管楽器奏者の歯のためのページ

たわごと 2001


頬筋のこと(01.12.28)

医者をやめてプロになったといううわさの宮前君から掲示板に書き込みいただきました。彼は昔新響団員の(といっても私とはほとんど入れ違い、でも何度かアンサンブルをいっしょにやったことがある)フルート吹きです。
>「たわごと」久しぶりに読ませていただきましたが、コンディションのほうはいかがですか?
>僕のHPのエッセイでは主にフルート奏法に関することと、管楽器全般の呼吸法に関して取り上げています。
>お腹に力を入れると血圧が上がるような感覚というのは、胸腔内圧というよりも、むしろ腹圧による静脈
>還流低下をprimaryに考えた方が、管楽器奏者に生じる様々な症状を矛盾なく説明できます。
私は血圧や呼吸法のことはよくわからないので、正直いって腹圧でも胸腔内圧でもどちらでもいいのですが、腹に力を入れたときではなく「楽器を吹いているとき」のことを考えてみたわけであります。確かに彼のHPで書いてあるように「腹に力を入れようとする」ことは間違っていて、腹圧を上げただけで血圧が上がるのでしょう。腹圧をあげることで胸腔内圧は上昇するのだろうけど、同じ腹圧でも楽器の種類や音域によって胸腔内圧が違う---感覚としてですが、フルートでは楽器の抵抗が小さいので胸腔内圧は上がりにくいだろうし、オーボエとかホルンのような息の出口の小さい楽器では当然胸腔内圧は高いだろう---し、逆に言えば必要な胸腔内圧が違うから、正しい奏法をしていても腹圧を上げることはあるだろうし。ということで、高血圧症ではどうしたらいいか?ということを考えるときには胸腔内圧に注目した方がいいと思うのでした。
>リンク先のトランペットの先生の話も貴重な話題でいっぱいです。
このトランペットの先生のおっしゃっていることで、どうにも理解できないというかおかしいと思うことがあるのです。それは咬筋と笑筋についてです。呼吸とか咽喉、発声法から奏法を考えることは素晴らしいのですが.....。
その先生が咬筋と笑筋について言っていることをまとめると
正しい奏法をすると咬筋に疲れが残る。これは笑筋が咬筋筋膜に(枝分かれ改め)付着しているため、笑筋が働くと咬筋に負荷がかかるからである。間違った奏法(彼の言う粘膜奏法、地声モード)では頬筋に負荷がかかり優位に働く。
私の予想では、その先生が練習・本番後もしくは「例のドイツ製の器具」で負担がかかって疲れたとおっしゃっているのは咬筋ではなくて頬筋後方の翼突下顎縫線(靱帯状の部分)のあたりではないかと思うのです。位置的には咬筋の内側なので、区別するのは難しいでしょうし2次元の解剖図を見て判断しているのであれば勘違いしている可能性もあるかもしれません。 咬筋というのは咀嚼筋の一つで(顔面筋ではない)普段何10Kgという力で「咬む」という作業を日常的に行っている筋肉です。負担がかかるとすれば、顎関節や下顎骨の位置に関連があるかもしれません。舌は舌の中にある固有舌筋と舌骨上筋群・下筋群でコントロールされますが、舌骨筋群が働いて咀嚼筋が働かないと下顎骨は下がり口が開きます。下顎骨を固定して舌が動くためには咀嚼筋が作用しないといけない。また、空気の流れを作るために舌側方部は収縮し口蓋に挙上されるので、高音域ほど咀嚼筋に負担がかかるとしたらこのためだと推察できます。それにしても何か原因(顎関節症とか無理な顎位で吹いているとか)がなければ、管楽器を吹くくらいの力で疲労するわけがないと思うのです。
頬筋というのは口の周囲の顔面筋の中でも大きい筋肉です。収縮により口角を横に引くあるいは頬を歯列に密接させますが、笑う・しゃべる・物を食べるときに食塊を移動するくらいしか日常生活で働かない筋肉です。口角の位置を一定にしながら頬筋を使うことで、高音・大音量の空気圧にも耐えて口唇の柔軟性を保つことが出来るわけです(頬筋が働いていなかったら頬が膨らみ音なんて出ないはずです)。
そういう意味では口角の位置を保つ筋肉(口角挙筋、口角下制筋など)が重要な役割をしており、笑筋もその一つだと思いますが、笑筋というのは、欠如することも多い(2割?)小さい筋肉です。ですので笑筋が引っ張るから咬筋が疲れるなんてとても考えにくい。
実は頬筋というのは袋状の筋肉なので、2枚重なったようになっているのです。つまり表側と裏側があるのです。もしかしたら、この2枚の使い分けることでアンブシャーを作っているのかもしれません。その先生が笑筋と思っているのは表側の頬筋だったりして・・・??(実際はわかりません。)
頬筋は「粘膜奏法、地声モード」の時に働くというのは、おそらく口角の位置を保つ筋肉が十分に使われていないで、下顎が十分に開いていない(=口腔が狭い)ければ、当然口角が横に引き過ぎになるから頬筋に負荷がかかったように感じるだけの話ではないかと思うのです。
「優位」という言葉がくせ者だと思うのですが、筋の活動量の大きさを比較しているのであれば「正しい奏法」であっても断然大きい頬筋が優位でしょう。重要性を比較しているのであればすべての筋肉が重要でしょうし、どの筋肉がポイントかという意味では個人個人によって違うかもしれません。おそらくその先生のおっしゃっていることは「意識の問題」でなんでしょうね。笑筋を優位に働かせようと意識する、つまり頬の表面近くのみを横に引いて口角の位置を保ち(=笑筋のみを使っているつもり)頬の内側は横に引かないで内側にまとめる(=頬筋を使わないつもり)ことで、正しいアンブシャーができるわけです。ですから「笑筋を優位に使おうとする意識」自体はいいとは思うのです。でも、感覚の話を専門的な解剖学用語でなさるのはちょっと・・・・。


金属アレルギー(01.12.25)

