アコールの理論・Q&A

Q1~Q25>>Q26~Q50>>Q51~Q75>>Q76~Q100>>Q101~Q110
Q51
 抑圧が神経症に関係し、スプリッティング(分裂)が分裂病に関係するということでしたが、神経症と分裂病は全く違う病気なのでしょうか、どう違うのですか。
Q52
 ベビーブレスでは、抑圧圏の人と分裂圏の人とを区別しますか。
Q53
 抑圧圏と分裂圏の間の中間型として「境界例」というのがあるということですが、その話をもう少しして下さい。
Q54
 「境界例」は中間であっても、実態はどちらかというと分裂圏よりというニュアンスがありますが、逆に、中間であって抑圧圏よりというのはないのですか。
Q55
 強迫神経症から分裂病になることがあるということですが、分裂病を発病するというのはやはり大変なことのようですね。
Q56
 治療のつもりが分裂病を引き起こすという危険性もあるのでしょうか。
Q57
ベビーブレスは、呼吸を使って心の中に隠れているものをすべて出してしまうように思えますが、ベビーブレスの立場から性についてはどのように考えますか。
Q58
 宗教についてはベビーブレスの立場からどう思いますか。
Q59
 ベビーブレスは、どのような精神療法の分野に属するのですか。
Q60
 精神療法全体ではどんなものがあるのですか。
Q61
 一般の精神療法では、何をもって治ったとするのでしょうか。目標は何でしょうか。
Q62
 ベビーブレス中の再体験では、心の傷は恐怖や不安として認識されるといういうことですが、この恐怖や不安について話して下さい。
Q63
 不安についてフロイト自身はどういうふうにいっていますか。
Q64
 フロイトの意見では、不安の原因は何ですか。
Q65
 神経症の人は、不安を感じるときに、何が不安なのか分かっているのでしょうか。
Q66
 フロイトは、不安と乳幼児期の関係については、何と言っていますか。
Q67
 つまりこの不安は、「何が不安なのか」分からないということですね。
Q68
 なるほど神経症では、なにか不安が深いところで関係しているようですが、分裂病でも同じなのでしょうか。 
Q69
 幻覚や妄想は、得体の知れない不安と恐怖のために生じるのでしょうか。
Q70
 不安や恐怖が、神経症や分裂病の黒幕のように存在すると言うことですが、他の心理トラブルでも同じ様なことが言えるのでしょうか。
Q71
 心身症というのは、神経症とはどのように違うのでしょうか。どんな例がありますか。
Q72
 前に、防衛メカニズムの主なものとしての抑圧(A32)の説明がありましたが、そもそもの防衛メカニズムとは、どんなものですか。
Q73
 その「原始的防衛機制」とは、なぜ「原始的」なのですか。
Q74-2
 「分裂」とはどのようなものでしょうか。
Q74-3
 「分裂」は早期の乳幼児と精神分裂病や境界例の患者に働く防衛だ(A12)ということですが、健康な人にはないのでしょうか。
Q75
 「投影」とは、どのようなものをいいますか。
Q1~Q25>>Q26~Q50>>Q51~Q75>>Q76~Q100>>Q101~Q110
Q51
 抑圧が神経症に関係し、スプリッティング(分裂)が分裂病に関係するということでしたが、神経症と分裂病は全く違う病気なのでしょうか、どう違うのですか。
 抑圧が神経症に関係し、スプリッティング(分裂)が分裂病に関係するということでしたが、神経症と分裂病は全く違う病気なのでしょうか、どう違うのですか。
Q52
 ベビーブレスでは、抑圧圏の人と分裂圏の人とを区別しますか。
A51
 伝統的なドイツ精神医学では両者を峻別します。峻別の基準は、内因性か心因性か、病識がないかあるか、人間的交流の遮断(【5】p68)があるかないか、などです。日本では一般的です。
これに対し精神医学の先進国である米国では、両者の間には斬新的な移行が認められるという力動的精神医学が盛んであり、峻別するどころか両者の境界線上に位置づけすべき「境界例」(境界線例 境界型分裂などともいうようだ)という中間型が認められてきています。【5】p78~80 分裂病はノイローゼ(神経症)の重いものという一般的な素人認識に近い感じになってきた。
