カンタータ・データ 2006
BCJのコンサートに登場するカンタータについてのデータ
をお届けします!
コンサートに向けての“予習”などにお役立て下さい!
 

 2006年度BCJ定期公演は、1725年のライプツィヒ・カンタータから女流詩人、マリアーネ・フォン・ツィーグラーのテキストによるカンタータを中心に、ソロ・カンタータの名作の数々も味わいます。
 このHPにおいでいただいている皆様の中には、BCJの定期公演で取り上げられるカンタータについて“予習”されている方もいらっしゃることと思います。私も、毎回できるだけ個々のカンタータになじんでから演奏会に伺うようにしています。と申しますのは、何も知らずに初めて聴いてもバッハのカンタータはそれぞれの美しさがあり楽しく聴くことができるのですが、やはり「言葉と音楽の結びつき」が大きな意味を持つカンタータ演奏では、内容への理解の度合いが演奏を通して得られるものの大きさに深く関わっていると思うからです。まして、その「言葉と音楽の結びつき」にこだわって取り組んでいるBCJの演奏ですから、なおさら事前にできるだけ曲の世界に親しんでから実演に接したいものです。
 そこで、限られた情報ではありますが、今年度のBCJ定期で取り上げられるカンタータに関する基本データを、順次このコーナーで紹介していこうと思います。これらのデータをもとに『聖書』を参照していただく(次回に取り上げられるカンタータのデータから当該聖句へのリンクを設けるようにします)などしてコンサートを迎え、当日入手できるプログラムと合わせ、より深いBCJ体験を持っていただけましたら幸いです。 (06/07/23) 

次回に取り上げられるカンタータ・データ中の「礼拝での聖句」欄の書簡、福音書名をクリックすると、当該の聖句を読むことができます
カンタータの基礎知識についてはこちら(「カンタータの源を求めて」)をご覧下さい!

*参考文献・・・『バッハ事典』(礒山雅/小林義武/鳴海史生編:東京書籍刊:1996)
          『バッハ全集』第1巻〜5巻(『バッハ全集』編集部:小学館刊:1995〜99)
          『トン・コープマン/バッハ・カンタータ全集CD』解説(C.ヴォルフ[訳:鳴海史生]、野中裕)


 


 《ただキリストの昇天のみが》 BWV128  
 
初演 1725年 5月10日、ライプツィヒ                       
用途 昇天祭 
礼拝での
   聖句
書簡  :使徒言行録 1,1-11
福音書:マルコ 16,14-20(イエスの昇天) 
歌詞 Ch.M.フォン・ツィーグラー (1728出版)
(第1曲:J.ヴェーゲリンのコラール(1636)、第5曲:M.アヴァナリウスのコラール(1673))
編成 声楽:ソロ(ATB)、合唱
器楽:ホルンI/トラッペット、ホルンII、オーボエI,II/オーボエ・ダモーレI,II、オーボエ・ダ・カッチャ、ヴァイオリンI,II、ヴィオラ、通奏低音
演奏時間 約16分 (ラミン:19分、ヴィンシャーマン:17分、リリング:16分、レオンハルト:18分、ガーディナー:16分、リューシンク:18分、コープマン:15分) 
構成 第1曲:コラール合唱 (合唱、ホルン2、オーボエ2、オーボエ・ダ・カッチャ、弦楽、通奏低音[オルガン、チェンバロ、チェロ、コントラバス、ファゴット]
第2曲:レチタティーヴォ(テノール、通奏低音[オルガン、チェロ]
第3曲:アリアとレチタティーヴォ(バス、トランペット、弦楽、通奏低音[オルガン、チェンバロ、チェロ、コントラバス、ファゴット]
第4曲:二重唱(アルト・テノール、オーボエ2、オーボエ・ダモーレ、通奏低音[オルガン、チェロ]
第5曲:コラール (合唱、ホルン2、オーボエ2、オーボエ・ダ・カッチャ、通奏低音[オルガン、チェンバロ、チェロ、コントラバス、ファゴット]
    ※通奏低音の編成はBCJ神戸公演(06/07/22)の時のもの    
備考
女流詩人ツィーグラーの台本によるカンタータの第4作。冒頭合唱曲がコラールに基づいて作曲されているため、いったん打ち切られていたコラール・カンタータに似た特徴を示している。バッハがのちに完全な「コラール・カンタータ年巻」を編もうとした際この作品を取り入れたが、終曲には冒頭とは別のコラールが使われるため、厳密にはコラール・カンタータということはできない。
曲は、福音書におけるイエスの昇天記事に基づき、イエスのあとに従っていつの日か天に昇らんとの願いを歌う。両端楽章では朗々としたホルンの二重奏が、天を仰ぎ目指すかのような晴れやかな音楽を形成する。3曲目のアリアではホルン奏者がトランペットに持ち替え、超絶技巧のオブリガード・ソロで「輝かしい響き」を聴かせる。
BWV128の「Bach Cantatas Website」のデータはこちら。また、こちらにもテキストとデータ(ドイツ語)があります!

