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第7回  雨音とピアノの関係


 休日の静かな雨音を聞いていると無性にピアノが聴きたくなる。なぜこんなにもピアノが聴きたいのか、自分でもよくわからない。なぜピアノでなければならないのか、やはり自分でもよくわからない。「雨音はショパンの調べ」という曲が以前流行った(私の記憶に間違いがなければ10年くらい前だ。歌手も忘れてしまった。確か、洋楽のカバー曲で原タイトルは"I like Chopin"だったと思う)が、そういった心境なのかもしれない。

 聴きたい、という衝動を押さえ切れず、静かに降る雨の中CDショップへ行き、Erik Satie(エリック・サティ)のピアノ曲集を買ってしまった。ショップへの途中雨の街を歩くわけだが、この雨の街はどこか悲しげだ。台風の雨とは違う、梅雨どき独特の静かな雨。どこか生ぬるくそしてどこか肌寒い雨。冬の冷たい雨とも違うそんな悲しげな雨に濡れる街。ぽつりぽつりと頭の中でピアノが流れる。

 どちらかというとChopinよりもSatieの方が私は好きだ。といってもChopinの全曲を聴いたことがあるわけでもないし、Satieも全ての曲を聞いたことがあるわけでもない(実際入手が容易なSatieのCDは初期の頃の作品ばかりだ)。なんとなくChopinは「派手」「甘い」というイメージがあるし、Satieは「白」「悲しい」というイメージがある。

 Erik Satieといえば"Gymnopedie"(ジムノペディ)がすっかり有名である。実際私もその曲が収録されていることを確認してこのCDを買ったのだが、やはり雨に合う。まぁ、これは私の感性なので、異議がある人も多いとは思うが、ぽつりぽつりと奏でるメロディーは、雨を連想させる。ざんざん降りではなく、静かにあまり音を立てない梅雨どきの雨だ。この"Gymnopedie"というタイトルはSatieの造語とされている。古代ギリシャの神神を賛美するための言葉とか、「裸の子供たち」といった意味のギリシャ語に基づいたものと言われている(Satieの有名な曲の中に"Gnossienne"(グノシエンヌ)というのもあるが、これも造語だそうである。どちらもSatieの初期の頃の作品だが、奇人ぶりがとりだたされる彼にとって「造語」という手段は彼のアイデンティだったのかもしれない)。

 近年「クラシック」「ポップス」「ロック」等々のジャンルのほかに「環境音楽」「ニューエイジ」というジャンルがある。言ってしまえば、「白い音楽」「家具のような音楽」を目指していたSatieがその先駆なのではないだろうか。いわゆるクラシック音楽のコンセプトや先入観を越えた(ある意味非常にストイックにそれらを排除した)彼の音楽は、ガラス細工的でファッショナブルなのだろう。それゆえ今我々に深く取り入れられているのかもしれない。その彼の表現手段、彼が向かう音楽性を示すものが身近に存在するピアノだったのかもしれない。

 ピアノとは、鍵盤のキーを押下する動作をハンマーの動きに変換し、そのハンマーで金属の弦をたたくことによって音を出す、という仕組み的にはわりと単純な楽器である(金属の弦をはじく、というチェンバロから進化した形だ)。弦の長さによって振動(周波数)が異なるため、音階も作りやすい。基準の音は440Hz(「ラ」「A」の音)である。発生させる音は、ノイズが少なく澄んだ音となる。クラシック音楽で多用される楽器で、オルガンは「重厚」、バイオリンは「繊細」、ピアノは「清澄」というイメージを私は持っている。

 このピアノ本体に共振されて聞こえてくる音(アップライトピアノや電子的に創り出したPCM音源等のピアノとは違うグランドピアノ特有の音)が、ぽつり、ぽつり、という雨の音、寂しげな雨の音を連想させるのかもしれない。だからこそ私が「派手」さや「甘さ」よりも雨の日に「悲しさ」を求めてしまう一因かもしれない。

 澄んだ、ピアノを主体としたストイックな音の作りには、「ニューエイジ」というジャンルに分類されている"S.E.N.S."というユニットがある。深浦昭彦氏と勝木ゆかり氏の2人で構成されているユニットだが、数々のC.M.や映画、ドラマ、ドキュメンタリーのサウンドトラックととして多用されているので耳にしている人も多いはずだ(メジャーデビューは1988年NHK特集「海のシルクロード」である)。繊維メーカーの「組曲」というC.M.は有名中の有名だ(ミニアルバムとしてCDも発売中である)。

 ピアノだけでいえば坂本龍一氏も私は特に好きだが、技巧に走りがち、理論に走りがちな彼のピアノはあまり雨の日向けではないとまことに勝手ながら思う。

 梅雨どきの静かな雨の休日、読書でもしながら、紫陽花でも眺めながらピアノを聴くことをお勧めする。

(1998.6.14.)

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追記(1998. 6.28.)

 「雨音はショパンの調べ」は1984.4月発売で、歌い手は小林麻美氏でした。オリジナルの歌い手はGAZEBO,P.L.Giombiniでした。

 すぺしゃる・さんくす・とぅ shirokuさん。


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