第66回 引っ越し顛末記 (其ノ三)
さて、ここからが本格的に引っ越しだ。
NTTに電話をして転居の連絡をし、新しい電話番号を取得する。さすが民営化しているだけあって休日も対応する。新しい電話番号が取得できたのでNHKに転居の連絡の電話を入れる(私は受信料1年先払い銀行引き落としである)。ここも電話のみで手続きO.K.。調子に乗って東京電力、東京ガスに電話する。各支社は休日対応していないが、フリーダイヤルのお客様センターは土曜日も対応しているので、電話だけで手続きO.K.。楽になったものだ(料金引き落とし口座を変えていない、ということもあるが)。公共料金関係としてはあとは水道の手続きだけ(こいつは役所なので平日のみだ)。
現在のアパートの大家さんに転居の挨拶に行く。行くといっても上の階に住んでいらっしゃるので、階段を上るだけだ。不在時の宅配便受け取り、庭に生えているイチジクのジャムをもらったりといろいろお世話になっているので、挨拶しないわけにいかない。「結婚するの?」と言われた。違う、と答えるのがどことなく虚しい。やっぱりそう思うよなぁ、普通(衝動買いです、とは言えない)。
とにかく物量を減らさないといけない。もう既に使わなくなったソフトウェア、マニュアル類はちょっと惜しいが捨てることにする。昔使っていた5インチのフロッピーディスク約2,000枚、3.5インチのフロッピーディスク約1,000枚を捨てた(お金がなかった大学時代にやっていたソフトウェアの不正コピーのディスクもあったので、証拠隠滅のため廃棄)。大学の卒業研究のときの論文、データ、プログラムが入ったフロッピーディスクが発掘されたが、これは保存することにする(捨てられない)。雑誌の付録のCD-ROMもなぜか捨てられずにとっていたが、捨てる。なんかの役に立つだろうと思ってとっておいたPCパーツ、ケーブル類も捨てる(全部ではないが)。
ときどき映像が出なくなるようになってしまった、大学時代に買った21インチのテレビをヨドバシカメラに引き取ってもらう。電源が切れなくなる(リモコンのみならずスイッチでも)、という状態にまで壊れかけていたので、もう充分使っただろう。6年の寿命のところ12年も頑張ってくれた。感謝。引っ越しまでの間さすがにまったくテレビが見れないのは問題なので、ポータブルDVDプレーヤの液晶ディスプレイでテレビが見られるよう配線する。11インチとはいえ、さすがに部屋で見るには画面が小さすぎるが我慢しよう。
とにかくゴミ、不要と思われるものは捨てる。洗って乾燥させておいたペットボトルとか、紅茶の葉が入っていた缶とか、雑誌の切り抜きとか、調味料の空き瓶とかなんでこんなものをとっておいたのか不明なものがいろいろ出てきたが、捨てる。こんなに処分しているのになぜか一向に部屋が広くならない。三の丸のオーディオ機器、二の丸のPC関連、本丸の本棚になかなか近づけない。難攻不落だ。600枚を超える音楽CD、400枚を超える映画などのDVDは未だ手付かず(もはやラックに収まらず野積みのタワーと化している)。
引っ越し業者に連絡し、事前に段ボール箱を10箱分けてもらった。しかし、これに野積みになっている有り余る本を詰めると腰が抜けるほど重い。それでは実際の引っ越し作業時に支障をきたすので、適当に分散させながら三の丸、二の丸を攻め始める。腰が痛くなるほど奮闘した結果、やっと廃棄予定の(収容物の重量で変形してしまっている)カラーボックス2個分片付いた。しかし、ここにきて作業スペースが枯渇した。とりあえず玄関近くに段ボール箱を積んでいたが、既に通行が困難な状態にあり、ゴミを持ち出すのですら難儀するようになった。今後の作業スペース確保のためには自力での先行搬入が必要である(車検から戻ってきたら早速輸送手段として活用するだろう)。まだ本丸は堅固な守りを見せているし、二の丸、三の丸を完全にバラすにはまだ先が長い。
クレジットカードの利用明細が届いたのでいつもより念入りに確認する。間違っている点はなかった。自動車任意保険の継続料金が計上されているはずだったが、次の月に送られたのだろう。おいおい金融機関関連の住所変更をするとしよう(口座は移さないので生活が落ち着いてからでも遅くはない。基本的に電話、郵便、メールでO.K.)。
着いてみて立体駐車場が動かない。何度かリトライしても操作エラーを示すアラーム音が鳴るだけ。動かないことには車を格納できないじゃないか。路駐するわけにもいかないし。さんざんアラームを鳴らした挙句、操作盤の裏に操作方法が書いてあることが判明。よく読むと、一旦「呼出」操作を行うことでゲートが開き、「格納」でゲートが閉まる、と書いてある。確かに、ゲートが閉まっている状態で「格納」操作をしても操作エラーだなぁ、と思ったが、それ以前に、「呼出」と書いてあったら普通係員とかオペレータの呼び出しを連想するに決まっている。こういう機械とのインターフェイスは作り手の主観で作られてしまうので、意識に差があると使い手が混乱したり、難しいと思ったりしてしまう。このギャップは埋まることないんだろうなぁ、と思うが、もうちょっと考えて作ってくれよ、と思う。