  


 《傲慢な、そして臆病なものが》 BWV176  
 
初演 1725年 5月27日、ライプツィヒ 
用途 三位一体節
礼拝での
   聖句
書簡  :ローマ信徒への手紙 11,33-36
福音書:ヨハネ 3,1-15(神の国をめぐる、イエスとニコデモの対話)     
歌詞 Ch.M.フォン・ツィーグラー (1728出版)
(第1曲:エレミヤ書 17,9、第6曲:P.ゲルハルトのコラール(1653))
編成 声楽:ソロ(SAB)、合唱
器楽:オーボエI,II、オーボエ・ダ・カッチャ、ヴァイオリンI,II、ヴィオラ、通奏低音
演奏時間 約13分 (リリング:13分、レオンハルト:12分、リューシンク:12分、コープマン:10分) 
構成 第1曲:合唱 (合唱、オーボエI,II、オーボエ・ダ・カッチャ、弦楽、通奏低音[オルガン、チェンバロ、チェロ、コントラバス、ファゴット]
第2曲:レチタティーヴォ(アルト、通奏低音[オルガン、チェロ]
第3曲:アリア(ソプラノ、弦楽、通奏低音[オルガン、チェンバロ、チェロ、コントラバス、ファゴット]
第4曲:レチタティーヴォ(バス、通奏低音[オルガン、チェンバロ、チェロ]
第5曲:アリア(アルト、オーボエI,II、オーボエ・ダ・カッチャ、通奏低音[オルガン、チェンバロ、チェロ、ファゴット]
第6曲:コラール(合唱、オーボエI,II、オーボエ・ダ・カッチャ、弦楽、通奏低音[オルガン、チェンバロ、チェロ、コントラバス、ファゴット]
    ※通奏低音の編成はBCJ神戸公演(06/07/22)の時のもの 
備考
女流詩人ツィーグラーの台本によるカンタータの最後の作品。福音書章句における教師ニコデモとイエスのやりとりを下地として、人の心がいかに「傲慢で臆病な」ものであるかを語り、さらに永遠の生命を得るためには、ますます信仰を堅く保たねばならないことを説く。
第5曲の管楽器は初演では3本のオーボエ属のユニゾンでオブリガードが奏でられていたようだが、バッハはのちに歌唱と重なる部分はオーボエ・ダ・カッチャのみが演奏する形に変更した。今回のBCJの演奏では音楽的効果の面の判断から、この変更された形で演奏された(神戸公演)
BWV176の「Bach Cantatas Website」のデータはこちら。また、こちらにもテキストとデータ(ドイツ語)があります!

  


