渋谷区の税理士 中川尚税理士事務所


『基本に徹する。』それが次代に生き残る最大の秘訣。
J'sView〈椛n造交流研修センター発行>
特集/経営者の条件より「対談」中川尚VS佐藤英郎(平成10年6月)


渋谷区の会計事務所 中川尚税理士事務所        写真右 株式会社創造交流研修センター          代表取締役 佐藤英郎様                    左 中川 尚

中川氏が税理士として経営の現場に足を踏み入れたのは15年前。
経営の基本さえできていない経営者が多いのに驚いたと言います。

それでも何とかなった時代はとっくに過去のもの。 今、経営者はどうあるべきか。その基本姿勢について、ちょっと辛口の助言をいただきました。


佐藤●
中川先生は税理士という立場からさまざまな会社の経営者の相談にのっていらっしゃる。
最近どうですか。相当困っている経営者が多いですか。

中川●
不況はここ何年も続いていますから、今に至って困っているという感じではありませんが。
むしろ大手や中堅の会社の倒産やリストラを背景とした雇用の流動化の中で、新しく会社を起こそうという人がけっこう出てきていますよね。

佐藤●
毎月1,800社ぐらいの会社が潰れている一方で、新しく誕生している会社もあるわけですね。

中川●
しかしその多くが長持ちしない。保証協会のデータによると、平成以降に作った会社で3年以内に潰れた会社が7割。作ってもすぐ潰れる。

佐藤●
原因は何ですか。

中川●
ビジネスとして立ち上げるための戦略・戦術の練り方が足りない。

佐藤●
本人たちはいけると思って会社を起こしているんでしょうけど。それが甘いというわけですね。

中川●
中でも上手くいかないケースが目立つのは、大企業の出身者、特にその管理部門にいた方ですね。
大企業というのはビジネスの仕組みができあがっています。その延長線上で何とかなると考えてしまうんでしょう。

佐藤●
できあがった組織の中で、しかも大手の看板を掲げてお客様を作っていくのと、自分でゼロから作るのとでは全く違う。そこがわかってない。

中川●
大企業に長くいた方が中小の会社を起こしていくのはなかなか難しいかもしれません。仕事のスピードからして違いますから。・・・



数字に弱くても何とかなったのは過去の話。どんぶり勘定の経営はもう通用しない。


佐藤●
会社が潰れた、しかし会社経営者としては不適となるとどうすればいいのでしょう。本誌の読者の中にも将来、経営者として会社を起こしたいと考えている方がいらっしゃると思います。こういう傾向の人は会社を起こすべきではないというのはありますか。

中川●
資質としてはやはり決断力がカギになります。優柔不断がいちばんいけない。決断して失敗したケースより、決断できなくてずるずるじり貧で落ちていくケースの方が多いんです。
もう一つは数字に関する基本知識。会社を起こす時って皆さん不用意に起こすんですね。前の会社が潰れたから、お客様を多少持っているからと深く考えずに会社を起こす。 しかし、経営上の普遍的な問題に対処していくには、税法や会計学に基づいた基本的な数字の見方ぐらいは勉強しておかないといけない。その知識がないことが決断できないことにもつながっているような気がします。

佐藤●
確かに数字に弱い経営者の方は多い。当社の研修参加者の中にも損益計算書すらきちっと読めない経営者がいらっしゃる。


先が読めない経営者が、経営をやり続ける資格はない。


佐藤●
勘だけでは生き抜いていけないこれからの時代に、経営者として絶対必要な基本姿勢というのはありますか。

中川●
一言で言えば「目標と方針を明確にする」こと。

佐藤●
もう少し具体的に言いますと?

中川●
目標とは数値目標。数値目標には損益と資金の2つがある。例えば損益であれば、来期の売上、経費、利益に関する数値目標をきちっと掲げる。

佐藤●
売上目標は当然として、利益目標を掲げる会社は少ないのでは?

中川●その売上目標も立て方が間違っている場合が多いんです。決める順番はまず経費、次に利益、逆算で最後に売上が決まる。

佐藤●
確かに経費と利益が把握できれば、どれだけ売上がなければならないのかが明確になります。もう一方の「方針」というのは?

