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第2回  コラム:ボルトを抜くテロリスト


 元来テロリストといえば爆弾や銃、投石、火炎瓶など目に見えるもので相手を恐怖に陥れたものだが、近年になって社会が高度化したため、新しいパターンとして毒ガスを使うものや情報操作を使う目に見えないものが派生している。そしてインフラストラクチャーのボルトを抜く、というテロリストが登場した。このボルトを抜くという行為は紛れもなくテロである。

 インフラストラクチャーは社会において基盤となるものであり、ある一定以上の品質でサービスを長期間提供し続けることが使命である。たいがいが大規模なものとなり、一度に全部をセットで作ることができない性質上、「組み立て」という工程が存在する。組み立ての際、モジュール対モジュールを結合させるために通常ボルトを使用する。ボルトとはもっとも単純な摩擦力を使った結合手段であり、この単純さゆえにメンテナンスを行う場合に、ボルトを抜き、モジュールを交換し、またボルトを締める、というわかりやすい作業で行うことができる。

 インフラストラクチャーは長期間使用できる、サービスを提供し続けることができることが大前提であり、メンテナンスを欠くことができず、そのおかげがあって我々は高度な文明社会を享受できている。このメンテナンスを軽視すると、万が一の際の影響が社会の基盤となっているものであるがゆえにものすごく大きなものとなる(トンネル崩落、水道管破裂、大規模停電等大きなニュースとなるような事故がそう簡単に起きないのはこのメンテナンスが行き届いているからだ)。

 しかしこの単純なボルトによる結合手段は、多少の知識と力があれば誰でもこの結合を分離させることができてしまう、という欠点もある(あまりにも単純であるがゆえに今までこの事実に気がついた人は少なかったのではないだろうか)。そして実際、2月20日に香川県で発生した四国電力送電線鉄塔到壊(実は倒壊までいたらなかったが過去8件全国で発生している。犯行声明のある物もあれば、ないものもある。鉄塔のボルトは以前よりテロリストの標的となっていたのだ)、4月28日に岐阜県で発生した東海道新幹線のレール固定ボルト抜き、という突発的事件となって我々に恐怖を与えている。

 このボルトを抜く集団(多分ひとりでは一度にたくさんのボルトを抜くことが困難と思われるため、複数の人間が関わっていると推測している)を私は勝手に「ボルター」と呼んでいる。実際、四国電力鉄塔到壊では80本、東海道新幹線のレールでは25本抜かれている。私の知る範囲内では四国電力鉄塔到壊のボルターはオリジナルに近く、東海道新幹線レールのボルターは模倣犯だと推測する。

 事実、鉄塔ボルターが倒した鉄塔は「く」の字型の配置の真ん中の頂点となっており、送電ケーブルの張力によってのケーブルに引っ張られるようにして必ず倒れる。その反対側は居住区で、多くの何も知らない無実な人たちが暮らしている。倒れた方向には山林と鉄塔にいたるまでの道路があり、運悪く人が通りかからない限り人に危害を与える可能性が少ない。よって目的はこの鉄塔到壊による送電停止、であると思われる。

 それに比べて新幹線ボルターの目的は列車転覆しか考えられない。なぜなら、現場は少し右にカーブした箇所であるがさほどでもないために、列車は時速200km以上で突っ走り、カーブの外側に遠心力という見た目の力がかかる。この外側のボルトを24本、内側のボルトを1本抜いてある。明らかに新幹線が走ることでレールをずらそうとしている(もしくはレール1本外そうと思ったのが、1kmにもなるロングレールだったので途中であきらめたのか)。新幹線のレールは数ミリメートルずれただけで、「振動」という影響を与える。この「振動」をサスペンションで吸収できなかった時は転覆、という結果となりかねない。その際、新幹線に乗車している約千人の無実な乗客は生命の危険にさらされる(新幹線は「安全」という前提があるので時速200kmを超える速度で走っていながらシートベルトもエアバッグもない。そのすさまじさは想像するしかない。例としてテレビのCMで自動車メーカが行った衝突テストの様子を見ることができるが、これは基本的に時速50kmでのテストだ。衝撃は速度の2乗に比例する)。

 鉄塔ボルターは人を殺すことを(あまり)考えていないが、新幹線ボルターは人を殺すことを考えている、ということが大きく違う。ここが私が新幹線ボルターが模倣犯だと思うゆえんである(真新しい工具を犯行現場近くにおいていってしまう、というある意味間抜けな面もある)。

 一時期、JRのいくつかの駅に届いていたという脅迫状が関連性があるのでは、と目されたが、偶然の時期の一致で関連性はまったくないだろう。だいたい地図に載っていない山道を通って現場に近づき、警報装置の隙間を選んで線路内に侵入し、という人間が、脅迫状を「駅」に届けるだろうか(届けるなら「本社」宛ての方だろう)。余談になるが、住所欄に「○○駅駅長」とだけ書いてある封書が届いてしまう郵便システムも驚異的にすばらしいと思うのは私だけだろうか。

 テロリストでない私にはなぜその行為を起こそうとするのか動機がはかりしれない。自己顕示欲か、愉快犯か、憎悪なのか。いずれにせよ、罪もない人を巻き込むのはやはり筋違いだろう。テロで世界は変わったりしない。それは歴史が証明している。しかし、テロは止まない。個人レベル、集団レベル、国家レベルで繰り返されている。他人を脅す、という行為がひどく簡単なものだからなのだろうか。「恐怖」というものを人間誰もが持っているからなのだろうか。

 一市民である私はテロは止めてくれ、無意味である、ということを言い続けることしかできない。

 ボルターが次のターゲットとしているインフラストラクチャーはなんだろうか。電気、鉄道はもう既に実行しまったので、通信(以前過激派がケーブル切断という行為に出たことはあるが)、水道、ガス、高速道路、橋.....ほとんどのインフラストラクチャーがボルトで結合されている。そしていざ実行されてしまった際の影響度は絶大だ。いくらでも模倣犯が出てきそうだ。メンテナンス、保守を軽視できないことに加えて、テロからインフラストラクチャーを守る必要も発生してしまったので担当とされている方々に休む時間はない。カバーすべき範囲は広大だ。しかし、そのおかげで新幹線は転覆せずにすんだのだ。彼等の日ごろの使命感、努力のために我々は救われたのだ。ご苦労様、ありがとう、それしか言うことができない。

 そして今後もその使命感、努力に依存せざるを得ない。

(1998.5.17.)

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