「じゃあ、おねがいね。」
「お父さんに、よろしくね。」
急に繋いだ手をぱっと離して、二人は波打ち際の方に走り出しました。
くすくすと、無邪気な笑い声をたてて。
「ちょ、ちょっと待てよっ。」
配達夫は、あわてて二人を追いかけようとしました。
でも、二人は引き潮のように、さらりと、あっという間に何処かに消えてしまいました。
「配達夫さんの届けものも、楽しみにしてるから!」
潮風に、楽しそうにそんな言葉を残して。
「まいったなぁ……。月って、遠いよなぁ、やっぱり……。」
ふんわりと、微かに煙草の水色がついた、ためいき。
「しかも、両方届けようとしたら、変だよなぁ、どう考えても……。また、親方に怒られちまう。」
ずっとくわえて、短くなった煙草を消そうとしたとき。
手の中には、ころりと、ふたつの月の色の、小さな巻貝が転がっていました。
左手の貝がらを、そっと耳に近づけると、微かなエコーが響きました。
ふたりの、海の波の、変わらない、変わり続ける歌の名残が。
「……ま、今夜は親方もプレゼントを届けるのに忙しいから、見逃してくれるか。」
ほいと投げた水色の硝子製の煙草は、炭酸水の泡をはじかせて、夜に溶けました。
「……それに、今夜は特別な夜だしな。」
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