アコールの理論・Q&A

Q1~Q25>>Q26~Q50>>Q51~Q75>>Q76~Q100>>Q101~Q110
Q26
 仮に、原因が乳幼児期にあるとすると、家族、特に母親が問題ということになりますか。
Q27
 ベビーブレスでは、心理トラブルの原因が母親であり、母親が責められるべきだと考えますか。
Q28
 母親が主な原因ではあるが、責められるべきではない、というのは一般的には理解されにくくはありませんか。
Q29
 すべて乳幼児期や母親が原因であるとすることに反対の意見はありませんか。
Q30
 そのような反対意見をどのように思いますか。
Q30-2
 そのような反対意見を含め、現在の精神医学全体では、どのような分野がありますか。
Q30-3
 精神分析的精神医学ないし力動精神医学とは、どのような分野ですか。
Q31
 たとえば母に対する憎悪と愛情とで引き裂かれる苦しみや生きていたくない苦しみから防衛するための防衛メカニズムの主なものに、抑圧やスプリッティング(分裂)がある(A4)ということですが、どういうことでしょうか。
Q32
 抑圧についてもう少し詳しく説明して下さい。
Q33
 無意識について説明して下さい。
Q34
 精神分析とは、どんなことをするのですか。
Q35
 自由連想法とは、どんなことをするのですか。
Q36
 自由連想法は、誰でも受けられますか。
Q37
 無意識内容の意識化により神経症状の解決が生じるということですが、その神経症状にはどんなものがありますか。
Q38
フロイトはどんな人ですか。
Q39
 分裂や精神分裂病の話が多く出てきますが、これらはなぜ重要なのでしょうか。
Q40
 分裂病の患者というと、何かなじみがなく、敬遠したくなる感じもあるのですが。
Q41
 精神分裂病とは、どんな病気なのでしょうか。
Q42
 連合作用の弛緩や解体とは、どのような症状を言うのですか。
Q43
 精神分裂病というのは、診断や原因などが分かりにくい病気だということですが、たとえば分裂病であるという診断は、どのようになされるのですか。どのように分かりにくいのですか。
Q43-2
 精神分裂病の原因は、一般的にはどのように考えられていますか。
Q44
「内因」「心因」「外因」は、どのようにあいまいですか。
Q45
「内因」「心因」「外因」の概念があいまいなままで、分裂病と躁鬱病の原因は、精神医学では一般的に結局どう考えられていますか。
Q46
 分裂病は、精神医学では、遺伝と環境のあざなえる縄のごとき関係の中で発生すると考えられているということですが、もう少し詳しく話して下さい。
Q47
 遺伝と環境について、ベビーブレスの立場はどうなのですか。
Q47-2
 胎児がエンパシーやフレキシビリティーにより母親などから大きな影響を受けるということはを、もう少し説明して下さい。
Q47-3
 そのような多様性から、分裂病に似ているように感じられる多重人格も説明できるのでしょうか。
Q48
 胎児期を重視するプノブレスの立場からは、「内因」「心因」「外因」の概念を、どのように扱ったらよいと考えますか。
Q49
 ベビーブレスの立場からは胎児期の環境を重視しているようですが、遺伝的なものを感じることはありませんか。
Q50
 遺伝的な「傷付きやすさ」について、もう少し詳しく説明して下さい。
Q1~Q25>>Q26~Q50>>Q51~Q75>>Q76~Q100>>Q101~Q110
Q26
 仮に、原因が乳幼児期にあるとすると、家族、特に母親が問題ということになりますか。
A26
 当然そうなります。
 アリエティーは、分裂病者を精神力動的(A30ー3参照)に研究してきた学者の大半は、研究された精神分裂病のあらゆる症例には、重大な家族の障害が存在したという点で、意見の一致を見ており、重大な家族の障害が、精神分裂病を説明するための十分条件ではないにしろ、おそらく必須条件である、としています。【6】p106~107
また、家族研究の教えるところでは、分裂病者の家族には父親の欠損、両親の不和、母子関係の歪みなどをはじめなんらかの意味で秩序や安定を欠いた家庭像が大部分であるといわれます。【5】p49
 そして、家族のうちでも、もっとも乳幼児に影響を与えるのは母親ですから、理屈からいっても、アリエティーがいうように、母親の性格と態度が何にもまして一番重要な因子であるというのが大多数の意見である、となります。【4】p111
Q27
 ベビーブレスでは、心理トラブルの原因が母親であり、母親が責められるべきだと考えますか。
A27
