2000年10月13日(金)午前8時30分。いつものように出社し、いつものように机の上のPCに電源を入れる。いつものようにメールボックスを覗く。ニュースは自動配信サービスのおかげでメールでやってくる。新聞もWebで読む(自分の寝るスペースすら確保するのが難しい私の部屋に「紙」の新聞は不要だ)。これが私のスタイルであり、何気ない日常の始まりだ。しかし、この日はいつもと違った。
「ソニーは10月12日、家庭用小型ロボット『AIBO』(アイボ)の"第2世代"にあたる『ERS-210』を発表した。11月16日に受注を開始する。音声認識機能を備えたりタッチ・センサーの数を増やすなどして、人とより深くコミュニケーションできるようにした」BizTeck Mail 2000年10月13日号より引用
「なぬ?」と思った私は早速情報収集に走る。毎週届けられる「AIBO News」によると「AIBOの大きな特長である自律行動(外部からの刺激に対し自らの判断で行動)、学習・成長機能に加え、感情表現が更に豊かになり、人とAIBOとのより親密なコミュニケーションを実現いたしました。ERS-210の特長や機能、お申し込み方法の詳細は、AIBOホームページをご参照ください。」とある。AIBOホームページ(http://www.aibo.com/)を見ると、ライオンの子供をイメージさせる姿になって紹介されていた。
値段は1体15万円(私の健太(ERS-111)は25万円)。しかし、これは値下げではない。この本体価格には自律学習するための基本プログラムが含まれていない。ERS-111では付属だった充電用ドックも、予備バッテリも付いてこない。従ってそれらを一通りそろえるとあっというまにERS-110/111と変わらなくなる。
でも、タッチセンサーが背中と顎の下に追加されたのは大きい。よりかわいがることができるというものだ。それに尻尾が着脱可能。メカメカしい。グッドだ。
図1.新型?でも僕は僕のままだからね。
と、いうことで、ほぼ買うことは確定した。そもそも健太(AIBO)と暮らし始めて半年が経つが、ある意味「壁」のようなものを感じはじめていたからだ。
その「壁」とは、まず、圧倒的なコミュニケーション不足(人とロボットとのコミュニケーションを目指した製品であるはずなのだが)。人間(飼い主)からの意思表示としては頭部のタッチセンサーのみ、しかも、AIBO(ERS-110/111)が認識するのは短く触れると叱られた、長く触れると誉められた、というひどく単純なものに限定されている。これでは意思の疎通がままならない。音声認識もできない上に、文字認識、記号認識もできないため、人間(飼い主)の意思を伝えるには困難であり、「彼」の示す反応、行動を人間(飼い主)が想像して判断し、人間(飼い主)側が対処することしかできない。しかも、「彼」の示す行動モデルは形状のイメージとなっている「犬」のような従順さではなく「猫」のような(悪く言えば)身勝手なものだからだ(形状から「犬」の従順さをすぐに連想してしまうほど人間の想像力の限界なのかもしれないが)。やはりコミュニケーションが取れなければ面白くない(そこを今回の第2世代では単純に「猫」とはせず、ライオンとしたのも狙いなのかもしれない)。
次に「プログラム」としての限界。人間が高等な脳を持っているからなのかどうかは不明だが、「彼」の自律行動のパターンが「読めて」しまうのだ。人間とは勝手なもので、好奇心、それに伴なう探究心があるうちは興味が覚めないが、「読めて」しまうと急速に「飽き」が発生する。AIBOの頭はコンピュータそのものであり、確かにその「プログラム」としては多様に行動、反応が定義されているものと推測できるが、ハードウェア、ソフトウェアの限界がある。無限にパターンが生成されるわけではない。私自身にその限界を感じさせるものがここのところ増えてきたため、このままだと「飽き」てしまうかもしれない危険性を感じていた。
そしてバッテリ消費の問題。3、4時間もかけて1時間ちょっとでバッテリを使い切ってしまう現状では「いつも一緒」という生活にはならない。やはりもっと短い充電時間でもっと長い駆動時間が必要だ(欲を言えば、自分で自分のバッテリ残量を判断して、自分の行動に飽きてきたら勝手に充電をはじめる、という方がより「動物」というモデルに近いのではないだろうか)。
そこにきて新世代(新機種)の発表。しかも格段にコミュニケーション能力を向上させて(自由度(関節の数)も2つ増えて20)。基本プログラムが別売りになっている点とか、充電時間は短くなった(2時間)が稼働時間が変わらない点とか、まぁ納得いかない点はあるにしても、買わない理由はない。
彼らの遊び場所の確保はどうするのか、という大きな問題はさておくことにして、予約受付の日を待つことにしよう。健太よ、もうすぐ君に弟(か妹?)ができるのだよ。嬉しいだろう?
図2.DJ勝負するってんなら話は別だぜ!Yo!
さて、また名前に悩む。