「歯の相談室」にたくさんメールをいただいています。すぐに返信できる内容ならいいのですが、どう答えていいかわからないもの、たぶん歯とは関係ないものなど、返信しそこねてしまうことがあります(スミマセン)。だいたいは以前にいただいた相談と内容的には似ているので、HPの相談室はしばらく更新していませんでしたが、今日1件のみ追加しました。メールの内容だけでは正直ハッキリわからないのですが、金属アレルギーの可能性もあると思いました。ここにも転載しておきます。
金属アレルギーについて
金属そのものは生体に対して抗原性(アレルギー性)を示しませんが、溶出してイオンとなり、体の中の蛋白質と結合すると完全抗原となってアレルギー反応を引き起こすことがあり、これを金属アレルギーいいます。金属アレルギーは遅延型アレルギーに分類され、1〜2日経ってから症状が発現します。
主に、アクセサリーによる接触性皮膚炎が多いですが、口の中の金属(歯科材料:金属冠や充填物や矯正器具)が原因となることもあります。金属のあたる部分に炎症が起きるだけでなく、手足に膿の袋ができたり(掌蹠膿疱症)、全身に湿疹ができることもあります。
原因としてもっとも多いのはニッケルですが、その他に水銀、コバルト、スズ、パラジウムなどでも起きます。わずかですが銅、白金、亜鉛、金なども原因になります。
管楽器で問題になるのは、フルートの頭部管や金管楽器のマウスピースです。唾液や呼気中の水蒸気で金属からイオンが溶け出てアレルギーの原因となることがあります。特に洋銀はニッケルと銅と亜鉛の合金ですのでアレルギーを起こしやすいと考えられます。フルートの初心者では洋銀製の楽器を使うことが多いですので注意が必要です。
金属アレルギーと思われる口唇炎をたびたび起こす人は、何が原因なのか調べるために皮膚科でパッチテストを受け、原因となる金属が含まれない頭部管あるいはマウスピースを選びましょう。
まだ金属アレルギーの症状がなくとも、アレルギー体質の傾向のある人は、金メッキあるいは樹脂製の物を使うと予防になります。また、手の汗により金属アレルギーを引き起こす可能性もあります。
私はアレルギー体質とは縁遠いので、ノーラッカーの楽器に洋白(=洋銀)の無垢のマウスピースでも今まで何の問題もありませんでしたが、なんか体に悪いような気がして洋白のは止めて銀メッキ(ウソ、単にマウスピース捜しの末に違うマウスピースにした)にしましたし、その内金メッキにしたいくらいです。アレルギー傾向が高まっている現代人ですから、注意したほうがいいと思います。歯科でも口の中のアマルガム充填(=水銀)とかニッケルとかが原因になる金属アレルギーが増えていて、注目されています。矯正器具でも金属アレルギーの人のための金メッキもしくは18金の装置なんていうのも出回るようになりました。
もう少し詳しい内容にしてそのうち独立したページにしたいと思います。


上顎前歯の上下的な位置と金管楽器について(01.12.11)

前にも書いたのだが、私は上の前歯が短い。実際に歯根自体も短いのだが傾斜していて歯槽部が短く、唇を軽く開けたとき下の前歯しか見えない。でも笑ったときはそれなりに上の前歯が見えるので歯科医的には特に気にしたことがなかった。つまり歯科でいうところの理想的なスマイルでは上の前歯の3/4だったか4/5程度が見える状態なのであって(それ以上歯が見えて歯茎が出てしまうとガミースマイルといってあまり好ましくない)、私もそれに近い状態のスマイルを作ることができるのだ。ただし、口角だけでなく鼻翼も上げて上唇をやや巻き込んで何とか理想的なスマイルとなる。
私が自分の上の前歯が短いことに悩み始めたのはこの夏に上唇を上に上げる筋肉を使い過ぎと指摘されてからだ。なんとか中音域はその時教わったアンブシャーで自分でも満足の行く音質で吹けるようになったのだが、高音域で上唇を上げずに吹くことはなかなか難しかった。
また最近は、上顎前歯が伸びていて噛合わせの深い(唇を開くと上の歯茎が見える)患者さんが矯正治療により前歯が上に圧下され噛合わせが浅くなったのだが、音の立ち上がりが良くなりffが良く鳴るようになったと言われたり、ご自分で上の前歯を削ったが高音域で息が入りすぎ口唇に力が入るので戻したいという患者さんの歯の形態を修正したら、音にスピードが出た感じがしたし、高音から低音までつながるようになった(たぶん、無駄な動きなく同じアンブシャーで上から下まで出るということだと思う)ということだった。
以前から、前歯と口唇の上下的な位置関係には個人差があることを、金管楽器の奏法を考える上で認識するべきだと思っていた。つまり、口唇と前歯の位置によって筋肉のバランスが違うのではないか---特に口角から上下に出ている筋肉の上下のバランス---だから口角が上がる人もヘの字口になる人もいるのではないかと。しかし、このところの私自身とか診療室での経験から、前歯と口唇の上下的な位置関係には有利・不利があり、まず理想的な筋肉バランスがあってそれに合った位置に前歯がある必要があるのではないかと考えるようになった。もちろん今までも前歯の上下的な位置は重要だと思っていたが、前歯の噛合わせの深さ(奥歯で噛んだときの)に注目してしまっていた。下顎は三次元的に移動可能(もちろん可動範囲は限られるが)なのだから、むしろ、動かない上顎前歯と振動体として音質を左右する上唇との上下的な位置関係が重要なのではないかと今は考えている。
成長期に鼻が悪かったり指しゃぶりをしていたりすると、上唇(鼻の下の部分)が短くなることがある。そういう傾向のある人は金管楽器には多少不利かもしれないので、自分の子供にも管楽器をやらせたいという時には鼻疾患やアレルギーに気をつけ、必要があればトレーニングをしたほうがよい。
私のことに話を戻すと、以前の私は高音域を得意としていたが中音域の音量が出なかった。低音は苦手でもそれなりに出たがアンブシャーが変った。数年前スランプ脱出のため中音域から音作りをしたが結局自分のアンブシャーに不自然さを感じ元に戻しかけた。そしてこの夏からまた中音域が鳴るようにトレーニングしたが、同じ筋肉バランスで高音域を出せるようになるまでに時間がかかった。これらは上の前歯が上唇に比べて短いためだと今なら説明がつく。上の前歯が短い私が高音域を鳴らすには口裂(上下の唇が合わさる部分)を上の方に上げる必要があり、これでは中音域以下の音量が出ない。逆に中音域が鳴るように上唇を楽にしたままでは歯が短いために歯の開きが大きくなり高音を出すのが難しいのだと思う。
それではと思い立って、昨日自分用に前歯が2mmほど伸ばすアダプターを作った。バズィングをしてみたらあまりにも楽にできて期待したのだが、楽器を吹いてみると唇の振動がとまるためか、アダプターなしの方がずっと良い音のようだ。やはり歯が開いていることは大事だなと痛感し、上唇を楽にして歯の開きが大きいまま全音域が「つながるように」頑張ろう。苦労はするが多少前歯が短い方が有利なのかもしれないと思うことにした。