 また、サリヴァンは分裂病と神経症の本質的な差を認めていない、ということです。【5】p103
Q53
 抑圧圏と分裂圏の間の中間型として「境界例」というのがあるということですが、その話をもう少しして下さい。
A53
 境界例というのは、表面的には抑圧圏に、つまり神経症に属するように見えて、実は分裂病であるという観点があり、そこから境界型分裂、さらには潜伏分裂病といわれた時期もあったようです。また、境界例を、神経症と分裂病の境界にいるというよりは、さらに、正常、神経症、心因精神病、精神病質に接するところで不安定状態で安定している臨床単位としてとらえる概念もあるようです。
 また、神経症、境界、精神病の3つを分類するのに、(1)統合された同一性をもつか、同一性が拡散しているか(2)防衛メカニズムは抑圧か、分裂を基礎とするか(3)現実検討能力はあるか、の3つの基準を用い
神経症は(1)統合(2)抑圧   (3)YES
境界は (1)拡散(2)分裂を基礎(3)YES
とする立場がある。【14】p158
現在は、アメリカのDSM-Ⅲ-R(A45)では、人格障害に分類されている。
Q54
 「境界例」は中間であっても、実態はどちらかというと分裂圏よりというニュアンスがありますが、逆に、中間であって抑圧圏よりというのはないのですか。
A54
 たぶん、強迫神経症がそれに該当するのかもしれません。
 強迫神経症は、文字通り神経症の仲間ですが、分裂病の前駆段階で、おそらく分裂病から護っているものとして考えられ、徹底的な確認などその例として、不安に対して意識性を高めて対抗しようとする面があるが、その意識性の高まりには天井があり、いわば意識が天井にぶつかって、痙攣的に”確認”を反復しているのが強迫症状であるといわれます。強迫症を通過しなければ分裂病にならないということはありません(必要条件ではない、著者注)が、この意識性の天井が抜けてしまったらほとんど分裂病であると考えることができるでしょう。【3】p45~46
Q55
 強迫神経症から分裂病になることがあるということですが、分裂病を発病するというのはやはり大変なことのようですね。
A55
 大変なことだと思います。 
分裂病にならないように、人間には日々働いているシステムが備わっているのではという人もいます。つまり、免疫系が日々働いてくれるから菌やカビが重い感染症を起こすのを防いでいるように、急性分裂病状態が起きる臨界期の前後を考えると、のほほんとして分裂にならないのではなく、分裂病から人間を守るシステムが日々働いているからで、そのシステムとは、睡眠、夢活動、心身症、意識障害、死(強烈な自死への衝動)の順で働く、といいます。【3】p44
<危なくなると眠り、夢を見、足りなければ心身症になり、さらに意識障害・・・ということでしょう>
【危険性】5
Q56
 治療のつもりが分裂病を引き起こすという危険性もあるのでしょうか。
A56
 あると思います。
 神経症などを含め心理トラブルの治療には、精神分析の自由連想法や薬、私たちのベビーブレスなど種々のものがあります。このうち、分裂病の発病時臨界期には坑精神病薬は、発病しやすくさせることもあるそうです。【3】p52 また、由連想法が精神病を顕在化させる危険性もあるそうです。【14】p347 有効な治療には、当然の結果として危険性があると思われます。ベビーブレスも例外にはならないと思います。
<この部分は書かない方がいいのかも知れない>
【性】5
Q57
 ベビーブレスは、呼吸を使って心の中に隠れているものをすべて出してしまうように思えますが、ベビーブレスの立場から性についてはどのように考えますか。
A57
 この原稿全体のベビーブレスに関する説明の精神医学的な基盤は、始めにもいいましたように、フロイトやその流れを汲む人々の研究結果です。ご存じのようにフロイトの出発点は、性的な抑圧を解除することで神経症が治るということでした。その意味で、ここで性的な内容にノーコメントでいるわけにはいきません。