中川●
掲げた数値目標を具体的にはどのように達成するのか、それを社員に明らかにする。だけど実際は、方針なき数値目標の場合が多いんですね。方針なしにできる人ならいつまでもその会社にいませんよ。方針は言い換えれば社員に対する協力要請です。とにかく「目標と方針」を明確にして、文章化する。そして社員に徹底させる。

佐藤●
方針書をせっかく作っても、社長室のキャビネットに眠ってるなんて場合がけっこうあります。作りっぱなしでは意味がない。

中川●
ええ、社員がミスをした際などに「方針書のここに書いてあるじゃないか」と、教科書として使っていく。そういう使い方をしないと。

佐藤●
先が見えない時代ですから、不安を持つ社員さんもいます。だからこそ経営者は目標と方針を明確に打ち出して、周知徹底していく必要がある。

中川●
先が見えないと言いますが、本当にそうなら経営者をやる資格はないんです。先が見えないのは情報不足だからとも言えますね。

佐藤●
それはどういうことでしょう。

中川●
日本で「CS(顧客満足)」が事業経営の中心概念として注目されるようになったのは1990年代あたりからです。それ以前は「マーケティング」が中心でした。お客様のとらえ方でいうと、マーケティングがマクロ的なのに対して、CSはミクロ的、お客様一人ひとりということですよね。これまで会社を大きく成長させてきた経営者は、どちらかというとマーケティング指向型が多かった。しかし、特定の商品がいつまでも売れ続ける時代ではありませんから、マーケティングの力だけではやはりだめなんです。どうしてもCSの力がないと。

佐藤●
モノ不足経済からモノ余り経済へ。これまで全く経験したことがないような経済状況に入っている中で、お客様一人ひとりとどう向き合い、どう応えるかが企業の運命を握っています。

中川●
ところがマーケティング指向で突っ走ってきた事業家は、お客様一人ひとりの声を丁寧に聞いていくのが非常に苦手です。情報不足とは顧客情報の不足といってもいい。

佐藤●
その顧客情報を得る上でいちばん大事なことは何ですか。

中川●
基本的なことですが、まずお客様のところに行く。営業発想の接待ではだめ。実務ベースできちっと接触をして、お客様が自分の会社の商品なりサービスなりに対してどういう点を不満に思っているのか、自分の耳で聞き出す。それが重要だと思います。

佐藤●
「新商品が欲しい」とよく経営者の方は言います。しかし、無から有を作り出すのは至難の業です。

中川●
世の中にない商品を作ろうという発想を中小企業は持つべきではないと私は思います。失敗したときのリスクが大きすぎる。中小企業にとっての新商品とは既存の商品ののアレンジを指す。そしてそのヒントはお客様が教えてくれる。

佐藤●
だからこそお客様の所へ行けと。

中川●
当たり前のことですが、それがなかなかできない。

佐藤●
どういう時代であれ、お客様商売ですから答えはお客様に聞く、これほど明確な戦略はないはずなんですが。


優秀な経営者に共通する7つの基本姿勢。


佐藤●
先生は「優秀な経営者の共通点」として7つの項目を上げていらっしゃる。つまり伸びてる会社の共通点ということにもなるのでしょうか。

中川●
必ずしもそうとは限りません。伸びてるけれど儲かってない会社、伸びて儲かってるけれど、どう見ても短期的という会社もありますから。

佐藤●
短期的とは?