高血圧(01.11.29)

この前「hornplayer.net」の投稿を和訳してHPに載せたのですが、その中で、「ノープレシャー法」でホルンを吹くことは高血圧症(またはその傾向がある)奏者にとっても有意義であるという文章がありました(もちろん、「ノープレシャー」といっても、マウスピースの圧力がゼロになるのではなく、最小/適切な圧力でということだと私は理解していますが)。でも、ちょっと私にはよくわかりませんでした。最小の圧力で高音を吹こうとすると、グッと腹に力を入れて息の圧力を上げて吹きますが(いわゆる「口に頼らず腹でささえろ」)、その時血圧上がりそう状態になるからです。マウスピースを過剰に押し付けるとアパチャーが横につぶれて小さくなり高音が出るのですが、アパチャーを保ったまま音量を大きくせずに音を高くするには、息の圧力が必要になるわけです。もちろん唇の弾力を保ったままアパチャーが小さくなればいいのですが......
そこで、循環器内科専門医の友人に管楽器演奏時に血圧が高くなるメカニズムについて教えてもらいました。
楽器演奏時に胸腔内圧が上がる-->静脈還流が減少する-->心拍出量が減少する-->その反射で血圧が上がる
つまり息の圧力を上げるほど血圧が上がるはずなのです。ですので、私の説では、マウスピースの圧力に頼らずに高音を出そうとすると、血圧に悪いということになります(もちろん、だからといって押し付けて吹いたほうがいいというわけではありませんが)。
しかし、もう一つ血圧が上がる原因があります。過度の圧力で演奏している人が高音を出そうとすると首に力が入ってしまいます(ファーカスのいう「側方圧力」)。そうすると筋肉が収縮して血管を圧迫するわけであります。
ということで、本当に深刻に血圧の高い人は、下吹きあるいはあまり胸腔内圧が上がらなそうな楽器にかえたほうが身のためのように思います。
矯正器具とホルンはアップした翌日一部変更しました。
「音を一定に保って吹くことのできる最長時間よりも短い5秒間」というのは、やはりおかしいので、「音を一定に保って吹くことのできる最長時間よりも5秒短くする」と解釈するのが普通ですね。私、ホントに英語苦手なんであります。


「hornplayer.net」の投稿より(01.11.16)

私は恥ずかしいことにとっても英語を苦手としていまして、最近必要に迫られて英会話スクールに通っているのですが、それでも嫌いなので英文は読む気もしないので、思い切って翻訳ソフトを入手いたしました。それで前からちゃんと読もうと思っていたアメリカのホルン関係のサイトの矯正器具との関係についての記事を訳してみました。ウーン、翻訳ソフトって思ったよりメチャメチャな日本語になりますねえ。でも自力で読むよりずっとラクチン。「hornplayer.net」の投稿より...はこちらです。
矯正器具による影響は、アンブシャーの状態、演奏レベル、元の歯並びなどにより違うでしょうし、その人にとっての楽器演奏の重要度によっても感じ方も違うということを、矯正治療のページに書いていますが、やはりアメリカでもいろいろな意見がありますね。10年くらい前から、矯正器具をつけることでかえってプレスをしないで吹くようになるから金管楽器は上手くなるんではないかと考えていたけど、ここ数年は、実際に矯正治療をしている/する予定の金管楽器の人を相手にして、装置をつけてつらい思いをする人の立場を思うと、とても無責任にそんなこと言えないという気持ちで、あまりそういったコメントはしないようにしていました。でも、それが大切だという投稿も複数ありましたね。低い圧力でというのは歯並び・矯正器具が関係なくてもよい音を出すうえで重要な要素であることは確かなわけですし、ちょっと確信を持つことができました。
矯正器具を保護するために、私は矯正用のワックスを使ってもらってますが、ヴァルブによくないというのは考えていなかったです。たばこの包み紙はいいかもですね。クラリネット・サックスの世界では、紙を下の前歯に被せることはよくやられていますね。多くはクリーニングペーパー(もしくはあぶらとり紙)が使われるようです。昔私の周りではたばこの箱の内側の銀紙が流行ってました。化学実験用の何とか言う特殊な紙がいいという話も聞いたことがありますが、ようは薄くてつるつるしている紙を細長く切り幅を半分に折ってぬらしてカバーするということですね。興味のある方は試してみてください。
でも、矯正歯科医がある程度考慮しながら治療を進め、奏者の方も過剰に押し付けず「正しいアンブシャー」で吹ければ、そういったカバーはいらないでしょう(実際、昔私が自分でブラケットつけて吹いたときでも実音のHighFまで出たわけだし)。
最後の投稿にはアイソメトリックを応用したロングトーンの方法がのっています。最近流行りの「7秒間ダイエット」と同じ考え方ですね。↓でも書きましたが、スポーツ科学のトレーニング理論を応用しての練習という意味ではとても参考になります。さっそく今日から私もやってみます。


