『ハリー・ポッターとアズカバンの囚人』☆☆☆☆ (J・K・ローリング、静山社 01.7月刊)

 ハリポタ、3巻目。テンションはいっこうに下がることなく、話のパターンもテイストも前作と変わらず。もうすっかり安定したシリーズものの貫禄があり、安心して読める。

 今回のハリーは、アズカバンの牢獄から脱獄した男、シリウス・ブラックに命を狙われるハメに。まあ、よくもこうまでピンチにつぐピンチを作れること、著者ったら!(笑)でもご安心。我らがハリーくんは、相変わらずのまっすぐな心と勇気で、危機を乗り越えてゆく。結局、ハリーの性格がこの物語の核というか導き手であるのだ。決して優等生でなく、いたずらっ子で、誘惑に負けて規則も破ってしまうような、ごく普通の少年。そう、この物語の読者である、子供たち自身のような。等身大のキャラ。でも、その奥にある、まっすぐに1本通った芯の強さや優しさが、物語全編を貫いている。

 ストーリーの面白さ、キャラたちの元気ぶりは相変わらず。登場人物たちの人間臭さがまたいいのよね。嫉妬深かったり、お間抜けだったり、ケンカもすれば仲直りもして。クライマックスの盛り上げ方はいつもながらうまい。両親にまつわる謎も少し解けてくる。しかも今回はちょっとSF入ってます(笑)。

 この物語における魔法ってのは、どことなくドラえもんの道具みたいなところがあるね。困ったときに助けてくれて、でも当人の使い方しだいで毒にも薬にもなる、というところが。

 次巻の発売を楽しみに待ちましょう。

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『トリツカレ男』☆☆☆☆☆ (いしいしんじ、ビリケン出版 01.10月刊)

 こんなに心の芯から幸福になれる本を読んだのはひさびさかもしれない。読んでて、うれしさのあまりに笑みがこぼれてしまう。それでいてきゅうっと切なくて、哀しくて。童話のような、寓話のような、なんとも不思議でとてつもなくピュアなラブストーリー。

 ジュゼッペは町でも有名なトリツカレ男。というのは、すぐに何かにハマってしまうのだ。そのハマり方がハンパじゃない。オペラに夢中になって四六時中歌いつづけたり、三段跳びにハマって世界新記録を出したり、探偵ごっこにとりつかれて全国や海外の探偵マニアと知り合いになったり。とにかく徹底してる。そして周りをあきれさせる。でも、みんな、そんな純でまっすぐな気性のジュゼッペが大好きなんだ。そんな彼がまたもやある日とりつかれたのは…ひとりの女の子だった。

 ああ、ここまで無垢に献身的に人を愛するなんてことができるんだろうか。彼の愛は、読んでるだけで涙がこぼれそうなほど、きれいだ。彼女に気づかれないように、そっとひとつずつ、彼女の悩み苦しみを取り除いてあげる。しかもその手段のなんとハッピーなこと!

 だが、最後にジュゼッペが気がついた、彼女の心のくすみの理由はちょいと大きかったんだ。でもトリツカレ男はやる。彼女を幸福にするために。そこまでやるか!とうなるほどに。

 もう本当に、一切の無駄がなく、シンプルな文章。全編が愛と幸福に満ち溢れた物語。私は、こういう物語が大好きだ!