 《今までは、あなたがたは私の名によっては何も願わなかった》 BWV87
 
初演 1725年 5月 6日、ライプツィヒ
用途 復活節後第5日曜日
礼拝での
   聖句
書簡  :ヤコブの手紙 1,22-27
福音書:ヨハネ 16,23-27(イエスの名において求めよ)
歌詞 Ch.M.フォン・ツィーグラー (1728出版)
(第1曲:ヨハネ 16,24、第5曲:ヨハネ 16,33、第7曲:H.ミュラーのコラール(1659))  
編成 声楽:ソロ(ATB)、合唱
器楽:オーボエI,II/オーボエ・ダ・カッチャI,II(3人)、ヴァイオリンI,II、ヴィオラ、通奏低音
演奏時間 約20分 (ヴェルナー:21分、リヒター:24分、アーノンクール:18分、リリング:20分、リューシンク:20分、コープマン:19分) 
構成 第1曲:アリア (バス、オーボエI,II、オーボエ・ダ・カッチャ、弦楽、通奏低音[オルガン、チェロ、コントラバス、ファゴット]
第2曲:レチタティーヴォ(アルト、通奏低音[オルガン、チェンバロ、チェロ]
第3曲:アリア(アルト、オーボエ・ダ・カッチャI,II、通奏低音[オルガン、チェロ]
第4曲:レチタティーヴォ (テノール、弦楽、通奏低音[オルガン、チェロ、コントラバス]
第5曲:アリア (バス、通奏低音[オルガン、チェンバロ、チェロ])  
第6曲:アリア (テノール、弦楽、通奏低音[オルガン、チェロ、コントラバス]
第7曲:コラール (合唱、オーボエ、オーボエ・ダ・カッチャI,II、弦楽、通奏低音[オルガン、チェロ、コントラバス、ファゴット]
    ※通奏低音の編成はBCJ神戸公演(06/07/22)の時のもの 
備考
女流詩人ツィーグラーの台本によるカンタータの第3作。冒頭と中間に聖句の引用が行われるため、全体ははっきり2つの部分に分かれる。第4曲目までの前半では、タイトルになっているイエスの厳しい言葉に始まり、当日の説教のテーマである「悔い改め」を主な内容として深刻な気分のうちに進行する。後半は、御言葉の引用を受けて内的な転回が行われ、「慰め」の気分がもたらされる。
第7曲のコラールはモテットBWV227でよく知られる「イエスよ、わが喜び」の旋律にのせて歌われる。
BWV87の「Bach Cantatas Website」のデータはこちら。また、こちらにもテキストとデータ(ドイツ語)があります!

  


 《私を愛する人は、私の言葉を守る》 BWV74  
 
初演 1725年 5月20日、ライプツィヒ
用途 聖霊降臨節 第1日
礼拝での
   聖句
書簡  :使徒言行録 2,1-13
福音書:ヨハネ 14,23-31(聖霊の降臨と別れの預言)
歌詞 Ch.M.フォン・ツィーグラー (1728出版)
(第1曲:ヨハネ 14,23、第4曲:ヨハネ 14,28、第6曲:ロマ 8、第8曲:P.ゲルハルトのコラール(1653))
編成 声楽:ソロ(SATB)、合唱
器楽:トランペットI,II,III、ティンパニ、オーボエI,II、オーボエ・ダ・カッチャ、ヴァイオリンI,II、ヴィオラ、通奏低音
演奏時間 約21分 (ヴィンシャーマン:25分、リリング:23分、レオンハルト:21分、ガーディナー:21分、リューシンク:23分、コープマン:20分)
構成 第1曲:合唱 (合唱、トランペットI,II,III、ティンパニ、オーボエI,II、オーボエ・ダ・カッチャ、弦楽、通奏低音[オルガン、チェンバロ、チェロ、コントラバス、ファゴット]
第2曲:アリア(ソプラノ、オーボエ・ダ・カッチャ、通奏低音[オルガン、チェロ]
第3曲:レチタティーヴ(アルト、通奏低音[オルガン、チェロ]
第4曲:アリア(バス、通奏低音[オルガン、チェロ]
第5曲:アリア(テノール、弦楽、通奏低音[オルガン、チェンバロ、チェロ、コントラバス、ファゴット]
第6曲:レチタティーヴォ(バス、オーボエI,II、オーボエ・ダ・カッチャ、通奏低音[オルガン、チェロ、ファゴット]
第7曲:アリア(アルト、オーボエI,II、オーボエ・ダ・カッチャ、ヴァイオリン・ソロ、弦楽、通奏低音[オルガン、チェンバロ、チェロ、コントラバス、ファゴット]
第8曲:コラール(合唱、トランペットI、オーボエI,II、オーボエ・ダ・カッチャ、弦楽、通奏低音[オルガン、チェンバロ、チェロ、コントラバス、ファゴット]
    ※通奏低音の編成はBCJ神戸公演(06/07/22)の時のもの    
備考
女流詩人ツィーグラーの台本によるカンタータの第6作。前年の聖霊降臨節用の同名のカンタータBWV59を発展的に改作して作られた作品。第1曲BWV59の第1曲目の二重唱が拡大され、器楽も「3」にこだわった編成に拡張された(トランペット、オーボエ)もの。第2曲もBWV59第4曲のバスのアリアの転用。
ツィーグラーは、当日の福音書章句から2節を引用し、さらに「ローマ人への手紙」からの引用を織り込みつつ、聖霊の心への宿りを願い、その降臨を祝するテキストを書いた。
BWV74の「Bach Cantatas Website」のデータはこちら(英語)。また、こちらにもテキストとデータ(ドイツ語)があります! さらにこちらにも解説(日本語)があります!

