金沢の工芸品、いろいろあるが、その一つは金箔である。金を薄く伸ばして箔にしたもの、このほとんどが金沢で作成されている。金箔を使った工芸作品は数多く、またおみやげ物なども金沢のあちこちで売られている。なので、金箔で凧を作ると非常に金沢らしい凧になるかな、と思った。

しかし、実は金箔は凧向きではない。凧は透過光で見るもの、である。だから顔料で絵を描くと黒っぽくくすんで見える。染料で書くと空で光を通し、鮮やかな色になる。金箔のような金属、これは光を通さない(正確に言うと、金箔は非常に薄いのでわずかだけど光を通す)ので空では真っ黒になると思う。凧絵向きではない。しかし、地上で見るには派手でよさそうな気がする。ということで素材を探してみた。
方法として、2つ見つかった。一つが金屏風用の素材を使う方法、もう一つは普通に作る凧に金箔を貼る方法である。それぞれ作ってみた。


■金屏風用の素材による凧

金箔凧を作ろうとして、まず金箔工芸品を製造販売している店で聞いてみた。そこで教えてもらったのが金屏風用の素材である。この多くは正確には金ではなく洋金、つまり真鍮なのだが金屏風用なので金と同じような色、光沢である。洋金とはいえ業務用なので結構高い。幸い、60cm×95cmほどの半端があったのでサンプル代わりにこれを売ってもらった。
この素材、色は良いものの非常に重い。面積と重さを量ってみればよいのだが正確な計りが手元にないので簡易的な方法で調べてみた。水平にしてそっと落とす方法である。面積の割りに重いと落下が早くなる。コピー用紙を3枚重ねた場合の翼面荷重が0.2Kg/m2になる。それ以上の速さであった。つまり、紙としての重さが上限を超えていることを示している。凧にするには骨が要るが、その余裕が全くないのである。そこで切り抜いて軽くして薄い紙を貼る、というアイデアが出てきた。ではどのような図柄がよいか・・・というところで止まってしまった。

ここで半年後に不意に別の金箔工芸店からメールが来た。金箔を生かした凧が作れないかということであった。私の凧は主にリップストップ。穴の大きく開いた凧が多いが、これが気になったようだ。早速リップトップなどを持参して店に行った。試してみるとリップストップに糊を塗って金箔が貼れることが確認できた。しかし、工芸品として売れる凧、としてはちょっと難しい。引き続きいろいろと話をし、金屏風の素材も出てきた。既にサンプルを入手し、そのままでは重過ぎて揚らないことを説明した。凧にする方法として、切り抜いて薄い紙を貼る方法を提案した。この話、和凧で実績のあるHさんが作ったのだが、レーザーカッティングで穴あけした素材を使い、骨は煤竹とすばらしい作品であった。が、裏に貼る紙が重いからか上がりは厳しかった。もっとも、この高価な凧を買った人が揚げるとは思えないが・・・。
この凧がきっかけになり、私も作らなくては・・・と、風神デザインで作り始めた。最初、全体に丸い小穴を空けて絵柄を作ろうとして始めたけどこれが意外と大変だった。ハトメを使ったが紙は開けにくく、しかも手芸店で売っているハトメでは刃が立たなかった。ちゃんとした工具として売っている物でもこの紙に対しては切れ味はいまひとつでちょっと切れ味が落ちるとしわが寄ったり端が崩れたりした。穴あけ、砥石で何度も研ぎながら繰り返した。しかし、この方法では表現に限界があるので、残りの部分は切り絵で作った。これは美術用のカッタを使うときれいに切断できた。鋭い刃先で鉛筆より少し太いくらいの軸につける。これを回しながら切ると曲線も滑らかに切れる。

切り抜きの次は裏の紙張りである。手元に非常に薄い二俣の和紙があった。風は多少通るけど十分凧になる。心配したのは接着の弱さ。工芸店で試作した凧は剥がれやすくて困ったそうだ。今回使った糊はスプレー式の合成糊。スプレー式はしわになりにくいし、塗るにも楽である。他に、木工用接着剤を薄めて使うことも考えたが、これは圧着が必要。おそらく・・・この和紙では糊が抜けると思うので、圧着の際に裏の別のものと張り付いてしまわないかと心配して、まずスプレー糊を使った。
スプレー糊、まず金箔紙の裏の端、1/5位にスプレーし、和紙を貼った。結構強力で張り付いてくれたが、予想通り和紙を抜けて染み出してしまった。和紙を手で押さえると手に抜けて糊でべとべとする。それでも全体を押さえ、次の部分をスプレーして押さえ、を繰り返して全体を張った。とりあえず接着完了。もう一つの心配、金箔紙自体が張り付くことであったが、これも何とか剥がれた。
ここまでは順調・・・。が、糊が乾かない。1時間経過してもべとべとする。こういう使い方までは想定していないのだろう。隅にアイロンをかけるとほぼ乾いたが今度は糊がアイロンにくっついた。(幸い、アイロンはテフロン加工で拭けば取れた) ならばドライヤーで、と思ったけれど気持ち乾いたかな・・・と思う程度であった。糊、3週間たっても湿っていて乾ききっていないような感じであった。
次は骨。これはカーボンを使った。太さ、1.5mmか2mmか? 1.5mmでは細いかな・・・と思うが逆に2mmでは重いかも? ここで紙の上に2mmカーボンを載せ、その状態で落下速度を見てみた。意外とゆっくりなので2mmにした。骨は縦方向に3本、横方向に4本。最小限の本数を張った。紙が弱いので骨同士も糸で固定しておいた。糸目は、紙にあまり穴を開けたくなかったので3本糸目にした。このためか、素材のためか、安定は若干たりなかった。普通の風では大丈夫だが、強風では時々頭を突っ込むような動きを見せる。ちょっと残念である。
見た目、揚げてみると意外と金色に見える。切り絵もよく見える。思った以上の効果である。大門の大会で上げたところ、一般の人にも非常に受けがよかった。やはり目立つからだろう。