 性的な抑圧は、自分自身の生きるエネルギーを抑圧することに通じます。自分の中に性的なとまどいなど、性に関するブロックがあると自分で感じる場合には、それも全部出してしまうほうがいいと思います。そんな場合に性に関する部分だけを引っ込めておいて隠れた感情や自分の傷を体験するという離れ業は、難しいのではないかと思います。
 もっとも、ベビーブレスの中では、いきなり乳幼児期などに退行することが多いので、あえて性に関する部分に触れることは難しいかもしれません。あえて触れなくても、気が付いたらそのようなブロックもなくなっていたということはあると思います。統計を取ったわけではありませんが、ベビーブレスで性生活が改善されるというのは多いようです。
 サリヴァンは、例え短期間であっても性的対象にほぼ完全に適応したことがある者は決して(分裂病に)発病することがないらしい、といっています。【7】p147 また性的順応は深い退行であって均衡した退行で、しかも孤独でなく二人での退行であるから、それを経験した人間は分裂病にならないということになろうか、ともあります。【7】p482
退行が十分にできなければ、性生活の満足も十分でないのかもしれません。もっともベビーブレスに深く入れば、性に限らず、すべての人間生活が生き生きとする感じがします。
【宗教】5
Q58
 宗教についてはベビーブレスの立場からどう思いますか。
A58
 その人がどんな宗教を信じていようとベビーブレスは関知しません。
 ただ、宗教などいろいろな精神的心理的体験をしてきた人で、そのためにベビーブレスに深く入りやすい人と、その逆の人とがいるように思えます。要するに、自分を苦しめているであろう心の中の隠れた感情や傷に興味があるか否かが重要です。宗教そのものにもいろいろあるのだと思います。
 また、分裂病の人が宗教的な色彩を帯びることは珍しくはないようです。
A40で登場した分裂病のシュレーバー氏に関する記述で、「それらの妄想観念は、次第に神秘的、宗教的性格を帯び、神と交流し、悪魔達が彼と戯れ、彼は不思議な現象を見、聖なる調べを聞き、ついに、自分は別な世界にいるのだとだと信じた」「彼は、世界を救済し、失われた幸福を再びこの世界にもたらすことを自分の使命だということを確信している。しかしそれが実現されるためには、彼があらかじめ男性から女性に性を転換させておかなければならない、と考えている」「ちょうど予言者から教えられるように、神から直接与えられる霊感によって自分はこの使命を課せられたのであった」【11】p114p117というようなくだりがあります。この人の分析においても、フロイトはリビドーという性的なエネルギーの流れから分析、考察を行い、パラノイアの研究に寄与しています。
【他の精神療法との関係】6
Q59
 ベビーブレスは、どのような精神療法の分野に属するのですか。
A59
 ベビーブレスは、呼吸を使った療法で特に乳幼児期に争点を当てます。抑え込んでいた感情を表出して浄化したりします。
感情表出による浄化という効果を有しています。呼吸を使った療法にもいくつかあります。ホロトロピック・セラピー、ブリージング、あるいはブレスと呼ばれる手法です。このうちホロトロピック・セラピーは日本でも何冊か本が出版されています。
 このホロトロピック・セラピーはチェコスロバキア生まれの米国人精神病理学者のスタニスラフ・グロフという人がはじめたもので、これによって体験される無意識の領域を5つに分けます。(1)何か美しいものが見えたり五感に非常に心地よい感覚が伝わったりする領域(2)生まれた後に抑圧されたりしていたものを想い出す領域(3)分娩前後のことを想い出す領域(4)原始的な宗教形態の手法を通して体験される意識の領域(5)自己と他者のあらゆる領域がはずれてしまって全宇宙と一体感を体験する領域【18】p134~p175
