Northwind Passage - 北風紀行 - (part-3)

北へ! - 宗谷本線 -

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稚内桟橋・防波ドーム

日本最北の鉄路、宗谷本線が全通したのは1926年 (稚内へ先に通じたのは旧天北線ルート・1922年)、戦前は稚内港の桟橋まで線路が延び、樺太(現サハリン)への連絡船(稚泊航路)に接続していた。途中名寄から名寄本線、美深(びふか)から美幸(びこう)線、音威子府(おといねっぷ)・南稚内から天北(てんぽく)線、幌延(ほろのべ)羽幌(はぼろ)線を分岐する、道北の一大幹線であった。しかしこれらは特定地方交通線となってすべて廃止、名寄で接続する深名(しんめい)線も1995年に消えた結果、現在の宗谷本線は起点から3.7kmの新旭川で石北本線を分岐した後、延々250kmにわたって接続路線がない。こんなに長い盲腸もないものだが、行き止まりの「盲腸線」みたいになっている。



札幌 8:30-(3031D:スーパー宗谷1号)-13:28 稚内
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5月4日。2日前より曇っている札幌駅からふたたび出発。〔オホーツク〕の経験から、1本前の〔スーパーホワイトアロー〕出発のころホームに出る。はたして2両増結で同じ程度に自由席を埋めた〔スーパー宗谷1号〕は同じように岩見沢、旭川と乗客を減らす。きっぷの中に「旭山動物園往復…」の文字がちらりと見えた。きょうは休日、いまや知名度・実績ともに全国一となった旭山動物園へ訪れる人も多いようだ。

新旭川でこんどは分岐を左側に進む。また「鹿が出没しております……」のアナウンスとともに、空気ばね制御の車体傾斜装置を持つ "Tilt261" こと261系気動車は、名寄まで最高130km/hですっ飛ばす。比布(ぴっぷ)をあっという間に通過して、塩狩峠にさしかかった。前後端には立席だが眺望のきく貫通路があり、保守作業員の線路見張りに良く使われるし、またカメラを構える乗客も多い。「後展望」を求めデッキに出ると、「前のほうがよく見えますよ」と車掌氏。

「鹿も出る。石北(本線)より出る」

「年中出るんですか?」

「冬とかは、足跡が残るからよくわかるね」

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標高が少し高ければまだ雪が残る
(咲来-音威子府)

エゾシカは〔オホーツク〕の石北越え中にも一頭見たし、線路内に入り込むのも釧網(せんもう)・根室本線に乗った冬に身をもって体感した。そりゃもう、出るときはすごいものである。しかし、あちらは75km/hの普通列車(それでも全国一衝突件数が多いのだそうで)、こちらはその倍近くだから、侵入を発見した瞬間に非常ブレーキをかけたとしても停まりきれないだろう。しかも、彼らは線路上を列車の進行方向に逃げようとするのだ。

「体が大きいからねえ。跳ね飛ばすんならまだしも、巻き込んじゃうと」

「……」

「あの角が引っかかっちゃったりするとね」

「…………」

そんな光景には出くわしたくないものだが、幸いこの日も含めて線路上に侵入して急ブレーキ、ということはなかった。ぐずつきぎみだった空はいよいよ暗く、名寄を過ぎたころ水滴が窓ガラスに流れ始めた。この先、線路は天塩(てしお)川のゆっくりした流れと、それが造った三日月湖を車窓左に走っていく。


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ふと気づくと、前方の空がわずかに青くなっている。幌延に近づくころにはすっかり陽射しも回復し、左前方に雪を抱いた山が見えてきた。利尻富士だ。はるかな線路をたどって、とうとうここまで来たんだな、としばし感慨にひたった。

未乗線区の走破では、行き帰りにずっと鉄道(JR線)を使ってきた。たとえ目的地が南九州や道東であっても。行き帰りのルートを工夫することで未乗線区を走破し、途中下車もできるというのが、その主な理由だった。今回はさすがに航空機の利用を真剣に検討したが、比較検討してあまりメリットがなさそうなこと、そしてここまでの経緯に気づいたため、東京から陸路 ここまで延べ2,000kmを駆けてきたのだった。帰るのは〔北斗星〕だが、これはもう惰性であるとしか。

幌延、豊富(とよとみ)を過ぎ、サロベツ原野を駆け抜けた〔スーパー宗谷〕はいよいよ最終区間にかかる。向かう小高い丘はクマザサや枯木色の潅木で覆いつくされ、春まだ遠い「最果ての地」に来たことを実感させてくれる。

すっかり雲に隠れてしまったが利尻富士を眺められる西海岸から丘陵東側の市街地に降り、南稚内に停車。市中心部への客を降ろした列車は軽くエンジンをふかして発車。日本最北の高架橋、最北の踏切を通過して、「日本最北端の駅」の塔が立つプラットホームへ。いつも通りという感じで、列車は足を止めた。13時28分――最北の駅で、JR線19844.0kmの走破が終わった。

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最北に到達 長い道のりの果てに


稚内 13:45=(宗谷バス)=14:31 宗谷岬

稚内駅そばのバスターミナルから1時間弱、「日本最北端の碑」が見える最北のバス停、宗谷岬に着いた。

陽射しが再び雲に遮られ、風が冷えてくる。かすかにサハリンの島影が望めた。

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宗谷岬