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トゥシューズが一日でダメに?、若手のホープ上野水香さん (2002.4.14)

「情熱大陸」という番組のビデオテープがあります。上野水香さんの特集で、 ビデオのケースには、2000年9月24日となっています。キャビネットの端に眠っていたのですが、ふと取り出して見ましたが、とても面白かったので、感じたことを書いてみました。
 
最近、上野水香さんはちょっとしたブームを巻き起こしています。01年度芸術選奨文部科学大臣新人賞受賞など、上野水香さんの評判は上々です。私は、牧阿佐美バレエ団には若い頃は良く見に行ったのですが、最近はあまり見ていませでしたので、彼女を見る機会はありませんでした。
先日テレビで「デュークエリントン・バレエ」で見たのですが、うまいなと思ったものの、それほど印象は強くなかったのですが、今回、このビデオを見て、驚きを新たにしたのです。小さな頭に、優美にしなる細く美しい足。日本人の体型もここまで来たかと改めて感じました。
 
それにしても、彼女の体の柔らかさは、ただ者ではありません。 アラベスク・パンシェで上げた足が、いともたやすく180度を越えてしまいます。 腕は、まるで骨が入っていないようにうねうねとしなります。 それに、美しいポアント。トウの甲がとても美しい曲線を描きます。
でも、このせいか、トウシューズが一日でダメになってしまうというは皮肉ですね。 多分一足5000円以上するでしょうから、365日で約180万円。トウシューズだけに1年でこの金額では経済的にかなりつらいものがあるでしょう。
この番組では、日本バレエフェスティバルでのシャブリエ・ダンスの映像が映っていました。「緊張を通り越して怖い。逃げ出したいと思う」と出演前に語っていた彼女ですが、森田健太郎さんのサポートの暖かいサポートに支えられて、初々しさに溢れた素敵な踊りを披露してくれていました。終わった時の「良かったと思う。凄くホッとしている」と言った安堵の表情が印象的でした。
 
そんなわけで、もう一度、「デュークエリントン・バレエ」を見直してみました。垂直にあがる足、しなる腕、確かに人並みではありません。一緒に出ていた草刈民代さんの体が硬く感じてしまうくらいなのです。でも、何となく、各部分が突出して、ばらばらになってしまっているように感じてしまうのです。またマイムの処理があまり上手くないように感じました。若さのためでしょうか。
 
牧阿佐美バレエ団の草刈民代さん。私が大好きなバレリーナの一人です。多くの振付家や演出家がその存在感を絶賛されている日本を代表するバレエダンサー。彼女の踊りはとても華やか、プリマの風格を感じます。 水香さんのように垂直に足を上げるようなことはしません。優れた技術をもっていても、その技術を誇示するようなこともせず、動きをずっと抑制して、とても品の良いの踊りです。彼女のオーロラ姫などは特に絶品で、身体の先まで神経を行き届かせようとする意志が感じられて、心なしか不安で心許なささえ感じるバランスが、かえって初々しさのようなものを感じさせて好感を持てます。この辺がやはり年期。草刈さんが、牧バレエ団の他のバレリーナより、一歩も二歩も上をいき、牧バレエ団のプリマとして君臨している所以です。そういえば、かつてのロイヤルバレエのプリマ、マーゴ・フォンティーン も、決して技術を誇示するようなことはしませんでした。これには、あくまでエレガントに、という、彼女の振付け師、フレデリック・アシュトンの指導が表れているように思います。
でも、そんな女王の草刈民代さんの前に突然現れた若い妖精、上野水香さん。草刈さんは、水香さんに「今はまだ、資質のすばらしさだけで踊りを作っているけれど、踊りに対して自分の意志があれば、それなりのものは見せてもらえるでしょう」と余裕のエールを送っていましたが、この世界、うかうかしているとすぐ追い越されてしまう。きっと、プリマの草刈さんといえども、この若き妖精・水香さんの出現に、心中穏やかではないに違いありません。でも我々観客にしてみれば、これから、2人の火花の散る競演を見せてもらえるのでしょうから、楽しみが増えたとも言えましょう。

ともあれ、ローラン・プティをして、「彼女は踊り始めると、優しさ格調・クオリティ、ダンスすべてのメッセージを感じさせるのです」と言わせた水香さん。これからの活躍が楽しみです。頑張ってください。

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