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竹山道雄氏の強さ

 

 竹山道雄氏が死去した。享年八〇歳。大阪に生まれ、大正一五年東大卒後、ドイツへ留学、昭和二四年に東大教養学部教授となり、同二六年退官。「失われた青春」「日本人と美」などの評論、ニーチェ、シュバイツアーの翻訳などがあるが、この人の名前はなんと言っても児童文学の傑作「ビルマの竪琴」で知られる。

 一貫して自由主義を通した人である。「ビルマの竪琴」に見られる戦争批判と、浮わついた「進歩派知識人」批判とは矛盾なぞするものではない。「強い精神」が如何に時流に惑わされないかを示したものだ。戦争や軍部に迎合した者たちこそ、戦後、手のひらを返したように、米軍や「民主主義」に迎合したのである。卑怯な精神とはいつもそういうものだ。竹山氏のような強い精神を持った人に、僕は心底から尊敬と親愛の情を抱くものである。

 僕は以前、映画「ビルマの竪琴」(日活、昭和三一年)を観たことがあるが、竹山氏の深い思想、人間観察、道徳観、正義感、太平洋戦争での軍部の愚かさ批判といった事どもが、童話の形に圧縮された見事なメッセージだった。

(一九八四年六月一六日)