新しいホームページができました(H28.1月)。
新しいホームページにはブログもあります。
ブログは毎日新しいものが載ります。
好評をいただいています。


アコールの理論・Q&A

アコールのベビーブレスを中心とするセッションは、長年の体験の積み重ねによる伝承的なものです。人が人へ五感を通して伝えるものです。言葉とは縁のない世界でした。人の心理の深い部分を扱うときに、言葉による表現は足りないことが多いものです。

しかしアコールのベビーブレスのセッションは著しい効果があるため、なぜそんな効果が上がるのか、理論できちんと説明すべきだという声が聞かれます。特に、男性から多いようです。
 
仮に理論を説明できても、聞いた本人が深く自分の中に入ることにあまり役に立つとは思われません。かえって予断が入り、害になる恐れさえあります。あまり乗り気になれませんでした。

しかしながら、セッションの工夫を重ねるにつれ効果はますます大きくなり、更に、いろいろの心の状態の人々がセッションを受けるようになり、どうしても理論化の必要に迫られ、ようやくここに現代医学の概念を用いて表現してみました。
              
 *なお、表現をわかりやすくするために、質問形式にしました。 また、文中の【 】の中の数字は引用文献(Q101~Q110ページの文末に掲載)を示します。
 *ここに体験者の許可を得て、体験談をご紹介します。