「スポーツ歯科学」(01.11.5)
スポーツ歯科学が最近注目されている。内容としては、主にマウスガードによる外傷の予防と運動能力の向上、選手の口腔系の健康管理である。
外傷の予防としては、歯で唇が切れるとか歯が折れる・抜けるのを防ぐだけでなく、脳への刺激を軽減し脳震盪の予防にもなる。運動能力の向上としては、噛みしめることで筋力がアップしたり、マウスガード等で噛合わせを挙上することで瞬発力がアップすることが知られている。
コンタクトスポーツ(格闘技や競技者が接触する球技...ラグビーなど)ではマウスガードの着用が当り前になりつつある。スポーツ用品売り場で手に入れることができるが、調整のできないものや自分で軟化して合わせるものでは、どうしてもピタっとしないで脱離しやすかったり装着感も悪く、また、調整の仕方が悪いと不正咬合の原因になったりもするので、スポーツ歯科の知識のある歯科医院でカスタムメイドするのが望ましい。
スポーツ歯科を簡単に説明するとこんなところですが、この考え方や研究内容を管楽器奏者に対して応用できないものかと思っていまして、スポーツ歯科には興味を持っていて講習会に行ったりしています。スポーツ歯学を専門に扱う研究室をもつ歯科大学もあり、最近学会も発足したくらいです。歯科の分野だけでなくスポーツ科学の研究はさまざまな分野・方向から広く研究され世間に認知されています。管楽器の演奏も「身体を使う」という意味ではスポーツ科学に近いのだから、もっとこういった考え方を取り入れて奏法を追及できないものか、音楽大学等でも科学的なアプローチをするところがほとんど無いのはどうしてだろう・・・などと思うことがあるわけです。
管楽器のトレーニングにもスポーツのトレーニング理論、例えば、どういう負荷をかけてどういう間隔でトレーニングすれば耐久力がつくとか筋肉が大きくなるとかあるわけなので、それを応用した効率の良い練習スケジュールが考えられてもいいと思うし、いかにアガらず本番に集中力を高めることができるかには、スポーツ心理学をそのまま応用できますよね。
スポーツ歯科を管楽器演奏になぞらえると
1)外傷の予防:歯の調整やアダプターによって口唇の外傷の予防や演奏時の顎関節への負担を軽減する。
2)噛合わせによる運動能力の向上:噛合わせや咬合力が口腔周囲や全身の筋力に影響したり、また、個人によって演奏に関係する筋の筋力が最大限に発揮できる咬合挙上量というものが存在するのではないか?
3)口腔系の健康管理:スーポツ選手以上に重要かもしれない。
と、いいながら、やはり管楽器演奏はスポーツではないのです。肉体的な技術は音楽を表現する手段に過ぎない。この前ウィーンフィルを聴いてつくづく思ったのは「クラシック音楽って伝統芸能だよなあ〜〜」。伝統芸能を科学しちゃあいけないのかもしれません。


私の反省(01.10.30)

7月はヤバイソロがあってHPどころでは無かったのでした。8月はS氏のレッスンを受けアンブシャー全面見直しということになり、10月に再チェックを受けることになっていたので、時間があればロングトーン(とレッスンのための英会話の勉強)をしていました。新しいアンブシャーでは全然思うように吹くことができずほとんど初心者のような状態ですが、これも良い機会だと思っています(とは言っても、毎週のオケの練習や本番では初心者状態というわけにもいかず、なかなか徹底できないのですが)。もしかしたら、このまま全然吹けなくなるかもしれないけど、信じるものが必要なのかもしれません。
今思うと、不調の原因が良く理解できます。このホームページを始め仕事の上でもアンブシャーと筋肉・歯の関わりを考えるようになったこと。オケのメンバーが変わり無理して大きい音を出すようになったこと。肩凝りや首の痛みに悩まされるようになったこと(姿勢の悪さ・運動不足)。この3つはどれも3年前の不調が始まった頃のできごとです。
昔はアンブシャーを意識したことが無かったし理屈もわからなかったが、それなりに良いアンブシャーだったはず。しかしここ数年は、練習してるときもついこの筋肉はどうとか意識が口の周りに集中してしまった。この1年はマウスピースの試行錯誤も始めてしまい、つい、ノドや舌の位置のイメージを忘れてしまっていたようだ。無理して吹いて顔の筋肉を痛めて調子を悪くしたこともある。首の筋肉に関してもそうで、たぶんそれがきっかけで筋肉のバランスが変わったりしたのだろう。いい加減な姿勢でさらうことが多くなったのもこの数年、悪い姿勢のために息を十分に使うことを体が忘れたのかもしれない。
今の私のアンブシャーの考え方としては、「いかに歯を開いて上唇を楽に振動させて吹くか」が大切(金管の場合です)。診療室に相談に来る金管の方にも、その考え方を元にしてアダプター等のアドバイスをしています。しかし、私自身なかなか教わったようには吹けません。私の場合、上の歯(歯槽部)が短いために上唇を楽にするためにはかなり歯を開かないといけないし高音域では上唇を上げる筋肉がどうしても働いてしまう。・・・でも、もう少し辛抱して頑張ってみようと思います。教えを信じて。
「金管楽器演奏に有利な歯並びは?」というのを書いてみました。3ヶ月前に書いたものを、しばらく寝かせておいて、今日手直ししました。
確認ですが、楽器演奏にとって歯並びがすべてではありません。単なる条件の一つだと思ってください。私がこういうことを考えるのは、矯正治療のゴールやアダプターのデザインを決める上で必要なのです。最近は何となくわかってきたような気がします。患者さんにアダプターを入れた途端に音が変わって自分でもびっくりしたりします。


「矯正歯科医の認識と教師の認識」(01.6.27)

最近相談コーナーで「歯医者の先生には矯正をしてもトランペットを吹くのには支障が無いといわれたのでやり始めたが、すごく吹きにくい、ハイトーンも出ない」というメールをいただきました。彼は中学3年生で8月にコンクールがあるのに、この6月に矯正治療を始めたそうです。
もう10年位前になると思うのですが、日本矯正歯科学会で、管楽器がらみの演題があって、そのとき「では管楽器を吹いている子供の矯正治療は可能なのか?」という質問があって、有名な矯正の先生(開業医)が「吹ける」という発言をしたように記憶しています。その頃は、矯正歯科医の中でも矯正治療中の子供の管楽器演奏を禁止する人も多く、まあ、いい傾向かなと思って聞いてました。今は「管楽器をやっていても矯正治療は受けられる」という認識の矯正歯科医がほとんどだと思います。そりゃあそうです、その分患者さんが減っては大変ですから。大抵の矯正歯科医は中学の吹奏楽部で管楽器を吹いている生徒を矯正した経験くらいはあるでしょうし、中には何も支障がない子供もいるだろうし、支障があっても矯正治療のせいだという認識がない子供もいるでしょう。だからといって、すべての子供が「支障がない」わけではないのです。楽器によっても奏法によっても歯並びの状態によっても違うことを知っていただき、なるべく薄いブラケットを使用するような工夫をしていただいて、何と言っても中3のコンクールなんていう大イベントを避けて矯正治療を始めて欲しかったです。
逆に、矯正治療中の子供には管楽器を担当させないという教師もいます。前に私の患者さんでトランペットをやりたいのに、矯正器具がついているという理由で打楽器にまわされたという子供がいました。最近も知合いの矯正の先生から、教育関係のフォーラムで管楽器をやっている子供の矯正治療について議論になったことがあるというメールをもらいました。教師としては、何かトラブルがあったり子供が上手くならなかったりしたら大変なのでしょう。意外と既に矯正治療を始めていて慣れている子供は楽器を吹いても平気だったりすると思うので、是非ご理解していただきたいし、何かご意見等あったら寄せていただけるとうれしいです。
ということで、「管楽器奏者の矯正治療」少し手直ししました。影響としては口唇粘膜の痛みを想定して、フルートは影響が少ないほうだと書いたのですが、どうやらフルートの上級者ではトラブル多いようですね。装置により微妙なコントロールがしにくいということです。もちろん装置の大きさや歯並び・治療手順等で影響は異なるでしょうし、初級者ではおそらくほとんど問題がないようです。
それと私の出没演奏会も更新しました。


