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「古典派からのメッセージ・2007年〜2008年」目次へ戻る
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「政策」の前に「戦略」を

 

 

石油などの天然資源とともに、近年、穀物などの食糧資源の価格も世界的に高騰している。これについて、農林漁業金融公庫総裁の高木勇樹氏(もと農林官僚)は、2007年12月20日付「日本経済新聞」において、「中国、インドなど成長著しい国々の今後の食糧事情を考えると、各国が進めようとしている農業の生産構造の改善が間に合うのかという問題がある。食糧の買い付けで日本は厳しい競争を迫られる。」と述べている。

 

今後の日本の食糧調達は大丈夫なのだろうか。高木氏は、「今のような米国依存がよいはずはなく、調達先を多様化する必要がある。政府開発援助(ODA)を使った投資も必要。日本に欠けているのは国としての戦略だ。カネさえあれば(食糧が)手に入る時代が長く続いたから深刻に考えてこなかった。食糧も資源のひとつとして、確保の戦略を早く立てないといけない。」と述べる。

 

もし日本の食糧戦略上、食糧自給率を高める必要があるとすれば、それにはどうすべきか。高木氏は、「自給率が低下したのは、食生活の洋風化に農業の衰退が加わったためだ。30年前に年11兆円あった農業生産額が8兆円強に減った。農業の衰退以外の何ものでもない。(中略)農地とヒトと経営構造の総合的な自給力を高める必要がある。耕作放棄地は農地面積の一割近くに上る。農業経営者を育てるための環境整備も何もない。定期借地のような農地利用の制度も盛り込んだ農業経営の一括支援法を整備すべきだ。」と言う。

 

食糧戦略と食糧政策は違う。厳しくなる国際環境に対応して、我が国は食糧調達をいかにすべきかを構想するのが「戦略」である。その戦略のもとで、食糧自給をどこまでいかにすべきかを考えるのは「政策」である。高木氏も述べるように、日本にまず必要なのは、「定期借地のような農地利用」といった食糧「政策」ではなく、その前提となる食糧「戦略」だ。「国益」「国民生活の安穏」という目的をしっかり意識して、外交・防衛・経済・通商・環境・科学技術など様々な側面を総合した「戦略」立案こそ必要である。政策は官僚にある程度任せてもいいが、戦略は政治の仕事であり、国民の課題である。

 

金融についても、農業と同様、戦略が必要だ。東京証券取引所の総合化といった「場の整備」は「政策」(手段)に過ぎない。それは何が目的なのか。イギリスの金融業の「ウィンブルドン化」は、金融で国富を支えるという「国家戦略」(それがイギリスに適しており、かつ、維持可能だという判断がある)に基づく「政策」である。日本がイギリスと同じ地政学的ないし軍事的条件を満たしているのか。他国がうまくやっているからウチも、という他者依存をやめ、日本らしい日本の金融を自分の頭を使って構想した方がいい。

 

平成二〇(二〇〇八)年一月三一日