とりあえず窓を開けて外の空気を入れる。が、水が滴る音がする。どこだ、と思ったらバルコニーの樋の配管から水が漏れてるじゃないか。施工業者を呼び出し、点検してもらう。どうやらちゃんとはまっていなかったらしく、上の階でバルコニーに水を撒いた際にその隙間から漏れていたらしい。こういうのは実際に住んでみないとわからないことだから仕方がないとはいえ、私が気付かなかったらどうするつもりだったのだろうか。
さて、そうこうしているうちにエアコンの搬入である。実際エアコンの設置を自分の目でみたことなかったので、この際だから見学することにする。作業者に取り付け位置を指示すると、取り付け板を固定するためのネジをためらいもなく打ち込んでいく。嗚呼、新品の石膏ボードに穴が開いていくよぉ。まぁ、穴を開けなければ取り付けられないのは頭では理解しているが、キズがつく感じがしてどこか悲しい。室内に配管が通ってると格好がよくないので、電源コンセントをずらすことにしたのだが、こっちも何のためらいもなく穴開けるわ、ネジ打ち込むわ。もう、どうにでもして、という感じでだんだん諦めてくる。
思ったより配管の取り回しに難儀しているのか、かなり時間がかかっている。そこに内装業者からピクチャーレールが届く。で、大雑把に取り付け位置を指示するとまたもや石膏ボードに穴を開けていく。やっぱり悲しい。取り付け箇所が壁コンクリートにもかかる位置だったので、ドリルで穴を開けていくのだが、コンクリートが硬いらしく、汗だくになりながらコンクリート用ドリルの刃3本オシャカにする。すばらしい強度だ。穴さえ開いてしまえば取り付けははめ込みで、さっさと終了。レールは付けてみたものの、現状飾る絵がない。そのうち考えよう。
まだエアコン取り付け作業中(思ったより作業に時間がかかっている)。さらに家具屋からベッド、ダイニングセットが搬入される。エアコンの設置に時間がかかっていたせいか、ベッドの組み立てが15分程度で終わってしまったことに驚く。予定ではエアコン設置後に搬入するはずだったテレビ、照明、冷蔵庫だが、エアコンの作業終了を待たずして搬入開始。こっちも作業を見ているのに飽きてきたので、照明の取り付けを始める。取り付けたところでやっとエアコンの試運転に入り、作業終了。1日かかった。長いよ、まったく。テレビ台の組み立て、テレビの設置(置くだけ。配線はまだできない)を手伝いに近所に住む従弟来訪。新居に招き入れる最初のお客様。さすがに重量44kgのテレビは一人では持ち上げられない。手打ちの蕎麦をもらう。生なので、早速冷蔵庫に電源を入れることに。
これで新居側準備は本棚の設置。こちらは予定より遅れて本番の引っ越しの前日になる、とのことだったので、その日を待たなければならない。ま、それにあわせて二の丸(PC関連)をバラして先行搬入するとしよう。
既に本の重みで変形してしまったカラーボックス2個、これも本の重みで全ての棚が変形している本棚、湿気がこもるのでカビが生えて困っていた組み立て式クローゼット、油汚れで錆びてきたガスコンロを粗大ゴミとして処分する。自治体の粗大ゴミ回収日に合わせるため、先行して本丸(本棚)を攻め落とす。汗だく、埃まみれになりながらついに陥落。腰が痛い。これで作業スペースが出来たと思いきや、Z軸方向に積まれていた物が床の平面にしか置けなくなった関係でさらに狭くなってしまったことが判明。不毛。
新居ではいよいよ本棚の設置。設置作業は開始(午前10時)が早い割には1時間半で全ての作業が終了した。過剰ともいえる数の棚板が付けられてしまったので、実際の本を入れる際にはかなりの枚数を外さなければならないだろう。外した棚板をどこに置くのか、という問題はあるが、先送り。予想より早く終わったので、一旦アパートに戻り、気合いで二の丸(PC関連)、三の丸(オーディオ機器)をバラし、もう1往復する(ISDNのDSU/TAは引っ越し開始直前まで現状維持。でないと電話が通じなくなる)。
引っ越し前夜、両親が上京してきた。引っ越しを手伝うと言う。とりあえずアパートの引き払い時の清掃には人足が必要なので、労働力として確保する。完成した部屋を見せる。ベッドを見せたとたん、その日はホテルも取ってないし私の新居で夜を明かすと言う。まだそのベッドには持ち主である私が寝たことがないというのに。さすがに両親を路頭に迷わせるのは忍びないので、仕方なく了承し、私は泣く泣くアパートの片付け、最後のひと踏ん張りに。午前1時までかかってなんとかやれるところまではやった。