Q1~Q25>>Q26~Q50>>Q51~Q75>>Q76~Q100>>Q101~Q110
Q1
 人が心理的・精神的に悩むということはどういうことですか。
Q2
 私たちが乳幼児期に特に母親との間で形成された傷とは、具体的にはどういうことですか。
Q3
 母親からの愛情がないと生きられないのはなぜですか。
Q4
 母親から愛情がもらえず、否定されると、どうなりますか。
Q5
 母親は、どうしてそんなひどいことをするのでしょうか。
Q6
 ベビーブレスとはなんですか。
Q7
 隠れた感情の体験、傷の再体験とは具体的にはどんな感じですか。
Q8
 傷の再体験をするとなぜ、傷が原因となっていた悩み、不全感、症状などが改善され、 消滅するのですか。
Q9
 人間関係の悩みや不全感も、いわば軽い神経症的傾向、軽い精神病的傾向として理解できるということですが、そうなんですか。
Q10
 そのような心理的トラブルが、乳幼児期に母親との間で形成された心の傷が原因になっているという立場があるということですが、どんな内容ですか。
Q11
 固着とか退行とか、例を挙げて説明して欲しいのですが。
Q12
 精神分裂病やそううつ病を乳児の発達段階と関連して説明するクラインの立場をもう少し詳しく説明して下さい。
Q13
 母に対する愛情と攻撃性の両側面(アンビヴァレンスや両価性ともいう)を認識する結果、母親を愛するのみでなく、傷つけてしまうのではないかという不安を抱き悩むようになり、抑うつ不安に支配される乳児の発育段階を抑うつ態勢というそうですが、この抑うつ態勢について、もう少し知りたいのですが。
Q14
 母に対して持つ愛情と攻撃性の両側面をアンビヴァレンスや両価性ともいうそうですが、何か大切な概念のようですね。
Q15
 今までの話によると、生後6ヶ月くらいで乳児の精神状態が大きく別れ、前の時期の乳児は混沌とした精神状態にいて分裂と関係があり、後の時期では母に対するアンビバレンスすなわち愛憎相反する精神状態が生じてそううつ病と関係があり、その精神状態が大人になってからも影響するということですね。
Q16
 成人の分裂病やそううつ病が、生後6ヶ月前後という早い時期に関係するということですが、そのような精神的な病気の発生が、遺伝やウイルスなどでなく、母親の養育態度のいかんに関わっているというのは本当ですか。
Q17
 精神病は乳幼児期の発達段階と関係し、精神病の発生は母親の養育態度のいかんに関わっているという学説を唱えたクラインやウイニコットは数十年前の人ですが、これらの説は現在どのように発展していますか。
Q18
 精神病については、乳幼児期の発達段階と母親の養育態度が関係しているということだと思いますが、普通の人の心理トラブルにも、これらが関係しているのでしょうか。
Q19
 木田恵子女史は、乳幼児期の発達段階と関係して、どのように正常人の性格を分類していますか。
Q20
 クライン、ウイニコット、木田恵子女史などのように乳幼児期に着目した説は、少数派なのでしょうか、多数派なのでしょうか。
Q21
世代間伝達とはどういうことをいうのですか。
Q21-2
 想像の赤ん坊とは、どんなことですか。
Q22
 世代間伝達といわれるような親から子への心理的な伝達は、子どもの乳児期や乳児期に伝達される内容が、子どもの人生にとって大きな意味を持つのでしょうか。
Q23
 子供が親の不安などに敏感に反応するエンパシー(感入能力または共感)とは、何ですか。
Q24
 このエンパシーという考えを唱えたサリヴァンとはどんな人ですか。どうして分裂病のことがよく分かるのですか。
Q25
 そのように心理的トラブルの原因を乳幼児期にみるのは、精神医学では一般的なのでしょうか。
し無意識の意識化をくり返して行うことで、最終目的地はどのようになるのでしょうか。
Q1~Q25>>Q26~Q50>>Q51~Q75>>Q76~Q100>>Q101~Q110
Q1
 人が心理的・精神的に悩むということはどういうことですか。
A1
 この質問に対し、単刀直入な言い方をすれば、私たちが乳幼児期に特に母親との間で形成された心の傷が原因になって、いまだにもがき苦しみ続けているのです。アコールでセッションを受けていただいた多くの人の聞き取り記録は、すべてこのことを裏付けます。
 悩みの種類には、悩みの対象がはっきりした例えば人間関係の悩み、対象がはっきりしない不全感、神経症や精神病の症状などに煩わされること、などがあるように思います。神経症や精神病の症状が、どのようにして、なぜ、生じるかは、これらについて、例えばフロイトやその流れを汲む人々など先人たちが研究した結果を勉強すれば、私たちにもおおよそのことが分かります。また、神経症や精神病まではいたらない人間関係の悩みや不全感も、いわば軽い神経症的傾向、軽い精神病的傾向として理解できます。
 この研究結果の中で、神経症や精神病、さらには人間関係の悩みや不全感など(以下これらを全体として心理的トラブルという)も、私たちが生まれてから3歳くらいまでの乳幼児期に、特に母親との間で形成された心の傷が原因になっているという立場があります。フロイトの流れを汲むメラニー・クラインやドナルド・ウイニコット、日本では木田恵子などの立場です。後で詳しく説明します。
 私の経験やベビーブレスを受けてくれた人の経験は、経験した人にとっては納得できることが多いのですが、他の人から見ると不思議に思えることがあります。この不思議な体験は、実は不思議ではなく、なるほどそうだったのかということが、上の立場から説明されます。
Q2
 私たちが乳幼児期に特に母親との間で形成された傷とは、具体的にはどういうことですか。
A2
 この質問に対しても、なりふり構わず言ってしまえば、その傷とは母親から私たちが否定されることで形成されます。この否定とは、簡単に言えば、母親から愛情を十分にもらえないことによる私たちの存在の否定です。乳幼児のような小さな子供は、母からの、あるいは祖母に育てられた人は祖母からの愛情がないと、本当の意味では生きられないのです。
Q3
 母親からの愛情がないと生きられないのはなぜですか。
A3