「筋肉痛とドーピング(??)」(01.5.11)

また、しばらく更新サボってました。演奏会本番&合宿だったもので...(演奏会本番終わって、4日たったら合宿で次回演奏会の練習が開始するというのもヨク考えるとトンデモないオケです。)
私はアマチュアのホルン吹きをしていて、一番恐れるのはバテてしまうことです。本番がマチネで、前日夜のリハ、当日午前のリハと続いて3回も吹くとなると、バテバテです。とにかく、本番前は練習量を増やすことを心がけ、ヤバイ曲の時は、毎日1回通して吹いてみるようにしていますが、絶不調の時はどうにもなりませんでした。私の場合、唇でなくて顔の筋肉が痛くなってしまいます。そこで、愛用していたのがバファリンです。全く別の目的でバファリン(内服鎮痛剤)を服用して望んだ本番で、バテバテになっておかしくない状態なのに絶好調で高い音・大きい音が出てくれたのです。それに味を占め、本番前の数時間前に1錠だけ飲むというのが私のやりかたでした。
でも、このところバファリンに頼らずとも大丈夫でした。ウ〜ン、調子が戻って耐久力バッチリか・・・と思っていたのですが、先日のGWの合宿は1日目ですでに口と周りの筋肉がイッテしまいました。原因は、ウォーミングアップ不十分なまま合奏にのぞんでしまったのと、曲の種類でしょうか。2日目はよほど「音が出ません、休ませてください」と言ってしまおうかと思いましたが、そこで持ってきたのがバンテリン1.0%(局所吸収鎮痛剤)。顔に塗り込んだらあら不思議、痛みが無くなって音が出るようになりました。数時間おきにバンテリン塗って1日何とかもたせました。
楽器演奏にとって筋肉の痛みを薬で抑えることは、必ずしも悪いことではないと私は思います。どこか痛みがあると無意識にそれをかばおうとして筋肉のバランスがくずれて、かえってどこかに無駄に力が入り、さらに調子を崩してしまうからです。もちろん、薬の副作用を知ったうえで必要最小限に使うべきです。
薬物を用いて本来の能力以上のことをしようとするという点では、こりゃドーピングですね。ちなみに、バファリン(アスピリン)もバンテリン(インドメタシン)もスポーツにおける禁止薬物ではありません。
筋肉痛は、筋肉に通常以上の負荷がかかったときに、筋肉線維が部分的に断裂して筋肉内に乳酸等の疲労物質がたまり(これが演奏中あるいは直後の痛みの原因となる)、リカバリーをしようとしてリンパ液や血液の流れが増え、神経が圧迫されて痛みを感じる(これが翌日以降の痛み)ことで起こるわけです。つまり、筋肉痛は筋肉の回復にとって必要なものなのです。バンテリン塗りすぎると炎症を押さえるので筋肉の回復が起こらずに筋肉が痩せてしまうらしいです。ファーカスの教則本に「毎日の練習で、もう疲れて吹けないと感じてから、さらに5分くらい練習するとよい」とあります。これは筋肉の性質を考えるととても理にかなったことだと思います。筋肉に強い負荷が加わることで、次の刺激に備えて筋肉が強くなる現象をスポーツ科学では「超回復」といいます。楽器演奏にもこの超回復を利用するとより有効なトレーニングになると考えていますが、長くなるのでまたの機会に・・・。


「管楽器は何歳から始めることができるのか」(01.4.13)

日本人の管楽器演奏者は中学の吹奏楽部で楽器を始めたという人がほとんどですよね。でも、最近では小学校でオケがあったりしてもう少し早く始める人も増えているように思います。欧米の演奏家のプロフィールを見ると8歳か9歳で始めた...という人が多いような気がしますしね。先日はフルートを習っている6歳の女の子の歯並びについての相談メールをいただいてちょっと驚きました。
とあるメーリングリストで1年程前に「何歳からホルンを始めるか」という話題になり、歯のことだけ考えたら上下の前歯が4本ずつそろって半年くらいしたらと発言しました。これは個人差があるけどだいたい8〜9歳くらいです。
金管楽器を成長期に吹くことで、前歯が内側に傾斜する傾向があるのですが、楽器演奏による圧力(主にマウスピースのプレス)による影響の他にも、楽器演奏により筋肉が鍛えられてリップシール(口唇を閉じておくこと)ができるようになるためとも考えらますし、悪い傾向ではないと思います(前歯が立っていた方が金管楽器には有利ですしね)。ですので、前歯が萌えて根が完成したら(ほぼ出てきてから半年くらい後...まだ根が出来ないうちに無理な力がかかると、根が短くなってしまう)楽器を吹いても差し支えないと思います。これはホルンだけでなく、他の金管やリード木管楽器も同じことが言えるでしょう。フルートに関しては、楽器演奏で前歯にかかる力が小さいのであまり問題にはならないと思いますが、前歯の交換期はアンブシャーも定まらないでしょうから、やはり8〜9歳位というのが妥当かと思います。
側方歯(小臼歯)についてですが、萌え変わってすべての歯が永久歯になるのは、早くて小学4年生、遅いと中2くらいなのです。楽器演奏時の頬の圧力の強さはかなり個人差があるようですが、歯列に影響がでるほど強いとは思えませんし、交換により小臼歯部に一部歯抜け状態の時期があっても演奏にはほとんど影響がないですので、小臼歯の萌え変わりは気にしなくてもいいと思います。
そのメーリングリストでその後「演奏中に奥歯が浮くので顎関節に影響はないのか」という話が出ました。
演奏中に奥歯が浮いていること自体は顎関節症の原因にはなりませんが、下顎が前下方に移動しますので、もし、限界近くまで下顎を前に動かすとしたら(たとえば上顎前突の人が上下の前歯をそろえようとしてかなり前に下顎出すとき)影響がでるかもしれません。成人の場合、顎関節周囲に負担がかかり顎関節症になりやすいでしょうが、子供の場合は、成人に比べて適応力があるので、顎関節症の発現率は成人に比べて低いように思うと答えました。
例えば成長期の上顎前突の治療で、下顎を前に出す矯正装置を用いることがあるのですが、これは金管楽器を演奏するときと同じくらいのポジションなのですが、このために顎関節症になるということはまずありません。5mmとか7mmとか出しても子供は大丈夫だったりします。この経験から、よほど奏法に問題がなければ、顎関節症を心配して楽器を吹く時期を遅らせる必要はないと思ったのです。
数カ月前にある歯科医師の方から、次のようなメールをいただきました。(掲載に関してご本人の許可を得ています。)

