郷土の偉大な先達
僕の郷土の先輩にも見るべき方々がたくさんいらっしゃる。石田茂作氏や大隅健一郎氏といった、三河の偉大な先達、泥臭いが篤実で明るい学者こそ、我があるべき精神のポジションを考える上で大いに手本になる。
石田茂作氏は、法隆寺再建説や正倉院御物の研究などで昭和四九年に文化功労賞を受賞された仏教考古学者である。朝鮮半島も含めた各地の寺院を丹念にフィールドワークした地道な実証主義の学風の方である。我が出身高校の学校誌に、石田氏へのインタビューが掲載されたことがあったが、今読みかえしてみると、実に開拓者精神と明るさに満ちているのに驚いた。故郷の同志と郷土史の研究もされており、孤高の学者などではない。
大隅健一郎氏は、京都大学法学部教授で商法の権威。最高裁判所の判事も歴任されている。ある時僕は、大学OB会に出席し、高校の大先輩でもある大隅先生に挨拶したことがある。孔子の如く慈愛あふれた様子で弟子たちに見(まみ)える姿、三河学者の大成した姿に、僕は、懐かしいような、心を癒してくれるような、何か涙の出そうな不思議な感動がこみあげてきた。僕がM先生のゼミ生であることを申し上げると、M君の弟子ならボクの孫弟子か、などと話しかけていただいた。この人も決して孤高の学者などではなく、精神的にしっかりと故郷三河に根を持ち、自然に弟子が集まってくるような徳ある人だ。「徳、孤ならず」(論語)は真実である。
(一九八四年七月六日)