 ベビーブレスによる自分たち自身の体験や参加者の体験によれば、心理トラブルの重要な部分に母親の要素があると思われます。
 その理由ははっきりしませんが、精神的な療法を求めてこられる参加者には、心理的要因以外の生物学的要因などを抱えている人が必然的に少なく、ある意味で健康な人が多いからかもしれません。また、分裂病などの重篤なトラブルを抱えた人が少ないためかもしれません。さらにまた、ベビーブレスでは、乳児期や胎児期などの人生のきわめて早い時期の体験を再体験できますが、このような深い経験は他の手法では経験しずらいのではないかと思われ、心理トラブルの深い部分にはやはり母親が関係しているというのが真実なのかもしれません。
しかし、母親が責められるべきであるとは思いません。
 世代間伝達(A21参照)において、母親もまた「被害者」なのです。母親から伝達された心理的トラブルを抱えた自分たちも、自分たちの子供に対し「加害者」になりうるのです。しかも、世代間伝達は、無意識のうちに起こり、私たちは普通ではどうしようもありません。意思の力で、何とかしようとしても無理です。
Q28
 母親が主な原因ではあるが、責められるべきではない、というのは一般的には理解されにくくはありませんか。
A28
 理解されにくく、ときに問題が発生します。
 たとえば、子供のトラブルでカウンセリングに来られるお母さん方には、遅かれ早かれトラブルの原因はあなたですということを伝えることになりますが、言い方はどんなに気をつけても彼女たちを傷つけることになります。子供のことで、彼女たちもまた深く悩んでいるのですから。
 このようにして発生した問題を、先に紹介した木田女史も、著書の中でとても正直に述べています。彼女はある雑誌で、こどもの「自閉」は「その子が生まれてから今日までの親の悪行の結果」と書いたので、自閉症の原因は「脳の気質的障害」と考える”自閉親の会”から反撃され2回にわたる公開質問状を受け、その質問内容と回答内容、および前後の事情を詳しく記述されています。【10】p39 精神分析やベビーブレスを受けるなどして自分の深層心理を理解することがない状態では、「原因はあなたです」といわれても納得のしようがないと思われます。
また、分裂病の原因が親子の関係にあるとするハリー・スタック・サリヴァンも、精神分裂病患者の母親は、怪物や悪人ではなく、人生の困難に打ちのめされた人であるといい、深い同情を示します。【6】p107
Q29
 すべて乳幼児期や母親が原因であるとすることに反対の意見はありませんか。
A29
 あります。重篤なトラブルである分裂病の場合には、乳幼児期や母親だけを原因にするのは、現在の精神医学では一般的ではありません。
 たとえば、アリエティーは、精神分裂病の原因を乳児期の問題とできるケースは少ない。そもそも赤ん坊は、(脳が十分には発達していないので)葛藤がなく、(心に傷を受けない。)寧ろ、生まれたときから既に問題があったようだとし、微小脳損傷が原因ではないかと推測する。
 すなわち「赤ん坊と母親との関係の中に存在する様々な異常は、後の成人の精神病と直接関係するものではない」そのような異常の「いくつかが、後に精神分裂病を引き起こすかも知れない別の異常へと至ることがあるのは、確実である」が、しかし「赤ん坊は恒常性の変化とか不快とか剥奪といった状態にはあるのかも知れないが、精神内界でも対人的にも、葛藤状態を体験してはいない。」というのも「見捨てられ、死、取り返しのつかない喪失、絶望と言った観念を概念化することができない」からだ。このことを裏付けるように「筆者の長年にわたる臨床経験の中で、母性の剥奪と成人の精神分裂病との関係が成立するのを確証できたのは、たった一例だけである。」「分裂病者の近親者の中には、まさに生まれたその瞬間から、その子供にはなにか悪いことがあったようだと報告している人もいる。すなわち、神経質そうに見えたとか、泣いてばかりいたとか、授乳が難しかったとかいうことである。」そういうわけで「子供のこうした特徴がその子供に初めからあったものなのか、母親の不安や敵意に対する反応であったかを決定することは不可能である。」「こうしたいわゆる扱いにくい子供の大多数は、おそらく、微小脳損傷を持って」いる。【6】p96~97
また、日本のある精神科医は、以前、分裂病を作る母親、分裂病を作る父親といわれる時代があった。たしかに、子供にもっとも密に接してきた父母が、子供のあらゆる精神活動に大きな影響を与えてきたことは否定できないであろう。しかし、分裂病という個人を越える病が、彼らの影響をそれほど強く受けるものなのかと少し疑問に思う。」【2】p87というが、日本の精神科医の一般的な感想ではないかと思う。