 


 《われは善き牧者(ひつじかい)なり》 BWV85  
 
初演 1725年 4月15日、ライプツィヒ
用途 復活節後第2日曜日
礼拝での
   聖句
書簡  :第1ペテロ 2,21-25
福音書:ヨハネ 10,12-16(わたしは善い牧者である)
歌詞 作者不詳
(第1曲:ヨハネ 10,12、第3曲:C.ベッカーのコラール(1598)、第6曲:E.Ch.ホムブルクのコラール(1658))      
編成 声楽:ソロ(SATB)、合唱
器楽:オーボエI,II、ヴィオロン・チェロ・ピッコロ、ヴァイオリンI,II、ヴィオラ、通奏低音
演奏時間 約18分  
構成  
備考
 
 
 
BWV85の「Bach Cantatas Website」のデータはこちら(英語)。また、こちらにもテキストとデータ(ドイツ語)があります!

 


 《人々汝らを除名すべし》 BWV183  
 
初演 1725年 5月13日、ライプツィヒ
用途 復活節後第6日曜日
礼拝での
   聖句
書簡  :第1ペテロ 4,8-11
福音書:ヨハネ15,26-16,4(つまずくな、あなた方を殺す者が来る)
歌詞 Ch.M.フォン・ツィーグラー (1728出版)
(第1曲:ヨハネ 16,2、第5曲:P.ゲルハルトのコラール(1653))    
編成 声楽:ソロ(SATB)、合唱
器楽:オーボエ・ダモーレ2、オーボエ・ダ・カッチャ2、ヴィオロン・チェロ・ピッコロ、ヴァイオリンI,II、ヴィオラ、通奏低音
演奏時間 約15分 
構成    
備考
 
 
BWV183の「Bach Cantatas Website」のデータはこちら(英語)。また、こちらにもテキストとデータ(ドイツ語)があります!

 


 《げに神はかくまで世を愛して》 BWV68  
 
初演 1725年 5月21日、ライプツィヒ
用途 聖霊降臨節 第2日
礼拝での
   聖句
書簡  :使徒言行録 10,42-48
福音書:ヨハネ 3,16-21(神は、世の救いのために独り子を遣わした)
歌詞 Ch.M.フォン・ツィーグラー (1728出版) (第1曲:S.リスコフのコラール(1675)、第5曲:ヨハネ 3,18)  
編成 声楽:
器楽:
演奏時間  
構成  
備考
 
BWV68の「Bach Cantatas Website」のデータはこちら(英語)。また、こちらにもテキストとデータ(ドイツ語)があります!

 


 《われら汝に感謝す、神よ、われら汝に感謝す》 BWV29  
 
初演  
用途  
礼拝での
   聖句
書簡  :
福音書:
歌詞 Ch.M.フォン・ツィーグラー (1728出版)
(第1曲:J.ヴェーゲリンのコラール(1636)、第5曲:M.アヴァナリウスのコラール(1673)) 
編成 声楽:
器楽:
演奏時間   
構成  
備考
 
 
BWV29の「Bach Cantatas Website」のデータはこちら(英語)。また、こちらにもテキストとデータ(ドイツ語)があります!