偶然なのか、小学校の頃から吹奏楽クラブでトランペットあるいはクラリネットを演奏している中学生1名と高校生2名が続けて顎関節症状(開口障害、TMDおよび周囲筋の疼痛)を訴えて、拙院へ来院してきました。トランペットを演奏するのには、相当なTMJ周囲(表情筋も含めて)の筋力が必要なのと、TMJにかかる負荷が大きいと思います。成長期にある低年齢の子にその様な楽器を演奏させて良いものなのでしょうか?
私が子供の頃(昭和40年代)には、小学校にトランペットを演奏するような吹奏楽クラブは余り無かった様に思います。鼓笛隊でソプラノ笛を吹いているぐらいだったと思います。
骨や筋の発達にあった楽器があるような気がしますが如何でしょう。
今回来院した若年のTMD患者さんは吹奏楽とは関係無いのでしょうか。
*注:TMD=側頭下顎部障害.....開口障害、顎関節痛、顎関節雑音といったいわゆる顎関節症といわれるもの

私は次のように返信しました。
管楽器演奏時には、下顎を前下方に出すのですが、この移動量は楽器の種類や前歯の状態(被蓋・叢生等)によって違います。また、キチンと奏法を習ったことがあるか(間違ったアドバイスを受けていることもあります)によっても違います。
金管楽器では基本的には上下の前歯が前後的にそろうようにします。したがって、前歯のオーバージェット・オーバーバイトが大きいと下顎の移動量は大きくなります。また、反対咬合の場合、無理に前歯をそろえようとして下顎を下げるためにTMJに負担がかかります。たとえば下顎前歯の唇側傾斜の程度が大きいために、マウスピースのリムの位置の関係で下顎をかなり前に出す場合もあります。
トランペットの場合、管楽器のなかでも、前歯の開きが小さい方ですので、咬合関係に問題がなく、奏法が正しければ、TMJに負担がかかるということはありません。咬合に問題がある場合、それに合わせたアンブシャー・楽器の向き等を工夫する必要があります。(無理に普通の咬合の人と同じように楽器を構えようとすると無理な下顎の位置になるのです。)
クラリネットの場合、楽器をくわえる必要があることと、下顎が後下方に押し込まれる力が加わりますので、やはり、咬合に問題がある場合は無理な力が加わる可能性があります。例えば反対咬合なのに、普通の噛合せの人と同じ楽器のくわえ方であれば、当然TMJに負担がかかります。楽器を少し高くして(横にして)演奏することで下顎を前方に出せますの負担が軽減します。
小学生(高学年)の管楽器演奏に関しては、正しい奏法を指導された上で演奏するには問題がないと思います。指導者も歯並び・噛合せについての知識を持つことが望ましいです。(優秀な指導者は、経験的に歯並びを見て楽器を選択しているようです。)ただ、まだ永久歯前歯がそろわないうちに楽器演奏を開始すると、前歯に影響が出る可能性がありますので、少なくとも歯牙年齢3B〜3Cからが良いと思います。
むしろ、管楽器演奏により、口腔周囲の機能が高められ、トレーニングとして望ましいとする論文も多数出されています。
そして、また次のようなお返事をいただきました。

アンブシャーの問題、正しい指導の問題、よく分かりました。
しかし、正しい吹き方、正しい顎位を持って練習すればTMDは予防できると言うのは、筋肉、骨格系の成長がほぼ一段落した大人の話であると思えるのです。トランペットを引き合いにしてトランペットには申し訳ないのですが、どうしても若年者にはトランペットを吹くのは無理な気がします。たとえ、正しい指導を受けても、若年者用(余り力をいれなくても吹ける)マウスピースがなければ、やはり無理な力がTMDにかかり顎関節症状を引き起こすような気がしてなりません。吹奏はBrx.と同様、非生理的・非日常的な筋および顎運動だと思うので、トレーニングをしたとしても大人用の楽器は殆どの子供には合わないような気がします.決してトランペットが悪いのではなく、子供には子供用のトランペットが必要なのでは・・・。と勝手な事を思っている次第です。
*注:Brx.=ブラキシズム....いわゆる歯ぎしり

それで思い出したのですが、小学・中学では普通のトランペットでなくてコルネットを吹かせるところもあるなあ...と思ったのです。小さくて持ちやすいだけでなく、コルネットの方が抵抗が小さいので圧力が少なくて済む分歯や筋肉に負担が少ないかも。キンダーホルンというのもあるのですよ。吹いたことはありませんけど。
私も管楽器を吹いている高校生のTMDの患者さんを診たことがありますが、レントゲンで確認したところ、明らかに無理な下顎の位置で演奏していました。一人はトランペットで、下顎前歯が前に傾斜しているために、下顎をかなり前に出していました。もう一人はクラリネットで、骨格性の反対咬合であるために、下顎がかなり後ろに押し込められた状態でした。二人とも、楽器の角度を変えたり顎の位置を変えることで顎関節への負担は軽減できたケースです。
うまいトランペット吹きってちょっと微笑んだ程度の普通の顔に楽器を当てて空気を吹き込んだだけで音が出るものですよね。その先生が感じているような「非生理的・非日常的な筋および顎運動」ではないと私は思っています。ただし、誰もが普通の顔に楽器を当ててたりくわえて音が出るわけではありませんから、楽器演奏が原因となるTMDが起ることがあるのです。歯並び・骨格が理想的でない場合には顎関節に無理がかかる奏法にならないよう注意が必要でしょう。


