ドストエフスキー読書日誌「罪と罰」(1/3)
【あらすじ】
【多面的な面白さ】
『罪と罰』は面白い。その面白さは、社会小説としても、心理小説としても、推理小説としても、恋愛小説としても、宗教小説としても、思想・哲学小説としても、或はこれら以外の読み方でも味わうことができる。小説としての面白さは、多くの人、とりわけ若い人を引き付ける。しかしここには、決して分かりやすいことが書かれているわけではない。小林秀雄の導きも得て、この人類史上指折りの偉大な小説から「人間とは何か」、「人間はいかに生きるべきか」を学んでゆくことにしよう。
【脇役たちも興味深い】
私は『罪と罰』の登場人物の中で、ラスコーリニコフの友人のラズミーヒンという青年が好きだ。ラズミーヒンもまた、ラスコーリニコフと同じように、大学からドロップアウトしかけた「時代の子」、十九世紀ロシアのインテリ青年であるが、複雑で陰のある他の登場人物たちとは異なり、正義感の強い義理人情に富んだ熱血漢である。彼は、気難しいラスコーリニコフの中に潜んでいる純粋さを強く感じ取り、それゆえ彼に惹かれ彼を懸命に支えようとする。やがてラズミーヒンはラスコーリニコフの薄幸な妹と結婚し、ラスコーリニコフの流刑地シベリアに新妻と二人で移住しようと決意する。この熱血漢が登場する場面は、波乱と陰惨の黒雲が漂う物語の中で、まるでそこだけ雲が途切れて陽の光が差し込んでくるような明るさを感じさせてくれる。
(続く)