Q30
 そのような反対意見をどのように思いますか。
A30
 それだけ分裂病は原因をはっきりさせるのが難しいのだと思います。難しいからといって、原因を特定しようとするすべての試みが非難されるべきだとは思いません。どんな情報によって、原因の特定がなされるかが重要なことです。「どうしてそれが原因と思うのか」といいうことです。
 分裂病を研究する学者や精神科医は、分裂病の患者から話を聞いたり(精神分析もこれに含まれる)、家族から話を聞いたりする以外には、情報を手に入れることができません。あくまで客体からの情報に過ぎません。この客体的情報でさえ、心理的なトラブルを抱える子供の母親からは、適切な情報は得にくいものです。精神科医も、分裂病の子供の親の持つ不思議な性質は「分裂病患者のお母さんから生活史はちゃんと聞けないよ」といった精神科医の経験からのつぶやきが示すとおりである、といいます。【7】p261 これに対し、ベビーブレスでは、自分の乳幼児期や胎児期を主体的に体験できます。
 もっともサリヴァンのような人は別で、自分の分裂的傾向の主体的体験が情報になります。しかし、サリヴァンであっても、自分の体験のうち情報として入手できるのは意識的な部分、すなわち表面的な部分に過ぎないはずです。これに対し、ベビーブレスは、自分の意識下の深層の部分の体験も可能です。
Q30-2
 そのような反対意見を含め、現在の精神医学全体では、どのような分野がありますか。
A30-2
精神分析的精神医学ないし力動精神医学などに代表される心理学的な方法とともに、生物学的精神医学という生物学的な方法が、現代の精神医学を支える二つの柱です。このうち生物学的精神医学とは、例として、ドパーミンなどの脳内神経伝達物質などを研究する神経化学的研究、MRIなどを用いた画像診断学的研究などです。【14】p475
<ベビーブレスをリードする者としては、心理的な原因を見てしまう>
Q30-3
 精神分析的精神医学ないし力動精神医学とは、どのような分野ですか。
A30-3
  精神分析的精神医学とは精神分析を中心にした精神医学をいいますが、精神分析は後述するA34「精神分析とは」のところを参照して下さい。
力動精神医学は、「力動」がフロイトの用いた「力動的見地(dynamic aspect)」という概念を意味し、ほぼ精神分析的精神医学のことを意味するようですが、主としてアメリカで発達し、その基本的な観点の中に、精神現象を幼児期の諸体験ととの関連において理解する観点が含まれます。【14】p804
【抑圧圏と分裂圏】3
Q31
 たとえば母に対する憎悪と愛情とで引き裂かれる苦しみや生きていたくない苦しみから防衛するための防衛メカニズムの主なものに、抑圧やスプリッティング(分裂)がある(A4)ということですが、どういうことでしょうか。
A31
 抑圧は、簡単にいえば、受け入れがたい記憶などを意識から追いだし、無意識の中に閉じこめるメカニズムをいいます。分裂は、簡単にいえば、上述の例を用いると、母に対する憎悪と愛情を別個の存在として認知し、憎悪と愛情の対象が同じ母であることを認知してしまう場合に起きる決定的な苦しみから逃げるメカニズムをいいます。
 例として、ベビーブレスの前後のカウンセリングで、参加者自身の心理トラブルの原因を本人がどこまで深く把握されているかお伺いすることがありますが、人それぞれで深さが違います。そして、その深さの限界に達したときの参加者の反応が、おおよそ二つのタイプに分かれます。一つは、あるところ以上深くは分からなくなって話が進まないタイプです。多くの人がこのタイプです。
 二つ目のタイプは、話はどこまでも進みます。ある人は、その話の中で、自分の心理トラブルの真の原因も言ってみせます。しかし、自分で言ったことを覚えておらず、前後の脈絡がうまく取れません。「あなたは先ほど、ご自分でこう言いましたよ」といっても、きょとんとして、その内容が何のことか理解できません。また、ある人は、自分で言ったAとBの内容をつなげれば、心理トラブルの真の原因が分かるはずなのに、どんなことがあっても決してAとBをつなげようとはしません。
この場合には、一つ目のタイプが抑圧メカニズム、二つ目のタイプが分裂メカニズムと言えると思います。
両メカニズムについては詳しく後述します(A32)(A74-2)。また、両メカニズム以外にも防衛メカニズムは存在し、後述(A72)します。
 さらに抑圧やスプリッティング(分裂)は、神経症の人や分裂病の人だけではなく、健康な人にも働く防衛メカニズムで、また同じ人の中でも両メカニズムは働きます。前者のメカニズムが強く働く人を「抑圧圏」の人と呼び、後者のメカニズムが強く働く人を「分裂圏」の人と呼ぶことにします。ベビーブレスに参加してくれる人は多くは抑圧圏の人ですが、中には分裂圏の人もいます。
