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第57回 コラム:来たるべき世紀 partZ 〜挑戦する科学〜


 著名な17世紀の物理学者アイザック・ニュートンの言葉にこのようなものがある。

 「私の前には未だ発見されていない真実の大海原があったのに、私は浜辺ですべすべした小石やきれいな貝殻を見つけて喜んでいる子供のようなものであった」

 今日私たちはこの偉人が生きた時代で考えれば、核エネルギーや量子力学、相対性理論を手にして、大海原に漕ぎ出したといえる。しかし、やはり私たちはまだまだ真実の大海原で小石や貝殻を見つけて喜んでいる子供に過ぎない。いつの時代も何かを見つければそれで終わり、ということはない。何かを発見すればそれはまた何かしらの大海原の浜辺に立っていることを自覚させられるのだ。

 それは20世紀を代表する天才物理学者、アルバート・アインシュタインの言葉「もっとも理解するのが難しいのは、どうして私たちは何も理解できないのか、ということである」と、法王ヨハネ・パウロ2世の言葉「聖書は天国に行く方法は教えてくれるが、天がどのように動いているかは教えてくれない」からも伺える。物理学者と法王というまったく異なる考え方、専門分野を極めた2人ではあるが、これらの言葉にはどこか似たような印象を受ける(奇妙な一致と思うのは私だけだろうか)。

 一昔前から考えれば私たちは高度に発達した文明社会の中に暮らしているしかしそれはほとんど思い上がりといってもいいほどの未熟な文明でしかない。それを示すつもりがあったのかは不明だが、ロシアの天文学者ニコライ・カルダシェフとアメリカのプリンストン大学の物理学者フリーマン・ダイソンは文明がエネルギーをどのように得て、利用しているかで3つのタイプに分類した。

 タイプT文明はは惑星上のあらゆる形態のエネルギーを会得したもの、タイプU文明は、その惑星の属する恒星のエネルギーを利用できるもの(エネルギー需要が大きいため惑星のエネルギーを使い尽くした状態)、タイプV文明は近隣の星団や自らが属する銀河のエネルギーを利用することを会得したもの(エネルギー需要が大きいため恒星のエネルギーを使い尽くした状態)、である。現在の地球の文明はそのどれでもない。タイプTにも満たない、タイプ0である。それほど未熟な状態なのだ。

 この地球という惑星上にはあらゆるエネルギー(例えば地球の海水中(総量1.4×10の21乗kg)の重水素(約0.03%)をすべて完全に核融合反応した場合、4.8×10の34乗Jの熱エネルギーが得られる。日本の世帯あたり消費電力を約1.7×10の4乗kWh/年(年間総発電量(約1.0×10の13乗kWh)/世帯数(約6.0×10の7乗))と仮定すると、仮に地球上に約1.2×10の9乗世帯(約60億人の人口で世帯あたり5人とする)存在し、日本と同じ分だけ消費するとすれば、約2.4×10の18乗年分となる)で満ちているのに、それを使う手段を会得しておらず、原始的な化石エネルギーに大きく依存している。経済成長と増え続ける人口(100億人で頭打ちとなる予測もあるが)の前に、エネルギー問題は現時点ではかなり深刻で、未来への大きな不安材料となっている(化石燃料は枯渇の文字がちらつき始め、化石燃料を使用した後に排出される二酸化炭素の増加に危機感を感じている)。しかも核融合反応はまだ実用化の段階になく、熱エネルギーのすべてが利用可能なわけではない。

 しかし、天文学者は予測する。エネルギー需要が100億倍になると文明のタイプがシフトする。100億倍、という数字は一見途方もない数字に見えるが、年間3%という経済成長率(地球上での平均的な成長率)を維持して行くとすると100年から200年以内にその数字に達し、タイプTに移行せざるを得なくなる。さらにその3%が続けば800年後にはタイプUに移行しなくてはいけなくなる。これが5%という数字になれば、もっと加速する。

 タイプ0の私たちは、喧嘩し合いねたみ合う「国家」に分断され、人種、宗教、国境によって深い亀裂が入っている(今現在各地で起きている紛争を見れば明らか)。自らの食料やエネルギー需要も満足にまかなえていない。比較的共通のパートナーという考え方が定着しているヨーロッパでさえ、EUの統合にもたもたしている。

 タイプTに移行するためにはエネルギーを枠組みにとらわれず共有する必要がある。惑星規模で統合し、共存共栄を進める必要がある。そうでなければ、産業革命以前に必要とされていたエネルギー量の100億倍、という需要をまかないきれない。

 何が文明タイプ移行の起爆剤となるだろうか。20世紀の科学には3つの大きなテーマがあった。原子、コンピュータ、遺伝子である。来たるべき21世紀の科学には何があるのか。量子コンピュータ(情報)バイオテクノロジーであると超ひも理論の権威、ミチオ・カクは予測する

 そしてそれらは独立して進むのではなく、深く関連しあって突き進むだろう。それを推し進めるのは一部のエリート集団ではなく、中産階級だとも指摘する。「人間の知識は10年毎に2倍になっている」とも(しかし、その増大する知識量に人間はついて行かなければならない、という面も伴う)。

 人間は知りたがりの生き物である。その知的好奇心が、真猿類の中では最も進化した大脳を手にし、言語や文字を体得し、知識を深め、今の文明を作ってきた。ある意味知的好奇心が遺伝することで発展してきたといえよう。経済成長が続けば、中産階級の占める人口割合は増大し、「国家」を凌ぐ。現在でもインターネットの世界に潜れば、「国家」という枠組みがいかにナンセンスなものであるかを体感することができる。

 コンピュータの分野ではユビキタス・コンピュータ(いつでもどこでも利用できるコンピュータの意)の実現へ向けてネットワーク技術、(量子論を基にした)小型化技術が進行中であり、(量子論を基にした)ナノ・テクノロジーがバイオテクノロジーの分野でも実現されつつある。

 そう、現在の我々の眼前に存在する新たなる大海原とは、「科学を発見する時代は終わった。これからは自然の傍観者から積極的に自然の振り付け師となる、科学を支配する時代」(ミチオ・カクの言葉)の大海原なのである。

 脳科学の前に心理学と哲学は既に屈した。当然迷信や超常現象といった迷信的なものも科学の敵ではない(なぜ怪しげなことを信じてしまうのか、ということも脳科学では解明されつつある)。遺伝病やガン、伝染病も科学、治療の進歩によって克服される可能性が高い。さらには老化でさえも。

 科学には国境はない。科学革命によって解放される巨大な社会的経済的な力に「国家」というせせこましい単位にはあまりにも原始的だ。イランのような厳しい神政国家であっても、人々の「違法な」衛星放送受信アンテナの増殖を止めることはできない。アメリカを中心とする国々から物質的、情報的に閉鎖されているイラクであっても、連日連夜インターネット・カフェには長蛇の列ができている。

 科学は挑戦する。さらなる向かうべき大海原へ。

(2000. 8.20.)


今回参考にしたもの

「サイエンス21」(原題:VISIONS How Science Will Revolutionize The 21st Century)
ミチオ・カク著 野本 陽代訳 翔泳社 ISBN 4-88135-804-9


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超ひも理論

 超対称性を持ったひも理論であり、重力も含めたあらゆる力を統一の理論体系で記述することを目指している。10次元以上の空間から世界は存在し、素粒子、電磁気力、核力も含めて弦のように振動しているとされる。このことを公式化しようとする総合的な理論。


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