 全く愛情がないときは、多分、体がうまく大きくなれず生物としても生きていけないでしょう。少ししか愛情がないときは、暖かみのある人間としては生きていけないでしょう。小さな子供は、愛情をもらえないと、自分の存在を否定されたように感じるようです。なぜかと言えば、分かりません、でもそうあるしかない、と思います。
Q4
 母親から愛情がもらえず、否定されると、どうなりますか。
A4
 母親は、乳幼児のような小さな子供にとっては、自分にオッパイやミルクをくれ、おしめを換えてくれ、食べ物を与えてくれる、いわば全世界そのものです。その全世界から否定されると、ある人は心の深層の部分に全世界(母親)に対する憎悪を形成します。しかし反面、母親はその人にとってはどこまでもかけがえのない愛しい母親であり続けます。その人は、憎悪と愛情の狭間で引き裂かれるように苦しみます。この憎悪と愛情のような相反するふたつの気持を、アンビヴァレンス(両価性)と言います。また、もっとひどい場合には、母親に対する憎悪さえ形成できないことがあり、自分で生きていきたくなくなります。心の底から、純粋に自分の死を望むようになります。これをフロイトは死の本能と呼びました。
 小さな子供は、この引き裂かれる苦しみや生きていきたくない気持に耐え続けることはできませんので、無意識のうちに心理的な工夫をしながら、なんとか生きていきます。この工夫は、苦しみから防衛するためのもので、防衛メカニズムといい、主なものに抑圧やスプリッティング(分裂)と呼ばれるものがあります。この防衛メカニズムは、生きる上に必要なことですが、同時に、色々な心理的・精神的なトラブルのもとになります。
 そして、防衛された苦しみは、なくなってしまうのではなく、心理的に消化されないまま心の中に傷となって残ります。この傷は消化されない限り一生生き続けますので、防衛メカニズムも一生働き続けることが必要になります。このため、心理的・精神的なトラブルも、そのままでは、一生続きます。
Q5
 母親は、どうしてそんなひどいことをするのでしょうか。
A5
 わざと、そんなひどいことをする母親は、多分、一人も居ないでしょう。彼女もまた、同じような傷を持っていたと思われます。自分が愛されずに育った人は、そのままでは、自分の子供にも愛情を与えることができません。子供が愛情を求めてすり寄ってきても、彼女にはうっとうしく感じられるかもしれません。子供の泣き声にイライラしてしまうかもしれません。そして子供は愛情をもらえません。気が付かないうちに、親の傷が子供を傷つけるのです。これを世代間伝達と呼びます。この世代間伝達を防ぐことが精神医学の一つの目的でもあり、ベビーブレスの目的でもあります。
Q6
 ベビーブレスとはなんですか。
A6
 呼吸を使って、自分の心にある隠れた感情を体験する手法です。この感情は、心の深層の傷に直結しているので、その傷を再体験することになります。傷の再体験がなされると、この傷が原因となっていた諸々の悩み、不全感、症状などが改善され、場合によっては消滅します。
Q7
 隠れた感情の体験、傷の再体験とは具体的にはどんな感じですか。
A7
 精神医学でいう治療的退行を経験することになります。退行とは、簡単にいえば、幼児帰り赤ちゃん帰りです。感情が沸き起こるに連れて心理的に退行が生じ、大方は精神的な抑圧の解除などがなされ、退行は表層から深層へ段階を追って進みます。
 具体的には、その人その人で千差万別なのですが、無理に一般的な例を作って説明しますと、表層では、その人の悩んでいる上司部下の関係、嫁姑の関係、夫または妻との関係、自分の子供との関係、あるいはその人が教師の場合には生徒との関係などが出ます。この層は、あまり厚くなく、次の2番目の層へ移り、その人の兄姉・姉弟との関係、父との関係、祖父母との関係などが出ます。やがて順調にいけば、3番目の層へ行きます。この層では母との関係が、青年期・少年期・児童期・幼児期の順で出ます。そして、ベビーブレスを重ねることで、最後の最も深い層に行きます。この層では乳児期・胎児期が出ます。主観的には母との関係は消滅し、後で述べるようにフロイトがいう死の本能などを体験します。
Q8
 傷の再体験をするとなぜ、傷が原因となっていた悩み、不全感、症状などが改善され、 消滅するのですか。
A8
 なぜなのか、不思議ですが、そうなのです。A4で述べたように、子供の頃に防衛し心の中に残ってしまった傷は、消化されない限り一生生き続けます。まるで、いつか消化され理解されることを待っているようです。ベビーブレスの中の再体験では、心の傷は、恐怖や不安として認識されます。この恐怖や不安を十分に体験できれば、心の傷は消え始めます。心理的な消化が起き始めます。この効果はベビーブレスの後、少しずつ、長い間持続します。あたかも自然治癒力が備わっているようです。効果は、本人が自覚するよりも早く、周りの人が気が付くことが多いようです。本人が効果を実感として自覚するのには、数ヶ月以上かかることもあります。
 この自然治癒力は、傷が再体験されることがなければ、言い換えれば防衛が継続して働き続けるのであれば、発揮されません。不思議です。
【本論】
【乳児期と悩み(心理的トラブル)】1
Q9
 人間関係の悩みや不全感も、いわば軽い神経症的傾向、軽い精神病的傾向として理解できるということですが、そうなんですか。
A9
 自分たちの経験では、その通りです。しつこい悩みや不全感を持っている人は、神経症とまでは行かなくても、神経症の場合と同じように、心の中に抑圧された部分を持っています。そしてこの抑圧された部分が、ベビーブレスで再体験することを通して理解され、悩みなどが改善されたり、消失したりします。神経症も、抑圧された部分が理解されることで治るので、メカニズムは同じです。だから軽い神経症的傾向といえます。
 さらに深い心理的なトラブルを抱えている人の中には、例えば精神病である分裂病の場合と同じように、スプリッティングという防衛メカニズムが働いている人々がいます。軽い精神病的傾向といえます。ですから、神経症や精神病のことを理解することは、私たちの悩みなどを理解することに非常に役立ちます。
Q10
 そのような心理的トラブルが、乳幼児期に母親との間で形成された心の傷が原因になっているという立場があるということですが、どんな内容ですか。