デザイン、ちょっと不満なところもあるのと、もう一回り大きくしたいこともあり、あたらに1枚、注文した。価格は約1万円。非常に高価ではあるが、幅60cmの凧が3つ作れると思えばまあまあかもしれない。骨は今度は光が透けやすいグラスファイバにする予定である。
ただ・・・非常に薄い和紙、これは地元の二俣の和紙だけど、もう売っていなかった。別の和紙でこれだけ薄いものは・・・。ちょっと難しいかも?


■リップストップの金箔貼り

金屏風凧の素材の凧の後に作り始め、実は先に出来たのが金箔貼りの凧である。私の最初の干支凧、雪うさぎである。
雪うさぎ、白い雪玉に赤い木の実と緑の葉でつくったものである。だからベースは白になる、でも、思い切って黒で作ってみた。その方が箔の色合いが目立つかな、と思ってのことである。箔には金(純度各種)の他に銀やアルミ、銅などがある。更に銀に着色したものもあり、赤や青、緑など数多くの色がある。雪ウサギということで目と耳に赤と緑である。これに、輪郭としての白となる。白は銀で良いのだが、ここはやはり金にしたかった。金の方が張りやすいのと、目と耳が着色銀箔なのでここも銀だと”銀箔凧”になってしまう。だけど金を使っていれば”金箔凧”と堂々と言うことができる。白っぽい色は、銀の他にホワイトゴールドと白金(プラチナ)がある。プラチナは10枚で4千円以上になり、少々高すぎる。ホワイトゴールドなら1600円位なので手ごろである。ホワイトゴールドというのは、金のほかに銀など白っぽい金属を混ぜたものである。金、たとえば18金などと呼ばれる装飾用のものは、金のほかに銅などを混ぜて金色を保つのだが、ホワイトゴールドはあえて白っぽい色にしたものである。ちょっと暖かみのある銀色になる。

金箔を張る作業、これはそんなに難しいものではない。素材に箔用の糊を塗り、その上に箔を載せて接着、糊以外についた箔を刷毛などで落とせばよい。糊は型紙などで形どおりに塗ればその形に箔が残る。糊を正確に貼るため、型紙でもよいかと思ったが、隙間からはみ出しやすかったのでマスキングテープを使った。型、一回限りで硬い素材なら直接マスキングテープを張ってカッターで切ってゆけばよい。が、凧の場合、これでは布が切れて穴が開いてしまう。だから、別の板の上で形を作り、それを一度はがして凧に張ることにした。ちょっと面倒でしわも寄りやすい。しわになるとそこから糊が広がって余計なところに箔が付いてしまう。これはテープの種類も変え何度も練習した上で行なった。

糊を塗った上で箔を載せる。本職はそのまま箔を載せるのだが、初心者にはきつい。”箔写し紙”というのがあって、これを使うと箔が紙にくっついて転写しやすくなる。また、箔を載せて紙ごと切ることもできる。紙代がかかるが、より高価な箔の無駄が少なくなる。初心者の私は迷わず使った。
金箔で一度箔貼り練習。そして本番。刷毛で金箔を剥がしたところ・・・余分なところにもずいぶんと箔が残ってしまった。これはマスキングにつかったテープの糊がわずかに残りそこに箔が張り付いてしまったためである。銀は比較的厚いからかそういうことはなかったのだが、金は余分に残りやすかった。多少ならばこれも模様としてよいが、多すぎる。これは消しゴムで落ちてくれた。金箔を消しゴムで落とす、なんて贅沢なこと、と思いながら作業した。刷毛でも消しゴムでも余分な部分を落とすに変わりないし、捨てることにも違いはないのだが・・・。
この上から保護のスプレーをかけ、雪ウサギは完了した。
光る箔、これは他の画材では出せない色である。近くで見るとものすごく美しい。

箔、この凧を作った後、多少あちこちに散らばってのこった。特に洗面台、手を洗った際に赤い銀箔の小さな破片がくっついた。丁度明かりできらりと光る位置。ちょっと贅沢な気持ちなった。次の掃除までのささやかな贅沢だが・・・。



金箔凧、2種類作ったが、目立つのはやはり大きな金屏風素材を使った凧だろう。同じように60cm×90cmの和紙に全面に箔を貼ると、1万円を超えてしまう。いずれ作りたい気持ちもあるが、相当な思いっきりが必要だろう。
一方、金箔をワンポイント的に少量使うのは時には効果的だと思う。これは今後も使いたいと考えている。
また、箔を使わない切り絵も凧の表現として面白いと思う。凧は空に揚げるから透過光で見る。だから、切り絵も表現としては適していると思う。これも今後使いたい表現方法である。わずかな着色も効果的だろう。ただ、光を通さない紙は重い。更に紙2重3重にを貼ると重量面での制約は更に大きい。いっそのこと、遮光材料として金属箔を使うもの良いかもしれない。銀ならば安い。これもまた贅沢な使い方であるが・・・。

金の凧、作成記