 これらのうち(3)分娩前後のことを想い出す領域は、特に重要視され、さらに4つに分けて説明されます。すなわち、a分娩前の子宮内存在時における胎児と母の原初的な共生的融合、b分娩の開始と分娩の最初の(子宮口が閉じている)臨床的段階、c分娩の(子宮口が開く)臨床的第二段階、d分娩の(実際に子供が誕生する)臨床的第三段階です。【16】p11~p34
<不安が分娩に関係するとしているフロイトの説に近い また(4)(5)は胎児期のこととして理解できる>
Q60
 精神療法全体ではどんなものがあるのですか。
A60
 セラピーと名の付くものを集めると、ものすごくたくさんあると思います。手元には適当な資料がありませんが、精神医学事典には次のように紹介されています。
「精神療法」
(1)表現的精神療法(別名カタルシス法)特殊なものとして催眠カタルシス麻酔カタルシス
(2)支持的精神療法 危機介入法、環境調整など
(3)洞察的精神療法 精神分析療法、ロジャーズ法など
(4)訓練療法(学習、再学習) 行動療法、自律訓練法、認知療法、森田療法など【14】p469 
<ベビーブレスは(1)(3)を含むか>
Q61
 一般の精神療法では、何をもって治ったとするのでしょうか。目標は何でしょうか。
A61
 精神医学では、療法の目標は、症状の改善や社会適応性の改善が主で、特殊な場合には、さらに洞察の獲得があるそうですが、それらだけではなく本格的な精神療法では、それぞれ独特の人間理解の体系があるようです。精神分析療法では「無意識過程の理解」、認知・行動療法では「再学習」、森田療法では「あるがままの体験」などです。
 なお、神経症では治療後数年を経過するにつれて適応度が良くなり、これは自然治癒力の故であるとされますが、しかし不安に対処することを獲得するには、精神療法が必要であるとされます。【14】p545
【不安と恐怖】7
Q62
 ベビーブレス中の再体験では、心の傷は恐怖や不安として認識されるといういうことですが、この恐怖や不安について話して下さい。
A62
 ここにいう恐怖や不安は、心理トラブルを理解する上でとても大きな鍵になります。神経症や分裂病を起こす黒幕のような感じです。
 まず神経症についてですが、フロイトの流れを汲む心的力動論では、神経症とされるすべての心理現象はこの不安を回避するためにつくられた過剰な心的防衛メカニズムに由来すると説明されています。【14】p691
Q63
 不安についてフロイト自身はどういうふうにいっていますか。
A63
 彼は不安の問題が神経症心理学の諸問題の中でまさしく中心的とも言うべき位置を占めている、といいます。【11ー2】p265
 フロイトは、不安こそは大抵の神経質者の訴えるところであり、彼ら自身がもっともおそろしい悩みだと称し、実際に不安がきわめて激しい強度に達した結果、はなはだ気違いじみた行為に及ぶことがよくあります、といい、「神経質な」「不安な」という語とは、(ドイツ語では(著者注))ふつうごっちゃに使われているそうです。【11ー2】p236~237
Q64
 フロイトの意見では、不安の原因は何ですか。
A64
 フロイトは、不安の原因は分娩にあるといいます。
 フロイトの理解によれば、不安感情は分娩行為という早期の印象を反復するという形で再び心に甦らせるものであって、分娩は生命の危機が生じた場合の原型であり、(胎児期に行われている(著者注))内呼吸の中断による息苦しさが不安体験の原因であり、また母体からの分離を契機として最初の不安状態が生じる。そして、この最初の不安状態を反服する素因が無数の世代を通じて、くり返し有機体(人間のことか(著者注))の内部に徹底的に取り入れられ同化されてきた結果、(帝王切開のように(著者注))分娩行為そのものを経験しなかった人間であっても、不安感情を免れることはできない、といいます。【11ー2】p242~243
Q65
 神経症の人は、不安を感じるときに、何が不安なのか分かっているのでしょうか。
A65
 それが分かれば神経症にはならずにすむのだと思います。