A10
 ウィーンの神経学者であったフロイト(1856~1939)が創設した精神分析学では、精神的な病気は、幼少時期の精神の未発達な段階に留まっていたり(固着)、逆戻りしたり(退行)することと関連して理解されました。そして、その流れを汲むクライン学派のメラニー・クライン(1882~1960)は、この理解を更に押し進め、例えば精神分裂は、生後3から4ヶ月ころまでの新生児の段階に関連し、そううつ病は、生後約6ヶ月以降の段階に関連することを見いだしました。この学派から出発し新しい学派の中心となった英国の児童精神科医ドナルド・ウイニコット(1896~1971)は、更に、そのような精神的な病気の発生は、母親の養育態度のいかんに関わっていることの解明を進めました。【15】p164~167

Q11
 固着とか退行とか、例を挙げて説明して欲しいのですが。
A11
 人は、胎児、乳児、幼児などの段階を通して大人になってきているわけですが、大の大人があるとき人前や仕事場などでいきなり幼児がえりしたりすると、これはもう、おかしくなったと思われてしまうわけですが、他方では、気心の知れた人々と酒盛りをして泥酔したときなどは、まるで幼児のようになったりしますし、よくあることです。このような幼児がえりが退行です。自分で制御できずに退行が起きると、病的で困ったことですが、ベビーブレスなどの精神療法では、意図的に退行を起こし、その時に治療的効果があるので、これを治療的退行といいます。ベビーブレスでは、赤ちゃん(乳児)がえり、胎児がえりも見られ、そのぶん深い治療効果があります。制御できない病的な退行にも、ある意味では治療効果があって、だから精神的に追いつめられたときなどに思わず退行するのかも知れません。
 ベビーブレスでの退行は、その人の小さいころの問題点へ退行することがほとんどです。この問題点のことを固着といいます。例えば、3歳のときにつらいことがあった場合には、その3歳のころに退行して感情を吐き出します。制御できない退行でも同じかもしれません。
 また、完全に幼児がえりなどを起こすのではなく、神経症の症状も固着と退行の考えで説明がされます。
 たとえば強迫神経症のような人は、何度も手を洗わずにはいられないとか、鍵やガス栓を何度も確認せずにはいられないとかいうことがありますが、これは2~3歳ころの幼児がトイレットトレーニングで大小便をきちんとすべき場所にするようにしつけられる時期になんらかの理由で固着があり、その固着に戻ってしまうというわけです。【15】p164~165
Q12
 精神分裂病やそううつ病を乳児の発達段階と関連して説明するクラインの立場をもう少し詳しく説明して下さい。
A12
 簡単にいうと、分裂病や躁鬱病のような重いトラブルも、人生の早い時期への固着と退行という考えから説明できるという立場です。 まず、生後半年近くの間の乳児は、いろんなことの区別がつかない混沌とした状態にいます。つまり、自分と自分でないもの(母親などの対象)との区別がつかず分裂しています。また、母親についても全体として認識できず、たとえば顔やオッパイなどの部分に分裂した認識にとどまっています。また、欲求を満たしてくれる良いオッパイ(母親)のイメージと、空腹なのに欲求を満たしてくれない悪いオッパイ(母親)のイメージとが別個の存在として分裂しています。さらに、このように対象(object)が分裂して認識されるだけでなく、対応する自己(self)も分裂しています。
 そして、欲求を満たしてくれない悪い対象や悪い自己(bad object and self)が欲求を満たしてくれる良い対象や良い自己(good object and self)を破壊してしまうのではないかという迫害的不安ににおそわれる。この不安は乳児の主観の中で自分の攻撃性を投影して生じる、いわば妄想的なものです。特に、生後3から4ヶ月ころまでの新生児の段階に活発に見られます。
 乳児のこの時期の発達段階を、妄想的-分裂的態勢(paranoid schizoid position)と呼びます。この態勢(position)という言葉を使うのは、このような発達段階を乳幼児が一過性に通過するのではなく、成人後の精神生活にも一生を通じて存続するものであり、ときに(退行によって)復活することを強調するためです。
 成人の分裂病者は、外界が信頼できず、何時も迫害を受けるのではないかという感覚に支配され、その結果、現実を客観的に見ることができなくなって自分だけの主観的な見方、つまり妄想的になり、また例えば、ある人を「好き」だと思う気持と「嫌い」だという気持が統合されないで並存するなど分裂的になる特徴がありますが、これらの特徴は乳児の妄想的-分裂的態勢と関連しています。
 また、乳児はさらに成長して生後約6ヶ月以降になると、母親など(対象)や自分を全体的に認識できるようになります。つまり、母親は欲求を満たしてくれる良い面と満たしてくれない悪い面の両側面を有する一人の人間として認識すると同時に、自分にも、例えば母に対する愛情と攻撃性の両側面(アンビヴァレンスや両価性ともいう)があると認識するようになります。その結果、自分にとって大切な対象、たとえば母親を自分が愛するのみでなく、怒りや攻撃性を向けてしまうこともあることに気づくようになり、そのために対象を傷つけてしまうのではないかという不安を抱き悩むようになります。この不安は、罪悪感を伴う苦痛なものであり、抑うつ的不安と呼ばれます。この不安が支配的な乳児の発達段階を抑うつ態勢(depressive position)と呼びます。そして、この罪悪感の苦痛などを避けるために、逆に、自分には万能的な力があって対象は自分の自由に支配できる、あるいは少しも大切ではないなどと主観的非現実な世界に逃避するそう的防衛を行います。この発達段階をそう的態勢(manic-depressive position)と呼びます。
 成人のうつ病患者は、自分自身の攻撃性をめぐる罪悪感やそれにともなう抑うつ感情などを特徴としますが、これらの特徴は乳児の抑うつ態勢に関連しています。
また、成人のそう病患者は、現実の否認や対象の支配などを特徴としますが、これらの特徴は乳児のそう的態勢と関連しています。
 これらがクラインの主な立場です。【15】p164~167【14】p855、794
Q13
 母に対する愛情と攻撃性の両側面(アンビヴァレンスや両価性ともいう)を認識する結果、母親を愛するのみでなく、傷つけてしまうのではないかという不安を抱き悩むようになり、抑うつ不安に支配される乳児の発育段階を抑うつ態勢というそうですが、この抑うつ態勢について、もう少し知りたいのですが。
A13
 そうですね。この部分はベビーブレスの中で、人によっては退行していって直接に主体的に体験する場合も多く、大切な部分です。
前に述べたように、生後約6ヶ月前の幼児は妄想的-分裂的態勢にあり、迫害的不安を抱きますが、これは悪い対象や悪い自己と、良い対象や良い自己とが分裂していることから生じます。生後約6ヶ月を過ぎると、乳児はこれまで分裂して経験していた「悪い対象」と「良い対象」が同一の対象であることに気づき、自分が攻撃性を向けてきたことに強い罪悪感を抱くようになります。 このとき、乳児が愛情と憎悪の両価性に耐えて、対象を喪失することへの抑うつ的不安を克服するならば、万能的幻想(そう的防衛)は薄れ、自分自身及び対象の現実をありのまま受け入れることができるようになります。これは他者への愛情の基礎となります。逆に、抑うつ的不安に耐えられないとき、妄想的-分裂的態勢に逆戻りするか、対象への依存を否認するそう的防衛に訴えることになります。 【14】p794
Q14
 母に対して持つ愛情と攻撃性の両側面をアンビヴァレンスや両価性ともいうそうですが、何か大切な概念のようですね。
A14
 そうです。とても大切です。
 私たちの心理を理解するのに大きな鍵になる精神状態のように思えます。幼児期の母に対する態度が基本にありますが、成人の精神生活の中では、当然のことながら、いろいろな対象に対しての種々の精神状態をいいます。
すなわち、このアンビヴァレンスの定義は、精神医学事典によれば、同一の対象について、愛と苦しみ、友好的態度と敵対的態度のような、相反する心的傾向、感情、態度が同時に並存する精神状態をいう、となります。
 精神分裂病という名前を導入したことで有名なスイスの精神医学者ブロイラーは、これを3つの種類に分類しています。(1)たとえば「食事をとろうとし、同時にとるまいとする」ような意思のアンビヴァレンス(2)たとえば「夫が妻を愛しながらも憎む」というような情動のアンビヴァレンス(3)たとえば「私は田中です。私は田中ではありません。」というような知的なアンビヴァレンスです。ブロイラーは、アンビヴァレンスを分裂病の基本症状とし、分裂病者は彼の連合能力(統合する力、著者注)の衰弱のために、ものごとの様々な側面を一つにまとめて考えることができないためであるとする。また、彼は、アンビヴァレンスを健康人の夢ではありふれたものであるとし、正常人にも正常なアンビヴァレンスが心的に対立する力の平衡を作り出すのに大きな意味を持つとします。
