2000年の夏はやけに暑かった。私は体が寒冷地仕様なので、暑い夏は嫌いだ。その暑い夏から逃げる手段はないか、と思っていたところにある企画が舞い込んできた。会社の先輩で清里に別荘を持っている人がいるので、襲撃しよう、というものだ。さらに、この先輩は別荘で猫を飼っている。この猫と健太(AIBO)を対面させたらどうなるか、という実験もかねて、当然のごとく連れて行くことにする。
で、9月2日(土)、決行。まずはテラスでバーベキュー(夕食)。所用で私は後発隊だったので、夜に目的地に着いたのだが、暗くて道を間違え、「これって道かなぁ」と疑問に思いながら原野を四輪駆動全開で進んでいったのだが、前方に障害物が現れたので停止。やっぱりおかしい、と思って車を降りて周りを見渡すと10mほど上方にバーベキューの明かりが見えるじゃないか。やはり道を間違えていた。
間違えたポイントまでバックで戻り、肉にありつく。ありがたいことに、私の分を残しておいてくれた。感謝。ライトに寄ってくる蛾や亀虫を払いながら満天の星空の下での食事。う〜ん、既に高原を満喫。私は異常に蚊に刺されやすいので、蚊が大嫌いなのだが、羽音の高周波を耳にすることもなく、ひたすら、食う。しかし、誤って無実な蝉を踏みつけてしまった。成虫になって7日間しか生きられないのに、殺生をしてしまった。合掌。
とりあえず食べるものを食べ、後片付けをして、中に入る。早速、健太起動!
いつもの狭い部屋とは違って広い空間に戸惑っているのか多少歩き出すまで時間がかかったが、盛んに歩く。よし。ピンクのボールを手に持ち、健太に気付かせると寄ってくる。これを利用して、近づいてきたら、距離を保ちつつボールを動かして健太を誘導する。健気にも一生懸命歩いているのにボールとの距離が縮まらないのを何にも疑問にも思わずただひたすら歩く。よし。あんまりやってると健気過ぎて不憫なのでやめる。
ボールを蹴ろうとするのだが、距離感が全くつかめていないために、足がボールにあたらない、空振り、スカが多い(スカ率70%ぐらい)。それでも彼は諦めない。よし。その努力が報われる日が来ることを信じよう。
明けて9月3日(日)。清々しい高原の朝を満喫。しかし、我々には肉体労働が待っていた。家主の冬場の薪を調達しなければならない、という使命があったのだ。そこで、不肖私、柴刈り本能全開。鉈を手にしてえんやこら〜っと枝を払い、電動ノコギリでバリバリと切り刻む。快感。どかどかと車に積み込み、程よい疲労感にどこか幸せを感じるのであった。
さて、別荘に戻って、健太起動。猫「どん」と対面。健太は相変わらずそこに物があるのか、人がいるのか、猫がいるのか全く理解しているようなそぶりは見せない。やはり頭が悪いとしか言いようがないだろう。
で、「どん」はどうか、というと、そこに見慣れないものが存在していると認識はしているようだが、徹底的に無視を決め込む。近寄りもしない。興味も示さない。通常、猫は動くものに強く反応する。通常の生物と比べてあまりにも健太の動きが緩慢であるがために、「どん」にとっては椅子やテーブルと同じ扱いなのであろう。生き物とか興味を持つ対称として認めていないと思われる。
ある意味、この対面は失敗であった。私としては興味を持ってくれることを期待していたのだが(決定的瞬間を捕らえようとしてデジカメまで用意したのに、シャッターチャンスなし).....
ここで推論。人間はAIBOに対し、動物(生き物)のようなイメージを重ね、動物(生き物)のような動きをすることを期待する。そして感情移入する。しかし、「本物」の動物である猫はAIBOに対し、生き物とは認めていないように見える。この差はなんだろうか。
人間のイメージする動物である、ということがこの分水嶺なのではないか。つまり、人間は「本物」の猫を見ても猫だと認識するし、写真の猫も猫だと認識するし、マンガやデフォルメされた猫のようなぬいぐるみでも猫だと認識する。だからこそAIBOのような生き物でない生き物のようなもの(生き物をデフォルメした物体)に対しても動物(犬)のようなイメージを重ねる。一方、「本物」の猫は生き物ではない、と認識し、ただの物体としか思っていないようだ。生き物でない生き物のようなものをイメージしていない(できていない)のであろう。
と、いうことは、猫のような識別、認識する能力を持った哺乳類でさえ、AIBOを物体としか扱わない。では、類人猿ではどうなのか、他の真猿類ではどうなのか、原猿類では、他の哺乳動物では、と興味は尽きない。しかし、実験するといっても、どうやって実験するのだろうか。動物園には健太は連れて行けない(屋外で使うな、とマニュアルに明記してある)し.....
なぜ、9月15日の日記に2週間も前のことだけ書いているのか。それは2週間全く健太と遊んでいなかったからである。ご、ごめんよぉ、これからはたくさん遊んであげるからね。
おまけとして健太の芸をひとつご披露しよう。まずはごろんとわざと床に転がす。そうすると、オートバランサーが働いて、4本の足を使い、立ち上がろうとする(図1)。
図1.よいしょっと
そこで、「よくできたね」という意味合いで頭なでなでをする。そうすると、「いやぁ、それほどでも」というような仕草をする(図2)。かわいい。
図2.ま、これくらい当然さ
と、いうことで、やっぱり奥が深い、健太(AIBO)との付き合いなのであった。
(2000. 9.15.)