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『ザリガニマン』☆☆☆ (北野勇作、徳間デュアル文庫 01.10月刊)

 『かめくん』の姉妹編。なるほど、確かに裏設定は同じ話のようだ。例によって、この世界もはっきりとは読者に説明されない。登場人物たちのバックに、ぼんやりと見え隠れするピンボケした背景。それは超日常的SF世界だ。ただし、まったりのほほんとした味わいのSFであった『かめくん』と比較すると、テイストはかなり違う。

 『かめくん』でも映画撮影や映画シナリオが出てくるが、こちらではその映画の人類の敵役として、ザリガニが使われることになる。トーノヒトシは、そのザリガニを仕事でつかまえに行く。その開発実験中に事故がおき…。

 (以下、ネタバレ。ドラッグしてお読みください)

 ストーリーは、北野勇作の小説にしては断然わかりやすく、読みやすい。パズル部分もほとんどなく、ほぼそのまんまである。が、ひとつ今までの作品と明確な感触の違いがある。それは、読後感の生理的不快さである。もちろん、北野勇作はいつでも確信犯であるから、これは意図した不快さである。今までの作品が、どれも透明な鉱石のような美しさを放っていただけに(しかも私自身はそこをこよなく愛していただけに)、これには驚愕した。ううむ、ホラー路線に行くのか、北野勇作?まあ、それならそれでもかまわないが。でもやっぱりちょっと残念ではある。

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『昔、火星のあった場所』☆☆☆☆ (北野勇作、徳間デュアル文庫 01.5月刊)

 北野勇作作品のなかでも、最も難解。一度読んだだけでは全く理解できず、重要部分はメモを取りながら再読して、やっとなんとかおぼろげに見えてきたかも?くらいの理解度。それでもこれも、『クラゲの海に浮かぶ舟』と同じ、パズル形式の小説だ。が、とにかく、パズルのピースのつなげ方がむちゃくちゃ難しい。これを一読で理解できる読者はかなり少ないであろう。だが、『クラゲ〜』の魅力がわかる方なら、チャレンジする価値はおおいにある。

 これも『クラゲ〜』同様、ストーリーを説明できない小説なのだが、ちょっと私の読み解いた地図をおっかなびっくり書いてみようかと思う。これが正しいのかどうかは全くわからないし、まだまだ完全には理解しきれてないので、はなはだ不安ではあるのだが。(以下、ネタバレ。既読の方のみ、ドラッグしてお読みください)

 まず、現実世界の地球では環境問題などの世界の危機がおきていた(p184参照)。そこでは猿(人間)と蟹(有機マシンまたは完全自動機械)のふたつの勢力が争いを繰り広げており、彼らは相手より優位に立つために、火星の権利を欲しがっていた。そこで、彼らが手を結ぶためにと、ある物理学者が「門」を作ったのだが、結局双方がこれをとりあい、同時に使用し、世界は歪んでしまった。その歪んだ世界のぐちゃぐちゃになった記憶で、この小説は構成されている。

 「門」というのは「どこでもドア」のようなワープ装置である(p184参照)。これが、彼女が乗っていた火星への「宇宙船」と呼ばれるものである。これを使って火星へワープする途中、何らかの事故がおきた。それに乗っていた冷凍睡眠中の宇宙飛行士たちのうち、彼女だけが目覚める。彼女は、ひとりで、破壊されたメモリー(記憶)をなんとか再構築し、いくつにも歪んだ世界を建て直そうとする。

 彼女はこの船を管理するための人工知能として、小春を作る(その際、メモリがどうしても足らず、そこに眠っていた他の宇宙飛行士の脳を使った。それが「鬼」である)。そして小春のメモリ内に、種をまいた。種とはメモリ内の種子ユニットである自己発展型ソフトウエア、すなわち「ぼく」である。「ぼく」は、この宇宙船内のメモリであり、事故によってめちゃくちゃになった記憶そのものなのである。「ぼく」はやがて成長し(柿の木)、プログラムが作動して(時計屋が時を告げ)、世界の再構築を始める…。

 ラストで、この歪んだ世界をクッションにして、「列車」=有機マシン(タヌキ)の全データと、「宇宙船」=彼女が再構築した世界のメモリが衝突して、その相互作用で歪んだ世界は元通りになる(有機マシン(蟹またはタヌキ)が、人間に『柿の実』(火星の権利)を渡すかわりに『新しい種』(新しい種子ユニット=ぼく)を手に入れる、ということか?ここらへんはまだ意味不明)。