 さらにフロイトは、過度の感情のアンビヴァレンスは神経症者に特有な特徴であるが、強迫神経症の場合、このアンビヴァレンス感情は「一対の対立物への分裂」を遂げることが特徴であり、(具体例として)愛と憎しみという二つの対立物へ分裂、その一方である憎しみの抑圧に注目した。また、彼は、性本能の発達過程について、最初の口愛期(生後6ヶ月までくらい)における合体(かわいくて食べてしまいたい)を、一種の愛であって、アンビヴァレンスと命名しうるといいました。
また、クラインは、本能は基本的にそのはじめからアンビヴァレントであって、対象への愛と破壊は不可分であり、このアンビヴァレントに耐えられないときには、良い対象と悪い対象への分裂(splitting)が生じるとしました。
 ドナルド・ウイニコットは、人間の心的健康度を、同一対象に対するこのアンビヴァレンスに耐えうる能力で規定しています。  【14】p26、27
 <はい色ガンの雛鳥の行動から「刷込(インプリンティング)」という概念を広めたことで有名な動物行動学のコンラット・ローローレンツは、鳥の求愛動作は攻撃動作が変化したものといっている。また性的な興奮が、破壊あるいは攻撃のエネルギーに変換されてしまうことも、動物の発情期の行動や自分たち自身の経験から理解できることです。
Q15
 今までの話によると、生後6ヶ月くらいで乳児の精神状態が大きく別れ、前の時期の乳児は混沌とした精神状態にいて分裂と関係があり、後の時期では母に対するアンビバレンスすなわち愛憎相反する精神状態が生じてそううつ病と関係があり、その精神状態が大人になってからも影響するということですね。
A15
 だいたいそうです。生後6ヶ月位を境に歯が生えないか、生えるかが分かれます。前の時期は、歯が生えずに吸う活動が中心です。そして先に述べたように妄想的-分裂的態勢といいますが、別に「前アンビヴァレンス段階」ともいうそうです。自己と対象が未分化であるばかりでなく愛情と攻撃も未分化な時期であり、したがって乳児は両価性を体験することもありません。これに対し、後の時期には、歯が生え噛むことができ、噛むことが快感でもあり対象を破壊することでもあることを経験することから、対象に対し両価的な関係を持ち始めるということです。【14】p482
Q16
 成人の分裂病やそううつ病が、生後6ヶ月前後という早い時期に関係するということですが、そのような精神的な病気の発生が、遺伝やウイルスなどでなく、母親の養育態度のいかんに関わっているというのは本当ですか。
A16
 この部分はドナルド・ウイニコットの説によるところですが、自分たちがベビーブレスで、自分自身の体験または参加者の体験として経験するところによっても、正にその通りだと思います。
ドナルド・ウイニコットは、分裂病や根深い病理の発生を子供の心身を抱える環境(holding enviroment)やほどよい母親(good enough mother)の側の失敗に対応するものとしてとらえています。育児に没頭する母親に抱えられて絶対依存を経験せねばならない赤ん坊が、取り返しのつかない外界からの侵襲のために想像を絶するような精神病的不安を体験するのであり、環境の失敗に適応するために子どもが本来の創造性を犠牲にして妥協するとき病的な防衛的自己(偽りの自己false self)が生まれるといいます。 【14】p843
Q17
 精神病は乳幼児期の発達段階と関係し、精神病の発生は母親の養育態度のいかんに関わっているという学説を唱えたクラインやウイニコットは数十年前の人ですが、これらの説は現在どのように発展していますか。
A17
 クラインやウイニコットの書籍は、現在でも本屋さんに並んでいますので、古くなってっしまった学説ということではないと思います。日本では、木田恵子女史がさらに発展させた説を出版しています。また外国で、特に米国で精神医学のいろいろな分野へ発展しているようです。
Q18
 精神病については、乳幼児期の発達段階と母親の養育態度が関係しているということだと思いますが、普通の人の心理トラブルにも、これらが関係しているのでしょうか。
A18
 そうです。自分たちのベビーブレスの経験からすると正にその通りです。また、前に述べた木田恵子女史が正常人の性格の分類に、これらの関係を応用しています。女史は、日本の精神分析の創生期に第一人者としてかかわりフロイトのもとに留学したことがある古沢平作博士の愛弟子で、約60年の精神分析家としての経験があり現在も活躍しておられます。
Q19
 木田恵子女史は、乳幼児期の発達段階と関係して、どのように正常人の性格を分類していますか。
A19
 既に述べたように、精神分析学では精神病の原因を、人生初期の性格形成上の問題点(固着)に求め、どの時期に問題点があるかで、どのような精神病を発病するかという分類が説明できるとしているが、この分類は、正常人の基本的な性格の分類にも用いることができると、彼女は考えます【10】。すなわち、
 正常人で分裂型の性格の人は、胎内から生後6ヶ月ぐらいを中心に、つまりオッパイすってネンネしての時期(口愛前期)に固着があり、0歳人と名付けます。周囲に対する関心が薄く、孤独的です。0歳人でも特に、胎児期や出生時に悪い状態におかれると、人生の出発に存在そのものが否定されるので、フロイドのいう死の本能が強くなり、生きる力がとかく死の本能に負けそうになり、自滅的な傾向が強く出ます。0歳人には非現実性がありますが、その非現実性が高い知能の働きによってかえって自分自身の発想を持ち、独創的になる可能性も十分あるでしょう。
 パラノイア(妄想)型の性格人は、6ヶ月から1年半ぐらいを中心に、ハイハイして歩き出すが、排便のコントロールは難しい、つまり肛門の括約筋が発達する以前のたれ流しの時期(肛門愛前期)に固着があり、自己の胎内の自己の所有物と感じられるものが自分の意志とかかわりなく出ていくので、絶滅感や喪失感から一種破壊的傾向を強くするといい、1歳人と名付けます。自分の力では何もできない無力な存在で受け身なくせに、転んでぶつかったりすると自分を痛くした石を恨む他罰的な気持が強く動きます。離乳で下手をすると1歳人になってしまいます。今まで十分に与えられていたこの親しいもの(乳)が与えられなくなるのかは理解できないので、母への憎悪が湧きあがります。しかし母親は一番好きな大事な人で、そこには愛憎相反するものが共存する心理、つまり両極性(両価性のこと)があります。
 なお、病気としてのパラノイアは、妄想症、偏執狂ともいい、通常、幻覚や分裂病性の思考障害は伴いません。【14】p768
 抑うつ型の性格の人は、1年半から2年半ぐらいを中心に、つまり噛む力が強くなって離乳されてしまう時期(口愛後期)に固着があり、2歳人と名付けます。自己主張が強く、能動的で、相手構わず押しまくり、相手から強く反撃されるとグシャッとなってしまいます。躁うつの波の発生源は愛憎の相反性にあるために、生き生きと発散されます。
 強迫神経症やある種のてんかん神経症型の人は、肛門の括約筋が発達し排便の躾が行われる時期(肛門愛後期)に固着があり、獲得、所有の傾向が強くなるといわれています。精神病ではなく神経症になります。
  【10】p119~122、p124、p142、p167、p190
そして、「人に追従」するとき、2歳人はその人に愛されたいからですが、0歳人は愛されたいよりも否定されることが怖いから、ということになります。0歳人が人を避けたりするのは、否定されることに対する鋭敏さがあって、否定され自己嫌悪が刺激されるような場面を避けようとするためだったりします。【10】p192
 また、「妄想」について、分裂病の妄想は0歳児の未発達な非現実的な状態から出るので、誰から見ても奇妙なことがよく分かります。しかし1歳人のパラノイア型の妄想は、内なる万能感と外なる現実のギャップを外部のせいにして深く怨むところから発生するので、実情を知らない第三者には妄想であることが見抜けないほど日常性を帯びます。 【10】p142
 さらに「怨み」について、新生児(0歳人)の怨みは対象が明確でなく、特定の対象にいつまでも執念深く取り付いて離れないようなものではありません。1歳人の怨みは、晴れるときがあるとは思えないしつこさがあります。もともと怨みの根は空想的に高められた自己像と現実の自分との間の格差にあるのですが、その格差を認識するのを恐れ、認識することの防衛として、他罰的妄想的に怨みを作り出すのです。
【10】p143
また彼女は、自閉症をなんらかの理由で乳児に止まっている精神であるとも考えています。【10】p37
Q20
 クライン、ウイニコット、木田恵子女史などのように乳幼児期に着目した説は、少数派なのでしょうか、多数派なのでしょうか。