 


 《神にのみ わが心を捧げん》 BWV169  
 
初演 1726年 10月20日 ライプツィヒ
用途 三位一体節後第18日曜日
礼拝での
   聖句
書簡  :第1コリント 1,4-9
福音書:マタイ 22,34-46(イエスとパリサイ人の問答)
歌詞 作者不詳 (第7曲:M.ルターのコラール(1524))    
編成 声楽:ソロ(A)、合唱
器楽:オーボエ・ダモーレI,II、オーボエ・ダ・カッチャ、オルガン・オブリガート、ヴァイオリンI,II、ヴィオラ、通奏低音
演奏時間 約23分  [ ]はアルト・ソロ 主なもののみ掲載
(リリング[C.ワトキンソン]:24分、アーノンクール[P.エスウッド]:23分、リューシンク[S.ブヴァルダ]:24分、コープマン[B.バルトッツ]:24分)  
構成 第1曲:シンフォニア (オーボエ・ダモーレI,II、オーボエ・ダ・カッチャ、オルガン・オブリガート、弦楽、通奏低音)
第2曲:アリオーソ(アルト、通奏低音)
第3曲:アリア(アルト、オルガン・オブリガート、通奏低音)
第4曲:レチタティーヴォ (アルト、通奏低音)
第5曲:アリア (アルト、オルガン・オブリガート、弦楽、通奏低音)  
第6曲:レチタティーヴォ (アルト、通奏低音)
第7曲:コラール (合唱、オーボエ・ダモーレI,II、オーボエ・ダ・カッチャ、弦楽、通奏低音) 
備考
事実上のアルト独唱用カンタータ。合唱は終結コラールのみで用いられる。BWV35、170もこの時期の作であることから、当時ライプツィヒに優れたアルト(カストラート)歌手が滞在していたものと思われる。楽器編成は多彩で、3本のオーボエ属に加え、独奏オルガンが活躍する。第1曲は「チェンバロ協奏曲ホ長調 BWV1053」の第1楽章と同じ音楽である。
台本は、当日用の福音書章句をふまえ、神と隣人への愛を主題とする。
BWV169の「Bach Cantatas Website」のデータはこちら(英語)。

 


 《われ哀れなる人、われ罪の下僕》 BWV55  
 
初演 1726年 11月17日 ライプツィヒ
用途 三位一体節後第22日曜日
礼拝での
   聖句
書簡  :フィリピ 1,3-11
福音書:マタイ 18,23-35(悪いしもべの譬え。恵みを失う危険について)
歌詞 作者不詳 (第5曲:J.リストのコラール(1642)) 
編成 声楽:ソロ(T)、合唱
器楽:フラウト・トラヴェルソ、オーボエ・ダモーレ、ヴァイオリンI,II、ヴィオラ(第4,5曲のみ)、通奏低音
演奏時間 約13分  [ ]はテノール・ソロ 主なもののみ掲載
(リヒター[E.ヘフリガー]:16分、マウエルスベルガー[P.シュライアー]:16分、レオンハルト[Q.エクヴェルツ]:13分、
 リリング[A.クラウス]:13分、シュライアー[同]:11分、リューシンク[K.ショック]:14分、コープマン[C.プレガルディエン]:13分)
構成 第1曲:アリア (テノール、フラウト・トラヴェルソ、オーボエ・ダモーレ、ヴァイオリンI,II、通奏低音)
第2曲:レチタティーヴォ(テノール、通奏低音)
第3曲:アリア(テノール、フラウト・トラヴェルソ、通奏低音)
第4曲:レチタティーヴォ(テノール、ヴァイオリンI,II、ヴィオラ、通奏低音)
第5曲:コラール(合唱、フラウト・トラヴェルソ、オーボエ、ヴァイオリンI,II、ヴィオラ,通奏低音) 
備考
テノール・ソロのための、現存する唯一の真作カンタータ。音楽的な密度が高く、テノールの張りつめた音色が見事に用いられているため、エヴァンゲリスト歌手たちの絶好のレパートリーとなっている。弦楽器にヴィオラを欠き、響きが高音域に片寄っている。
歌詞は当日の福音書章句に即しており、人間につきまとって離れぬを告発して、厳しい自省を促す。罪にまみれた「われ」は、裁きを下す「神」の前に襟を正し、嘆きを訴えて憐れみを乞うのである。終曲のコラールBWV147でよく知られた旋律。
BWV55の「Bach Cantatas Website」のデータはこちら(英語)。