【抑圧と神経症】3
Q32
 抑圧についてもう少し詳しく説明して下さい。
A32
 フロイトによって一番最初に明らかにされた防衛システムで、意識に受け入れがたい観念表象や記憶、それにともなう情動や衝動を意識から追いだし、無意識の中に閉じこめておこうとする自我の防衛メカニズムをいいいます。この抑圧された無意識内容は決して消滅せず、無意識内でその力を保ち、神経症症状として形を変えて現れてくる。精神分析療法は、自由連想法を介してこの抑圧の緩和を試み、無意識内容の意識化が可能となると神経症状の解決が生じる。抑圧されたものが本人にとって無意識であるばかりでなく、抑圧の作用自体も無意識のうちに働く。また随意的に意識化することはできません。
 蛇足ですが、これに対し意識的(随意的)に、無意識内に押し込めようとする心理活動を、つまり、あえて忘れ去ることを抑制といいます。この場合は、随意的に意識化、つまり想い出すことができます。このように抑圧と抑制を区別するため、意識と無意識の間に、前意識という領域が想定されます。意識から前意識へ押し込めることを抑制、意識から前意識を通りぬけ無意識まで押し込めることを抑圧といいます。【14】p793、795
Q33
 無意識について説明して下さい。
A33
 「無意識」とは、A32で述べたように、意識、前意識、無意識というふうに心の中の構造をいう場合と、無意識内容、つまり抑圧されたものをいう場合と、があります。
この無意識内容は、絶えず意識や前意識内容に進入しようとしているが、検閲が働くので、その検閲を通行可能なように歪曲を受け、失錯行為や神経症などの形で表れます。【14】p755
Q34
 精神分析とは、どんなことをするのですか。
A34
 精神分析とは、人間の言葉、行動、空想、夢、症状などの無意識的意味を理解することで、抑圧されたものを意識化する方法のことをいいます。具体的には、主に自由連想法、ほかに遊戯療法などがあります。精神分析が行われ、無意識の意識化がなされると精神統合が生じるが、この統合は、分析治療を受けている者の中で、分析者の関与なしに、自動的不可避的に行われます。【14】p461p462
<ベビーブレスでの体験と同じ。>
Q35
 自由連想法とは、どんなことをするのですか。
A35
 たとえば、分析者は分析治療を受ける患者に対し「何でも頭に浮かんでくることを、そのまま批判・選択しないで話して下さい」と告げ、患者は自分が話した直前の内容に対し連想されることを批判・選択しないで話す。これにより、日常的な意識的抑制を緩和し、やがて抑制の緩和は無意識的な抑圧をも弱め、無意識の意識化が始まり、この意識化とともに治療的退行(A11)が生じます。【14】p346、347
Q36
 自由連想法は、誰でも受けられますか。
A36
 いいえ。自由連想法は、患者には一種の自己観察の方法として働かなくてはならないので一定の観察自我(A74-3)が前提となりますし、言葉を介しての作業なので一定の知的能力が必要ですから、精神病者や子供には実施が不可能です。【14】p346、347【10】p81
<ベビーブレスは小学4年からOK 必ずしも言葉は不要>
Q37
 無意識内容の意識化により神経症状の解決が生じるということですが、その神経症状にはどんなものがありますか。
A37
 神経症状は、アメリカ精神医学会による精神障害の診断と統計の手引きであるDSMーⅢでは、神経症的障害として複数のカテゴリーの中に分配されています。この神経症的障害とは、その症状が本人に様々な苦痛を与え、その本人によって受け入れがたい自我違和的なものであり、現実検討機能は大まかな意味で健全であり、大まかな意味で社会的な基準を積極的に逸脱する様なことはなく、・・・、ストレスに対する一過性の反応ではなく、明らかな器質的な病因ないし要因をともなわない、と定義されます。また、分配される複数のカテゴリーは、感情障害、不安障害、身体型障害、解離障害、精神・性的障害です。 【14】p388
Q38
 フロイトはどんな人ですか。
A38
ジークムント・フロイト(1856~1939)といい、ウィーンの神経学者で、精神分析の創始者です。フロイト自身が心臓神経症、汽車恐怖症、うつ神経症などの神経症を持っていたといわれます。精神分析を確立する段階で、コカインの使用、催眠療法、自由連想法と移って行きました。【14】p892p894
【スプリッティング(分裂)と精神分裂病】4
