カネの力より人の力を重視する「人本主義」の「原理」を日本企業は変える必要は無い。むしろこれからの時代に「人本主義」はますます必要だ。ただし、情報技術革命、東アジアとの経済圏一体化、少子高齢化といった環境変動に応じて、事業戦略、組織、人事といった「制度」を大きく改変すべきだ、とも説く。具体的には「デジタル人本主義」に変わるべきであるという。

 ここでの「デジタル」という言葉は二つの意味を持つ。一つは、情報技術装備を充実させ、人本主義の強みである柔軟な人的ネットワークをより活性化させるような仕組みを作ること。もう一つは、白黒はっきりさせた数字に厳しい経営スタンスという意味でのデジタルである。「曖昧な方針、どんぶり勘定、どっちつかずの判断、甘い業績評価、個人の個性を埋没させるぼんやりとした全体指向、こういった要素が少ない経営」である。

 本書の視点の卓抜なところは、情報技術革命、東アジアとの経済圏一体化、少子高齢化といった環境変動を、危機としてだけでなく、日本の経済社会にプラスをもたらす要素として捉えていることである。我々日本人が陥りがちないたずらな悲観主義への諌めでもある。僕は、本書を読んでいて、アランの「悲観主義は気分に属し、楽観主義は意志に属する」という言葉を思い出した。

 社長や幹部社員の大幅若返りという著者のもう一つの主張にも僕は満腔から賛成である。

平成一三(二〇〇一)年八月五日