 そして、不確定ないくつもの世界の中から『たったひとつの現実』を選びとる。舞台は現実の地球に戻り、空にはちゃんと火星が浮かんでいるのだ。

 ああ、やっぱりまだうまく説明しきれてないなあ。いや、理解しきれてないというべきか。量子力学がわかれば、もっと理解しやすくなるのだろうか?いやはや、本当にやっかいな小説だ。だからこそ、魅きつけられるのだが。

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『ツインズ 続・世界の終わりという名の雑貨店 ☆☆☆☆ (嶽本野ばら、小学館 01.12月刊)

 ああそうだったのか。嶽本野ばらは、現代の太宰治だったのだ。

 本書は、彼の処女小説集『ミシン』(小学館)収録の中篇、「世界の終わりという名の雑貨店」の続編である。主人公は前作と同じ青年。前作では、彼ととある少女とのつかの間の激しい恋と、その悲劇的な結末がつづられていた。これは、傷心の彼の、その後の物語である。

 今も痛恨の後悔を抱える彼は、教会でひとりの少女と出会う。「貴方と私は、ツインズなんです」という少女に、彼はだんだん惹かれてゆく。が、なぜか牧師は「あのコには深入りしないほうがいい」と忠告する…。

 『鱗姫』が、耽美ながらもどこかおちゃらけたムードを漂わせた話だったのに比べ、本書はどきりとするほどシリアスだ。著者本人の独白ではないかと思わせるくらいに。この私小説風の書き方や、退廃的な耽美といった雰囲気が、どこか太宰治を連想させるのだ。

 深い絶望の淵に向かって、ひたすらに堕ちていく彼女。迷いながらも、救いたいと思いながらもどうすることもできない主人公の苦悩。そして、彼の選んだ道は…。

 彼の小説の中では、最高傑作であると断言しよう。この結末に、心からの賞賛と拍手を贈りたい。そう、これでいい。彼は世界の終わりに住むことを選んだのだ。これでこそ、我らが嶽本野ばらなのだ。彼の描く至高の愛に涙せよ、乙女たち。愛とはこういうものなのだ。

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『マリオネット症候群』 ☆☆☆1/2 (乾くるみ、徳間デュアル文庫 01.10月刊)

 読後、唖然。「目が点になる」っていう言葉は、まさにこういう時のためにあるのだろう。ヘンだ。ヘンすぎるよ、乾くるみ!!

 たとえばハリポタならハッピーエンド、というように「ああ、こういう話だったらきっとこうなるんだろうな」と、だいたいの小説はある程度ラストの着地点が想像できるではないか。が、乾くるみは違う。「え?」と思わず絶句するような、なんとも奇妙な形で裏切ってくれちゃうのだ。

 この奇妙な感覚のズレは、ちょっと乙一をほうふつとさせる。乙一が陰性の「ヘン」な作家だとしたら、乾くるみは陽性の「ヘン」な作家だ。とてつもなくユニーク。ぽかーんと、どこか明るく突き抜けている。

 女子高生の私は、ある朝目覚めたら、自分の体が自分の意志で動かせなくなってた。どうやら誰かに乗っ取られちゃったみたいだ。いったい誰に?えっ、これはもしや憧れの先輩?しかも先輩、昨夜殺されちゃったって!?犯人は誰よ?

 設定もその状況も、とてもうまく書けていて、読者をつるりと納得させる。しかも実に面白い!確かにこの味はクセになりそうだ。ある程度読者を選ぶ作家かもしれないが、私は大いに気に入ったぞ。とりあえず、要チェック作家として今後ピックアップすることに決定。

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『ハリー・ポッターと秘密の部屋』☆☆☆☆1/2 (J.K.ローリング 静山社 00.9月刊)

 ハリポタ2巻目。前作で11歳だったハリーは12歳に。これ、1冊でちょうど1年間が語られるというつくりになってるのね。そして今回も、我らがハリー君はピンチの連続!