【分裂の導入】4
Q39
 分裂や精神分裂病の話が多く出てきますが、これらはなぜ重要なのでしょうか。
A39
 私たちの人間関係の悩みや不全感などは精神科の病院に行っても、多くの場合には、神経症や精神病と診断されることは少ないでしょう。しかし、これらの悩みや不全感も、いわば軽い神経症的傾向、軽い精神病的傾向として理解できることは既に述べたとおりです(A1、19)。だから、神経症や精神病そのものを理解することは、私たちの役に立ちます。
 特に、精神分裂病は、心理トラブルの中でも原因が人生のもっとも早い時期に存在するように思え、未だ解明されないことが多く、症状も様々です。この分裂病を理解することは、人間の深部を理解することのように思えます。同じ深部が私たちの中にも存在します。私たちは分裂病にはなっていないかもしれません。しかし、その深部を体験し理解しなければ、私たちの真の満足はあり得ないように思えるのです。
 アリエティーは言います。われわれは分裂病を無視できない、分裂病について知ることは人間の状態と苦悩を知ることである。なぜ分裂病者を同類として感じなければいけないのか、なぜならわれわれのなかには少なくとも標準からの逸脱の片鱗がひそんでいるからである。ただ分裂病者と違って、われわれはそれを外に表すことを恐れている。分裂病を研究することにより、われわれは、独特な方法で人間の大きな謎を調べることができる。 分裂病の患者は、はっきりと病気(精神分裂病)になる以前にもゆゆしい心理的問題を既に明らかにしている。彼の自尊心は非常に低い。自分は不十分で価値がなく、不器用で誰にも愛されず、愛されるはずもなく、受け入れられず、これからも受け入れられないと思い込んでいる。能力がなく生まれつき劣等であると自分を責め、自分を改善するためになすべきことをしなかったことで自分を非難する。【4】p7、p16、p18、p59~60
サリヴァンは言います。分裂病の患者は、本人にとってはせいいっぱいの適応への努力を延々と重ねた挙げ句、分裂病が出現する。【7】p147
Q40
 分裂病の患者というと、何かなじみがなく、敬遠したくなる感じもあるのですが。
A40
そうかもしれません。しかし、たとえば分裂病患者が社会的に劣る人々であると言うことはないのです。
 フロイトが行った有名な唯一の分裂病患者の分析例として、「自伝的に記述されたパラノイアの一症例に関する精神分析的考察」というのがあります。ここにいうパラノイアは、当時の分類で、現在は内容からいって精神分裂病に分類されるそうです。ダニエル・パウル・シュレーバーという人が自伝として書いた「ある神経病患者の体験記」の内容をフロイトが分析したものです。このシュレーバーという人は、約百年ほど前のドイツのザクセン州控訴院長(日本でいえば高等裁判所の所長でしょうか)でしたが、幻視、幻聴、知覚過敏、妄想観念などが現れて精神病院に入院しました。そのような病的な部分を除けば、「彼の意識は清明であり・・・思考過程を通じて発表でき」「国政、法律、政治、・・・正確な判断・・・正しい理解・・できた。」そして、その病院からの退院を要求して担当医に拒否された際に、裁判所に訴えを起こし、その陳述書の「聡明さと論理的な確実さがついに勝利を得」、退院を認めさせてしまったほどだそうです。【11】p116~117
【分裂定義】4
Q41
 精神分裂病とは、どんな病気なのでしょうか。
A41
 精神分裂病というのは、診断や原因などが分かりにくい病気のようです。
 この病気に対し、初めは、ドイツのエーミール・クレペリンが100年以上も前に「早発性痴呆」と名付けました。老年の痴呆がまるで早期に発生するような病気という意味合いでした。次に、スイスのオイゲン・ブロイラー(フロイトと同世代)が90年前に「精神分裂病」として提唱し、分裂病の基本的症状として連合作用の弛緩や解体が認められるとした。そのため心理的機能相互の関係が弱まって、互いに分裂するようになるという。【5】p39~41、p87
Q42
 連合作用の弛緩や解体とは、どのような症状を言うのですか。
A42
 連合作用の弛緩は、思考や感情などの連合作用が弛むことをいい、短く連合弛緩ともいいます。緩みが激しくなった状態を解体といいます。詳しくは、思考や感情などに限らず、種々の精神活動の統合に障害があることをいいます。正確な定義は、「要素的体験(感覚、観念、運動)がある法則に従って結びつくこと、およびこのような要素的体験のあるものがほかのものを維持的に、または同時に呼び起こすことを連合といい、この弛緩が連合弛緩である。」となります。【14】p821
