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第14回  本当に人工衛星だったのか・微妙な日米朝関係


 朝鮮民主主義人民共和国(以下:北朝鮮)は国名にこそ「民主主義」が入っているが、実際にはかの国には存在しない(と私は思う)。実験はほぼ軍部が握っており、飾り物の最高権力者として「金正日」氏が存在する(ように見える)。「外」にいる我々から見れば流れてくる情報が少ない分だけ「不思議な国」「近くて遠い国」としての色が強い。

 1998年8月31日。米軍筋の情報として正午ころ日本海に北朝鮮が発射したとみられるミサイルが着弾した、という第一報が流れる。その後同日午後10時半くらいになって発射されたミサイルは実は二段式で日本海に着弾したのは第一段(もしくはブースターのみ)で、第二段(もしくは弾頭)は三陸沖に着弾した、という報道に変更された。発射されたミサイルは「テポドン」と報道された(さらに防衛庁は情報を変更し、一段めが日本海に、二段めが三陸沖に、そして弾頭が二段めより東方に落下した、と発表した)。実際の飛行時間はわずか約10分弱。このニュースは世界でも大きく報道された。

 ここで「テポドン(TaepoDong:大浦洞)」1号ミサイルとはどのようなものか。全長25m、直径1.3m、発射重量約27t、単弾頭式で約1tの重量まで搭載可能。射程距離は約2,000kmとされる中距離弾道ミサイル(IRBM)である。先祖は旧ソ連製「スカッド(Scud)」ミサイルとされる(北朝鮮はエジプトから導入)。「スカッド」ミサイルいえば以前(1991年)湾岸戦争の際に実際にイラクがイスラエルに向かって打ちこんだことで有名だ。北朝鮮はこの「スカッド」ミサイルを改良し、「ノドン(NoDong:蘆洞)」というIRBM(射程距離約1,000km)を製造し、1993年に発射実験に成功している。1998年4月にパキスタンが発射実験に成功した「ガウリ(Ghauri)」ミサイルはこの「ノドン」ミサイルを改良したものとみられている。また、1998年8月にイランが発射実験した「シェハブ(Shahab)-3」もこの「ノドン」ミサイルの改良とされている(一部の情報ではこの「シェハブ-3」は二段式だったともいわれている)。「テポドン」1号ミサイルはこの「ノドン」ミサイルを一段めに、二段めに「スカッド」ミサイルとして組み合わせ、二段式に改良したミサイルである(北朝鮮としては初の多段式)。

 北朝鮮はパキスタン、イラン等イスラム圏にミサイルまたはその製造技術を提供し、その見返りに実験データを受け取り、さらに自国のミサイル開発にフィードバックしていることはほぼ間違いないことと思われる。食糧危機が大きく取り上げられている中、先進国の世論を敵に回してミサイル開発を続けているのは、このミサイル技術が貴重な外貨獲得源であるからだ。この点において、アメリカ、日本が経済制裁を北朝鮮に行ったとしても効果がない。経済制裁をしけばしくほど北朝鮮は「外貨獲得にはミサイル開発しかない」ということでミサイル技術開発にいそしむだけだ。または最終手段として地下核開発、実験施設を作って核弾頭を開発するかもしれない(施設、設備さえあれば開発に成功するのは時間の問題であろう)。ペイロードが約1tあれば、50キロトン程度の核弾頭が搭載可能だ。

 北朝鮮発表によると「これは国家の自主権の問題である」とか「人工衛星(高度が最低で約218km、最高で約6978kmのだ円軌道)の発射に成功した」としているが、いくら飛行が成層圏をこえる(領空侵犯にあたらない)とはいえ、落下地点が公海上とはいえ、(他国の上を通過するわけだから)せめて事前の通達くらいするのが外交上の筋、というものだろう。ちなみに落下地点は日本から北米に向かう太平洋航路のすぐ近く(事実、日本航空を含む7機の民間飛行機が同時刻に同空域を飛行中であったことが確認されている)であり、最盛期のサンマ漁の漁船が多数浮かんでいる場所である(もし接触事故なんて起こしていたら惨事になっていたはずだ)。日本の科学技術庁やアメリカのNASAでは人工衛星の飛行を確認していないし、郵政省は人工衛星が発信しているとされる「金日成将軍の歌」、「金正日将軍の歌」も受信していない(しかし、弾頭部分に航跡を確認するための電波発信装置(テレメーター)が組み込まれていたことが発表された。これによりミサイル発射実験色が濃くなった)。