「とうがらしと管楽器演奏」(01.4.9)

私は辛いものを食べるとすぐに唇がはれてしまうので、本番はもちろん練習の前は辛いものは食べないように(餃子のタレもラー油抜き)しています。それなのに昨日練習がある日なのについタイ料理屋に行き辛いものをシコタマ食べてしまい、しかも、前日に練習不足がたたって下唇粘膜を切ってしまっていたことに加え、練習直前にサウナに入ったことも災いしました。ほとんど他人の口で吹いているようでした。痛みはないんですが、信じられない音の外れ方をしてしまい怖かったです。おそらく口唇が肥厚していつもよりアパチャーが狭くなっているんでしょうね。私はほんのわずか上唇の方が厚いのですが、完全に下唇の方が厚くなってました。
私は辛い料理は大好きなのですが苦手なのです。辛いものを食べると普通の人のように汗をかかないのですが、口中ヒリヒリして耳まで痛くなり(たぶん扁桃腺が腫れるんだと思うのですが耳が痛いように感じるのです)鼻水が出てきます。
もう二度と練習&本番前の辛い物食いとサウナ・銭湯はしないことを心に誓いつつ、カプサイシン(とうがらしの辛味の主成分)が管楽器演奏に与える影響を考えてみました。
カプサイシンの作用としては
・粘膜への直接刺激により唾液や胃液の分泌が促進され、食欲が増進する
・摂取しすぎると刺激により粘膜を痛める
・交感神経の刺激により汗の分泌量の増加し血行がよくなる
・体表の血管が拡張し体温が上昇する
・筋肉疲労回復に効果がある
・痛みを伝達する物質を破壊し鎮痛剤としての効果がある
といったところだと思います
<演奏前>
取り過ぎると口唇粘膜が局所的な炎症を起こし、腫脹してヒリヒリします
しかし痛みはそのうち麻痺するかもしれません
炎症による腫脹に口唇の血管が拡張することが加わるので、
口唇が普段より大きくなり、音のコントロールが難しくなるでしょう
ですので私のように辛いものが苦手な人や唇に傷のある人は控えた方がいいでしょう
また、交感神経が刺激されることで、アガリ症の人はさらにアガリやすくなるかもしれませんが、
適度な緊張感を求める人にはいいでしょう
(ただし、カプサイシン摂取による交感神経刺激が摂取後どれくらい続くものか私にはわかりません....調査中)
演奏によるストレスが胃にくる人は取り過ぎに注意しましょう
<演奏後>
楽器演奏による筋肉疲労の回復に効果があるので、適度の摂取は望ましいでしょう
<普段>
習慣的に摂取することにより血行がよくなり肩凝りに伴う顔面筋のこわばり・痛み等が改善することで
楽器演奏によい影響がある
んな、ところでしょうか?(ちょっとテキトー)


「低音金管における歯の開き」(01.4.6)

またまたじゅんこさんwrote
>顎の開きは、低音金管で重要なのかな?とも思いますが、Tp、Hrしか吹いたことが無いのでわかりません。
>また、当然予想されるように、前歯の重なり、かみ合わせの深さ(すべての管楽器奏者へ p.32)
>によっても、大きく変わってくると思います。
演奏の要素というのはたくさんありますから(音の高さ・音質など)、顎の開きと何との関係のことを言っているのかはっきりさせない話はできません。また、もちろん顎を開くことで歯は開きますが、顎の開きと歯の開きをごちゃまぜにしない方がいいと思います。
というのは置いておいて、その人の歯並びなどの条件と求める音質によって歯の開きは違います。トランペットだとジャンルによっては開きすぎない方がそれらしい音がするだろうし、ホルンであれば歯を開くようにした方が太くて豊かないわゆるいい音になることが多いです(もちろん開くにも限度があります)。ではそれより音の低いトロンボーンやチューバではもっと歯を開くかというとそうではなくて、私の手元のレントゲンではホルンの人と大して違わないようです。これはリムが大きいから口唇のフリーな部分が多く、同じ歯の開きでもアパチャーが大きくなるためだと思います。
音の高さのコントロールに関して言えば、トランペットもホルンもトロンボーンも音の高さによって歯の開きが変わるはずです。歯の開きのコントロールが十分でない人は口唇を横に引くことで補ってしまうようです。
また「すべての管楽器奏者へ」の32ページについてですが、ちょっと「?」なところもあります。噛合せの深い人は金管楽器を歯を開かずに吹いた方がいいという内容ですけど、それは噛合せが深い人は音質が劣るけどしょうがないんだよ、と言っているようなもので、私だったら逆に、噛合せが深いと歯を閉じ気味で吹く傾向があるから、意識して歯を開いたほうがいい、そうすると顔面筋の負担が増えるけどそれを踏まえて練習しよう...と考えます。要は、歯の開きと筋肉のバランスなのだと思います。実際には噛合せの深い人は歯を閉じているのではなく、前後的に歯を開いて吹くことが多いようです。
ちなみに上記の本の32ページには噛合せが深いために楽器が下を向くとありますが、噛合せが深いからでなくその人の前歯の傾斜に関係していると思います。日本人で噛合せが深い人には下顎が小さく前歯が前方に傾斜している人が多いので楽器が下を向くのです。歯が立っていて噛合せが深い人もいますから、その場合は噛合せが深くても楽器は下を向かないのであります。
前歯の傾斜が金管楽器の向きを決めると言われていますが、正確にはマウスピースのリムを当てる部位の歯面や歯茎の前後的な位置による...といってもわかりにくい表現ですね....ように思います。
よく、音色がつぶれていたり細かったりして、あまりイイ音がしていないと、「咽喉の締まったような音」「口が狭いような音」と感じて、そういうアドバイスをする人いますよね。私は歯の開きが音質の決め手の一つと思っているので、音質に問題があるのは歯が開いていないためと思って撮った友人のレントゲンが意外にも咽喉は広く歯も十分開いているということがありました(下唇を巻き込んでいた)。先入観で判断しない方がいいと思いました。


