ニガウリ、ゴーヤ(正式名はツルレイシ)とも言うが、沖縄特産の瓜である。キュウリをふた回り大きく太くしたような大きさで、表面には丸みを帯びたイボイボ突起が無数についている。表面の色はキュウリのような深い緑。主に果肉の部分を加熱して食べる。名の通り、苦い。苦いのである。
私は今まで沖縄に足を踏み入れたことがない(是非行きたいとは思っているが)。よって、本場の沖縄料理を食べたことはない。が、このところ夏になるとニガウリが食べたくなる。それほどニガウリが好きになってしまった。
私がはじめてニガウリを口にしたのは7年くらい前になる。大学の同期にジャンクフード、ジャンクドリンクマニアな人間がいて、彼が「ゴーヤジュース」なるものを購入してきたので、それを飲んでみた(彼の影響で私もかなりジャンクドリンクに汚染されている。大麦コーラとかチョコレートソーダとか大学時代さんざん飲まされた)。缶の表示によるとゴーヤ果汁20%、ハチミツ使用、ということで、苦そうだなと思った(ニガウリは苦い、という予備知識はあった)が、飲んだ感触はさほど悪くなく、わりと飲みやすかった。そんなに苦味も感じない。ハチミツの効果だろう。が、あとからじわじわと青臭い苦味がわきだしてくるのだった。やっぱり苦いじゃないか!というのが当時の素直な感想だった。だからといって「ゴーヤジュース」がジャンクなドリンク、とは私は思わないが珍しい飲み物ではある。
ニガウリの色や形でなんとなく身体によさそうな感じはある。実際、ビタミン類は豊富で、スタミナ増進効果、発汗作用もある、とのこと。沖縄豆腐と炒めた「ゴーヤチャンプル」がニガウリ料理の中では有名だろう。基本はニガウリと豚肉と豆腐と卵を用いる。モヤシやキャベツも加えたバリエーションもあるらしい(何でもありの炒め物らしい)。
私は酒も飲まないくせによく飲み会には顔を出すのだが、たまたま入った居酒屋(以後便宜上「居酒屋N」と表記する)のメニューに「ゴーヤチャンプル」を発見した(3年前のこと)。沖縄に行かない限りニガウリ料理は食べることができないと思っていたので、ものは試し、食べてみようと思い、注文した(人間食わず嫌いよりはたくさんの種類が食べられたほうが幸せだと思う)。やはり苦いのだが、油で炒めてあるとその苦さの他に旨味を感じた。調子に乗って2つ、3つと注文し続けた。
まな板に乗せて、さて、どうやって食べるのか少し悩んだ。レシピが手元あるわけでもない。あったとしても私はレシピを見ながら料理する方ではない。とてもじゃないが、ひとりで1本食べるにしては相手はでかい。とりあえず炒めれば何とか食べられるだろうと思って、半分にして種を取り2mmくらいの厚さ(根拠はない)に切って炒めてみる。
火が通ったような色(緑色が少し透明になる)に変化したので加熱を止め(あまり加熱を続けるとビタミンCを破壊してしまいそうだったので。それにシャキシャキとした食感が損なわれる)、食べる。苦い。強烈に苦いぞこれは。とてもじゃないが居酒屋Nで食べた「ゴーヤチャンプル」の味には遠いと思った。しかし、買ってきてしまった以上、捨てるのももったいないのでとにかく食べた。いくら半分にしたとはいえ、ひとり分にしては量が多い。仕方なく次の日も残った半分を食べた。やはり苦かった。
これは多分調理法が悪いんだろうと思い、また居酒屋Nに出かけた。シャキシャキとした食感の中に微妙に残る苦味とじわじわ感じる旨み。自分で作る際にはまずはこの苦味を克服しないといけない、と思った。
苦味を消すために軽く湯がいて(実際にニガウリを湯がく料理や味噌汁もあるらしい)、その後炒める、という方法も採用してみた。この方法は確かに苦味が消えた。が、シャキシャキとした食感が失われた。失敗である。湯がかずに時間を長めに炒めてみることもした。これもやはり食感を失う結果となった(しかも青々とした色まで失った)。失敗である。しかし、失敗作は失敗作として食さねばならないのが一人暮らしである。
そうこう試行錯誤しているうちにとりあえず食するに耐えうる、苦味を薄めつつ、旨みを出す炒め方(2mmはちょっと厚いようだ)ができるようになった(ごま油が自分では効果的だと思っている)。と言うより、単に苦味に対する慣れと場数をこなした結果でしかないのだが(自分で試行錯誤する前に居酒屋Nの板さんに調理方法を聞け、レシピを探せという話もあるが)。
最近ではベーコンと炒めたり、スープにしたりもしている。多分沖縄からの空輸の関係だと思われるが他の野菜に比べて傷みが早い(乾燥に弱いらしい)。買ってきてもできるだけ早めに食べた方がいいだろう。
私は3年前までスーパーマーケットに普通に売っていることに気がつかなかった(だんだん一般的な食材になっているのかもしれない)が、慣れてみるとなかなか旨い食材であると思う。
さて、今晩もニガウリである。どうやって食ってやろうか。
(2000. 6.11.)