 今回のミサイル発射について隣国である大韓民国(以下:韓国)の反応も微妙だ。もともと韓国全土は「ノドン」ミサイルの射程内であることよりミサイルの射程が伸びただけ、という反応と、隣国は「敵」なのに自国開発ミサイル開発が韓国だけ制限(射程180km)されているのはおかしい、という反応と、人道的支援、金剛山観光は継続する、という反応と、人工衛星(かどうかは疑わしいが)を打ち上げることができるほどの開発力が隣国にあったのか、という驚きの反応とさまざまである。中国も日本が射程内に入ったことで、日本が軍拡に走ることの方が問題だ(日本が偵察衛星を持つとかとか戦域ミサイル防衛(TMD)構想への参加を目指す研究を促進することは中国にとって「軍拡」だ)という微妙な立場だ。

 手近な「敵」である韓国を攻撃するには射程2,000kmのミサイルなど必要がない。IRBMを発射する目的としては在日米軍基地、もしくは日本を攻撃するためだろう。北朝鮮からこの半径2,000kmの中に日本全土が収まってしまう。また、このまま開発を進めていけば、21世紀初頭には射程1万kmの大陸間弾道ミサイル(ICBM)が開発可能、との見方もある(そうすればアメリカ本土の攻撃も可能だ)。

 実はこの射程距離については追加情報がある。実は三段式だった、というものだ。これを真に受けるとなると射程距離は5,000km〜7,000kmまで伸びる形になる。だとすれば当初伝えられていた「テポドン」1号ではない、もしくは「テポドン」は当初考えられていた性能よりも上、ということになる。当然この射程距離であれば、グァム、ハワイ、アラスカは射程距離の中だ。この射程距離を持つロケットであれば、人工衛星を打ち上げるのも充分可能である(実は発射実験されたのは「テポドン」1号ではなく、開発中とされていた2号ではないか、という見方もできる。推定射程距離5,000km以上とされ、7,000kmをこえられるのであればICBMとみてもよいだろう)。ちなみに現在のところアラスカ付近まで物体が飛んだことは確認されていない(三段めの点火は確認されていないので、途中で崩壊してしまったのかもしれない)。

 「テポドン」ミサイルの発射にはどんな意味が込められているのだろうか。建国50周年を記念するものか、「金正日」氏の事実上の最高権力者としての就任を祝うものなのか、「人工衛星」として国内報道することで国民意識を向上させるため、国威発揚のためなのか、イスラム圏への技術力誇示か、さらなる援助を諸外国から奪うため、対米交渉を有利に向かわさせるための脅しか。実は今回の発射実験の着弾地点である三陸沖がキーではないかと私は思っている。この三陸沖を狙ったのは、青森県にある三沢基地攻撃のためのシミュレーションではないだろうか。

 北朝鮮はこれまですでに、「ノドン」ミサイル発射実験の際にミサイル輸出中止の代償として5億ドルを米国に要求したとされる。 今回も非公式にミサイル開発放棄の代わりに10億ドル要求し、米国は拒否したとも伝えられている。

 人工衛星を打ち上げる際、できるだけ赤道に近い場所から赤道に向かって打ち上げるのが一般的だ。これだと、地球の自転の速度を利用できるのでエネルギーの効率良く赤道に対して水平な軌道に乗せることができる。赤道とは垂直な極軌道に乗せるためには技術力、推力が必要だ。「人工衛星」説を採用するならば、水平軌道に乗せるには発射地点は赤道よりも遠いし、角度もかなり北よりだ。極軌道に乗せるにしても中途半端な角度である。