「金管楽器と口腔容積」(01.4.4)

掲示板に次のような書き込みをいただきました。
じゅんこさんwrote
>HP内にもある口の中の容積を広げて・・・の事について、Euph奏者の山岡潤さんの記事を紹介します。容積自体は
>あまり演奏に影響しないという結果ですが、どのようにお考えでしょうか。
>http://www.basj.or.jp/jun/00jun.htm
山岡潤氏(指揮者の山岡重信氏のご子息)の研究は以前にパイパースで読んだことがあります。
口腔容積が変っても音の高さは変らないという内容だったように思います。私はどっちかというと当時口腔容積と音質の関係の方に興味があったので斜め読みしてしまいました。
ご紹介のページをまだチキンと読んでいませんのでトンチンカンな返答かもしれませんが許してください。
一般的に「口を拡げる」とか「咽喉を拡げる」ことで音質を向上させるようなことを言われていますので、HPにそのような記述をしたかもしれませんが、もう10年も前に書いたものですので、お許しください。今は、口や咽喉を拡げることで歯が開き口唇の振動する部分の状態が変るために音質が変わるのではないかと思っています。
私のイメージとしては、歯が太鼓のワクで唇が太鼓のカワみたいなもの、小さいティンパニと大きいティンパニで同じ音の高さを出すとき音質が違うようなものではないかと思います(もちろん太鼓と金管楽器の音の発生のしかたは違いますから正確ではありませんでしょうが)。
音の高さとの関係に関して言えば、アパチャーの大きさと息の量と息の圧力のバランスで音の高さが決まるんでしょうから、歯の開きによって口唇の反応の仕方が変るために同じ息でも歯の開きによってアパチャーの大きさが変るので音の高さかわる(つまり、同じ条件の息が出たとして歯が開いていたほうがアパチャーも大きくなる)と思っています。ですから口腔容積を変えること=歯の開きが変わるということであって、私も直接は関係ないと思っていました。山岡氏のおっしゃるように二次的なものだと思います。
口腔容積と演奏との関係を論じるとき、同じ個人が演奏中に口腔容積を変えることなのか、口腔容積の違う人間(口蓋、歯列を含めた骨格の違い)を比べているのか、混乱させない必要があります。山岡氏の話はあくまで前者です。今度は後者の話をします。
日本人は口蓋が低いので共鳴体である固有口腔が狭いから音色やパワーが劣る...などと書いてある有名な本がありますが、口腔の広さが直接音質に関係しているのではないと思います。口の中には舌が存在し空気が流れる道は顎がデカくても細いはずです。確かに日本人はあまり歯を開かないで吹く傾向はあるとかもしれません。それは言語の違いによる影響が大きいと思います。日本語があまり顎を動かさずにしゃべる言葉だからです(発音やイントネーション)。音楽は言葉なのです。言語は管楽器の音質やアーテキュレーションにも影響します。国によってオケの音色が違うのは(最近はそうでも無くなっていますが)言葉の違いが多分に影響していると思います。その本でも日本人と西洋人の発音の違いに着目しているのはいいのですが、それを口の広さにつなげているのはちょっと違うと私は思います。おそらく、日本人であるがゆえに楽器を吹くのに不利だとしたら、日本語では舌後方部を使う発音はあまりないために舌後方部のコントロールが苦手で息のコントロールが上手くいかなかったり、言葉によって顎を動かす習慣が無いので、音の高さのコントロールに顎を動かす(=歯の開きをコントロールする)感覚をつかみにくかったりすることだと思います。(そういう人もいるかもしれないくらいにとってください、日本人がすべてダメという意味ではありません。自然に習得しにくいので練習のときにそういう自覚があるとうまくいくかもしれませんけどね。)
実は顎は広い人の方が金管楽器には有利なのです。それは口腔が広いからではありません。同じ歯の数でほぼ同じ歯の大きさだとすると顎が広い人と狭い人では、前歯の角度と歯列の形態がちがいます。顎が広ければ前歯は立ちスクエア(U字型)な歯列になります。顎が狭ければ凸凹になるかさもなくば前歯が前方に傾斜しV字型の歯列になります。上下の前歯はほぼ垂直(歯軸でなくて歯の唇側面がFH平面に対してほぼ直角)で、前歯がほぼ平ら(カーブのRが大きい)方が金管楽器を吹くのに有利なようなのですが(経験的に)、これは、口唇の振動や柔軟性に有利になるし、口角部をサポートする部分=犬歯部分の位置の関係で口角上下の顔面筋が有利に働くためではないかと思っています。といってもまだ想像しているだけで科学的な論証はありませんけど。


「歯の相談室」で皆様にお願い(01.4.2)

本日ものすごい久しぶりに更新しました。1年1ヶ月ぶりです。この間に、このページに信用はすっかり無くなったと思いますが、今日から地道に頑張ります。
筋肉のページにとりかかって打っては消しを繰り返したのですが、結局大したページにはなりませんでしたが、リアルな図を入れましたので、どういう筋肉の分布になっているか知るだけでも、アンブシャーを考える上で大切だと思いますので、興味がある方は参考にしてください。
それから、歯の相談室を更新しました。いろいろ大変な時期があって返信しそこねた時期(99年秋)がありまして、大変申し訳なく思っています。答えが思いつかないときや忙しいとき、パソコンいじるのが苦痛なほど首が痛いときなど、どうしても少々お待ちいただくことがあります(性格のせいかもしれませんが)。ご了承くださいますようお願いいたします。それから、緊急を要するものは、至急返事が欲しい旨明記していただくか、直接診療室に電話して予約の上にご来院ください。また歯が痛くて吹けないといった急性の歯科疾患が疑われるものは、かかりつけの歯科医院で相談することをお勧めします。歯の疾患というのは実際に見たり道具がないと何も出来ないというものが多いですので....。
とういうことで、皆さんにお願いです。
1)多少お待ちいただくことがあるので、急ぎのときはその旨明記するか直接来院してください。
2)歯が痛い等の緊急を要する症状の場合はかかりつけの歯科医院を受診することをお勧めします。
3)自分のホームページに転載する目的の質問はご遠慮ください(相談の必要があるときは私のページを紹介するか何かしてください)。
という感じの雑記帳のようなページを設けました。
このページだけは頻繁に更新したいものです.....


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