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「古典派からのメッセージ・2005年〜2006年」目次へ戻る
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大陸諸帝国の復活

 

 

本日の日本経済新聞に、大きな経済発展が見込まれる国々として、「BRICs」にトルコを加えるべきではないか、との論評が掲載されていた。そうなると、ブラジル以外のロシア、インド、中国、トルコは、いずれも、かつてユーラシア大陸で大勢力を誇った諸帝国の復活ということになる。すなわちロマノフ王朝のロシア帝国であり、ムガール帝国のインドであり、清朝の中国であり、オスマン・トルコ帝国である。英国・米国をはじめとする西欧諸国がこれら大陸型帝国を圧倒し支配してきたのが、近現代史だったわけだが、ここに来て歴史の歯車が少しづつ動きを変えているのかもしれない。

 

ところで、これら大陸諸国の経済発展には、膨大な資源とエネルギーが必要であり、自然環境の急激な劣化を伴う恐れがある。地球はこの巨大な負荷に耐え得るのだろうか。また、資源とエネルギーをめぐって、これら諸国に欧米諸国がからんだ「大争奪戦」が繰り広げられる可能性も否定できない。世界は再び荒々しい覇権争いの時代に突入するのだろうか。

 

今こそ、日本の江戸時代が創造した「有限の環境の中での共棲」という価値観を、人類は共有しなければならない。それを「布教」するのが現代日本の使命である。江戸期の共棲哲学を共有できずに世界が再び仁義無き覇権争いに陥った場合、日本が生き残れる可能性は低い。

 

 発展する「BRICs+T」諸国に対しての外交方針をしっかりと持っておくことも必要だ。ブラジル、インド、トルコは、日本と著しく利害が対立することは少ないだろう。それら三カ国はいずれも日本に対する感情も悪くない。ブラジル、インド、トルコとは、最優先で親密な関係を構築すべきである。ロシアは、日露戦争前後の侵略的なやり口や、第二次大戦で日ソ中立条約を一方的に破棄して終戦間際に満州に攻め入り多数の日本人をシベリアで強制労働させたり北方領土を占領したりした「火事場泥棒」的なやり口を考えると、全く油断のならない隣人と考えるべきである。相手に絶対に弱みを見せず、かつ、日本の得意な漫画やゲームなどの大衆文化でロシア国民の親日感情を醸成するなど、ロシアの侵略的・好戦的性格を骨抜きにする「洗脳計画」を立案し、実行しなければならない。

 

 最も厄介なのが共産中国である。第一に、この国は伝統的に日本の知識人が大好きだった歴代王朝とは全く異なる国だと知ることだ。共産党の支配する中国は、朝貢する「蛮人」を鷹揚な態度で振舞う「文明国」ではなく、好戦的で侵略的な国である。日本の領海内での天然ガス採掘を勝手に既成事実化したり、日本の領海内に潜水艦を侵入させるようなマネは、歴代王朝はしなかったのである(モンゴル人の元朝は例外)。最大限の警戒が必要である。第二に、そもそも日本は、聖徳太子が隋の煬帝に対等を宣言して以来、大陸国家とは距離を置いて付き合う外交方針を貫いてきたのだ。例外が秀吉の朝鮮征伐と明治後半以降の大陸進出であり、いずれも大失敗に終わっている。この歴史から私たちは学ぶべきである。「政冷経熱」でけっこうではないか。いや、財界人も、「十三億人市場」に幻惑されて大損害を出さぬよう、あまり熱しない程度につきあうべきであり、いやしくも貿易や投資を人質にとられて政治の足手まといになるような「のめり込み」は避けるべきである。第三に、情報統制のキツい共産中国ではなかなか難しいかもしれないが、ロシアと同じように、大衆レベルでの「日本文化」の浸透と洗脳のプログラムを策定し実施することが必要である。大衆に基礎を置いた政治的意思決定を余儀なくされる現代では、相手国の大衆を日本びいきにすることが重要な外交戦略である。文化も日本を守る武器だと知るべきである。

平成一七(二〇〇五)年一二月一三日