次の文章へ進む
前の文章へ戻る
「古典派からのメッセージ・2009年〜2020年」目次へ戻る
表紙へ戻る

 

ドストエフスキー読書日誌「罪と罰」(1/3)

 

江川卓・訳(岩波文庫)

【あらすじ】

大学も辞め、ぎりぎりの貧乏暮らしをする青年ラスコーリニコフは、独自の犯罪観から、強欲な金貸しの老婆を殺害し、偶然居合わせたその義妹まで殺してしまう。殺人事件を起こしたことに苦悩するラスコーリニコフは、家族や友人にも警戒と不信を抱き続け、妹の結婚をめぐって一悶着起こし、捜査官と火花を散らす渡り合いを繰り広げる。しかし、家族を養うため娼婦に身をやつして惨憺たる生活を送る少女ソーニャの清らかな心に惹かれたラスコーリニコフは、やがて彼女に罪を告白する。

 

 

【多面的な面白さ】

『罪と罰』は面白い。その面白さは、社会小説としても、心理小説としても、推理小説としても、恋愛小説としても、宗教小説としても、思想・哲学小説としても、或はこれら以外の読み方でも味わうことができる。小説としての面白さは、多くの人、とりわけ若い人を引き付ける。しかしここには、決して分かりやすいことが書かれているわけではない。小林秀雄の導きも得て、この人類史上指折りの偉大な小説から「人間とは何か」、「人間はいかに生きるべきか」を学んでゆくことにしよう。

 

【脇役たちも興味深い】

私は『罪と罰』の登場人物の中で、ラスコーリニコフの友人のラズミーヒンという青年が好きだ。ラズミーヒンもまた、ラスコーリニコフと同じように、大学からドロップアウトしかけた「時代の子」、十九世紀ロシアのインテリ青年であるが、複雑で陰のある他の登場人物たちとは異なり、正義感の強い義理人情に富んだ熱血漢である。彼は、気難しいラスコーリニコフの中に潜んでいる純粋さを強く感じ取り、それゆえ彼に惹かれ彼を懸命に支えようとする。やがてラズミーヒンはラスコーリニコフの薄幸な妹と結婚し、ラスコーリニコフの流刑地シベリアに新妻と二人で移住しようと決意する。この熱血漢が登場する場面は、波乱と陰惨の黒雲が漂う物語の中で、まるでそこだけ雲が途切れて陽の光が差し込んでくるような明るさを感じさせてくれる。

(続く)