「コンピュータは脇役にすぎませんね。」
予想だにしない言葉が、自らコンピュータ会社・マイルストーンを経営する田中謙太郎社長の口を突いて出てきた。
「社長!本当にコンピュータ業界の人なの?」と顧客から言われることもあるという田中社長は、
「お客様の顔の見える商売をしたいです」と人と人との対話を大切にする経営者だ。
バブルの崩壊し始めた平成3年4月に設立し、法人向けのコンピュータ販売から事業をスタート。
その後はネットワーク設計や運用のサポートあるいはソフト開発など、サービス的な分野にも事業を展開してきている。
業績も初年度以外、目下7期連続で黒字を計上している優良企業だ。
販売からサービスへと主要業務が移行しつつあるのも、
「もともとコンピュータと人間とはウマが合わなくて当り前」という田中社長自身の独特なスタンスゆえ。
「人間がコンピュータと接した時に生じるストレスを少しでも和らげてあげられたら」と直感的にある時ハタと気付いたという。
確かに設立当初はブームに乗って、とにかく売れば業績もある程度上がった。
が、「ほぼ売り尽くした今となっては単に売るよりも、その使い方にビジネスチャンスは移ってきていますね」
と当時から関与している中川尚税理士は冷静に分析する。 マーケティング的な視点からの、理論的な説明だ。
「中川税理士のアドバイスなくして今の好調は考えられませんね」
と田中社長が語るように、田中社長の直感と中川税理士の理論とのハーモニーがマイルストーンを支えているのである。
●“攻めるための守り”
今でこそ、最高のパートナー同志の二人だが、もちろん確執がなかったわけではない。
臭覚の鋭さと営業仕込みのフットワークの軽さで業績をグングン伸ばしている田中社長に、
当初中川税理士は「とにかく経理の基本だけでも勉強してください」とあえて苦言を呈したという。
経理など勉強する暇があったら得意先を一件でも多く回りたいという田中社長には最初はどうにも腑に落ちなかったようだ。
「数字を作り出すのが社長の仕事だから数字が苦手では済まされません」。
中川税理士のこれほどまでの断固とした主張に田中社長も一念発起。
昔の簿記の本を引っ張り出して現金出納帳から勉強し始めたという。
経理の知識が確かになると、
「数値を見て現状を的確に把握することが可能になりますね」とは中川税理士の持論。
例えば、7期連続の黒字といえども、ここ数年の売上高は落ちているという事態を見て、
大抵は業績が不振ではないかと心配してしまうところ。
が、「売上高よりも粗利益が伸びていることがわかれば不安など少しも感じませんね」
と、今となっては“目からウロコ”の田中社長は、経理的な見方ならではのメリットを説明する。
数値から現状を的確に把握することが経理的な見方のいわば基礎編なら、
月次決算を分析しながら中川税理士とマンツーマンで行う経営会議はその応用編。
最近は専ら顧客管理に注力しているという。
売上げに貢献している顧客、そうでない顧客を分類し、得意先を絶えず見直していく。
急成長の得意先にはドシドシサービスを提案し、売上げの効率化を図ろうという趣旨だ。
「こうした顧客管理は実は“攻めるための守り”なわけですね」と中川税理士が言うように、
営業と管理は切り離されたものではなく常に連動しているのである。
●今度は商品として・・・・・
顧客管理など、中川税理士から教授された経営ノウハウは、
「実は自社のサービスにも生かされているんですよ」と田中社長は業績好調の秘訣を説き明かす。
販売促進用にホームページの作成を代行してもそれで終わりというのではなく、
顧客管理のアドバイスにまで踏み込むのである。
つまり。 ホームページにアクセスした顧客にアンケートに答えてもらい、
それを「見込み顧客」として集計する。
そのアンケートをつぶさに分析して脈のありそうな顧客にアプローチするという手法だ。
その後は「直にお客様のところに出向いて営業してください」と田中社長はアドバイスするというからユニーク。
人と人との対話を大切にする田中社長ならではの提案だ。
「マイルストーンさんらしいですね」と顧客からよく言われるというのも、
コンピュータですべて完結させず、「仕上げは人間の手で」
というアイデンティティーがサービスの底流に絶えず流れているからにちがいない。
中川税理士から仕入れた経営ノウハウを自社で加工し、今度は顧客に商品として提供していく。
中川税理士はもはや一介の税務顧問というよりも経営アドバイザー的な存在であるし、
マイルストーン自体も「コンピュータの販売会社から専門性の高いコンピュータのコンサルティング会社を目指したいですね」
と田中社長は率直にここ数年の変容ぶりを振り返る。
二人三脚でドンドン革新し、スキル先行のいわゆるコンピュータ業界というイメージには決して拘泥しない。
「お客様の喜ぶ顔を見るのがたまらなく楽しい」という田中社長は絶えず、
人間らしさや情緒をコンピュータという道具に乗せていくのである。
主役はあくまで人間。「コンピュータは脇役」というのも至極納得なのである。
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