第56回 書評:「FULL MOON」
どう評したらいいのか言葉があまり見つからない。さまざまなジャンルがある書籍の中でも、どれに分類したらよいのか、もしかしたら迷ってしまうかもしれない。実際この「FULL MOON」を「写真集」の書棚においてある書店、「芸術・アート」の書棚においてある書店、「自然科学」の書棚においてある書店があった。
「FULL MOON」(新潮社)
Michael Light編著 \4,700(+消費税) ISBN 4-10-538501-1
昨年(1999年)、人類(アポロ11号)が月面に着陸してから30年を記念して刊行された、実際に宇宙飛行士などが撮影して、NASA(National Aeronautics and Space Administration:アメリカ合衆国航空宇宙局)が所有する写真のみで再現する月旅行である。
アポロ計画をあまりご存知でない方は、少ないと思われるが、軽く説明すると、1960年代、アメリカ合衆国(以下:米国)と旧ソビエト社会主義共和国連邦(以下:旧ソ連)は互いの国力、科学力を知らしめるため、熾烈な宇宙開発競争をしていた。第2次世界大戦後、ドイツから科学者を根こそぎ連れて行った米国、ドイツに残されたロケット技術に関する資料を持ち出した旧ソ連は、それらを基礎として研究に没頭していった。常に旧ソ連の後塵を拝していた米国は起死回生のため、月に人類を送り込むことを宣言する。そうしてスタートしたのがアポロ計画である。
この「FULL MOON」が発行されたのを知ってすぐに欲しいと思ったのだが、書店に行くと忘れてしまったり、書店で見つけられなくてずっとそのままになっていた。たまたま最近になって別の目的で立ち寄った書店で平積みしてあるのを発見し、買わずにはいられなかった。
月を見て「美しい」と思ったことはないだろうか。なぜ月が存在するのか不思議に思ったことはないだろうか。月の重力が影響して地球の海の潮の満ち引きが起きていることをご存知だろうか。月が動物の行動、感情に関係している面があることをご存知だろうか。地球から約38万6千kmの彼方に存在する唯一の衛星。光の速さ(秒速約30万km)でさえも1秒以上かかる遠い場所(実際のミッションでは約66時間かけて航行した)へ、地球以外の他の天体としては初めて人類は降り立ったのである。それが1969年、私の産まれた年だ。
確かに月は遠くで見ている方が綺麗かもしれない。クレーターもよっぽど大きなものでない限り肉眼では見えないし、模様を兎に見立てたり、顔に見立てたりしている方がずっとファンタジックなことだろう。しかし、この「FULL MOON」で宇宙飛行士が撮影した月を見て、正直、美しいと思った。草木も生えていない、大気もない岩と砂ばかりの荒れた地なのだが、砂の一粒一粒、太古の昔に溶岩が流れたと思われる痕、地球からは見ることができない月の裏、挙げればきりがない。本当に美しい写真であると思うし、原始の太陽系で起きていたダイナミズムが記録されている。まさに「FULL MOON」だと思う(本書の帯には評論家の立花隆氏のコメント「思わず目をむいた」というものが刻印されている。その通りである)。
もし、機会があって「FULL MOON」を手にすることがあればその美しさに息を呑むだろう。月の地平から昇る「地球の出」がいかに幻想的なものであるか(私は涙すら流しそうになった)がわかるだろう。
それ以上の言葉が出ない。次の2つのサイトを紹介して、今回は結びとしたい。
Full Moon http://www.projectfullmoon.com/
ケネディ宇宙センター http://www.ksc.nasa.gov/
(2000. 7.16.)