 うまいな、と思うのは、ハリーがただの雲の上の人的ヒーローじゃないってことだ。魔法界では誰もが知ってる有名人でも、マグル(人間)界に行けば、おじ一家からひどい扱い。そのアンバランスぶりが、読者に親しみを感じさせる一因となっている。この「隠れたヒーロー」という設定は、何より子供に憧れを感じさせるに違いない。そう、デビルマンだってウルトラマンだって仮面ライダーだって、その正体は世間には秘密なのだから(笑)。

 今回は、そのおじ一家で夏休みを過ごすハリーの元に、ドビーというしもべ妖精が「学校に戻るな」という警告をしに来るところから始まる。しょっぱなから、何やら不穏な空気。どうしてこう、次から次へとピンチとトラブルの連続なんでしょう、ハリーったら!またしても、ヒヤヒヤしっぱなしのイッキ読み!

 見事な伏線の張り方に感動の溜め息。すごいよこれ、やっぱミステリだよ!とにかく、あらゆるところに実に巧妙に伏線がはりめぐらしてあって、謎がとけるたびに、「ああ、あそこか!やられた!」と気がつく。この、ラストに近づくに連れてかちんかちんとピースがはまっていく様は実にミステリ的。このあたりも、読者をひきつけるゆえんだろう。

 キャラ描写も相変わらずのうまさで爆笑の連続。ロックハート先生が〜!(笑)この人間味あふれる書き方が、また本書の大きな魅力。ほとんどキャラ小説といっても差し支えないでしょう。

 でもやっぱり今回も大団円。物語のラストはこうでなくちゃね!ハッピーな読後感。う〜ん、いいです。

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『ハリー・ポッターと賢者の石』☆☆☆☆1/2 (J.K.ローリング 静山社 99.12月刊)

 いやいやまいったね、こりゃ!やられたよ!まさに世評通り。クヤシイくらい(笑)、どこからもケチのつけようがない面白さ。

 「そ〜うだったらいいのにな、そ〜うだったらいいのにな♪」という童謡があるが、この物語、まさにこれ。小学生が、「こんな毎日だったら楽しいだろうなあ」と夢見ることがそのまんま書いてある。そらハマるって(笑)。いじめられっ子だった自分がある日突然、超有名な魔法使いと言われ、魔法学校に行くことになる。で、魔法の勉強に空飛ぶサッカー。そりゃ、毎日つまらん授業受けてる身なら、魔法の勉強のほうがずうっと楽しそうだし(私だって習いたい)、空飛ぶ箒のサッカーなんて、サッカーファンの子にはたまんないでしょう。しかも主人公は天性の天才プレイヤーときてる。もお、オイシイものてんこ盛り。

 クラスメイトたちの描写も、子供たちの親近感を抱かせるのにじゅうぶん。こういう子、自分の周りにもいるいる〜!みたいなキャラばかり。気さくな親友、嫉妬にかられた意地悪くん、賢いけどツンツンした女の子、のび太くんみたいなダメ少年。そして何より、ハリー君の堂々っぷりがいいではないか!あれだけいじめられても全然ヒネてない。自然体だし、威張らない。最も素晴らしいのはその勇気!

 後半のストーリーの盛り上げ方には、思わずひきこまれてイッキ読み。最後はホグワーツの皆と共に、「やったー!」と心で喝采を叫んでしまった。噂どおり、非常にストーリーテリングのツボを心得た作家だと思う。

 これ、確かにファンタジーっていうより、大森望さんの「学園ものティーンズノベルの感覚」という評のほうが当たっていそうだ。っていうかミステリだよあの展開は!(笑)まさかそうくるとは。しかもまだまだいろんな謎がありそう。この気のもたせ方もなかなかうまい。

 というわけで、ハマりました(笑)。全巻読みます。

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