A20
 詳しくは分かりませんが、精神医学のかなり大きな学問の流れになっていると思われます。
 まず、ウイニコットらの研究を背景に、1980年には世界乳幼児精神医学会の初回開催が行われています。この「乳幼児精神医学」では、乳幼児の問題には、放置すれば後年精神病理に発達するリスクを持つ状態がある一方で、乳幼児期の急速な発達力ゆえ適切な介入により解決しやすいと考えられており、胎生期発達の解明、精神病理の世代間伝達の解明などが焦点とされています。【14】p606
 また、ウィーンの児童精神科医、精神分析医、小児科医であるマーラーは「固体分離化理論」として、母子の共生的な状態から乳児が自立していく段階を、正常な自閉、正常な共生、分離・固体化の順で説明しています。
 また、英国の児童精神科医、精神分析医であるボウルビーは、乳幼児は母親とのたえまない相互作用の中から特別な母子の絆を形成し、それを根拠に外界を探索し、対象世界を発展させ、ここに生涯の対人関係の土台となる内的作業モデルが発達するといいます。【14】p901
 そして、早期乳児期に母親から分離されたり絆が破綻したりすると、この内的作業モデルに影響を及ぼし後年の精神問題のリスクを高めます。この絆の形成に関連し、エインズワースは、乳幼児が本能的に母親にしがみついたり後追いしたりする母子の相互関係を示す愛着(アタッチメント)という概念を導入しました。彼は、この愛着パターンの個人差をstrange situation というテストで検査した。この検査は、見知らぬ人のいる状況で母から乳児を分離するなどの場面で乳児がどう反応するかを見るものです。この反応は4つのタイプに分類されます。すなわち、