 米国務省は9月14日、「北朝鮮はごく小さな衛星をミサイルに乗せて打ち上げようとしたが、軌道に乗らなかった。」と発表した(これにより強硬なミサイル説をとっている日本は振り上げた拳を下ろせない宙ぶらりんな存在になってしまった)。当初、弾道ミサイル説をとった米当局が、衛星打ち上げと判断を変えた科学的根拠は示さなかった。何らかの政治的取り引きが米朝間であったのだろうと推測するのが筋だ(しかしこれにより各国の人工衛星監視網に今回打ち上げたものが引っかからなかったこと、とりあえず「ロケット」が三陸沖に落下したことの説明はつく)。韓国政府も結局9月17日、米国の情報をまとめた形で「三段式ロケットを発射し、小型の人工衛星を軌道に乗せようと意図したが、失敗した」という最終結論に至った。しかし日本の防衛庁はこの結論に疑問を抱いている。

 ここで情報を整理してみよう。

  1. 北朝鮮が発射したのは多段式のミサイルである(多段式ロケット発射の技術を持っている。しかも開発スピードは各国が予想していたものよりも速い)
  2. 北朝鮮は国威発揚のため「人工衛星」打ち上げと主張している(しかし、科学的根拠はない。でも充分発射可能な技術を擁している)
  3. 北朝鮮はミサイルを外交カードとしている(今回の発射は米朝交渉中だった)
  4. 北朝鮮を孤立するのは危険だ(核開発疑惑は消えていない)
  5. 表向き「人工衛星」ということにしておいて、しかもそれを「失敗」とすることによって各国を震撼させた「ミサイル」衝撃を抑え、波風を立てないようにとりあえず政治的に取り繕った

 というような見方ができてくるのではないだろうか。

 北朝鮮を孤立させるのは簡単であり、危険だ。二大大国間の冷戦の時代が終わり、地域間紛争の時代に現代はある。インドとパキスタンとの間には互いに明確な「敵」という認識がある(地域間紛争、という域を出ない)が、中東とイスラエルの間でも互いに明確な「敵」という認識がある(この関係も地域間紛争、という域を出ない)が、北朝鮮にとっては全ての国が「敵」だ。日米関係の変化や日朝関係、米朝関係が悪化すれば、日、米、朝のトライアングルのバランスが崩れれば(北朝鮮にとって友好国である)中国でさえも北朝鮮を抑えることができず、「核」を積んだ「テポドン」もしくはさらに新型のミサイルが日本へ、もしくはグァム、アラスカ、もしくはアメリカ本土へ飛んで来ることになるだろう。

 今回は政治的にとりあえず表向き穏便にことは進んだが、次は、多分、確実に、ある。

(1998. 9.20.)

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今回参考にさせていただいたWebページ
「日本経済新聞社」http://www.nikkei.co.jp
「朝日新聞社」http://www.asahi.com
「毎日新聞社」http://www.mainichi.co.jp
「Yahoo! News」http://www.yahoo.co.jp
「Missile.Index」http://www.index.ne.jp/missile/


<後日談>

 後日、北朝鮮は「共和国初の人工衛星『光明星(Kwangmyongsong)』1号である」として写真まで公開した。アメリカはあたかも人工衛星打ち上げに失敗した、を強調せんがためにとも思える裏づけを報道した。何か慌てているような感じを受けた。この状況から私はますますあの「ミサイル」が三沢を狙ったものではないか、という疑いを強く持つようになった。そして振り上げた拳を下ろせなくなった日本は、使い物になるかわからない、当たるかどうかは神のみが知るTMD構想に協力する、ということでまたしてもアメリカの財布としての役目を果たすこととなった。結局誰が得したのか不明で損をしたのは日本、という相変わらず外交はアメリカの言いなりを露呈したに過ぎないで終わった。アメリカだけが正しいわけではないし、へつらい続けることにいい加減恥を知って欲しいものだ、日本の政治家どもに。


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