フロイトは晩年になって、神経症的不安の場合は何を恐れるかという問いに対し、満たされざるリビドーが直接不安に転ずる、つまり興奮の当て外れにより、己のリビドーを恐れるのだ、といいます。【11ー3】p125~128
 また、不安ヒステリーに属するある種の恐怖症においては、抑圧が不安を生ずるのではなく、不安の方が前にあるのでありまして、不安が抑圧を作るのです。この不安は外的危機に対する不安に過ぎず、エディプスコンプレックスを例にすると、去勢コンプレックスである、といいます。【11ー3】p130
Q66
 フロイトは、不安と乳幼児期の関係については、何と言っていますか。
A66
 彼は、(健康な(著者注))幼児期の不安は、現実不安との関係がきわめて乏しく、むしろ大人の神経症的な不安と近親関係にある、といっています。【11ー2】p261
Q67
 つまりこの不安は、「何が不安なのか」分からないということですね。
A67
 そうです。幼児期や神経症的な不安は、対象を持たない。さらに、神経症などの心理トラブルの恐怖は対象を持たないか関連が薄い、といわれます。
 例として対人恐怖症、広場恐怖症、動物恐怖症などの「恐怖症」は、対して危険でも脅威でもないはずの対象や状況に対して不釣り合いなほどの激しい恐れを覚えます。そして、現実の対象や状況と体験される恐怖感との関連が薄れていて、その非合理性、抵抗のしようのなさからは、むしろ強烈な不安であるといわれます。【14】p170
 なお、このように精神医学では正式には、対象がない場合を「不安」、対象がある場合を「恐怖」というように一応両者の用語的な区別をしているようですが、そのような区別をしない文献も多いので、ここでも不安と恐怖の区別をあまりしていません。
<いわれのない不安、得体の知れない恐怖>
Q68
 なるほど神経症では、なにか不安が深いところで関係しているようですが、分裂病でも同じなのでしょうか。
A68
 同じというよりは、もっと深く不安に関係しているように思えます。
 長い間、精神分裂病に取り組んだ中居久夫はこう言っています。発病過程で描かれた絵は見ているとしんしんと怖さがしみとおってきます。それは患者が感じている恐怖と不安です。【3】p13  また、一般的には幻覚妄想などを以て分裂病の特徴と考えているようですが、最も強烈な分裂病体験は恐怖であるとサリヴァンは考えていましたし、私も賛成します。【3】p55~56 さらに、アリエティーも、急性の分裂症では、どこから起こってくるか分からない極度の不安感が特徴の第一にあげられる、といいます。【4】p55
Q69
 幻覚や妄想は、得体の知れない不安と恐怖のために生じるのでしょうか。
A69
 そのようです。不安と恐怖を少しでも和らげるために生じるようです。
 中居久夫は言います。恐怖はいつも存在します。しかし、(発病後の(著者注))時とともに大旨は、恐怖から幻覚・妄想・妄想・知覚変容などに比重が傾いていくと、私は思います。そのほうが少しでも楽だからです。【3】p58  極度の恐怖は対象を持たない全体的な「恐怖そのもの」体験ですが、幻覚・妄想・知覚変容は対象化されえます。意識とは一般に”何かについての意識”ですから、幻覚にせよ幻想にせよ、それらは意識に対象を与えます。【3】p59 患者にいわせれば、発病時の恐怖に比べれば幻覚や妄想はものの数ではないということです。患者のあるものは幻覚や幻想という藁にすがりついています。藁を奪おうとするとますますしがみつくのは、これを失うと大海によるべなく漂うことになるからです。【3】p60
 分裂病の人は、まなざしが自己すなわち自極の方へ向かうとき恐怖が再びつのり、その恐怖には限界がない。【3】p61
 <分裂圏の人と思われる人には自分を観ることができない人がいるのはこのためであると思われる>
【不安と心身症】8
Q70
 不安や恐怖が、神経症や分裂病の黒幕のように存在すると言うことですが、他の心理トラブルでも同じ様なことが言えるのでしょうか。
A70