中川●
端的に言うとヒット商品を持っている会社。

佐藤●
たまごっちのような。一過性のもので続かない。

中川●
伸びてて、儲かっていて、しかも長期的な経営計画をしっかり持っている会社、それがいちばんいいわけです。

佐藤●
優秀な経営者の条件ですが、まずは「顧客との接触を怠らない」。これは先程もお話が出ました。

中川●
苦手な方がほんとに多い。

佐藤●
利益はすべてお客様からもたらされるのに、お客様に接触しないというのは不思議ですね。2つめは「数字の把握に積極的」。これも苦手とする経営者が多いということでしたね。

中川●
数字と関連して一つ付け加えておきたいことがあります。会社には大きく分けて営業部門と管理部門があります。日本では営業畑出身の経営者が多く、経理や総務などの管理部門の現場をよく知らない。そのために管理の考え方を誤解している面があります。営業部門にはいっさい規制を設けず自由奔放にやらせる、その尻ぬぐいが管理の役目だと。しかし営業活動にもある程度のしばりが必要です。そうしないとお金の流れがわからなくなる。つまり自分の会社の数字が見えなくなる。数字が把握できない段階で次の営業戦略を立てますからピントがずれる。営業と管理は一体化して考えなきゃいけません。

佐藤●
確かに営業畑出身の社長さんは、管理部門を付属物みたいにちょっと低く見がちなところはあるようです。

中川●
バランスの問題なんですけどね。逆に管理が強すぎると営業が自由に動けません。ただある程度管理ができるような体制の中で営業が動かないと、会社全体の経営効率がものすごく悪くなります。経理のわからない人ほどめちゃくちゃなお金の動かし方をしますから。

佐藤●
接待にお金をかけ過ぎるとか。

中川●
そうですね。あっちとこっちを相殺してとか、取引がやたらに複雑になって、経営者の頭の中でしかわからない。そういう会社が多い。それともう一つ多いのは月次決算ができていない会社。

佐藤●
ということは数字を把握しないまま進んでるってことですね。

中川●
だから戦略・戦術のピントがずれる。月次決算をやってますと言いながら、在庫を押さえていない会社もあります。

佐藤●
在庫も利益ですから、どんなに利益が出ていても在庫ばかりで実際は資金が全くないということも起きてくるわけですね。なぜしないんでしょう。

中川●
在庫をきちっと管理するノウハウがないんですね。もう一つ在庫に関して言いますと、実地棚卸だけでは絶対にだめだということ。いつ何を仕入れていつ何を売ったという記録を残しておいて、帳簿上はこのぐらい在庫があるはずだと、帳簿と実地とを付け合せないといけない。帳簿棚卸しと実地棚卸し、この両方を毎月やらないと本当の意味で在庫管理したことにならない。数字を把握するということは、そこまでやるということです。しかもこれが最小限の管理。月次決算を最低限やれるような会社にしておくことが事業経営の基本です。

佐藤●
次に「素早く決定し、慎重に実践する」。「素早く」はわかりますが、「慎重に」とはどういう意味でしょう。

中川●
往々にして逆なんですね。決定が遅れ、やる時ばたばたやる。経営者が何かやろうというとき、社員はたいてい反対します。

佐藤●
社員の負担になることが多いですからね。

中川●
大丈夫かなという社員なりの心配もあるでしょう。社員の反対を押し切ってやるような場合、実務的には慎重にやらないといけない。いままでやらなかったことをやるわけですから、慎重にやらないと社内的にも混乱して、いいものであってもいい結果が出せないということがあると思うんです。

佐藤●
なるほど。4番目の「内部管理指向を捨てる」というのは、外に目を向けよといことですか。

中川●
そうですね。経営活動は市場活動であるということです。それが社員が30人ぐらいになると・・・。

佐藤●
分岐点ですね。内部管理に入ってしまう。

中川●
政治の世界でも30人ぐらいまでの派閥であれば分裂しないという説があります。30人というのは管理しやすい人数なのかもしれません。それを越えると管理者を立て、権限委譲見たいなことをやる。その結果、経営者は直接社員に接触する機会が減りますから、どうしても管理の手法を考えたくなる。

佐藤●
社長室は要らないというのが私の持論なんです。社員さんと同じ部屋に机を並べておけば、社員さんの動きも見えるし、そこに出入りするお客様の動きも見える。その方が確かな目を養うことができるんじゃないか。例え社長室を作っても、質素なもので十分だと。

