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小川のせせらぎとかぐわしい緑の香りに包まれた森の小道は、ハイデルランドの何処の地か。
そこにいたのは星を帯し者の一団とはいえ、奇妙な取り合わせだった。濡れたような黝い髪をした、色黒のそれはそれは美しい少年が一人。その傍らには鎧に身を包んだ銀髪の女性騎士が控え、甲冑をつけたような奇妙な銀の馬が、蒸気の息を上げて主たちを待っている。
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アリアン「ええと‥‥みなさんこんにちは。ぼくはアリアン、碧瑠璃の公子と呼ぶものもいる。地上のしきたりがよく解らないのだけれど、今日は品物を返しにきました。いにしえに陸の友人と交わされた盟約により、我らがヴォーケン王の御世にも続く盟約により、地上世界のあるべき場所にあるべき物を、河の王国よりここに届けます」 |
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ローリエ「なんとも初々しい御仁と思えば、高貴な血筋に連なる方であったとは。我が名はローリエ・リルケ、鏡の盾のローリエ。我が盾に刻む紋はなく主なき身ではありますが、ささやかながら迷える若君をお助けいたしましょう。それからこちらはジルバァブリーゼ、我が忠実なる旅の友にございます。‥‥ブリーゼ、そなたならこの程度の荷物、わけなく運んでいけるな？」 |
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ブリーゼ「ひひーん(得意そうに頷いている)」 |
アリアン「だいたいハイデルランドに郵便なんてないし、どうやったら間違えて包みごと河の王国に届くのか、謎ですよね‥‥ああ、いや、でも、ローリエさんがいて本当に助かりました」
ローリエ「(微笑して) これしきのことでお力になれるのなら、喜んで手助けいたしましょう。なんでしたらわたしが持ち帰って差し上げましょう。都にでも出れば、その絵が本来あるべき場所を、考えることもできます」
アリアン「それはありがたい。ぼくが行くとなるといささか大事になってしまいます。前に王命によって地上に出たときも大変でした。‥‥馬車を店にしている人も宿を店にしている人もみんなぼくを見ては不思議そうな顔をするし、人がせっかく店で真面目に話を聞いていれば今度は後ろから‥‥」
ローリエ「(微笑を崩さず) 河の王国の若君も、なかなかに苦労をされているようですね」
ブリーゼ「(何事か、前脚で土を掻いている)」
アリアン「ああ、無用なことを話してしまいました。ええと‥‥この絵、西方の異国から届けられたものだそうです」
ローリエ「おお、それはそれは。刻まれた異国のことば、少々ドルトニイ語にも似通っているようですが、西方といえば説明もつきましょう。とすると――この方は姫君かどなたかでしょうか？」
アリアン「なんだか綺麗ですよね。月も描かれているし。ぼくたちの王国では、月の光は碧い天蓋の向こうに輝いているだけですが、陸の世界では、いつもこんな風に見えていたかな」
ローリエ「ハイデルランドを照らす月光は乏しきものですが、この絵のうちでは天上神の御慈悲も深いと見えます。殿下、我ら聖痕者の務めが果たされ、すべての星が天に返った時、きっとこの世界を照らす月光の輝きも、この絵のごとくに戻りましょう」
アリアン「(にこにこしながら) ああ、そうだ。ローリエさん、それからこの絵、あなたの絵姿を描いたものらしいですよ」
ローリエ「(空色の瞳を白黒させる) ‥‥こ、公子殿下。今、なんと‥‥？ この絵が‥‥？？」
ブリーゼ「(首をかしげている)」
アリアン「あれ？ 最初に言いませんでしたっけ？？ ぼくは地上の世界の絵画のことはよく分からないけれど、なかなか似ているのではないですかね」
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ローリエ「(慌てて) ま、お、お待ちください、殿下。わ、わたしはそのようなこと、聞いておりませぬ。急に申されても困ります。だいたいわたしは娘というほどの歳ではありませんし、人の歳はわたしには‥‥そんな、このような美しい姿というわけでも‥‥」 |
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アリアン「えっ？ ぼくはてっきり、陸の世界に持ち帰ってもらえるのだと‥‥あ、あれ、行ってしまったよ」 |
ブリーゼ「(蒸気の息を吐いている)」
アリアン「そうか、地上の世界では、みながみな、ぼくらの河の宮殿のような場所に住んでいる訳ではないのだな。あれ、でも、絵画というものはふつう、住んでいる場所に飾るものでは‥‥？」
ブリーゼ「(うなずいている)」
アリアン「この絵、どうしたらいいのだろう。待っていればいいのかな‥‥」
ブリーゼ「ひひーん」
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