 言えるのではないかと思います。たとえば、心身症の原因に「いわれのない不安」を推測する人もいます。
 今から20年ほど前に「幼児体験」という本を書いた鈴木秀男という内科医は、おとなの気管支喘息を扱っているときに、喘息の患者たちが、気象の変化や自分の身体の変化に対して異常とも言えるほど強い不安を示すことに気づきました。彼によれば、本人にも分からない「いわれのない不安」が存在するようだとし、その不安の正体が「心の核」とでも言うべきところに存在し続けるのでは、と言います。そして、そのような「いわれのない不安」は、気管支喘息の患者に限らず、人間の心身の異常性の根源なのではないかと、推測しています。そして、そのような「いわれのない不安」は、乳幼児期の生活に根ざしているのではないか、と言います。【8】p10~14
 鈴木氏は、30歳の男性の例をあげ、この男性は心身状態を示すCMIテストが42問中26項目が「ハイ」で、心臓の動悸や手足の冷えなど多くの症状を示していました。また、精神症状を表すCMI調査表が51問中15項目が「ハイ」で、頭が混乱する、ちょっとしたことでも気になるなど多くの不適応や緊張を示したいました。鈴木氏によると、男性の母は彼が生まれるとすぐに「また死ぬのではないか」という態度で扱ったことをあげている。
 また、43歳の女性の例をあげ、この女性はCMIテスト42問中18項目が「ハイ」で多くの症状を示し、CMI調査表が51問中35項目に「ハイ」で多くの不適応や緊張を示した。鈴木氏によると、女性の母は、彼女が生まれるとすぐにいつ母親に「置き去り」にされるか分からない不安を持っていたであろうことを述べている。【8】p42~56
また、鈴木氏は、フロイドが不安神経症という病気の身体症状としてあげた9つの症状は、母親に突き放されて育てられた子供に見られる症状を、きわめてよく似ている、と言います。【8】p117~118
Q71
 心身症というのは、神経症とはどのように違うのでしょうか。どんな例がありますか。
A71
 心身症は「身体症状を主とするが、その診断や治療に心理的因子についての配慮が特に重要な意味を持つ病態」と定義されるそうですが、この定義だと、身体症状を主とする神経症やうつ病も含まれてしまうので、現在は、「ただし神経症やうつ病などにともなう身体症状は除外する」となっているそうです。
例は、とてもたくさんあります。なじみのある例を挙げると、気管支喘息、過換気症候群、狭心症、心筋梗塞、十二指腸潰瘍、慢性胃炎、慢性すい炎、甲状腺機能亢進症、片頭痛、書痙、アトピー性皮膚炎、円形脱毛症、慢性関節リューマチ、腰痛症、外傷性頸部症候群、夜尿症、心因性インポテンツ、更年期障害、メニエール症候群、アレルギー性鼻炎、顎関節症、などです。【14】p400
さらには、重傷筋無力症や小脳失調症も心身症だという心身症の権威者もいるそうです。【10】p41
【防衛メカニズム】9
Q72
 前に、防衛メカニズムの主なものとしての抑圧(A32)の説明がありましたが、そもそもの防衛メカニズムとは、どんなものですか。
A72
 防衛メカニズムについて、簡単な説明はすでにしています(A31)ので、ここではもう少し詳しく見ていきたいと思います。
すでに説明しましたように、人間が本来備えているメカニズムとしての抑圧や分裂のことを、広く防衛メカニズム(防衛:ディフェンス、メカニズム:機制ともいう)といいます。
フロイトによれば、防衛メカニズムとは、それを意識することによって、不安、不快、苦痛、罪悪感、恥などを体験するような情動や欲動を意識から追っ払い、無意識化してしまう自我の働き、をいうそうです。例として、抑圧、転換、隔離、反動形成、投影、とり入れ、同一化などがあげられます。さらに、フロイトの流れを汲む人々によって、知性化、禁欲主義、創造性、回避、途絶、思考によるコントロール、魔術的思考、引きこもりなどがあげらていれます。