 


 《偽りの世よ、われは汝に頼まじ》 BWV52  
 
初演 1726年 11月24日 ライプツィヒ
用途 三位一体節後第23日曜日
礼拝での
   聖句
書簡  :フィリピ 3,17-21
福音書:マタイ 22,15-22(イエスを罠にかけようとするパリサイ人との問答)
歌詞 作者不詳 (第6曲:A.ロイスナーのコラール(1533))  
編成 声楽:ソロ(S)、合唱
器楽:ホルンI,II、オーボエI,II,III、ファゴット、ヴァイオリンI,II、ヴィオラ、通奏低音
演奏時間 約15分 [ ]はソプラノ・ソロ 主なもののみ掲載
(レオンハルト[ボーイ・ソプラノ]:17分、リリング[A.オジェー]:15分、リューシンク[R.ホルトン]:14分、コープマン[S.ルーベンス]:14分)
構成 第1曲:シンフォニア (ホルンI,II、オーボエI,II,III、ファゴット、弦楽、通奏低音)
第2曲:レチタティーヴォ(ソプラノ、通奏低音)
第3曲:アリア(ソプラノ、ヴァイオリンI,II、通奏低音)
第4曲:レチタティーヴォ(ソプラノ、通奏低音)
第5曲:アリア(ソプラノ、オーボエI,II,III、通奏低音)
第6曲:コラール(合唱、ホルンI,II、オーボエI,II,III、ファゴット、弦楽、通奏低音) 
備考
ソプラノのためのソロ・カンタータブランデンブルク協奏曲第1番の第1楽章が堂々と冒頭を飾っている(ただし、旧稿BWV1046aに依拠しているためヴィーリーノ・ピッコロのソロは無い)。当日の福音書章句によれば、パリサイ人たちがイエスに罠をかけようとして、「カイザルに税金を納めてよいか」と尋ねた。イエスは彼らの悪意を見抜き、貨幣にカイザルの肖像が彫られていることに注意を喚起したうえで、「カイザルのものはカイザルに、神のものは神に返しなさい」と答えた、とある。カンタータの歌詞は、この問答から、「偽りの世」「神の真実」の対比をクローズアップする。バッハはこの対比を、明確な設計のもとに、多様な音色効果を持つ音楽へと移している。
BWV52の「Bach Cantatas Website」のデータはこちら(英語)。

 


 《ああ神よ、いかに多き胸の悩み》 BWV58  
 
初演 1727年 1月5日 ライプツィヒ
用途 新年後第1日曜日
礼拝での
   聖句
書簡  :第1ペテロ 4,12-19
福音書:マタイ 2,13-23(エジプト逃避行とヘロデの幼児殺害)
歌詞 作者不詳 (第1曲:M.モラーのコラール(1587)、第5曲:M.べームのコラール(1610)) 
編成 声楽:ソロ(SB)
器楽:オーボエI,II、オーボエ・ダ・カッチャ、ヴァイオリンI,II、ヴィオラ、通奏低音
演奏時間 約12分 (リヒター:14分、リリング:15分、アーノンクール:12分、コルボ:14分、クイケン:13分、リューシンク:14分、コープマン:13分)
構成 第1曲:コラールとアリア (ソプラノ[コラール]、バス[アリア]、オーボエ2、オーボエ・ダ・カッチャ、弦楽、通奏低音)
第2曲:レチタティーヴォ(バス、通奏低音)
第3曲:アリア(ソプラノ、ヴァイオリン・ソロ、通奏低音)
第4曲:レチタティーヴォ(ソプラノ、通奏低音)
第5曲:コラールとアリア (ソプラノ[コラール]、バス[アリア]、オーボエ2、オーボエ・ダ・カッチャ、弦楽、通奏低音)
備考
親密な二重唱カンタータのひとつで、自筆総譜には「対話曲(Dialogus)」の表記があり、曲の印象は魂とイエスの対話によるカンタータに近い。
現在演奏に用いられるのは、オーボエ・グループを加え、ソプラノ・アリアを新しい曲に差し替えた改訂稿である(1733年か34年)。
テキストは、福音書章句の語るヘロデの幼児殺害を背景とし、迫害に悩むキリスト者に焦点をあてる。そして彼らを慰め、力づけて、彼岸のパラダイスを指し示す。全曲の枠組みを成すのは、ソプラノの定旋律にバスの自由なアリアを組み合わせたコラール編曲である。
BWV58の「Bach Cantatas Website」のデータはこちら(英語)。