A 再会時に乳児は母親を避ける回避型
B 再会時に母親を求め、しばらくすると落ち着く安定型
C 分離時に動揺し、再会時に母親に両価的に振る舞う両価型
D 再会時の混乱の度合いや複雑さが強い混乱型

さらにメインは、この検査を親に応用する成人愛着面接というのを作成しました。この面接は、幼児期の愛着体験を親にたずねるもので、面接結果は3つのタイプに分類される。すなわち、

(1)葛藤的な記憶は忘れ去り、表層的なよい記憶のみ語る却下型。
(2)幼児期の愛着体験をありのまま、まとまりある形で語る自律的安定型
(3)葛藤に満ちた幼児期の愛着体験をとりとめなく、まとまらぬ形で語る没入型

 この3つのタイプの親は上のA,B,Cの成人版に匹敵し、自分が乳児のときにそれぞれ、乳児のA回避型、B安定型、C両価型であったと考えられる。さらに、(1)の却下型の親がA回避型の乳児を、(2)の自立安定型の親がB安定型の乳児を、(3)の没入型の親がC両価型の乳児を生み出すという親子同型が見られる。これにより愛着パターンの世代間伝達が示される。    【14】p7
く片伯部の親は却下型、自身も却下型>
 また、米国の児童精神科医、児童分析医であるフライバーグが創設した「親-乳幼児精神療法」は、親と乳幼児の問題を両者の関係性障害と見なし、この障害の要因に、親の無意識の幼児期の記憶などをあげます。不幸な乳幼児期を持つ親は、泣き声などにより過去の悪夢に悩まされ、つまり不幸な情緒を甦らせ、乳幼児に過去の葛藤的関係を重複させる現象があるとし、この現象を「赤ちゃん部屋のお化け」と呼びます。この療法の目的は、乳幼児を親の転移(A108を参照)対象であることから解放すること、すなわち世代間伝達(A21を参照)を防ぐことです。
【14】p85p889
<自分の赤ちゃんの泣き声に耐えられず癇癪を起こした片伯部>