引っ越し当日、予定時刻(午前9時)ぴったりに引っ越し業者到着(ドライバー兼作業リーダーで1名、作業員2名の体制)。怒涛の勢いでトラックへの積み込み、小物類、洗濯機などの荷造りをする。さすが本職。作業が早い。廃棄する古い冷蔵庫2台もさっさと積み込み。料金が高いだけはある。なんと1時間半で全ての作業終了(4tトラック満載)。私の予想時間の半分だった。搬送には首都高速を使う、とのことだったので、渋滞による混雑が心配だったが、実際混んでいても少しずつは動くし、状況がつかみやすい高速の方がベターかもしれない。先回りするつもりで私+両親は電車で新居へ向かうことにした。ほとんど空になった5年半をすごしたアパートを見回して感慨にふける。しかし、そんな暇はない。とにかくこれから新居に搬入という大仕事が待っている。
予想通り私と両親は1時間ちょっとで新居についたが、またしても引っ越し業者は驚異的な速さで既に到着しているではないか。は、速い。思ったより混雑していなかったとのこと。これも電車の方が速いと踏んでいた私の見積もり誤り。まぁ、これはいい方に傾く誤りだ。秋になって日が落ちるのが早くなっていたので、日没時間が気になっていたのだ。これならそれを気にする必要がない。搬入は約1時間で終了。これはほぼ予想通りの結果だ。リビングに積み上げられた段ボールの箱の巨大な塊を見て改めてこれらが1Kのアパートに収まっていたのか、と驚愕する(実際、新居のリビングの広さの部分が元いたアパートの占有面積と同じ。それを考えると驚異的な容積率だったことがわかる)。
一息ついたところで荷解きにかかる。まずは食器類のワレモノ、積み上げられた箱の半分を占める本から手をつけることにする。食器が片付いたところで次なる来訪者、近所に住む従妹登場。貴重な人足である。マンパワー全開で本を本棚に詰める。実際に本を詰めてみて気が付いたのだが、固定された棚板と移動できる棚板との距離と数の関係で、収容にベストな位置が決まらず、中途半端な棚の位置となってしまい、収容効率が思ったほどではない。これは誤算。でも、ここで本を本棚に詰めないことには部屋が片付かないので、整理は後からするものとして移動棚を半分取り払い、とにかく詰める。ほとんどが絶版、もしくは著しく入手困難な本ばかりなので、手に取ってはページをめくる従妹。こっちも何かの役に立ってくれればありがたいので、いつでも借りに来てよいと告げる。
本棚の大半が埋め尽くされ、本日の作業終了。保存用の雑誌を詰めた箱が一つ見つからないが、まぁ、そのうち出てくるだろう。マンパワーのお礼として近くの日本料理店に行って従妹と松茸料理を食す。あまり自己主張しない香りがまた気品をかもしだしていて良し。そう滅多に食べられるものではないので、いい機会である。
従妹と別れ、次の日のアパート引き渡しのための大掃除の予定をどうするのか、という段になって、この晩も両親はホテルに泊まるのは嫌だと言い出す始末(このまま私の新居に泊まるほうが「安心」なのだそうだ。何が「安心」なのかは不明)。東京に不慣れな両親なので、待ち合わせで気を使うよりはいいかと思い、手持ちのキャンプ用品などでとりあえずスペースを作る。
次の日は14時が引き渡し、大家さんの確認となっているので、それまでに掃除を済ませないといけない。掃除をあまりしない性格の上に1階であまり風通しがよくなかったこともあり、かなり汚れている。とにかく気合い、気合いで掃除だ。みるみる雑巾は汚くなり、洗剤が消費されていく。よくもまぁ、こんなところで「生活」していたものだ。最近流行りの洗剤不要スポンジ(メラミン樹脂)を使用してみる。水を含ませ、汚れの上から擦ることで樹脂繊維が汚れとくっついてスポンジから剥がれていく(研磨効果)、というのがこのスポンジである。話半分だろうと思って使ってみるとびっくり。諦めていた油汚れとか水あかとかカビとかみるみる落ちる。おぉ、科学の力だ。凄い。さすがドイツで開発されたことはある。しかし、感心している場合ではない。とにかく掃除あるのみ。
途中休憩をはさみ、なんとか予定時刻までに掃除終了し、大家さんに引き渡す。すんなりO.K.。お世話になった大家さんなので、最後の最後でご迷惑をかけたくなかったため、ほっとした感じがする。掃除用具を車に積み込み、新居へ向けて出発。住み慣れた町を離れるのは寂しい気がするが、仕方がない。勢いでマンション買っちゃったんだから。
ということで、後先考えず勢いだけでやってきた割りにはなんとか大きな問題もなく新生活を始めることができた。山積みの段ボールをどうやって片付けるのか、というのはあるが、ちびちびと作業をしていけばそのうち終わるだろう。ここのところ引っ越しでいろいろとあわただしかったが、これにて終息。新生活を楽しむことにしよう。