中川●
収益を生まないところにお金をかけるなということですよね。

佐藤●
そして5つめが「スクラップ&ビルド」。時代的な動きですが。

中川●
重要なのはスクラップが先ということ。経営者の心情としては、新しいことが考えつかないと前のものが潰せないというところがあるのですが。

佐藤●
捨てるためには大きな決断が必要ですからね。

中川●
まず潰さないことには次ぎの作は出てこない。要するに背水の陣です。追いつめられて初めて出てくるものだと、いろんな例を見て感じますね。

佐藤●
「集中の原理」は得意分野に集中するということですね。

中川●
特に中小企業によく見られる例ですが、業績が悪くなるとあれもこれもと手を出したがる。

佐藤●
それだけのノウハウがあれば別ですが、全くノウハウのないものに軽々に手を出すべきではない。

中川●
「集中の原理」とは、得意分野を決めて他社との差別化を図れということでもあります。問題はどの分野に絞り込むか。集中の原理には忠実でも、絞り込んでいる内容がまずいために失敗するケースがあります。

佐藤●
具体的に言うと?

中川●
市場性がない。売れそうもないものに絞り込んでしまっている。

佐藤●
売れるところ特化していくということですね。

中川●
現実にはなかなか難しいとは思うんですが。

佐藤●
ヒントは「お客様の声」にある。

中川●
そう、そして致命傷を負わない範囲ならやってみることだと思います。頭の言い方というのは、あらゆるリスクを考えて結局やらない。やらないことには突破の糸口も生まれない。

佐藤●
そして最後が「社員のやる気より社長のやる気」。

中川●
不況が続く中で経営者の方々の敗北感が強まり、なにもやらなくなっています。過大投資や急テンポの経営策でつまづいて倒産する会社がマスコミを賑わせていますが、実際は何もやらないでじり貧で潰れていく会社の方が圧倒的に多いんです。

佐藤●
社長が落ち込んで、売上げもどんどん落ちて、社員にやる気を出せといってもそれは無理な話です。

中川●
やはり強烈なリーダーシップといいますか、目標なり方針があってそれに対するリアクションとして社員の自主性も湧いてくる。会社はトップで変るんです。

佐藤●
状況のせいにしてはいけないということですね。


ただ頑張るだけでは商売は儲からない。事業構造を見直すことも大事。


中川●
最後に一つだけ。これは重要なことで、こういう大変な時代だからこそ事業構造をもう一度きちっと見直していただきたい。事業構造とは何をどのようにして誰に売るか、つまり商品と販売方法と顧客層の見直しです。事業構造が儲かるようになっている商売となっていない商売とがあるような気がします。構造的に儲からない商売を一生懸命やってもたかが知れています。ですから事業構造を見直すことが大事。

佐藤●
一つめの商品のの見直しというと、売れない時代だからちょっと値段を下げようかといった感じになりがちですが、そういうことではなさそうですね。

中川●
中小企業というのは中級品ないしは高級品を扱わないと差別化が図りにくい。安い商品では大手と勝負になりません。

佐藤●
売れない理由の一つは差別化ができていないから。大手が入ってこられないような付加価値をつけていかないといけない。

中川●
高いもの、付加価値のあるものを少し売る、そういう発想が中小企業には必要だと私は思います。

佐藤●
それをどういった顧客に売るのか、それも見定めなくてはいけない。

中川●
良くある間違いは大企業をお客様にしたがる。儲けさせてくれないし、支払が遅いにもかかわらずです。信用の道具として使うのはかまいませんが、事業経営のメインに上場優良企業を置くというのは得策とは思えません。

佐藤●
「経営者の姿勢」というテーマでお話を伺ってきましたが、トップの姿勢によっていかようにも変わりうる、それを改めて確信いたしました。だからこそ経営者は本当に腹をくくって勉強しなくてはいけない。やるべきことをきちんとやれば生き残っていける、それは信じてもいい真実だと思います。

中川●
本物が残る時代です。

佐藤●
経営者の方にとっては本当に大変な時代だと思いますが、しかし大変なときこそ実はチャンスである、自分たちの会社をきっちりやっていくほんとうにいい機会なんだと、そういう意識で頑張って頂きたいと思います。


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