循環型エネルギーの可能性
人類が社会・経済を維持するためには、必要なエネルギー量を将来にわたって確保しつつ、大気汚染や地球温暖化をもたらさないように循環型エネルギーの比率を高めてゆかねばならない。現在さまざまな循環型エネルギーの開発が進められているが、既に実用化されている循環型エネルギーの例として、「太陽光発電」と「生物系廃棄物利用のバイオマス」が挙げられる。太陽光発電は、一九九〇年代半ばから、主に住宅用発電装置として実用化されている。一方、バイオマスとは生物から得られるエネルギーや資源のことで、今世紀に入って急速に実用化されつつある。政府も平成一五(二〇〇三)年に「バイオマス・ニッポン総合戦略」を開始した。バイオマスは、世界的には栽培された穀物を利用する方法もあるが、耕地の狭い日本では生物系廃棄物を利用する方法が現実的である。生物系廃棄物の種類としては、生ゴミ、食品加工廃棄物、廃木材、間伐材、屎尿汚泥、家畜排泄物、稲わら、もみ殻、廃畳材等々非常に多岐に亘る。生物系廃棄物を利用したバイオマスは、廃棄物処理とエネルギー入手を同時にできる一石二鳥の方法である。
「太陽光発電」と「生物系廃棄物利用のバイオマス」は、循環型エネルギーといっても性質はかなり異なる。これらふたつの循環型エネルギーを、資源の状況、技術の可能性、経済性、利用主体などの面で比較してみよう。まず、太陽光発電は、資源である太陽光は尽きること無く、かつ、化石エネルギーと異なって、大気汚染の原因である硫黄酸化物や窒素酸化物や地球温暖化の原因である二酸化炭素を排出しない。まさしくクリーンエネルギーである。ただし太陽光は総量は膨大だが地球全体にきわめて薄く拡散しているため、技術的にはエネルギー量を確保するのが困難であり、そのため経済性の点でも化石エネルギーや原子力と比べてきわめて不利である。現状の利用主体は自家発電の住宅用にほぼ限定されており、かつ、経済面での不利を補うために、太陽光発電装置を住宅に取り付ける利用者に政府が補助金を出している。しかし、太陽光発電の技術は着実に進歩しており、現在のシリコン系太陽電池よりも光の吸収効率が高く、製造コストも数分の一で済む化合物半導体などによる太陽電池の開発も進められている。こうした技術が実用化され経済性が改善されれば、太陽光発電装置は住宅のみならずオフィスビルにも一層普及するものと思われる。だが、太陽光や風力など自然エネルギーによる電力供給は、二〇一〇年においてようやく全電力需要の数パーセントをまかない得るに過ぎないと言われる。官民挙げて電力需要の一割を目指すなどの具体的目標と戦略が必要であろう。
一方、生物系廃棄物利用のバイオマスは、先ほど見たように、その資源の種類は多岐に亘り、量も非常に多いが、太陽光発電と異なり、その燃焼によって二酸化炭素を発生させる。しかし自然物利用のバイオマスは、京都議定書の二酸化炭素排出量の削減目標からは除外されている。生物系廃棄物利用のバイオマスは、熱分解やメタン発酵によって可燃性のガスにしたり、発酵させて液体燃料であるエタノールにするなど、多彩な技術が使われ、エネルギー量をまとめられる点で、太陽光発電よりも技術的な可能性は高い。利用主体も住宅に限定されることなく、不特定多数にエネルギーを供給するプラントとして機能し得る。エタノールにすれば自動車の燃料としても利用できる。しかしバイオマスは、資源である生物系廃棄物が非常にたくさんの場所で分散して発生するため、それを収集するコストが膨大であり、経済性では化石エネルギーや原子力に劣り、現状では補助金や税制優遇が必要である。しかし、技術的可能性が高く、廃棄物処理とエネルギー確保を同時に可能にするバイオマスは、循環型エネルギーの中の有望な方法のひとつである。
平成一八(二〇〇六)年五月三一日
〈参考にした文献〉
「技術社会関係論」森谷正規(放送大学教育振興会)