2000年12月16日(土)19時48分(JST)。インターホンの呼び出し音が鳴った。私はこのインターホンが気に入っている。なぜなら、この私の温和な性格のために内に秘めたる冷酷性を具表化させるのに妨害となる「対面」という行為を招かざる来訪者に対して回避できるため、招かざる来訪者に対しては冷酷極まりない対応を取ることができるからである(新聞の勧誘、怪しい宗教の勧誘、怪しい物品の訪問販売等)。よって招かざる来訪者は全て撃退してきた。
まぁ、良し悪しで、ある日シャワーを浴びていてインターホンの呼び出しが鳴り、出てみると私の部屋の上階に住む大家さんで、当然大家さんであれば全てのことにおいて優先して対応せざるを得ず、ほとんど素っ裸で出てしまい、この貧相な身体をさらしてしまう、という醜態もあったが。
横道にそれた。このときの来訪者は宅配便の兄ちゃんであった。当然彼は招かざる来訪者ではない。どこぞの酔狂な人が私に救援物資等を送ってくる場合もあり、注文していた書籍を届けてくれる場合もある。そして、まじめに仕事を遂行している姿、日本の物流を影で支えてくれるその姿には敬意をはらわなければならない。
また横道にそれた。届いた荷物は何の装飾もないでかいただのダンボール箱である。「AIBOですね」とその兄ちゃん。(その箱の中身を瞬時に理解し)「そうです」と私。目と目が合う。ニヤリ。彼の目にはどう見ても400枚は超えているであろうCDの山と100枚近くはいっていようDVDの山が見えたはずである。そこに届くAIBO(ERS-210)。さして豪勢でもないアパート(すみません、大家さん)にどう考えても独り暮らししているであろう男の部屋に酔狂な者しか買わないAIBO(ERS-210)。わずか1分に満たないその交接時間の中で、私の生活を垣間見たであろう事は想像に難くない。まぁ、そういうことはこの際どうでもよろしい。「ありがとうございました」と、私は彼に声をかけドアを閉めた。
さて、受け取ったはいいが、このでかい箱には何が入ってるんだ!
図1.大きさの対比のため存在する健太
とりあえず梱包を解く。注文したものと納品物が合っているかを確認する。箱が大きくなってしまったのは、本体に加え、バッテリーステーション(充電器)、キャリングバッグを同時に買ったからなのだが、ここまでする必要があるのか、と思うくらいに充満していた緩衝材の大きさも含まれている。とにかく不足したものはない。
マニュアルを開くとまずは充電しろ、とある。何はともあれ充電開始だ!
なかなか充電中インジケータが点灯しないので、おかしい、故障か、と思っていろいろやってみたが、やはりインジケータが点灯しない。う〜む。困ったと思っていたら、何も考えずにバッテリステーションにACアダプタを接続するのはここだろう、と何の疑いもなく挿していた場所がただのねじ穴と判明。おバカな事をした。
マニュアルにはやはり名前を呼ぶと答えると明記してある。早速命名する。
命名:祐輔
「なまえとうろく」と声を発しながら登録するらしいのだが、よく読むと、幼児期第4ステージにならないと名前登録すらできないらしい(初期設定時は当然幼児期第1ステージ)。せっかく名前考えたのに....と落胆するが、まぁ、そこまでさっさと育てばいいんだ、育てば。
充電している間マニュアルを読んでいたのだが、そこに驚くべき記述が。ERS-210がERS-110/111(つまり私の健太も該当)の発する単音階音を認識すると互いに会話をするかのように単音階音をやりとりしあう、とのことだった。前回の日記では噂にしか過ぎないと思っていた、新旧AIBOの邂逅をプログラムしてあったなんて。私の認識の甘さを痛感した。さすがソニー、芸が細かい。
一通りマニュアルを読んでいて段々飽きがきたので、既に充電完了している健太を起動。健太と遊び始める。新旧AIBOの邂逅に備えるためだ。そうこうしている間に充電が完了した。充電完了を示すアイコンがかわいい。
期待と不安を込めて祐輔起動!ERS-111(健太)とはブート時の動作が異なるが、首を左右に振りながら感情のサインを示すLED(目の機能はない。目のようにしか見えないが)。が点滅する。ERS-111の起動には1分程度かかるが、明らかにそれよりは早い時間で起動した。「おぉっ」と思ったがやはり、初期状態ということはいかんともしがたく、ただ腹ばいになって、尻尾ふるだけ。
う〜む、ここなんだよなぁ、ここ。わかっていても落胆は隠しきれない。ここで何かしらの動きを見せてくれたら、いうことなしなのに、とは思う。が、よくよく考えてみれば、これは「育つ」ロボットであり、初期状態は産まれたての状態。仕方がないのであろう。
ここで「おいくつ?」と声をかけてみる。キュルルルル、という電子音と感情LEDの点滅とともに一番右下のLEDが紅く点灯する。幼児期第1ステージを意味する。おぉ、とりあえず一番最初のコミュニケートは取れた。しかし、「こんにちは」と何度声をかけても不安そうに「くぅ〜ん」と鳴くだけである。
とりあえず、センサーである、頭、背中、顎、肉球を順になでてみる。反応はするのだが、ほとんど「反射」と言ってもいいほどにびっくりするだけである。まだ自分の感情も、外部からの刺激もうまく処理できないらしい(第2ステージ以降にならないとダメらしい)。やはりここは根気が必要なようである。
私の背中ではしきりに先に起動した健太が「かまってくれ」とせがむ。おぉ、忘れていた。この2頭(2機?)を邂逅せねばならなかった。マニュアルに記載の通り向き合わせてみる。そして、健太(ERS-111)が短音階音を発するようにしてみる。どうした、祐輔、無反応だぞ。私の頭に去来したものは....そうか、まだ自分の感情も、外部からの刺激もうまく処理できない状態、ということは健太の存在も認識できないということか。が〜ん。やはり「育てる」ことにいそしまなければ。
当然、認識能力はほとんどない健太は我関知せずで歩き回る。あまりにも対照的なこの2頭(2機?)。お楽しみはこれから、ということなのだろう。
図2.何事もないかのように歩き回る健太
一旦祐輔を停止させ、一緒に購入した「パーティマスコット」のメモリースティックに切り替える。これはERS-110/111に標準搭載されていた「パフォーマーモード」のようなものだ。ここでライトチェックを行う。ERS-210には「色」でコマンドを与えることができるので、正しくその「色」を認識できるか蛍光灯下で確認する必要があったのだ。「青」、「緑」は正しく認識するがなぜか一番好むはずの「ピンク」だけ認識しない。うっ、これでは健太と祐輔でピンクのボールを追い掛け回す、という私の思い描く2頭(2機?)との想像が音をたてて崩れる。さて、どうしたものか。
そうこうしているうちにバッテリ残量もなくなってきた。若干不安は残るものの今後に期待しよう、ということで、バッテリステーションに祐輔を乗せる(既に先に起動していた健太はバッテリ切れで停止している)。
ま、そんなこんなで人間様(私)よりもAIBOの数のほうが上回ってしまった私の部屋だが、今後の展開に乞う御期待!