 特にクライン学派では、防衛とは、もっぱら不安と攻撃性ひいては死の本能から自己を守る規制としてとらえられる。例として、上のフロイトによる例(神経症的防衛機性)にさらに追加して、分裂(対象分裂、自我分裂)、躁的防衛、投影性同一視、否認、理想化、などが解明されている。この追加部分は、「原始的防衛機制」と呼ばれ、精神病、境界例との関係で理解されています。【14】p726、727
Q73
 その「原始的防衛機制」とは、なぜ「原始的」なのですか。
A73
 抑圧を中心とした神経症的防衛機性が本来は健康な3歳から5歳児に見られる防衛メカニズムであるのに比べ、この「原始的防衛機制」は本来は健康な0歳から2歳の乳幼児に見られる防衛メカニズムであり、より早期に見られるので原始的と言われます。分裂病やそううつ病などの精神病に関係が深く、それらの理解に寄与しています。【14】p210
Q74
 「原始的防衛メカニズム」は、どのように分裂病やそううつ病に関係しているのですか。
A74
 このことは、0歳から2歳の乳幼児は、どのように分裂病やそううつ病に関係しているかという質問とほとんど同じで、すでにクラインの説として説明した(A12から15)ことになります。
 クラインによると、生後3ヶ月前後の乳幼児は、対象(例えば母親)を全体的に認知できず、対象を「良い対象」と「悪い対象」とに「分裂」し、前者を「理想化」して「取り入れ」て自己の中核にし、後者を「投影」して排除しようとし、これにより自己を脅かす「迫害的不安」が生じます。また、悪い対象に対応する自己の悪い部分を「分裂」し、対象に投影して対象に属するものとみなしたりする「投影性同一視」を行います。すでに述べましたがこの段階を妄想分裂ポジションといいます。
 さらに乳児が大きくなって、生後6ヶ月から2歳頃まででは、乳児はそれまで「分裂」していた対象(例えば母)が、同一の対象であることに気づくようになり、対象を失ってしまう不安、罪悪感などの「抑うつ的不安」を経験する。この段階では原始的防衛メカニズムは緩和しているが依然活動しており、さらに「躁的防衛」が活動する。すでに述べましたがこの段階を抑うつポジションといいます。
Q74-2
 「分裂」とはどのようなものでしょうか。
A74-2
 上のA74やA12でも述べたように、生後3ヶ月前後(人によっては生後半年近く、あるいは1歳前後ともいう)の乳児に活発に働く、原始的防衛メカニズムです。
 このような早期の乳児は、いろんなことの区別がつかない混沌とした状態にいます。つまり、自分と自分でないもの(母親などの対象)との区別がつかず分裂しています。また、母親についても全体として認識できず、たとえば顔やオッパイなどの部分に分裂した認識にとどまっています。また、欲求を満たしてくれる良いオッパイ(母親)のイメージと、空腹なのに欲求を満たしてくれない悪いオッパイ(母親)のイメージとが別個の存在として分裂しています。さらに、このように対象が分裂して認識されるだけでなく、対応する自己も分裂しています。そして、この分裂をすることで、欲求を満たしてくれない悪い対象や悪い自己が、欲求を満たしてくれる良い対象や良い自己を破壊してしまうのではないかという迫害的不安からの防衛を行うのです。【14】p714
Q74-3
 「分裂」は早期の乳幼児と精神分裂病や境界例の患者に働く防衛だ(A12)ということですが、健康な人にはないのでしょうか。
A74-3
いいえ。可逆的な分裂メカニズムは、健康な人にも働いています。ベビーブレスのような精神療法では、本人の自我が、観察自我と体験自我に分裂する自我分裂が起きることが知られています。【14】p714
Q75
 「投影」とは、どのようなものをいいますか。

A75
 「投影」とは、例えば自分が攻撃的な感情を持っているときに他人が怒っていると知覚するように、不安、緊張、怒りなどの、自己の内部にとどめておくことが不快なものを外に出してしまう防衛メカニズムで、内的な緊張や不安から一時的に自己を保護する機能を果たします。【14】p577

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