 このうち思考の連合弛緩は、「支離滅裂」と呼ばれ、意識が清明なら「滅裂」思考、意識に混濁があれば「支離」思考という。前者は精神分裂病に見られ、後者は意識障害者に見られるそうです。【14】p378
 <カウンセリングでも軽い滅裂思考は多々見られ、ベビーブレスに深くはいれるようになると、改善される。滅裂思考が改善されることが、セラピーの効果の大きな指標になっている>
【分裂病の正体のあいまいさ】4
Q43
 精神分裂病というのは、診断や原因などが分かりにくい病気だということですが、たとえば分裂病であるという診断は、どのようになされるのですか。どのように分かりにくいのですか。
A43
 まず、症状がたくさんあって、分かりにくいようです。特に、発病初期の症状は千差万別の状態ということです。【5】p57
 また診断基準そのものが、はっきりしていないように思われます。診断は、症状と経過を観察して行われます。症状からの診断基準は、種々が存在し、あいまいな印象を受けます。たとえば、K.シュウナイダーの分裂病の一級症状として11の症状が羅列され(考想化声、対話と応答の幻聴、行為をいちいち批評する声の幻聴、身体被影響体験、思考途絶と思考奪取、思考吹入、考想伝搬、奇異な感情、奇異な行動、させられ体験、了解不能な妄想知覚)、これらの症状は分裂病の診断の上で必要条件でもないが十分条件でもないが、この症状が一つでもあることは無視してはならない危険な兆候である、とされます。【1】p29~30
 また、精神分裂病という言葉を紹介したことで歴史的に有名なオイゲン・ブロイラーの息子であるマンフレッド・ブロラーは、7つの症状(普通の人は患者の一連の考えを・・了解できない、感情的な共感がいちじるしく乏しい・・、異常な興奮や混迷の状態が数日以上持続する、幻覚と錯覚が数日以上持続する、妄想を経験する、毎日の通常の義務をまったく怠り家族などに野蛮な行為をする、友人や家族にとって患者は変わってしまいそのふるまいを理解できない)を列記し、このうち少なくとも3項目あることで分裂病として診断されるとしています。【1】p40~41
Q43-2
 精神分裂病の原因は、一般的にはどのように考えられていますか。
A43-2
 簡単に言うと、よく分からない、ということのようです。
先に述べたように(A12)、新フロイト派の人たちと同じように、私たちは精神分裂も含め乳幼児期などの早い時期に原因があると考えますが、これは精神医学の一般的な意見になっているとは思えません。
 一般的には、かなり漠然と考えられています。すなわち、分裂病や躁うつ病は「内因性」の精神病と考えられ、「内因性」とは「心因(心理的な原因)」や「外因(外部からの身体的な原因)」ではなく、内部的な原因という意味で、具体的には生まれつきの素因や体質、あるいは内分泌や代謝の障害までを漠然とさすと思われますが、しかし、この素因や体質という概念があいまいで、それを規定する遺伝も決定的ではありません。【5】p48
簡単に言うと、「内因」「心因」「外因」とは精神障害の起きる原因を大まかに指す概念で、原因が、肉体か、心か、外部からか、ということのようです。しかし、これらの概念的な線引きはあいまいです。そのあいまいさを見るにつけ、結局原因が分かっていないためではないかと、思うのです。
Q44
「 内因」「心因」「外因」は、どのようにあいまいですか。
A44
 それでは、各々をもう少し詳しく見ていきます。
 まず、「内因」ですが、内因性精神障害とは外的要因(外因のことか?)なしに発病し、なんらかの身体的基盤の見いだされることが要請される精神病である、とありますが、今日のところその「身体的基盤」は明らかになっていないそうです。ただ遺伝的要因が関与していることは一般的に認められているそうです。
 その理由は、分裂病の双生児における一致率は、一卵性双生児における一致率が二卵性双生児における一致率を上回ること、および、分裂病の発端者の家族内における発病危険率は、発端者に近いほど高いこと、によります。
他方、一卵性双生児における一致率が100%でないことから、遺伝的要因がすべてということではなく、環境的要因が関与していることも一般的に認められています。環境的要因の研究は、主として力動的立場から行われ、たとえば幼少期以来患者の上に多大の影響を与えてきた両親などを心理学的立場から研究されています。【14】p594
次に「心因」とは、心的葛藤が精神障害の原因である場合を指す。しかし今日の具体的症例では、内因と心因を厳密に区別することは困難だそうです。【14】p379