 


 《われは足れり》 BWV82  
 
初演 1727年 2月2日 ライプツィヒ
*再演: 1731年2月2日、1735年2月2日、1735年以降、1746/47年および1747/48年
用途 マリア潔めの祝日(2月2日)
礼拝での
   聖句
書簡  :マラキ 3,1-4
福音書:ルカ 2,22-32(幼子イエスがエルサレムの宮に入り、シメオンの老人に会う)
歌詞 作者不詳
編成 声楽:ソロ(B)
器楽:オーボエ、ヴァイオリンI,II、ヴィオラ、通奏低音
演奏時間 約21分  [ ]はバス・ソロ 主なもののみ掲載
リヒター[D.F.ディースカウ] :25分、 ヴィンシャーマン[H.プライ] :25分
ブリュッヘン[M.V.エグモント] :21分、 アーノンクール[P.フッテンロッハー] :21分
パロット[D.トーマス] :24分、 リチェルカーレ・コンソート
           [M.V.エグモント]
:22分
リリング[D.F.ディースカウ] :23分、
ヘレヴェッヘ[P.コーイ] :22分、 リューシンク[B.ラムセラール] :23分
シュライアー[O.ベーア] :21分、 ガーディナー[P.ハーヴェイ] :24分
コープマン[K.メルテンス] :22分、 クイケン[K.メルテンス] :23分
構成 第1曲:アリア (バス、オーボエ、弦楽、通奏低音)
第2曲:レチタティーヴォ(バス、通奏低音)
第3曲:アリア(バス、弦楽、通奏低音)
第4曲:レチタティーヴォ(バス、通奏低音)
第5曲:アリア(バス、オーボエ、弦楽、通奏低音)
備考
バスのためのソロカンタータの名作。「マタイ」初演の直前の作曲。のちにソプラノ稿アルト稿も作られた。
当日の福音書章句は、救い主としての幼子イエスに会い、心満たされて死に赴くシメオン老人の物語であるが、カンタータはこのシメオンを「私」に見立て、安らかな死への、甘美にして熱烈な憧憬を歌い上げている。マリアの潔めという当該祝日のテーマが、人の現世からの潔め(安らかな死)として扱われているのだ。
正しい信仰の末に授けられる「死」こそ熱望すべきものなのである。
叫びのフィグーラから歌唱の始まる第1曲は、表情豊かなオーボエのオブリガートによって飾られる。シメオンの老人の感動が原点となり、全曲の基調となる満ち足りた終末の思いを表現する。「われは満ち足れり」の想念から始まりそこへ帰っていく中で現世から来世への視点の転換が準備される第2曲の語りを経て、第3曲「まどろみのアリア」が歌われる。「安らかな死」というカンタータの基本想念を見事に集約した子守歌の調べが曲を支配するが、中間部ではこの世への苦い訣別が歌われ、安息への憧れを引き立てる。第4曲「世よ、さらば」と現世に別れを告げ、第5曲のアリアでは、いまや魂は狂おしいほどの喜びを持って死を待望する。
BCJでの演奏では、何と言っても第4回定期でのマックス・ファン・エグモント氏の名唱が記憶に残る。暗譜で演奏に臨んだ氏の口許から、まさにバッハの言葉が流れてきた。また、94年の4月に行われた特別演奏会では、今回のソリスト、ペーター・コーイ氏との演奏も忘れがたい。第3曲のまどろみのアリアの中間部で、鈴木雅明さんが鬼気迫る形相で演奏されていたことも記憶に残っている。二回とも北里氏がオーボエを担当されていたが、今回はBCJ首席オーボイストの三宮氏のソロ。いよいよ、満を持してこの名作をBCJが世に問う時が来たのだ。
BWV82の「Bach Cantatas Website」のデータはこちら(英語)。

 


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