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メトロポリタン歌劇場の「ヘンゼルとグレーテル」  (2004.1.12)

歌劇「ヘンゼルとグレーテル」は、グリムの童話をもとにエンゲルベルト・フンパーディンクが19世紀後半に作ったオペラですが、ワーグナーの影響が強く見られ、子供向けとはいえ、大人でも楽しめる不朽の名作です。 このオペラには名盤の誉れ高いレコードがあります。アンネリーゼ・ローテンベルガーのグレーテル、インムガルト・ゼーフリートのヘンデル、アンドレ・クリュイタンス指揮ウィーンフィルハーモニー管弦楽団によるLPレコードです。1960年代の録音ですから最近のデジタル録音に比べればはるかに音質は及びませんが、キャスティングの素晴らしさと、はったりのないクリュイタンスの棒さばきで、おそらくこのオペラにこれ以上のレコードは無いだろうと思わせるほど心温まる見事な演奏です。【クリュイタンス盤のジャケット】
 
さて、映像ですと、私の持っているものは、グルベローヴァ(グレーテル)/ファスベンダー(ヘンゼル)/ショルティ(指揮)ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団 のもの、マリン・ハルテリウス(グレーテル)/ニキテアヌ(ヘンゼル)/ヴェルザー=メスト(指揮)チューリッヒ歌劇場管弦楽団のもの、 白木美貴子(グレーテル)/吉岡小鼓音(ヘンゼル)/冨田薫(指揮)シンセサイザーの伴奏のものと、このトーマス・フルトン(指揮)のメトロポリタン歌劇場の演奏のレーザーディスクです。ショルティ盤とメスト盤は原作のドイツ語、冨田盤は日本語、このメトポリタン盤は英語です。
 
原作のドイツ語盤を聞きなれていると、この英語翻訳盤はチョット異質に聞こえます。それと、レコードのクリュイタンス盤と比べるとやや演奏の完成度では物足りない点もあるような気がします。しかし、夢のある豪華な舞台装置にはうっとりですし、アメリカの演奏らしく、ミュージカルを見ているような楽しさがあります。良い意味でオペラという概念を破った演出と言えるかもしれません。主役のブレーゲン(グレーテル)とフォン・シュターデ(ヘンゼル)は歌唱、演技とも、見事で、1幕終わりの二重唱は本当に可愛らしくとても良い雰囲気でした。
おとぎの国に迷い込んだヘンゼルとグレーテルが繰り広げる夢いっぱいのこのメルヘン・オペラ。フンパーディンクはワーグナーの影響を強く受けていながら、ワーグナーにはない軽やかなメロディーがとても印象的です。2幕の終わりで天使が降り立って眠りについたヘンゼルとグレーテルを取り巻くシーンは特に際立っています。このシーンにはしばしばバレエが取り入れられますが、このメトロポリタン歌劇場の演出にはバレエはありませんでした。でも、もともとオーケストラ演奏だけでも独立して取り上げられるほど美しい旋律、そのメロディーにのって天使たちはゆっくりとしたマイムの動き、とても幻想的で美しいものでした。メリハリの利いたトーマス・フルトンの指揮もオペラの骨格を鮮明に伝えてくれますし、ヘンゼルとグレーテルが魔女をやっつけたところから終盤への盛り上がりは素晴らしいものがあり、英語の翻訳版ということを忘れてしまうほど、とても楽しめる一枚です。

   ジュディス・ブレーゲン(グレーテル)
   フレデリカ・フォン・シュターデ(ヘンゼル)
   ロザリンド・イライアス(魔女)、ダイアン・キースキング(眠りの精)
   トーマス・フルトン(指揮)、メトロポリタン歌劇場管弦楽団
   1982年、ニューヨーク・メトロポリタン歌劇場

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