 さらに「外因」とは、身体的原因つまり外傷や病気などで脳に直接にダメージを受けることが原因になることをいい、広くは環境的原因や精神的な原因(心因のことか?)も含まれる。また、直接に精神症状に結びつくのではなく、体質などを考えなければならないともいわれる。【14】p87
 <これらを検討すると、「内因」の定義を構成する「身体的基盤」の中に含まれる「環境的要因」は、本来「外因」に分類されているものであり、しかもこの「環境的要因」は上記内容を見ると両親が幼少期の子供に与える影響を言うのですから、本質的に「心因」でなければなりません。また「内因」と「心因」を厳密に区別することは困難とされています。さらには、「外因」に広く含まれる精神的な原因とは用語的にも「心因」でなければなりませんし、症状に結びつくには体質を考えなければならないとあり、この体質とは「内因」のはずです(A43参照)。このように「内因」「心因」「外因」は、定義または概念そのものに混乱があるように思われ、控えめに言っても、あいまいであるといわざるをえません。>
Q45
 「内因」「心因」「外因」の概念があいまいなままで、分裂病と躁鬱病の原因は、精神医学では一般的に結局どう考えられていますか。
A45
 あいまいな「内因」の用語は使われなくなりつつあります。
 つまり、内因性精神障害の代表であるとされる精神分裂病と躁鬱病に、(外因であるはずの)環境的要因が関与していることは一般に認められており、これらの病気は結局は、遺伝と環境のあざなえる縄のごとき関係の中で発生すると考えられています。このために最近のアメリカの分類(DSM-Ⅲ-R(精神障害の診断と統計のためのマニュアル改訂版、北米で用いられ現在、標準的診断のためのガイドとなっている【1】p27~28))では、内因の用語は用いられない。【14】p594
Q46
 分裂病は、精神医学では、遺伝と環境のあざなえる縄のごとき関係の中で発生すると考えられているということですが、もう少し詳しく話して下さい。

A46
 あざなえる縄のごとし、というかわりに、有機的な結びつきという人もいます。【5】p50 50年ほど前までは、精神病や犯罪などの原因について「遺伝が環境が」という二者択一論的な議論がされていたが、現在は姿を消し、双生児の研究などにおいても両者の役割を切り離して測定することは困難という意見もあります。【14】p47

Q47
 遺伝と環境について、ベビーブレスの立場はどうなのですか。
A47
 ベビーブレスの立場もほぼ同じですが、もう少し踏み込んだ観測を持っています。
 自分たちの主体的な体験内容から、原因は乳児期よりもさらに早い胎児期にあると考えます。胎児期では、胎児の精神的状態は遺伝のみならず母親からの影響など環境に大きく左右されます。胎児が持つであろう並外れたエンパシー(A22)やフレキシビリティー(損傷を受けやすい柔軟性)により、環境からの影響はとてつもなく大きくなると考えています。生まれ出た赤ん坊の精神的状態が、遺伝によって規定された結果なのか環境によって規定された結果なのか、両者の役割を切り離して測定することは、それこそ困難であるといわなければなりません。
Q47-2
 胎児がエンパシーやフレキシビリティーにより母親などから大きな影響を受けるということはを、もう少し説明して下さい。
A47-2
 エンパシーやフレキシビリティーというのは、感受性の高さや損傷を受けやすいことというふうに、言い換えることができます。このような胎児期の特殊性については、後ほど(A78~82)詳述します。
今は、人生の非常に早い時期に傷を受けて分裂病になるという見方(A12)がありますが、分裂病の症状の多様性(A43)はその傍証になるのではないか、という私見を述べたいと思います。つまり胎児などの人生の早期に心に傷を受けることが、その時期の感受性の高さや損傷を受けやすい柔軟さ(フレキシビリティー)によって、いろんな精神のありようを形成してしまい、症状の多様性を生むのではないかと思います。
 たとえば世界中には多様な民族性や言語が存在します。日本人や日本語もその本の一部です。しかし、始めから日本人として産まれてくる人は一人もいません。始めから日本語を話す様に産まれてくる赤ん坊は全くいません。産まれた後に、日本人になるのです。日本語をしゃべれるようになります。このような多様性は、個人が人生の早い時期、例えば幼児期から、そのような民族環境や言語環境に身を置くことにより可能になるはずです。そして一度、日本人になると、大人になって英語を勉強してアメリカ人になりすまそうとしても、そうはうまくいきません。つまり、この多様性は幼児期の柔軟性と関係があります。
