債権法改正 要綱仮案 情報整理

第36 委任

2 報酬に関する規律
(2) 委任事務を処理することができなくなった場合等の報酬請求権(民法第648条第3項関係)

 民法第648条第3項の規律を次のように改めるものとする。
ア 委任者の責めに帰することができない事由によって委任事務を処理することができなくなったとき又は委任が履行の中途で終了したときは、受任者は、既にした履行の割合に応じて報酬を請求することができる。
イ 2(1)に規定する場合において、委任者の責めに帰することができない事由によって成果を得ることができなくなったとき又は成果を得る前に委任が終了したときは、既にした委任事務の処理による結果のうち、可分な部分の給付によって委任者が利益を受けるときに限り、その部分を得られた成果とみなす。この場合において、受任者は、委任者が受ける利益の限度において、報酬を請求することができる。

中間試案

4 報酬に関する規律
 (3) 委任事務の全部又は一部を処理することができなくなった場合の報酬請求権(民法第648条第3項関係)
  ア 民法第648条第3項の規律を改め,委任事務の一部を処理することができなくなったときは,受任者は,既にした履行の割合に応じて報酬を請求することができるものとする。ただし,委任事務を処理したことによる成果に対して報酬を支払うことを定めた場合は,次のいずれかに該当するときに限り,既にした履行の割合に応じて報酬を請求することができるものとする。
   (ア) 既にした委任事務の処理の成果が可分であり,かつ,その給付を受けることについて委任者が利益を有するとき
   (イ) 受任者が委任事務の一部を処理することができなくなったことが,受任者が成果を完成するために必要な行為を委任者がしなかったことによるものであるとき
  イ 受任者が委任事務の全部又は一部を処理することができなくなった場合であっても,それが契約の趣旨に照らして委任者の責めに帰すべき事由によるものであるときは,受任者は,反対給付の請求をすることができるものとする。この場合において,受任者は,自己の債務を免れたことにより利益を得たときは,それを委任者に償還しなければならない。

(注)上記ア(イ)については,規定を設けないという考え方がある。

(概要)

 民法第648条第3項は,委任が受任者の帰責事由によらずに中途で終了した場合には,既履行部分の割合に応じて報酬を請求することができるとしている。しかし,予定された委任事務の一部とは言え,委任が終了するまでは受任者は現に委任事務を処理したのであるから,委任が終了した原因が受任者の帰責事由によるものであるかどうかにかかわらず,原則的な規律としては,受任者は既履行部分の割合に応じた報酬を請求することができるとすることが合理的である。そこで,本文ア柱書の第1文は,同項のうち「責めに帰すべき事由によらずに」の部分を削除し,委任事務の一部を処理することができなくなった場合には,既にした履行の割合に応じて報酬を請求することができるものとしている。
 本文ア柱書の第2文は,成果が完成したときにその成果に対して委任の報酬が支払われることが合意されていた場合において,委任事務の一部の処理が不可能になった場合の報酬請求権に関するものである。この場合には,その成果が完成しなかった以上,報酬を請求することができないのが原則であるが,この原則に対する例外として,既にした履行の割合に応じて報酬を請求することができる場合を定めている。第1に,既に履行された委任事務の処理の成果が可分で,その給付を受けることについて委任者に利益がある場合である。第2に,委任者が必要な行為をしなかったことによって委任者が委任事務の一部を処理することができなくなった場合(その行為をしなかったことについて委任者に帰責事由があるかどうかを問わない。)である。いずれも,請負に関する前記第40,1(1)アイと同様の規定を設けるものである。これに対し,本文ア(イ)については,前記第40,1(1)イと同様に規定を設けないという考え方があり,これを(注)で取り上げている。
 本文イは,委任に関して民法第536条第2項の規律を維持するものである。従来から,委任者の帰責事由により受任者が仕事を完成することができなくなった場合には,受任者は,同項に基づいて報酬を請求することができるとされてきた。本文イは,請負に関する前記第40,1(3)と同様に,従来からの理解を確認して前記第12,2と同趣旨を定めるものである。

赫メモ

 要綱仮案(2)アは、中間試案4(3)ア本文に関する中間試案概要のとおりである。なお、中間試案4(3)ア本文は、「委任事務の一部を処理することができなくなったとき」との表現を用いていたが、具体的にどのような場合がこれに含まれるのかをより明確にするため、要綱仮案では、「委任者の責めに帰することができない事由によって委任事務を処理することができなくなったとき又は委任が履行の中途で終了したとき」との表現に改められた。「委任者の責めに帰することができない事由によって委任事務を処理することができなくなったとき」とは、当事者双方の責めに帰することができない事由によって履行不能となった場合及び受任者の責めに帰すべき事由によって履行不能となった場合を指すものである。また、「委任が履行の中途で終了したとき」とは、委任が解除された場合(民法651条1項)や、履行の中途で終了した場合(同法653条)を指すものである(以上につき部会資料81-3、20頁)。
 要綱仮案(2)イは、中間試案4(3)アただし書及び同ア(ア)に関する中間試案概要のとおりである。中間試案の同ア(イ)については、請負に関する議論(要綱仮案第35、1、参照)と同様に、(注)の考え方にしたがい、規定を設けることが見送られた(部会資料72A、15頁、参照)。
 中間試案(3)イでは、民法536条2項の規律とは別に報酬請求権の発生根拠となる規定を設けることとしていたが、この規律によって請求することができる報酬の範囲が必ずしも明確ではないなどの問題もあることから、要綱仮案では、この規定は設けず、引き続き民法536条2項(要綱仮案第13、2)に委ねることとされた(部会資料81-3、20頁)。

現行法

(受任者の報酬)
第648条 受任者は、特約がなければ、委任者に対して報酬を請求することができない。
2 受任者は、報酬を受けるべき場合には、委任事務を履行した後でなければ、これを請求することができない。ただし、期間によって報酬を定めたときは、第六百二十四条第二項の規定を準用する。
3 委任が受任者の責めに帰することができない事由によって履行の中途で終了したときは、受任者は、既にした履行の割合に応じて報酬を請求することができる。

斉藤芳朗弁護士判例早分かり