テーマパークの怪談話 ホーンテッドレジデンス(創作)

私の創作です。キャストさんとの雑談、常連さんとの話などで思いついたもので、決して実際の出来事ではありません。フィクションとしてお読みください。ディズニーランドのホーンテッドマンションをベースにしています。


私がホーンテッドレジデンスに乗るのは、大抵平日の夜、それも空いているときだけだ。3人乗り(実質2人乗り)のライドで回る、一種のお化け屋敷となる。が、それほど怖いわけでもない。

これは7月の初め頃の出来事である。夜、会社帰りにディズニーシーの後に行ったので21:30頃だった。待ち時間の表示は13分。ちょっと長く思えるが平日の夜だと実際にはそれ以下になることが多い。建物の入り口まで誰も見えない。そうなるとこの雰囲気がちょっと怖く思える。以前、数組が待っているところに私が後から行くとちょっと驚かれたこともあった。今回も扉の前で待っている人がいたが私が着いたときに丁度扉が開いたので実質ゼロ分だった。
入ったところで扉が閉まる。きしんだ音が聞こえたけどこれも演出だろうか? 最初の部屋で徐々に骸骨に変わる肖像画の部屋、その次は伸びる部屋。続いて乗り場に向かう。
乗り場に向かう際、ちょっとゆっくりしていたら最後になった。実はこれは良くあることである。元々空いているのだし、急ぐこともない。ゆっくりと乗り場の列に並ぶ。混んでいると乗り終わる前に次のお客が来るのだが今回はその様子はない。列もはけてあと数台分? そう思って次々に来るライドをなにげなく見ると白い影が乗っているように見えた。よく見ないと分からない。奥側席になんとなく人が座っているようにも見える。 あと3組? どうも私の乗る場所のようだ。と思っていたら1台ずれた。カップル、と思っていたのが1人+1人だったのだ。そうすると前の親子に・・・と思っていたらいつの間にか白い影も1台後ろになっている。私が目当てなのだろうか? それとも単純に前が2人で乗れないから? と思っているうちに順番が来た。
乗るべきかそれともやめるか? 迷っているうちにそのまま誘われるように乗ってしまった。不思議と怖さは感じなかった。私が目当てなら、1台遅らせても乗ってくるに違いない。そう思ってそのまま乗ることにした。
が・・・いざ乗り込むとなると緊張する。近くでは白い影はほとんど見えない。ここがさっきの場所よりちょっと明るいからかもしれない。慎重に手前に、そして奥にはみ出さないように乗り込む。ホーンテッドレジデンスのライド、3人まで乗れることになっているからそんなに狭くないはずのだが、右腕にやわらかい感触がある。もちろん押し返すわけにも行かない。回転するように揺れたとき、支えられるように感じた。おもわず“ごめん”と声を出してしまう。
“気にしなくていいのよ”
声ではない。頭にいきなり女性の声が浮かんだのである。若い女性でやや低めでちょっと知的に感じる声である。
“知的な声? 嬉しいわ”
思っていることが分かってしまうのか?
“焦らなくても大丈夫。普段は強く思ったことしか読まないから。話すつもりで思ったことしか分からない、ってことよ。”
読もうと思えば何でも分かるのだろうか。
“その気になればある程度は分かるわ。でも、そんなことはしないから。あ、あなたがアリエルから投げキッスされて舞いがったことは内緒にしておくわ”
考えてもいないことをいきなり言われて慌ててしまった。
“これはあなたの気持ちを読んだわけじゃないの。でもこの前そうだったでしょう?”
マーメイドロックシアターでの出来事が思い浮かんだ
“あのときの声、あなただったの!”
そういえばちょっと低めだけどかわいい声だった。これも読まれているかな、と思ったけど反応はなかった。“かわいい”よりも“知的”の方が嬉しいのだろうか? あれから半年ほど。マーメイドロックシアターには頻繁に行くようになって、そのおかげでアリエル役何人か覚えてもらえた。

ライドは長く続く廊下を過ぎる。
いつの間にか彼女との会話を楽しんでいるようにも思える。彼女の話では、舞浜リゾートにはいわゆる幽霊は相当いるのだそうだ。幽霊、生前に思いが強かったところに行くことが多いそうで、思い出深い舞浜リゾートはどうしても多く集まるのだそうだ。死んだ場所も思い出深い場所に当てはまるのかな? と思うと“思い出とはちょっと違うけど、そう。”と帰ってきた。
だけど、良い思い出の場所として集まるので幽霊たちも悪さをすることなどなく、幽霊自身がパークを楽しんでいるのだそうだ。だから滅多に人に見られることはなく、ごくごくたまに勘のよいキャストさんに見つかる程度とのことである。たしかに幽霊が見える場所として有名になると、幽霊たち自身が楽しめないかもしれない。

ライドは坂を下りるために逆向きになる。ここでは外はあまり見えなくなってしまう。ちらりと右を見る。ここは暗いからか横顔がぼんやりと見える。あんまり見てはいけない気持ちになる。でも綺麗な横顔、と思う。これも反応はなかった。
幽霊たちが姿を見せないのは分かる。でもなぜ私の前には何回も出てくるのだろうか?
“そう、あなたは数少ない例外ね。あれからマーメイドロックシアター、楽しんでいるでしょう?”
それはその通りである。その意味では感謝している。でも他の幽霊は? インジャンジョー島の親子は?
“あの親子もあなたが気に入ったみたいね。でも大丈夫。ここには何万という幽霊たちがいるけど、みんな何もしないから。”
それでももしもと言うことが・・・?
“そのときは私が守ってあげる。パークの中ならね。”そんなことができるのかな? と思えるが信じるしかない。

いつの間にかホーンテッドレジデンスが終わってしまうタイミングになった。会話(?)ばかりしていたような気がする。でもなんでここまで話してくれるのかな?
“あなたが気に入ったから。それに、私より前にあの親子が姿を見せているでしょう? あの親子のこと、気になっていたんじゃない?”
それでか・・・。あの親子のことも知りたいな。
“それはまた次のときね”

さてこの先、鏡がある。ゴーストがこのライドに乗り込んでくるシーンである。とすると姿が見える? 横顔は素敵だけどどんな人なのだろう。
だけど、そう思ってしまったから心を読まれてしまったようだ。
“素敵と思ってくれてありがとう。でも残念だけど今日はここまでね”
“大丈夫。近くにいてぼんやりとでも姿が見えないと気持ちは読めないから”

なら安心? それはさておき、また話せるといいな、そう思ったときはもう隣にはいなかった。正面の鏡には私といつものゴーストが映っているだけである。確かにさっき“今日はここまで”と言ったはずだ。ということは次もある? ライドのすぐ近くに白い影が鏡でちらりと見え、
“また今度ね!”
明るくちょっと低い声が聞こえた。横を向いたのか、ポニーテールらしい髪が見えた。
ポニーテール・・・スター・マウンテンで感じた髪もあの娘だったのか・・・。だとすると結構付きまとわれていることになるな・・・

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