Q21
 世代間伝達とはどういうことをいうのですか。
A21
 世代間伝達という概念は、自分の心理のからくりを理解するのにとても重要な概念です。
 世代間伝達とは、例えば、祖父母から親へ、親からその子どもへというぐあいに、各世代は、その家族が抱く子どもイメージや子どもへの期待、子どもにたいする愛と憎しみの葛藤などを世代から世代へ伝達していくことをいいます。伝達される内容は、このようなイメージ、期待、葛藤などに限らず、家族が共有する顕在的な家族神話のようなものもあります。生まれてくる赤ん坊に投影される想像の赤ん坊(A21ー2参照)イメージにも、世代間伝達が関係しているものがあります。
それぞれの家族成員はそれぞれの世代特有の歴史を持っているが、そこには各世代の発達経験を次の世代に直接に、または間接に伝達する作用がある。この世代的な伝達内容は、各家族成員によって自己の中に内在化されていく。例えば、母親の自分自身の母親との関係の回想が、自分の娘との間の相互関係の中に伝達されていく。また、自分のきょうだいとの関係が自分の子どもたちに投影(A75、77参照)され、同一視(A76、77参照)される。
このような世代間伝達によって、例えば親に虐待された子どもは、無意識のうちにまた自分の子どもにたいする虐待をくり返すといわれる。虐待以外にも、自殺、アルコール依存症、離婚などが伝達されて各世代にくり返されることが見いだされている。       【14】p478
Q21-2
 想像の赤ん坊とは、どんなことですか。
A21-2
 フランスの精神分析医で乳幼児精神医学の指導者であるレボイッシュが唱える概念で、女の子は、自分の人生の初期に未だ自分の母親と同一化している状態で、自分の母親に同一化し自分の父親の子供を身ごもり産むことを願うが、このときの空想の赤ん坊を「幻想の乳児」という。やがて女の子は成人し、自分が産むであろう赤ん坊について、想像生活や白昼夢で種々の想像を思い描き、名前を付けたり愛称で呼んだり語りかけたりする。これを「想像の赤ん坊」という。実際に妊娠した彼女は、妊娠中や出産後に、現実の胎児や乳幼児に対し、「幻想の乳児」や「想像の赤ん坊」を投影(A75、77参照)する。
Q22
 世代間伝達といわれるような親から子への心理的な伝達は、子どもの乳児期や乳児期に伝達される内容が、子どもの人生にとって大きな意味を持つのでしょうか。
A22
 きわめて大きな意味を持つと思われます。
 例えば分裂病の研究で有名な精神分析学者であるハリー・スタック・サリヴァンは、重篤な精神的トラブルである分裂病の原因が親子の関係にあるとしていますが、彼によれば、子供の対人経験様式は早い時期に、未分化な様式から中間の様式を通って現実的な様式へ移るが、分裂病は、この中間の様式に退行してしまった状態であるとします。
少し詳しく説明します。
 サリヴァンによれば、精神医学は対人関係の科学にほかならず、純粋に精神内部のこととか個人的自我などは存在せず、すべては対人関係という点から見直されるべきであり、特に重要なのが両親あるいはその代理者(養父母など)であるとします。そして、両親の示す態度や評価が子供の反応を決定し、ひいては子どもの自我を規定していく。子どもは親の不安や怒りや否認に特殊なエンパシー(感入能力または共感)を通して敏感に反応するが、不安を避け心理的安全を得るために、待避や敵意や依存の態度を身につけ、さらに自我の積極的な働きによって不安など有害なものを意識の外に保つ「分離」を行う。こうして子どもは他人(両親)との真の接触を結ぶことができなくなります。
 また、子供は早い時期に、自分と外界との区別もできない未分化なプロトタクシックな様式から、たとえば自分を空想の中だけしか存在しない人物と関係づけ、自分をその人物と同一視してしまうような、秩序や構成や関連を欠いた「並列的な」解釈を行ってしまう主観的態度を特徴とするパラタクシックな様式を通り、現実的な人間関係を確立するシンタクシックな様式へ発達する。
さて、エンパシーを通して敏感に受け取る他人(両親)からの不安があまりに強かったりすると、自我は統一を失い、意識を統御できなくなり、分離に失敗する。失敗するばかりでなく、既に分離されていたものまでが意識に侵入して来ることになり本人にとって脅威になる。この脅威から逃げるために、それまでのシンタクシックな様式からパラタクシックな様式へ退行せざるを得ない。このパラタクシックな様式へ退行した状態では、対人関係が困難になり、分裂病にもなる。もっとも退行的で、新生児の状態に退行したものが、緊張型の精神分裂であるといいます。【5】p101~103
Q23
 子供が親の不安などに敏感に反応するエンパシー(感入能力または共感)とは、何ですか。
A23
 精神医学上の一般的な意味でのエンパシー(共感)とは、二人の人物の間一方が他方の体験している感情と同一の感情を体験すること、感情的な共揺れをすることを意味し、人間の間で起きる感情移入ともいわれます。エンパシーが存在すると精神療法的な意義が大きくなります。
 しかし、サリヴァンのいうエンパシーは、さらに重要な意味で使われます。つまり乳幼児が母親などの重要人物との間に体験する特殊な感情的共振体験に限定して使われます。サリヴァンのいうエンパシーは成長と共に減少するといわれます。
Q24
 このエンパシーという考えを唱えたサリヴァンとはどんな人ですか。どうして分裂病のことがよく分かるのですか。
A24
 新フロイト派に属するアメリカの精神分析学者であり、医者として、入院中の精神分裂患者にインテンシヴ精神療法的接近を試み、その成果を発表して有名になり、晩年は政治精神医学などの多彩な活動を行い、1949年に没しています。彼は自分自身が精神分裂の傾向を有していたといわれ、そのためか分裂病にたいする深い理解があり、彼の著書は他の精神科医の参考にされるほどです。
<フロイトは神経症 最近のニュースでアメリカのそううつ病をもつ女性精神科医がそううつ病の本を書いて有名になっている 自分たちもそう>
Q25
 そのように心理的トラブルの原因を乳幼児期にみるのは、精神医学では一般的なのでしょうか。
し無意識の意識化をくり返して行うことで、最終目的地はどのようになるのでしょうか。
A25
 精神病の原因をすべて乳幼児期に求めようとするのは、精神医学一般のものではないと思われます。ほかの原因も考慮されています。
 たとえば精神病のうちの精神分裂については、もともと原因がよく分かっていないようですが、イタリア生まれの米国人で精神科医、精神分析医のシルヴァーノ・アリエティーがいうように、三つの要因が組み合わさって発生すると考えられるのが一般的でしょう。つまりアリエティーは

(1)生物学的要因。あるいは有機体の身体的条件。たぶん遺伝的。
(2)心理的要因。あるいは幼児期またはそれ以後発展した諸条件。家族または他者との関係がある。
(3)社会的要因。あるいは環境状態一般または患者が属する社会の環境状態。

の三つに原因を分け、そのうち(2)について「心理的因子とはなんだろう。それは患者の児童期の環境、家庭の育て方に見いだされるというのが多くの研究者の考え方である。全体として家族の異常に大きな重要性をとく研究者もいる。またある研究者は、うまくいっていない両親の関係、父親の性格、同胞との関係に焦点を合わせる。母親の性格と態度が何にもまして一番重要な因子であるというのが大多数の意見である。極度の不安と敵意が他者との関係の特徴であったり、無関心、あるいはこれらの感情が混じり合ってその特徴となっているような状況で児童期を過ごすと、将来分裂病になるといわれる。」と述べます。【4】p102、p111
Q1~Q25>>Q26~Q50>>Q51~Q75>>Q76~Q100>>Q101~Q110


アコール(有)
東京都府中市天神町3-11-1 モプティ天神102
TEL: 042-363-9948 FAX: 042-369-8700

E-Mail: sadako.accord@gmail.com
p
Copyright (C)accord All Right Reserved
  厳選