 このような柔軟性を有する幼児期から、あるいはもっと大きな柔軟性を有する早い時期、例えば胎児期から影響を与えるn通りの悪い成育環境があったとすれば、n通りの傷ができるのではないでしょうか。悪い生育環境の夫々の微妙な差違を考慮すれば、このnはとても大きな数Nになります。そして、その微妙な差違に影響されるほどその子供の柔軟性が大きく、N通りの傷ができる、という仮定が成り立つのではないでしょうか。そう言うわけで、H.S.サリヴァンがいうように、分裂症の患者の数だけ分裂の症状がある、ということになるのではないでしょうか。
そして、逆に考えると、そのような症状の多様性は、分裂病の原因がそのような早い時期の傷に起因することの傍証にもなるのではないでしょうか。
Q47-3
 そのような多様性から、分裂病に似ているように感じられる多重人格も説明できるのでしょうか。
A47-3
なるほど、多重人格も、多い場合には数十もの人格が出てくるそうですから、多様と言えるかもしれません。また、何か一つであるべきものが多数に分裂してしまう感じは、多重人格も分裂病も似ているかもしれません。
 しかし多重人格と分裂病は、医学上は、全く別のようです。多重人格は人格が複数現れるという症状も特徴的で、分裂病のように様々な症状から特徴となるものが特定できないのとは、ずいぶん事情が違います。また、多重人格は虐待、特に性的な虐待がその病気の原因となる傷としてあります。一般的にいえば、性的な虐待であればかなり成長してからの傷であり、したがって、症状の多様性は精神分裂ほど多くないのも、当然と言えます。
Q48
 胎児期を重視するプノブレスの立場からは、「内因」「心因」「外因」の概念を、どのように扱ったらよいと考えますか。
A48
 全くの私見として、このような不明確な3分類ではなく、原因が存在した成育年代別に、すなわち発生学的な分類をしたらどうか、と考えます。例えば、遺伝子性精神障害(純粋な内因性)、胎児性精神障害、乳児性精神障害、幼児性精神障害、成人性精神障害(純粋な外因性)などです。
【傷付きやすさ】4
Q49
 プノブレスの立場からは胎児期の環境を重視しているようですが、遺伝的なものを感じることはありませんか。
A49
もちろんあります。心の傷が深い人は、深い感受性のような傷付きやすさを、そもそも遺伝的に備えているのではないかという感想を持つことが、しばしばです。その感受性の故に、傷が深くなってしまったのではと感じます。
Q50
 遺伝的な「傷付きやすさ」について、もう少し詳しく説明して下さい。

A50
そのような感想を持つのは私たちだけではありません。
アリエティーは、異常な感受性をもつ分裂病患者の話をし【4】p25、分裂病の心理学的原因の結論の項目の中で、「傷付きやすい人は一生をとおして心理的防衛を築き上げようとする。・・・防衛が不満足に終わり、自分自身を全く受け入れることができないとき、患者は精神病的防衛と呼ばれるものに訴える。」と述べています。【4】p125
 また、人生の長い時期を分裂病の治療に捧げた日本のある精神科医は、分裂病に親和的な人は、かすかな兆候を読む能力が傑出しているからではないか、といいます。彼は、分裂病が太古からあると言われるにもかかわらず分裂病になりやすい人が淘汰されずに、人口のおよそ1%で、今日まで残っているのは、太古の狩猟民族としてそのような能力は生き残りに非常に有利であるのみならず、現在でも子孫を残す相手の獲得には、つまり恋愛には、相手のわずかな表情の変化から相手の心情を読んでタイミングを測って接近することが成功率をたかめることに関係する旨の説明をしています。【3】p90~p92
 さらに、木田恵子は、自閉(自閉は分裂病の一症状にも数えられています)の状態の子供達について「良くなった子供達が皆抜群の才能なので、私は頭の良すぎるのが不運のもと、などといっています。行動療法的・・訓練ということは考えません。それは根本的治療に成功さえすれば、長年の遅れをたちまち取り返すという体験を重ねているからです。」といい【10】p25、また「普通児より鋭敏で感じすぎることがあるような気がしてなりません。」といいます。【10】p38
【神経症と分裂病の違い】4

Q1~Q25>>Q26~Q50>>Q51~Q75>>Q76~Q100>>Q101~Q110


アコール(有)
東京都府中市天神町3-11-1 モプティ天神102
TEL: 042-363-9948 FAX: 042-369-8700

E-Mail: sadako.accord@gmail.com
p
Copyright (C)accord All Right Reserved
  厳選