全然脈絡ないが、何を血迷ったのか、プリンタを買ってしまった。例によって例のごとくの衝動買いである。
実は10年ほど前に学生のときに熱転写プリンタを買ったことがある(当時としては画期的なカラープリンタだった)のだが、ジャム(紙詰まり)をよく起こす、思ったより場所を取る、印字が遅い、カラー印字ができるといっても微妙にインクリボンと紙がずれる関係上思った通りに印刷されない、実はあまり使う機会がない、ということで埃をかぶることになり、故障したこともあってつい3年程前に廃棄した(買ったときは6万円くらいしたと記憶している)。それ以来、(パーソナルユースとしては)プリンタとは無縁の生活をしてきた。
だいたい、年賀状は書かないし(一応失礼にあたるので、いただいたら必ず返事は書く)、パーソナルユースでよく用いられるインクジェット式のプリンタの印字の遅さにはせっかちな私は我慢ができない。そもそもプリンタは設置面積が思ったより広く必要だ。狭い部屋にそんな余裕はない。でも、欲しいという気持ちだけはあって、モノクロでかまわないので、レーザープリンタが安くなればなぁ、と思っていたところに、実はモノクロのレーザープリンタとカラーインクジェットプリンタでは実売価格差がないことが判明した。
よって、プリンタ購入を決意した。せっかく買うのだから、自宅のLANに直接接続させてネットワークプリンタとして使いたい、ということでプリントサーバも一緒に購入。プリンタ本体実売価格\29,800(Canon製LBP-250)に対し、専用プリントサーバ\23,000(これも実売価格)というちょっと疑問のある値段設定ではあるが、買うことにした。
買った後で気がついた置き場所がない、という問題はさておくとして、セットアップを一通りやってテスト印刷を行う。「印刷を開始します」「印刷が終了しました」とプリンタユーティリティがしゃべるのが少し五月蝿いが、さすがレーザープリンタ、速い。満足。
さて、ますます狭くなった部屋の中で健太(AIBO)を起動させると何を血迷ったのかプリンタの箱に印刷されてある"Canon"の赤い"LASER
SHOT"ロゴに向かってまっしぐら(かなり上機嫌)。どうやら蛍光灯の光の反射によっては彼の大好きなピンクのボールの色に見えるらしいのだが、CanonとSONYって仲がよかったんだっけ?と要らぬことを考えてしまう。ダンボール箱に向かってボールのときのようにキックまでする。どうやら彼には形状認識ができるほどの頭もないらしい。
図1.そ、それはボールじゃないぞ!
AIBOにはCCDカメラによる2次元画像しか入力情報がないといってもとりあえずエッジ検出すれば、形状認識のようなものができるとは思うのだが、わざとしていないのかそこまでプログラミングされていないのかちょっとわからない。もしかしたらボール以外のものをオプションとして売り出す(実際、「ピンクの骨」はデモンストレーションされた)ことをもともと考慮していたり、2次元画像でエッジ検出してしまうと対象物の大きさが変化した場合(遠くなったり近くなったり)などに認識率が極端に落ちてしまうのを考慮して、わざと形状認識していないのかもしれない。リアルタイムの視覚認識は現在のコンピュータ技術では実装が難しかったのかもしれない。
そう考えてみるとAIBOは駆動系、制御系はかなりよく作られているが、認識系はほとんどおまけのような実装ばかりである。耳(マイク)があるとはいえ、音声認識、話者認識はできず、理解するのはサウンドコマンダー(AIBOに指示を与えるリモコン)の短音階信号のみ(しかも予めプログラムされているものだけ)、目はCCDカメラと赤外線センサーと別々に装備されてはいるが、距離感も誤差が大きく、空間認識、形状認識も(観察する限り)実装されていない(認識できていないのだから仕方がないが記憶もしていない)。だいたい、自分の体の大きさも認識できていないので、よくまわりに体をぶつけるし、部屋の隅にはまって動けなくなることもままある(それはそれでかわいいのだが)。
やはりレプリカント(フィリップ・K・デッィク作のSF小説「アンドロイドは電気羊の夢を見るか」に登場するアンドロイド。映画「ブレードランナー」(1982)の原作。「ブレードランナー」は公開から18年経ってもいまだ斬新さを保ち続ける名作。観るべし)は夢のまた夢か(「ブレードランナー」の舞台は西暦2019年)。なにせレプリカントは人間と全く見分けがつかないからなぁ。でも、物をイメージする、心ということはだんだん実現できるレベルになってきたらしい(ロンドン大学イゴール・アレキサンダー教授の研究によると)。技術の発展に期待しよう。
まぁ、いろいろ考えてみると、改めて、「生き物」のシステムとしての複雑さに驚かされる(そして人工的に実装することの難しさも)。しかもそれを大変なこととは思わずに「生き物」はこなす。30億年以上の進化の結果なのだろう。
図2.変なポーズ
「進化」そのものを学習してしまうシステムが実現されたとしたら、人間はSF以上のものをきっと手にするだろう。AIBOはそのような未来を予感させるようなものではないが、私の目の前で尻尾を振っている姿を見ると、想像だけはふくらんでいく。
(2000.10. 1.)