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「古典派からのメッセージ・2001年〜2002年編」目次へ戻る
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当行固有の企業価値を考える

 

 非中核業務の外部委託、特殊業務の専門家の中途採用、M&Aによる特定分野の売買―こうした手段は確かに経営の選択肢を増やし自由度を高めてくれる。しかしそれらの手段を駆使するだけで経営が発展するわけではなく、顧客や市場の支持を得られるわけではない。それらでは賄いきれない固有の企業価値こそ最も重要である。一見無駄と思われる企業理念や企業文化こそが、人々の注目を集めるユニークな個性を企業に授け、その結果、「高くても買う」という顧客の行動を喚起して企業に付加価値をもたらすのである。人について言えば、固有の企業価値への強い関与を明らかにした「中核社員」の「志」こそが、顧客や市場の中長期的な支持を得る源泉なのである。

 しからば当行の中核価値は何か。つまり「当行固有の企業価値」とは何であろうか。まず一つは、銀行の原点に還り、今日の日本の最大課題である事業創生・再生に資する金融活動を行うこと、つまり、「日本再生」のための供給サイドへの献身的な関与である。この当行固有の企業価値を実現するために、例えば組織名称も、新規事業部を「社内起業部」に、調査部を「新事業調査部」に象徴的に改称し、組織の役割を一層明確化すべきである。

 二つ目の当行固有の企業価値は、法人営業部門と広義の投資銀行部門との強力な連携と相互乗り入れである。縦割り組織の弊を破るこの営業形態でこそ、事業創生・再生をはじめとする真の課題解決型営業が可能である。

 三つ目の当行固有の企業価値は、スピード・機動力・効率性でナンバーワンの銀行であること。このヴァリューを実現するために、例えば、与信の意思決定機関であるクレジットコミッティは毎日開くべきである。これによって顧客への与信可否の回答が他社に比べて圧倒的に早くなる。

 四つ目の当行固有の企業価値は、三つ目と関連して、小規模で専門性の高い金融機関たること。巨大な百貨店ではなく、膨大な数の店舗を展開するコンビニでもなく、法人や富裕層相手の専門店こそが当行の企業イメージとしてふさわしい。ただし一方で、規模の小ささを補うため、案件ごと、プロジェクトごとに、機動力をフルに発揮してパートナーシップを組んでゆく。例えば、地域金融機関は、お互いに最も組みやすい良きパートナーである。

 五つ目の当行固有の企業価値は、四つ目のヴァリューである高い専門性と「心暖まる対応」「木目細やかなサービス」との両立である。専門性と人間的信頼性の両立は簡単なようで意外に難しいが、当行では実現可能な価値である。

 そして最後に、これらの当行固有の企業価値は資本の論理できびしく律せられていなければならない。こうした企業価値に賛同し、強い関与を約束してくれる中核社員をいかに育て守るか、これこそが人事の最大の課題であると考える。

平成一四(二〇〇二)年六月一六日